弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するも
のであって,本件に適切でなく,必要的弁護制度についての原決定の解釈につき憲
法37条3項違反をいう点は,同制度が憲法の同条項に直接由来するものとは解さ
れないから,前提を欠き,その余の憲法の同条項違反の主張は,記録によれば,被
告人の弁護人選任権が侵害されたものとは認められないから,前提を欠き,刑訴法
433条の抗告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
1原決定及び記録によれば,本件の訴訟経過は次のとおりである。
(1)申立人は,平成20年11月4日,岐阜地方裁判所で殺人,死体遺棄,覚
せい剤取締法違反被告事件につき懲役11年に処せられ,同月7日控訴した。第1
審においては,殺人及び死体遺棄について共同正犯の成立が争われていたが,有罪
の認定がなされたものであり,控訴審に送付された記録は全部で2冊であった。
(2)同月13日,被告人により私選弁護人3名が選任され,同年12月10
日,控訴裁判所たる名古屋高等裁判所は,控訴趣意書差出最終日を平成21年1月
7日と,第1回公判期日を同月29日と,それぞれ指定したが,平成20年12月
24日,上記私選弁護人3名は辞任した。
(3)控訴裁判所は,同日,被告人に対し,控訴審における弁護人選任に関する
通知及び照会書を発送したところ,同月26日,新たに金岡繁裕弁護士を私選弁護
人とする同月19日付けの弁護人選任届とともに,金岡弁護人から,弁護人の控訴
趣意書差出最終日を平成21年4月末日まで延長するよう求める申請書が提出され
た。
(4)控訴裁判所は,同年1月7日,弁護人の控訴趣意書差出最終日を同年3月
23日まで延長し,同年1月8日,金岡弁護人からの第1回公判期日の変更請求を
受けて,同期日を同年5月14日に変更した。
(5)同年3月23日,金岡弁護人から,証拠資料の収集に時間を要すること及
び前弁護人らが約2か月の書面作成期間を得ていることとの均衡を理由に,控訴趣
意書差出最終日を同年4月27日まで延長するよう求める申請書が提出され,控訴
裁判所は,その日のうちに,同最終日を同年3月30日まで延長した。
(6)同月24日,金岡弁護人から,上記理由に加え,同年3月末日に所属して
いる事務所を移籍することになっておりその引っ越し作業があることなどを理由と
して,控訴趣意書差出最終日を同年4月中旬以降まで延長するよう求める申請書が
提出されたが,控訴裁判所は,その日のうちに,同申請を不許可とした。
(7)同月26日,金岡弁護人は,控訴趣意書差出最終日が延長されないのであ
れば責任をもって控訴趣意書を完成させることができず,被告人の防御を全うさせ
ることができないとして,控訴裁判所に対し,控訴趣意書を提出することなく,辞
任届を提出した。
(8)控訴趣意書差出最終日の翌日である同月31日,原々審裁判所は,控訴趣
意書の提出がないとして,刑訴法386条1項に基づき決定により控訴を棄却し
た。
(9)同年4月6日,金岡弁護士が,弁護人選任届を提出するとともに,上記控
訴棄却決定に対する異議を申し立てたが,同月17日,異議申立ては棄却された。
2以上の事実関係の下では,私選弁護人である金岡弁護人が控訴趣意書を提出
しないまま辞任したため,被告人に弁護人が付いていない状態であったとしても,
控訴趣意書差出最終日が徒過したことを理由に申立人の控訴を棄却した名古屋高等
裁判所の前記決定及びこれを維持した原決定は,相当なものとしてこれを是認する
ことができる。
よって,刑訴法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文
のとおり決定する。
(裁判長裁判官堀籠幸男裁判官藤田宙靖裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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