弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人長砂鹿蔵の上告理由について。
 論旨は異議に対する決定及び訴願に対する裁決には必ずその理由を付すべきであ
るに拘わらず、本件決定及び裁決にはその理由の説示なく要式行為としての方式を
欠如するものであり当然無効というべく、従つてかかる決定及び裁決を経てその後
に行われた本件買収処分及び売渡処分も亦その違法性を承継し当然に無効であると
いうに帰着する。
 元来、異議及び訴願の制度は行政処分により権利を害せられたもののために認め
られた救済手段であると共に、かかる処分をなした行政庁に対しその処分の当否に
つき再考の機会を与えんとするものに外ならない。されば異議及び訴願について審
理を遂げその当否を判断した場合、その理由を説示すべきことは当然の事理として
推奨さるべきであろう。少くとも訴願の裁決については訴願法一四条においてその
理由を付すべきことを要請しているから、裁決にその理由を説示しないことは違法
といわれなければならない。しかし、行政行為はそれをなした行政庁の権限に属す
る処分としての外観的形態を具有する限り、仮りにその処分に関し違法の点があつ
たとしても、その違法が重大且つ明白である場合の外は、これを法律上当然無効と
なすべきではない(昭和二五年(オ)第二〇六号事件、同三一年七月一八日言渡大
法廷判決参照)。しかるに訴願の裁決に法律の要請する理由の説示を欠如する違法
があるとしても、ただその事だけではその裁決は形式的には要式行為としての方式
の一を欠き、実質的には如何なる理由でなされたかが不明であるに止まり、もとよ
り如何なる裁決がなされたかを明認し得ること勿論であり、訴願庁の裁決としての
外観的形態を具備しないものということはできない。そしてかかる裁決のあつた場
合においても当事者は法定の出訴期間に訴訟を提起し係争行政処分の取消を求め得
るのであるから、この違法は必ずしもここにいわゆる重大な違法に該当するもので
はない。この事は民事訴訟法においても判決にはその理由の説示を必須の要件とし
ているのであるが(民訴一九一条一項三号参照)、誤つてその説示を欠如した場合
にもかかる判決を当然無効とはせず単に判決破棄の事由としたに過ぎないこと(同
三九五条一項六号参照)に徴しても容易に了解することができるであろう。それ故
本件訴願の裁決は当然無効ではない。しかのみならず、所論違法性承継の理論が肯
定されるものとしても、すなわち、段階的に発展する一連の行為の結合により一の
法律効果が完成する場合に先行行為の違法性が後行行為に承継され、後行行為に対
する不服の理由として先行行為の違法を主張し得るものと仮定しても、それは所論
のような訴願裁決を経てその後に行われた本件買収処分及び売渡処分に対し法定の
期間内に訴訟を提起しその違法を主張してこれが取消を求め得ることを肯定せしめ
るに過ぎないのであつて、右両処分を法律上当然無効たらしめるものではない。け
だしこの場合においても、さきに本件訴願裁定を当然無効となし得ないことにつき
説示したところと全く同条の理由が存するからである。されば論旨は採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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