弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     控訴人は、末尾添附の別紙被控訴人欄記載の各被控訴人に対し、各第三
欄記載の金額、並びに、第一欄記載の金額に対する昭和二十三年十一月十四日以降
及び第二欄記載の金額に対する昭和二十七年十二月十日以降、それぞれ完済にいた
るまで、年五分に相当する金員を支払え。
     被控訴人らのその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共全部控訴人の負担とする。
     この判決は仮に執行することができる。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は
第一、二審共被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、
控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張、並びに証拠の提出、認否、援用は、次に特記するほ
か、いずれも原判決の事実欄に記載するところと同一であるので、ここにこれを引
用する。但し原判決には次のような違算、書損、その他これに類する明白な誤謬が
あるので、職権をもつてこれを更正する。
 (一) 原判決三枚目裏三行目及び同七行目に、被告並びに脱退被告の代表者代
表取締役として、「A1」とあるは、「A2」の誤記である。
 (二) 原判決四枚目表一行目に、「B1」とあるは、「B2」の誤記である。
 (三) 原判決主文第一項によれば、被告に対し、原告B2に対して金十四万三
千七百八十四円七十銭並びにこれに対する昭和二十三年十一月十四日以降完済にい
たるまで年五分の割合による金員の支払を命じ、事実の摘示によれば、原告訴訟代
理人は主文と同旨の判決を求めた旨記載されているが、右「金十四万三千七百八十
四円七十銭」とあるは「金十四万三千七百八十九円七十銭」の誤記であることは、
原判決の理由の記載並びに記録編綴の訴状、「請求の趣旨拡張の申立」と題する書
面及び昭和二十七年十二月九日の原審口頭弁論調書により明らかである。
 (四) 原判決添附の別紙損害額一覧表中、(八)原告E4分、(5)「十七万
七百八十八円五十銭」とあるは、「十七万七百八十八円」の誤記であり、同(一
〇)原告C分、(2)「四万九千九百二円」とあるは「三万九千九百二十円」の誤
記であり、同(一三)原告D分、(2)「九千二百十五円」とあるは「一万三千二
百十五円」の、「合計金三万八百十五円」とあるは「合計金三万四千八百十五円」
の、各誤記もしくは違算である。
 このことは、訴状並びに被控訴人ら訴訟代理人が損害額立証のため提出した書証
の記載により明らかである。
 (五) 原告ら訴訟代理人の援用した証拠中、「原告E1、同F1、同G1の各
本人尋問の結果」は、「証人E1、同F1、同G1の各証言」の誤りである。(但
しE1、G1は右証拠調の後受継により原告となつた。)
 第一 被控訴人らの主張
 (一) 本件発火の原因は、東北配電株式会社配電線路時水支線第三号電柱と第
四号電柱との間の高圧線が被控訴人B2方裏手西北方にある杉立木(原審検証調書
添附現場見取図記載A及びBの立木)と接触発火し、その火花が同被控訴人の居宅
の萱葺屋根に飛火して延焼したことに基く。
 (二) 延焼の順序は、(1)被控訴人B2方、(2)同B3方、(3)同E2
方、(4)亡E3、亡F2、被控訴人E4、同E5、同H、同C方、(以上同時延
焼)(5)同E6、同D方、(以上同時延焼)(6)同B4、同B5、亡G2方、
(以上同時延焼)(7)被控訴人E7方の順である。
 (三) 本件火災当時における現場の風向は、北または北西の強風であつて、午
後三時頃より南東の強風に変化した。
 (四) 本件損害賠償の請求は、民法第七百十五条及び第七百十七条に基きなす
ものである。すなわち、東北配電株式会社は、その使用人である同会社a電業所長
I及び同電業所工務係責任者J1らが、同会社の業務を執行するに当り、過失によ
り本件配電線路の修理を等閑に付したため、本件火災を惹起するにいたつたのであ
るから、民法第七百十五条により、これによる損害を賠償する責に任ずるばかりで
