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裁判例


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       主   文
本件申立を却下する。
       理   由
一 本件申立の趣旨及び理由は、別紙申立書記載のとおりである。
二 労働組合法第二七条第八項によれば、同条項所定の決定(以下「緊急命令」と
いう。)をするか否かは、受訴裁判所の裁量に委ねられており、受訴裁判所は、当
該救済命令の適否及び即時救済の必要性等の諸事情を考慮して、相当と認める場合
に緊急命令を発するものと解されるから、以下右の点について検討する。
1 本件救済命令の骨子は、同命令の申立人たるA及びBに対する配置転換(以下
「本件配置転換」という。)を含む昭和四九年三月の人事異動は、被申立人の本社
フロアー(本社及び東京支店)の男子従業員約五〇名(うち右申立人らの属する総
評全国一般労働組合東京地方本部中部地域支部吉野石膏分会(以下「分会」とい
う。)に所属するもの二三名)中、一六名に配置転換を命じたものであるが、
(一)その背景として昭和四八年六月二〇日分会結成以降労使の対立が険悪化しつ
つあつたことが認められるとし、(二)人事異動の内容としては、このうち地方へ
配置転換された者は九名で、そのすべてが分会員であるのに対し、非分会員の配置
転換先は東京管内であり、しかも、独身社員のうち地方勤務未経験者を地方へ配置
転換するとの被申立人主張の方針からみても、右人事異動当時、本社フロアーの独
身の地方勤務未経験者二八名(分会員、非分会員各一四名)のうち、東京から地方
へ配置転換を命じられた九名全員が分会員であるのに対し非分会員一四名はすべて
地方へ配置転換されていないから、これらの人数比からみると、右人事異動は、人
選に特段の理由がない限り右配置転換対象者らが分会員なるが故に地方へ配置転換
を命ずるものというべきであり、かつ、(三)右A及びBについては他の者に優先
して各配置転換先に配置すべき事情は認められないから、本件配置転換は、分会員
を本社フロアー及び本社の中枢部門から排除する趣旨の不当労働行為であるとする
ものであり、その論旨自体からして、右(二)の点が不当労働行為認定の最も重要
な論拠となつているものと考えられる。
2 しかるに、疎明によれば、被申立人は、本件人事異動を実施するにあたり、地
方へ妻帯者を配置転換した場合、住宅の手配、子弟の教育問題等で各種不都合が生
ずることを考慮して、先ず地方勤務の経験のない独身者を地方に配置転換する方針
をとつたこと、右の当時、本件救済命令のいう本社フロアーには二八名の独身の地
方勤務未経験者がいたが、うち二二名が分会員で、六名が非分会員であり、地方配
置転換の内示を受けた者は九名で全員分会員であるが、分会員で右の意味での本社
フロアー内で異動するものも三名あつたこと、また、本来の意味での本社フロアー
(東京支店の相模原、千葉、長野の各営業所を除くもの。)には二三名の独身の地
方勤務未経験者がいたが、うち二〇名が分会員で、非分会員は三名であり、この意
味での本社フロアーから地方へ配置転換の内示を受けた者は八名(その後発令に至
つた者は七名)であり、いずれも分会員であつたことが認められる。
 右事実によれば、被申立人が地方へ配置転換する者を人選する際に立てた基準
は、不合理なものということはできないところ、地方へ配置転換の内示を受けた九
名又は八名のすべてが分会員であることも、独身の地方勤務未経験者中に分会員の
占める割合(二八名中二二名又は二三名中二〇名)からみると、強ち不自然なもの
とはいえない。
 のみならず従業員の配置転換は、労働契約において、職種、形態、勤務場所に関
する特別の定めがない限り(本件において右特別の定めの疎明ない。)、使用者の
