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平成28年12月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第14748号特許権侵害行為差止等請求事件(本訴)
平成25年(ワ)第31727号損害賠償請求事件(反訴)
口頭弁論の終結の日平成28年8月31日
判決
本訴原告兼反訴被告パナソニック株式会社
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士小松陽一郎
同川端さとみ
同森本純
同山崎道雄
同淳子
同藤野睦子
同大住洋
同訴訟復代理人弁護士中原明子
同訴訟代理人弁理士阿部伸一
同補佐人弁理士太田貴章
本訴被告兼反訴原告沖マイクロ技研株式会社
(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士永島孝明
同安國忠彦
同朝吹英太
同安友雄一郎
同補佐人弁理士若山俊輔
同久米川正光
主文
1被告は,別紙被告製品目録1及び2記載の各製品を製造し,販売し,輸
入し,又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,別紙被告製品目録1及び2記載の各製品並びにそれらの半製品
を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,8901万9752円及びこれに対する平成28
年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを8分し,その3を原告の負担と
し,その余を被告の負担とする。
6この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1本訴請求
被告は,別紙被告製品目録1及び2記載の各製品(以下,順に「被告製品
1」,「被告製品2」といい,これらを併せて「各被告製品」という。)を
製造し,販売し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。
被告は,各被告製品並びにその半製品及び各被告製品の製造に供する金
型を廃棄せよ。
被告は,原告に対し,2億5607万5000円及びこれに対する平成
27年9月5日(平成27年8月28日付け訴えの変更申立書の送達の日
の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2反訴請求
原告は,被告に対し,5000万円及びこれに対する平成25年12月7日
(反訴状の送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
第2事案の概要
1本件は,①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(特許番号第454775
1号。以下「原告特許権1」という。)を有するとともに,発明の名称を「流
体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(特許番号第4389904
号,4389905号,4461539号。以下,順に「原告特許権2」~
「原告特許権4」という。)を有していた原告が,被告に対し,次のの各請
求をする事件(本訴請求事件)及び②発明の名称を「モータ駆動双方向弁と
そのシール構造」とする特許権(特許番号第3049251号。以下「被告
特許権」という。)を有する被告が,原告に対し,次のの請求をする事件
(反訴請求事件)から成る。
本訴請求
ア原告が,被告に対し,被告による各被告製品の製造,販売等が原告特
許権1を侵害すると主張して,特許法(以下,単に「法」という。)100
条1項,2項に基づき,各被告製品の製造,販売等の差止め及び各被告製
品及びその半製品等の廃棄を求める。
イ原告が,被告に対し,被告による各被告製品及び各被告製品と同一の構
成の製品(以下「各被告製品等」という。)の製造,販売等が原告特許権1
を侵害するとともに,原告特許権2~4を侵害していたと主張して,民法
709条,法102条2項に基づく損害賠償金の一部である2億5000
万円及びこれに対する不法行為後の日である平成27年9月5日(平成2
7年8月28日付け訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みま
で年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
ウ原告が,被告に対し,被告による各被告製品等の製造,販売等が原告特
許権2及び3を侵害していたと主張して,民法703条に基づく不当利得
金607万5000円並びにこれらに対する平成27年9月5日(平成
27年8月28日付け訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
反訴請求
被告が,原告に対し,原告による別紙原告製品目録記載の製品(以下
「原告製品」という。)の製造,販売等が被告特許権を侵害していたと主張
して,原告に対し,民法709条,法102条2項に基づく損害賠償金又は
民法703条に基づく不当利得金の一部である5000万円及びこれに対
する不法行為後の日である平成25年12月7日(反訴状送達の日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る。
2前提事実(証拠等を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)
原告の特許権
ア原告は,次の特許権(原告特許権1。以下,これに係る特許を「原告特
許1」という。)を有している。
特許番号第4547751号
発明の名称遮断弁
出願日平成11年12月28日
登録日平成22年7月16日
イ~4。以下,これらに係
る特許を順に「原告特許2」~「原告特許4」という。)を有していた
が,原告特許権2~4は,原告の特許料不納のため,平成24年10月1
6日の経過(原告特許権2及び3)及び平成25年2月26日の経過(原
告特許権4)により,いずれも消滅した。(乙25~乙27)
原告特許権2
特許番号第4389904号
発明の名称流体制御弁
出願日平成18年6月29日
(特願平11-106245の分割出願,原出願日平成11年4月1
4日)
登録日平成21年10月16日
原告特許権3
特許番号第4389905号
発明の名称流体制御弁
出願日平成18年6月29日
(特願平11-106245の分割出願,原出願日平成11年4月1
4日)
登録日平成21年10月16日
原告特許権4
特許番号第4461539号
発明の名称遮断弁
出願日平成11年12月27日
登録日平成22年2月26日
(乙25~27,弁論の全趣旨)
ウ原告特許1及び4の各特許出願の願書に添付した各明細書(以下,それ
ぞれ「原告明細書1」,「原告明細書4」という。)の特許請求の範囲の
各請求項1の記載は,本判決添付の特許公報(第4547751号及び第
4461539号)の各請求項1記載のとおりである(以下,原告特許1
及び4の各請求項1に係る発明を,それぞれ「原告発明1」及び「原告発
明4」という。)。
また,原告特許2及び3の各特許出願の願書に添付した特許請求の範囲
の各請求項1の記載は,本判決添付の特許公報(第4389904号及び
第4389905号)の各請求項1記載のとおりである(以下,原告特許
2及び3の各請求項1に係る発明を,それぞれ「原告発明2」及び「原告
発明3」という。)。
エ被告は,平成25年9月18日,特許庁に対し,原告特許1~3につい
ての各特許無効審判(無効2013-800175,無効2013-80
0176,無効2013-800177)を請求し,特許庁は,平成26
年6月30日,いずれについても無効審判請求を不成立とする旨の各審決
をした。
上記各審決のうち,原告特許2及び3について無効審判請求を不成立と
した各審決は,いずれも被告が審決取消訴訟を提起せず確定した。原告特
許1について無効審判請求を不成立とした審決に対しては,被告が,知的
財産高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起したが(平成26年(行ケ)第1
0181号),同裁判所は,平成27年3月19日,被告の請求を棄却す
る旨の判決をし,同判決は確定した。
(甲28~30,41,弁論の全趣旨)
被告の特許権
ア被告は,次の特許権(被告特許権。以下,これに係る特許を「被告特
許」という。)の共有持分(持分2分の1)を有していたが,存続期間の
満了日である平成23年9月10日の経過により,権利が消滅した。
特許番号第3049251号
発明の名称モータ駆動双方向弁とそのシール構造
出願日平成3年9月10日
登録日平成12年3月31日
被告特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下「被告明細書」とい
う。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,本判決添付の特許公報(第
3049251号)の該当項記載のとおりである(以下,同項記載に係る
発明を「被告発明」という。)。
イ原告は,平成26年4月25日,特許庁に対し,被告特許についての特
許無効審判(無効2014-800064。以下「本件無効審判」とい
う。)を請求した。被告は,本件無効審判の手続において,被告発明につ
いての特許を無効とする旨の平成26年12月26日付け審決予告(以下
「本件審決予告」という。)を受け,平成27年2月2日付けで,特許庁
に対して特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求(以下,同訂正請求
に係る訂正を「本件訂正」という。)をした。本件訂正は,被告明細書の
特許請求の範囲の請求項1を別紙「被告発明の訂正後における請求項1の
記載」のとおり訂正する内容を含むものである(以下,同訂正後の請求項
1に係る発明を「被告訂正発明」という。)。
特許庁は,平成27年6月4日,「請求のとおり訂正を認める。本件審
判の請求は,成り立たない。」との審決をした。原告は,知的財産高等裁
判所に対し,上記審決の取消しを求める審決取消訴訟(平成27年(行ケ)
第10120号。以下「本件審決取消訴訟」という。)を提起したが,平
成28年2月17日,同裁判所において請求棄却判決を受けたため,最高
裁判所に対し,上告受理申立てをした。
(甲36,乙53~55,60,68,弁論の全趣旨)
原告及び被告の行為
ア被告は,平成24年4月以降,業として,被告製品1に該当する型番の
遮断弁「KBA35SL06A」(以下「被告製品1A」という。)及び被
告製品1には含まれないがこれと同一の構成を有する型番「KBA35S
L06C」の遮断弁(以下「被告製品1´」という。)を,それぞれ,中華
人民共和国に所在する被告の完全子会社(以下「被告子会社」という。)
から輸入し,日本国内においてその販売及び販売の申出をした。
また,被告は,遅くとも平成22年7月16日(本件訴状の被告への送
達日からさかのぼって3年前の日)以降,業として,被告製品2に該当す
る型番「KBA35ML08A」(以下「被告製品2の1」という。)及び
型番「KBA35ML10A」(以下「被告製品2の2」という。)の各遮
断弁を,被告子会社から輸入し,日本国内においてその販売及び販売の申
出をしていた。
イ原告は,遅くとも平成16年1月1日から平成23年9月10日(被告
特許の存続期間満了日)までの間,業として,日本国内において,原告製
品の製造,譲渡及び譲渡の申出をした。
原告発明1~4の各構成要件
原告発明1~4をそれぞれ構成要件に分説すると,次のとおりである(以
下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A」のようにい
う。)。
ア原告発明1
1A励磁コイルを有するステータと,
1B前記ステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形さ
れた剛体性の隔壁と,
1C流体室に取り付け可能で前記隔壁の円筒部外径より若干大きな内径
の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,
1D前記隔壁の円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方
向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,
1E前記隔壁の内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,
1F前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,
1G前記隔壁は,開放端につばを有し,前記つばを前記シール部材と共
に前記取り付け板段差部に挿入して構成した
1H遮断弁。
イ原告発明2
2Aコイルを有するステータと,
2B前記コイルへの通電によって励磁され回転するロータと,
2C前記ロータの回転軸と,
2D前記ステータとロータの間に介在し前記ロータを収納してガス流路
との気密性を保持する有底筒状の気密隔壁と,
2E前記気密隔壁の底部に設け前記回転軸の一方を受ける第2の軸受と,
2F前記気密隔壁の開口側に挿入され前記回転軸の他方を受ける第1の
軸受と,
2G前記気密隔壁の外周に配しベース板との間で気密性を保持するシー
ル材と,
2H前記ロータの回転を直動に変換する変換手段と,
2I前記変換手段を介してガス流路に配設した弁座への当接,離反によ
り流路の開閉を行う弁体と,
2J前記弁体を弁座側に付勢する付勢手段とを備え,
2K前記変換手段は,回転軸に形成したねじ部と弁体側に形成したナッ
ト部の係合により回転運動を直進運動に変換し,
2L-1前記第1の軸受と第2の軸受は,異なる材質を用いて構成する
と共に,
2L-2それぞれ前記回転軸に接触するラジアル軸受部と前記ロータと
当接するスラスト軸受部を有し,
2L-3弁開動作時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺
動抵抗に対し,弁閉状態時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受
部との摺動抵抗を大きくした
2M流体制御弁。
ウ原告発明3
3Aコイルを有するステータと,
3B前記コイルへの通電によって励磁され回転するロータと,
3C前記ロータの回転軸と,
3D前記ステータとロータの間に介在し前記ロータを収納してガス流路
との気密性を保持する有底筒状の気密隔壁と,
3E前記気密隔壁の底部に設け前記回転軸の一方を受ける第2の軸受と,
3F前記気密隔壁の開口側に挿入され前記回転軸の他方を受ける第1の
軸受と,
3G前記気密隔壁の外周に配しベース板との間で気密性を保持するシー
ル材と,
3H前記ロータの回転を直動に変換する変換手段と,
3I前記変換手段を介してガス流路に配設した弁座への当接,離反によ
り流路の開閉を行う弁体と,
3J前記ロータが回転する際に前記弁体が回転しないように規制する回
転防止手段と,
3K前記弁体を弁座側に付勢する付勢手段とを備え,
3L前記変換手段は,回転軸に形成したねじ部と弁体側に形成したナッ
ト部の係合により回転運動を直進運動に変換し,
3M前記回転防止手段は,前記ベース板側に設けた回転規制部を前記変
換手段のナット部に作用させることで前記弁体の回転を防止する構成
とし,
3N-1前記第1の軸受と第2の軸受は,異なる材質を用いて構成する
と共に,
3N-2それぞれ前記回転軸に接触するラジアル軸受部と前記ロータと
当接するスラスト軸受部を有し,
3N-3弁開動作時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺
動抵抗に対し,弁閉状態時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受
部との摺動抵抗を大きくした
3O流体制御弁。
エ原告発明4
4A励磁コイルを有するステータと,
4B前記ステータの内側に同軸に配設され貫通穴がなく,大径の円筒部
と小径の円筒部で形成された2段の底を有するなべ状に絞り加工で成
形された隔壁と,
4C中心孔と前記隔壁の小径の円筒部のなべ側面に嵌挿される嵌挿部を
有する合成樹脂製の第1の軸受と,
4D前記隔壁の大径の円筒部のなべ側面の開放端側に嵌挿された中心孔
を有するふた状の合成樹脂製の第2の軸受と,
4E前記隔壁の内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,
4F前記第1,第2の軸受に回転可能に緩挿された前記ロータの回転軸
と,
4G前記第2の軸受から外側に突出し前記回転軸に配設された弁機構と
で構成し,
4H前記第1の軸受けは,前記大径の円筒部の底に当接するストッパを
備え,前記ストッパを前記隔壁の大径の円筒部のなべ側面に接しない
大きさとしたことを特徴とする
4I遮断弁。
被告発明及び被告訂正発明の各構成要件
被告発明及び被告訂正発明をそれぞれ構成要件に分説すると,次のとおり
である(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」の
ようにいう。)。
ア被告発明
A回転軸(28)の左端部にリードスクリュー(28a)を形成し,ロ
ータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するよう
に非磁性材の薄板パイプ(38)を配設した正逆回転可能なモータDと,
BこのモータDの取付板(23)との間に装着されたスプリング(24)
により付勢されて弁座(21)に密着する弁体(22)と,
C先端部(25a)がこの弁体(22)の保持板(22a)に固定され,
前記リードスクリュー(28a)と螺合して,左右に移動する弁体移動
手段25と
Dからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁。
イ被告訂正発明
Aガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁において,
B回転軸(28)の左端部にリードスクリュー(28a)を形成し,ロ
ータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するよう
に配置され,Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール
構造をなし,当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板
パイプ(38)を有する正逆回転可能なモータDと,
CこのモータDの取付板(23)との間に装着されたスプリング(24)
により付勢されて弁座(21)に密着する弁体(22)と,
D先端部(25a)がこの弁体(22)の保持板(22a)に固定され,
前記リードスクリュー(28a)と螺合して,左右に移動する弁体移動
手段25と
Eからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁。
各被告製品及び原告製品の各構成要件充足性
ア各被告製品は,原告発明1の構成要件1Aないし1F及び1H,原告発
明2の構成要件2Aないし2L-1及び2M,原告発明3の構成要件3A
ないし3N-1及び3Oを充足し,被告製品1は,原告発明4の構成要件
4Aないし4C,4Eないし4G及び4Iを充足する。
イ原告製品は,被告発明の構成要件BないしDを充足する。また,原告製
品は,被告訂正発明の構成要件A,CないしEを充足する。
⑺相殺合意の成立
原告と被告は,平成28年8月31日,同日時点において,本訴請求債
権と反訴請求債権(いずれも不法行為に基づく損害賠償債権に係る部分も
含む。)とを対当額で相殺する旨の合意(以下「本件相殺合意」とい
う。)をした。
3争点
本件の争点は,以下のとおりである。なお,被告は,各被告製品につき,原
告発明1の構成要件1G,原告発明2の構成要件2L-2及び2L-3,原告
発明3の構成要件3N-2及び3N-3の各充足性を,被告製品1につき,原
告発明4の構成要件4D及び4Hの各充足性を,それぞれ争い,原告は,原告
