弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を禁錮3年に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成28年10月26日午後4時8分頃,普通貨物自動車を運転し,
愛知県一宮市ab丁目c番d号先の交通整理の行われていない交差点をef丁目方
面からag丁目方面に向かい時速約33キロメートルで進行するに当たり,同交差
点入口には横断歩道が設けられており,かつ,そのすぐ右方に下校途中の小学生ら
がいるのを右前方約38.2メートルの地点に認めたのであるから,前方左右を注
視しつつ,同横断歩道の手前の停止線で一時停止し,小学生らを先に横断させるな
どして,その安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこ
れを怠り,運転席横のシート上のスマートフォンの画面に表示させたゲームに気を
取られ,前方左右を注視せず,同横断歩道手前の停止線で一時停止して小学生らを
先に横断させるなどせず,その安全を確認しないまま漫然前記速度で進行した過失
により,折から同横断歩道を右方から左方に横断歩行中のA(当時9歳)を前方約
2.8メートルの地点に認め,急ブレーキをかけたが間に合わず,同人に自車前部
を衝突させ,同人を路上に転倒させた上,車底部で引きずるなどし,よって,同人
に外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせ,同日午後6時6分頃,同市hi丁目j番
k号B病院において,同人を同傷害に基づく出血性ショックにより死亡させた。
(法令の適用)
1罰条自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条
2刑種の選択禁錮刑
(量刑の理由)
本件は,被告人が,前方不注視の過失により,下校途中の小学生にトラックを衝
突させて死亡させた過失運転致死の事案であり,検察官は禁錮4年を求刑したのに
対し,弁護人は執行猶予付きの判決が相当と主張し,被害者参加人代理人は懲役7
年に処すべきとしている。
検討するに,まず,本件により生じた結果は,前途ある9歳の児童の死亡という
ものであるから,過失運転致死の中でも被害者1名の事案としてはこの上なく重い
ものである。次に,被告人の過失ないし本件事故の態様等を見ると,事故のあった
現場は住宅街の中にある信号機のない交差点で,入口付近に横断歩道が,その手前
には停止線があり,また,時刻は午後4時8分頃で小学生らが下校する時間帯であっ
た。このような特に注意すべき時間帯及び場所付近であるにもかかわらず,被告人
は,その数分前に「ポケモンGO」と呼ばれるゲームアプリを起動させたスマート
フォンを運転席横のシート上に置いた状態で,自らトラックを運転して所属する建
設会社から工事現場に向かって出発し,時折そのスマートフォンの画面を見ては
ゲームのために必要な操作を繰り返し,上記横断歩道の約35.3m手前で同横断
歩道の存在及びそのすぐ右方の路側帯上に下校途中の小学生らがいることに気づき
ながら,対向車両もあったので小学生らが横断歩道を横断することはないものと勝
手に決めつけ,横断歩道手前の停止線で停止しようとしないばかりか,ゲームのた
めにスマートフォンの画面の方に視線を移し,左手の人差し指でその画面に触れて
画像を切り替えた上その指を画面上で左右に動かすなどして,約3秒間も前方不注
視の状態を続けたため,その後視線を前方に戻した際には横断歩道上を横断歩行し
ていた被害者が既に眼前に迫っていて,急ブレーキをかけたものの間に合わず,ト
ラックを被害者に衝突させることとなったのである。このように,被告人は,特に
注意すべき時間帯及び場所であって,横断歩道脇に小学生らがいることに気づいて
いたにもかかわらず,自動車の運転には全く必要のないゲームをするために,前方
注視という自動車運転者として最も基本的な注意義務を怠り,本件事故に至ってい
るのであるから,その過失の態様は非常に悪質といえる(もっとも,被害者の行為
に目を向けると,被害者は9歳の児童であって横断歩道上を横断歩行していたに過
ぎないからもとより過失があるなどということはできないが,被告人が運転するト
ラックが近づいてくる中で横断を開始し,さらに,兄やその友人から「危ないぞ」
「車が来とるから下がれ」と言われたにもかかわらず,引き返すのではなくトラッ
クが来る前に渡り切ろうとして本件事故に遭ったものと認められるのであって,赤
信号で停止中に追突された自動車の運転者のように全く避けようのない事故の被害
者とは異なるともいえ,その点も考慮する必要がある。)。しかも,被告人は,ス
ピード違反で免許停止処分を受けたことがあるほか平成23年以降3件の交通違反
歴を有しており,また,以前からゲームをしながらの運転を日常的に繰り返し,そ
のような運転で交通事故が起きた旨の報道を見聞きしたこともあったのに,他人事
としてのみ捉えてその後も同様の運転を続けていたというのであるから,交通法規
や安全性に対する意識の乏しさが顕著であって,本件はまさに起こるべくして起き
た事故であるといえる。
これらの事情に照らすと,本件は,被害者1名の過失運転致死の事案としては非
常に犯情が悪く,被害者の遺族らの感情が極めて厳しいのも当然である。
そうすると,被告人が運転していた自動車には対人賠償額無制限の任意保険がか
けられていて,被害者の遺族らに対していずれは賠償のなされる見込みがあること,
被告人には前科があるとは認められず反省もしていること,被告人の妻が被告人の
監督を約束していることなどの事情はあるものの,これらの点を考慮しても,主文
のとおりの禁錮刑が相当であり,その執行を猶予すべきものではない。
平成29年3月8日
名古屋地方裁判所一宮支部
裁判官村瀬賢裕

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