裁量に委ねられるべきものであるから、特定の従業員の配置転換について、これが
他の者に優先して配置転換すべき事情がないというだけでは直ちにその裁量の範囲
を逸脱したものということはできず、他の者に優先して配置転換すべき事情は、本
件救済命令の認定する分会員の人数比を前提としてのみ考慮しうるものであるにす
ぎない。
 そうであるとすると、前記のごとく本件人事異動における基準及び人数比が合理
性に欠けあるいは不自然なものでない以上、本件救済命令が認定するような前記1
(一)のような背景事情があり、かつA及びBを他の者に優先して配置転換すべき
事情が認められなかつたとしても、被申立人が同人らを分会員であるが故に地方に
配置転換したものであり、分会員を本社フロアーから排除する趣旨であつたと断ず
ることはできない。
3 以上のとおり、本件救済命令には、その最も重要な論拠の部分に誤りがあるも
のといわなければならないから、現時点においては、その維持可能性に凝義があ
り、緊急命令を発することは、相当でないと考えられる。
三 よつて、本件申立を却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 桜井文夫 福井厚士 仲宗根一郎)
(別紙)
緊急命令申立書
申立の趣旨
右当事者間の御庁昭和五三年(行ウ)第三一号行政処分取消請求事件が確定するま
で、
 「被申立人は、申立人が昭和五二年一二月二一日付で被申立人に交付した中労委
昭和五〇年(不再)第八八号事件に従い、総評全国一般労働組合東京地方本部中部
地域支部吉野分会(以下「分会」という。)分会員A、同Bに対する解雇及び配置
転換を撤回し、同人らを配置転換前の原職または原職相当に復帰させるとともに、
解雇の翌日から上記原職に復帰するまでの間に受けるはずであつた賃金を支払わな
ければならない。」
との決定を求める。
申立の理由
一 被申立人吉野石膏株式会社は、申立外分会の分会員らに対して配置転換を命
じ、さらに、分会員A、同Bらが、この配置転換の命令に従わなかつたことを理由
に解雇した。
二 これに対して、右申立外総評全国一般労働組合東京地方本部(以下「組合」と
いう。)分会及びA、Bは、昭和四九年三月一六日、昭和五〇年一二月二五日東京
都地方労働委員会に対し、右行為は、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当す
る不当労働行為であるとして救済申立てを行い、同委員会は、審査の結果、昭和五
〇年一二月一六日付けをもつて別紙疎甲第一号証の「主文」記載のとおりの命令書
を被申立人に交付した。
三 右命令を不服として、被申立人は、昭和五〇年一二月二六日に申立人委員会に
対し、再審査申立てを行つた。
 申立人委員会は、再審査の結果、昭和五二年一二月二一日付別紙疎甲第二号証の
「主文」記載のとおりの命令を発し、右命令書は昭和五三年二月二二日被申立人
に、同年二月二二日申立外組合、分会に、同年三月一〇日A、Bに交付された。
四 右救済命令に対し、被申立人は、昭和五三年三月二〇日に右救済命令の取消し
を求める旨の行政訴訟を提起し、右事件は御庁昭和五三年(行ウ)第三一号事件と
して目下審理中である。
五 被申立人は、右再審査命令書交付後も、これを無視する態度を続けており、も
し本件訴訟が解決するまで現在の状態が継続し、本件命令内容が速やかに実現され
なければ、申立外分会員A及び同Bらの経済的損失、精神的苦痛は顕著なものがあ
り、ひいては、労働組合法の立法精神も没却されることになる。(疎甲第三号証緊
急命令申立要請書)
 したがつて、申立人は、昭和五三年四月一九日第七九四回公益委員会議におい
て、労働組合法第二七条第八項の規定に基づいて本件緊急命令の申立てを決定し
た。(疎甲第四号)
よつて、本件申立てに及んだ次第である。
〔参考資料〕
命令書(初審)
都労委昭和四九年(不)第二六号第三九号
