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平成19年4月13日判決言渡
平成16年第1069号損害賠償請求事件()ワ
判決
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は、原告Aに対し、金1億8542万5008円及びこれに対する平成
13年4月19日から支払済みに至るまで、年5分の割合による金員をを支払
え。
2被告は、原告B及び原告Cに対し、各金1100万円及びこれに対する平成
13年4月19日から支払済みに至るまで、年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は、被告の設置・運営するD病院(以下「被告病院」という)におい。
て帝王切開で出生した女児に、脳性麻痺が生じたことにつき、被告病院担当医
師らには、適切な呼吸管理を怠った過失及び小児科への転科時期が遅れた過失
がある等として、女児及びその両親である原告らが、被告に対し、債務不履行
に基づき、損害賠償の請求をした事案である。
2争点
(1)適切な呼吸管理を行わなかった過失の有無
(2)血液ガス分析を十分に行わなかった過失の有無
(3)小児科へ転科させる義務を怠った過失の有無
(4)被告病院が大学病院であることにより、注意義務に差異が生ずるか否か
(5)因果関係
(6)損害額(判断の必要がなかった)。
3当事者の主張
当事者の主張は、別紙1「当事者の主張」のとおりであり、このうち上記争
点に関する部分は、同第2ないし第7のとおりである。
第3当裁判所の判断
1診療経過等
証拠によれば、次の事実が認められる(認定の根拠となった証拠等を()内
に示す。直前に示した証拠のページ番号を〔〕内に示す。特に断りのない限り、
月日のみの記載は平成11年を指すものとする。以下同じ)。
(1)当事者
ア原告A(以下「原告A」という)は、平成11年7月26日に、被告。
病院において出生した児である。原告B(以下「原告B」という)は、。
原告Aの父であり、原告C(以下「原告C」という)は、原告Aの母で。
ある(甲A5〔1、甲B1。〕)
イ被告は、東京都文京区において、被告病院を設置・運営する学校法人で
ある(争いのない事実。)
(2)分娩までの経緯
ア原告Cは、平成10年12月26日、被告病院を受診し、妊娠と診断さ
れ、出産予定日は、平成11年8月中旬とされた(甲A5〔1。〕)
イ原告Cは、妊娠33週である同年6月頃に、妊娠中毒症と診断され、そ
の後も被告病院に通院をしていたところ、妊娠中毒症が増悪したため、妊
娠36週5日である同年7月19日、被告病院に入院した(乙A1〔3、
129。なお、甲A5〔1、2〕には、入院日が同月21日との記載が〕
あるが、診療録の記載に照らし、採用できない。。)
ウ7月21日、E医師(以下「E医師」という)は、原告B及び原告C。
に対し、妊娠中毒症のために妊娠の終了が必要であること及び分娩方法と
して、経膣分娩と帝王切開がある旨を説明し、同月26日にいずれかの方
法で分娩することとし、その後の検査の結果、帝王切開を行うこととした
(甲A5〔2、乙A1〔13ないし26、130。〕〕)
(3)原告Aの出生
ア同月26日午後4時28分、帝王切開術が開始された。当初は腰椎麻酔
が施行されたが、十分な効果が得られなかったため、全身麻酔が施行され
た(乙A1〔116、乙A14〔1。〕〕)
イ午後4時43分、体重2802gで、原告Aが出生した。アプガールス
コアは、1分後8点であり、出生直後から啼泣は弱く、四肢にチアノーゼ
及び冷感が見られた。また、多呼吸及び陥没呼吸が見られ、吸引を行った
ところ、白色水様のものがひけた。頭部、顔色、頚部には問題となる所見
はなく、胸部聴診においてもラ音はなく、肺のエア入りは良好であり、心
雑音はなかった。腹部は軟であり、圧痛はなく、羊水混濁もなかった(乙
A1〔28、116、乙A2〔9、272、289、乙A14〔1。〕〕〕)
ウ酸素を投与し、児背及び足底刺激を継続したところ、啼泣はやや盛んに
なったが、刺激がないと啼泣しない状態であり、四肢のチアノーゼ及び冷
感は持続した。5分後のアプガールスコアは8点ないし9点とされた(乙
A1〔2、乙A2〔289、乙A14〔2、E〔10ないし12。〕〕〕〕)
エ午後5時30分、原告Aはクベースに収容された。全身はやや蒼白気味
であり、チアノーゼが見られた。また、自発呼吸はあるが、両肺の空気の
入りはやや弱く、筋緊張も弱い状態であった。心電図モニター及びSAT
(サチュレーション)モニター(酸素飽和度を経皮的に測定し表示するも
の。以下、このモニターによる値及び血液ガス分析における酸素飽和度の
値を「SAT」という)を装着したところ、午後5時50分のSATは88な、。
いし90%であり、FiO(吸入気酸素濃度)35%で酸素投与、加湿及び2
加温を行った(乙A2〔9、289、290、乙A14〔2、E〔1〕〕
3。〕)
オ午後6時30分、心拍数は131、呼吸数は73回/分であり、やや多
呼吸気味であると判断されたが、SATは、94ないし96%に上昇した。
無呼吸(アプニア)はなく、皮膚色の回復が見られた。午後6時50分に、
胸部レントゲン検査を行った結果、E医師は、索状影が見られると判断し
た(乙A2〔290、乙A4、乙A14〔2、乙A16、E〔17、1〕〕
8。〕)
カ午後7時、原告Bが、ナースステーションの奥のガラス越しに、原告A
の様子を確認したところ、陥没呼吸があることを確認し、その旨をE医師
に告げた(甲A5〔3、B〔2、3。〕〕)
キ午後9時の時点では、37.9度の発熱があり、多呼吸が見られたもの
の、陥没呼吸や呻吟は見られなかった。午後11時30分の時点において
も、多呼吸は続いていた(乙A2〔290、乙A14〔2。〕〕)
クE医師は、原告Aが産科入院中、同児を頻回に診察し、活気があると判
断した(E〔21、22。〕)
(4)小児科転科までの状態
ア同月26日から翌27日の深夜帯においては、バイタルサインに問題は
なく、原告Aを観察した看護師は、活気があると評価した。モニター上、
SATは90%台前半から後半で推移しており、時折80%台後半までダウ
ンするが、5ないし10秒で回復した。無呼吸は見られなかったが、多呼
吸が継続していた(乙A2〔290、乙A14〔2、E〔23、2〕〕
4。〕)
イ同月27日午前10時、採血後にSATが85%まで低下し、しばらく回
復が見られなかった。回復後、90ないし91%まで回復したが、100
%までは回復しなかった。呼吸数は、80ないし100回/分であり、多
呼吸が見られた。皮膚色には特に変化はなく、チアノーゼは見られなかっ
た。FiO30%として酸素投与が継続された(乙A2〔291、乙A12〕
4〔3。〕)
ウ午前10時30分、SATは90ないし91%であり、SATの低下が頻回に
見られ、足背刺激をしても回復はしなかった。そのため、E医師は、胸腹
部レントゲン写真を確認した上で、方針を決定することとした(乙A2
〔291、乙A14〔3、E〔24。〕〕〕)
エ午後零時30分、胸腹部レントゲン検査が行われ、E医師がその結果を
確認したところ、両肺野がかなり白く、粒ないし線状陰影の増強があると
判断した。E医師は、小児科のF医師(以下「F医師」という)と相談。
の上、F医師が小児科に転科することを決定した(乙A2〔11ないし1
3、291、乙A5の1、乙A14〔3、乙A17、E〔5、6、3〕〕
5、F〔11、12。〕〕)
(5)小児科転科後の状態
ア午後2時30分、原告Aは、産科から小児科に転科した。F医師が診察
したところ、大泉門は平坦で、皮膚に黄疸はなく、チアノーゼも見られな
かった。また、肺音を聴取したところ、両肺の空気の入りは乏しく、喘鳴、
クラックル音はなかった。心音は整で心雑音はなかった。F医師は、原告
Aの病状につき、羊水吸引症候群若しくは新生児一過性多呼吸症と判断し
た(乙A2〔12、13、291、乙A14〔3、乙A15〔1、F〕〕〕
〔1。〕)
イ小児科転科後の呼吸数は90ないし110回/分であり多呼吸が認めら
れ、シーソー呼吸も見られたが、無呼吸は見られなかった。その後も、SA
Tは80%台後半から90%台前半で推移しており、心窩部の陥没呼吸が
著名であり、多呼吸が継続していた。また、口唇にはチアノーゼが見られ、
全身色も軽度のチアノーゼを呈していた(乙A2〔291、292。〕)
午後2時50分に静脈血の血液ガス分析を行ったところ、PH7.360、
PCO42.1mmHg、PO29.2mmHg、SAT74.8%であった(なお、被22
告病院においては、血液ガス分析における酸素飽和度の値も、前記サチュ
レーションモニターの値と同様SATと表示しているので、以下もそのとお
り表示する。胸部レントゲン検査を行ったところ、著しい変化はなかっ。)
た(乙A2〔104、乙A5の2、乙A15〔1。その後の血液ガス〕〕)
分析の結果は、別紙2「血液ガス分析結果一覧表」のとおりである。
ウ同日夕方頃、呼吸数は100ないし130回/分と多呼吸が見られ、陥
