弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人が被控訴銀行の従業員であることを
仮りに定める。被控訴銀行は控訴人に対し昭和四四年一一月一日から本案判決確定
に至るまで毎週土曜日限り金六、二一〇円を仮りに支払え。訴訟費用は第一、二審
とも被控訴銀行の負担とする。」との判決を求め、その理由として、
 控訴人は、昭和四三年一一月一五日被控訴銀行にいわゆるパートタイマーとして
採用され、京橋支店で為替係の仕事をしていたところ、昭和四四年一〇月三一日被
控訴銀行から「予定の期間が満了し、為替係の仕事もパートタイマーを必要としな
い状態になり」また「勤務状況も悪い」という理由で、雇用契約終了の通告を受
け、爾来従業員として取り扱われることなく今日に及んでいる。しかし、右は、明
らかに解雇の意思表示に該当するものというべきであり、該解雇の意思表示は、以
下述べる理由によつて無効である。すなわち、
(一) いわゆるパートタイマーは、一定の短期間を限つて雇用されたり、臨時的
又は季節的な労働に従事する臨時工とは異なり、一日、一週又は一か月の所定労働
時間が当該事業場の一般労働者より短かいという点を除いては、一般の労働者と異
なるところのない常用労働者であり、現に、控訴人も、前叙のごとく被控訴銀行の
基幹事務であり為替の仕事を担当しており、しかも、採用に際し、雇用期間を限定
されることなく、「余り短かくては困る。いつまでも、あなたの都合が悪くなるま
で勤めてもらいたい。」といわれたほどであるから、少なくとも雇用期間の点に関
する限り、正行員と区別して取り扱われるいわれはない。被控訴銀行は、控訴人と
の雇用契約がいわゆる禀議期間の満了したことにより昭和四四年一〇月三一日をも
つて当然失効したと主張する。しかし、禀議期間なるものは、採用に当り銀行内部
で一応予定した雇用期間にすぎず、それが表示されなかつた以上、契約の内容とな
つていないことはいうまでもない。そして、期間の定めのない雇用契約にあつて
は、客観的に首肯し得るに足る相当の事由がある場合でなければそれを解約し得な
いこと、すでに確立された判例である。
 ところが、当時、被控訴銀行京橋支店における為替事務は、質、量ともに漸増の
傾向にあつたばかりでなく、銀行全体としても多数のパートタイマーを必要とする
事情にあり、銀行は、挙げてその宣伝、募集に努め、パートタイマーに関する就業
規程を制定すべく準備中であつたほどであり、また、控訴人は、かつて上司からそ
の勤務について注意をされた事実はなく、鋭意事務能率の向上に努め、いつまでも
被控訴銀行において勤めていることを強く希望しており、現に、被控訴銀行におい
ても勤務が一年以上に及ぶパートタイマーも決して少なくなかつたのである。しか
るに、被控訴銀行がこれらの事情を一切無視し、敢えて前叙のごとき理由で控訴人
の解雇を強行したことは、まさに、解雇権の濫用にわたるものとして無効であると
いうべきである。
(二) そればかりでなく、解雇に当つては、労働基準法二〇条の規定に従い、少
くとも三〇日前にその予告をするか、三〇日分以上の平均賃金を支払わなければな
らないのに、本件解雇は、かかる法定の手続を経ていないのであるから、この点に
おいても、無効たるを免かれない。
 そこで、控訴人は、被控訴銀行に対し従業員たる地位の確認と賃金の支払いを求
める訴えを提起すべく準備中であるが、自己及び家族の生活が危殆に瀕する現在の
危険を防止するため、本件仮処分の申請に及んだ。
 なお、本件解雇当時、控訴人は、日給で毎週土曜日に平均六、二一〇円の賃金の
支払いを受けていた。
と述べた。(疎明省略)
 被控訴銀行代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、控訴人の主張事実
中、控訴人がその主張の日から被控訴銀行にパートタイマーとして雇用され、京橋