なく、その占有かつ所有にかかる配電線路の保存上の瑕疵により本件損害を生ぜし
めたものであるから、民法第七百十七条による賠償責件をおうべきは当然である。
 (五) 東北配電株式会社は、昭和二十六年五月一日解散し、控訴会社は、同会
社がその時において有していた権利義務の一切(但し同会社が特別の意思表示をな
したものを除く。)を承継し、本件損害賠償債務をも承継した。原判決摘示の被控
訴人らの請求原因事実中、被告会社とあるはすべて控訴会社の前主東北配電株式会
社の誤りであるから、右のとおり訂正する。
 (六) E3は昭和二十五年八月十三日死亡し、その妻である被控訴人E8、そ
の子である被控訴人E1、同K、同Lにおいてその遺産相続をなし、またF2は昭
和二十四年一月二十五日死亡し、その妻である被控訴人F2、その子である被控訴
人F3においてその遺産相続をなし、またG2は昭和二十七年七月二十一日死亡
し、その子である被控訴人G1、同G3においてその遺産相続をなし、よつてそれ
ぞれその前主の有していた本件損害賠償債権をその相続分に応じて承継取得した。
 (七) 本件火災については「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用はない。仮に適
用があるとしても、失火著たる東北配電株式会社に重大なる過失かあつた。
 (八) 被控訴人(その前主を含む)らか当初脱退被告東北配電株式会社に対し
別紙被控訴人ら請求金額表の当初請求分欄記載の金額のみを訴求し、控訴会社の訴
訟引受後昭和二十七年十二月九日請求を拡張して同拡張請求分欄記載の金額の支払
を併せ求め、請求金額の合計は同合計欄記載の金額となつたことは事実であるが、
被控訴人らは当初から右拡張部分を含めた全部の損害賠償債権(すなわち右合計欄
記載の金額)の一部てあることを訴状に明記して訴を提起したのであるから、右訴
提起による時効中断の効力は全部に及び、これがため右拡張部分に対する時効が完
成するいわれはない。
 第二 控訴人の主張
 (一) 本件火災の原因が被控訴人ら主張のとおりであることは否認する。もつ
とも本件火災当時被控訴人ら主張の配電線路時水支線が東北配電株式会社の占有か
つ所有にかかるものであること、その第三号電柱と第四号電柱との間の高圧線(そ
の電圧は三千三百ボルトであつた。)が昭和二十年十二月、二尺程度の降雪の頃A
立木に接触漏電し、雪害とあいまつてA立木の頭部が折損し地上におちたこと、並
びに火災当夜、右高圧線がB立木に接触してしきりにスパークしたことは事実であ
るが、後者は第四号電柱が本件火災により傾斜したためであつてその以前に傾斜の
事実がなかつたのであるから、右高圧線とA、B立木との間の距離からみて右高圧
線がA、B立木のいずれとも接触するが如きは到底考えられず、いわんや火災当日
は西風であり、発火点すなわち被控訴人B2方居宅萱葺屋根は、A立木の正南より
三十七度余西(すなわち南南西徴西)に、またB立木の正南より二十二度西(すな
わち南南西徴南)に、位しているのであるから、仮に右高圧線がA立木またはB立
木に接触してスパークをおこす状態にあつたものとしても、そのために生ずる火の
粉が飛んで本件火災の原因をなしたものとは到底是認することができない。本件火
災の原因はむしろ被控訴人B2の娘B6の失火であると認めるのが相当である。
 (二) 本件火災が東北配電株式会社の従業員の過失に基くものであることは否
認する。また本件配電線路の保存については何ら瑕疵がなかつた。但し本件火災当
時Iが同会社a電業所長であり、またJ1が同電業所工務係責任者であつた事実は
認める。
 (三) 仮に本件火災が漏電に基く同会社の失火であるとしても、右については
「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用があるところ、同会社にはその架設にかかる本
件配電線路の電線または電柱の瑕疵の修理を怠るような重大な過失はなかつた。本
件高圧線がA立木と接触漏電してA立木が焼け切れたことは、何ら通告がなかつた
ので、昭和二十年十二月同会社の工員M1が現場に出張するまで同会社の知らなか
つたところであり、M1は仔細に現場を点検し何ら危険なきことを確めたのである
