弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告補助参加代理人鈴木義男、同河野太郎の上告理由第一点について。
 原判決が認定した事実およびこれから推認した事実関係の下では、昭和三四年四
月二三日施行のD議会議員の一般選挙に際し長野市区からの立候補者C寛二の得票
と決定された六六二四票の中には「C寛一」に対する投票を意味するものが九四票
あつたが、この九四票の中にはC寛二に投票する意思をもつてC寛一と誤記したも
のも何程かあつたことは推測することができ、否定できないが、これら投票の全部
(九四票)がC寛二に対する右のような投票であるとは断定できないとし、外に、
本件九四票の投票がC寛二に投票する意思をもつて同人の氏名を誤記したものであ
ると認められる証拠はないと判示した上、更らに原判決が(四)ないし(六)で認
定、推認した事実関係を総合して、本件九四票の投票はすべてC寛一(C寛二の兄)
に投票する意思で同人の氏名を記載したものであると断定するに足らないとはいえ、
そうした投票が相当数含まれていたであろうことは否定できない、そして右九四票
のうちどれがC寛一に投票する意思でその氏名を誤記したものであるかは不明であ
る、されば右九四票は結局C寛一に対する投票かC寛二に対する投票かを判定しえ
ないものというべきであり、これをC寛二に対する有効な投票となすことを得ない
ものであるとした判断は相当であり、原判決には所論のような推定の誤等法的判断
の誤りはない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決はC寛二の得票とされた票の中には「C寛一」に対する投票を意
味するものが九四票含まれていたことは当事者間に争がないと判示したが、かかる
投票は漢字でC寛一と記載されたものばかりとは限らないから果してC寛一に対す
る投票を意味するか否かは個々の投票を検証しなければ判定できない筈なのに原審
は当事者からその検証の申請がないままに公職選挙法二一九条、行政事件訴訟特例
法九条に従つた職権による検証等の証拠調を怠つたのは審理不尽の違法あるもので
ある旨主張するが、原審で原告(被上告人)は「C寛二の得票中にはC寛一又はか
んいち等と記載し、C寛一に対する投票を意味するものが九四票含まれていた」旨
主張し、被告(上告人委員会)はこれを受けて「C寛一を意味する投票」云々と答
弁し何ら所論のような主張をしていないこと記録上明らかで、右九四票の記載は当
然右のような、C寛一を指すものであることに疑義のなかつたものと解されるから、
原判決がこれを前示のように当事者間に争がないと判示したのは相当である。そし
て裁判所は当事者間に争のない事実と異る事実を認定できずこれについては証拠調
の必要がないことはいうまでもなく、公職選挙法二一九条、行政事件訴訟特例法九
条の職権証拠調に関する規定も争のない事実についてまで職権で証拠調をしなけれ
ばならないとする趣旨を含むものではない。論旨は、また、原審がC寛二(上告補
助参加人)に対し右特例法八条に従い職権で訴訟参加を命じなかつたのは違法だと
いうが、同条は裁判所が職権で参加を命ずる義務があることを規定したものではな
い。論旨は理由がない。
 上告人の上告理由第一点について。
 論旨は、要するに、C寛一を意味する投票はC寛二に対する有効投票と解すべき
であるというのであるが、所論の点に関する原判決の判断の相当であることは前記
上告補助参加人代理人両名の上告理由第一点について説示した通りである。所論は、
公職選挙法六七条後段の解釈適用の誤をいうが、同条は「その投票した選挙人の意
思が明白で」ある場合の規定であるところ、原審認定の事実関係においては所論の
投票をした選挙人の意思が明白である場合とはいえないから、原審が同条を適用し
なかつたことを違法ということはできない。所論は判例違反をいうが挙示の判例は
事案を異にし本件に適切でない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は審理不尽、理由の不備、くいちがいを主張するが、所論が理由のないこと
は前記上告補助参加人代理人両名の上告理由第一点について説示した通りである。
また論旨は、上告人委員会がC寛一と記載された投票全部(二七〇票)をC寛二に
対する有効投票と決定したのに原判決はその中九四票のみについて判断し、また同
時選挙と異時選挙とを同一に考えていると主張するが、本件選挙においてC寛一を
意味する記載の投票が二七〇票ありその中一七六票が(開票会で)無効とされたこ
とは当事者間に争なく原告は本訴においてその残九四票に関する上告人委員会の決
定を違法であると主張するのであるから、原審がC寛二の当選の効力が選挙会で決
定されたその得票数によつて定まる関係上(すでに開票会で無効とされた一七六票
を除き)九四票についてのみ判断したのは当然である。論旨は理由がない。(上告
人委員会委員長名義の昭和三五年六月一四日附上告理由(補足意見)書と題する書
面は上告理由書提出期間経過後の提出にかかるものであるからこれに対しては判断
を加えない。)
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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