没呼吸も持続していた。肺の空気の入りは弱めであり、FiOが40%の下2
ではSATは85ないし95%であったが、FiOが35%以下になると、SAT2
は80%台前半に下降した。追加的に経皮的酸素飽和度モニター(SpOモ2
ニター)を右上下肢に装着したところ、上下肢のSpO値の差はなかった2
(乙A2〔293。〕)
エ午後8時30分、心エコー検査を行ったところ、動脈管開存レベルで短
絡しており、卵円孔開存レベルでの短絡は左→右のみであった。頭部エコ
ー検査では、有意な所見は見られなかった(乙A2〔226、乙A15〕
〔2。〕)
午後10時、PCOをモニタリングするために経皮モニターを装着したと2
。ころ、POは65ないし85mmHg、PCOは35ないし50mmHgで推移した22
同日の深夜帯においても、多呼吸及び陥没呼吸は継続した(乙A2〔29
4。〕)
オ同日、F医師は、原告Bに対し、原告Aの状態について、現在の症状は
多呼吸、陥没呼吸、チアノーゼ等であり、病名としては、羊水吸引症候群
又は新生児一過性多呼吸症が考えられると説明した(乙A2〔277、2
92、293、294。〕)
(6)7月28日の状況
ア同月27日から翌28日の深夜帯においても、多呼吸及び季肋部の陥没
呼吸が見られた。当初装着したSATモニターにおいて、SATは80%台後半
から90%台後半を維持していたが、追加した上下肢のモニターとは、1
0前後の値の違いがあった(乙A2〔294、乙A15〔2。〕〕)
同日午前8時30分、血液ガス分析を行った(乙A2〔103、乙A〕
15〔2。〕)
イ28日の午前中においても、呼吸数は100ないし140回/分程度で
あり、多呼吸は継続した。クベース内の酸素濃度が低下すると、SATが低
下する状態であった。転科から同日午前5時までの尿量は125mlであり、
排便はなく、血圧は60前後であった。皮膚色はやや黄疸があり、肺の空
気の入りは低下していたが、心雑音はなかった。腹部は軟で平坦であった。
胸部レントゲン検査の所見について、F医師は、右肺野の含気は上昇する
も、左肺野の含気は著しく不良であると判断した(乙A2〔14、29
4、乙A15〔2。〕〕)
ウ28日の診療録には、原告Aの診断に関するF医師による以下のような
記載がある(乙A2〔15。〕)
「診断として、①羊水吸引症候群②新生児一過性多呼吸③肺炎
①→出生時スリーピングベイビーであり、羊水を誤えんした可能性はあ
る。しかし、片側性であり典型的とはいいがたい。
②→レントゲン所見より否定的
③→レントゲン所見からはもっとも疑わしい。しかしCRP(−。出)
生直後より呼吸困難出現している点が合わない」。
エ午前11時40分、F医師は、血液ガス分析結果の悪化は見られていな
かったものの、多呼吸及び陥没呼吸による原告Aの疲労を考慮して、気管
挿管の上での人工呼吸管理を開始した(乙A2〔15、321ないし32
4、乙A15〔3。〕〕)
気管挿管後、数回にわたりSAT値の低下が見られ、チアノーゼが出現し
たが、ジャクソンリースによる加圧を行うと、回復した(乙A2〔321
ないし324。〕)
オ午前中及び午後2時に、レントゲン検査が行われ、午後5時30分には
血液ガス分析が行われた(乙A2〔102、295、322、323、〕
乙A6の1・2。)
(7)7月29日の状況
ア同月29日においても、シーソー呼吸は、やや軽減したものの、いまだ
継続していた。また、医師が聴診をしたところ、両側ともに呼吸音は弱か
ったが、クラックル音や喘鳴はないとされた(乙A2〔17、18。〕)
、午前8時に、看護師が吸引を施行したところ、SATが70%まで低下し
口唇にチアノーゼが見られたが、15秒程度で回復した。また、同日午後
零時50分には、体位交換を施行したところ、SATが70ないし65%へ
低下した。午後10時30分にも、吸引を契機に、SATの低下が見られた
(乙A2〔325、328、331。〕)
イ午前零時15分、午前7時55分、午後2時20分、午後6時10分、
午後7時13分、午後8時45分、午後9時54分に血液ガス分析が行わ
れた(乙A2〔99ないし101、107ないし110、324ないし3
31、乙A15〔3。〕〕)
ウまた、午後1時15分及び夕方に胸部レントゲン検査が実施された。同
日夕方に撮影されたレントゲン写真を検討したG医師は「見方によって、
はすりガラス状?はっきりしない」との所見を診療録上に記した(乙A2
〔18、19、328、乙A7の1・2、乙A15〔3。〕〕)
また、同医師は、原告Aの状態の原因について「呼吸性アシドーシ、
ス?あるか。経皮モニターPO54、PCO58∼60であり、人工呼吸器22
設定変更しているが…。人工呼吸器設定はSIMVであり、鎮静中なので
onraspiratorであろう。X‐P、Labodataからも肺炎が呼吸状態悪化と
は考えにくいが…」と記載した(乙A2〔19。。〕)
エ午後7時30分、心室性期外収縮が出現し、約30分間持続し、その後
も、血圧測定等の処置の際に、一過性に心室性期外収縮が出現した(乙A
2〔20、330、乙A15〔3。〕〕)
、.オF医師は、カルテ上に「XP所見を肺炎と考えると、原因として、C
トラコマティス、CMV(サイトメガロウイルス)が挙げられる。しかし、
C.トラコマティスによる肺炎は産道感染が大半であり(患児はC/S、
(帝王切開)にて出生)潜伏期なども考えると、発症時期が早すぎる。C
MVの胎内感染としても、発症時期が早いと思われる」と記載した(乙。
A2〔21。〕)
カ同日行われた心エコー検査においては、右心負荷所見+、心室中隔は左
心側に突出している、左心負荷所見−との所見であり、F医師は、この所
見から新生児遷延性肺高血圧症(以下「PPHN」という)を疑い、翌。
日の同月30日「日令1の心エコー上R→Lシャントはみられていなか、
ったが、RV(右心)圧負荷の所見はあり、PPHと考えてもよいの
か」とカルテ上に記載した(乙A2〔22。。〕)
(8)7月30日以降の状況
ア同月30日も、原告Aは、イソゾールにて鎮静がされており、自発呼吸は
見られず、高圧での人工換気が必要な状況であった(乙A2〔22、332
ないし339。〕)
また、体位変換や吸引等を契機として、SATの低下が度々見られ、その都
度バギングが施行された(乙A2〔332ないし339。〕)
同日における血液ガス分析は、午前1時35分、午前2時50分、午前4
時30分、午前8時40分、午前11時40分、午後2時20分、午後4時
55分、午後7時45分に実施された(乙A2〔111ないし116、33
2、334ないし337。〕)
イ7月31日も、高圧換気が継続され、また、尿量の低下が見られた(乙A
2〔339ないし342、乙A15〔4。〕〕)
同日のレントゲン検査の結果、肺野の含気が上昇し、エアリークが見られ
ないとされた(乙A2〔24。〕)
同日、心エコー検査を施行したところ、心室中隔はフラットとなっており、
右心房圧と左心房圧がほぼ同じであり、前回に見られた左心室へ突出してい
る所見はなかった。F医師は、右心室への負荷加重所見は減少し、肺動脈圧
が低下しているとして、PPHNであっても改善傾向にあるものと判断した
(乙A2〔24、乙A15〔4、F〔17。〕〕〕)
ウ同年8月1日、尿量の低下が見られたが、レントゲン検査の結果、前日よ
りも含気が上昇し、エアリークも見られなかった(乙A2〔26、乙A1〕
5〔4。〕)
エ同月2日、尿量の低下及び血圧の低下が認められ、心エコー検査の結果、
右室圧の上昇及び左心室収縮機能の低下が認められたため、F医師はPPH
Nが悪化していると考え、血管拡張剤であるリポPGEを投与した(乙A1
2〔26ないし31、343ないし345、乙A15〔4、5、F〔1〕〕
7。〕)
オ同月4日からは血管拡張剤であるPGIが投与され、以降も循環動態の2
変動が認められたが、呼吸状態の改善とともに安定した。同月12日からは、
換気条件を徐々に緩和し、同月14日には、抜管がされ、生後44日目であ
る9月8日、原告Aは、体重3300gで退院した(乙A2〔31ないし7
4、295ないし311、346ないし388、乙A15〔5。〕〕)
カ退院前の8月27日に頭部CT検査が施行され、9月1日に脳波検査が実
施されたが、いずれにおいても異常所見は見られなかった(乙A2〔4、7
7、307、乙A15〔5。〕〕)
(9)退院後の状況
ア平成12年3月3日、原告Aは、被告病院フォローアップ外来を受診し、
頭部CT検査を受けたが、正常範囲内の所見であるとされた(乙A3〔13、
58、甲A5〔5。〕〕)
同年5月20日、原告Aは、被告病院神経外来を受診した。診察に当たっ
たH医師は、脳性麻痺の疑いがあると判断したが、その旨を原告Bに告げず、
CTは問題となる所見がないので分娩時のことが関係したとは考えにくく、
また、明らかな病因は不明である旨を話したにとどまった。その後、原告C
の出生地である台湾の医師や住所地近くの小児科医から原告Aは脳性麻痺で
はないかと指摘されたことから、原告B及び原告Cがこの点を質したところ、