から、同人に何ら過失あることなく、そのA立木を伐除しなかつたことを目して直
ちに重大なる過失があつたということはできない。
 (四) 仮に同会社、ひいて控訴会社に本件火災に基く損害賠償責任があるとし
ても、被控訴人並びにその前主らは、当初右損害賠償債権の一部である別紙被控訴
人ら請求金額表当初請求分欄記載の金額並びにこれに対する遅延損害金についての
み訴求し、その後訴提起の時から三年以上を経過した昭和二十七年十二月九日請求
を拡張して同拡張請求分欄記載の金額並びにこれに対する遅延損害金をも併ぜ訴求
したのであるから、訴の提起による時効中断の効力は右拡張部分に及ばず、(大審
院昭和四年三月十九日判決民集八巻四号二〇六頁参照)右拡張部分は右拡張の申立
当時既に三年の消滅時効完成し消滅していたのであるから、控訴人はここに右時効
を援用する。
 (五) 東北配電株式会社が昭和二十六年五月一日解散し、同会社が解散当時有
していた権利義務は、同会社の特別の意思表示により除外したものを除き、すべて
控訴会社においてこれを承継したこと、並びにE3、F2、及びG2がいずれも被
控訴人ら主張の日時に死亡し、その主張の被控訴人らがそれぞれその遺産相続をな
した事実は認める。
 第三 証 拠
 被控訴人ら訴訟代理人は、原判決摘示の証拠のほか、当審における証人B6、B
7、J2、E8、N、M1、O、E9、P、Q、Rの各証言、被控訴人B2、E
2、B5、B4、E4、B3、D、E5、E7、Hの各本人尋問及び検証の結果を
援用し、乙第二号証、第三号証の一、二の成立は不知、同第四、第五号証、第六、
第七号証の各一ないし三、第八号証の一、二、第九ないし第十一号証、第十二号証
の一ないし十五、第十三ないし第十六号証の成立は認める、と述べ、控訴代理人
は、原判決摘示の証拠のほか、新たに乙第二号証、第三号証の一、二、第四、第五
号証、第六、第七号証の各一ないし三、第八号証の一、二、第九ないし第十一号
証、第十二号証の一ないし十五、第十三ないし第十六号証を提出し、原審証人N、
M1(第一、二回)、当審証人J3、J4、J5、N、S、M1、M2の各証言、
原審証人J2、E8、当審証人B6、B7、Oの各証言の一部、当審における被控
訴人E2の本人尋問の結果の一部及び検証の結果、本件の証拠保全してなされた新
潟地方裁判所長岡支部昭和二十三年(モ)第二〇号証拠保全事件の検証の結果、並
びに右検証の際における申立人B2の「本件失火の原因は見取図表示の第一電柱と
第二電柱との間を走る高圧線と其の略々中間にありたる杉立木(記号「1」)との
先端の接触により発火したるものなり、又「2」点にある杉は本件失火とは直接関
係なかりしも、記号「1」「2」「4」と共に当日焼けたるものにして後に切断し
たるものなり」との陳述及び鑑定人Tの鑑定の結果を援用し、なお甲第十七号証の
一ないし十七の認否を訂正して不知と述べ、甲第五号証、第十三号証、策十六号証
を援用した。
         理    由
 昭和二十一年五月二十一日午後零時三十分頃ないし午後一時頃新潟県小千谷市b
c番地(当時新潟県北魚沼郡d村大字bc番地)所在被控訴人B2方居宅から出火
して近隣の被控訴人B3、同E2、同E4、同E5、同H、同C、同E6、同D、
同B5、同E7方及びE3、F2、G2方に延焼し、これらの住宅を全半焼して同
日午後三時頃漸く鎮火したことは、当事者間に争ないところである。
 被控訴人らは、右火災は漏電により起つたものであると主張し、民法第七百十五
条あるいは同法第七百十七条を援用して本訴請求に及んでいるので、まず本件火災
の原因を究明し、順次他に及ぶこととする。
 第一 本件火災の原因。
 (一) 成立に争ない甲第二号証の一、二(Rに対する司法警察官聴取書)同第
十二号証(B8に対する司法警察官聴取書)の各供述記載及び原審並びに当審証人
B6、B7、Rの証言を綜合すれば、被控訴人B2の旧居宅(焼失家屋)で一番最
初に燃え出したのは風呂場屋上の萱葺屋根の「ぐし」(屋根棟の上方部分をい
う。)であつて、右発火当時屋内には格別異状か認められなかつたことが認められ
る。さらにくわしくいえば、本件火災当日昼過ぎ、B6及びRは、外二名と共に被
控訴人B2方居宅二階の作業場で真綿撚り作業に従事していたところ、東側の窓か