製品について被告発明の構成要件Aの充足性を争う。
本訴請求について
ア各被告製品が原告発明1の技術的範囲に属するか(争点)
イ各被告製品が原告発明2,3の技術的範囲に属するか(争点)
ウ被告製品1が原告発明4の技術的範囲に属するか(争点)
エ差止め及び廃棄請求の必要性
オ原告の損害額及び被告の不当利得額(争点)
反訴請求について
ア原告製品が被告発明の技術的範囲に属するか(争点)
イ被告発明に係る特許の無効理由の有無(争点⑺)
ウ本件訂正により被告発明に係る特許の無効理由が解消したか(争点⑻)
エ被告の損害額及び原告の不当利得額(争点⑼)
4争点に関する当事者の主張
各被告製品が原告発明1の技術的範囲に属するか)について
[原告の主張]
ア各被告製品の構成は,別紙「原告の主張に係る各被告製品の構成」記載
のとおりである。
各被告製品についての原告発明1の充足論に関する争点は,構成要件1
Gの「前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して
構成した」の充足性のみである。
イ原告発明1は遮断弁に関する物の発明であり,物の組立方法をもって発
明を特定するものでないから,構成要件1Gの「前記つばを前記シール部
材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した」は,つばがシール部
材と共に前記取り付け板段差部に挿入されたという物の客観的な構成を特
定するものであり,このことは,原告明細書1の記載(段落【0012】
~【0014】,【0021】,【0022】,【0039】,【005
4】,【0060】,【0071】,【図1】)からも明らかである。
被告は,上記構成要件1Gの「共に」につき,時間的に「同時に」の意
味であると主張するが,原告明細書1の上記各記載に照らせば,原告発明
1は,高度の気密性を確保するための各部材の選択及び部材相互の組合せ
構造並びに嵌着及び固着構造そのものに発明の本質が認められるのであっ
て,構成要件1Gの「前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段
差部に挿入して構成した」は,物の客観的構成としての「つばとシール部
材とが共に取り付け板段差部に挿入されてなる構成」を意味するものと解
釈すべきである。この点,原告が原告特許1の出願経過において提出した
意見書(乙19)の記載は,原告発明1では隔壁とシール部材とを一体的
に取り付け板段差部に嵌着することができて組立作業が容易となること,
すなわち,そのような組立てが可能な構造であることを示した記載に過ぎ
ず,時間的な意味で厳密に「同時」に隔壁とシール部材とを取り付け板段
差部に挿入する構成に限定するものではない。
ウ各被告製品は,段差部にキャンが挿入された状態において,キャンの外
周に嵌着されたOリングをステータの開口縁部でつば側に押し込むことに
よって,Oリングを段差部に挿入し,これによりはじめて,キャンとOリ
ングとが一体的にベースフランジに嵌着されるから,まさに,隔壁とシー
ル部材とを共に取り付け板段差部に挿入する構成を備えるものである(な
お,仮に被告が主張する「同時に」の解釈に立ったとしても,Oリングを
押し込んだ時点で,キャンとOリングとは一体的に「同時に」ベースフラ
ンジに嵌着されるといえる。)。
エ以上によれば,各被告製品は,構成要件1Gを充足するから,原告発明
1の技術的範囲に属する。
[被告の主張]
ア原告は,原告特許1の出願審査において,特許庁から拒絶理由通知を受
けたのに対し,請求項1に構成要件1Gを追加する補正を行うとともに,
意見書において,「つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に
挿入して構成した」の意義に関し,「本願発明は,隔壁が開放端につばを
有し,このつばをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して構成した
ところに特徴を有するもので,隔壁の開放端につばを構成することにより
強度を確保できるので,隔壁の変形を防止して真円度を確保することがで
き,更に,組み立ての際に,シール部材を押し込むことで,同時に隔壁を
取り付け板段差部に挿入する事が出来るため組立作業も容易となるという
格別の効果を奏するものであります。」と述べている。また,原告は,原
告特許1に関する無効審判の手続においても,同様の主張をしている。
したがって,構成要件1Gの「共に」とは,組み立ての際に,シール部
材の押し込みによって,シール部材と隔壁とを「同時に」取り付け板段差
部に挿入することと解すべきである。
これに対し,各被告製品は,①まず,Oリングがつばに至る軸方向途中
まで嵌着されたキャンをベースフランジの段差部に挿入し,②次に,段差
部にキャンが挿入された状態で,キャンの外周に嵌着されたOリングをス
テータの開口縁部でつば側に押し込むことによって,Oリングを段差部に
挿入するものであって,シール部材に該当する「Oリング」と,隔壁に該
当する「キャンのつば」とを,Oリングの押し込みによって,「同時に」
ベースフランジの段差部に挿入するものではない。
イまた,原告は,原告特許1の出願審査及び無効審判の手続において,原
告発明1につき,①隔壁の変形を防止して真円度を確保することができ,
②組み立ての際にシール部材を押し込むことで,同時に隔壁を取付板段差
部に挿入することができるため組立作業が容易となり,③つばが組み立て
工程においてシール部材の位置を仮決めするストッパとして機能し,シー
ル部材を正しい位置にセットすることを容易にし,また,シール部材の挿
入時の隔壁円筒部外周面及び取付板段差部内周面とシール部材とのすべり
嵌合を別工程にでき,無理な荷重を加えることなく容易にシール部材を円
周方向に圧縮しながら組立てできるという効果を奏することを主張したの
であり,このような原告の主張を受けて原告特許1が特許査定され,無効
審判においても無効理由がないと判断されたことに照らせば,原告発明1
は,上記①~③の全ての効果を奏する発明として解釈されなければならな
い。
これに対し,各被告製品は,原告発明1における上記①~③のいずれの
作用効果も有していない。
ウさらに,原告は,無効審判の口頭審理において,隔壁の外周に配された
シール部材と接触していない「つば」を有する遮断弁については,意識的
に特許請求の範囲から除外したと解される陳述をしているから,構成要件
1Gにおける「前記つばを前記シール部材と共に」とは,隔壁の「つば」
と隔壁の外周に配された「シール部材」とが互いに接触した構造でなけれ
ばならないと解される。これに対し,各被告製品においては,組立工程の
最初から最後まで,Oリング(シール部材)が「つば」と接触することは
一度もなく,また,組立完了後も,Oリング(シール部材)と「つば」は
互いに接触しない。
エ以上によれば,各被告製品が,構成要件1Gを充足せず,原告発明1の
技術的範囲に属しないことは明らかである。
原告発明2,3の技術的範囲に属するか)について
[原告の主張]
ア文言侵害について
本件の争点は,構成要件2L-2,2L-3及び3N-2,3N-3の
「スラスト軸受部」の充足性のみであるところ,被告は,原告発明2及び
3は,「回転運動を阻害するトルク」が「ロータとスラスト軸受部との摺
動」によって生じることを特徴としているとし,このことから,「スラス
ト軸受部」はすべり軸受に限定される旨主張する。
しかしながら,「摺動抵抗」は「ロータの回転運動を阻害するトルク」
を意味するもので,ロータと軸受との接触面の摩擦に限定されるものでは
ない。「ころがり軸受」がロータと当接した場合は,玉(転動体)と玉が
ころがる平面との間で生じる摩擦によって,ロータの回転運動を阻害する
トルクが生じるのであるから,機序に若干の相違はあるものの,「ころが
り軸受」もすべり軸受と同様に,ロータを受けてその回転運動を阻害する
部材であり,これを原告発明2及び3の「スラスト軸受部」に含めても
「摺動抵抗」の意義と矛盾しない。原告特許2及び3の特許出願の願書に
添付した各明細書(以下,それぞれ「原告明細書2」,「原告明細書3」
という。)において開示された実施例はすべり軸受であるが,あくまで実
施例として記載されたものであるから,同記載のみで「軸受」がすべり軸
受に限定されるはずはない。むしろ,原告明細書2及び3においては,
「軸受」をすべり軸受に限定しておらず,かえって,軸受とロータの接触
面積のみならず軸受の「材質」で摺動抵抗に差異が生じることを開示して
いるのであるから(原告明細書2の段落【0012】,【0018】),
当業者は「軸受」にころがり軸受が含まれることを当然に読み取ることが
できる。
よって,ころがり軸受である被告製品の軸受Qも,原告発明2の構成要
件2L-2,2L-3及び原告発明3の構成要件3N-2,3N-3の
「スラスト軸受部」に相当し,これらの各構成要件をいずれも充足する。
イ均等侵害について
原告発明2及び3と各被告製品との相違点は,軸受の一方が「すべり軸
受」か「ころがり軸受」かという点のみである。
そして,原告発明2及び3と各被告製品は,いずれもロータの回転力を
阻害するトルクが異なる2つの軸受(第2の軸受・第1の軸受)を設け,
場面に応じて,ロータと接触する軸受を選定して使用するよう構成し,そ
の結果,トルクの異なる電動機出力が得られるようにして,当該出力を選
択的に開閉弁の開成力あるいは閉止性能として利用するとの作用効果を奏
するものである。これに対し,各被告製品もトルクが異なる2つの軸受
(軸受P=合成樹脂・すべり軸受,軸受Q=金属製,ころがり軸受)を設
け,ロータは,弁開動作時にトルクの小さい軸受Qに,弁閉状態時にトル
クの大きい軸受Pにそれぞれ当接するようになっているから,いずれも
「異なるトルク出力を選択的に開閉弁の開成力もしくは閉止性能として利
用する」という全く同一の作用効果を奏する(置換可能性)。また,各被
告製品の製造時において,軸受にすべり軸受ところがり軸受があり,すべ
り軸受はころがり軸受に比して摩擦係数がはるかに小さいことは技術常識
であったから,当業者は,すべり軸受に代えてころがり軸受を採用するこ
とを容易に想到できた(容易想到性)。さらに,原告発明2及び3の本質
的部分は,ロータの回転力を阻害するトルクが異なる2つの軸受を設け,
ロータと接触する軸受を場面に応じて選択するよう構成するという点にあ
り,「軸受」がすべり軸受かころがり軸受かは本質的部分ではない(非本
質的部分)。加えて,各被告製品は原告特許2及び3の出願時の公知技術
と同一又は公知技術から容易に推考できたものではないし(非容易推考),
出願手続上も,各被告製品を原告発明2及び3から意識的に除外したなど
の事情は存在しない(非意識的除外)。
したがって,仮に,原告発明2及び3の「スラスト軸受部」にころがり
軸受が含まれないとしても,各被告製品について,原告特許権2及び3の
均等侵害が成立する。
ウ以上によれば,各被告製品は,原告発明2及び3の技術的範囲に属する。
[被告の主張]
ア文言非侵害について
原告発明2及び3は,第1の軸受と第2の軸受について,いずれも,
「それぞれ前記回転軸に接触するラジアル軸受部と前記ロータと当接する
スラスト軸受部を有」すること(構成要件2L-2及び3N-2),「弁
開動作時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗に対し,
弁閉状態時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗を大
きくした」こと(構成要件2L-3及び3N-3)を発明特定事項として
いるところ,「摺動抵抗」とは滑って動くことによる抵抗,すなわち「す
べり摩擦」を意味し,そのような抵抗を生じさせる軸受部が「スラスト軸
受部」に該当する。「すべり軸受」は,すべり運動によってすべり摩擦
(摺動抵抗)だけが生じる軸受であるのに対し,「ころがり軸受」は,こ
ろがり運動によるころがり摩擦(ころがり抵抗)の小さいことを利用した
軸受であり,その機序が全く異なる上,摩擦係数も,すべり摩擦の方がこ
ろがり摩擦よりはるかに大きいことは技術常識である。
したがって,「スラスト軸受部」は,潤滑油膜を介して流体潤滑によっ
て摩擦を減じる「すべり軸受」に限定され,ころを介して軸と軸受とのす
べり摩擦をころがり摩擦に変換して摩擦を減じる「ころがり軸受」は,
「スラスト軸受部」には含まれない。原告明細書2及び3の各図1~4に
も,一体成形された一部材からなる「すべり軸受」が開示されているので
あって,「スラスト軸受部」が,すべり軸受とは機序のみならず摩擦係数
も大きく異なる「ころがり軸受」をも含むと解釈する余地はない。
各被告製品は,いずれも,前端側の軸受Qが「すべり軸受」ではなく
「ころがり軸受」であるから,構成要件2L-2及び3N-2を充足しな
い。
イ均等非侵害について
原告は,「スラスト軸受部」ところがり軸受とは,軸受の種別の違いで
しかなく,ロータとの当接によりロータの回転運動を阻害するトルク(摺
動抵抗)が生じる点に違いはないとして,各被告製品について,原告発明
2及び3の均等侵害を主張する。
しかしながら,構成要件2L-2及び3N-2は,いずれも,原告特許
2及び3の出願審査に際しての特許庁からの拒絶理由通知に対し,原告が,
原告発明2及び3の進歩性を主張すべく手続補正書で追加した事項である。
したがって,包袋禁反言の法理により,原告が意識的に除外した構成であ
る構成要件2L-2及び3N-2をいずれも充足しない構成について,均
等論を適用する余地はない(意識的除外)。また,審査経過に照らせば,
構成要件2L-2及び3N-2はいずれも原告発明2及び3の本質的部分
である(本質的部分)。
したがって,構成要件2L-2及び3N-2については,いわゆる均等
の第5要件及び第1要件をいずれも具備せず,均等論を適用する余地はな
い。
ウ以上のとおり,各被告製品が,原告発明2又は3の技術的範囲に属しな
いことは明らかである。
1が原告発明4の技術的範囲に属するか)について
[原告の主張]
ア文言侵害について
構成要件4Dの充足性
被告製品1の合成樹脂製の「ふた状部材」には,中心孔が同軸になる
よう金属製の「軸受Q」が嵌挿されており,上記「ふた状部材」は,
「軸受Q」と一体となって,キャンの大径の円筒部のなべ側面の開放端
側に嵌挿された中心孔を有するふた状の軸受が構成されているから,被
告製品1の「軸受Q」及び「ふた状部材」は,一体の構成として,原告
発明4の「第2の軸受」に相当する。したがって,被告製品1は,構成
要件4Dを充足する。
これに対し,被告は,被告製品1の軸受Qは金属製であるから「ふた
状の合成樹脂製の第2の軸受」を充足しないと主張するが,原告発明4
において,第2の軸受が合成樹脂製であることの技術的意義は,原告明
細書4の「隔壁47の円筒部47cと第2の軸受49の嵌挿部49eは
締まり嵌めで嵌合している。第2の軸受49の嵌挿部49eと中心孔4
9aとの間には,薄肉化した波紋状の応力緩和部49dが形成されてい
る」(段落【0027】)という点にしか認められない。したがって,
原告発明4における第2の軸受は,嵌挿部49eが締まり嵌めで嵌合し,
応力緩和部49dが形成される限度で合成樹脂製であれば足り,部材全
部が合成樹脂製であることまで要するものではない。被告製品1は,合
成樹脂製のふた状部材を有し,ふた状部材の中心部に,ふた状部材と同
軸に金属製の軸受Qが嵌着される構成であり,この合成樹脂製のふた状
部材によって,隔壁の円筒部とふた状部材の嵌挿部とが締まり嵌めで嵌
合し,ふた状部材の嵌挿部と中心孔との間に薄肉化した波紋状の応力緩
和部が形成されているのであるから,構成要件4Dの充足性は否定され
ない。
構成要件4Hの充足性
被告製品1の軸受Pは,キャンの大径の円筒部の底に当接するストッ
パを備え,ストッパはキャンの大径の円筒部のなべ側面に接しない大き
さである。したがって,被告製品1は,構成要件4Hを充足する。
これに対し,被告は,被告製品1の仕様上,突起部と大径の円筒部の
底との間に0.15ミリメートルの「すきまA」が生じるから,軸受P
の突起部はキャンの大径の円筒部の底に当接しないと主張する。しかし,
①被告の主張する「すきまA」なるものは,その幅が0.15ミリメー
トルというごく微細なものであって,軸受Pの製造時や被告製品1への
組込み時,あるいは作動時における誤差の範囲内であると考えられるの
であって,被告において,これらいずれの段階でも常に,0.15ミリ
メートルの「すきまA」が生じているという立証はされていない。また,
②第1の軸受の隔壁の大径の円筒部の底への「当接」は,原告明細書4
の「当接するよう」(に)(段落【0026】)との記載からも明らか
なとおり,常に当接していることを要求するものではないから,仮に,
製造時に0.15ミリメートルのすきまAが存在することがあるとして
も,被告製品1の突起部は構成要件4Hのストッパに該当する。さらに,
③被告製品1の軸受Pは金属製ではなく合成樹脂製であり,かつ,ロー
タの回転を阻害しないように必ずスラスト方向の隙間(ガタ)が形成さ
れているから,閉成動作時には,弁体が弁座に当接した後さらに回転す
ることで,ロータが軸受P側に移動し,軸受Pを押すことによる反力に
起因する閉止保持トルクを得ることとなる。その際,軸受Pに圧縮の力
学的作用が生じるから,被告製品1について,製造時の段階ですきまA
が生じていたとしても,遮断動作によって,すきまAの存在がなくなる
可能性がある。加えて,④原告発明4で重要なのは,隔壁を二段の底を
有する形状とし,小径の円筒部のなべ側面に合成樹脂製の軸受を嵌装す
ることであって,大径の円筒部の底への当接は付随的なものにすぎない。
しかるに,被告製品1の軸受Pも,キャンの小径の円筒部の底には当た
っている。したがって,被告の主張は,いずれも被告製品1の構成要件
4Hへの充足性を否定する根拠とはならない。
なお,被告は,原告が被告製品1のストッパであると指摘する突起部
に逆向き挿入防止の意義があると主張するが,軸受Pがキャンの大径の
円筒部の底に当接する以上,付加的に逆向き挿入防止の意義があったと
しても,ストッパであることを否定する理由となるものではない。
イ均等侵害について
仮に,被告製品1の軸受Pの突起部が,
文言上,構成要件4Hの「当接するストッパ」に該当しないとしても,均
等侵害が成立する。
すなわち,被告製品1の軸受Pは,隔壁の小径の円筒部のなべ側面と底
に接していることによって軸受の取り付け精度を向上させており,原告発
明4での隔壁の小径の円筒部のなべ側面と大径の底と接することにより取
り付け精度を向上させるという作用効果と同様であり(作用効果の同一
性),置換が可能かつ容易であるといえるし(容易想到性),突起部が大
径の底に当接するか,わずか幅0.15ミリメートルの微細な隙間が設け
られているかの差異は,原告発明の本質的部分に係るものではない(非本
質的部分)。なお,原告が手続補正により構成要件4Hを追加したのは,
第1の軸受が「ストッパ」を備えていない引用発明に対し,補正によりス
トッパを備える構成を加えたもので,ストッパが大径の底に常に当接する
構成に限定したものではない(意識的除外なし)。
ウ以上によれば,被告製品1は,原告発明4の技術的範囲に属する。
[被告の主張]
ア文言非侵害について
構成要件4Dの非充足
構成要件4Dは,「前記隔壁の大径の円筒部のなべ側面の開放端側に
嵌挿された中心孔を有するふた状の合成樹脂製の第2の軸受」であるこ
とを発明特定事項とするのに対し,被告製品1の軸受Qは金属製である
から,構成要件4Dを充足しない。
これに対し,原告は,被告製品1の軸受Qが金属製であることを自認
しつつ,合成樹脂製の「ふた状部材」に軸受Qが嵌挿されて一体のふた
上の軸受が構成されるから「ふた状の合成樹脂製の第2の軸受」に相当
するなどと主張するが,被告製品1の軸受Qは,合成樹脂製の「ふた状
部材」とは別部材であり,同「ふた状部材」は軸受としての機能を備え
ていないから,上記原告の主張には理由がない。
構成要件4Hの非充足
構成要件4Hは,「前記第1の軸受は,前記大径の円筒部の底に当接
するストッパを備え」ることを発明特定事項とするのに対し,被告製品
1は,軸受Pの突起部がキャンの大径の円筒部の底に「当接」していな
いから,構成要件4Hを充足しない。
すなわち,被告製品1の仕様は,キャンにおける小径の円筒部(凹部)