同年9月に被告病院を受診した際に、I医師が脳性麻痺の可能性がある旨を
告げ、その旨は既に説明してあると述べた(乙A3〔23、39、40、〕
甲A5〔5、B〔5、6。〕〕)
なお、被告病院における原告Aの外来診療録冒頭には、現在に至っても傷
病名の欄に何らの記載もなく、空欄のままとなっている(乙A3〔1。〕)
イ原告Aは、平成13年3月、Jリハビリテーションセンターを受診し、低
酸素脳症を原因とする脳性麻痺と診断され、同年4月、両上肢機能障害及び
移動機能障害により、身体障害者等級1級との認定を受けた(甲A3、甲A
4、乙A3〔44、B〔6、7。〕〕)
2医学的知見
(1)新生児一過性多呼吸症
ア新生児一過性多呼吸症とは、出生直後より多呼吸(60回/分以上)を
主訴とし、チアノーゼや陥没呼吸はごく軽度で、数日で軽快する疾患と定
義され、新生児の呼吸障害として高頻度に認められる疾患である。胎児の
肺胞内に存在し、出生後、自発呼吸の開始とともに吸収される肺水の吸収
が、何らかの理由によって遅延するために生じると考えられている(甲B
8〔2。〕)
肺水の吸収には、産道での胸郭の圧迫と生後の自発呼吸が必要であるた
め、帝王切開時の母体全身麻酔下でスリーピングベイビーとなった児や、
何らかの原因で新生児仮死となり自発呼吸の出現しない児等では、本症の
発症率が上昇する(甲B7〔60、61、K〔7、8。〕〕)
イ新生児一過性多呼吸症においては、胸部レントゲンでは、肺野全体の水
分貯留のため全体の透過性が低下するが、air-bronchogram(気管支透瞭
像)は呼吸窮迫症候群のように目立たないとされる(甲B7〔61。〕)
ウ新生児一過性多呼吸症の治療は、水分の吸収が十分になるまで酸素を投
与するか、陽圧換気による積極的な水分の排除を行うとされる。また、血
漿蛋白の補充と利尿剤の投与も有効であるとされる(甲B7〔61。〕)
(2)新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)
アPPHNとは、出生後も高い肺血管抵抗が持続し、正常な胎外循環への
移行が阻害された病態をいう(甲B2〔209、甲B3〔503。〕〕)
イPPHNの症状としては、チアノーゼや呼吸障害が生じるとされ、重症
例では、啼泣、体動、処置などの些細な刺激でチアノーゼが増強し状態が
悪化するフリップフロップ現象が生じるとされる(甲B3〔503、50
4、甲B4〔67、甲B5〔147。〕〕〕)
上下肢のSpOの差、心エコーにおける高度の肺高血圧の所見、心電図検2
査における右心負荷所見及び心筋障害の所見等によって、診断がされる
(甲B2〔210、211、甲B3〔504、甲B4〔67、甲B5〕〕〕
〔147。〕)
PPHNの治療としては、人工換気療法及び血管拡張剤の投与が中心と
なる(甲B2〔211ないし214、甲B3〔504ないし506、甲〕〕
B4〔67、68、甲B5〔148ないし150。〕〕)
(3)人工換気の方法
ア新生児の呼吸管理が問題になる場合、目標とする血液ガス値は、PaO52
0ないし70mmHg、PCO40ないし60mmHgとされる。この範囲内で、吸2
入酸素濃度と、最大吸気圧をできるだけ低く保ち、ファイティング(患者
の呼吸と人工呼吸器の補助や強制換気が合わないこと)を避けることが必
要であり、そのために必要であれば、鎮静・鎮痛剤を積極的に使用すると
される(乙B1〔722。〕)
イnCPAP及びnDPAPについて
nCPAPとは、呼吸窮迫症候群の治療として、呼気時の肺胞の虚脱を
防ぐために開発された持続陽圧呼吸補助装置である。nDPAPは、nC
PAPに存在した気道内圧が過度に高くなり気胸を発生する危険性がある
点、呼吸仕事量が増えること、鼻の圧迫が必要であること等の欠点を克服
した持続陽圧呼吸補助装置である(甲B7〔99。なお、甲B7は、平〕
成14年3月1日発行。)
呼吸管理の目的は、酸素化と高炭酸ガス血症の改善である。酸素化は、
投与酸素濃度を上昇させること及び肺容量を増加させることで改善される。
そのため、人工換気を実施していないときには、吸入酸素濃度を上げるか、
nCPAP又はnDPAPで気道に陽圧をかけることが有効であるとされ
る(甲B7〔87。また、40%の吸入酸素が必要な場合や、未熟児の〕)
無呼吸発作には、まずnCPAPを考えるとされている(乙B1〔72
2。なお、乙B1は、平成13年発行。〕)
ウ間欠的陽圧換気療法について
肺損傷は、気道にかかる圧そのものよりも肺胞の過伸展によって生じや
すいと考えられるところ、未熟な新生児ほど同じ吸気圧でも肺胞は過伸展
されやすいために、体重別最大吸気圧(以下「PIP」という)につい。
ては、新生児期は出生体重が小さいほど上限を低く設定するものとされ、
出生体重1500g以上の児については、25cmHO程度をPIPの上限と2
するとされる(乙B1〔723。〕)
他方、呼気終末圧(以下「PEEP」という)については、これによ。
る肺損傷は少ないため、酸素化の改善度と循環動態への悪影響を勘案しな
がら、4ないし10cmHOに設定するとされる(乙B1〔723。2〕)
(4)血液ガス分析結果等
PaOとは動脈血酸素分圧をいう。新生児においては、60ないし90mmHg2
が正常値であるとされる。静脈血における酸素分圧は、動脈血におけるより
も20mmHg程度低いものとされる。SpO(SAT)とは経皮的動脈血酸素飽和2
度をいう。SATが80台後半であれば、PaOが50mmHg以上であると推定さ2
れる(F〔3、5、6、23、争いのない事実。〕)
PCOとは、炭酸ガス分圧をいう。新生児におけるPCOの正常値は、30な22
いし50mmHg程度とされる。静脈血におけるPCOは、動脈血におけるよりも2
5mmHg程度高いものとされる(F〔3、6、争いのない事実。〕)
(5)脳性麻痺
ア脳性麻痺とは、受胎から生後4週間以内に発生した中枢性の病変による
非進行性の運動及び姿勢の異常を呈するものをいう。脳性麻痺の発生率は、
現在出生人口1000人に約2人前後であるが、出生体重により脳性麻痺
の発生率は異なり、出生体重が2500g以上の児においては、1000
人に約0.7人であるとされる(甲B9〔731、734。〕)
イ脳性麻痺の原因としては、分娩時の低酸素・虚血、脳室内出血などを中
心とした未熟性に起因するもの、代謝異常を含む先天異常、子宮内胎児発
育遅延等が報告されているが、原因不明の症例も存在し、その割合は全症
例の8%と報告する文献もある(甲B10〔67、甲B11〔113〕
4、甲B12〔1215。〕〕)
3争点(1)(適切な呼吸管理を行わなかった過失の有無)について
(1)原告らは、被告病院担当医師らは、7月27日の早朝、若しくは遅くと
も同日午前10時30分過ぎに、原告Aに対して、積極的な呼吸管理を開始
すべきであったと主張する。
まず、行うべき呼吸管理の内容については、原告らは、nDPAPを用い
るべきであり、それが不可能であればCPAPの方法を用いるべきと主張す
るが、証人K医師(以下「K医師」という)は、同方法は平成11年当時。
には一般的ではなかったと証言しており(K〔25、また、本件で提出さ〕)
れた文献のうちnDPAPに言及する文献はいずれも平成11年以降に発行
されたものであることからすると(甲B7、乙B1、nDPAPが平成1)
1年当時において一般的に普及した方法であるとは認められない上、平成1
1年当時においては、被告病院においてnDPAPの装置は導入されていな
かったのであるから(F〔5、呼吸管理の方法として、同方法を行うべき〕)
義務は認められない。
そこで、行うべき呼吸管理の方法としては、CPAP若しくは原告らの明
示的な主張はないものの気管挿管による方法が検討されるべきであり、以下、
これらの方法を行うべき義務の有無について検討する。
(2)ア次に、上記1(3)及び(4)のとおり、原告Aには出生直後から多呼吸が
継続しており、同月27日午前10時における呼吸数は、80ないし10
0回/分であった。なお、陥没呼吸については、上記1(3)キのとおり、同
月26日午後9時の段階においては見られておらず、その後も小児科に転
科するまで、陥没呼吸ありとの記載は看護記録上存在しないが、上記1
(5)イのとおり、小児科転科後において、著名な陥没呼吸が認められてい
ることからすると、同月26日午後9時の段階において陥没呼吸が見られ
なかったのは、一時的なものと考えるべきであり、陥没呼吸は、小児科転
科に至るまで、継続していたものと認められる。また、SATの値について
は、同月26日から27日の転科以前にかけては、90%台で推移したも
のの、時に80%台に低下することもあり、同月27日午前10時30分
の時点では、SATが低下し、その回復が遅く、しかも完全ではない状態が
見られた。これらのことからすると、この間の原告Aの呼吸状態は安定し
ない状態であったと評価できる。また、同月26日午後6時50分のレン
トゲン検査においては、索状影があると判断され、含気が悪い所見であっ
た(K〔12、13)ところ、翌27日午後零時30分のレントゲン検〕
