弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮一年に処する。
     但し二年間右刑の執行を猶予する。
     第一審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人小野清一郎の上告趣意第一点について。
 所論は、公開の原則に反した旨の憲法違反をいうが、一件記録によれば、原審第
一回公判期日には、被告人及び弁護人が公開の法廷に出頭し、弁護人において弁論
し、同第二回公判期日にも、被告人及び弁護人出頭の上公開の法廷で判決言渡がな
されていることを認めることができるから、所論は、その前提を欠くものといわざ
るを得ない。また、刑訴四〇〇条但書の法意は、控訴裁判所が訴訟記録及び第一審
で取り調べた証拠だけで直ちに判決することができると認める場合でも、破棄自判
ができる趣旨であつて、所論のごとく「控訴裁判所において取り調べた証拠」によ
ることが必要ではないものと解するのが相当であるから(なお、昭和二九年六月八
日第三小法廷判決、判例集八巻六号八二一頁以下、昭和二六年一月一九日第二小法
廷判決、判例集五巻一号四二頁以下、同年二月二二日当法廷決定、判例集五巻三号
四二九頁以下、昭和二六年(あ)一六八八号同三〇年六月二二日大法廷判決、判例
集九巻八号一一八九頁以下参照)原判決には所論の違法も認め難い。
 同第二点について。
 原判決の維持した第一審判決掲記の各証拠(但し被告人並びにAの供述調書を除
く)は、同掲記の被告人の自白にかかる事実の真実性を保障するに足りるものと認
められるから、所論違憲並びに判例違反の主張は、採用し難い。
 同第三点について。
 所論は、公職選挙法二五二条一項の違憲をいうが、原判決は、明示的にも暗黙裡
にも、同条項の規定を適用していないのであるから、当法廷屡次の判例(判例集八
巻六号九七一頁以下等)の趣旨に従い、原判決に対する適法な上告理由と認め難い。
(但し昭和二九年四月二七日第三小法廷判決、判例集八巻四号五六八頁以下、昭和
二四年(れ)一九〇九号同二五年四月二六日大法廷判決、判例集四巻四号七〇七頁
以下、昭和二九年(あ)第四三九号同三〇年二月九日大法廷判決、判例集九巻二号
二一七頁以下参照)。
 弁護人佐々木良一、同坂野英雄、同山下卯吉の上告趣意第一点について。
 原判決は、弁護人等の控訴趣意第一点について、「自白を補強すべき証拠は、必
ずしも自白にかかる犯罪事実の全部にわたつて洩れなく存在することを必要とする
ものではなく、只単に自白にかかる事実の真実性を保障し得るを以つて足るものと
解すべきを相当とする」と判示しているから、原判決が第一審判決摘示第一の一の
事実認定の補強証拠に関し、所論掲記の当裁判所の判決に相反する判断をしたもの
と認めることはできない。次に、原判決は、同控訴趣意第六点については、特に右
に摘示したような判断を示していないけれども、右に摘示したと同一の法律見解に
従つたものと認められるから、第一審判決摘示第一の五の事実認定の補強証拠に関
しても、所論の判例違反があるものと認めることはできない。また、所論五の主張
は、原審で、弁護人等の控訴趣意第三点において事実誤認の主張として主張してい
るだけで、補強証拠がない旨の主張がなされず、従つて、原判決がこれにつき判断
もしていないから、その前提を欠くばかりでなく、第一審判決掲記の被告人の供述
調書を除いた各証拠就中Bの検察官に対する供述調書謄本中の「判示日時場所で被
告人から金一万円を選挙運動の報酬としてもらつた旨」の供述記載によれば、被告
人の供述調書と相俟つて、判示事実を肯認することができるから、所論は、採用で
きない。
 同第三点について。
 所論は事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らないし、また、
同四一一条三号を適用すべきものとも認められない。
 同第四点について。
 所論引用の判例は、本件に適切でないから、所論判例違反の主張は採用できない。
その他所論は、原判決に影響を及ぼすべき事項に関する主張とは認められないから
適法な上告理由として採用できない。
 小野弁護人の上告趣意第四点、竝びに、弁護人田中伊三次、同田中康道の上告趣
意(同補充)、弁護人佐々木良一他二名の上告趣意第二点は、量刑の非難であつて、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかし、職権を以て調査すると、記録に現わ
れた被告人の経歴、職業上の地位、ことに被告人が本件選挙に関係するに至つた事
情、本件金銭供与又は交付の相手方の人物その他諸般の状情に鑑みると原判決の刑
の量定が甚だしく不当であつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認
められるから、刑訴四一一条により主文第一項のとおり原判決を破棄し、同四一三
条但書により被告事件につき更らに判決するものとする。
 原判決の維持した第一審判決の確定した事実に対し、法令を適用すると被告人の
第一審判決の判示第一の一、二の(イ)(ロ)、三乃至七、八の(イ)(ロ)、九
の(イ)(ロ)の各所為は、公職選挙法二二一条一項一号に、同九の(ハ)及び十
の各所為は、同条同項三号に、同第二の一、二の各所為は、同条同項五号に各該当
するところ、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、所定刑中禁こ刑を選択
した上同法四七条、一〇条を適用して犯情の最も重いと認められる判示第一の八の
(イ)の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において被告人を主文第二項の刑に
処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め刑法二五条一項により主文三項の期間
その執行を猶予し、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条を適用して、主文のとおり
判決する。
 この判決は、裁判官真野毅の反対意見を除いては裁判官全員の一致による。
 本件に対する裁判官真野毅の意見は次のとおりである。
 第一審判決は、被告人に対し禁こ一年に処し、一年の執行猶予であつたが、第二
審では何等の証拠調もなさず訴訟記録および第一審取り調べの証拠によつて、第一
審確定の事実を援用し、禁こ一年の実刑に処した。かように近代刑事訴訟法の基本
原則である直接主義、口頭主義、公開主義に反して被告人に著しく不利益な量刑を
することは、憲法三一条、三七条に違反し、かつ刑訴四〇〇条但書の趣旨にも違反
するものといわねばならね。それ故、弁護人小野清一郎上告趣意第一点は理由があ
り、原判決は破棄さるべきである。なお職権調査による判示については異議がない。
 検察官 宮崎三郎出席
  昭和三〇年一二月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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