弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を大阪高等裁判所に差戻す。
         理    由
 被告人及び弁護人佐藤六郎の上告趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。
 被告人の上告趣意について。
 被告人は本件犯行をするに至つた事情を述べて寛大な処分を求めているが、刑の
量定を不当としてこれを上告の理由とすることは日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟
法の応急的措置に関する法律第一三条第二項によつて新憲法の施行以後においては
許されないのであるから被告人の上告趣意は理由がない。
 弁護人佐藤六郎の上告趣意について。
 記録を調べてみると、被告人と弁護人河井栄蔵とが連署した弁護人選任届が差出
されて原審は昭和二三年四月一六日にこれを受理して本件記録に編綴してあること
所論のとおりである。ただ右の弁護人選任届には被告人に対する「収賄事件」と表
示されているので右の弁護人選任届は(一)被告人に対する他の事件の弁護人選任
届が誤つて本件記録中に綴り込まれたものか(二)本件の弁護人選任届ではあるが
事件名の表示を誤記したものかは不明である。ともかくも本件には被告人に対する
強盗罪が起訴されているのであるから刑事訴訟法第三三四条により弁護人なくして
は開廷することのできない事件であることは言うまでもない。それ故、前記の弁護
人選任届が(一)の場合のものであるならば原審の裁判長は職権で弁護人を附けて
公判期日に召喚しなければならないし(二)の場合であるならば被告人の選任した
弁護人河井栄蔵を公判期日に召喚しなければならない。しかるに、記録によると原
審は被告人の弁護人を公判期日に召喚した形跡もなく、昭和二三年四月一六日の第
一回公判期日にも同月二一日の第二回公判期日にも被告人の弁護人なくして開廷し
事件の審理を進行して原判決を宣告している。もつとも原審公判調書によると、原
審共同被告人Aの弁護人であつたBが前記第二回の公判に際し被告人のためにも有
利な弁論をした旨の記載があるが、被告人が同人を弁護人に選任した弁護人選任届
も、原審の裁判長が職権で同人を被告人の弁護人に附けたことが認められる書面も
記録中にはないのであるから同人は本件の被告人の弁護人ではないこと所論のとお
りである。されば、原審は刑事訴訟法第四一〇条第一〇号に規定する法律により弁
護人を要する事件について弁護人の出頭することなくして審理をしたものであるか
ら弁護人佐藤六郎の上告趣意は理由がある。
 よつて、刑事訴訟法第四四七条第四四八条ノ二に従い原判決を破毀して本件を原
裁判所へ差戻すべきものと認め主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二三年一一月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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