査においては、撮影条件の差を考慮すると、前回の検査と比較して所見が
増悪したとまでは断定できないものの、被告病院のE医師も粒ないし線状
陰影の増強があると判断しているほか、肺の膨らみは悪い所見であると評
価でき(K〔13、レントゲンの所見からしても、原告Aの呼吸状態の〕)
改善は見られなかった。
これらの点からすると、出生直後からの多呼吸ないし陥没呼吸が遷延し
ており、同月27日にかけて呼吸状態は徐々に悪化してきたと評価できる。
イこの時点で原告Aの経過観察に当たっていたE医師は、同月27日午前
10時ないし10時30分の原告Aの状態について、クベース内で酸素を
投与している状態の下、多呼吸で代償することによりSATが90%を維持
している状態であり、臨床所見においても活気がある状態であったことか
ら、この時点においては人工換気の必要はなく、また、強制換気のために
陽圧をかけること、呼吸をコントロールすること及び気管挿管をすること
のデメリットを考慮して人工換気を行わなかった旨の証言をする(E〔3
3、34。〕)
これに対し、K医師は、生後24時間が経過した児の呼吸数が100回
/分を超えている一方で、低酸素の状態にない場合には、多呼吸の原因を
肺の虚脱と考え、圧をかけて肺を膨らませるべく積極的な呼吸管理を行う
〕〕)。べきであった旨の陳述及び証言をする(甲B8〔5、K〔23、24
しかしながら、K医師の上記陳述等を前提としても、積極的な呼吸管理
を行うべき時期は同月27日の夕方以降となり、原告らの上記主張に沿う
ものではない。すなわち、K医師は、同月26日午後6時又は同月27日
午前中の小児科への転科前の原告Aの状態を前提としたその時点の判断と
しては、治療を過剰気味にスタートし、呼吸管理を始めるという考え方と、
そのまま経過観察として呼吸管理は後追いの形で始める考え方とがあり、
同医師の所属する施設ならば前者を選択するものの、この点については、
担当する医療チームによって判断が分かれる旨の証言をしており、呼吸数、
酸素化の程度及び児の状態について慎重な観察がされるのであれば、その
まま生後24時間程度まで経過観察とする判断にも問題はないとしている
(K〔18、19、41、42。〕)
また、E医師は、原告Aの呼吸障害の原因について、一過性の多呼吸で
あると判断したところ(E〔3、上記1(4)アないしウのとおり、7月〕)
27日の早朝、若しくは遅くとも同日午前10時30分過ぎの時点におい
ては、SATの値は、時に80%台に低下することがあったものの、概ね9
0%台を維持しており、酸素化の程度にはほぼ問題はなく、E医師自身が、
原告Aには活気があると判断したものである。このような状況の下では、
一過性の多呼吸に過ぎないとのE医師の判断が誤りであったとはいい難く、
上記2(1)アのとおり、一過性の多呼吸であれば数日で改善するものであ
るから、そのような判断の下では、経過観察としたE医師の判断も合理性
を有するものである。
そして、上記1(3)エ及びクのとおり、被告病院においては、出生直後
から原告Aをクベースに収容し、酸素飽和度モニター及び心電図モニター
を装着し経過を把握していた上、E医師が頻回に原告Aの状態を観察し活
気があると判断する等していたのであるから、慎重な経過観察がされてい
たと評価できる。
その上、上記2(4)のとおり、SATが80%台後半以上であれば、PaOも2
50mmHg以上であり、本件では、おおむね80%台後半以上のSATを維持
していたのであるから、酸素化の程度には大きな問題はなかったものであ
る。
ウそうすると、本件の経過を事後的に振り返って見れば、より早期に呼吸
管理を始めることがよりよい呼吸管理の方法であった可能性は否定できず、
仮に原告AがK医師の所属する施設で診療を受けていたならば、そのよう
な方法が選択されていたものと認められるものの、本件当時の判断として
は、7月27日の早朝若しくは遅くとも同日午前10時30分過ぎに、原
告Aに対して、積極的な呼吸管理を開始すべき義務があったとまでは認め
られず、原告らの主張は採用できない。
もっとも、上記イのように、K医師は、同日夜には積極的な呼吸管理を
行うべき義務があった旨の証言をするところ、この証言によれば、同月2
7日夜には積極的な呼吸管理をするべき義務があったとみる余地があり、
原告らは、このような主張を黙示的にしているものとも理解できるが、仮
にこの点についての義務違反が認められたとしても、後記7のとおり、当
該義務違反と結果との因果関係が認められないので、この点についての判
断は留保することとする。
(3)さらに、原告らは、被告病院においては、気管挿管による人工換気開始
後も、2つないし3つの換気条件を同時に変更したとして、正常な条件変更
が行われていなかったと主張する。
しかし、被告病院においては、多くの場合、換気条件を1つずつ変更して
いたことは看護記録上明らかであり(乙A2〔321ないし378、原告〕)
らの主張は、前提を欠くものである。
被告病院においては、呼吸条件について、血液ガス分析の結果を見た上、
主に酸素分圧の数値を踏まえて、FiO及び気道内圧(MAP)を調整し、主2
に炭酸ガス分圧の値を踏まえて、換気回数、呼気時間、PIP−PEEPを
調整しており(乙A15〔8、F〔20、21、このような換気条件の〕〕)
変更が不適切であったとすべき事情は見当たらない。
また、原告らは、最大吸気圧を22cmHOとしたことを指摘し、これが危2
険な数値であるとするが、上記2(3)ウの知見に照らすと、この設定が不適
切であったということはできない。
したがって、原告らのこれらの主張も理由がない。
(4)なお、出生直後からの原告Aの病状の原因につき、原告らは、多呼吸に
続発した二次性サーファクタント欠乏により肺胞の拡張が不十分になり、十
分なガス交換ができなくなったことに加え、出生後の新生児に認められる生
理的な肺高血圧が加わって、PPHNを来したと主張するのに対し、被告は、
羊水吸引症候群にPPHNが続発したと主張し、両者の主張は相違する。
しかしながら、原因の如何によって、呼吸管理の必要性及びその内容に差
異が生じるとする事情は見当たらないことからすれば、原告Aの病状の原因
をどのように考えたとしても、上記の理は妥当するものであり、原告Aの病
状の原因についての見解の相違は、上記結論に影響を及ぼすものではない。
4争点(2)(血液ガス分析を十分に行わなかった過失の有無)について
(1)原告らは、原告Aの呼吸状態の判断のためには、単に経皮的酸素飽和度
を見るだけでは足りず、血液ガス分析を行うことが不可欠であり、小児科へ
転科する以前の段階においても、2ないし3時間おきに血液ガス分析を行う
義務があったと主張する。K医師は、多呼吸が問題になる児に対しては、酸
素の状態だけでなく、炭酸ガスの貯留が問題となり、その点を判断するため
に血液ガス分析が必要である旨の原告らの主張に沿う陳述及び証言をする
(甲B6〔3、K〔22。〕〕)
これに対し、E医師は、小児科転科以前に血液ガス分析を行わなかった理
由について、スリーピングベイビーで一時的に生じる呼吸障害があったと判
断したことを前提に、SATが80%台後半を維持していたことから、その後
の悪化は想定できなかったため、血液ガス分析の侵襲性を考慮して、同検査
を行わなかったと証言する(E〔31。〕)
(2)上記1(3)及び(4)のとおり、小児科転科以前においては、SATの値は、時
に80%台に低下することがあったものの、概ね90%台を維持しており、
酸素化の程度にはほぼ問題はなく、E医師自身が、原告Aには活気があると
判断したものである。このような状況の下では、一般的には数日間で改善す
る一過性の多呼吸に過ぎないとのE医師の判断が誤りであったとはいい難く、
そのような判断の下では、血液ガス分析の侵襲性を考慮すると、血液ガス分
析の実施が必ずしも必要であったとはいえず、小児科転科以前において血液
ガス分析を実施すべき義務があるとは認められない。
なお付言するに、上記1(5)イのとおり、小児科への転科後においては、
直ちに静脈血による血液ガス分析を行われているところ、その結果において
も、PCOの貯留を示す有意な所見はなく、その結果から遡って考えると、小2
児科転科以前においてもPCOの貯留を示すデータは見られなかったと推認さ2
れ、仮に、小児科転科以前において血液ガス分析を行っていたとしても、そ
の後の治療方針に変更があったとは考え難いから、血液ガス分析の不実施と
結果との因果関係も否定されるというべきである。
(3)さらに、小児科転科後においては、上記1(5)イのとおり、午後2時50
分に血液ガス分析を行ったほか、上記1(5)エのとおり、SATモニターのみな
らず、POモニター及びPCOモニターを装着して、原告Aの呼吸状態につい22
て経時的に観察していたのであるから、被告病院においては、原告Aの呼吸
状態に応じた経過観察措置がとられていたと評価することができ、血液ガス
分析の侵襲性も考慮すると、さらに頻繁に血液ガス分析を実施すべき義務が
あるとは認められない。
したがって、原告らの主張には理由がない。
