弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人繩稚登の上告理由第一点について。
 原判決およびその引用する第一審判決によれば、第一審判決添付物件目録(一)お
よび(二)記載の不動産(以下本件不動産と称する。)は、もと亡Dの所有に属した
が、同人からこれを訴外Eまたは同Fに贈与あるいは遺贈したような事実は全くな
く、右Dの死亡により上告人および訴外Gがこれを相続によつて取得し、さらに右
両名において右Dの相続人にあたらない前記EおよびFに贈与したものであり、従
つてその贈与が仮装あるいは名目的のものと認むべき余地はないというのであつて、
その認定判断に違法と目すべき点は存しない。
 ところで、譲渡所得に対する課税は、原判決引用の第一審判決の説示するように、
資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が
所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のも
のと解すべきであり、売買交換等によりその資産の移転が対価の受入を伴うときは、
右増加益は対価のうちに具体化されるので、これを課税の対象としてとらえたのが
旧所得税法(昭和二二年法律第二七号、以下同じ。)九条一項八号の規定である。
そして対価を伴わない資産の移転においても、その資産につきすでに生じている増
加益は、その移転当時の右資産の時価に照らして具体的に把握できるものであるか
ら、同じくこの移転の時期において右増加益を課税の対象とするのを相当と認め、
資産の贈与、遺贈のあつた場合においても、右資産の増加益は実現されたものとみ
て、これを前記譲渡所得と同様に取り扱うべきものとしたのが同法五条の二の規定
なのである。されば、右規定は決して所得のないところに課税所得の存在を擬制し
たものではなく、またいわゆる応能負担の原則を無視したものともいいがたい。の
みならず、このような課税は、所得資産を時価で売却してその代金を贈与した場合
などとの釣合いからするも、また無償や低額の対価による譲渡にかこつけて資産の
譲渡所得税を回避しようとする傾向を防止するうえからするも、課税の公平負担を
期するため妥当なものというべきであり、このような増加益課税については、納税
の資力を生じない場合に納税を強制するものとする非難もまたあたらない。
 本件において、上告人が訴外Eおよび同Fに本件不動産を贈与したのに対し旧所
得税法五条の二の規定を適用して上告人に課税したのは、右不動産の増加益の帰属
者に対する課税であつて、同法三条の二の趣旨に反するところはなく、租税の公平
負担の原則にたがうものでもないことは、前叙したところから明らかである。また
原審においては、上告人が右課税によつて生活に窮したとする主張立証もないので
ある。してみると、前記五条の二の規定自体あるいは右規定を上告人について適用
したのをもつて憲法二九条一項、二五条一項および一三条に違背するものとする所
論は、法律の定めるところによる納税を国民の義務とする憲法の条項を看過しなが
ら、違憲に名を藉りて単なる税法規の解釈適用ないしその租税政策上の当否を争う
ものにすぎず、論旨は理由がない。
 同第二点および第三点について。
 上告人の本件審査の請求においては、不動産の所有権移転の関係から上告人が譲
渡所得課税および資産再評価税課税を受けるいわれはないものとして争われたので
あるから、その請求を棄却するにつき決定通知書に附記すべき理由としては、論旨
引用のごとき説示があれば不備とはなしがたく、これと判断を同じくする原判決に
所論の違法は認められない。論旨の引用する当裁判所の裁判例も、また本件につい
ては適切でない。論旨は、なお行政不服審査法四一条一項の趣旨に違背するという
が、同法旅行前に再調査の請求または審査の請求のなされた本件の場合に、右規定
の適用あるものではない(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整理等に関する
法律附則三項参照)。論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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