弁護士法人ITJ法律事務所

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主        文
被告人を禁錮1年に処する。
この裁判が確定した日から3年間刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理        由
(犯罪事実)
被告人は,平成9年10月,不動産の賃貸等を業とするA建物株式会社の代表取締役
に就任し,そのころから同会社の業務全般を統括掌理していたものであるが,同会社が
所有して賃貸する札幌市a区b条c丁目d番地所在の「マンションB」(昭和62年6月23日
建築,鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根10階建,全77戸)が老朽化し,後記同マンション4
05号室を含む各戸の設備・備品として,各居室内に設置されていたガス瞬間湯沸器(以
下「湯沸器」という。)及び各居室の天井裏を経て戸外へ通じる燃焼ガスを排出するため
の金属製排気筒の多数について,同排気筒が腐食して穴が開くなどしていて十分に排
気することができず,排気に伴って湯沸器に酸素を供給する仕組みが機能し難い状態
になっており,そのまま放置して居住者らが湯沸器の使用を続ければ,湯沸器に不完全
燃焼が生じて一酸化炭素が発生し,その一酸化炭素が戸外に排出されずに途中で排気
筒から漏れ出して天井裏から室内に還流し,居住者らがこれを吸引して一酸化炭素中毒
に陥る危険があったところ,平成10年2月ころ,同マンションにガスを供給しているCガス
株式会社において実施した検査により,上記の原因から同マンションの多数の居室にお
いて,湯沸器に不完全燃焼が生じて一酸化炭素中毒事故が発生する危険があることが
判明し,同会社からその旨の報告を受け,同事故を防止するためには,同マンションの
全排気筒を交換することが必要であるとの指摘を受けたのであるから,直ちに同マンショ
ンの居住者にその旨注意を喚起するとともに,排気筒を交換するなどし,もって一酸化炭
素中毒事故の発生を未然に防止し,居住者の安全を確保すべき業務上の注意義務が
あったのに,これらの措置をとらずに放置した過失により,同年12月7日午前5時ころ,賃
借人Dが居住する同マンション405号室において,同室の天井裏の排気筒の末端部分
が腐食のため外壁の排気口と分離するなどしていたために,同室に設置された湯沸器の
燃焼に伴う燃焼ガスの排出不良をもたらし,その結果,同湯沸器に十分な酸素が供給さ
れずに不完全燃焼を生じさせ,これにより発生した一酸化炭素を同室天井裏の排気筒
から漏れ出させて同室内に還流させ,そのころ,同室内において,これを吸引した上記D
(当時23歳)を一酸化炭素中毒により死亡するに至らせたものである。
(証拠の標目・省略)
(事実認定の補足説明)
第1 事案の概要及び争点
本件は,判示のとおり被告人が代表取締役として,その業務全般を統括掌理していた
A建物株式会社(以下「A建物」という。)所有の賃貸マンションの1室において,平成10
年12月7日,同室の賃借人で居住者であった被害者が,同室の設備・備品として室内に
設置されていたガス瞬間湯沸器(以下「本件湯沸器」という。)の不完全燃焼によって発
生した一酸化炭素により中毒死した事案である。
検察官は,本件マンションについては,同年2月ころにCガス株式会社(以下「Cガ
ス」という。)が行った検査により,多数の居室において排気筒から排気漏れが生じてお
り,湯沸器に不完全燃焼が生じて居住者が一酸化炭素中毒に陥る危険のあることが判
明し,被告人は,Cガスからの報告書によって,本件マンション各戸に上記の危険があ
り,本件マンションの全排気筒を交換しなければならない旨の警告を受けたのであるか
ら,被告人には,本件事故の発生について予見可能性があったと主張する。他方,弁護
人は,被告人は,上記報告書等のCガスからの説明によっては,居住者に一酸化炭素中
毒が発生する差し迫った危険があると認識することはできず,本件事故発生の予見可能
性はなかったなどと主張する。
第2 本件事故の発生原因
1 関係証拠によれば,次の各事実が認められる。
(1)本件湯沸器は,E工業株式会社製,○○-△△型,都市ガス用,半密閉式・強制