5争点(3)(小児科へ転科させる義務を怠った過失の有無)について
原告らは、産科担当医師は、患児に対してクベース収容及び酸素投与の治療
を行っても呼吸状態が改善しないときには、直ちに新生児科ないし小児科に転
科させ、人工呼吸管理等の必要な治療を行う義務があるとして、本件でも、同
月27日早朝の段階若しくは同日午前10時30分の段階で原告Aを小児科に
転科させ、呼吸管理を根本的に行う態勢をとるべき義務があったと主張する。
しかしながら、原告らの主張によれば、小児科への転科は、呼吸管理を行う
ことを目的とするものであるところ、上記3のとおり、原告らが明示的に指摘
する時点において、積極的な呼吸管理を行うべき義務は認められないのである
から、呼吸管理の必要性を前提とする原告らの転科の主張はその前提を欠くも
のといわざるを得ない。
したがって、原告らの主張には理由がない。
なお、上記3(2)ウのとおり、7月27日夜に呼吸管理を行うべき義務につ
いては、認められる余地は否定できないものの、後記7のとおり、この時点に
おける義務と結果との因果関係は否定されるものであり、呼吸管理の必要性を
前提とする転科義務との関係においても、同様に因果関係が否定されることと
なる。
6争点(4)(被告病院が大学病院であることにより、注意義務に差異が生ずる
か否か)について
原告らは、被告病院における本件医療行為は、大学病院として患者から期待
されている最高水準の医療から見た場合、注意義務違反を免れないものである
と主張する。
しかし、本件に現れた全証拠及び医学的知見によっても、本件の事案を前提
とする限り、前記3ないし5の判断に当たって、被告病院が大学病院であるか
否かによって、所属医師の注意義務の内容や程度に差異が生ずるとは認め難く、
そうである以上、被告病院が大学病院であることを考慮しても、原告らが指摘
する注意義務の有無の判断に差異が生ずるとはいえない。
また、原告らの主張は、大学病院である以上、常に我が国での最高水準の医
療を提供すべきであり、現にK医師の所属する施設における医療行為の内容が、
原告Aに対する診療行為としてより適切であると想定されることから、被告病
院でそれと同様の診療行為が行われなかったこと自体がその過失を構成すると
の趣旨とも理解できるが、それは大学病院に対する過大な要求といわざるを得
ない。すなわち、専門科目ごとに大学病院を超える水準の医療行為を行う施設
が存在することもあり得るところであり、大学病院の医療行為がその水準に達
しないとしても、それが直ちに過失であるとは評価できない。したがって、原
告らの主張の趣旨がこのようなものであるとすると、それ自体失当といわざる
を得ない。
よって、いずれにしても、原告らのこの点の主張は採用できない。
7争点(5)(因果関係)について
原告らは、原告Aには出生直後から呼吸障害があり、その後も呼吸障害があ
る状況が長期間継続していたという経過からすれば、原告Aに生じた脳性麻痺
は、継続した呼吸障害による低酸素脳症を原因とするものと見ることが合理的
であると主張する。K医師は、決定的な低酸素状態ではなくとも、万全ではな
い状態が長く積み重なることによって神経発達障害等が起こることは経験上あ
り得るとした上、本件でもそのような状態が存在した以上、そのような状態が
脳性麻痺の原因となったと考えるのが合理的である旨の陳述及び証言をする
(甲B8〔6、K〔28ないし30、42ないし49。〕〕)
上記陳述等の趣旨は、本件においては、脳性麻痺の原因が低酸素脳症にある
と断定し得るほどに明確な低酸素状態は生じておらず、通常の統計学では原因
不明の範ちゅうに属するものの、ある程度継続した呼吸障害があった以上、脳
への酸素供給が万全とはいい難いから、先天異常等の他の原因よりも、そのこ
とが脳性麻痺の原因とみるのが合理的であるというものである。確かに、脳へ
の酸素供給がなくなることが脳性麻痺の原因のひとつであることからすると、
酸素の供給がなくならないまでも不十分な状態が継続することも同様の結果を
生じさせると考えることには、一定の合理性があり、自然科学的には、同医師
の指摘するように呼吸障害の継続が脳性麻痺の原因となった可能性は否定でき
ないが、脳性麻痺の原因として前記のとおり低酸素状態以外のものも種々想定
されることからすると、この可能性が否定できないことをもって、直ちに法的
にみて、呼吸障害の継続がなければ脳性麻痺の発症がなかった高度の蓋然性又
は相当程度の可能性があったとは認められない。これらを認めるには、さらに
本件程度の呼吸障害の継続が脳性麻痺を発症させることを演繹的に説明するか、
それができないまでも、統計的に脳性麻痺発症の原因が不明とされている症例
中における呼吸障害の継続した症例を明らかにするなどして、帰納的に上記高
度の蓋然性又は相当程度の可能性の存在を明らかにする必要がある。
しかし、同医師の証言ないし陳述は、同医師の経験上、そのような症例に遭
遇したというにとどまり、上記のような演繹的又は帰納的な説明はなく、本件
全証拠によっても、これを認めることはできない。
さらに、上記1(9)イのとおり、原告Aは、後医において脳性麻痺の原因が
低酸素にあると診断されているが、その診断の根拠は明らかではなく、また、
脳性麻痺の原因が低酸素にあるとしても、分娩前、分娩中、出生後のいずれの
段階による低酸素がその原因となったのかは明らかではないといわざるを得な
い。
以上からすれば、本件における原告Aの脳性麻痺の原因が出生直後からの呼
吸障害にあると認めることはできず、この点を前提とする原告らの因果関係に
ついての主張も理由がないといわざるを得ない。
第4結語
以上によれば、被告病院における呼吸管理については、過失の有無はともかく
としても、より適切な措置が想定されたところであり、そのような呼吸管理がさ
れていれば、原告Aの脳性麻痺の発症が回避できた可能性は否定できないものの、
その可能性は法的にみて高度の蓋然性又は相当程度の可能性があると評価し得る
ものではないから、仮に過失があったとしても、生じた結果との因果関係が肯定
できるものではない。また、被告病院におけるフォローアップ外来受診中に、原
告Aの病名が適時に原告B及び原告Cに理解できるように説明されたとは認め難
く、このことが本訴提起の一因となったことは否定できないが、この点は少なく
とも本訴における請求原因を前提とする以上、本訴請求の結論を左右するもので
はない。
したがって、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの主張は理由
がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第34部
裁判長裁判官藤山雅行
裁判官大嶋洋志
裁判官岡田安世
別紙1当事者の主張
第1注意義務の前提としての原告Aの症状とその原因
(原告らの主張)
1出生直後からの呼吸障害の存在
原告Aは、7月26日午後4時43分にスリーピングベイビー状態で出生し、
出生直後より自発呼吸が弱く、呼吸障害が見られた。両肺のエア入りがやや弱
く、午後5時30分クベースに収容され、午後5時50分に酸素投与が開始さ
れたにもかかわらず、午後6時30分には多呼吸、午後9時には多呼吸(+
+)陥没呼吸(+)と、カルテ上も記載されている。原告Aの父親である原告
Bは、午後7時ころ、ナースステーションの奥の部屋でガラス越しに原告Aと
初めて対面した際に、息を吸い込むたびに胸が大きく陥没して、その呼吸が一
見して不自然であることを目撃している。
こうした呼吸症状の経過をみれば、原告Aの状態は、被告が主張するような
「疾患に特異的に存在するもの(症状)ではない」などといって済ませられ。
るものではなく、明らかに「呼吸障害」であり、慎重な経過観察が必要な状態
であった。
なお、被告はことさらに、午後9時は「陥没、呻吟なし」と記載されている
と主張するが、7月26日のカルテには「多呼吸(++、陥没呼吸(+」、))
との記載があり、7月27日午後2時30分の小児科転科時には「陥没呼吸あ
り(入院診療録概要)と記載されているのであるから、上記の「陥没、呻吟」
なし」は一時的なものでしかなかったことが明らかである。
2二次性サーファクタント欠乏及びこれによるPPHNの続発
原告Aの症状は、多呼吸及び陥没呼吸が継続し、7月26日から27日にか
けての深夜帯には、モニター上SaOが、90%台後半から前半、時々80台2
後半までダウンし、同月27日午前10時には85%まで下がり、その後も回
復が遅く不安定で、多呼吸が目立つといった状況であり、午前10時30分の
胸部レントゲンでは「両肺野に粒∼線状陰影増強」と認められ、症状は次第に
悪化している。同月26日午後6時50分撮影のレントゲン写真、同月27日
午前10時30分撮影のレントゲン写真はいずれも肺の膨らみが良くなく、同
月27日午前10時30分のレントゲン写真は、その撮影条件を考慮しても磨
りガラス状になっていて、肺の虚脱を示している。
こうした症状の経過と、同月28日午前11時40分の気管挿管後に撮影さ