の深さが2.3ミリメートル,軸受Pにおける突起部を基準とした高さ
が2.45ミリメートルにそれぞれ設定されているため,組立状態にお
いて,突起部と大径の円筒部の底との間に0.15ミリメートルのすき
まAが生じるのであり,実際の管理公差(部品加工メーカが購入してい
る材料の管理公差)を前提に最も公差が生じる場合であっても0.02
ミリメートルのすきまAが残る。したがって,軸受Pの突起部がキャン
の大径の円筒部の底に「当接する」ことは起こり得ないから,当該突起
部は構成要件4Hの「ストッパ」としての機能を有しない。
そもそも,被告製品1における軸受Pの突起部は,軸受Pを逆方向に
挿入しないための対策(いわゆる「ポカよけ」=作業ミスの防止)とし
て設けたものであり,軸受Pの位置決めは,小径の円筒部のなべ側面と,
小径の円筒部の底の2つの面でなされるから,軸受Pの突起部がキャン
の大径部の底に当接している必要はないのである。
なお,原告は,原告明細書4に「当接した」ではなく「当接するよう」
(に)と記載されていることを根拠に,第1の軸受は隔壁の大径の円筒
部の底に常に当接していなければならないものではないなどと主張する
が,明細書の記載における日本語の解釈として,ここにいう「ように」
は,当接している状態を示すものであり,比喩として用いられているも
のではないから,かかる原告の主張は,文言を曲解した不当なものであ
る。
イ均等非侵害について
原告は,予備的に均等侵害を主張する。しかしながら,構成要件4Hの
「当接するストッパ」は,拒絶理由通知に対する手続補正書において,原
告が,原告発明4の進歩性を主張すべく追加された事項であり,意見書
(乙52)においても,隔壁の小径のなべ側面と大径の円筒部の底という
2つの面でストッパの位置決めをすることが公知文献との差異を決定付け
る特徴的部分として主張されている。このような経過に照らせば,「当接
するストッパ」を有しない構成を原告が意識的に除外したことは明らかで
ある。また,隔壁の小径のなべ側面と,大径の円筒部の底の2面によって
ストッパの位置決めがされることは原告発明4の特徴的部分であるから,
ストッパが大径の円筒部の底に当接することは,原告発明4の本質的部分
である。
したがって,均等の第5要件及び第1要件をいずれも具備しないから,
均等論を適用する余地はない。
ウ以上によれば,被告製品1は,原告発明4の技術的範囲に属しない。
差止め及び廃棄請求の必要性)について
[原告の主張]
ア被告は,各被告製品について設計変更を実施したと主張するが,遮断弁
には高度の信頼性が求められるため,設計変更をした遮断弁を顧客(ガス
メータメーカー)に納品するためには,顧客から設計変更についての承認
を得る必要がある。設計変更後の被告の製品は,原告発明1の技術的範囲
に属する各被告製品と比して,製品の信頼性が明らかに後退しているので
あって,そのような設計変更を顧客が承認したとはにわかに考え難い。設
計変更につき顧客が承認しなければ,被告は,設計変更前の各被告製品の
販売を継続せざるを得ないところ,被告は,設計変更につき顧客から承認
を受けたことを示す証拠を提出していない。さらに,被告は,中国で各被
告製品の部品在庫が全て廃棄されたことを示す証拠についても提出してい
ない。
しかも,被告は,各被告製品が原告発明1の技術的範囲に属さないと終
始争っているのであるから,設計変更のいかんにかかわらず,少なくとも
侵害のおそれを肯定することはでき,各被告製品の差止めを求める必要性
は,依然として十分認められる。
イまた,被告は,各被告製品の完成品,半製品及び各被告製品の製造に要
する金型を有しているから,原告が,各被告製品の完成品,半製品及び各
被告製品の製造に要する金型の廃棄を求める必要性も認められる。
[被告の主張]
ア被告は,各被告製品について設計変更を実施しており,これにより,設
計変更後の被告の製品がいずれも原告発明1の技術的範囲に属しないこと
に疑いの余地はなくなった。また,被告は,各被告製品を完成品として中
国内の被告子会社から輸入し,これを日本国内で販売していたが,上記設
計変更に伴い,被告子会社は,既に中国での各被告製品の製造を中止し,
部品の在庫も全て廃棄した。そのため,遅くとも平成27年9月には,日
本国内においても被告の保有する各被告製品の在庫がなくなり,以後,被
告による各被告製品の保有及び販売は生じ得ないから,将来においても原
告特許権1の侵害行為が行われるおそれは全くない。したがって,原告が
求める各被告製品の販売等の差止め(請求の趣旨第1項)並びに各被告製
品及びその半製品並びに各被告製品の製造に供する金型の廃棄(同第2項)
を求める訴えは,いずれも訴えの利益を欠く。
イ原告は,各被告製品の製造に供する金型の廃棄を求めているが,被告は
かかる金型を保有していないから,原告の廃棄請求権のうち,金型の廃棄
を求める部分は理由がない。
及び被告の不当利得額)について
[原告の主張]
ア特許権侵害の不法行為についての原告の損害額
原告は,被告による原告特許権1~4の侵害行為について,法102
条2項に基づく損害額の算定を主張するから,被告が侵害行為により得
た利益の額(限界利益額。侵害品の売上額×限界利益率)が原告の受け
た損害の額と推定される。
各被告製品等の譲渡数量
原告特許権1の設定登録時(平成22年7月)から平成27年8月ま
でに被告が販売した各被告製品等の譲渡数量は,下記の表のとおり,合
計●(省略)●個である。
このうち平成22年7月ないし平成27年6月の各期間における被告
製品2の1の販売数量は被告の主張をそのまま採用したものであるが,
同期間における被告製品2の1以外の各被告製品等の販売数量は,原告
が各ガスメータメーカーに対し同期間内に販売したコントローラーの総
数から,原告が当該ガスメータメーカーに対し販売した遮断弁の個数を
差し引くことにより算出したものである。これは,各ガスメータメーカ
ーに対し遮断弁を販売しているのが,原告及び被告の2社のみ(一部の
製品については被告のみ)である一方,原告は,各ガスメータメーカー
に対し,被告製品2の1以外の各被告製品等につき,遮断弁1個に1台
が必要とされるコントローラーの全数を販売しているから,上記方法に
よって各被告製品等の販売数量を正確に算出できるからである。なお,
平成27年7月及び同年8月における各被告製品等の販売数量は,上記
の各方法によって算出した平成27年4月から6月の各被告製品等の販
売数量に基づき,推定計算により算出したものである。

●(省略)●
以上
各被告製品等の売上
各被告製品等の単価は,被告製品1Aが●(省略)●円(消費税別。
以下同じ),被告製品2の1が●(省略)●円●(省略)●,被告製品
2の2が●(省略)●円であり,4-6号及び10-16号の各遮断弁
の単価は,少なくとも●(省略)●円である。したがって,被告による
各被告製品等の売上は,下記の表のとおり,合計●(省略)●円である。

●(省略)●
以上
被告の限界利益
a被告と同様に遮断弁を製造,販売している原告において,各被告製
品等についての製造コスト等を算定したところ,被告製品1Aの限界
利益率は●(省略)●%であったから,他の各被告製品等も同様であ
ると考えられる。
したがって,各被告製品等の限界利益率は●(省略)●%であり,
各被告製品等に係る被告の限界利益は,合計●(省略)●円(計算式
は,●(省略)●円×●(省略)●%)である。
bこの点,被告は,被告子会社からの各被告製品等の完成品の仕入原
価の全額について,売上から控除されるべき変動経費であると主張す
る。しかし,被告子会社は,被告の完全子会社で,被告から具体的な
指示を受けて各被告製品等を製造した上,その全数を被告に納入して
いるのであるから,被告の主張によると,本来,固定経費として控除
がされない経費をも含めて変動経費として控除されることとなってし
まい,不当である。そこで,侵害品の製造コストは,被告子会社にお
ける具体的な製造コストに基づき算定すべきである。また,被告と被
告子会社との間には,原告特許権1~4に対する特許権侵害において,
主観的関連共同性及び密接な客観的関連共同性が認められるから,被
告子会社は,原告特許権1~4の侵害行為を少なくとも幇助したもの
として,損害賠償義務を負担することとなる(民法719条2項参
照)。したがって,各被告製品等の限界利益率は,連結による収支計
算で考えるべきであって,各被告製品等について,上記aで算定した
●(省略)●%を下回る限界利益率が認められる余地はない。
さらに,被告は,各被告製品等を日本国内で販売するための輸入費,
国内顧客への販売輸送費その他の販売経費,ガス弁専属の設計技師の
人件費,その他各被告製品等の販売のために直接必要になった直接固
定費も売上から控除すべきであると主張するが,かような主張は根拠
を全く欠いており,認められる余地はない。
寄与率
原告発明1は,ガス遮断弁の構成要素となる構成のほぼ全部を特定
し,これらの各部品の有機的かつ相互の組合せにより,製品全体とし
て,ガス漏出防止につき高度の信頼性を実現する発明であって,隔壁
の開放端につばが設けられているか否かという構成の一部に限定され
た発明ではない。また,原告発明1に関連するモータ式ガス遮断弁を
製造,販売するメーカーは,原告及び被告の2社のみであるところ,
原告が約●(省略)●割のシェアを占めている。さらに,原告発明1
は,その採用する構成の信頼性が高く評価されており,この高度の信
頼性は他の技術によって代替できないし,ガス漏出防止という製品の
目的からも,信頼性の低い製品で代替させることは全く想定できない。
こうしたことからすると,被告は,原告特許権1を侵害しなければ,
各被告製品等を製造,販売することができなかったのであり,被告が
得た利益は,ほとんどそのまま,原告の受けた損害に対応する関係に
ある。
したがって,原告発明1の実施が各被告製品等の売上げに寄与した
割合は大きく,被告の限界利益の少なくとも8割が,被告の侵害行為
と相当因果関係にある利益というべきである。
イ被告の不当利得額
原告特許2及び3の各登録日は,いずれも平成21年10月16日で
あるところ,被告は,同日から平成22年7月10日(平成25年7月
10日(同月9日付け訴えの変更申立書が郵送により裁判所へ到着した
日)の3年前の日)までの間,実施料の支払をしないまま,権限なくし
て原告発明2及び3を実施して被告製品2を製造,販売して利益を受け,
これにより,原告は実施料相当額の損害を被った。
被告の上記期間における被告製品2の販売数量は少なくとも●(省略)
●個,単価は少なくとも●(省略)●円であり,原告特許権2及び3を
合わせた実施料率は被告の売上高の9%を下らない。
したがって,上記期間における被告製品2の製造,販売に係る被告の
不当利得額は,少なくとも●(省略)●円(計算式は,上記期間におけ
る販売数量●(省略)●個(●(省略)●個×9/12年(平成21年
10月16日~平成22年7月10日までの約9か月間))×単価●
(省略)●円×実施料率9%)となるから,被告は原告に対し,少なく
とも●(省略)●円の不当利得返還義務を負う。
ウまとめ
上記アのとおり,被告による原告特許権1~4の侵害行為によって原告
が受けた損害の額は,法102条2項に基づき,少なくとも,●(省略)
●円(限界利益●(省略)●円(上記)×寄与率8割))
と算定される。また,原告は,被告による特許権侵害の不法行為のために
本件訴訟の提起を余儀なくされ,弁護士費用として,上記●(省略)●円
の約●(省略)●%に相当する●(省略)●円を下らない額の損害を被っ
た。したがって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権
●(省略)●円(計算式は,●(省略)●円+●(省略)●円)を有して
おり,その一部である2億5000万円及びこれに対する遅延損害金の支
払を求める。
これに加えて,被告は,上記イのとおり,法律上の原因に基づかずに,
平成21年10月16日から平成22年7月10日までの間,原告発明2
及び3を実施し,その実施料相当額●(省略)●円の利得を得たから,原
告は,被告に対し,同額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
[被告の主張]
ア各被告製品等の平成22年7月16日以降における譲渡数量,売上高及
び仕入原価は下記の各表のとおりであり,売上高の合計は●(省略)●円,
仕入原価の合計は●(省略)●円である。
なお,原告は,4-6号のガスメータ用遮断弁(ただし,被告製品1´
を除く。)及び10-16号のガスメータ用遮断弁についても,原告特許
権1を侵害するとして各被告製品等の譲渡数量や売上高を計算しているが,
これらについてはいずれも原告特許権1を侵害するものではないから,原
告の主張は失当である。

【被告製品1A】
●(省略)●
【被告製品1´】
●(省略)●
【被告製品2の1】
●(省略)●
【被告製品2の2】
●(省略)●
以上
イ被告の限界利益
上記アのとおり,各被告製品等の売上高の合計は●(省略)●円,仕
入原価の合計は●(省略)●円であるから,原価率は●(省略)●%で
ある。
これに対し,原告は,①各被告製品等の製造原価は,完全親子会社間
の問題として,被告子会社における具体的な製造コストに基づき算定す
るのが相当である,②被告と被告子会社とは,不真正連帯債務として損
害賠償義務を負担することとなる,と主張して,被告と被告子会社との
連結による収支計算に基づいて算定された限界利益について,被告が損
害賠償責任を負担するなどと主張する。
しかしながら,上記①について,単に親子会社の関係にあるという理
由で連結による収支計算に基づいて利益が算定されるということになれ
ば,親子会社の関係にない第三者や,親子会社の関係にないため連結対
象ではない関連会社に下請けさせている場合に比して,親子会社の場合
には,特許権者の損害の範囲が変動することとなり,侵害行為によって
生じた特許権者等の損害を適正に回復するという趣旨を逸脱する結果と
なりかねない。したがって,被告が被告子会社に対して各被告製品等の
製造を下請けさせているという事実のみから,直ちに被告が負うべき損
害賠償額を被告子会社との連結による収支計算に基づき算定すべきこと
とはならない(なお,被告における被告子会社からの各被告製品等の仕
入原価は,4半期ごとに為替レート,原材料費その他関連事情に応じて
詳細に検討し,変更されているから,何ら取引上不合理な点はない。)。
また,上記②について,被告子会社が,原告特許権1の効力が及ばない
中国において,各被告製品等を製造等する行為は何ら違法でなく,不法
行為の成立要件を具備しないから,被告と被告子会社が不真正連帯債務
として損害賠償義務を負うという原告の主張は,その前提において誤っ
ている。
各被告製品等の限界利益を算出するに当たっては,仕入原価に加えて,
その製造,販売に直接要した諸経費を控除する必要があり,具体的には,
各被告製品等を完成品として被告子会社から輸入し,これを日本国内で
販売するための輸入費,国内顧客への販売輸送費その他販売経費が控除
される。また,ガス遮断弁という各被告製品等の特殊性から,ガス弁専
属の設計技師を雇用しているのでその人件費が控除されるべきであり,
その他各被告製品等の製造,販売のために直接必要になった直接固定費
は控除されるべきである。これらの費用を算出するには,被告の営業秘
密に係る詳細かつ膨大な資料が必要となり,証拠提出において留意を要
することから,かかる資料によらずとも,各被告製品等に係る限界利益
を売上高のせいぜい25%として計算するのが相当である。
ウ推定覆滅事情(寄与率)
原告発明1の技術的思想の中核をなす特徴的部分である隔壁の開放端
に設けられた「つば」(構成要件1G)は,各被告製品等の隔壁開放端
のごく一部をなすにすぎない。
また,設計変更前の各被告製品等(シールケースに「つば」のあるも
の)とシールケースに「つば」のない設計変更後の製品とで,組立方法
には全く変更がない。そして,顧客から事前に設計変更を拒否されたり
設計変更後の性能上の問題を指摘されたりすることもなく,滞りなく設
計変更がされ,設計変更後の製品について継続して顧客との取引が行わ
れている。このように,上記「つば」は,各被告製品等において特段の
機能を有しておらず,顧客が各被告製品等を選択する動機ともなってい
ない。
加えて,ガス遮断弁には「ソレノイド式」と「モータ式」があるが,
両方式を併せたガス遮断弁全体では,原告と被告が市場を寡占している。
そして,各被告製品等及び原告製品がいずれも属する「モータ式」の遮
断弁については,被告が,原告に先立って被告特許を出願し,先駆的に
市場を開拓してきたのであって,その後に原告が参入してきたという経
緯がある。
以上によれば,原告発明1は,何ら技術的な優位性がないばかりか,
顧客吸引力を有しているものともいえない。各被告製品等の売上は,当
該技術分野におけるパイオニアとして,長きにわたり,顧客の要求仕様
に対応した種々のガス遮断弁を世に送り出し,市場を確立してきた被告
の営業力及び技術的な信用力に依拠するものにほかならないのである。
したがって,各被告製品等における原告発明1の寄与は,あったとし
ても極めて限定されたものであり,限界利益の少なくとも90%につい
て,損害の推定が覆滅されるべきである。
エ不当利得額
原告は,被告製品2の販売数量が●(省略)●個で,その単価が●(省
略)●円であると主張するが,全く根拠がない。また,原告発明1~4の
仮想実施料率はせいぜい1~3%にとどまる。
(原告製品が被告発明の技術的範囲に属するか)について
[被告の主張]
ア原告製品の構成は,別紙「被告の主張に係る原告製品の構成」記載のと
おりであるところ,原告製品の「薄板の筒状部10a」は,被告発明の
「薄板パイプ(38)」に相当するから,原告製品は被告発明の構成要件
Aを充足する。
イこれに対し,原告は,被告発明について,クレーム記載の構成のみでは
サポート要件違反となることを前提に,「薄板パイプの両端部をOリング
等のシール部材で装填し固定する」という構成を付加して被告発明を限定
解釈し,原告製品が同構成を有しないから非充足であると主張する。しか
しながら,被告発明における「薄板パイプ(38)」の技術的意義が,①
「薄板パイプ(38)」をOリング等のシール材39が装着される被シー
ル部材(静止部材)として用いることにより,②「薄板パイプ(38)」
の内部の気密を確保する点にあることは明らかであるから,被告明細書に
接した当業者は,被告明細書の記載全体を参酌し,「薄板パイプ(38)」
について,ステータヨーク(37)の内周面に接するような形状としての
パイプ状(筒状)の部位を有していれば足り,後端側の開口は必ずしも必
要ないものと理解するのであって,被告発明がクレーム記載の構成のみで
はサポート要件違反となるという原告の主張には理由がなく,原告主張の
ような構成を付加してクレームを限定解釈すべき理由など全く存在しない。
ウまた,原告製品のケース体10を構成する「薄板の筒状部10a」とこ
の筒状部10aの後端を塞ぐ「底部10b」のうち「薄板の筒状部10a」
は,被告発明の「薄板パイプ」に相当する。「薄板パイプ」に相当するの
は,あくまで「薄板の円筒部10a」であり,単なる付加的事項にすぎな
い「底部10b」を含めた「ケース体10」全体が「パイプ」形状である
か否かを論じることに意味はない。
そして,原告製品の「薄板の筒状部10a」にシール部材が取り付けら
れている以上,「薄板の筒状部10a」は,シール部材が装着される被シ
ール部としての静止部材を提供するものであって,被告発明の「薄板パイ
プ」の技術的意義と何ら異なるところはない。また,薄板パイプの後端部
については,ガス通路隔壁として内外を遮断するものである限り,パイプ
部分とは別の部材で密閉しようと,原告製品の「ケース体10」のように
パイプ部分に一体成型されたふたで密閉しようと,パイプ部分自体が果た
す技術的意義に何ら変わりはない。
[原告の主張]
ア原告製品が別紙「被告の主張に係る原告製品の構成」記載の構成bを有
することは否認する。被告発明の構成要件Aに対応する原告製品の構成は,
「回転軸7の一端部にリードスクリュー7aを形成し,ステータユニット
6の内周面に接するように,非磁性材よりなる,貫通穴がなくなべ状に成
形され,開放端につばを有する薄板のケース体10を配設した正逆回転可
能なモータユニット1と,」である。