排気式のものであり,燃焼用の空気を室内から取り,燃焼ガスは,戸外に通じる排気筒か
ら,排気ファンによって強制的に戸外に排出される仕組みになっている。本件湯沸器上
部には金属製排気筒(以下「本件排気筒」という。)が接続され,天井裏を経て外壁排気
口に達している。本件排気筒は直径約6cmの金属管4本を止め金又はアルミテープでつ
ないだ全長約578㎝のもので,天井裏の部分は繊維質の断熱材で覆われていていた。
これらの構造は,本件マンションの他の居室の湯沸器,排気筒についてもおおむね同様
であった。
(2)本件排気筒の末端部分は,腐食して内部に錆び様の付着があり,部分的に変形・
欠損していた上,本来,天井裏の外壁内側にある排気口と接続しているべきであるの
に,それが分離していた。繊維質の断熱材も,末端部分では焦げて,部分的に変形・欠
損していた。本件現場において,天井の耐火ボードを取りはずして行われたスモーク実
験(湯沸器側から外壁側に向かって煙を流したもの)では,排気筒末端部分と外壁内側
の隙間から天井裏内部に煙が流出するのが確認された。また,天井の耐火ボードを取り
外さず,事故当時の状態で本件湯沸器を燃焼させたところ,燃焼開始から約18分後に
は,排気筒末端部分付近の天井裏で一酸化炭素濃度が顕著に増加し,被害者が倒れ
ていた地点でも一酸化炭素が検出された。
(3) 本件湯沸器本体は,熱交換器に煤が付着して若干閉塞した部分が一部認めら
れたが,本件排気筒を取り外して換気が十分行われた状態で燃焼検査を行ったところ,
赤外線式ガス分析計で計測しても一酸化炭素は検出されず,ほぼ正常に燃焼した。
2 上記各事実のほか関係証拠を総合すれば,被害者方においては,本件排気筒の
末端部分が排気口と分離していたこと,そのために同末端部分と外壁内側の隙間から燃
焼ガスが漏れるようになっていたこと,同末端部分の内部に残渣が存在したことなどが原
因で,円滑な排気が阻害される排気不良が生じ,湯沸器に不完全燃焼が生じやすい状
態になっていたところ,本件当日,湯沸器を燃焼させた際に,上記排気不良によって完
全燃焼に必要な酸素の供給が不足し,不完全燃焼に陥って一酸化炭素が発生し,それ
が本件排気筒の末端部分等から漏れ出して室内に溜まり,これを被害者が吸引して死
亡したものと認められる。
弁護人は本件湯沸器自体の不具合が本件事故の原因であった可能性を主張する
が,上記のとおり本件湯沸器に不具合はなかったのであるから失当である。結局,本件
のように湯沸器が正常であっても,排気筒に不備があれば一酸化炭素が発生しうるので
あって,上記原因による一酸化炭素中毒事故を防止するための物的な措置としては,室
内に湯沸器を設置し,強制排気を行うという本件の給排気システムを前提にする限り,排
気筒の交換等によって排気設備を改善することが不可欠であったと認められる。
第3 Cガスによる自主点検の結果と本件事故原因の関係
1 関係証拠によれば,次の各事実が認められる。
(1) 本件マンションに都市ガスを供給していたCガスは,平成6年から,集合住宅に
おける湯沸器からの排気漏れ等による一酸化炭素中毒事故を防止するために,集合住
宅の所有者・居住者等の同意を得て,各居室の湯沸器及び排気筒の無料検査(以下
「自主点検」という。)を行っていた。平成10年2月,Cガスは,A建物から本件マンション
の管理業務の委託を受けていた株式会社Fの代表取締役Gに本件マンションの自主点
検を申し入れた。Gは,被告人の了解を得た上でこれを承諾したが,Cガスに対し,点検
結果を居住者に直接通知しないという条件を付した。同月,Cガスは,本件マンション全7
7戸中,居住者の承諾が得られた37戸で自主点検を実施したが,被害者方については
被害者が不在等のために行わなかった。
(2) 上記37戸において,湯沸器を燃焼させて二酸化炭素計により天井裏の排気濃
度を測定したところ,約36戸(なお,後記本件報告書別表によれば35戸であるが,以下
においては,本件報告書本文に従い,便宜36戸と表記する。)において,0.3%以上の
二酸化炭素濃度が検出され,Cガスの基準により,天井裏において排気漏れがあると判
定された。目視の結果では,そのうちの3戸において,天井裏の排気筒末端の外壁貫通
部が腐食し,排気筒が外壁内側の接続部から外れていることが確認された。断熱材につ