支店で為替係の仕事をしていたこと、被控訴銀行が昭和四四年一〇月三一日控訴人
に対しその主張のような理由で雇用契約終了の通告をなし、爾来控訴人を従業員と
して取り扱つていないこと、また、控訴人との雇用契約には期間の定めがなかつた
ことは、いずれも、認めるが、その余の主張事実は否認する。
 被控訴銀行において採用しているパートタイマーの制度は、銀行事務の中でも比
較的定型的、機械的な事務や高度の判断、責任を伴わない軽易な事務について、事
務量の一時的増大とか正行員の転出、退職等によつて生ずる短期間の人手不足を補
うため、主として退職した元女子行員を、簡易な手続により、一年を限度とし、正
行員が補充されて事務に一応習熟するまでの期間に限つて雇用するのを建前とする
ものであり、したがつてまた、パートタイマーには、正行員の場合と異なり、転
勤、昇進、時間外勤務はなく、勤務時間も比較的短かく、各種社会保険の適用も受
けられないこととなつている。このように、ひとしく期間の定めがない雇用契約で
あるとはいえ、パートタイマーの場合は、終身雇用の予定されている正行員の場合
とは著しくその趣を異にし、民法の一般原則に立ち帰えり、銀行側の都合により何
時でも解約することができるのであるが、被控訴銀行においては、パートタイマー
との雇用契約は、期間の定めがあると否とを問わず、採用に当つて予定したいわゆ
る禀議期間が満了することによつて当然失効するのが事実上の慣習となつているの
である。
 控訴人は、もと、被控訴銀行八重州口支店に為替係として勤務した経験があると
ころから、京橋支店為替係の人手不足を補うため、翌年三月に採用される正行員が
一応事務に習熟する期間を見越し、昭和四四年一〇月末日までを禀議期間として採
用したものであり、その採用に際し、被控訴銀行が「家庭の主婦という立場からい
ろいろ事情ができると思うが、いままでのパートタイマーをみていると、折角事務
に馴れたころに辞めるといいだすので、銀行としては、余り短かくして辞められて
は困る。ある程度勤めてほしい。」と話したことはあるが、控訴人主張のごとく
「いつまでもあなたの都合が悪くなるまで勤めてもらいたい。」といつたことはな
い。しかも、控訴人は、被控訴銀行の右のごときパートタイマー制度の実態を知悉
していたのであるから、雇用期間が明示されていなかつたとはいえ、特に反対の意
思表示がなかつたことからして、控訴人との雇用契約は、右の慣習に則り、銀行側
で予定していた右禀議期間の満了によつて終了したのであつて、前記通告は、その
既成事実の単なる事後通知にすぎないのである。
 また、仮りに、控訴人との雇用契約が禀議期間の満了によつて終了せず、したが
つて前記通告が事実上解雇の意思表示に該当するとしても、京橋支店の為替事務に
ついては、昭和四四年七月ころからようやく執務体制強化の効果が現われだし、テ
レタイプの習熟度も高まつてきたうえに、正行員一名増員の見透しがついたので、
爾後、パートタイマーを使用することをやめ、正行員をもつてそれに当てるという
方針が建てられ、この方針に従い、控訴人につき期間の延長ないしは再雇用といつ
た特別の措置をとらなかつたのである。したがつて、本件解雇の意思表示が解雇権
の濫用にわたるなどと論難されるいわれはない。
 なお、被控訴銀行は、昭和四四年九月一八日控訴人に対して右禀議期間の満了す
る同年一〇月三一日限り解雇することを予告したのであるから、本件解雇は、手続
の点においても欠けるところはない。
 それ故、本件解雇が無効であることを理由とする控訴人の本件仮処分申請は、失
当として却下すべきである。
と述べた。(疎明省略)
       理   由
 控訴人が昭和四三年一一月一五日被控訴銀行にいわゆるパートタイマーとして採
用され、京橋支店で為替係の仕事をしていたこと、ところが、被控訴銀行が昭和四
四年一〇月三一日控訴人に対し「予定の期間が満了し、為替係の仕事もパートタイ
