弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役18年に処する。
未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
押収してある簡易ライター1個(平成15年押第240号符号1)を没収する。
理由
(犯罪事実)
 被告人は,
第1 平成15年3月10日午後9時20分ころ,愛知県a市b町c丁目d番地e所在
のA(当時54歳)方において,殺意をもって,同女の頸部をストッキング及び電
気コードなどで締め付け,よって,そのころ同所において,同女を頸部圧迫により
窒息させて殺害し,
第2 現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない,Bらの所有となった木造
瓦葺2階建て家屋(登記簿上の床面積合計198.32平方メートル)を上記のと
おり殺害したAの死体とともに焼損して犯跡を隠滅しようと企て,上記日時ころ,
同家屋の脱衣場において,同女の死体及びその周囲の床に灯油を撒布した上,死体
の着衣に持っていた簡易ライター(平成15年押第240号符号1)で点火して火
を放ち,その頸部及び背部等を焼損して同死体を損壊したが,被告人が放火後脱衣
場の引き戸を閉めたことから脱衣場内が酸素欠乏状態となって自然鎮火したため,
脱衣場の床面を一部燻焼したにとどまり,家屋焼損の目的を遂げず,
第3 上記日時ころ,A方1階北側洋室及び駐車場において,同女が所有していた
指輪等44点及び普通乗用自動車1台(時価合計約152万3000円相当)を窃
取した。
(証拠)
全部の事実について
1 第1回及び第3回公判調書中の被告人供述部分,検察官調書(乙12ないし1
6),警察官調書(乙5ないし11)
2 Cの検察官調書(甲88),警察官調書(甲90,ただし不同意部分を除
く。)
3 D(甲89)の検察官調書
4 Eの検察官調書(甲103,ただし不同意部分を除く。),警察官調書(甲1
02,104)
5 F(甲65),G(甲70),H(甲71),I(甲74),J(甲79),
K(甲80),L(甲82),M(甲84),N(甲85),O(甲91),P
(甲92),Q(甲93),R(甲118),S(甲138)の警察官調書
6 実況見分調書(甲19,64,76,81,83,114ないし116),捜
査報告書(甲53,69,72,73,87),検証調書(甲68),写真撮影報
告書(甲78)
第1,第2の事実全部について
1 Tの検察官調書(甲42)
2 U(甲1),V(甲2)の警察官調書
3 写真撮影報告書(甲3,4,6),実況見分調書(甲5,11,18,21,
24),鑑定嘱託書謄本(甲25,26,29),検視調書(甲40),捜査報告
書(甲41)
4 鑑定書(甲27,28,30)
第1の事実について
1 戸籍全部事項証明書等(甲43)
第2の事実について
1 実況見分調書(甲14,33,39),捜査報告書(甲31,32,34,3
5),写真撮影報告書(甲38)
2 全部事項証明書(甲141)
3 簡易ライター1個(平成15年押第240号符号1)
第3の事実について
1 U(甲45,49),B(甲67)の警察官調書
2 被害届(甲44,50)
3 実況見分調書(甲46),写真撮影報告書(甲47),捜査報告書(甲48,
66)
(事実認定の補足説明)
1 被告人は,公判廷において,判示第3の事実中指輪等44点(以下「指輪等」
という。)を窃取した点については,泥棒の犯行に見せかけるだけのために持ち出
したものである旨述べ,これを受けて弁護人は,被告人には,指輪等を窃取したと
される事実については,被告人に不法領得の意思が認められず,無罪であると主張
する。そこで,判示のとおり認定した理由につき,以下補足して説明をする。
2 関係各証拠によれば,以下の事実が容易に認められる。
 (1) 被告人は,判示第1のとおり,A(以下「被害者」という。)を殺害した
後,同女及び同女宅を燃やして罪証を隠滅することを企て,同女の遺体及び浴室内