申立人 総評全国一般労働組合東京地方本部外三名
昭和五〇年一二月一六日命令
被申立人 吉野石膏株式会社
       主   文
一 被申立人吉野石膏株式会社は、申立人A、同Bに対する解雇および配置転換を
撤回し、同人らを配置転換前の原職または原職相当職に復帰させるとともに、解雇
の翌日から上記原職に復帰するまでの間に受けるはずであつた賃金を支払わなけれ
ばならない。
二 被申立人会社は、Cを配置転換前の原職に復帰させなければならない。
三 被申立人会社は、本命令書受領後一週間以内に五五センチメートル×八〇セン
チメートル(新聞紙二頁大)の白紙に下記のとおり明瞭に墨書して、本社の従業員
の見易い場所に、一〇日間掲示しなければならない。
 記
 昭和 年 月 日
総評全国一般労働組合東京地方本部
 中央執行委員長 D殿
総評全国一般労働組合東京地方本部中部地域支部吉野石膏分会
 分会長 E殿
 吉野石膏株式会社
 代表取締役 F
 当社が、貴組合の組合員A氏、同B氏および同C氏を配置転換したことならびに
AおよびB両氏を解雇したことは、いずれも不当労働行為であると、東京都地方労
働委員会で認定されました。今後は、このようなことのないよう留意いたします。
この掲示は同地方労働委員会の命令によつて行なうものであります。
 (注 年月日は文書を掲示した日を記載すること、)
四 前項を履行したときは、被申立人会社は、すみやかに文書で当委員会に報告し
なければならない。
       理   由
第一 認定した事実
一 当事者等
(1)(ア) 申立人総評全国一般労働組合東京地方本部(以下「地本」とい
う。)は、東京地方で働く約一四、〇〇〇名の労働者が組織する労働組合であり、
(イ) 申立人総評全国一般労働組合東京地方本部中部地域支部吉野石膏分会(以
下「分会」という。)は、被申立人会社の本社、東京支店(本社と同じビルの同じ
階にある。)および被申立人会社の子会社であるタイガー商事株式会社(所在地東
京都新宿区)の従業員が組織する労働組合であり、その結成を被申立人会社に通告
した昭和四八年六月二〇日当時の組合員は、九〇名であつたが、五〇年九月本件審
問終結当時は二七名である。
(ウ) 申立人Aは、分会の職場委員であり、四三年三月申立人会社に入社し、東
京工場東京支店営業課出荷班(内勤)を経て、四七年四月同課第二班(外勤)に所
属して、販売を担当していたが、後記のとおり、四九年三月一五日大阪支店岡山営
業所勤務を命ぜられ、これを争つていたところ四月二日解雇された。
(エ) 申立人Bは、分会の職場委員であり、四七年被申立人会社に入社し、東京
支店計算課に配属されていたが、後記のとおり、四九年三月一五日大阪支店名古屋
営業所勤務を命ぜられ、これを争つていたところ、四月二日解雇された。
(2) 被申立人吉野石膏株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を
置き、東京、草加、千葉、福岡に工場を、その他全国に六支店、一三営業所を有し
て、石膏ボード、石膏プラスター等の製造、販売を業とする従業員約八〇〇名の会
社である。
 なお、会社は、以上の自社事業所のほか、合弁会社八社、一〇工場を傘下に有
し、これらの工場には会社の製造技術者を在籍のまま出向勤務させ(現在約三〇
名)、その製品は全部買上げて、自社製品として販売している。
(3) 会社の東京工場、草加工場、千葉工場の従業員は、昭和四八年六月相つい
で全国一般労働組合(以下「全国一般」という。)の下部組織である吉野石膏東京
工場分会、吉野石膏草加工場分会、吉野石膏千葉工場分会を結成し、本件について
も、申立人分会と共闘しているが、四分会の結成時における分会員数は計四六〇名
のところ、本件審問開始当時の四九年六月には計二三五名に半減した。
(4) なお、本社には四八年一一月八日結成された吉野石膏労働組合(以下「新