イ被告発明は,クレーム記載の構成のみでは,発明本来の目的及び課題を
解決するための技術的手段となっておらず,サポート要件に違反するから,
被告特許を有効に解しようとするためには,「薄板パイプの幅方向の両端
部をOリング等のシール材で装填し固定する」との構成を付加して限定解
釈せざるを得ない。原告製品は,非磁性体材よりなる,貫通穴がなくなべ
状に成形され,開放端につばを有する薄板のケース体10を具備し,ケー
ス体10の開放端部にOリングが取り付けられる構成であって,被告発明
の上記「薄板パイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固
定する」構成を具備していないから,被告発明の技術的範囲に属しない。
また,被告発明の構成要件を限定解釈せずにそのまま形式的に原告製品
と対比させたとしても,原告製品は,貫通穴のないなべ状に成形され開放
端につばを有するケース体10を具備するものであって,被告発明の「薄
板パイプ(38)」に相当する構成を具備していないから,構成要件5A
を充足しない。「パイプ」の字義及び被告明細書の段落【0005】及び
【0015】の記載によれば,「薄板パイプ(38)」は,その両端が開
放されていることを必須の構成と見るべきところ,原告製品の「ケース体
10」は,その一端のみが開放された構成であって,被告発明の「薄板パ
イプ」と原告製品の「ケース体10」とは,部材として全く別個のもので
あるばかりか,部材に関する技術的意義も製品全体としての気密構造も全
く異にする。
⑺被告発明に係る特許の無効理由の有無)について
ア甲16に基づく進歩性欠如について
[原告の主張]
ドイツ特許第512667号公報(甲16。以下「甲16文献」とい
う。)には,シャフト9の下端部にスピンドル12を形成し,ステータ
xの内周面に接するように両端が開いた中空体からなるシール体zを配
設した正逆回転可能な電動モータと,このモータのハウジング3と対向
する位置に設けられた,弁座に密着する遮断機構aと,先端部が遮断機
構aに固定され,スピンドル12と螺合して,上下に移動するスピンド
ルナット13とからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁が記載さ
れている(以下,甲16文献に記載された発明を「甲16発明」とい
う。)。
被告発明と甲16発明とは,被告発明が,モータDの取付板(23)
と弁体(22)との間にスプリング(24)が装着され,弁体(22)
がスプリング(24)により付勢されて弁座(21)に密着する構成で
あるのに対し,甲16発明は,スプリングを具備していない点(以下
「本件相違点2」という。)で相違し,その余の点で一致する。なお,
甲16発明における「弾力性あるシール体z」は,ステータとロータと
の間の電磁誘導によりロータを回転させるモータ機構に関する発明であ
る以上,技術常識に照らして当然に「非磁性材」からなるものであるし,
構成要件Aは,単に,ステータヨークの内周面に接するように非磁性材
の薄板パイプを配置する構成を採用したものでしかないから,その限度
で甲16発明と対比されるべきであって,被告が相違点として主張する
具体的なシール機構の差異は,相違点となるものではない。
他方,甲19(特開昭61-244971号公報。以下「甲19文献」
という。)には,弁装置に係る発明が記載されているところ,甲19文
献には,「このばねは弁体を閉弁方向に所定付勢力にて付勢するた
め,弁体が閉弁位置にある際,弁体は弁座に押圧され流体の流れを
確実に停止し得る構成」,すなわち,モータ駆動双方向弁において,
モータの蓋体(被告発明の「取付板」に相当)と弁体との間にばね(被
告発明の「スプリング」に相当)が装着され,弁体がばねにより付勢さ
れて弁座に密着する構成が開示されている。また,甲20(特開平3-
172689号公報。以下「甲20文献」という。)には,電動式流量
調節弁に係る発明が記載され,コイルスプリングが主軸の軸方向の直線
運動におけるガタを抑制するためのものである旨の記載があるところ,
①甲20文献の第1図において,コイルスプリングが弁体と主軸用
軸受部の間に弁体をシート(弁座)に付勢する方向に圧縮されて配
されていること,②甲20文献記載の発明が,エンジンの吸気系に
用いられアイドリング回転数を制御するための電動式流量調節弁に
係る発明であり,動いていないときのガソリン等の燃料の流出を防ぐ
ことができるよう高い信頼性の流体(燃料)遮断性能が要求されること
に照らせば,甲20文献には,スプリングの付勢により弁体を弁座
に密着させる構成を開示されているといえる。
そして,甲16発明と甲19文献又は甲20文献にそれぞれ記載
されている各発明の課題は共通し,甲16発明の気密性の確保をよ
り確実なものとするために,技術分野が同一である甲19文献又は
甲20文献に開示された構成を適用して,取付板と弁体との間にス
プリングを設け,スプリングの付勢により弁体が弁座により密着す
るよう構成する動機付けは十分に認められる一方,組合せを阻害す
る要因は存在しない。また,モータ駆動双方向弁(電動モータ式の
流体遮断弁)において,モータの取付板と弁体との間にスプリング
が装着され,弁体がばねにより付勢されて弁座に密着する構成は,
甲21~24に開示されているとおり,被告特許の出願時における
周知技術であった。
したがって,被告発明は,甲16発明に甲19文献又は甲20文献
に記載された発明を組み合わせることにより,また,甲16発明に原告
特許の出願当時の周知技術(甲21~24)を適用することにより,当
業者が容易に想到できたものであるから,進歩性を欠く。
[被告の主張]
被告発明と甲16発明とは,本件相違点2に加え,ステータの内周側
に中空状の部材を配設した点について,被告発明では「ロータ回転手段
のステータヨークの内周面に接するように非磁性材の薄板パイプを配設
した」のに対し,甲16発明では「モータのエアギャップに配置され高
圧の作用のもとでステータ体xに当接する両方の側で開いた中空体から
なる弾力性あるシール体zを配置した」点(以下「本件相違点1」とい
う。)及び被告発明では先端部が弁体の保持板に固定されるのに対し,
甲16発明では下側端部が弁部である点(以下「本件相違点3」とい
う。)においても相違する。
本件相違点3については,甲16発明に周知技術を適用することによ
り当業者が容易に想到し得たものであることを争わない。
他方,本件相違点1に係る構成は,原告が提示した甲19文献,甲2
0文献のいずれにも記載されておらず,周知技術(甲19~24)とし
ても存在しないのであって,甲16発明に甲19文献記載の発明又は甲
20文献記載の発明を組み合わせ,あるいは,甲16発明に周知技術を
適用したとしても,当業者が容易に想到し得るものではない。甲16発
明は,「弾力性あるシール体z」の内部の気密を確保するために,「弾
力性あるシール体z」そのものを自動式の高圧シール体として機能させ
るものであるから,「弾力性あるシール体z」であることは,高圧シー
ル体としての機能上,必要不可欠な構成である。これに対し,被告発明
は,「非磁性の薄板パイプ(38)」の内部の気密を確保することを目
的とする点で甲16発明と同様であるが,そのための手段として「非磁
性の薄板パイプ(38)」を用いるものである。このように,甲16発
明と被告発明とは,内部の気密を確保するという点では共通するが,そ
れを実現するための手段や機序が全く異なり,技術的思想として全く異
なるのである。
さらに,本件相違点2に係る構成についても,甲16発明に甲19文
献又は甲20文献を組み合わせ,あるいは,甲16発明に周知技術を適
用したとして,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。甲16発
明は,巨大な高圧設備用の大型高圧弁に関するもので,このような重量
のある構造体を付勢するには巨大なスプリングが必要であって,およそ
現実的ではないから,甲16発明にいずれも小型弁に関する甲19文献
や甲20文献を組み合わせ,又は小型弁に関する周知技術(甲21~2
4)を適用することには明らかに阻害要因がある。
イサポート要件違反について
[原告の主張]
被告明細書の発明の詳細な説明には,「貫通孔8とリードスクリュー5
との間のシール構造では,シール材としてのOリング16は密着状態にあ
るリードスクリュー5が左右に移動するため,摩擦熱等による経年変化を
起して,リードスクリュー5と粘着状態になってしまう。このため,流体
遮断装置の負荷が増大し,緊急時におけるガス遮断に即応することができ
なくなる」との課題を解決するため,「非磁性材の薄板パイプをステータ
ヨーク内周面及び軸受保持板外周面に接するように配設し,このパイプと
その幅方向の両端に嵌装したOリングと,モータの軸端部に設けたOリン
グとによるシール構造によって,負荷の安定と信頼性の向上を図ったモー
タ駆動双方向弁とそのシール構造を提供すること」を目的として,「弁体
移動手段はモータの外側に設け,モータのステータヨーク内周面を非磁性
材の薄板パイプで覆うとともに,このパイプの幅方向の両端部をOリング
等のシール材で装填し固定したので,静止部分でのシール構造が得られる
ようになり,弁体移動手段との摩擦を避けることが可能となったので,O
リングの劣化により負荷が増大するという従来シール構造の問題点が解消
されるため,負荷の安定性を保持できるとともに,高い信頼性を実現でき
る」との効果を奏する発明のみが開示され(段落【0004】,【000
5】,【0015】),その実施例としては「パイプ38の両端部38a,
38aと取付板23,33及びステータヨーク37,37とで包囲される
空隙はOリング等のシール材39により嵌装シールされている」構成のみ
が開示されている。
ところが,被告発明の特許請求の範囲の記載には,「薄板パイプの幅方
向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定する」との発明に欠く事
ができない事項(発明特定事項)が特定されておらず,広く,薄板パイプ
の幅方向の両端部がOリング等のシール材で装填・固定されていない発明
をも含む記載となっている。
したがって,被告発明に係る特許請求の範囲の記載は,平成6年法律第
16号による改正前の特許法(平成6年法律116号附則6条2項により
被告特許に適用される。以下「改正前法」という。)36条5項1号のサ
ポート要件を具備しておらず,被告特許は,改正前法123条1項3号に
より無効である。
[被告の主張]
[被告の主張]イ記載のとおり,被告発明における「薄板パイプ
(38)」の技術的意義は,①「薄板パイプ(38)」をOリング等のシ
ール材39が装着される被シール部材(静止部材)として用いることによ
って,②「薄板パイプ(38)」の内部の気密を確保する点にある。この
ことは,被告明細書の発明の詳細な説明から明らかであるから,被告発明
の特許請求の範囲の記載が,薄板パイプの幅方向の両端部がOリング等の
シール材で装填・固定されていない発明をも含む記載となっていることは,
サポート要件に違反するものではない。
ウ構成不可欠要件違反について
[原告の主張]
被告発明の特許請求の範囲の記載では,「薄板パイプの幅方向の両端部
をOリング等のシール材で装填し固定する」との発明に欠くことができな
い事項が特定されておらず,広く,薄板パイプの幅方向の両端部がOリン
グ等のシール材で装填・固定されていない発明をも含む記載となっている。
すなわち,被告発明に係る特許請求の範囲の記載には,被告発明の技術的
特徴点をなす構成のうち,薄板パイプ(38)及び取付板(23)しか記
載されておらず,これらとともに発明に欠くことができない事項(発明特
定事項)である取付板(33),軸受保持盤(32,32),シール材
(39,39)が記載されていないのであって,このような記載のみでは,
請求項に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明が明確に把
握できず,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」
が記載されたものとはいえない。
したがって,被告明細書の特許請求の範囲の記載は,改正前法36条5
項2号の構成不可欠要件を具備しておらず,被告特許は,改正前法123
条1項3号により無効である。
[被告の主張]
記載のとおり,「特許を受けようとする発明の
構成に欠くことができない事項」は,被告発明に係る特許請求の範囲の記
載から明確に把握できるから,被告発明に構成不可欠要件違反は存在しな
い。
⑻本件訂正により被告発明に係る特許の無効理由が解消したか)に
ついて
[被告の主張]
ア被告訂正発明が進歩性を有すること
被告訂正発明と甲16発明との相違点は,本件相違点2及び3のほか,
ステータの内周側に配設した中空状の部材について,被告訂正発明では,
「ロータ回転手段のステータヨークの内周面に接するように配置され,
Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし,
当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプ(3
8)」であるのに対し,甲16発明では,「モータのエアギャップに配
置され高圧の作用のもとでステータ体xに当接する両方の側で開いた中
空体からなる弾力性あるシール体z」である点(以下「本件相違点1´」
という。),被告訂正発明は「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双
方向弁」であるのに対し,甲16発明は「高圧設備(高圧蒸気ボイラー,
高圧蒸気タービンなど)用のモータが遮断機構を駆動する高圧遮断弁」
である点(以下「本件相違点4」という。)である。なお,本件相違点
1´は,本件訂正に伴って本件相違点1が修正されたもの,本件相違点
4は,本件訂正に伴って新たに生じたものである。
本件相違点1´について,被告訂正発明の「薄板パイプ」が,「Oリ
ング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし,当該
シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプ」であるこ
とは明確である。また,被告訂正発明の「薄板パイプ」は,Oリング等
のシール材39が装着される被シール部材(静止部材)として機能する
かどうかという点において甲16発明とは明らかに相違している。被告
訂正発明の「薄板パイプ」は,被シール部材として機能するものである
から,Oリング等のシール材39を介して外力が作用しても容易に変形
しないことが不可欠で,剛性の高い部材を用いることが当然の前提であ
って,変形自在な弾性部材を用いることなどおよそ想定し得ない。さら
に,甲16発明は「高圧設備(高圧蒸気ボイラー,高圧蒸気タービンな
ど)用のモータが遮断機構を駆動する高圧遮断弁」であり,それ自体が
シール材である「弾力性あるシール体z」がどのような方法で装着され
るのか不明であるし,組立方法の点でも被告訂正発明と甲16発明には
技術的に根本的な相違がある。
また,本件相違点4について,甲16発明は大型高圧弁に関するもの
で,「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁」に関する被告訂
正発明とは技術分野が全く異なるばかりか,採用される具体的な構造も
大きく相違するのであって,甲16発明から「ガス遮断装置に用いられ
るモータ駆動双方向弁」に関する構成を容易に想到することはできない。
さらに,本件相違点2については,のとお
り,甲16発明にいずれも小型弁に関する甲19文献や甲20文献を組
み合わせ,又は小型弁に関する周知技術(甲21~24)を適用するこ
とには明らかに阻害要因があり,当業者が容易に想到し得るものとはい
えない。
以上のとおり,被告訂正発明は,少なくとも相違点1´,2及び4に
ついて,甲16発明等に基づいて当業者が容易に想到し得るものではな
いから,被告訂正発明につき進歩性欠如の無効理由は存在しない。
イ被告訂正発明にサポート要件違反がないこと
被告明細書の全体的な記載に照らせば,被告訂正発明は,従来のシール
構造の問題点を解消する「静止部分でのシール構造」に着目したものであ
り,薄板パイプの「両端」に「2個」のシール部材を装着した実施例の記
載事項から,①ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周
面に接するように配置し,②Oリング等のシール材と共に内部の気密を確
保するシール構造をなし,③当該シール材が嵌装される静止部分とすると
いった技術的事項をひとまとまりの技術思想として導き出すことは極めて
合理的である。
そもそも,被告明細書の実施例として,薄板パイプの「両端」を開口し
た構成を記載したのは,もっぱら,薄板パイプの後端側に外部操作手段を
設けることを意識したからにすぎない。被告訂正発明において,薄板パイ
プは,内部の気密を確保するものであれば足りるのであり,その具体的な
シール構造を問うものではない。原告の主張は,被告訂正発明の発明特定
事項でない【発明が解決しようとする課題】や【発明の効果】等の欄に記
載されているにすぎない「両端部」等の表現を,特許請求の範囲に取り込
んで限定するもので,適切ではない。
以上のとおり,被告訂正発明は,何らサポート要件に違反するものでは
ない。
ウ被告訂正発明に構成不可欠要件違反がないこと
被告発明につき構成不可欠要件違反の無効事由が存在しないことについ
ては,上記⑺ウ[被告の主張]のとおりである。
エ原告製品が被告訂正発明の技術的範囲に属すること
原告製品の構成は,別紙「被告の主張に係る原告製品の構成」記載のと
おりであるところ,原告製品の構成のうち「回転軸7」,「リードスクリ
ュー7a」,「ステータユニット6」,「薄板の筒状部10a」,「Oリ
ング」及び「モータユニット1」は,それぞれ,被告訂正発明の「回転軸
(28)」,「リードスクリュー(28a)」,「ステータヨーク(3
7)」,「薄板パイプ(38)」,「Oリング等のシール材」及び「モー
タD」に相当する。また,原告製品の「薄板の筒状部10a」は,「Oリ
ング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし,当該シ
ール材が嵌装される静止部分となる」ものである。
したがって,原告製品は,被告訂正発明の構成要件Bを充足し,被告訂
正発明の技術的範囲に属する。
[原告の主張]
ア上記⑺ア~ウの各[原告の主張]記載のとおり,被告特許には進歩性欠
如,サポート要件違反及び構成不可欠要件違反の各無効理由がある。そし
て,これらの各無効理由は,以下の本件訂正によっても
解消されていない。
進歩性欠如について
甲16発明と被告訂正発明との相違点は,本件相違点2(スプリング
の有無)のみであって,被告が甲16発明との相違点と主張する本件相
違点1´及び本件相違点4は相違点となるものでない。
すなわち,本件相違点1´について,被告訂正発明の「薄板パイプ」
には,単に薄板のパイプであるという以外に特段の技術的意義を認める
ことができないのであって,甲16発明の「弾力性あるシール体z」が,
別個の部材である「薄板パイプ」と「シール材」からなるか一部材から
なるかは,上記技術的意義に照らしても,実質的な相違点となるもので
はない(なお,仮に本件相違点1´が甲16発明との相違点であるとし
ても,当業者において容易に想到し得たものである。)。また,本件相
違点4について,被告訂正発明と甲16発明の特許分類は,いずれもモ
ータ駆動による弁であって,両者は技術分野が同一である。甲16文献
には,大型設備に搭載する遮断弁等の限定的な記載はなく,被告訂正発
明に係る明細書にも,遮断弁のサイズ等についての限定はない上,大型
設備であっても,流体を遮断するために用いられる「遮断弁」は,ごく
小型のものでしかない。したがって,遮断弁が搭載される設備が大型で
あるか否か,ガスが高圧,中圧あるいは低圧であるかは,「遮断弁」の
発明である被告訂正発明と甲16発明との対比において相違点となるも
のではない(なお,仮に本件相違点4が甲16発明との相違点であると
しても,当業者において容易に想到し得たものである。)。