いても,腐食による穴あきのために排気によって発生したと認められる染みが多数認めら
れた。
このほか,上記37戸中34戸について,湯沸器を5分間くらい燃焼させて排気筒末端
における一酸化炭素濃度を計測したところ,約20戸において,Cガスの基準(0.015%)
によれば湯沸器の不完全燃焼と判定される一酸化炭素が検出された。
(3) 上記検査結果から,Cガスの検査担当者であるHらは,天井裏の排気漏れは,
排気筒の外壁貫通部の腐食による同部分からの漏洩,排気管の接続部のアルミテープ
がはがれたことによる接続部からの漏洩によるものであると推定した。また,こうした排気
漏れがあれば,排気不良が生じて燃焼に必要な空気を湯沸器に供給する機能が低下
し,不完全燃焼が生じて一酸化炭素が発生する危険があると判断した。
2 これらの結果を被害者方と比較すると,上記36戸で確認された排気漏れ並びに3
戸で確認された排気筒末端の腐食及び外壁貫通部からの離脱等は,いずれも被害者
方においても生じていたものである。他方,約20戸で確認された湯沸器の不完全燃焼
は,H証言等によれば,湯沸器自体の老朽化等による不具合によるものと認められるの
で,被害者方の湯沸器には該当しない(なお,Cガスは,自主点検のころに,この約20戸
の湯沸器の修理を済ませており,その費用は株式会社Fが支払った。)。
第4 被告人の過失の有無
1 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)Cガスは,自主点検の結果を記載した「ガス給湯器排気筒点検結果報告」(以下
「本件報告書」という。)を平成10年2月23日ころ作成し,被告人は,その後まもなく,Gら
を介してこれを受け取り閲読した。
(2)本件報告書には,概略,以下の内容が記載されていた(「」内は本件報告書の文
言である。)。
① 「点検結果」欄には,77戸中37戸の点検の結果,36戸で「天井裏にて排気
漏れ」があり,「そのうち腐食による排気はずれ(外壁貫通部)3戸」があったことのほか,
「腐食による穴あきが,断熱材のシミ等から多数あると推測されます。」とあり,「漏洩推定
原因」として,「排気筒のスパイラル部が腐食して漏洩しています。また,経年劣化により
アルミテープがはがれ排気筒の接続部より漏洩していると思われます。」などと記載され
ていた。このほか,「湯沸器の燃焼不具合」として,20戸において当社基準値以上のCO
が検出され,「内10件は了解をいただき修理完了いたしました。残りの10件についても
修理させていただきたいと思います。」と記載され,別紙として各戸のCO2及びCO測定
値の一覧表が添付されていた。
②「排気漏洩基準」欄には,「特に湯沸器が不完全燃焼した場合には排ガス中に
COが含まれそれを人間が吸引すると一酸化炭素(CO)中毒に至る恐れがあります。」な
どと記載されていた。
③「改善方法案」欄には,「改善にあたり最優先しなければならないことは排気漏
れを防ぐことでありますが,費用投資としては将来的な面からも今回において全排気筒の
交換をされることがトータルコストの低減にもつながると思われますので,下表の改善案を
ご提案致します。」などと記載されていた。
④「お願い」欄には,「今回の調査においては,排気ガスの漏れ,湯沸器の燃焼
不具合についてお客様に,お知らせしておりません。このことからも,入居者様の安全を
鑑み,燃焼不具合の湯沸器の修理を早期に行うとともに,排気筒の改善をお進めいたし
ます。」などと記載されていた。
⑤「その他」欄には,「ガス給湯器排気筒不備による中毒事故は少なくない現状
にあります。」「札幌市内におきましても,ここ数年天井裏設置の排気筒による排気ガス漏
洩中毒事故が発生しております。」「特に寒冷地では排気筒が室内の天井裏に設置され
ている場合が多く,排気筒の経年劣化による不具合が生じましても,日常生活上極めて
発見しにくい状況にあります。」「弊社では,平成6年4月より自主点検として排気筒の不
備等を発見し事故防止を目的とした調査を実施し,不備を発見した場合は改善をお願い
しております。」などと記載されていた。
(3) その後,Gの依頼により,Cガスは,平成10年4月15日ころ,本件マンション全体