マーを必要としない状態になり」、「勤務状況も悪い」という理由で雇用契約終了
の通告をなし、爾来控訴人を従業員として取り扱わないこと、また、控訴人との雇
用契約には期間の定めがなかつたことは、いずれも、当事者間に争いがない。
(一) そこで、まず、パートタイマーなる制度の実態を検討してみるのに、成立
に争いのない疎甲第五四号証、当審証人Aの証言によつて真正に成立したものと認
める疎乙第九号証、第三者の作成に係り真正に成立したものと認める疎乙第一〇号
証、原審及び当審証人B、当審証人Aの各証言並びに当審証人兼鑑定人Cの供述に
よれば、
 いわゆるパートタイマーなる制度は、わが国経済の高度成長下で深刻化する若年
労働力不足の問題を解決する方策の一環として昭和三五年ころから出現するに至つ
たものであり、被控訴銀行においても、信託部門の分離、独立に伴う軽易な労働力
の不足を補うため、同年一一月、翌年度の定期採用者が或る程度事務に習熟する昭
和三六年六月までを雇用期間として、銀行事務に経験のある元女子行員を採用した
のが、被控訴銀行のパートタイマー制度のはじまりである。右によつても明らかな
ごとく、パートタイマーなる制度は、若年労働力ないしは軽易な労働力の不足を補
うものとして、殊に被控訴銀行にあつては、年度の途中で相当数の正行員を採用す
ることが事実上困難であるところから、事務量が増加する中で期中に生ずる正行員
の欠員と新規採用行員の事務不馴れ等による短期間の労働力の不足を補うものとし
て発足したのである。したがつてまた、被控訴銀行のパートタイマーは、主として
退職した元女子行員の中から、簡易な手続によつて採用され、その人数も、東日本
地区に限つていえば、昭和四三年一一月末現在で正行員約五、〇〇〇名(うち女子
約二、三〇〇名)に対し僅か一七名と極めて少なく、賃金は時間給で、転勤、昇
進、時間外勤務はもとより、年次有給休暇や週休制度の適用がなく、勤務時間も比
較的短かく、被控訴銀行の行員で組織する従業員組合への加入は認められておら
ず、また、実際の勤務時間も、昭和四四年一〇月末現在における被控訴銀行のパー
トタイマー総数一六一名のうち一か月未満が一二名、一か月以上四か月未満が六三
名、四か月以上七か月未満が三〇名、七か月以上一年未満が四〇名であつて、一年
を超える者は僅か一六名にすぎない
ことが一応認められ、右認定の妨げとなる疎明はない。
(二) 被控訴銀行は、パートタイマー制度の実態が右のごときものである以上、
パートタイマーとの雇用契約は、正行員の場合と異なり、民法の一般原則に立ち帰
り、期間の定めがないときは、銀行側の都合によつて何時でも解約することができ
るものであるところ、被控訴銀行においては、パートタイマーとの雇用契約は、採
用に当つて銀行内部で一応の雇用期間として予定したいわゆる禀議期間が満了する
ことによつて当然失効するのが事実上の慣習となつており、控訴人との雇用契約
も、この慣習に則り、禀議期間の満了した昭和四四年一〇月三一日をもつて終了し
たのであつて、前記通告は、その既成事実の単なる事後通知にすぎない、と主張す
る。
 しかし、いわゆるパートタイマーであつても、一時的ないしは臨時的な仕事に従
事したり、雇用契約終了の時期を確定的に取り決めているような場合はともかく、
控訴人のごとく、雇用期間の定めがなく、しかも、正行員と種類、内容の点で異な
るところのない仕事に従事している者については、当審証人D、E及びFの各証言
によつて一応認められる次のような事情、すなわち、被控訴銀行にあつてはいわゆ
る禀議期間が満了しても解雇された事例はなく、従来のパートタイマーのすべての
者が自己の発意によつて退職しており、また、長期継続雇用や正行員への登用の例
も絶無ではないという事情の下においては、雇用の継続を期待することも無理では
ないと考えられるので、雇用契約は、いわゆる禀議期間の満了によつて当然に失効
するものではなく、また、本件に現われた全疎明資料によつても、被控訴銀行にお