そして,本件相違点2については,前記⑺ア[原告の主張]のとおり,
被告訂正発明は,甲16発明に甲19文献又は甲20文献に記載された
発明を組み合わせることにより,また,甲16発明に被告特許の出願当
時の周知技術(甲21~24)を適用することにより,当業者が容易に
想到できたものであるから,被告訂正発明には進歩性が認められない。
本件訂正は,明細書の発明の詳細な説明及び図面を訂正するものでは
なく,特許請求の範囲の記載のみを訂正するものであるから,上記⑺イ
[原告の主張]は,被告訂正発明にもそのまま妥当する。
すなわち,本件訂正に係る訂正請求書に添付した訂正明細書(乙54。
以下「被告訂正明細書」という。)の記載(段落番号【0005】,
【0007】,【0010】,【0014】,【0015】及び【図
1】)には,いずれも,被告訂正発明が,両端が開放された薄板パイプ
の幅方向の両端部でシールする構成を具備する発明であることが明確に
示されており,あるいは前後の文脈からも,薄板パイプの両端に形成さ
れる「隙間」をシールする構成であることを当然の前提とした記載であ
ることを容易に理解することができる。このように被告訂正明細書の発
明の詳細な説明及び図面には,両端が開放された「薄板パイプ(38)」
の幅方向の両端部をOリング等のシール材でシールする発明のみが開示
されているのに対し,被告訂正発明の特許請求の範囲の記載には,広く,
薄板パイプの幅方向の両端部がOリング等のシール材で装填・固定され
ていない発明をも含む記載がある。
被告訂正発明の特許請求の範囲の記載は,両端が開放された薄板パイ
プに対し,シール材を具体的にどのように装着するのかを発明特定事項
として明らかにしておらず,同発明の技術的意義を支えるに足るシール
構造の具体的な特定がされていない。また,本件訂正により,被告訂正
発明の特許請求の範囲には,「当該シール材が嵌装される静止部分」と
いう文言が追加されているが,他方,Oリング等のシール材を嵌装する
空間につき,具体的に「薄板パイプ38の両端縁においてモータの取付
板23,33及びステータヨーク37,37とにより包囲される隙間」
と特定していないのであって,抽象的に「静止部分」と定めているにす
ぎない。
したがって,被告訂正発明について「特許を受けようとする発明の構
成に欠くことができない事項」が記載されているとはいえず,本件訂正
前の被告特許に比しても,より明確に構成不可欠要件違反が認められる。
イ原告製品が被告訂正発明の技術的範囲に属しないこと
原告製品が被告発明の技術的範囲に属しない[原告の主
張]記載のとおりであるから,特許請求の範囲を減縮した被告訂正発明に
ついても,原告製品がその技術的範囲に属することになるはずがない。
⑼争点⑼(被告の損害額及び原告の不当利得額)について
[被告の主張]
原告製品の販売数量,単価(税抜)及び売上高は,下記の表1及び表
2の該当欄記載のとおりである。また,平成22年12月2日から平成
23年9月10日までの間の売上についての変動費及び限界利益は,下
記の表2の該当欄記載のとおりである。

【表1】
●(省略)●
【表2】
●(省略)●
以上
被告は,原告による被告特許権の侵害行為のうち,平成22年12月
2日(反訴提起日《判決注:原告は「反訴状が原告に送達された日」と
するが(第26準備書面2頁など),反訴状の原告への送達日は同月6
日であることから,「反訴提起日」の誤記と認める。》である平成25
年12月2日からさかのぼって3年前の日)から平成23年9月10日
(被告特許の存続期間の満了日)までに行われたものについて,特許権
侵害の不法行為に基づき損害賠償を求めるものであり,被告の損害額は,
法102条2項により,原告による特許権侵害行為によって原告が得た
利益の額と推定される。
また,平成22年12月1日以前に原告が製造,販売等を行った原告
製品については,被告は,原告に対し,民法703条に基づき,原告の
不当利得額について不当利得返還請求権を有する。
イ法102条2項に基づく損害額(平成22年12月2日~平成23年9
月10日)
寄与率
被告特許は,モータ駆動式のガス遮断装置に隔壁を採用した先駆的な
基本特許であり,被告特許の公開後,原告製品を含めたモータ駆動式ガ
ス遮断弁の構成が,従来のソレノイド駆動式からモータ駆動式へと変更
され,これらはいずれも被告特許において開示された構成を具備してい
る。このように,被告特許は,モータ駆動双方向弁の基本構造そのもの
に係る基本特許であり,代替技術が存在しない(これに対し,原告特許
1~4は,いずれも被告特許の改良特許にすぎず,しかも,その特徴的
部分は隔壁の開放端に設けられた「つば」にすぎない。)。
したがって,原告製品に対する被告特許の寄与は80%を下らない。
被告特許が共有特許であることによる控除
被告特許は被告と愛知時計電機株式会社(以下「愛知時計」という。)
との共有に係るものであるところ,知的財産高等裁判所平成22年4月
28日判決が判示するとおり,法102条2項による損害額は,特許権
の共有持分ではなく実施の程度の比に応じて算定される。そして,特許
を実施していない共有者であっても,法102条3項に定める実施料相
当額の損害賠償請求を行うことはできるから,法102条2項に基づく
損害額の算定においては,共有者の法102条3項に基づく損害賠償に
相当する部分が控除されるべきである。
本件において,愛知時計は,被告特許を自ら実施しておらず,他者に
対する実施許諾も行っていないから,法102条2項に基づく損害賠償
を請求できないが,法102条3項に定める実施料相当額の損害賠償請
求を行うことは可能であり,被告特許の基本特許としての位置付けに鑑
みればその実施料率が5%を下ることはあり得ない。
したがって,愛知時計が法102条3項に基づいて原告に請求し得る
損害賠償額は,●(省略)●円(計算式は,●(省略)●円(平成22
年12月2日から平成23年9月10日までの間における原告製品の売
上高)×5%(実施料率)×0.5(被告特許の共有持分))となり,
これを被告の損害額から控除すべきである。
そして,上記アのとおり,平成22年12月2日から平成23年9月
10日までの期間における原告製品の限界利益は●(省略)●円である
から,同期間における被告の損害額は,●(省略)●円(計算式は,●
(省略)●円✕80%(被告特許の寄与度)●(省略)●円(愛知時計
が原告に請求し得る損害賠償請求権の額)となる。
ウ原告の不当利得額(平成16年~平成22年12月1日)
法102条3項の適用場面においては,当業界における正常な取引にお
ける実施料率よりも高い実施料率が認定されるべきであり,不当利得返還
請求における返還額の認定の場面においても,法102条3項の立法趣旨
や特許権侵害における侵害者の立場を斟酌し,通常取引における当業界の
実施料率よりも高い実施料率を認定することが妥当である。これに加えて,
被告特許がモータ駆動双方向弁の基本構造そのものに係る基本特許である
ことに照らせば,特許侵害において認定されるべき被告特許の実施料率が
5%を下ることはあり得ない。また,不当利得返還請求の場面であること
から,共有特許権者である愛知時計と前記金額を2分の1ずつ按分するこ
とが相当である。
そして,上記アのとおり,平成16年から平成22年12月1日までの
期間における原告製品の売上は,●(省略)●円であるから,同期間にお
ける原告の不当利得額は,●(省略)●円(計算式は,●(省略)●円×
5%(被告特許の実施料率)×0.5(被告の被告特許の共有持分)を下
らない。
エまとめ
上記イ及びウのとおり,原告による被告特許権の侵害行為によって被告
が受けた損害額及び不当利得返還請求権に基づく返還額は,合計●(省略)
●円(計算式は,●(省略)●円+●(省略)●円)と算定される。さら
に,本件反訴請求訴訟は専門性が高く,弁護士及び弁理士が代理しなけれ
ば訴訟追行が不可能であったことに加え,本件事案の内容,被告が被った
損害内容,本件訴訟に至る経過等を総合的に斟酌すれば,原告による被告
特許権の侵害行為と因果関係のある弁護士費用等は,1500万円を下ら
ない。
よって,被告は,原告に対し,上記損害賠償請求権及び不当利得返還請
求権合計●(省略)●円(計算式は,●(省略)●円+●(省略)●円)
の一部である5000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
[原告の主張]
ア原告製品の販売数量,単価(税抜)及び売上高が,上記[被告の主張]
アの表1及び表2記載のとおりであること,平成22年12月2日から
平成23年9月10日までの間の売上についての変動費及び限界利益は,
上記[被告の主張]アの表2記載のとおりであることは,いずれも認め
る。
イ法102条2項に基づく損害額(平成22年12月2日~平成23年9
月10日)
寄与率
ガス遮断弁は,各部品が有機的に組み合わさることによって,製品全
体として高度のガス漏出防止を確保するものであるから,具体的なシー
ル構造の構成が,製品の安全性の確保のために重要である。しかし,被
告訂正発明は,シール構造につき,「ロータ回転手段(34)のステー
タヨーク(37)の内周面に接するように配置され,Oリング等のシー
ル材と共に内部の気密を確保するシール構造」としか定めておらず,ガ
ス遮断弁のシール構造の構成のごく一部を定めたものでしかない。
また,被告訂正発明の技術的意義である可動部分と静止部分との間の
シールに代えて,弁体とモータの間の取付板(静止部分)と薄板パイプ
(静止部分)との間のシールを行うことにより,静止部分でのシール構
造を得るという点は,甲16発明において既に課題として認識され解決
されていたものにすぎない。
さらに,日本国内においてモータ式ガス遮断弁を製造,販売するメー
カーは原告及び被告のみであるところ,原告製品が長年にわたって約●
(省略)●割ものシェアを占めているのであって,これは原告が製造,
販売する製品の信用力に基づくものである。そうすると,原告製品が被
告訂正発明の技術的範囲に属していなければ,被告が原告に代わって発
注を受けることができたという関係を認めることはできない。
このように,仮に原告製品が被告訂正発明の構成を備えているとして
も,このことは,原告製品の販売にほとんど寄与しておらず,原告の侵
害行為と相当因果関係にあるのは,原告製品の限界利益の2割にすぎな
い。
被告特許が共有特許であることによる控除
被告は,愛知時計と共に被告特許権を持分2分の1ずつで共有し,愛
知時計も,●(省略)●を搭載したガスメータを製造,販売して,被告
特許権を自己実施している。したがって,本件においては,共有持分に
応じて損害額を算定するのが相当であって,法102条2項に基づき被
告が原告に対して請求できるのは,共有持分割合である2分の1で按分
した額にすぎない。
そして,上記アのとおり,平成22年12月2日から平成23年9月
10日までの期間における原告製品の限界利益は●(省略)●円である
から,同期間における被告の損害額は,●(省略)●円(計算式は,●
(省略)●円×20%(被告特許の寄与度)×0.5(被告特許権につ
いての被告の共有持分割合))となる。
ウ原告の不当利得額(平成16年~平成22年12月1日)
占める被告発明の意義は僅少なも
のでしかなく,被告特許の実施料率はたかだか2%にすぎない。
そして,上記アのとおり,平成16年から平成22年12月1日までの
期間における原告製品の売上は,●(省略)●円であるから,同期間にお
ける原告の不当利得額(被告の損失額)は,●(省略)●円(計算式は,
●(省略)●円×2%(被告特許の実施料率)×0.5(被告の被告特許
の共有持分))である。
エまとめ
上記イ及びウのとおり,被告特許権の侵害の不法行為による被告の損害
額及び原告の不当利得額は,合計●(省略)●円(計算式は,●(省略)
●円+●(省略)●円)にすぎない。
第3当裁判所の判断
1(各被告製品が原告発明1の技術的範囲に属するか)について
各被告製品が原告発明1の構成要件1G以外の構成要件を充足することは
当事者間に争いがない。
構成要件1Gは,「前記隔壁は,開放端につばを有し,前記つばを前記シ
ール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した」というものであ
る。
原告明細書1には,次の各記載がある。
ア【従来の技術】として,
「ガス事故を未然に防ぐため,従来より種種の安全装置が利用されており,
中でもガスメータに内蔵され流量センサによりガスの流量を監視しマイク
ロコンピュータによりガスの使用状態を異常使用と判断した場合や,地震
センサ,ガス圧力センサ,ガス警報器,一酸化炭素センサなどのセンサの
状況を監視し危険状態と判断した場合は,ガスメータに内蔵された遮断弁
によりガスを遮断する電池電源によるマイクロコンピュータ搭載ガス遮断
装置内蔵ガスメータ(以下マイコンメータと省略する)は,安全性,ガス
配管の容易性,低価格等の優位性のため,普及が促進され,近年ほぼ全世
帯普及が実施されるに至っている。また,流量センサによって計測された
ガス流量情報を電話回線などを利用して集中監視するテレメータ機能を有
した,集中監視型マイコンメータの比率も増加し,ますます,情報端末と
して利便性の向上が求められている。この集中監視型マイコンメータなど
においては,簡単な電気スイッチ操作や電話回線などによる遠隔操作でガ
スの遮断,復帰が可能なよう,マイコンメータに搭載した電池による電気
エネルギーでガス遮断もガス復帰も可能で開弁状態と閉弁状態の保持はエ
ネルギーを必要としない遮断弁が要求されている。」(段落【0002】)
イ【発明が解決しようとする課題】として,
「この種の遮断弁は,ガスメータに取り付けられた場合ケーシング8の外
側が空気側になり,ガスメータが屋外に設置された場合,高い湿度やオゾ
ン,温度変化などの過酷な環境にさらされることになる。そして,その中
で,ガスメータの使用期間(一般に10年間)中特にメンテナンスしなく
ても,ガス漏れなどが発生しない高い信頼性が要求されている。」(段落
【0008】)
「上記の従来の遮断弁では,弾性シール部材8を段付きフランジ2と平板
フランジ7とでスラスト方向に挟み込んでいて,弾性シール部材8の圧縮
率は段付フランジ2の段深さに頼っているが,段付きフランジ2と平板フ
ランジ7とが充分にかしめられていることが前提になっている。しかしな
がら,かしめ工法においては時にかしめ前の加圧が不充分で,かしめ部に
隙間が生じることがあり,このとき従来の遮断弁のように弾性シール部材
8がスラスト方向に圧縮されている場合は圧縮率が不充分になり,長期間
の使用中に気密性が劣化してくることがあるという課題を有していた。」
(段落【0009】)
「また,かしめ部は母材が大きく変形されるため,かしめ時に表面処理膜
が剥離したり,ひび割れている場合が多く,さらには,段付きフランジ2
と平板フランジ7との接触部などは水分が残存しやすく,長期の使用中に
段付きフランジ2と平板フランジ7とのかしめ部や接触部が腐食して,段
付フランジ2から平板フランジ7が浮き上がり,弾性シール部材8の圧縮
率が不充分になり,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあると
いう課題を有していた。」(段落【0010】)
「また,弾性シール部材8と合成樹脂製のアウターブッシュ3とケーシン
グ6とを,同時に段付きフランジ2と平板フランジ7とで挟み込んでいる
ため,温度変化によるアウターブッシュ3の膨張収縮で段付きフランジ2
と平板フランジ7とのかしめが緩み弾性シール部材8の圧縮率が不充分に
なったり,アウターブッシュ3が径方向に膨張して弾性シール部材8を過
圧縮状態にして圧縮永久ひずみを促進し,長期間の使用中に気密性が劣化
してくることがあるという課題を有していた。」(段落【0011】)
ウ【課題を解決するための手段】として
「本発明は上記課題を解決するために,貫通穴のないなべ状に成形された
剛体性の隔壁と,流体室に取り付け可能でこの隔壁の円筒部外径より若干
大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,この隔壁
の円筒部外周とこの取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮して弾
性体製のシール部材を配したものである。」(段落【0013】)
「このため,シール部材の圧縮率は剛体製の隔壁の円筒部外径と剛体製の
取り付け板の段差部内径で決定され,隔壁と取り付け板の軸方向の位置の
微小な変動にはほとんど影響されない。そして,組立時にかしめ部の隙間
発生などによる隔壁と取り付け板との若干の軸方向の位置ずれが発生した
場合や,長期間使用している間に腐食や熱膨張などによって隔壁と取り付
け板との固着のゆるみなどが発生した場合でも,シール部材の圧縮率はほ
とんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供す
ることができる。」(段落【0014】)
エ【発明の実施の形態】として
「本発明の遮断弁は,励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内
側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁と,流
体室に取り付け可能で前記隔壁の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状
段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記隔壁の円筒部外周と前記
取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製
のシール部材と,前記隔壁の内側に前記ステータに対向して配設されたロ
ータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,前記隔壁
は,開放端につばを有し,前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け
板段差部に挿入して構成されたものである。」(段落【0021】)
「そして,シール部材の圧縮率は剛体製の隔壁の円筒部外径と剛体製の取
り付け板段差部内径で決定され,隔壁と取り付け板の軸方向の位置の微小
な変動にはほとんど影響ず,組立時にかしめ部の隙間発生などによる隔壁
と取り付け板との若干の軸方向の位置ずれが発生した場合や,長期間使用
している間に腐食や熱膨張などによって隔壁と取り付け板との固着のゆる
みなどが発生した場合でも,シール部材の圧縮率はほとんど影響を受けず,
気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。」
(段落【0022】)
オ【実施例】として,
「流体室56に取り付け可能な取り付け板57は,中央に中心孔57aと
隔壁47の大径の円筒部47cの外径より若干大きな内径を持った円筒状
段差部57bを形成され,外周部の2カ所に爪状の嵌合部57cを形成さ
れている。段差部57bには隔壁47の大径の円筒部47cの端部が挿入
され,ふた49の円筒部49bが中心孔57aを貫通して流体室56側に
突出し,円筒部47cの外周と段差部57bの内周との間には,合成ゴム
製Oリングなどの弾性体シール部材58が隔壁47の中心軸に対して円周
方向に圧縮されて配されている。ふた49のつば部49cは,取り付け板
57の段差部57bの底面57dと隔壁47のつば47eとに挟まれて保
持されている。」(段落【0039】)
「本実施例の遮断弁は,弾性体シール部材58を隔壁47の円筒部47c
外周と取り付け板57段差部57b内周との間に円周方向に圧縮して配し
ているため,シール部材58の圧縮率は隔壁47の円筒部47c外径と取
り付け板57の段差部57b内径で決定され,隔壁47と取り付け板57
の軸方向の位置の微小な変動にはほとんど影響されない。そして,組立時
に嵌合部57cの隙間発生などによる隔壁47と取り付け板57との若干
の軸方向の位置ずれが発生した場合や,長期間使用している間に腐食によ
って嵌合部57cがゆるみ隔壁47と取り付け板57との固着のゆるみな
どが発生した場合や,ふた49のつば部49cのクリープ変形によって,
取り付け板57の段差部57bの底面57dと隔壁47のつば47eとに