の排気筒交換工事等の見積書2通(見積額約1300万円と約1800万円。後者は湯沸
器・排気筒の一括交換工事)を作成した。これを見た被告人は,その当時,取引先に対
する支払を一時猶予してもらうなどすれば,上記工事資金を捻出することが可能ではあ
ったが,本件マンションについて既に競売開始決定がされていたことなどから,Cガス側
と若干の協議をしたものの,上記工事を依頼しないこととし,そのことはGを経てCガスに
伝えられた。その後,被告人(A建物)も株式会社Fも,上記工事を行わず,本件マンショ
ンの居住者に自主点検の結果を知らせたり,排気漏れや湯沸器の不完全燃焼のおそれ
について注意喚起したりする措置を一切行わなかった。Cガスにおいても同様であった。
2 そこで,被告人の本件事故発生に対する予見可能性について検討する。
(1) 本件報告書には,弁護人も指摘するとおり,全排気筒の交換がトータルコストの
低減にもつながる,改善案をご提案致します,排気筒の改善をお進めいたしますというよ
うに,とるべき措置について切迫感のない表現があることは否定できない。また,一酸化
炭素濃度の測定結果は「湯沸器の燃焼不具合」の箇所に記載され,湯沸器の修理を行
うこととされているが,二酸化炭素濃度の測定によって認められた天井裏の排気漏れ等
が,湯沸器の不完全燃焼や一酸化炭素発生の原因となることを直接表現した部分は存
しない。そのほか,株式会社Fに対するCガス関係者の口頭の説明を含めて検討しても,
本件報告書等によるCガスらの報告・説明が,検察官が主張するように,本件マンション
における一酸化炭素中毒の危険性や全排気筒交換の必要性を「警告」したものと評価す
ることは相当でない。
(2) しかしながら,その「点検結果」欄においては,具体的な測定値を明示して,点
検したほぼ全ての居室で排気漏れがあったことが記載され,一部では外壁貫通部が腐
食して排気筒がはずれていたこと,腐食による穴あきが多数あると推測されること,排気
筒の腐食や経年劣化によるアルミテープの剥離により漏洩していると推定されることなど
が指摘されている。これらの記載からは,本件マンションの多数の排気筒が,本来備える
べき性能から著しく劣る欠陥を有していることは明らかであり,ガス機器としての性質上,
それが人の安全に関わるものであることも当然予測できるところである。
さらに,本件報告書は,湯沸器の不完全燃焼が一酸化炭素中毒をもたらす危険性に
言及した上で,改善にあたり最優先しなければならないことは排気漏れを防ぐことである
こと,入居者の安全にかんがみ排気筒の改善を勧めること,ガス給湯器排気筒不備によ
る中毒事故は少なくなく,札幌市内において,ここ数年天井裏設置の排気筒による排気
ガス漏洩中毒事故が発生していること,Cガスでは排気筒の不備等を発見し事故防止を
目的とした自主点検を実施し,不備を発見した場合は改善をお願いしていることなども述
べている。これらは,排気筒の不備が一酸化炭素中毒をもたらすことを端的に表現したも
のではないが,全体を通してみれば,排気筒の不備が安全上重大な問題であり,湯沸器
の不完全燃焼,ひいては一酸化炭素中毒事故を発生させる危険があること,それゆえ本
件マンションの全排気筒の交換が必要であることは十分に読み取ることができる。
そして,被告人,Gらの供述を検討しても,Gその他の関係者から被告人に対し,本件
報告書が指摘する上記の危険性等を否定,減殺するような説明はなされなかったと認め
られる。
(3) そうすると,本件報告書を閲読した被告人としては,まず,本件マンションの37戸
中36戸について排気漏れが生じていること,3戸については排気筒がはずれていること
など,多数の排気筒に欠陥があることを現に認識したのであり,被害者方を含む未点検
の40戸の排気筒のうちの相当数についても,同様の欠陥が存在するであろうことを当然
予見できたものと認められる。さらに,被告人としては,排気筒の上記欠陥が一酸化炭素
中毒をもたらすことについても,そのメカニズムは理解し得なかったとしても,そのこと自
体は予見可能であり,湯沸器が各居室で日常的に使用されるものである以上,本件マン
ションのうち,排気筒の上記欠陥が存在し又は存在するであろういずれかの居室におい
て,本件事故のように,排気不良によって湯沸器の不完全燃焼が生じ,その結果,在室