れたレントゲン写真にair-bronchogram(気管支透瞭像)と思われる陰影が認
められ、この所見は、レントゲン写真撮影の時点において、児の肺胞が虚脱し、
肺胞を膨らませるために圧力が加わっている所見であると考えられるところか
ら、原告Aは、出生後、多呼吸、陥没呼吸があったものの、取りあえず換気・
ガス交換が可能な程度まで拡張した肺が、経時的にその機能を失って行ったの
であり、この間の児の経過は、長期間にわたり多呼吸を呈していた児の肺に、
肺胞を拡張しておくために必要な肺サーファクタントの消費による「二次性サ
ーファクタント欠乏」が生じたと見るべきである。
原告Aは、多呼吸に続発した二次性サーファクタント欠乏により肺胞の拡張
が不十分となり、十分なガス交換ができなくなったことに加え、出生後の新生
児に認められる生理的な肺高血圧が加わってPPHNを来した。
3被告の主張に対する反論
本件において、レントゲン写真のみによって羊水吸引症候群と確定診断する
ことはできない。
(被告の主張)
1呼吸障害が羊水吸引症候群によること
(1)7月26日の胸部レントゲン写真に出現しているのは、あくまで索状影
(=線状影)や粒状影である(気管支の走行方向の違いにより、索状に写る
ものと粒状に写るものとがある。なお、7月27日午前中の胸部レントゲ。)
ン所見として陰影自体は増強しているが、レントゲンの撮影条件からすると、
所見自体が悪化しているとはいえない。
そして、このような索状影や粒状影は、羊水吸引症候群と合致する。すな
わち、羊水が気管支内に存在するために透過性が減少して、白く写っている
ものである。
(2)なお、原告Aはスリーピングベイビーで出生したところ、スリーピング
ベイビーの場合には、呼吸運動や体動が十分にできないため、羊水を排出し
きれずに羊水吸引症候群となることがあるし、羊水吸引症候群においても、
呼吸障害として、多呼吸や陥没呼吸が出現し得る。
2PPHNの原因
羊水吸引症候群に続発したものである。
肺胞の拡張が不十分であった可能性や二次性サーファクタントが欠乏してい
た可能性も否定はできないが、これらを裏付ける具体的な所見はない。air-br
onchogramは二次性サーファクタント欠乏に特異的な所見ではない。いずれに
せよ、これらも羊水吸引症候群に続発したものである。
第2適切な呼吸管理を行わなかった過失の有無
(原告らの主張)
1呼吸管理を開始すべき時期
原告Aは、同月26日午後5時30分のクベ−ス収容、酸素投与にもかかわ
らず、多呼吸、陥没呼吸は解消せず、それどころか、7月26日から同月27
日にかけての深夜帯には、モニター上が、90%台後半から前半、時々8SaO2
0%台後半までダウンし、状況は悪化していったのであり、同月26日午後6
時50分撮影のレントゲン写真で肺がよく膨らんでいないことが認識可能なの
であるから、被告はこの段階で原告Aを小児科へ転科させ、肺を膨らませて呼
吸の改善を図るべく、積極的な呼吸管理を開始すべきであった。
さらに、同月27日午前10時にはが85%まで下がり、その後も回復SaO2
が遅く、多呼吸が目立つ、といった状況であり、同日午前10時30分の胸部
レントゲンでは「両肺野に粒∼線状陰影増強」と認められ、肺の膨らみが悪い
ことも認識できたのであるから、被告病院担当医師らはどんなに遅くともこの
段階では、直ちに原告Aを小児科に転科させて、肺を膨らませて呼吸の改善を
図るべく、積極的な呼吸管理を開始すべきであった。
2採るべき呼吸管理の方法
人工呼吸管理の方法としては、持続陽圧換気療法(nDPAP)は、自発呼
吸による呼吸管理方法であり、原告Aは、出生後から自発呼吸があり、多呼吸
・陥没呼吸等の障害があっても当初はそれなりの換気機能を発揮していたので
あるから、同療法が有効な方法であった。かつ、この持続陽圧換気療法(nD
PAP)は新生児の鼻にソケット様の器具を装着するだけの侵襲の少ないもの
であり、肺損傷等の危険もないので、その点でも、早い段階から積極的に使用
することができたはずである。こうした点で、持続陽圧換気療法(nDPA
P)こそが、本件に最も適した有効な治療方法であった。
なお、仮に本件当時に被告病院において、持続陽圧換気療法(nDPAP)
が実施できなかったとしても、人工呼吸器を用いてCPAPをかけるなどの代
替方法による持続陽圧換気療法を行うことは可能であった。
3被告病院が行った呼吸管理
被告病院担当医師らは、同月27日午後2時30分になってようやく原告A
を小児科に転科させ、翌28日の午前11時40分になってやっと、挿管によ
る人工呼吸を開始した。
被告病院担当医師らは、上記人工呼吸器装着後も血液ガス分析を、同月28
日は午後5時30分の1回だけしかせず、翌29日にも午後6時10分までは
7時間おきにしかしていない。
同月29日午後7時13分以降、動脈血による血液ガス分析を比較的頻回に
行うようになったが、同月30日及び31日にPCO値が突発的に変動する等、2
数値的にも変動が激しく、被告病院担当医師らは換気条件の小刻みな変更を繰
り返し、時には最大吸気圧を22cmH0などといった気胸などを起こしかねな2
い危険な数値にまで引き上げるなどしている。
4被告病院が行った呼吸管理が不適切であったこと
被告病院担当医師らは、7月28日の午前11時40分になって挿管による
人工呼吸を開始したが、あまりにも遅きに失したものであり、上記7月26日
から27日にかけての深夜帯の時期、遅くとも同月27日午前10時あるいは
午前10時30分の時期には、持続陽圧換気療法(nDPAP)等による呼吸
管理を行うべきであった。
また、被告病院においては、人工呼吸器装着後も、血液ガス分析を同月28
日は午後5時30分の1回だけしか実施せず、翌29日にも午後6時10分ま
では7時間おきにしか行っていない。人工呼吸器を装着して肺を膨らませ、呼
吸状態を改善しようというのであるから、当然に血液ガス分析のデータを頻回
にとって、その結果に照らして人工呼吸器の換気条件を変え、より早期により
適切な設定条件を探す必要があったにもかかわらず、こうした検査・治療を怠
ったものであって、その管理体制は極めて杜撰であった。その間原告Aは、人
工呼吸器をつけたにもかかわらず状態が徐々に悪化していった。
同月29日午後7時13分以降、動脈血による血液ガス分析を比較的頻回に
行うようになったが、同月30日及び31日にPCO値が突発的に変動する等、2
数値的にも変動が激しく、被告病院担当医師らは、検査数値に対する後追いで、
換気条件の小刻みな変更を繰り返した。
また、血液ガス分析結果に基づく人工呼吸器の換気条件変更も、同時に3つ
の条件を変えたりするなど、適切な換気条件をより早期に探し出すために適切
な、安定した呼吸管理が行われていない。換気条件は、直前の換気条件と比較
しながら変更しなければ、どの換気条件の変更が患児の呼吸状態に影響を与え
た原因となっているかを評価することができない。換気条件全てを同時に変更
することは、それまでの換気条件によるデータを放棄するに等しく、およそ正
常な条件変更ではない。
この間、原告Aは、挿管による人工呼吸管理を受けた後の方が、かえって症
状を悪化させている。したがって、人工呼吸管理開始後の原告Aの状態の悪化
についても、専ら被告病院担当医師らの呼吸管理方法についての過失によるも
のである。
5被告の主張に対する反論
(1)酸素化の悪化や二酸化炭素の貯留を呈する呼吸障害に対する治療法は人
工的な補助呼吸であって、治療としては最初に補助呼吸療法が選択されるの
が一般的である。
被告は持続的陽圧換気療法を無呼吸発作に対する治療法であるかのように
主張するが、持続的陽圧換気療法は無呼吸の治療に限定的に用いられる呼吸
管理法ではない。酸素化や二酸化炭素の貯留はそれほど障害されておらず、
呼吸数は多いながらも自発呼吸がしっかりしている場合には、肺胞の虚脱を
防ぎ児の呼吸努力を軽減する目的で持続的陽圧換気療法の選択が考慮される
のである。
また、鼻に管を装着するだけの持続的陽圧換気療法は、気管内挿管を行い
人工呼吸器を装着する方法に比べて、侵襲もリスクもはるかに少なく、早い
段階で行うことができる。
こうした点から本件においても、遅くとも上記の時期には同方法による治
療が行われるべきであった。
なお、被告は、原告Aの呼吸状態について一方で「人工呼吸管理の絶対的
適応ではない」としつつ「多呼吸及び陥没呼吸の持続による児の疲労を考、
慮して、人工呼吸管理を実施」したと主張しているが、そうであれば、なお
のこと、より早い段階で、侵襲もリスクもはるかに少ない持続的陽圧換気療
法を開始すべきだったのである。
(2)人工呼吸管理においては、開始当初の条件設定は多少高くなっても、頻
回に血液ガス分析を行いその所見から児の状態を評価しつつ、より効果的な
人工換気の設定を探って行くべきであって、検査数値に対する後追いで小刻
みな変更を繰り返すのは妥当ではないし、こうしたより適切な換気条件を探
っていく段階では、換気条件変更も、同時に2つも3つもの条件を変えるこ
とは適切ではない。