ら異様な煙がはいつて来たので、B6は階下に降り階下の座敷に居た兄B7と共に
炉端、風呂場、裏二階等をしらべてみたが格別かわつたところもなかつたので、B
6、B7、Rの三名が家の外に出てみたところ、風呂場の上の萱葺屋根のぐしのあ
たりが二尺ないし三尺四方くすぶつて煙が出ており、見るまに燃えひろがつた、と
いうのがこれらの供述記載並びに証言を綜合した要旨であるが、通常屋内の火事が
屋根上に燃えぬけるには相当程度燃えているべき筈であるから、ぐしの燃え出した
のは屋内と関係なく燃え出したのであつて、右発火当時屋内には何ら異状がなかつ
たと認めるのか相当であつて、二階東側の窓から異様な煙がはいつて来たことの故
をもつて直ちに屋内が燃えていたとなすべきでない。
 (二) しかもなお、原審並びに当審証人B6の証言によれば当日被控訴人B2
方では、午前九時ないし九時三十分頃B6か粥を煮るため火をたいたたけで、その
後は全然火の気がなかつた事実が明らかであるので、到底屋内から火事がでたとは
認められない。控訴人は、B6の失火であるというが、原審並びに当審証人J4の
証言、その他控訴人の提出援用にかかるすべての証拠によるも、未だ右失火の事実
を認めるに足らない。
 (三) 被控訴人B2方旧居宅の裏手に原審並びに当審検証調書記載のとおりA
立木、B立木その他の杉立木が存在しておりさらにその近くに東北配電株式会社の
架設管理にかかる配電線路時水支線第三号電柱及び第四号電柱が存在し、高圧線が
架設せられ、右高圧線には三千三百ボルトの高圧電流が通せられていたことは、控
訴人の認めて争わないところである。そして原審並びに当審における証人M1、N
の証言及び被控訴人(原告)B2の供述を綜合すれば、本件火災当日以前昭和二十
年十二月頃A立木が右高圧線に接触して火花を散らし、その後も同様のことがたび
たびあつて、ついにA立木の梢の部分が焼け焦げて折れたことが認められ、また原
審並びに当審証人J2、E8の証言を綜合すれば、本件火災当日の夜B立木が右高
圧線にふれて火花を散らしていた事実を認めることができる。もつともA立木の梢
の部分の折損が焼け焦げのみによるか、雪のため折れたのか、また折れさがつてい
たのか折れ落ちていたのか、また折損の時期いかんは証拠上必ずしも詳らかでな
く、また成立に争ない乙第五号証、第十号証、原審並びに当審証人J1、J4の証
言を綜合すれば、B立木の接触発火は、第四号電柱が傾斜したことに基くものであ
つて、右傾斜は、右電柱から被控訴人B2方居宅に取り付けてあつた動力、電燈、
各二条の引込線が本件火災により家と共に焼け落ちた際、その力にひかれたことに
よるもののようであるが、さりとて電柱が強風により傾斜するということもありう
ることであるので、必ずしも前者のみの原因によるとは保しがたく、ともかくも以
上認定の事実よりすれば、A立木またはB立木が条件のいかんによつては高圧線と
接触発火することは必ずしもありうべからざることでないとなすを相当とすべく、
控訴人は、A立木と高圧線との距離より論じてその接触は不可能であるといつてお
るが、現にA立木は高圧線と接触発火してその梢の部分を折損しているのであるか
ら、控訴人の所論は条件のいかんを考慮に容れない議論であるというべく、採るに
足らない。その他控訴人の提出援用にかかるすべての証拠によるもA立木またはB
立木と高圧線との接触発火が絶対に不可能であるとの心証を惹起するに足らない。
 (四) 既にA立木またはB立木と高圧線との接触発火が絶対不可能でない以
上、風向のいかんによつては接触発火によつて生ずる火花が被控訴人B2方居宅萱
葺屋根に飛び散り、火災を起すこともまたありうべきことであつて、原審における
検証の結果によれば、A立木と発火点すなわち前記ぐしとの間の距離は十三米三十
六糎、またB立木と発火点との距離は十二米三十六糎であり、また原審並びに当審
証人J2、E8の証言によれば、本件発火当時の風向は北または北西の強風であつ
たことが認められるので、かかる条件の下において右延焼は絶対に不可能でないと
認めるを相当とする。もつとも成立に争ない乙第四号証(農林省蚕絲試験場小千谷
桑園主任の東北電力株式会社新潟支店長宛気象観測成績についてと題する書面)に