労」という。)、千葉工場には四九年二月一〇日結成された千葉工場労働組合、草
加工場には同月二六日結成された草加工場労働組合、福岡支店には四八年七月一四
日結成された福岡支店労働組合および八月以降大阪、仙台などの各支店に結成され
た五単組が単一化した全吉野労働組合(以下「全吉野」という。)があり、会社は
四九年一月以降、新労および全吉野とは労使協議会を開催しているが、全国一般の
分会の労使協議会参加要求に対しては、これを拒否している。
二 分会の結成と会社の態度
(1) 四七年六月ごろ、E(公然化後分会長)らを中心とした会社の従業員が地
本に個人加盟をし、以後社内で非公然の組織拡大活動を行なつていたが、一年後の
四八年六月一四日、会社は、Eを盛岡営業所へその他非公然で組合活動をしていた
G(後に副分会長)を福岡支店へ、H(後に執行委員)を名古屋営業所へ、I(後
に執行委員)を仙台支店へ配置転換の内示をした。
(2) これに対して、分会は、同月一八日上記四名を公然化するとともに、会社
に対して同人らの配置転換の撤回等を要求し、翌一九日、分会の結成大会を開き、
同日当委員会へ四名の配置転換の撤回等を求める救済申立をなし(都労委昭和四八
年不第五三号事件)、翌二〇日分会の結成を会社に通告した。そして会社は、同月
二二日、上記四名の配置転換を正式に撤回し、上記申立ては九月五日取下げられ
た。
(3) そして一〇月一八日、会社と分会とは「人事異動に関する件」というつぎ
の内容の協定を締結した。
① 組合員の人事上の問題、とくに解雇、処分、配転、異動、出向にあたつて、会
社はあらかじめ本人および組合に通知する。これに対し、組合から要求があれば、
会社は説明する。また組合は意見を述べることができる。
② とくに組合三役については、組合活動への影響を考慮し、会社は組合と十分話
し合いを行なうよう努力する。
③ 人事異動のともなう会社機構の改変は、あらかじめ組合に通知し、その経過を
説明することとし、問題ある場合には、すみやかにはこぶよう努力する。
(4) 分会は、一一月二日年末一時金その他六項目の要求を会社に提出して闘争
体制に入り、二時間から半日のストライキを繰り返したほか、ビラ貼付、会社施設
内での分会集会など頻繁に行なつたが一二月一九日妥結した。
(5) F社長は四九年一月七日、本社および東京支店の全従業員に対する年頭の
挨拶の中で、「昨年末石油危機が発生し、労使一体となつて乗り切つて行かなけれ
ばならない時期であるにもかかわらず、昨年六月以来由々しい問題が発生してい
る。会社にとつてマイナスの行為になるような悪の根源は排除しなければならな
い。それが今年の課題である。」と述べ、さらに、翌八日には千葉工場において
も、同様の挨拶をした。
(6) 一月二六日、会社は、全従業員に対して、一万円から七万円までの業績手
当を支給した。従前、会社が祝金などの名目で特別の金員を支給したときは、基本
給、勤続年数などによつて機械的に金額が決められていたが、このときは、分会員
はそれ以外の同期同学歴入社の者に比して総じて低額であり、とくに副分会長G、
同Cおよび書記長Jなどは、いずれも同期同学歴入社の者の半額以下であつた。
(7) 会社は、同月二九日、前年年末闘争に際して行なわれた、分会のビラ貼付
や会社施設の使用に対し、分会長E、書記長Jの両名を減給処分(平均賃金半日
分)に、情宣部長Kを出勤停止三日の処分に、東京工場分会の分会長、書記長およ
び執行委員をも同様の処分に付した。
(8) F社長は、三月一二日草加工場を訪れた際L草加工場分会長に対しては、
「仕事をとるのか? 組合をとるのか?」と問い質した。
三 Aらの配置転換と解雇(申立人が救済を求める具体的事実)
(1) 三月四日、会社は全体で二五名の人事異動を内示し、そのうち本社および
東京支店に関係する一八名については、これを分会に通知した。
 その内容はつぎのとおりである。