(3)nDPAPは愛育病院では平成10年から使用されており、大学病院を
設置・運営する被告の「一般化したのは平成12年過ぎからである」旨の、
主張は、是認できない。また、nDPAPが無かったとしても、人工呼吸器
を使ってCPAPをかけるなど代替的方法はいろいろあった。
(被告の主張)
1被告病院が行った呼吸管理
被告病院においては、7月26日午後4時50分に出生後、午後5時30分
にはクベース管理とし、午後5時50分から酸素投与を開始している。そして、
7月28日午前11時40分には挿管の上、人工呼吸管理としている。
また、原告ら主張の7月27日午前10時30分の時点ですでに、クベース
に収容の上、酸素飽和度・心電図モニターを装着しており、酸素飽和度モニタ
ーでも、低酸素血症(酸素飽和度90%未満)が持続するなどの所見は出現し
ていない。このように、酸素濃度が維持できており、さらに活気の程度や肌の
色調などからすれば、人工呼吸管理の絶対的適応ではない。
そして、翌7月28日午前11時40分には、多呼吸及び陥没呼吸の持続に
よる児の疲労を考慮して、人工呼吸管理を実施しているのであるから、人工呼
吸管理の開始時期は適切であったものである。
2呼吸管理の方法
新生児の人工換気の方法としては、最近は、経鼻的に行う持続陽圧呼吸
(CPAP、nDPAP)と気管挿管を行う間欠的人工換気(IMV)+呼気
終末陽圧呼吸(PEEP)という方法が用いられているが、自発呼吸があって
も、鎮静剤や筋弛緩剤などで呼吸を抑制して気管挿管を行い、人工呼吸器を装
着することは、極めて一般的に行われている医療行為である。そして、本件で
は、羊水吸引症候群を発症して、多呼吸や頻呼吸などの呼吸障害が継続してい
ることを考慮して、気管までチューブを挿入する方法を行ったものであり、医
学的にみて全く妥当な処置である。
なお、nDPAPと気胸発生のリスクとの関係については、本件において気
胸は発生しておらず、また、nDPAPが一般化したのは平成12年過ぎから
であり、これを一般化するための報告も平成12年以降に多く見られるという
のが実際である。
22呼吸条件については、主として、酸素分圧(PO)の数値を踏まえて、FiO
と気道内圧(MAP)を調整し、主として、二酸化炭素分圧(PCO)の数値を踏2
まえて、換気回数、呼気時間、PIP−PEEPを調整している。このように
児の呼吸状態にあわせて換気条件を変更することは、むしろ適切な医療行為で
ある。
第3血液ガス分析を十分に行わなかった過失の有無
(原告らの主張)
1血液ガス分析を2ないし3時間おきに行うべきであったこと
児の呼吸障害の状態と原因を客観的に判断するためには、単にサチュレーシ
ョンを見るだけでは足りず、採血による血液ガス所見を検討することは不可欠
である。本件においては、原告Aの症状は上述のようにクベース収容及び酸素
投与にもかかわらず、回復するどころか次第に悪化しているのであるから、そ
の呼吸状態の判断のためには、血液ガス分析は必要不可欠であり、7月26日
の出生以降、小児科へ転科する以前の段階でも、仮に動脈血でなくとも、せめ
て2ないし3時間おき程度には行われているべきであった。
2被告病院での血液ガス分析の実施状況
被告病院においては、同月26日の出生以降、初めて動脈血での血液ガス分
析を行った同月29日午後7時13分までの間、同月27日は午後2時50分
に1回、同月28日になっても2回(午前8時30分と午後5時30分、同)
月29日にも上記まではほぼ7時間おき(午前零時15分、午前7時55分、
午後2時20分、午後6時10分)にしか同検査を行っていない。
このように、血液ガス分析の実施状況は極めて不十分であった。
3被告の主張に対する反論
原告Aは、生後24時間を経過しても多呼吸、陥没呼吸の軽快が認められず、
むしろ酸素化が次第に不安定になりつつあった。被告の主張する同月27日深
夜帯においてもSaOは不安定であったし、同月27日午前10時においても採2
血後にSaOは85%まで下がり、回復は遅く、91ないし90%まで上昇した2
ものの100%までは上がらず、多呼吸が目立ち、午前10時30分において
もSaOの低下が頻回に起こっている。原告Aの呼吸状態の異常は継続していた2
のであり、その呼吸状態は慎重に観察されるべきであった。
(被告の主張)
1被告病院での血液ガス分析の実施状況
原告Aの状態を踏まえ、同月27日午後2時50分、同月28日午前8時3
0分、午後5時30分、同月29日午前零時15分、午前7時55分、午後2
時20分、午後6時10分、午後7時13分、午後8時45分、午後9時54
分と血液ガス分析を行っている。
2被告病院での血液ガス分析の実施が十分であったこと
一般論としていえば、血液ガス分析に有用性が認められるものの、持続的な
測定をすることはできない。
通常、経皮的な酸素飽和度の値と、血液ガス分析を行った場合の酸素分圧の
値は、並行して変化することになるため、経皮的な酸素飽和度を経時的に計測
することにより、血液ガス分析を行う必要性は少なくなる。
また、血液ガス分析は侵襲を伴う検査であるところ、新生児に対して頻繁に
行うことは好ましくない。
他方、本件では、出生直後からクベースに収容した上で、非侵襲的なモニタ
リングである酸素飽和度及び心電図の経皮モニターを実施し、また、胸部レン
トゲン検査を経時的に行って厳重な観察を行っており、これらに加えて、1項
で述べた血液ガス分析も行っていたものである。
そして、同月27日深夜帯も「バイタルサインは安定しており、SaOモニ、2
ターも時々80台後半まで低下もみられるが5ないし10秒程度で回復してお
り90台後半から前半でキープ」していたものである。また、同月29日午後
7時13分の血液ガス分析結果としても、酸素飽和度は100%であったもの
である。
したがって、厳重なモニタリングを行い、実際、酸素飽和度の極端な低下な
どの所見がなかった以上、血液ガス分析が2ないし3時間おきでなければなら
ないということはいえない。被告病院担当医師らは呼吸状態を慎重に観察して
いる。
第4小児科へ転科させる義務を怠った過失
(原告らの主張)
17月26日から27日の深夜帯に小児科に転科させるべきであったこと
産科では呼吸障害に陥っている新生児に対してできることは、クベ−スに収
容し酸素を投与するくらいであり、それ以上の治療はできないのであるから
(実際に被告病院産科においてもそれ以上のことは行われていない、産科と)
しては、上記酸素投与等を行っても症状が回復しないときには直ちに新生児科
若しくは新生児科がなければ小児科に転科させ、人工呼吸管理を積極的に行わ
なければならない義務がある。
原告Aは、同月26日午後5時30分のクベ−ス収容、酸素投与にもかかわ
らず、多呼吸、陥没呼吸は解消せず、それどころか、同月26日から27日に
かけての深夜帯には、モニター上が、90%台後半から前半、時々80台SaO2
後半までダウンし、状況は悪化していったのであり、同月26日午後6時50
分撮影のレントゲン写真で肺の膨らみの悪いことが確認できたのであるから、
被告病院担当医師らはこの段階で原告Aを小児科へ転科させ、呼吸管理を根本
的に行う体制をとるべき義務があった。
27月27日午前10時から午前10時30分に小児科に転科させるべきであ
ったこと
同月27日午前10時にはが85%まで下がり、その後も回復が遅く不SaO2
安定で、多呼吸が目立つ、といった状況であり、午前10時30分の胸部レン
トゲンでは「両肺野に粒∼線状陰影増強」と認められ、同月26日午後6時5
0分撮影のレントゲン写真、同月27日午前10時30分撮影のレントゲン写
真、いずれも肺の膨らみが悪く、とくに同月27日午前10時30分のレント
ゲン写真は、磨りガラス状になっていて、肺の虚脱を示していたのであるから、
肺を膨らませて呼吸の改善を図るために積極的な呼吸管理を開始すべく、被告
病院担当医師らはどんなに遅くともこの段階では、原告Aを小児科に転科させ
るべき義務があった。
本件において、原告Aの小児科への転科は同月27日午後2時30分である
が、あまりにも遅すぎたというべきである。
3被告の主張に対する反論
(1)被告は「陥没呼吸は26日午後9時頃には消失している」と主張してい
るが、あくまでも「いったん消失」したにすぎないのであって、その後再び
発生していることは、上記記載からも明らかである。
前述のとおり、原告Aは、生後24時間を経過しても多呼吸、陥没呼吸の
軽快が認められず、むしろ酸素化が次第に不安定になりつつあった。同月2
6日午後6時30分にはSaO94ないし96%であったものが、同月27日2
深夜帯においては90%台後半ないし前半で、時々80%台後半までダウン
するという不安定な状況であった。
(2)同月27日午前10時においても採血後にSaO85%まで下がり、回復2
が遅く、91ないし90%まで上昇したものの100%までは上がらず、多
呼吸が目立ち、午前10時30分においてもSaOの低下が頻回に起こってい2
る。呼吸状態はさらに悪化していたのである。