に灯油を撒布し,持っていた簡易ライターで遺体の着衣に火を放ち,判示第2の犯
行に及んだ。
 (2) 一方で被告人は,予め用意していた手袋を装着した上で,被害者方の洋室に
ある宝石箱より指輪等を取り出して,被害者方にあった青色のトートバッグの中に
入れ,同バッグを持ち出して,被害者所有の普通乗用自動車を運転して逃走した。
被告人は,名古屋市内で被害者の車を乗り捨ててからは,タクシーに乗車して浜名
湖サービスエリアに行くよう指示し,タクシーの車中で被告人の実の娘であるCに
電話で連絡し,同所に迎えに来るよう指示したが,結局,静岡県f市所在のgパーキ
ングエリアで落ち合うこととなった。なお,被告人は,同パーキングエリアに向か
う途中,被害者方で使用した灰皿や,被害者宅に向かう際にかぶっていた帽子を車
中から投げ捨てた。
 (3) 被告人は,gパーキングエリアにおいてCと合流すると,同女に指輪等が入
った青色トートバッグを渡し,中を見ないで預かるように指示した。一方で,被告
人は,判示第2の犯行の際に灯油がかかった着衣等を袋にいれてCに渡し,これを
燃やすように指示した。
 (4) 被告人の指示を受け,Cは,青色トートバッグを預かったが,指輪等が入っ
ていることを知って被告人が犯罪を犯したのではないかと心配になり,同バッグを
預かりたくないと被告人に告げた。そこで,被告人は,平成15年3月16日にC
をして被告人の友人であるQに送らせ,同女に預かるように依頼した。
3 被告人は,捜査段階において,指輪等につき,一貫してこれを「盗んだ」と述
べると共に,「事件のほとぼりが冷めたころ,Qから引き取り,いいものがあれば
自分の物とし,それ以外は処分するつもりであった」とも供述しており,同供述
は,任意性に疑いを差し挟むべき事情は何らうかがえず,被告人の外形的な行為と
符合して合理的であり,信用することができる。
4 前記2の認定事実,とりわけ,被告人は,罪証を隠滅するために,家屋に火を
放つ一方で,指輪等を持ち出していること,犯行時着ていた着衣等については,一
部は自ら処分し,その他もCに命じて処分させているのに,指輪等については,捨
てることなくCに保管を指示し,同女が保管できないと告げるや友人に保管を依頼
していることに加え,信用できる捜査段階における被告人の供述をも併せ考えれ
ば,被告人は,指輪等をもっぱら毀棄隠匿する意思で持ち出したとは到底認められ
ず,不法領得の意思を有していたことが疑いなく認められる。
弁護人は,被告人は被害者を強く憎んでいたのであるから,被害者の所有物を利用
処分する意思はないなどと縷々主張するが,いずれも独自の見解を述べるものであ
って,採用することはできない。
(法令の適用)
罰 条
 第1の行為            刑法199条
 第2の行為
非現住建造物等放火未遂の点   刑法112条,109条1項
死体損壊の点          刑法190条
 第3の行為            刑法235条
科刑上一罪の処理
 第2               刑法54条1項前段,10条(重い非現住
                  建造物等放火未遂罪の刑で処断)
刑種の選択
 第1の罪             有期懲役刑
併合罪の処理            刑法45条前段,47条本文,10条(最
                  も重い第1の罪の刑に同法14条の制限内
                  で法定の加重)
未決勾留日数の算入         刑法21条
没 収               刑法19条1項2号,2項本文(ライター
                  1個は第2の犯行の用に供した物)
訴訟費用の不負担          刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
第1 本件は,判示のとおりの,殺人,非現住建造物等放火,死体損壊及び窃盗の
 各事案である。
第2 本件各犯行に至る経緯等は以下のとおりである。
1 被告人は,ホステスとして稼働していた平成6年,稼働先でEと出会って婚姻