<19723-001>
<19723-002>
(2) 翌五日、分会は会社に対して、上記人事異動についての団体交渉を申入れ
たが、会社は、これを断り、同日と八日事務折衝という形式で、配置転換の必要性
と人選方針を説明した。それによると、上記配置転換は、①合併会社である直島吉
野石膏の香川県<以下略>の新設石膏ボード工場が五月から稼動するので、それに
ともない、四国、中国、関西方面の販売体制を強化することが必要になり、そのた
め一連の異動として計画されたものであり、②また、人事の停滞を防ぎ、広く業務
の体験をさせるために従来からとられていよ異動(所謂ローテーション)を考慮
し、地方に長くいる人を可能な限り本社や東京支店にもどし、同時に特に東京から
地方への配転者には独身者のうち、地方経験のない者、販売面に適していると判断
した者などを人選したというものであつた。しかし、会社は上記方針に基づく個別
の人選の具体的理由は一切説明しなかつた。
(3) 一二日、一三日各一時間ずつ団体交渉が行なわれたが労使の主張が一致せ
ず、一四日、会社は、副分会長Gについては発令を一時延期することとしたが、翌
一五日Gを除き上記対象者全員について発令した。
(4) 翌一六日、分会は、上記分会員のうち、Mを除いた九名についての配置転
換命令の撤回を求める本件救済申立てをなし、そして同月二二日から三〇日までの
間五回の団体交渉が行なわれた。その間、二二日には、N・O・Pが赴任を表明
し、翌二三日の団体交渉で、会社は残余の七名の分会員の配置転換の個別の理由を
はじめて説明した。もつとも上記七名中、Qは同日赴任を表明し、Mは上記のとお
り救済申立てをなしていないので、交渉の対象者は五名となつた。そして四月一日
にはRが、翌二日にはSが赴任を表明したが、A、B、Cの三名は赴任に応じなか
つた。
(5) 会社は、同日分会に対してA、BおよびCの配置転換についての最終的な
意思表示をなすことを求めた。そこでC副分会長、J書記長、AおよびBは、T人
事部長に対して、Cについては異議をとどめて、配置転換先で就労することとし、
A、Bは、T人事部に対して、Cについては異議をとどめて、配置転換先で就労す
ることとし、A、B両名については指名ストに入れる、との分会の回答を伝えた。
これに対して、同部長はA、B両名を就業規則を適用して解雇する旨を伝え、その
後両名に解雇通知書を郵送するとともに、直ちに辞令の写しを伝え、その後両名に
解雇通知書を郵送するとともに、直ちに辞令の写しを会社掲示板に掲示した。そし
て、会社はその後の両名の解雇に関する団体交渉には応じていない。
(6) 上記配置転換および解雇以前には、本社、東京支店を合わせた本社フロア
ーには、約五〇名の男子従業員がおり、そのうち二三名が分会員であつたが、本件
配置転換および解雇により男子分会員は七名減りその後八月七日の分会長E、書記
長J、執行委員Kの懲戒解雇(都労委昭和四九年不第八七号事件、現在当委員会に
係属中)によりまた三名減り、さらに五〇年三月の執行委員三名の地方への配置転
換(都労委昭和五〇年不第一四号事件、現在当委員会に係属中)により、さらに三
名減つた。そして本社経理課についてみると、五名の男子分会員がいたが、本件配
置転換によりC、Sの二名が、八月の上記懲戒解雇によりJが減り、さらに五〇年
三月の上記配置転換により一名が抜け、また同じころ残る一名も分会を脱退したの
で、本件配置転換後一年を出でずして同課には男子の分会員は一人もいなくなつ
た。
第二 判断
一 当事者の主張
 申立人らは、本件A、BおよびCの配置転換ならびにAおよびBの解雇は、分会
員を本社フロアーおよび本社の枢要な部門から排除するためになされたものである
と主張し、被申立人は、人事管理上の措置に基づくものであつて、不当労働行為と
目されるものではないと主張する。
二 当委員会の判断
(1) 会社のいうように、A、BおよびCは事務職であつて、同人らの労働契約