いてかかる慣習があつたことを認めるに足りない。それ故、被控訴銀行が控訴人に
対してした雇用契約終了の通告は、解雇の意思表示に該当するものと解すべきであ
る。
 ところで、パートタイマーとの雇用契約であつても、単に期間の定めがないとい
うことだけで、民法の一般原則に従つて何時でも無条件に解雇し得るものではな
く、現下の社会経済情勢の下では解雇により労働者の生活が危殆に陥ることはみや
すいところであるということから、客観的に首肯し得る相当の事由がなければ解雇
することは許されず、相当の事由のない解雇は、いわゆる解雇権の濫用としてその
効力を否定すべきものと解するのが妥当である。もつとも、かようにパートタイマ
ーとの雇用契約を解約するについても相当の事由の存することが必要であるといつ
ても、前叙のごとき実態を有するパートタイマーと、終身雇用的観念の下に採用さ
れ、就業規則所定の解雇事由がない限り原則として満五五歳まで身分の保障されて
いる(この点は、前掲疎乙第一〇号証によつて疎明される。)正行員の場合とで
は、必要とする相当性の度合につき、同日に論ずることはできず、その間に軽重の
差のあることはいうまでもない。
 ところで、成立に争いのない疎甲第三八ないし第四〇号証、原審における控訴本
人尋問の結果によつて真正に成立したものと認める疎甲第一号証(但し、後に記載
する措信しない部分を除く。)、原審証人Gの証言によつて真正に成立したものと
認める疎甲第二号証、原審証人Dの証言によつて真正に成立したものと認める疎甲
第五号証、原審証人Hの証言によつて真正に成立したものと認める疎甲第一二号
証、原審証人Bの証言によつて真正に成立したものと認める疎乙第一ないし第三号
証、第六、第七号証、第八号証の一ないし三及び五、前掲疎乙第九、第一〇号証、
原審証人Iの証言によつて真正に成立したものと認める疎乙第一一号証、原審証人
Jの証言によつて真正に成立したものと認める疎乙第一五号証、原審証人Bの証言
によつて真正に成立したものと認める疎乙第一八号証、いずれも第三者の作成に係
り真正に成立したものと推認する疎乙第一二ないし第一四号証、原審証人I、G、
当審証人A、原審及び当審証人B、J、K、Dの各証言並びに原審及び当審におけ
る控訴本人尋問の結果(但し、後に記載する措信しない部分を除く。)によれば、
次の事実を一応認めることができる。すなわち、
(1) 被控訴銀行京橋支店においては、昭和四二年七月以降窓口事務を一本化す
るいわゆる営業係制を実施して取引先との接衝の効率化と業務内容の拡大に努めた
結果、業績は向上したが、その反面、事務量が増加し、殊に、京橋支店がオープ
ン・コルレスにおける被控訴銀行側の集中店であつたところから、金融機関の代金
取立手形の持込みや本田技研、東洋工業、日本コロンビヤ等の月賦販売手形の持込
み、平和相互銀行、秋田相互銀行、日本相互銀行(現在の太陽神戸銀行)、大生相
互銀行とのオープン・コルレスの開始等によつて、為替係の事務量の急激な増加を
みるに至つた。ところが、当時の為替係は、その半数近くの者が実務経験六か月以
下という状態で、その事務習熟度は極めて低く、また、テレタイプが初めて導入さ
れたこともあつて、行員の補充、増員、銀行単位の係替え等を実施はしたが、それ
にも一定の限界があるため、係員の事務習熟度が高まり、また、翌年度の新入行員
が事務に一応馴れるまでの労働力不足をパートタイマーで補うこととなり、パート
タイマーとして昭和四三年七月一七日Lを、同年八月一日Mを、同年一〇月二五日
Nを、同年一一月一五日控訴人を、また、同年一二月二日Oを採用した。
(2) しかし、Lは、禀議期間が昭和四四年三月三一日までの八か月間となつて
いたのに僅か二か月で、Mは、禀議期間が昭和四四年三月三一日までの一〇か月間
となつていたのに僅か三か月(もつとも、辞令面では六か月となつている。)で、
Nは、禀議期間が昭和四四年六月三〇日までの八か月間となつていたのに僅か六か