こうした状況は、産科においては原告Aの症状に対して有効に対処できて
いないことを明らかに示している。さらに、同月26日午後6時50分撮影
のレントゲン写真、同月27日午前10時30分撮影のレントゲン写真、い
ずれも肺の膨らみが悪く、とくに同月27日午前10時30分のレントゲン
写真は、磨りガラス状になっていて、肺の虚脱を示していたのであるから、
肺を膨らませて呼吸の改善を図るべく、積極的な呼吸管理を開始することが
必要だったのであり、そのためには小児科に転科させることが不可欠であっ
た。
(3)被告は「速やかに対応したうえで、小児科転科に至っている」と主張す、
るが、レントゲン撮影から読影、判断まで2時間、判断から実際の転科まで
2時間というのは、大学病院といえども時間がかかりすぎであり、被告の状
況認識の甘さを示しているというべきである。
(被告の主張)
17月26日から27日の深夜帯に小児科に転科させる義務はないこと
まず、陥没呼吸は同月26日午後9時ころには消失している。
また、酸素飽和度も正確には、午後5時50分には88ないし89%であり、
酸素投与を開始したところ、午後6時30分には94ないし96%に上昇して
いる。
そして、深夜帯も90%台後半ないし前半で維持されていたものである。こ
の時間帯について、原告らは時々80%台後半までダウンしていたことを強調
するが、それも5ないし10秒ほどで回復する一時的な低下に過ぎず、無呼吸
もなかった。
したがって、深夜帯までの時点において特に児の状態は悪化しておらず、小
児科に転科すべき注意義務はない。
27月27日午前10時から午前10時30分に小児科に転科させる義務はな
いこと
同月27日午前10時以降、酸素飽和度の状態がやや悪くなり、午前10時
30分になっても改善しないため、すぐに午前10時30分の時点で、胸・腹
部のレントゲン写真を撮影することを決め、写真を読影した上で、総合的に方
針を検討することとしている。
なお、同日午前10時30分の時点で、レントゲン検査の実施という判断、
同検査の実施及びその読影とが同時にできるわけではない。そして、既にクベ
ースに収容された状態で、酸素投与の上、酸素飽和度・心電図モニターによる
継続的な監視を続けており、小児科に転科すれば、これらとは別個の特有な検
査や治療が可能になるというわけではなく、より早急に手続きをする理由がな
い。
したがって、原告ら指摘の時点で小児科に転科させるべき義務はない。
37月27日午後2時30分に小児科に転科させたこと及びその時点での転科
が適切であったこと
レントゲン写真を読影の上、呼吸状態なども含め、総合的に判断して、同日
午後零時30分に小児科転科の方針となり、午後2時30分、転科の準備が整
ったので、転科となっている。このように、速やかに対応した上で、小児科転
科に至っているのである。
しかも、転科する前にすでに同月27日午前中の時点で小児科医師に診療を
依頼しているのである。
そして、このような対応を取っている間も、クベースに収容された状態で、
酸素飽和度・心電図モニターによる継続的な監視を続けており、特に緊急で処
置を要するような状態には至っていない。
したがって、転科の時点は適切である。
第5被告病院が大学病院であることにより、第2ないし第4の注意義務に差異が
生じるか否か
(原告らの主張)
被告病院はいやしくも大学病院として、患者からは最高水準の医療を受けるこ
とができると期待される医療機関である。
原告Aは、被告病院の診療録によれば、出生時のアプガールスコア1分後8点、
5分後9点とされており、重篤な胎児仮死といった状態での出生ではなかった。
また、上述のとおり、多呼吸、陥没呼吸を見せていたが、血液ガス分析の数値を
見る限り、当初はある程度の換気・ガス交換ができていたのである。
それが、上述のように、出生後、多呼吸・陥没呼吸が継続し、症状も悪化傾向
であったにもかかわらず、すぐに血液ガス分析が行われなかったこと、小児科転
科が遅れたこと、入院当初の呼吸管理方法の選択が最良の選択とは考えられない
こと、被告病院担当医師らなりの人工呼吸管理についても開始が遅れたこと、そ
の管理内容もある時期までは杜撰でそれ以降は不十分であったこと、といった問
題の積み重ねの中で、本件のような重篤な結果を呈するに至るのである。
被告病院における本件医療行為は、大学病院として、患者から期待されている
最高水準の医療から見た場合、注意義務違反を免れないものである。
(被告の主張)
被告病院においては、大学病院として法的に求められる医療水準を充足してい
る。
第6因果関係
(原告らの主張)
1原告Aに低酸素脳症による脳性麻痺が生じたこと
本件では、CT所見に認められる脳萎縮など、そこに何らかの原因が存在し
たことは確かである。一般に、成熟児における脳性麻痺は、出生体重2500
g以上では出生人口1000人に対して0.7人程度と発生頻度は小さい。ま
た、脳性麻痺の原因についての各種の資料によれば、原因が不明であるケース
はわずかにすぎない。
本件では、原告Aは成熟児であり、かつ「先天性」その他の脳性麻痺原因の
存在は何も確認されておらず、存在するエピソードとしては、本件呼吸障害の
みである。
原告Aは出生直後アプガールスコア8点及び呼吸障害があったとはいえ一定
程度以上のガス交換機能を発揮していたが、その後、一定程度重度の呼吸障害
によりガス交換機能が大きく損なわれていたこと、そうした状況が長期間継続
したことが争いようのない事実であることからすれば、本件脳性麻痺は、7月
29日以降に特に顕著となる原告Aの呼吸障害による低酸素症を原因とするも
のと推定することは、十分合理性を持つものである。
2第2ないし第4の過失と原告Aの脳性麻痺との間に因果関係があること
被告病院において、呼吸管理がより早期かつ適切な内容で始められていれば、
原告Aに認められた多呼吸がより早期に改善されたことは確実であったと考え
られるのであり、原告Aの呼吸障害が早期に改善されたならば、その脳障害も
避け得た可能性は十分にあったというべきである。
低酸素状態が脳の発達に影響を与えるものであることは明らかであり、原告
Aの呼吸障害による低酸素状態はその脳性麻痺の原因となり得るエピソードで
本件脳性麻痺の原因については、他のある。こうした状態が現に存在した以上、
多くの脳性麻痺と同様に不明、あるいは先天性であるなどとして因果関係を否定さ
れるべきではない。
(被告の主張)
1原告Aの脳性麻痺の原因
脳性麻痺の原因がPPHNにあるとするならば、低酸素血症及び脳虚血によ
って、脳性麻痺が発症したということになる。
しかし、血液ガス分析結果一覧表にあるとおり、酸素飽和度(SaO)や酸素2
分圧(PO)の値からすると、低酸素血症が継続しているかのような所見は認2
められていない。酸素化や二酸化炭素の貯留はそれほど障害されていないこと
は原告ら自身が認めるところである。
また、脳虚血となるためには、低酸素血症の存在のみならず、急激な血圧低
下を示唆する所見の存在が重要であるが、急激な血圧低下、あるいは、それを
示唆するような所見は認められていない。
さらに、経過中、平成11年8月、平成12年3月と頭部CT検査を実施し
ているが、脳虚血のあったことを示唆する所見は認められていない。
したがって、脳性麻痺の原因を低酸素血症に求めることはできない。本件脳
性麻痺の原因については、他の多くの脳性麻痺と同様に不明であるというほか
ない。
2第2ないし第4の過失と原告Aの脳性麻痺との間に因果関係はないこと
本件脳性麻痺の原因が不明であるということ自体から、血液ガス分析の頻度、
呼吸管理の時期・内容、小児科転科との因果関係は否定される。
血液ガス分析の頻度を増やしたとしても、実際に行った血液ガス分析結果、
各種モニター、レントゲン撮影、血液検査では得られなかった情報が得られ、
治療方針が変更されるとは考えにくい。
原告らが問題とする7月29日午後6時10分までの血液ガス分析結果や経
皮的酸素飽和度の数値からしても、人工呼吸管理の適応となる数値にはなって
おらず、この間の回数を増やしたところで新たな情報が得られるとはいえない。
したがって、この点からも血液ガス分析結果との因果関係は否定される。
小児科転科についても、原告らの主張を前提としても、人工呼吸管理の問題
に集約されるはずである。
そして、人工呼吸器装着までの時点においても、著しい低酸素血症には陥っ
ていないことからして、仮に、より早期に人工呼吸器を装着したとしても、そ
の後の転帰が変わったとはいえない。この点からも因果関係は否定される。
第7損害
(原告らの主張)
1入通院付添費
43万7500円
2入院雑費
6万5800円
3通院交通費
9万0513円
4入通院慰謝料
140万円
5将来の付添費
9307万7920円
6逸失利益
4225万4338円
7器具・用具購入費
324万8937円
8後遺症慰謝料
4800万円
9弁護士費用
1885万円
10合計
2億0742万5008円
(被告の主張)
争う。
以上

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