よれば、昭和二十一年五月二十一日すなわち本件火災当日の小千谷桑園における風
向は、午前九時頃から午后三時四十五分頃まで終始西の強風であつた事実が認めら
れるけれども、右は小千谷桑園における観測の結果であつてこれをもつて直ちに本
件現場に妥当するは相当でなく、被控訴人らの自認する延焼の順序と成立に争ない
甲第五号証の見取図記載の各罹災家屋の位置とを対照して風向を考察するも、発火
当時の風向が北又は北西の強風であつた事実を否定することができず、かえつて成
立に争ない甲第十二号証によれば、発火当時居合せたB8は警察官に対し「当時は
大変強い風でありまして巻風の様でした。」と供述しているのであつて、本件現場
の如き山を背にした地勢のところにあつては風位は必ずしも一定しているとは限ら
ず、結局するところ、控訴人の提出援用にかかるすべての証拠によるも、前記立木
と高圧線との接触発火による被控訴人B2方居宅萱葺屋根のぐしえの延焼が風位の
関係上絶対に不可能であつたとの心証を惹起するに足らない。
 (五) 以上のとおりであつて、本件発火の原因は、被控訴人ら主張のとおり、
A立木、またはB立木、またはA立木とB立木の双方と、高圧線とが接触発火し、
その火花か本件発火点であるぐしに飛び散り火災を起したも<要旨第一>のであると
の確証は必ずしも存在しないけれども、既に屋内からの失火であるとの確証なく、
また他に出火原因と認むべきものもなく、反対に右接触発火、延焼の可
能性あること前認定のとおりである以上、反証なき限り、右接触発火、延焼による
ものと推認するを相当とする。原審における鑑定人Uの鑑定の結果は右推認を妨げ
るものてなく、控訴人の援用にかかる本件の証拠保全としてなされた検証の際にお
ける申立人B2の供述、その他控訴人の提出援用にかかるすべての証拠によるも、
ついに右推認を覆すに足るものは一もない。 第二 右失火に対する東北配電株式
会社の責任の有無。
 (一) 本件火災が東北配電株式会社の架設管理にかかる高圧線からする漏電に
より引きおこされたものと認めるのを相当とすることは、第一において説明したと
おりである。そして配電会社が送電のため架設した電路が民法第七百十七条にいわ
ゆる工作物にあたることは論をまたないところであつて、同会社が本件時水支線の
占有者であり、また所有者であることは控訴人の認めるところであるので、同会社
は、もし右時水支線の設置または保存に瑕疵があるならば、これにより生じた損害
を賠償すべき責任あるものというべきである。そしてA立木が昭和二十年十二月頃
以降しはしば右時水支線の高圧線に接触発火したことのあるのは前認定のとおりで
あり、成立に争ない甲第三、第四号証、第十三号証の各供述記載、原審並びに当審
における証人M1、Nの証言及び被控訴人(原告)B2の供述を綜合すれば、B2
は同会社の使用人であるM1またはNに対し右事実を告げて処置方を依頼したにも
かかわらず同会社は何ら右漏電の危険を除去しまたは予防すべき処置をとらなかつ
たことが認められ、また電気事業法施行規則第六十六条第六十八条第六十九条には
電路の管理について詳細規定されているのにかかわらず、成立に争ない乙第九号証
(J1に対する司法警察官聴取書)によれば、当時右時水支線を管掌していた同会
社a電業所では時水支線の管理について巡廻、見廻り等右規則に定めているような
ことは何一つしていなかつたことが明らかであるので、まさに右電路の保存につき
暇疵があつたものというのほかない。
 (二) 控訴人は、仮に時水支線の管理につき同会社に瑕疵があつたとしても、
重大なる過失がないので、「失火<要旨第二>ノ責任ニ関スル法律」により同会社に
賠償責任がない、と主張するので、審究するに、民法第七百十七条の場
合、「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用があるかどうかは議論の存するところであ
つてこれを肯定するような大審院判決もあるけれども(大審院判決昭和七年四月十
一日民事判例集十一巻六〇九頁、同昭和八年五月十六日判例集十二巻一一七八頁参
照)、民法第七百十七条の責任は危険な物を占有または所有する者はその結果たる
損害について当然に責任を負うべしとするいわゆる危険責任であることにかんがみ