の内容をなす勤務地は全国であることが認められるから、事務職として従事すべき
職務ならば、配置転換の命令は、妥当であり限り、これに従わなければならないこ
とは当然である。
(2) しかしながら本件配置転換とその結果をみると、
①(ア)本社フロアーの男子従業員約五〇名中、二三名が分会員であつたが、同フ
ロアー関係の配置転換の対象者一八名中一一名までが分会員であり、そのうち九名
までが地方支店、営業所への配置転換であつて、しかも東京から地方への配置転換
はこの分会員九名のみであり、(イ)配置転換の対象となつた分会員一一名中、八
名までが分会役職者であり、(ウ)他方非分会員の配置転換の対象者七名中、五名
は東京管内の異動であり、他の二名は地方支店から本社フロアーへの配置転換であ
ることをみると、分会員、就中、分会役職者の地方への配置転換が顕著であるこ
と、
②(ア)Aについては、東京支店ボード課第二班のなかでは最も勤務時間が短く、
同人よりも長い者が八名おり、Bについては、東京支店勤務が二年弱で、同人と交
替になる名古屋営業所のUも地方勤務が最も短く、二年に過ぎず、同人よりも長い
者が一〇数名いることなどからして、両名の人選は不自然であり、(イ)Cについ
ては、四六年四月入社と同時に本社経理課配属で、同課勤務がそれほど長いとはい
えず、同時に前年四月に経理に配属になつたばかりの分会員Sも福岡支店へ配置転
換し、第一の三(6)で認定したとおり、その後一年を経ずして経理課員中男子分
会員が皆無になつていることをみると、Cの配置転換は、経理課から分会員を排除
するという会社の方針の一環であると考えられること、
③さらに、直島工場の稼動にともなう販売体制の強化という会社の主張は、本件配
置転換内示後の三月五日になつてはじめていわれたことで、しかも販売体制を強化
するという四国、中国、関西方面に東京から分会員を配置転換したのみで、それ以
外に特に強化方策は講じていないこと、などをあわせ考えると、結局本件配置転換
は、第一の二で認定したとおり全国一般とその組合員を嫌つていた会社が、協定
「人事異動に関する件」の趣旨を十分尊重することなく、定期異動と直島工場の稼
動に藉口して、分会員を本社フロアーおよび本社の中枢部門から排除するためにな
したものとみるのが相当である。
(3) なお、会社は、本件配置転換内示の際、その対象者中C、Gの両副分会長
とN執行委員以外の者は分会員であつたか否かを知らなかつたというけれども、年
末の闘争において分会が五回のストライキを行い、会社はその参加者に賃金カツト
を行なつていること、A、Bについては、分会のビラ「職場毎の労働運動を!!」
(四八・九・一九付)に職場委員として氏名が記載されていること、また同人らは
職場委員として活動したばかりでなく、団体交渉にも出席したりしていたことか
ら、会社が両名を分会の役職者として認識していなかつたとは到底考えられず、こ
の点に関する会社の主張は採用できない。
(4) 以上のとおり、本件配置転換が不当労働行為であることは明らかであるか
ら、この配置転換命令に従わなかつた故をもつて、A、B両名を解雇したことも、
また同様に不当労働行為を構成するものである。
第三 法律上の根拠
 以上の次第であるから、会社が、(1)A、BおよびCを配置転換したこと、
(2)AおよびBを解雇したことは、いずれも労働組合法第七条第一号および第三
号に該当する。
 なお、申立人らはAおよびBを指名ストに入れたというけれども、その指名スト
は、本件配置転換および解雇に抗議するためになされたもので、解雇さえ撤回され
るならば、直ちに就労する意思を有していたと解されるから、本件救済に当つて
は、同人らが解雇の翌日以降受けるはずであつた賃金の遡及支払いを受け得ること
とした。
 よつて労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとお
り命令する。
命令書(再審)
中労委昭和五〇年(不再)第八八号
再審査申立人吉野石膏株式会社
昭和五二年一二月二一日 命令
再審査被申立人総評全国一般労働組合東京地方本部外三名
       主   文
一 中労委昭和五〇年(不再)第八八号事件初審命令主文第二項を取り消し、同第
三項記中「A氏、同B氏および同C氏」を「A氏および同B氏」に改める。
二 その余の本件再審査申立てを棄却する。
       理   由
第一 認定した事実
 当委員会の認定した事実は、初審命令の理由第一認定した事実の一の(1)ウ中
「東京工場東京支店営業課」を「東京工場、東京支店ボード課」に、「昭和四七年
四月」を「昭和四八年四月」に改め、一の(1)(エ)中「東京支店計算課に配属
されたが、」の次に「自動車運転免許を取得していないのに、」を加える。また、
二の(6)中「一月二六日」を「一月二一日」に、「全従業員」を「勤続一年以上
の主任以下の正社員で支給日当日在籍する者」に、三の(1)中「○○○○○」を
「○○○○○」に、同(3)中「一二日、一三日各一時間」を「一二日は二時間、
一三日は一時間」にそれぞれ改め、三の(1)の表の次に「なお、本件配転時にお
ける本社、東京支店の独身地方勤務未経験者の配転内示状況は次のとおりであ
る。」
<19723-003>
を加える以外は、同命令書第一認定した事実と同一であるので、これを引用する。
 なお、Cについては、申立分会より請求する救済の内容から削除する旨の「請求
する救済の内容一部取下書」が昭和五二年一〇月七日当委員会に提出された。
第二 当委員会の判断
一 分会の救済申立ての資格について
 会社は、地本と分会の二者が初審の救済申立となつているが、分会は地本の一下
部組織に過ぎず、独立の労働組合として救済申立資格を欠くものであること。ま
た、かりに分会に救済申立資格があつたとしても、単位組合とその下部機構が、同
一事案について、同時に救済申立てをすることは二重申立てとなることからして、
いずれの面からしても分会に救申立ての資格、能力ないし利益がないから却下すべ
きであると主張する。
 しかし、分会については、当委員会が、組合資格審査において調査したところ、
分会独自の規約を備えており、かつ、独自の協議機関、執行機関を有し、労働組合
法第二条の単位労働組合と認められる。また、分会が本件不当労働行為について、
地本とともにそれぞれ救済申立てをなしうる資格をもつものであることを否定すべ
き理由はないから、会社の主張はいずれも採用しがたい。
二 本件配置転換までの背景
 前記第一の一の(4)及び二の(1)~(5)、(7)認定のとおり、昭和四八
年六月二〇日分会が結成されて以後、労使間には①分会非公然時におけるEら四名
に対する地方配転と同配転の撤回 ②年末一時金をめぐる紛争 ③F社長の年頭挨
拶における暗に組合を非難していると受けとられるような発言 ④本社、東京支店
分会及び東京工場分会の分会役員に対する処分 ⑤労使協議会への参加拒否などの
問題が相次いで起り、分会は、不当労働行為の救済申立てをしたほか、地労委にあ
つせん申請するなど、労使の対立は険悪化しつつあつたことが認められる。
三 A及びBの配置転換について
(1) 配置転換について
 会社は、A及びBを配置転換したことは不当労働行為であるとした初審判断を争
い、次のとおり主張するので以下判断する。
 会社は、A及びBの配置転換は、直島工場の稼動に伴う西日本方面の販売体制の
強化と秋田、金沢の両出張所の昇格に伴う人材補強の必要性があり、伴せて、人事
停滞を防ぐために従来から行つていた定期異動の一環として行われたものであり、
販売体制の強化と人事の停滞を防ぎ、広く業務を体験させるため、地方に長くいる
者を可能な限り本社や東京支店にもどし、とくに、東京から地方への配置転換者に