し,同人の姉である被害者を知るに至った。被害者は高校教師として稼働し,夫と
死別した後,本件当時は,単身で自宅に居住していた。被告人は,Eとの結婚を賛
成してくれた被害者に対し,当初は良い印象を抱いていたが,Eの仕事の関係で米
国で居住する際,預けていた荷物の一部を,同女が使ったことなどをきっかけとし
て同女に対し,嫌悪の情を抱くようになり,その気持ちは,その後の交際の中で,
些細な事柄により増幅されていき,表面上は波風なく交際を続けていたが,本件当
時においては,被告人は被害者に対して憎しみといった感情までも抱くようになっ
ていた。
 ところで,被告人は,ホステスとして稼働していたころより,派手な生活を好
み,高価な貴金属等を購入するなどの浪費を繰り返し,Eと婚姻して専業主婦とな
った後もかかる浪費癖が改まることはなかった。平成10年ころには,被告人は,
婚姻時に有していた預貯金を遊興費等で費消してしまったが,その後も浪費を続け
た。被告人の浪費癖を心配したEは,平成14年12月ころより自らが家計を扱う
ようになったが,被告人がクレジットカードを使っての買物を繰り返したため,翌
15年2月ころからは,クレジットカードの利用明細書を見せるように被告人に指
示し,自由にカードを使わせないようにした。そこで,被告人は,夫に知られずに
自由に使うことのできる金銭が欲しいと考え,また,娘Cや孫達の住環境がよくな
いため,同女らがマ
ンションに転居するための費用が欲しいとも考えていた。
2 同年3月9日,被告人は,愛知県a市所在の被害者の実母宅を訪れた際,被害者
から,同女が,夫の遺産等を使って娘のために1億円のマンションを購入すること
を聞き及び,同女らに対して強い嫉妬を感じた。一方で,その際に被害者が,Cの
転居の資金のことで相談に乗るかのような言動をしたので,被害者から金銭を借り
ることができるのではないか,1億円のマンションを購入できる被害者であれば,
1000万円位は貸してくれても良いのではないかとも考えた。翌日,東京の自宅
に戻った被告人は,被害者からお金を借りようと決心するとともに,普段から憎し
みを持っていた被害者が借金の申込みを断るようであれば許せない,借金を申し込
んだことが夫に伝わったら,離婚といったことにもなりかねないなどと考え,断ら
れたら被害者を殺
そうとの考えに及んだ。そこで,殺害のために包丁を用意するとともに,被害者宅
に借金の申込みに行ったことをEらに知られないようにするために,変装用の帽子
等を準備し,さらには知人に電話をかけて,一緒にいたことにしてもらうなどの口
裏合わせをした上で,被害者宅に向かい,同日午後6時ころ被害者宅にあがり込ん
で同女の帰りを待った。
3 被害者は同日午後6時30分ころ帰宅したが,被告人は,しばらくは借金の申
込みを切り出すことができず,同日午後9時10分ころになって,被害者に対し
て,1000万円貸して欲しいと土下座をして頼んだが,被害者は絶対貸せないな
どと言って断った。被告人は,土下座までしたにもかかわらず,断られたことに腹
を立て,被害者が許せないと考え,さらには,このままでは,被告人が借金の申込
みに来たことがEに知られるとも考え,被害者を殺すしかないと決心するに至り,
判示第1の犯行に及んで被害者を殺害した。
4 被害者を殺害した被告人は,罪証を隠滅するために,被害者宅に放火すること
を思い至り,同女宅にあったストーブのカートリッジを取り出して,倒れている被
害者の死体の周辺に灯油を撒布して,判示第2の犯行に及んだ。さらに,前記のと
おり,指輪等を窃取するとともに,逃走するために被害者所有の普通乗用自動車に
乗り込んで,判示第3の犯行に及んだ。
5 被害者宅を出た被告人は,gパーキングエリアにCを呼び出し,同女に灯油がか
かった被告人の着衣等を処分させるとともに,Cに被告人から電話がかかってきた
ことを隠すため,同女の携帯電話の履歴を消去させ,お酒を飲んでいたために帰り
が遅くなったとEに言い訳するため,飲酒して自宅に戻った。さらに,葬儀のため
に,被害者宅を訪れた被告人は,自分が素手で触った湯飲みが置かれているのを見
つけ,Eらが見ている前で,それにわざと触れ,犯行後に指紋がついたものと印象