るときは、「失火ノ責任ニ関スル法律」はこの場合適用がないものと解するを相当
とする。仮に適用があるとしても、同会社は、前認定のとおり、再三漏電の危険を
除去するよう適当な処置をとるべきことを求められながら、敢えてこれをなさなか
つたのであるから、本件電路の保存につき重大な過失があつたものというべく、仮
にM1、Nらからその旨同会社当局に申達しなかつたとしても、それがため過失な
しということはできないであろう。
 (三) 従つて同会社は、民法第七百十七条により、本件漏電により罹災した者
らに対し、これによつて生じた損害を賠償すべき責任を負うものというべく、右損
害は瑕疵が唯一の原因たることを要しないのであるから、右漏電が電路の瑕疵と適
々当日強風が吹きすさんだこととあいまつて生じ、本件火災をひきおこし、その損
害を拡大したからといつて、同会社は、これに藉口してその責任を免れることはで
きないであろう。
 (四) 被控訴人らは、民法第七百十七条によるほか、同法第七百十五条により
損害の賠償を請求しているが、既に民法第七百十七条による主張が理由がある以上
さらに第七百十五条による主張に判断を加える必要がないので、これを省略する。
 第三 損害の発生及びその範囲について。
 (一) 成立に争ない甲第十五号証の一ないし十五、原審証人B9、F1、E
1、G1の証言(証人F1、E1、G1をそれぞれ原告本人として尋問したのは違
法であるけれども、記録によれば、何人も右違法を責問した事績が認められないの
で、当事者双方共何れも右責問権を放棄したものと認むべく、右違法はこれにより
治癒されたものとなすのが相当である。)原審における原告(被控訴人)E6、
C、B10、B11、原審並びに当審における被控訴人(原告)B2、B5、E
4、B3、D、E5、E7、H、E2、当審における被控訴人B4の各本人の供
述、及び右証言並びに供述によりその成立を認めうべき甲第十七号証の一ないし十
七を綜合すれば、前認定にかかる本件火災によりその住宅を焼失した被控訴人ら並
びにE3、F2、G2及び当時被控訴人B2方に同居していた被控訴人B10、同
B3方に同居していた被控訴人B11は、いずれも本件火災により原判決添附損害
額一覧表記載の建物または動産類を喪失し、少くとも別紙第三欄記載の金額(但し
E3は金十万四千五十円、F2は金十三万二千百五十円、G2は金九千二百四十五
円)に相当する損害を被つた事実を認めうべく、成立に争ない乙第十二号証の一な
いし十五によつては未だ右認定を左右するに足らない。なお、被控訴人B3、同B
11、同E2、同H、同B4は、いずれも右認定金額をこえて、別紙被控訴人ら請
求金額表合計欄記載の金額に相当する損害を被つたと主張しているが、これを認む
べき証拠がない。
 (二) そしてE3は昭和二十五年八月十三日死亡し、その妻である被控訴人E
8、その子である被控訴人E1、同K、同Lにおいてその遺産相続をなし、またF
2は昭和二十四年一月二十五日死亡し、その妻である被控訴人F2、その子である
被控訴人F3においてその遺産相続をなし、またG2は昭和二十七年七月二十一日
死亡し、その子である被控訴人G1、同G3においてその遺産相続をなしたこと
は、当事者間に争ないところであるので、右相続人たる被控訴人らは、右相続によ
りそれぞれその前主の有していた本件損害賠償債権をその相続分に応じて承継取得
したものというべく、その額は右相続とともにその相続分に応じて分割せられるた
め、別紙第三欄の該当記載金額(円未満切捨)となつたものというべきである。
 (三) しかして他面、東北配電株式会社は、昭和二十六年五月一日解散し、控
訴会社は、同会社がその時において有していた権利義務の一切(但し同会社が特別
の意思表示をなしたものを除く。)を承継したことは、当事者間に争なく、本件損
害賠償債務につき同会社が特別に留保の意思表示をしたことは控訴人の毫も主張し
ないところであるので、控訴会社はこの時において本件損害賠償債務を承継したも
のと認むべきである。
 第四 時効の抗弁について。
 控訴人は、本件損害賠償請求訴訟において、被控訴人並びにその前主らは、当初
その一部のみを訴求し、その後訴提起の時から三年以上を経過した昭和二十七年十
