弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 申立て
1 原告
 原告が平成8年1月19日にした特定求職者雇用開発助成金受給資格決定申請及
び特定求職者雇用開発助成金支給申請について,被告が同年6月5日にした同申請
書を受理せず返戻した処分を取り消す。
2 被告
(1) 本案前
 主文第1項と同旨
(2) 本案
 原告の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は,特定求職者雇用開発助成金受給資格決定申請書(以下「決定申請書」
という。)及び同助成金支給申請書(以下「支給申請書」という。)を被告に対し
て提出した原告が,これらの申請書を受理せず返却した被告の措置は違法であると
主張して,被告に対し,その取消しを求めている事案である。
2 争いのない事実等
(1) 原告は,運送等を業とする会社である。
(2) 原告は,平成7年6月12日,特定求職者雇用開発助成金(以下「雇用助
成金」という。)の対象者であるろうあ者のAを雇用したと主張して,平成8年1
月19日付けで,被告に対し,郵送の方法により,Aに係る決定申請書及び支給申
請書を提出した。
(3) 被告は,原告から出勤簿・賃金台帳の原本の提出又は提示がなかったこと
から,同年6月5日付けで,原告に対し,上記各申請書を受理せず返却した(以
下,この措置を「本件返却措置」という。)。
(4) 原告は,平成8年6月28日,千葉県知事に対し,本件返却措置につき,
審査請求をした。
(5) 千葉県知事は,平成11年7月7日,本件返却措置に違法不当な点はない
として,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(以上の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によっ
て認める。)
3 争点
(1) 本案前
 本件返却措置は抗告訴訟の対象である行政庁の「処分」に該当するか。
(2) 本案
 本件返却措置は適法といえるか。
4 本案前の主張
(1) 被告の主張
 本件返却措置は,「申請に対する拒否処分」には当たらない。すなわち,雇用保
険法(平成12年法律第59号による改正前のもの。以下「法」という。)には,
雇用助成金の支給制度について何らの規定も置かれておらず,雇用助成金の支給な
いし不支給に係る行政庁の措置に処分性を認める趣旨の規定は全く存しない。ま
た,法は,労働省令(旧労働省令。以下,当時の省名に従って表示する。)に「必
要な事業」を定める旨規定してはいるが,それは,法所定の事業以外の雇用安定事
業の種類及び雇用安定事業の実施に関する基準を定めることとしているにすぎない
のであって,雇用安定事業として一定の事業を行うことを前提としてその具体的内
容や手続等を省令に委任しているわけではないから,法と省令(施行規則)が一体
となって雇用助成金の支給ないし不支給に係る行政庁の措置に処分性を付与してい
るものとみる余地もない。
 したがって,本件においては,その申請の対象である雇用助成金の支給ないし不
支給に係る行政庁の措置に処分性が認められない以上,本件返却措置に処分性が認
められる余地はないから,その取消しを求める本件訴えは不適法である。
(2) 原告の主張
 今日の福祉国家行政においては,抗告訴訟の権利利益救済機能を高め,非権力的
行政活動に基づく国民の権利利益も抗告訴訟によって救済する必要があるから,抗
告訴訟の対象となる「処分」には,法律又は条例に基づかなくても,直接国民の権
利利益を侵害する行為を含めるべきである。
 雇用助成金の支給は,施行規則及び通達に基づくものであっても,雇用保険法6
2条の規定を具体化したものであり,被告の優越的地位に基づいて一方的にされる
公権的判断であって,その判断によって国民の権利利益に直接影響を与えるから,
雇用助成金の支給ないし不支給については抗告訴訟の対象となり,したがって,本
件申請の不受理も抗告訴訟の対象となる。
5 本案の主張(原告一本件返却措置についての違法事由)
 施行規則110条1項3号において,雇用助成金の支給を受ける事業主の要件と
して,「当該事業所の労働者の離職状況及び第1号の雇入れに係る者に対する賃金
の支払の状況を明らかにする書類を整備している事業主であること」が掲げられて
いる。被告は,この確認のために,Aにかかる出勤簿及び賃金台帳の原本の提出を
求めた。
 しかし,施行規則には,事業者の要件が記載されているだけで,書類を整備して
いるか否かの確認をどのようにするかの規定は存しない。被告は,一定の要件を備
えた事業主でなければ,雇用助成金を支給してはならないから,その要件を具備し
ているかどうかを確認することは被告の義務である。
 被告は,書類具備確認の簡便な方法として,事業主から出勤簿,賃金台帳の原本
を提出させているものと考えられるが,コピー技術が発達している今日,原本を提

させる必要はない。現に,自動車損害賠償保障法施行規則1条の2第1号では,自
動車損害賠償責任保険証書を複写する方法が規定されている。また,原本を提出す
るには,その原本を被告に持参しなければならないため,事業主に過分の時間と費
用を使わせることになるが,このことは,福祉の観点から雇用助成金を支給するこ
とを使命とする施行規則の予想していない事態である。
 以上のとおり,書類の具備を確認するための簡便な方法として,出勤簿や賃金台
帳を提出させるにしても,事業主に原本を提出させる必要はなく,複写の正確性に
かんがみ,その写しの提出で足りるものというべきである。
 したがって,本件返却措置は違法であり,同措置は取り消されるべきである。
第3 当裁判所の判断(本案前の争点について)
1 行政事件訴訟法3条2項において処分取消訴訟の対象として規定されている
「行政庁の処分」とは,行政庁が,法の認めた優越的地位に基づき,公権力の行使