隙間を生じた場合でも,シール部材58の圧縮率はほとんど影響を受けず,
気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。」
(段落【0054】)
「流体室56に取り付け可能な取り付け板78は,中央に中心孔78aと
隔壁の大径の円筒部47cの外径より若干大きな内径を持った円筒状段差
部78bを形成され,段差部78bには隔壁47の大径の円筒部47cの
端部が挿入され,ふた74の円筒部74bが流体室56側に中心孔78a
を貫通して,円筒部47cの外周と段差部78bの内周との間には,合成
ゴム製Oリングなどの弾性体シール部材58が隔壁47の中心軸に対して
円周方向に圧縮されて配されている。ふた74のつば部74cには,取り
付け板78の段差部78bの底面78dに向かって突出した小さい突起状
の寸法吸収部79が形成され,つば部74cは,取り付け板78の段差部
78bの底面78dと隔壁47のつば47eとに挟まれて保持されてい
る。」(段落【0060】)
カ【発明の効果】として,
「以上のように本発明によれば,貫通穴のないなべ状に成形された剛体性
の隔壁と,流体室に取り付け可能でこの隔壁の円筒部外径より若干大きな
内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,この隔壁の円筒
部外周とこの取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮して弾性体製
のシール部材を配したため,シール部材の圧縮率は剛体製の隔壁の円筒部
外径と剛体製の取り付け板の段差部内径で決定され,隔壁と取り付け板の
軸方向の位置の微小な変動にはほとんど影響されない。そして,組立時に
かしめ部の隙間発生などによる隔壁と取り付け板との若干の軸方向の位置
ずれが発生した場合や,長期間使用している間に腐食や熱膨張などによっ
て隔壁と取り付け板との固着のゆるみなどが発生した場合でも,シール部
材の圧縮率はほとんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼を持った遮
断弁を提供することができるといった有利な効果を有する。」(段落【0
071】)
アそこで検討するに,原告よれば,原
告発明1は,長期の使用においてシール部材の圧縮率がほとんど変化せず,
気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することを課題とし,そ
の課題解決手段として,構成要件1Dないし1Gの各構成を採用したもの
と認められるから,原告発明1の本質は,高度の気密性を確保するための
各部材の選択及び部材相互の組合せ構造,嵌着・固着構造そのものにある
と解される原告明細書1の実施例においては,
つばとOリングの関係を,組立手順によることなく構造として説明してい
ることが認められるのであって(段落【0039】,段落【0054】,
段落【0060】),Oリングと隔壁の挿入が同時に行われることやその
効果について言及した記載も見当たらない。
そうすると,構成要件1Gは,物の客観的構成としての,つばとシール
部材とが共に取り付け板段差部に挿入されてなる構成を意味するものと解
釈するのが合理的であり,各被告製品が同構成を備えていることは明らか
であるから,各被告製品は,構成要件1Gを充足し,原告発明1の技術的
範囲に属すると認められる。
イこれに対し,被告は,構成要件1Gの「共に」とは,組立ての際にシー
ル部材の押し込みによってシール部材と隔壁とを「同時に」取り付け板段
差部に挿入することを意味するとして,シール部材に該当するOリングと
隔壁に該当するキャンのつばとをOリングの押し込みによって「同時に」
ベースフランジの段差部に挿入するものでない各被告製品については構成
要件1Gを充足しないと主張する。
しかしながら,原告明細書1には,Oリングと隔壁の挿入が同時に行わ
れることやその効果について言及した記載は見当たらず,かえって,つば
とOリングとの関係を組立手順ではなく構造として説明する実施例が存在
することは,上記アのとおりである。そもそも原告発明1は遮断弁に関す
る物の発明であるから,物(遮断弁)の組立方法によって当該物の構成が
相違するものではなく,構成要件1Gの「共に」は,物の構成を組立手順
によって特定したものではなく,物の客観的構成を物の状態によって特定
するものと解される。この点,被告は,原告が,原告発明1の出願審査及
び無効審判の手続において,原告発明1について,その製造方法を限定す
る記載又は陳述をしたから,原告発明1は当該製造方法及びこれによる効
果を有する場合に限定して解釈されるべきである旨主張するが,被告の指
摘する上記記載及び陳述は,いずれも,原告発明1の構成を採用したこと
による製造時の利便性や同構成によって可能となる組立方法の一形態の利
便性に関する主張にすぎず,製造方法等を限定するものとは到底解するこ
とができないから,これらをもって,構成要件1Gが物の組立方法を特定
したものとは認めることはできない。
したがって,被告の主張は採用することができない。
2各被告製品は原告発明2,3の技術的範囲に属するか)について
文言侵害の成否
ア構成要件2L-2及び3N-2は,いずれも「それぞれ前記回転軸に接
触するラジアル軸受部と前記ロータと当接するスラスト軸受部を有」する
こと,構成要件2L-3及び3N-3は,いずれも「弁開動作時に当接す
る前記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗に対し,弁閉状態時に当
接する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗を大きくした」こと
を規定するものである。他方,各被告製品の軸受部は,いずれもころがり
軸受(ころを介して軸と軸受とのすべり摩擦をころがり摩擦に変換して摩
擦を減じる軸受)である(当事者間に争いがない。)。
そこで検討するに,構成要件2L-3及び3N-3は,摺動抵抗につい
て「前記ロータと前記スラスト軸受部との」間に生じることを規定してい
るところ,「摺動抵抗」が摺動している物体間に働く動摩擦力による抵抗
を意味することは技術常識であるから,上記「スラスト軸受部」が,当接
するロータとの間で摺動している物体間に働く動摩擦力による抵抗(すべ
り摩擦)を生じることを前提とする「すべり軸受」に限定されることは明
らかである。
したがって,各被告製品の軸受部である「ころがり軸受」は,構成要件
2L-2及び3N-2並びに構成要件2L-3及び3N-3の「スラスト
軸受部」を充足しない。
イこれに対し,原告は,「摺動抵抗」が「ロータの回転運動を阻害するト
ルク」を意味するにすぎず,すべり摩擦に限定されるものではないとして,
各被告製品の「ころがり軸受」についても構成要件2L-2及び3N-2
の「スラスト軸受部」に含まれると主張する。しかしながら,上記アのと
おり,構成要件2L-3及び3N-3の記載及び技術常識に照らせば,
「スラスト軸受部」にころがり軸受が含まれないことは明らかである。
均等侵害の成否
ア均等侵害の要件
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する
場合であっても,①上記部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要
件),②上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の
目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要
件),③上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等
の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),④
対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者
がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),か
つ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から
意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない(第5要件)と
きは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なもの
として,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最
高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参
照)。
イ原告明細書2及び3の記載
原告明細書2には,以下の記載がある。なお,下線部は,
手続補正により加わった記載である。
a【発明が解決しようとする課題】として,
「しかしながら,従来の流体制御弁は,モータ5の出力を有効に主流
路開閉弁8の開成力として利用していなかった。即ち,図7において
ガス流体が主流路開閉弁8を閉成する方向に流れる場合,閉成してい
る主流路開閉弁8を開成する時はガス流体の圧力が主流路開閉弁8を
閉成するガス背圧に打ち勝って弁開する必要がある。主流路開閉弁8
を弁開する時には,回転子6は主流路開閉弁8を引き上げるため,下
部の軸受10に押し付けられることになる。その結果,回転子6と下
部の軸受10による摩擦抵抗の影響で回転子6の回転力が有効に主流
路開閉弁8の開成力として得られなかった。」(段落【0003】)
b【課題を解決するための手段】として,
「本発明は上記課題を解決するために,コイルを有するステータと,
前記コイルへの通電によって励磁され回転するロータと,前記ロータ
の回転軸と,前記ステータとロータの間に介在し前記ロータを収納し
てガス流路との気密性を保持する有底筒状の気密隔壁と,前記気密隔
壁の底部に設け前記回転軸の一方を受ける第2の軸受と,前記気密隔
壁の開口側に挿入され前記回転軸の他方を受ける第1の軸受と,前記
気密隔壁の外周に配しベース板との間で気密性を保持するシール材と,
前記ロータの回転を直動に変換する変換手段と,前記変換手段を介し
てガス流路に配設した弁座への当接,離反により流路の開閉を行う弁
体と,前記弁体を弁座側に付勢する付勢手段とを備え,前記変換手段
は,回転軸に形成したねじ部と弁体側に形成したナット部の係合によ
り回転運動を直進運動に変換し,前記第1の軸受と第2の軸受は,異
なる材質を用いて構成すると共に,それぞれ前記回転軸に接触するラ
ジアル軸受部と前記ロータと当接するスラスト軸受部を有し,弁開動
作時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗に対し,
弁閉状態時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗
を大きくしたものである。」(段落【0004】)
「上記発明によれば,回転軸及びロータを受ける2つの軸受の材質を
それぞれ異なる材質を用いて構成したことにより,トルクの異なる出
力をもつ電動機が得られ,この電動機を開閉弁の駆動手段として用い
ることにより,出力を選択的に開閉弁の開成力として利用することが
出来る。」(段落【0005】)
c【発明の効果】として,
「本発明の流体制御弁は,コイルを有するステータと,コイルへの通
電による励磁により回転するロータと,ロータの回転軸と,回転軸の
一方に設けられた第1の軸受と,回転軸の他方に設けられ第1の軸受
と材質を異にする第2の軸受とで構成することにより,回転軸及びロ
ータと摺動抵抗の異なる軸受となり,接触方向を選定して使用するこ
とにより,トルクの異なる電動機出力が得られ,この電動機を開閉弁
の駆動手段として用いることにより,出力を選択的に開閉弁の開成力
として利用することが出来る。」(段落【0006】)
原告明細書3には,,bの段落【0005】及びcの各記載
に加え,【課題を解決するための手段】として,以下の記載がある。な
「本発明は上記課題を解決するために,コイルを有するステータと,前
記コイルへの通電によって励磁され回転するロータと,前記ロータの回
転軸と,前記ステータとロータの間に介在し前記ロータを収納してガス
流路との気密性を保持する有底筒状の気密隔壁と,前記気密隔壁の底部
に設け前記回転軸の一方を受ける第2の軸受と,前記気密隔壁の開口側
に挿入され前記回転軸の他方を受ける第1の軸受と,前記気密隔壁の外
周に配しベース板との間で気密性を保持するシール材と,前記ロータの
回転を直動に変換する変換手段と,前記変換手段を介してガス流路に配
設した弁座への当接,離反により流路の開閉を行う弁体と,前記ロータ
が回転する際に前記弁体が回転しないように規制する回転防止手段と,
前記弁体を弁座側に付勢する付勢手段とを備え,前記変換手段は,回転
軸に形成したねじ部と弁体側に形成したナット部の係合により回転運動
を直進運動に変換し,前記回転防止手段は,前記ベース板側に設けた回
転規制部を前記変換手段のナット部に作用させることで前記弁体の回転
を防止する構成とし,前記第1の軸受と第2の軸受は,異なる材質を用
いて構成すると共に,それぞれ前記回転軸に接触するラジアル軸受部と
前記ロータと当接するスラスト軸受部を有し,弁開動作時に当接する前
記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗に対し,弁閉状態時に当接
する前記ロータと前記スラスト軸受部との摺動抵抗を大きくしたもので
ある。」(段落【0004】)
ウ原告特許2,3の出願経過
前記前提事実及び証拠(甲32~35,乙21~24)によれば,原告
特許2及び3の出願経過は,それぞれ次のとおりである。
原告特許2及び3の特許出願時における各特許請求の範囲の記載は,
それぞれ,別紙「補正前原告特許2に係る『特許請求の範囲』」及び
「補正前原告特許3に係る『特許請求の範囲』」各記載のとおりであっ
た。
特許庁審査官は,原告特許2の出願(特願2006-179144)
及び原告特許3の出願(特願2006-179145)に対し,それぞ
れ平成21年2月9日付け各拒絶理由通知書において,出願人たる原告
に対し,これらの出願が,法29条2項により拒絶すべきものである旨
を通知した。
出願人たる原告は,上の各拒絶理由の通知を受けて,原告特許2
及び3の各出願について,平成21年4月17日,原告特許2及び3の
旧請求項2~4をそれぞれ削除して特許請求の範囲をいずれも旧請求項
1に限定した上,原告特許2の旧請求項1を本判決添付の特許公報(第
4389904号)の請求項1とし,原告特許3の旧請求項1を本判決
添付の特許公報(第4389905号)の請求項1とする旨の各手続補
正書(乙21,23)及び各意見書(乙22,24)を提出した。なお,
同手続補正書により補正された部分は,上記各特許公報の各下線部であ
る。
原告の上記各意見書中には,次の各記載がある。
a「『弁開閉動作時に当接する前記ロータと前記スラスト軸受部との
摺動抵抗に対し,弁開閉状態時に当接する前記ロータと前記スラスト
軸受部との摺動抵抗を大きくした』との補正は段落【0031】,
【0035】の記載から弁開動作時と弁閉状態時におけるロータと2
つのスラスト軸受部との当接の関係を規定すると共に,段落【002
5】の『軸受22のスラスト軸受部24の方が,軸受19のスラスト
軸受部21に比べ,ロータ16へ接触する直径が大きく,結果的に軸
受22のスラスト軸受部24の方が軸受19のスラスト軸受部21に
比べ,接触面積が大きく構成されている。この構成により軸受19と
軸受22の摺動抵抗に差が生じるものである。』との記載から,2つ
の摺動抵抗に差が有る,即ち大小関係が存在していること,及び,弁
開閉状態時に当接するロータ16とスラスト軸受部24との摺動抵抗
を弁開動作時に当接するロータ16とスラスト軸受部21との摺動抵
抗よりも大きくしている構成であることは明白であることに基づくも
のであります。」
b「段落【0024】の『小さい摺動抵抗を必要とする軸受には,摺
動摩擦抵抗の小さい材質を選択する。』との記載から,接触面積で摺
動抵抗を変える代わりとして,本願では第1の軸受と第2の軸受けの
材料を異なるように構成していることは明白であります。」
c「引用文献1には,軸受体54(本願の弁開動作時にロータが当接
する方のスラスト軸受部に相当)を摩擦抵抗の小さい摺動材で形成す
るとの記載はありますが,スラスト軸受48(本願の弁閉状態時にロ
ータが当接する方のスラスト軸受部に相当)と異なる材料で構成して
いるとの記載は無く,また,本願の様に摺動抵抗に差を設けたとの明
示も無く,更に,大小の関係も明示されておりません。また,引用文
献2には,2つの軸受の材料を異なるように構成した軸受構造が開示
されておりますが,一方の軸受は,スラスト軸受ではなく,また,本
願の様に摺動抵抗に差を設けたとの明示も無く,更に,摺動抵抗の大
小の関係も明示されておりません。」
d「従いまして,引用文献1に引用文献2を適用したとしても,本願
の特徴である第1の軸受と第2の軸受を,異なる材質を用いて構成す
ると共に,それぞれ回転軸に接触するラジアル軸受部とロータと当接
するスラスト軸受部を有し,弁開動作時に当接する前記ロータと前記
スラスト軸受部との摺動抵抗に対し,弁閉状態時に当接する前記ロー
タと前記スラスト軸受部との摺動抵抗を大きくするという構成は想到
することは困難であると思料いたします。」
特許2及び3
の設定登録がされた。
エ上記イのとおり,原告明細書2及び3の各記載によれば,原告発明2及
び3はいずれも,主流路開閉弁を弁開するときに回転子が下部の軸受に押
し付けられる結果,その摩擦抵抗によって回転子の回転力が有効に主流路
開閉弁の開成力として得られないという課題を解決するために,第1の軸
受と第2の軸受を異なる材質を用いて構成するとともに,弁開動作時に当
接するロータとスラスト軸受部との摺動抵抗に対し,弁閉状態時に当接す
るロータとスラスト軸受部の摺動抵抗を大きくしたものであり,これによ
り,流体制御弁が回転軸及びロータと摺動抵抗の異なる軸受となり,接触
方向を選定して使用することでトルクの異なる電動機出力を得て,これを
選択的に開閉弁の開成力として利用することができるという効果を奏する
ものであるとされている。また,原告明細書2及び3の各記載と上記ウの
出願経過を考慮すれば,原告発明2及び3に係るスラスト軸受の構成(ロ
ータとの間に摺動抵抗を生じるものであること)は,進歩性欠如の拒絶理
由を回避するために必要な部分であると評価すべきである。
そうすると,特許請求の範囲に記載された構成と各被告製品との相違点
である構成要件2L-2及び3N-2並びに構成要件2L-3及び3N-
3の「スラスト軸受部」に係る構成は,ロータとスラスト軸受部との間に
おける摺動摩擦の存在を課題とするか否か,同摺動摩擦の程度を弁開時と
弁閉時で異ならせるという課題解決原理を有するか否か,という点に係る
相違であり,原告発明2及び3の各本質的部分に係るものということがで
きる。
さらに,上記ウの出願経過に照らせば,原告は,ロータとの間に摺動抵
抗を生じる軸受(すべり軸受)の構成に限定されないスラスト軸受に係る
原告発明2及び3に係る特許出願当初の特許請求の範囲の記載を,進歩性
欠如の拒絶理由を回避するため,あえてすべり軸受に係る構成に限定し,
弁開動作時にロータと当接するスラスト軸受(第2の軸受)と弁閉状態時
にロータと当接するスラスト軸受(第1の軸受)の材料を異なるものとす
ることで第2の軸受よりも第1の軸受の摺動抵抗を大きくするという構成
に限定したものというべきである。そうすると,原告は,各被告製品の採
用するころがり軸受の構成については,発明に係る特許請求の範囲から意
識的に除外したものと認められる。
したがって,均等の第1要件(本質的部分ではないこと)及び第5要件
(意識的に除外されたものでないこと)を充たさないから,各被告製品が
原告発明2又は3と均等であるとは認められない。
以上によれば,各被告製品が原告発明2,3の各技術的範囲に属すると認
めることはできない。

文言侵害の成否
事案に鑑み,構成要件4Hの充足性から判断する。
ア構成要件4Hは,「前記第1の軸受けは,前記大径の円筒部の底に当接