月で、Oは、禀議期間が昭和四四年一一月三〇日までの一二か月間となつていたの
に僅か六か月で退職する始末で、係員の交替が頻繁に行なわれ、しかも、テレタイ
プの導入による新らしい事務処理方法が定着していなかつたこともあつて、為替事
務のミスが目立つて多く、勘定不突合の大半は、為替事務のミスによるものであつ
た。
 そこで、京橋支店としては、為替係の執務体制を強化して事務の正確な処理と能
率の向上を図ることが、喫緊の急務となつた。ところで、パートタイマーを実際に
使つてみた結果、パートタイマーは家庭をもつているためか正行員に比らべて休み
や辞める者が多く、期待していたほどの成果が挙られなかつたことに思いを致し、
また、幸い、昭和四四年七月の段階で正行員二名が補強されたほか、同年一〇月に
はいま一名正行員の増員が実現する運びとなり、なお、そのころまでには係員の事
務習熟度も向上し、新入行員も事務に馴れてくることが見込まれたことから、事務
量の方は、依然増加しており、漸く現われ始めた金融引締めによつて多少鈍るにし
ても、増加の傾向が当分続く状況ではあつたが、為替事務の正確な処理と能率の向
上を期するため、敢えて、パートタイマーの使用を廃止し、正行員をもつてそれに
当てるという方針を確立し、その方針の下に、控訴人を除くその余のパートタイマ
ーが同年六月までにすべて退職していたが、その補充を行なわなかつた。
(3) 控訴人は、高校卒業後、昭和三九年四月から昭和四一年一二月まで約二年
九か月にわたり、被控訴銀行八重州口支店に為替係として勤務し、結婚を理由に退
職してからも、「丸の内建物管理」に約一年間勤めた後、「ヒロセボイラー」で働
らいていたが、同社は被控訴銀行に比らべて活気に乏しく仕事も面白くないと思つ
ていたところ、被控訴銀行京橋支店のパートタイマーであつた前記Mから、「自分
は琴で身を立てるためパートタイマーを辞めたいので、是非その後任に」とすすめ
られ、昭和四三年一一月一〇日京橋支店でパートタイマー採用の面接を受けた。そ
の際、銀行側から示された労働条件は、為替係で、朝八時五〇分から午後五時一〇
分(土曜日は午後二時)まで働らき、一時間一四〇円支給ということだけであり、
雇用期間の点については、控訴人の方からいつまで勤められるのかと質問したのに
対し、当時銀行としては、前叙のごとく、パートタイマーとしてはじめて採用した
Lが禀議期間八か月となつていたのに僅か二か月で退職し、また、Mも禀議期間一
〇か月となつているのに約三か月で退職を願い出てくる始末で、その対応にいささ
か困惑していたところであつたので、支店長代理のPが控訴人に対し「家庭の主婦
という立場からいろいろ事情ができると思うが、いままでのパートタイマーをみて
いると、折角仕事に馴れたころに辞めるといいだすので、銀行としては、余り短か
くては困る。ある程度勤務してほしい。」と答え、控訴人においても暗黙のうちに
その旨を了承したので、新入行員が事務に馴れる期間も見込んで、禀議期間を昭和
四三年一一月一五日から昭和四四年一〇月三一日までと決定し、本店総務部長宛に
控訴人を右の期間派遣してくれるよう依頼する旨の禀議書を出した。
 かくして、控訴人は、被控訴銀行にパートタイマーとして採用され、前叙のごと
く京橋支店で為替係として働らくようになつたのであるが、他の者に比らべて休み
が多く、しかも、銀行事務の一番忙しくなる月末や年末に休み、かつ、当日の出勤
時刻が過ぎてから電話で欠勤の届出をしてくるため、事務に支障を来し、出勤日で
も、定刻の八時五〇分までに、執務体勢についていない場合が少なくなく、総じて
勤務状況が良好とはいえなかつたので、被控訴銀行は、控訴人につき期間延長ない
し再雇用等特別の措置をとることなく、前叙のごとく禀議期間の満了した昭和四四
年一〇月三一日限りで解雇するに至つた。
以上の事実を一応認めることができ、右認定に牴触する疎甲第一号証(控訴本人の