者が一酸化炭素中毒により死傷する可能性があることも十分に予見することができたもの
と認められる。
弁護人は,本件報告書には上記のように危険を警告しているとは受け取り難い表現が
あること,Cガスは,一番費用のかかる排気筒の全交換のみを提案し,複数の改善策を
提案しなかったこと,その後被告人に対して排気筒を交換したか否かを確認したりしてい
ないこと,本件マンションの居住者に対しても自主点検の結果を知らせていないことなど
Cガスの一連の対応を根拠に,被告人は一酸化炭素中毒事故発生の差し迫った危険を
認識することはできなかったとして,予見可能性を争い,被告人も公判廷において,これ
に沿う供述をしている。これらのCガスの対応の中には,事態の緊急性を減じさせる印象
を与えるものがあることは否定できないが,その点を考慮しても,被告人には,後記事故
防止のための措置をとるべき義務を認めるに足りる予見可能性はあったものと認められ
る。弁護人の上記主張は採用できない。
3 したがって,被告人は,本件マンションを所有するA建物の業務全般を統括掌理す
る代表取締役として,被害者を含む本件マンションの居住者に対し,自主点検の結果を
速やかに通知し,湯沸器の使用に当たっての注意を喚起するとともに,欠陥のある排気
筒を交換するなどして,湯沸器の不完全燃焼による一酸化炭素中毒事故の発生を未然
に防止すべき義務を負っていたというべきである。にもかかわらず,被告人は,こうした措
置を行わずに約10か月間も放置していたのであるから,被告人には判示のとおりの過失
を認めることができる。
(法令の適用)
被告人の判示所為は平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段に該当
するところ,所定刑中禁錮刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を禁錮1年に処
し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行
を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に
負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は,賃貸マンションの所有会社の代表者である被告人が,ガス会社による点検の
結果,同マンションの居室多数について排気筒に欠陥があることが判明し,湯沸器の不
完全燃焼による一酸化炭素中毒事故発生の危険があり,排気筒の交換が必要であるこ
となどの指摘を受けたにもかかわらず,事故防止に必要な措置をとらずに放置した結
果,同マンションの1室において一酸化炭素中毒事故が発生し,同室の居住者1名が死
亡した事案である。被告人は,上記の指摘を受けていながら,事故は滅多に起こらない
などと軽信し,本件事故発生まで約10か月もの間放置していたのであって,その過失の
程度は大きい。本件事故により若年の被害者が尊い生命を失っており,生じた結果は重
大である。被害者を失った遺族の悲しみは大きく,被告人に対する厳重処罰を求めてい
るところ,被告人はいまだに慰謝の措置を講じておらず,反省の情も認められない。以上
によれば,被告人の刑事責任を軽視することは許されない。
他方,Cガスによる本件報告書の表現やその後のCガスの対応にも不十分な点があっ
たことは否定できず,本件事故の責任を被告人のみに負わせるのはいささか酷であるこ
と,被告人は,昭和61年に詐欺罪等により懲役5年に処せられた前科を有するが,その
刑の執行終了から本件まで8年余が経過しており,その間前科前歴はないことなどの事
情も認められる。以上の諸事情を総合勘案して,被告人に対しては,主文の刑に処した
上,刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 禁錮1年)
平成16年9月27日
札幌地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官  半  田  靖  史
裁判官  中  桐  圭  一
裁判官  松  永  晋  介

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