独身者のうち地方経験のない者、販売面に適していると判断した者をあてるなどの
会社の方針に基づいて人選したと主張する。
 しかし、前記二名を含む本件人事異動をみると、前記第一の三の(6)認定のと
おり、本社、東京支店を合わせた本社フロアーの男子従業員約五〇名(うち分会員
二三名)中、一六名が配置転換を命じられているが、そのうち地方への配置転換は
九名でそのすべてが分会員であり、他方、非分会員の異動はすべて東京管内であ
る。しかも、本件配置転換に当つての前記会社の方針に照らしてみると、前記第一
の三の(1)認定のとおり、本件配置転換当時における本社、東京支店の独身地方
勤務未経験者は二八名(分会員、非分会員それぞれ一四名)いるが、東京から地方
への配置転換対象者九名全員が分会員であるのに対して非分会員一四名はすべて地
方への配置転換はされていない。このことを地方には分会員がいない分会の組織実
態と併せ考えると、この人選に特段の理由が認められない限り分会員なるが故に地
方への配置転換を命じたと判断されてもやむをえないというべきである。
 なお、本件配置転換の後昭和四九年四月から昭和五一年三月の間にかけて非分会
員を含めて独身者地方勤務未経験者が、一部地方への配置転換を命じられているこ
とが認められるが、このことをもつて、直ちに本件配置転換が正当なものであつた
とすることはできない。
 そこで、本件で争つている、A及びBについてみると、(ア)Aについては、東
京支店のボード課外勤販売担当者の中では勤務期間が最も短く、同人よりも長い者
が数名おり、その中で同人がとくに販売面に適していたとの疎明もないのに、販売
体制強化の重点ともみられる岡山営業所へ同人のみ配置転換していること、(イ)
Bについては、東京支店勤務が二年弱で、しかも営業の経験はなく、地方営業所勤
務には有用である自動車運転免許も取得していないことなど、いずれも他に優先し
て配置転換すべき事情は認められない。また、本件審問の全過程に徴してみても、
上記のような分会員に甚だしく偏した地方配置転換者の人選を首肯させるに足る事
情の疎明はない。このことを上記一判断のとおりの、分会結成以来の労使の対立を
併せ考えると、A及びBの配置転換は、分会の弱体化を意図し、定期異動と直島工
場の稼動に伴う人事異動の機会に分会員を本社フロアー及び本社の中枢部門から排
除するための一環として行つたものとみるのが相当であり、会社の主張は採用しが
たい。
 なお、会社は、分会役職者として通知を受けた者以外は、だれが分会員であるの
か知らなかつたと主張するが、分会結成以来、分会は、組合集会、ストライキ、そ
の他の組合活動を活発に行つており、会社は、分会の活動をつねに監視していたこ
と、とくに、ストライキについては、その参加者の賃金カツトを行つていること、
A及びBについては、分会のビラに職場委員として記載されていること、また、同
人らは団体交渉にも出席したりしていることなどから配置転換対象者で、だれが分
会員であるのか知らなかつたとの会社の主張は採用しがたい。
(2) 解雇について
 上記(1)判断のとおり、A及びBに対する配置転換命令が不当労働行為と認め
られるので、この命令に従わなかつたことを理由とする解雇も不当労働行為と認め
るのが相当である。
 したがつて、A及びBの配置転換及び解雇について、これを労働組合法第七条第
一号及び第三号に該当するとした初審判断は相当であつて、両名にかかわる本件再
審査申立てには理由がない。
四 Cについて
 Cについては、配置転換に同意し、分会から昭和五二年一〇月七日付文書で、
「請求する救済の内容一部取下書」が提出されたので、Cに関しては事件は終了し
た。
 以上のとおりであるので、労働組合法第二五条、同法第二七条及び労働委員会規
則第五五条を適用して主文のとおり命令する。

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