づけようとした。
第3 以上を踏まえ,量刑にあたって特に考慮した事情を挙げる。
1 まず,殺人についてみるに,被告人は,被害者から金員を借りようとして,頼
んだところ断られたことに憤激するとともに,借金の申込みをしたことをEに知ら
れることをおそれ,かねてより被害者を憎んでいたこととも相俟って本件犯行に及
んだというのである。しかし,本件犯行の一因と考えられる被告人の被害者に対す
る嫌悪の情は,被告人が一方的に深めていったものと認められるのであって,殺人
という重大犯罪を正当化する余地は全くない。この点も含めて,1000万円の借
金の申し込みを断った被害者に特段責められるべき点があるとは認めることができ
ない。本件犯行は,極めて自己中心的かつ身勝手な考えの下で敢行されたものとい
うほかなく,犯行動機には何ら酌むべき点がない。
  また,被告人は,ストッキングなどを用いて被害者の頸部を絞め,同女の抵抗
にあうや,さらに,近くにあった電気コードを首に巻き付けて力任せに引っ張り,
同女を窒息死させたものであり,犯行態様は,強固な殺意に基づいた残虐なもので
ある。
  さらに,被告人は,被害者を殺害することもあると考えて,予め包丁を用意す
るとともに知人に電話をかけるなどしてアリバイ工作をした上で被害者宅に向か
い,被害者殺害後は,放火行為に及ぶなど,執拗なまでに罪証隠滅行為を行ってお
り,犯行前後の情状も極めて悪い。
  次に,非現住建造物等放火未遂及び死体損壊の点についてみるに,動機に酌む
べき点はないし,被告人は,隣家が立ち並ぶ本件犯行場所において,被害者の遺体
及びその周囲に灯油を撒いた上で火を放ち,逃走したものであり,かかる犯行から
は,他人の生命身体に対する配慮や,死者に対する畏敬の念など全くうかがわれな
い。
  さらに,窃盗についてみるに,被告人は,利得のため,あるいは逃走のために
指輪等の貴金属等や自動車を窃取したのであり,被害金額も少なくなく,犯情は悪
い。
  被害者は,高校教師として,また,3人の子供の母親として真摯に人生を送っ
てきたものである。思いもよらず突然,義理の妹である被告人によって生命を絶た
れた被害者の恐怖,苦痛,無念の情は筆舌に尽くしがたい。また,顔の一部等が焼
けただれた被害者の遺体を目の当たりにさせられた実母や,父の病死に続いて母親
をも失った子らをはじめとする被害者の遺族の悲嘆は大きく深い。生じた結果は取
り返しがつかないものであり,遺族が厳しい処罰感情を有し,被告人を無期懲役に
処することを望んでいることも無理からぬものがある。
  さらには,高校の女性教諭が義理の妹によって殺害されたという本件は,テレ
ビなどによって大きく報道され,視聴者に衝撃を与えたものであり,かかる社会に
与えた影響も量刑上無視することができない。
  以上を併せ考えれば,被告人の刑事責任は,極めて重大である。
2 しかしながら,非現住建造物等放火の点については,偶然とはいえ建物が焼損
する前に自然鎮火し,未遂に止まっていること,被告人は,殺人及び非現住建造物
等放火未遂の罪については,事実を認め,窃盗についても,外形的な行為自体につ
いては認めていること,捜査段階においては自己の行為を正当化するとも受け取れ
る言動をしていたが,現在は反省の態度を示していること,被害者の遺族に対して
270万円余りの被害弁償がなされたこと,被告人の不遇な生育歴を公判廷におい
て訴える母親や,本件犯行の原因が自分にもある旨の手紙を作成する被告人の実の
娘等が,被告人の社会復帰を待ち望んでいること,前科前歴がないことなど被告人
にとって酌むべき事情も認められる。
3 そこで,それらの事情を総合考慮して,主文掲記の刑を量定した。
(求刑・懲役20年,簡易ライター没収)
平成15年12月24日
名古屋地方裁判所刑事第4部
裁判長裁判官   沼   里   豊   滋
   裁判官   鈴   木   芳   胤
   裁判官   安   達       拓

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