として行う行為であって,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はそ
の範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される。
 ところで本件のような非権力的な給付行政の分野における補助金や助成金等の支
給関係は,支給申請の申込みに対する行政庁の承諾により成立する契約的関係であ
るのが原則であるから,その場合の行政庁の行為は,公権力の行使として国民のの
権利義務を形成しその範囲を確定するものとはいえないので,取消訴訟の対象とな
る処分には該当しないというべきである。
 もっとも,このような非権力的な給付行政の分野においても,一定の者に補助金
等を給付する要件を定めるとともに,支給申請及びこれに対する支給・不支給決定
を経ることにより行政庁に申請者の受給権の存否を判断させることとした場合な
ど,補助金等の受給資格の有無についての決定及び支給・不支給決定に法令が特に
処分性を与えたものと認められる場合には,これらの決定は,取消訴訟の対象とな
る処分に該当することになると解される。
 そして,この法令には,形式的意味の法律のみならず条例等法律に準ずるものが
含まれるが,行政庁が自らの内部規則として制定した規則については,これが補助
金等の受給資格の有無についての決定及び支給ないし不支給に係る措置に処分性を
認めることを前提とした法律ないし条例等の委任を受け,その法律ないし条例等と
一体として処
分性を特に付与していると認められない限り,前記法令に含まれないと解するのが
相当である。
2 そこで,本件の雇用助成金についての関係法規を検討する。
(1) 法62条1項によれば,雇用安定事業の一環として,高年齢者の雇用の安
定を図るために,事業者に対して必要な助成及び援助を行うこと(2号)及び障害
者その他就職が特に困難な者の雇入れの促進その他被保険者等の雇用の安定を図る
ために必要な事業であって,労働省令で定めるものを行うこと(4号)ができる旨
規定され,同条2項によれば,この事業の実施に関して必要な基準は,労働省令で
定める旨規定されている。
(2) これを受けて,労働省令である雇用保険法施行規則(以下「施行規則」と
いう。)109条においては,法62条1項2号及び4号の事業として雇用助成金
を支給する旨規定され,さらに,施行規則110条によれば,雇用助成金の受給資
格(1項)並びに給付金額(2項,3項)について,それぞれ概括的な要件が規定
されている。
(3) そして,証拠(乙1,2)によれば,昭和56年6月8日付け職発第32
0号・訓発第124号各都道府県知事あて労働省職業安定局長・同省職業訓練局長
通達(以下「本件通達」という。)により,特定求職者雇用開発助成金支給要領が
定められ,この支給要領において,雇用助成金の具体的な受給資格,支給金額,支
給手続等が規定されており,雇用助成金の支給を受けようとする事業主は,雇用助
成金の支給の対象となる労働者に係る起算日から起算して1箇月以内に,決定申請
書及び添付書類を当該事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなけ
ればならず,また,雇用助成金の受給資格の決定を受けた者に係る支給対象期分の
雇用助成金について,当該支給対象期の末日の翌日から起算して1箇月以内に支給
申請書に当該対象労働者に係る特定求職者雇用開発助成金受給資格決定通知書を添
えて,管轄安定所の長に提出しなければならないものとされており,本件返却措置
がされた平成8年6月当時は,平成6年2月9日職発第57号各都道府県知事あて
労働省職業安定局長通達によって一部改正された後の支給要領に基づく運用がされ
ていたことが認められる。
3 以上のとおり,法においては,高年齢者等就職が特に困難な者の雇用の安定を
図るために「必要な助成及び援助を行うこと」ができる旨あるいは「労働省令で定
めるものを行うこと」
ができる旨が規定されているだけであって,その「助成及び援助」あるいは「労働
省令で定めるもの」の具体的内容については何ら規定されておらず,施行規則にお
いて,はじめて,雇用助成金の制度が規定されるとともに,雇用助成金を受給する
ことのできる事業主の受給資格及び給付額について概括的に規定され,さらに,具
体的な支給要件,支給手続,支給金額等は,本件通達において定められている。
 したがって,法が,一定の者に雇用助成金を給付する要件を定めるとともに,支
給申請及びこれに対する支給・不支給決定という手続により,行政庁に申請者の受
給権の存否を判断させる仕組みをとっていないことは明らかであり,雇用助成金の
支給制度は,行政庁で内部的に雇用安定事業の内容を定めた施行規則及び施行規則
の規定を受けて雇用助成金の支給に当たって適正な事務処理がされるよう手続の細
則を示達した本件通達により創設的に規定されたものと解するほかはない。そし
て,このような規則及び通達によって,雇用助成金の受給資格の有無についての決
定及び支給・不支給決定に処分性が付与されるものでないことは,前記1において
説示したとおりである。
 以上によれば,雇用助成金の申請に対してされる雇用助成金の受給資格の有無に
ついての決定及び支給・不支給決定は抗告訴訟の対象たる「行政庁の処分」には該
当しないから,本件返却措置は抗告訴訟の対象にはなり得ないというべきである。
第4 結論
 よって,本件訴えは不適法であるから,これを却下することとし,訴訟費用の負
担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決す
る。
千葉地方裁判所民事第三部
裁判長裁判官 園部秀穂
裁判官 今泉秀和
裁判官 吉川昌寛は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官 園部秀穂

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