するストッパを備え,前記ストッパを前記隔壁の大径の円筒部のなべ側面
に接しない大きさとしたことを特徴とする」ことを規定する。
他方,被告製品1の軸受Pにつき,原告は,軸受Pが,キャンの大径の
円筒部の底に当接するストッパを備え,同ストッパがキャンの大径の円筒
部のなべ側面に接しない大きさであることは明らかであると主張し,被告
は,軸受Pの突起部はストッパとしての機能を有せず,また,同突起部は
キャンの大径の円筒部の底に当接していない旨主張する。
イそこで検討するに,仮に被告製品1の軸受Pの突起部が構成要件4Hの
「ストッパ」に当たるとしても,これが隔壁(キャン)の大径の円筒部の
底に当接していることと認めるに足る証拠はない。かえって,被告製品1
の設計寸法によれば,軸受Pの突起部と大径の円筒部の底との間に0.1
5ミリメートルのすきまが存在すると認められるため(弁論の全趣旨),
軸受Pの突起部はキャンの大径の円筒部の底に当接しないことがうかがわ
れる。
これに対し,原告は,①軸受Pの突起部と大径の円筒部の底との間のす
きまは,幅0.15ミリメートルであるというごく微細なものであり,軸
受Pの製造時,組立時及び作動時を通じて同すきまが生じているという立
証はない,②ストッパについて隔壁の大径の円筒部の底への「当接」は常
に当接していることを要求するものではないから,製造時に同すきまがあ
っても「当接」は否定されない,③軸受Pは合成樹脂製であり,閉成動作
時に生ずる圧縮の力学的作用によってすきまAの存在がなくなる可能性が
ある,④原告発明4で重要なのは,隔壁を二段の底を有する形状とし,小
径の円筒部のなべ側面に合成樹脂製の軸受を嵌装することであり,大径の
円筒部の底への当接は付随的なものにすぎないところ,被告製品1の軸受
Pもキャンの小径の円筒部の底には当接している旨主張する。しかしなが
ら,原告の主張のうち④は,「前記第1の軸受けは,前記大径の円筒部の
底に当接するストッパを備え,」という構成要件4Hの記載に反するもの
というほかなく,また,②については,
大径の円筒部の底に当接するストッパを備える構成は原告発明4の本質的
部分であって,原告発明4はかかる構成を採用することにより,絞り加工
の際,ストッパに当接する大径の円筒部の底によっても位置決めされるこ
ととなり,第1の軸受の取り付け精度を向上させるとの作用効果を奏する
ものであるところ,製造時においてストッパと上記底との間にすきまがあ
れば,上記作用効果を奏することができないのであるから,いずれも到底
採用することができない。さらに,上記①及び③については,いずれも,
軸受Pの突起部が隔壁の大径の円筒部の底に当接している可能性を指摘す
るにとどまり,何らその点の立証はないのであるから(なお,この点は上
記②についても同様である。),いずれも到底採用することができない。
ウしたがって,構成要件4Dについて検討するまでもなく,被告製品1は
原告特許権4を文言上侵害しない。
均等侵害の成否
ア前記前提事実に証拠(甲37,乙51,52)及び弁論の全趣旨を総合
すると,原告特許4の出願経過は次のとおりである。
特許庁審査官は,原告特許4の出願(平成11年特許願第36985
4号)に対し,平成21年7月23日付け拒絶理由通知書において,出
願人たる原告に対し,同出願が法29条2項により拒絶すべきものであ
る旨を通知した。
の拒絶理由通知を受けて,原告特許4の出
願について,平成21年9月17日,請求項1及び2をそれぞれ本判決
添付の特許公報(第4461539号)のとおり補正する旨の手続補正
書(乙51)及び意見書(乙52)を提出した。なお,同手続補正書に
より補正された部分は,上記特許公報の下線部である。
a「引用文献1における軸受保持部は絞り加工により側面部(本願の
小径の円筒部のなべ側面)に環状の突出部を設けることで中央に凹部
40eを形成したものであります。これに対し,本願は,第1の軸受
けは,前記大径の円筒部の底に当接するストッパを備え,前記ストッ
パの外径を前記隔壁の大径の円筒部のなべ側面に接しない大きさとし
たことを特徴とするもので,これにより,第1の軸受けは,嵌挿部が
嵌挿される小径の円筒部のなべ側面と,ストッパが当接する大径の円
筒部の底の2つの面で位置決めされることになります。この円筒部の
なべ側面や大径の円筒部の底は,絞り加工の際,精度が確保できる為,
第1の軸受けの取り付け精度を向上することが出来ます。」
b「引用文献1において,本願発明の大径の円筒部の底に相当するの
は環状の突出部であり,平面で構成されておりませんので,例え,ス
トッパを設けたとしても,面と当接する本願発明に比べ取り付け精度
が劣ることは明白であります。」
イ上記アの出願経過に照らせば,原告は,進歩性欠如の拒絶理由を回避す
るため,構成要件4Hにおいて,第1の軸受が,隔壁の大径の円筒部の底
に当接するストッパを備え,同ストッパの外径を隔壁の大径の円筒部のな
べ側面に接しない大きさとする構成に限定したものと認められるのであっ
て,第1の軸受が大径の円筒部の底に当接するストッパを備えない構成に
ついては,原告発明4に係る特許請求の範囲から意識的に除外したものと
いうべきである。
さらに,原告載,とりわけ,上記構成により,
第1の軸受が,嵌挿部が嵌挿される小径の円筒部のなべ側面と,ストッパ
が当接する大径の円筒部の底の2つの面で位置決めされることとなるため,
引用文献1に係る発明に比べて,第1の軸受の取り付け精度を向上するこ
とができる旨の記載に照らせば,第1の軸受が大径の円筒部の底に当接す
るストッパを備えるという構成は,原告発明4の本質的部分ということが
できる。
そうすると,本件においては,均等の第1要件(本質的部分ではないこ
と)及び第5要件(意識的に除外されたものでないこと)を充たさないか
ら,被告製品1が原告発明4と均等であるとは認められない。
以上によれば,被告製品1が原告発明4の技術的範囲に属するとは認めら
れない。
4差止め及び廃棄請求の必要性)について
被告は,被告子会社において,各被告製品を原告発明1の技術的範囲に属し
ない構成となるよう設計変更を実施し,設計変更前の部品の在庫を全て廃棄し
た結果,遅くとも平成27年9月には日本国内における設計変更前の各被告製
品の在庫がなくなったとし,これを前提に,被告が,同月以降,各被告製品を
保有・販売していないし,今後,再び各被告製品を保有・販売する予定もない
から,差止め及び廃棄請求の必要性を欠く旨主張する。
しかしながら,被告子会社において設計変更前の各被告製品の部品を全て廃
棄したことを認めるに足る証拠はない上(なお,乙62の1,2,乙63の1,
2,乙64,乙65によっても直ちに同事実を認めることはできない。),各
被告製品の構成を設計変更前のものに戻すことが物理的に困難であるともうか
がわれない。さらに,被告が,本件訴訟において,一貫して,各被告製品が原
告発明1の技術的範囲に属しないと主張していることからすれば,被告におい
て今後,各被告製品を製造,販売するおそれも十分認められる。
他方,各被告製品の製造に供する金型については,被告において,これを保
有していると認めるに足る証拠がなのとおり,
各被告製品の製造を行っているのが,被告とは別の法人格を有する被告子会社
であることからすれば,被告において各被告製品の製造に供する金型を有して
いるとは認め難い。したがって,原告の廃棄請求のうち,各被告製品の製造に
供する金型に係る廃棄請求には理由がない。
以上によれば,原告の被告に対する差止め及び廃棄の請求については,各被
告製品の製造に供する金型に係る廃棄請求を除き,その必要性を肯定すること
ができる。
5及び被告の不当利得額)について
原告は,被告による各被告製品等の販売等が原告特許権1~4を侵害する
と主張して,不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めるが,前記1~3の
とおり,各被告製品等について,原告発明1の技術的範囲に含まれると認め
られる一方,原告発明2~4の技術的範囲に含まれるとは認められない。そ
こで,以下,各被告製品等の販売等による原告特許権1の侵害の限度で,法
102条2項に基づく原告の損害額を検討する。
ア各被告製品等の譲渡数量及び売上高について
被告は,各被告製品等を被告子会社から仕入れて販売しているところ,
被告の主張に係る各被告製品等の譲渡数量,単価(税抜),売上高及び
仕入原価は,
めると,下記の表のとおりである。そして,各被告製品等の譲渡数量等
に係る上記被告の主張に不自然なところは見当たらないこと,少なくと
も被告製品2の1についての譲渡数量については原告の主張とも一致し
ている上,各被告製品等の譲渡数量,売上高及び仕入原価が被告の主張
に係る数額を上回る又は下回ると認めるに足る的確な証拠も見当たらな
いこと等に照らせば,上記被告の主張を採用することが相当である。
したがって,各被告製品等の売上高は,被告の主張する数額どおり,
合計●(省略)●円であると認められる。

●(省略)●
以上
これに対し,原告は,各被告製品等の譲渡数量が合計●(省略)●個
であり,各被告製品等の売上高は合計●(省略)●円であると主張する。
しかしながら,原告は,各被告製品等の譲渡数量及び売上高が被告の
主張に係る数額を上回ることについて何ら立証しない。なお,原告の主
張する被告製品2の1以外の各被告製品等の譲渡数量は,原告が各ガス
メータメーカーに販売したコントローラーの総数から,原告が当該ガス
メータメーカーに対し販売した遮断弁の個数を差し引いた数量をもって
各被告製品等の譲渡数量とするもので,それ自体正確なものとはいい難
いし(同期間内に販売されたコントローラーが全て同期間内に販売され
たガスメータの製造に使用されたことを認めるに足る証拠はなく,かえ
って,そのような事態は取引通念に照らして一般には想定しにくい。),
販売期間の一部に係る譲渡数量について推定計算を行っていることや,
各被告製品等の単価等についての根拠も示されていないことなども勘案
すると,到底採用することはできない。
イ各被告製品等の限界利益について
各被告製品等の仕入原価(再検査費用を含む。)が合計●(省略)●
円であることについては,当事者間に争いがないから(第21回弁論準
備手続調書),各被告製品等の限界利益は,●(省略)●円であると認
められる(計算式は,●(省略)●●
(省略)●円)。
これに対し,原告は,①原告において被告製品1の限界利益率を算定
したところ●(省略)●%であったから,各被告製品等の限界利益率は
売上高に同率を乗じて算定すべきである,②被告が各被告製品等を自ら
の完全子会社である被告子会社から仕入れていること,被告と被告子会
社が不真正連帯債務として損害賠償義務を負担することからすると,被
告と被告子会社との連結による収支計算に基づいて限界利益率を●(省
略)●%と算定すべきであると主張する。
しかしながら,上記①については,原告社員による被告製品1につい
ての推計にすぎない上(甲42),同推計の基礎となる原価の正確性を
裏付ける証拠も見当たらず,さらに,同推計が被告製品1以外の各被告
製品等に妥当するという根拠も不明である。また,上記②についても,
原告は,被告子会社が被告の完全子会社であると主張するのみで,各被
告製品等に係る被告の被告子会社からの仕入価格が不当に高額に設定さ
れているなどといった各被告製品等の仕入原価の適正性を疑わせる具体
的な事情を何ら主張しないのであるから(さらに,連結による収支計算
によった場合に限界利益率が●(省略)●%となることを認める証拠も
ない。),被告子会社からの仕入価格を原価として限界利益を算定する
ことが不相当であるということはできない。したがって,原告の上記主
張はいずれも採用することができない。
なお,被告は,各被告製品等の仕入原価に加えて,製造,販売に直接
要した諸経費を控除する必要があり,各被告製品等の限界利益は売上高
のせいぜい25%である旨主張する。しかしながら,被告は仕入原価以
外の製造,販売に直接要した諸経費について,具体的な主張,立証を一
切しないのであるから,被告の同主張についても採用することはできな
い。
ウ推定覆滅について
原告は,平成22年7月16日(原告特許権1の設定登録時)から各
被告製品等の販売終了までの間における被告による原告特許権1の侵害
について,法102条2項による損害賠償を求めるから,特許権者であ
る原告が受けた損害額は,上記期間における被告の限界利益額である●
(省略)●円(上記)であると推定される。
そして,法102条2項の推定を覆滅できるか否かは,侵害行為によ
って生じた特許権者の損害を適正に回復するとの観点から,侵害品全体
に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか,市場における代替品
の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブランド等といっ
た営業的要因や,侵害品の性能,デザイン,需要者の購買に結びつく当
該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴などを総合的
に考慮して判断すべきである(知的財産高等裁判所平成26年12月1
7日判決参照)。
そこで検討するに,原告明細書1の特許請求の範囲の記載に照らすと,
原告発明1は,ガス遮断弁の構成全体に関する発明であることが明らか
であるから,各被告製品等においては,そのガス遮断弁の構成全体につ
いて原告発明1が実施されているというべきである。また,原告発明1
は,組立時に隔壁と取り付け板との若干の軸方向の位置ずれが発生した
場合や長期間使用している間に腐食や熱膨張などによって隔壁と取り付
け板との固着のゆるみなどが発生した場合でも,シール部材の圧縮率は
ほとんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提
供することができるという効果を奏するものであって(原告明細書1の
段落【0014】),このような原告発明1の作用効果に加えて,上記
のとおり,各被告製品等の構成全体について原告発明1が実施されてい
ることも併せれば,原告発明1の存在が各被告製品等についての需要者
の購入意欲に大きく結びついているものと考えられる。また,原告製品
と各被告製品等は,いずれもモータ式のガス遮断弁であるところ,ガス
遮断弁の市場シェアについては原告と被告が2分し,寡占状態にあるか
ら(争いのない事実),需要者にとって原告又は被告の製品以外に代替
品の選択肢はほぼ存在しない(なお,ガス遮断弁全体の市場シェアにつ
いては,原告が被告よりも高い市場シェアを有しているものの,原告製
品及び各被告製品等の属するモータ式遮断弁の市場においては,本件の
本訴及び反訴が提起された年の前年(平成24年)に被告の大口取引先
がガスメータ事業から撤退するまでの間,長らく被告は原告と拮抗する
市場シェアを有していたと認められる(甲44,弁論の全趣旨)。)。
さらに,原告が我が国有数の電機メーカーであることは公知の事実であ
り,そのブランド力は高いと認められる。
他方,原告発明1を除く各被告製品等の性能,デザイン等のその他の
特徴が需要者の購買意欲に殊更に影響していることを認めるに足る証拠
はない。確かに,原告の事業規模が被告の事業規模を上回るとはいえ,
被告が,長年にわたって各被告製品等と同種のモータ式双方向遮断弁を
含む遮断弁を市場に供給し,自ら取引先を開拓することによって,原告
と拮抗するモータ式双方向遮断弁の市場シェアを確保してきたことから
すると,被告の営業努力や顧客との継続的な関係性といった要素を無視
することはできず,各被告製品等の売上が専ら原告発明1のみによるも
のとまでは認めることができない。しかしながら,このような事情を十
分に考慮しても,上記で検討した各事情に鑑みれば,大幅な推定覆滅を
認めることは相当ではない。
以上によれば,法102条2項の推定に係る推定覆滅の割合について
は,20%と認めるのが相当である。
これに対し,被告は,①原告発明1の技術的思想の中核を成す特徴的
部分が隔壁の開放端に設けられた「つば」であるところ,同部分は各被
告製品等の隔壁開放端のごく一部にすぎず,原告発明1に技術的優位性
はない,②被告は各被告製品等について原告特許権1を侵害しない構成
に設計変更したにもかかわらず,設計変更後も設計変更前と変わらず,
需要者が被告との取引を継続している,③ガス遮断弁のうち,原告製品
と各被告製品等が属するモータ式のものについては,被告が先駆的に開
拓してきたところに原告が参入した経緯があるとし,これらの事情から
すると,各被告製品等の販売における原告発明1の寄与は極めて限定さ
れたものであり,少なくともその90%について,法102条2項の推
定が覆滅されると主張する。
しかしながら,まず,上記①につき,そもそも法102条2項は,侵
害者の侵害品の販売により特許権者が侵害品の競合品を市場で販売でき
なかったものとして,侵害者における侵害品の売上を特許権者の損害
(売上減少)と推定する規定である。したがって,法102条2項の推
定を覆滅するには,侵害者において,侵害者による侵害品の売上が特許
権者の売上減少との間に全面的な因果関係を有しないことを主張,立証
する必要があるのであって,仮に,原告特許権1の特徴的部分が各被告
製品等の構成の一部であるとか,特許権の技術的意義が小さいなどの事
情があったとしても,直ちに上記推定を覆滅すべき事情ということはで
きず,これらの事情が購入者の購入動機にどの程度影響を与えるか(需
要喚起力の有無及び程度)を侵害者において主張,立証する必要がある
ところ,この点についての的確な主張,立証はない。また,上記②につ
いても,被告が各被告製品等について原告特許権1を侵害しない構成へ
の設計変更後に従前の顧客と取引を継続しているからといって,これが
直ちに上記推定覆滅率についての判断を左右すべき事情ということはで
きない(設計変更後も従前の顧客と取引を継続するに際し,被告の営業
努力等が寄与していることは否定できないが,推定覆滅率の判断に当た
っては,このような被告の営業努力等も考慮している。
なお,被告が,各被告製品等の設計変更後も顧客との取引を継続してい
るとしても,上記のとおり顧客誘引力を有する原告特許権1を侵害する
各被告製品等によって獲得した信用力やブランドが設計変更後の売上維
持に貢献していることも十分考えられる。)。さらに,上記③について
,上記のとおり,被告が各被告製品等
と同種のモータ式双方向遮断弁の取引先を開拓してきたことについて,
被告の営業努力や顧客との継続的な関係性といった要素があることを認
めた上で推定覆滅率の判断をしているのであり,同事情をもって,上記
推定覆滅率を超えて推定覆滅をすべき事情であると認めることはできな
い。以上によれば,推定覆滅率に関する上記被告の主張を採用すること
はできない。
エそうすると,被告による原告特許権1の侵害行為によって原告の受けた
損害(逸失利益)の額は2億1942万7552円(計算式は,●(省略)
●計算式は,100%-20%
の推定覆滅率)))と認められる。また,原告の弁護士費用の
うち2200万円については,被告による上記特許権侵害行為と因果関係
を有する損害と認めるのが相当である。
オなお,原告は,被告による被告製品2の販売等が原告特許権2及び3を
侵害していたとして不当利得返還金の支払も求めるが,前記2のとおり,
被告製品2は原告特許権2又は3の技術的範囲に属するものではなく,被
告製品2の販売等が原告特許権2又は3を侵害するとは認められないから,
この点に関する原告の請求は理由がない。
したがって,原告は,被告に対し,原告特許権1の侵害による不法行為に
基づく損害賠償請求権として2億4142万7552円(計算式は,2億1
942万7552円+2200万円)を請求できる。

られるから,そうである以上,原告製品は,特許請求の範囲の減縮を目的とす
る本件訂正の前の被告発明の技術的範囲にも当然属すると認められる。
7争点⑻(本件訂正により被告発明に係る特許の無効理由が解消したか)につ
いて
原告は,被告発明に係る特許について無効の抗弁を主張し,これに対し,被
告が被告発明に係る特許について訂正の再抗弁を主張しているが,被告の訂正
の再抗弁が認められる場合,すなわち,①被告訂正発明について無効理由が存
在せず,かつ,②原告製品が被告訂正発明の技術的範囲に属すると認められる
場合には,争点⑺(被告発明に係る特許の無効理由の有無)について判断する