陳述書)の記載部分並びに原審及び当審における控訴本人の供述部分は、その余の
前掲各疎明資料に照らしてたやすく措信し難く、他に右認定の妨げとなる疎明はな
い。なお、雇用期間の点につき、特段の定めのなかつたことは、前叙のごとく当事
者間に争いのないところであるが、控訴人は、特に、前記認定事実を否定し、銀行
側から「余り短かくては困る。いつまでもあなたの都合が悪くなるまで勤めてもら
いたい。」といわれた、と主張する。しかし、これに副う唯一の疎明資料たる疎甲
第一号証(控訴本人の陳述書)の記載部分並びに原審及び当審における控訴本人の
供述部分のたやすく措信し得ないことは、右説示のとおりであるが、仮りに、控訴
人が銀行側の前記回答から雇用期間について真実右主張のような受取り方をして、
相当長期の継続雇用を期待したとしても、かかる期待は、前叙のごときパートタイ
マー制度の実態と控訴人が被控訴銀行にパートタイマーとして雇用されるに至つた
経緯に徴して、到底、客観的合理性を有し得ないものといわざるを得ない。
 しかして、以上認定の諸事実を総合考較すれば、本件解雇の主たる理由は、為替
事務の正確な処理と能率の向上を図るため、パートタイマーの使用を廃止し、正行
員をもつてそれに当てんとする被控訴銀行の新たな事務運営方針が確立されたこと
にあるものというべきであるが、かかる方針それ自体は、一時的ないしは臨時的な
仕事についてはともかく、少なくとも、為替事務のごとく社会的信用を第一とする
銀行の経常的事務のあり方からみて、また、対行員との関係ないしは労働者保護と
いう労働法の基本的理念に照らしても、首肯し得るに足りるものというべきであ
る。しかも、控訴人は、右の新たな事務運営方針が確立されたということだけの理
由で解雇されたわけではなく、為替係におけるパートタイマーの平均勤務時間が
四、二五か月(京橋支店におけるパートタイマー全体のそれが四、〇か月)である
ことからみて、控訴人は、禀議期間の満了する昭和四四年一〇月三一日現在で、京
橋支店におけるパートタイマーの平均勤務時間の約二、四倍勤務したことになるこ
と、また、控訴人の勤務状況が一般正行員のそれに比較した場合決して良好である
とはいえなかつたのであるから、仮りに、採用に際し、控訴人が相当長期の継続雇
用を期待したとしても、前叙のごとくかかる期待には客観的合理性の認められない
以上、控訴人が現実に被控訴銀行におけるパートタイマー制度の実態のすべてを知
悉していたと否とにかかわらず、被控訴銀行が禀議期間の満了に際し期間延長ない
しは再雇用等特別の措置をとることなく解雇の挙に出たからといつて、本件解雇を
目して、相当の事由を欠き、解雇権の濫用にわたるものと論難することは、当を得
ないというべきである。
(三) 最後に、控訴人は、本件解雇は労働基準法二〇条所定の手続を経ていない
から、この点においても、無効たるを免かれない、と主張する。
 しかし、原審及び当審証人J並びに当審証人Bの各証言によれば、被控訴銀行
は、前叙のごとく昭和四四年一〇月三一日解雇の意思表示をしたが、それより前の
同年九月一八日控訴人に対し口頭で翌月末日限りで解雇する旨解雇の予告をしたこ
とが一応認められ、右認定を左右するに足る的確な疎明はない。それ故、控訴人の
右主張もまた、採用に由ないものというほかはない。
 よつて、控訴人の本件仮処分申請は、被保全権利の存在につき疎明がないことに
帰し、もとより保証をもつて疎明に代えることも相当でないから却下すべく、これ
と同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却す
ることとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり
判決する。
(裁判官 渡辺吉隆 柳沢千昭 浅香恒久)

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