弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士田多井四郎治の上告理由は別紙のとおりである。
 原判決の確定するところによれば、D農地委員会は昭和二二年四月二七日、当時
上告人が所有していた本件農地について買収計画を定め、これに對し上告人は異議
を申し立てたが却下され、さらに訴願をしなかつたので山梨県知事は同年七月二日
上告人に買収令書を交付したのである。すなわち、本件農地の所有権は、右買収令
書の交付によつて国に帰屬したものと一応解せられるのである。
 よつて、D農地委員会は本件農地について、被上告人の補助參加人等を相手方と
する売渡計画を定めたのであるが、上告人は、これに對し異議、訴願を申し立てた
がいずれも斥けられ、本訴を提起したのであつて、本訴請求が右訴願裁決の取消を
求めるものであることは、記録に徴し明かである。
 前述のように、本件農地の所有權はすでに国に帰屬しているものと解せられるの
であるが、若し買収に重大明白な瑕疵があり、買収処分がその効力を有し得ないも
のとすれば、その所有權は国に帰屬せず、従つてかかる農地について定められた本
件売渡計画は違法であるといわなければならず、従つて、これを是認した本件訴願
裁決も違法であるとしなければならない。
 論旨は、右の買収処分は憲法一二条、二九条、一四条に違反し、従つて無効であ
ると主張するのである。しかしながら、自作農創設特別措置法による農地の買収は
公共の福祉のために行われるのであつて、單に小作人の利益のためにのみ行われる
のではなく、また、同法六条三項に定める農地の買収對価は憲法二九条三項にいう
「正当な補償」にあたり、従つて同法による農地の買収が憲法二九条に違反しない
ことは当裁判所大法廷判決(昭和二八年一二月二三日言渡同二五年(オ)九八号事
件)の判示するとおりであつて、論旨中憲法二九条違反の主張は理由がない。また、
買収が憲法一二条、一四条に違反するとの主張も、農地買収が憲法二九条に違反す
ることを前提とし、或は、農地の買収売渡が小作人にのみ利益を与えることを理由
とするのであるから前記当裁判所大法廷の判決の趣旨に徴し理由がないこと明白で
ある。そして原判決の確定するところによれば、被上告人の補助參加人等は昭和二
〇年一一月二三日現在の耕作者であるから、同人等を売渡の相手方とする計画を違
法とすべき理由はない。この点に関する論旨は、原審の事実認定を非難する等、法
令の解釋に関する重要な主張を含むものとは認められない。
 以上説明のとおり本件上告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴四〇
一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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