二月九日請求を拡張したのであつて、右拡張部分は時効により消滅した、と主張
し、右一部請求並びに請求の拡張の事実は被控訴人らの認めるところであるばかり
でなく、記録によりても明らかなところである。しかしながら、このような場合、
右拡張部分に対する時効中断は拡張申立の時から効力を生ずるのであつて、債権の
一部についての当初の訴提起の効力は常に右拡張部分に及ばないとなすのはいささ
か早計であつて、ひとしく一部の請求というも、当初からその一部が特定している
場合と、たとい分量的には一個の債権の一部というように定額をもつて表示されて
いたとしてもどの一部であるか毫も特定されていない場合と区別して考うべきであ
る。前の場合には、審判の対象たる訴訟物の範囲もこの部分に局限され、訴訟係属
の効果や既判力も他の部分に及ばないのであるから、右一部についての訴訟係属中
請求を拡張して他の部分を請求したからといつて、その部分に対する時効中断は申
立拡張の時から効力を生ずることはいうまでもないところである。しかし後の場合
は一個の債権のどの一部であるかわからないので<要旨第三>ある。このような場
合、たとい相手方が右一部に相当する額の弁済をなしたと主張したからといつて、
債権全部が右弁済により消滅していない以上、右弁済は現に訴求してい
る部分に対してなされたということができないのであるから、裁判所は、右弁済の
抗弁を採用して原告の請求を棄却することはできないのである。言葉を換えていえ
ば、このような場合はかたちは一部の金額を請求する訴訟のようであるが、その実
一個の債権全部を訴訟物とするものであつて、訴訟係属の効果も判決の既判力もそ
の債権全部について生ずるのである。従つて一定の請求原因に基き一定の金額を訴
求した場合にも、最初から当該債権が主張されているのであるから、消滅時効中断
の効力も起訴の時に債権全部について生じ、原告が訴訟係属中に請求を拡張して残
余部分を訴求したからといつてこの部分が訴訟係属中に時効により消滅するという
ことはありえないのである。控訴人の援用にかかる大審院判決はこの両者を区別し
ていないので適切でないといわなければならぬ。しかして本件において被控訴人並
びにその前主らは、当初単にその主張の損害額の一割に相当する金額を訴求したに
止まり、家屋焼失による損害とか動産焼失による損害とかいうふうに、毫も区別特
定していないのである。しかも当初から全体の損害額を主張し、その一部につき権
利を行使する旨明示しているのである。すなわち、本件は後者の合にあたるもので
あることが明瞭であるので、控訴人主張の拡張部分に対する時効は当初の訴提起に
より中断せられ、未だ完成しないものとなすのが相当である。
 よつて控訴人の時効の抗弁は理由なしとして排斥する。
 第五 結論。
 果して然らば、控訴人は被控訴人らに対してそれぞれ別紙第三欄記載の金額を支
払うべき義務あり、ただこれに対する遅延損害金については、不法行為の時から当
然に遅滞に陥ることなく、矢張履行の請求をまつてはじめて遅滞に陥るものと解す
るを相当とするをもつて、(大審院大正十五年一月二十六日判決民事判例集五巻七
一頁参照)別紙第三欄記載の金額中、第一欄記載の金額については訴状送達の翌日
である昭和二十三年十一月十四日から、また第二欄記載の金額については請求の趣
旨拡張申立の日の翌日である昭和二十七年十二月十日から、それぞれ完済まで年五
分の遅延損害金を附加して支払うべく、被控訴人らの本訴請求はこの限度において
正当として認容すべきも、その余は失当として棄却すべきである。
 しからば原判決は、ここになすべき判決と一部符合しないので、この限度におい
て変更すべく、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条第九
十二条、仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決し
た。
 (裁判長判事 大江保直 判事 草間英一 判事 猪俣幸一)
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付><記載内容は末尾2添付>

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