までもなく,原告製品は被告特許権を侵害することとなる(なお,本件無効審
判において,特許庁が,平成27年6月4日に本件訂正を認めた上で不成立審
決をし,原告の提起した本件審決取消訴訟に対し,知的財産高等裁判所が,平
成28とおり
である。)。
そこで,事案に鑑み,以下,争点⑺の判断に先行して,まず争点⑻について
判断することとする。
被告訂正発明についての無効理由の存否
ア被告訂正明細書の発明の詳細な説明には,次の各記載がある。
【従来の技術】として,
「従来,この種の装置のシール構造としては図3に示される構成例の
ものがある。すなわち,図3はガス遮断時のガス遮断装置の要部断面
を示すもので,1はガス供給管路中の弁座で,弁体2の保持板2aと
ゴム材等の弾性材で形成したシール弁2bから構成されている。そし
て,弁体2は,ガス通路の側壁の開口(図示していない)に外側から
取り付けられたホルダ3に,スプリング4を介して取り付けられてお
り,該スプリング4は弁2を弁座1に押し付ける方向に付勢されてい
る。また,弁体2の中央部にはリードスクリュー5の先端部6が貫通
した後,Eリング7,7で挟持するようにして連結されている。リー
ドスクリュー5は前記ホルダ3の貫通孔8を貫通して流体通路外側に
延設され,その中程にはスクリューねじ9が形成されている。10は
ロータで内周面の雌形スクリューねじ10aがスクリューねじ9と螺
合する。11は永久磁石,12は電磁コイル,12aはボビン,13
はステータヨーク,14は軸受で15はホルダ3にねじ等で固定され
たモータの取付板である。また,15は弾性材で成形されたOリング
で,シール板17と共に,ホルダ3に形成された貫通孔8とリードス
クリュー5との隙間からのガスの漏出を防止するためのものである。」
(段落【0002】)
「上記のように構成されているため,ステータヨーク13とこれに内
装されている電磁コイル12とを備えたロータ回転手段Aの制御によ
り,ロータ10と永久磁石11とよりなる回転手段Bが正逆回転し,
この回転手段Bと螺合しているリードスクリュー5と弁体2からなる
弁体移動手段Cが左右にリニア移動する。これにより,弁体2は弁座
1と密着又は弁座1から離隔する。(段落【0003】)
【発明が解決しようとする課題】として,
「しかしながら,上記のように構成された貫通孔8とリードスクリュ
ー5との間のシール構造では,シール材としてのOリング16は密着
状態にあるリードスクリュー5が左右に移動するため,摩擦熱等によ
る経年変化を起して,リードスクリュー5と粘着状態になってしまう。
このため,流体遮断装置の負荷が増大し,緊急時におけるガス遮断に
即応することができなくなるという問題点が生じる。」(段落【00
04】)
「本発明は,このような従来の技術の有していた問題点を解消するた
め,非磁性材の薄板パイプをステータヨーク内周面及び軸受保持板外
周面に接するように配設し,このパイプとその幅方向の両端に嵌装し
たOリングと,モータの軸端部に設けたOリングとによるシール構造
によって,負荷の安定と信頼性の向上を図ったモータ駆動双方向弁と
そのシール構造を提供することを目的とする。」(段落【0005】)
【課題を解決するための手段】として,
「上記目的を達成するため,第1の発明に係るモータ駆動双方向弁装
置は,回転軸28の左端にリードスクリュー28aを形成した正逆回
転可能なモータDと,このモータDの取付板23との間に装着された
スプリング24により弁座21に密着する弁体22と,先端部25a
がこの弁体22の保持板22aに固定され,前記リードスクリュー2
8aと螺合して左右に移動する弁体移動手段25とより構成される。
また,第2の発明に係る外部操作用円盤装置は,第1の発明に係るモ
ータ駆動双方向弁装置を停電時等の緊急時に,外部から手動等の操作
により,弁体22と弁座21に密着し又は弁座21から離隔させるた
めに,この弁体移動手段25とは反対側にモータに外部操作手段40
を付属させたものである。さらに,第3の発明は,第1又は第2の発
明における弁体移動手段25の実施態様である。そして,第4の発明
は,第1の発明のモータ駆動双方向弁装置におけるシール構造におい
て,その両端縁が軸受保持盤22aの外周面に接するとともに,残り
の部分はステータヨーク37の内周面に接するように,黄銅等の非磁
性材の薄板パイプ38を配設し,この薄板パイプ38の両端縁におい
てモータの取付板23,33及びステータヨーク37,37とにより
包囲される隙間にOリング等のシール材39,39を嵌装したもので
ある。」(段落【0006】)
【作用】として,
「上記構成の弁体移動手段25により,弁体22は弁座21に密着さ
れてガス通路等を遮断してガス流を停止させるとともに,弁座21か
ら離隔保持してガス通路を開放する。また,弁体移動手段25のみが
ガス通路隔壁内に配置され,他のモータ構成部分はガス通路隔壁外に
配置されているから,このモータのステータヨーク37内周面及び軸
受保持盤32の外周面に接する薄板パイプ38と,これらにより形成
される隙間にOリング等のシール材39を嵌装するシール構造のため,
シール材39は移動部分との接触がなくなるので,双安定弁の負荷が
安定する。さらには,外部操作手段としての円盤40を備えたことに
より,停電中の緊急時には,工具(ドライバ等)により,円盤40を
押し込んで,その突起140aを回転軸28の先端溝28bに係合す
ることにより,弁体22と弁座21の開閉を手動操作により行うこと
が可能になる。」(段落【0007】)
【発明の効果】として,
「以上詳細に説明したように,本発明によれば,次に記載する効果を
奏する。弁体移動手段はモータの外側に設け,モータのステータヨー
ク内周面を非磁性材の薄板パイプで覆うとともに,このパイプの幅方
向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定したので,静止部分
でのシール構造が得られるようになり,弁体移動手段との摩擦を避け
ることが可能となったので,Oリングの劣化により負荷が増大すると
いう従来シール構造の問題点が解消されるため,負荷の安定性を保持
できるとともに,高い信頼性を実現できる。また,外部操作手段を設
けることにより,停電時でも,工具等の使用により,手動で双方向弁
の開閉が可能になる。」(段落【0015】)
イ被告訂正発明の進歩性について
被告訂正発明の構成要件及び上記アで認定した被告訂正明細書の記載
によれば,被告訂正発明の概要は下記のとおりであると認められる。

従来のモータ駆動双方向弁における貫通孔8とリードスクリュー5と
の間のシール構造では,シール材としてのOリング16は密着状態にあ
るリードスクリュー5が左右に移動するため,摩擦熱等による経年変化
を起こして,リードスクリュー5と粘着状態になってしまい,流体遮断
装置の負荷が増大し,緊急時におけるガス遮断に即応することができな
くなるという問題点が生じていた。(段落【0002】~【0004】)
被告訂正発明は,このような従来の技術の有していた問題点を解消す
るため,非磁性材の薄板パイプをステータヨーク内周面及び軸受保持板
外周面に接するように配設し,このパイプとその幅方向の両端に嵌装し
たOリングと,モータの軸端部に設けたOリングとによるシール構造に
よって,負荷の安定と信頼性の向上を図ったモータ駆動双方向弁とその
シール構造を提供することを目的とする。(段落【0005】)
同目的を達成するため,被告訂正発明に係るモータ駆動双方向弁装置
においては,弁体移動手段25のみがガス通路隔壁内に配置され,他の
モータ構成部分はガス通路隔壁外に配置されているから,このモータの
ステータヨーク37内周面及び軸受保持盤32の外周面に接する薄板パ
イプ38と,これらにより形成される隙間にOリング等のシール材39
を嵌装するシール構造のため,シール材39は移動部分との接触がなく
なり,静止部分でのシール構造が得られるようになり,弁体移動手段と
の摩擦を避けることが可能となったので,Oリングの劣化により負荷が
増大するという従来シール構造の問題点が解消されるため,負荷の安定
性を保持できるとともに,高い信頼性を実現できる。(段落【000
7】,【0015】)
以上
甲16発明の概要
甲16文献の記載によれば,甲16発明の概要は,下記のとおりであ
る。

高圧蒸気の貫流を遮断する装置に利用されるモータが遮断機構を駆動
する高圧遮断弁であって,モータのシャフト9の下側端部に形成された
スピンドル12,モータのエアギャップに高圧の作用の下でステータ体
に当接するように配置され,ロータのある空間がモータのステータから
分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され,相互
に可動の部品でのシールを回避した,両方の側で開いた中空体からなる
弾力性あるシール体,を備えてなる,モータが遮断機構を駆動する高圧
遮断弁。
以上
被告訂正発明と甲16発明との一致点及び相違点
a一致点
ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁において,回転軸の
左端部にリードスクリューを形成し,ステータの内周側に配置され,
内部の気密を確保するシール構造をなし,静止部分となる中空状の部
材を有する正逆回転可能なモータと,モータの取付板と,弁座に密着
する弁体と,端部に弁体を有し,前記リードスクリューと螺合して,
左右に移動する弁体移動手段とからなるモータ駆動双方向弁。
b相違点
被告訂正発明と甲16発明の相違点は,以
下のなお,原告は,以下のにつ
き,被告訂正発明と甲16発明との相違点ではないと主張するが,主
張の前提を欠くものであって,採用することができない。他方,被告
は,被告訂正発明の対象が「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双
方向弁」であるのに対し,甲16発明の対象は「高圧設備(高圧蒸気
ボイラー,高圧蒸気タービンなど)用のモータが遮断機構を駆動する
高圧遮断弁」であることも相違点であると主張するが,被告訂正発明
の「ガス遮断装置」が対象とするガスの圧力に限定はなく「高圧」の
ものも含まれ得る一方,甲16発明の「高圧」についてもある程度の
範囲があり得ることからすると,この点を被告訂正発明と甲16発明
の相違点と認めることはできず,被告の主張も採用できない。
相違点1´
内部の気密を確保するシール構造をなし,静止部分となる中空状
の部材を有する点について,被告訂正発明では「ロータ回転手段の
ステータヨークの内周面に接するように配置され,Оリング等のシ
ール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし,当該シール
材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄型パイプを有する」の
に対し,甲16発明では「モータのエアギャップに高圧の作用の下
でステータ体に当接するように配置され,ロータのある空間がモー
タのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シ
ールが実現され,相互に可動の部品でのシールを回避した,両方の
側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体を備えてなる」点。
相違点2
被告訂正発明では,モータの取付板と弁体との間にスプリングが
装着され,弁体がスプリングにより付勢されて弁座に密着する構成
であるのに対し,甲16発明では,モータのハウジングと弁座との
間にスプリングが装着されておらず,弁体がスプリングにより付勢
されて弁座に密着する構成になっていない点。
⒞相違点3
弁体移動手段が端部に弁体を有する構成に関し,被告訂正発明で
は先端部が弁体の保持板に固定されるのに対し,甲16発明では下
側端部が弁体である点。
相違点1´の容易想到性について
被告訂正発明と甲16発明との上記相違点1´は,具体的には,各発
明に共通する「静止部分でのシール構造を得る」という技術思想につき,
被告訂正発明においては薄板パイプにОリング等のシール材を嵌装する
ことにより実現しているのに対して,甲16発明においてはシール体z
のみで実現している点に係る相違である。
そこで検討するに,被告訂正発明における薄板パイプ38は,ロータ
とステータヨークの間を隔ててロータ内のガスを隔離するとともに,薄
板パイプ38を非磁性材としてステータヨークからロータへの磁力の伝
達に支障を来さないようにして,シール材(Оリング39)と共に静止
部分のシール構造を形成するものであるが,ロータ側とステータヨーク
側の間の気密の確保は,薄板パイプ38とシール材(Оリング39)と
の協働によって行っているものと認められる。これに対し,甲16発明
は,弾力性あるシール体zのみで,シール体z全体に係る内圧を受けて
ステータx,ハウジング3,4に密着させて,ロータyとステータx間
を仕切り,ロータyのある空間17内の高圧蒸気を隔離するとともに,
内部の気密の確保を行いつつ,非磁性体であるシール体zにより,ステ
ータxからロータyへの磁力の伝達に支障を来さないようにしているも
のと認められる。
そうすると,被告訂正発明における薄板パイプ38と甲16発明のシ
ール体zとでは,ガス(高圧蒸気)を隔離するためのシール作用が相違
しているというべきであり,相違点1´に係る被告訂正発明の構成が設
計事項であるということはできない。
また,甲16文献には,シール体zではステータとの間のシールが不
十分であるといった課題は提示されておらず,シール体zに加えて,О
リング等のシール材を採用することについての記載も示唆もないから,
シール体zに加えてОリング等のシール材を採用する動機付けがないし,
シール体zとОリング等のシール材との協働形態を想定することも容易
ではない。かえって,甲16発明のシール体zにОリング等のシール材
を嵌装すれば,シール体zとステータとの間にシール材の厚み分の空間
が生じることとなり,これによりシール体zの弾性変形によるシール性
能が損なわれるなどして気密性が失われるおそれもあるから,そのよう
な構成を採用することには阻害要因もあるというべきである。
以上によれば,甲16発明におけるシール体に加えて,Оリング等の
シール材を採用することは,当業者が容易に想到することができたもの
ということができず,相違点1´に係る被告訂正発明の構成が容易に想
到できたとはいえない。したがって,相違点2及び3について検討する
までもなく,被告訂正発明には進歩性が認められる。
これに対し,原告は,相違点1´は,甲16発明と被告訂正発明とが,
「弾力性あるシール体z」が一部材からなるか(甲16発明),「薄板
パイプ」及び「シール材」という別部材からなるか(被告訂正発明)の
違いにすぎず,実質的な相違点ではないと主張するが,上記説示に照ら
し採用することはできない。
ウ被告訂正発明におけるサポート要件違反の有無について
原告は,被告訂正明細書の発明の詳細な説明及び図面には,両端が開放
された「薄板パイプ(38)」の幅方向の両端部をOリング等のシール材
でシールする発明のみが開示されているのに対し,被告訂正発明の特許請
求の範囲の記載には,広く,薄板パイプの幅方向の両端部がOリング等の
シール材で装填・固定されていない発明をも含む記載となっているから,
サポート要件に適合しない旨主張する。
そこで検討するに,のとおり,被告訂正発明は,ガス遮断装置
に用いられるモータ駆動双方向弁において,従来のリードスクリュー(可
動部分)とその貫通孔(静止部分)との間のシール構造においては,シー
ル材としてのОリングが経年変化を起こし,リードスクリューが粘着状態
になってしまうなどの問題点があったことから,これを解決するために,
①ステータヨークの内周面に接するように非磁性体材の薄板パイプを配設
し,②Оリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造を成
し,③当該薄板パイプを当該シール材が嵌装される静止部分としたもので
ある。このように,弁体側からモータを経て外部にガスが漏れないように
するために,薄板パイプをロータとステータヨークの間に配設して,シー
ル材と協働してシール構造を形成すること,すなわち,従来技術における
可動部分と静止部分との間のシールに代えて,薄板パイプをロータとステ
ータヨークの間に配設し,シール材と協働して静止部分でのシール構造を
形成する点に技術的意義があると認められる。
このような被告訂正発明の技術的意義に鑑みると,被告訂正発明におけ
るシール材は,静止部分でのシール構造を得ることができるものであれば
足り,シール材が薄板パイプの幅方向の両端部にあることは必須ではない
というべきであり,シール材が薄板パイプ両端に設けられた被告訂正明細
書の実施例記載の構成に限定すべき旨の原告の主張を採用することはでき
ない。
したがって,被告訂正発明についてサポート要件違反の無効理由は存在
しない。
エ被告訂正発明における構成不可欠要件違反の有無について
改正前法36条5項2号は,請求項を「特許を受けようとする発明の構
成に欠くことができない事項のみを記載した項」と定義し,発明の要旨に
不可欠かつ十分な構成要件のみを記載することを求めることによって,一
の請求項から必ず発明が把握されるという請求項の構成要件的機能を担保
したものと解される。したがって,同号の要件を満たすためには,特許請
求の範囲に,当該発明の技術的課題を解決するために必要不可欠な技術的
手段(技術的事項),すなわち,当該発明の技術的特徴を成す発明の要旨
(発明特定事項)が記載されていることが必要であり,このような記載が
ある場合には,特許請求の範囲に記載された事項に基づいて特許を受けよ
うとする発明が明確に把握できるから,同号の要件を満たすというべきで
ある。
そこで検討するに,上記ウのとおり,被告訂正発明の技術的意義は,弁
体側からモータを経て外部にガスが漏れないようにするため,従来技術に
おける可動部分と静止部分との間のシールに代えて,薄板パイプをロータ
とステータヨークの間に配設し,シール材と協働して静止部分でのシール
構造を形成する点にある。このような被告訂正発明の技術的意義を実現し,
静止部分でのシール構造を得るためには,「Oリング等のシール材と共に
内部の気密を確保するシール構造をなし,当該シール材が嵌装される静止
部分となる非磁性材の薄板パイプ」であれば足り,例えば薄板パイプとス
テータヨークとの間の全面にシール材を設けても良いのであるから,シー
ル材が薄板パイプの幅方向の両端部にあることは必須ではないというべき
である。また,上記のとおり,被告訂正発明は,ロータとステータヨーク
との間に設けた薄板パイプとともにシール材を用いることにより,ロータ
のあるモータ内部空間とステータヨークとの間のシール構造を得ることに
係る発明であって,モータ後端部(封止される必要があることは明らかで
ある。)は,金具等を含む適宜の方法で封止されていれば足りるのである
から,この部分の封止に関して実施例が備える取付板33や軸受保持版3
2について,必ずしも特許請求の範囲に記載されていなければならない理
由はない。
そして,被告訂正発明に係る特許請求の範囲には,「ロータ回転手段
(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように配置され,O
リング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし,当該
シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプ(38)を有
する正逆回転可能なモータDと,このモータDの取付板(23)との間に
装着されたスプリング(24)により付勢されて弁座(21)に密着する
弁体(22)と,」と記載されているから,モータDの弁体側に取付板
(23)があること,薄板パイプ(38)をロータ回転手段(34)のス
テータヨーク(37)の内周面に接するように配置していること,薄板パ
イプ(38)とOリング等のシール材とで内部の気密を確保するシール構
造を成していること,薄板パイプ(38)はシール材が嵌装される静止部
分となっていることを,いずれも把握することができる。すなわち,モー
タDのステータヨーク及び取付板を含むステータヨークの周辺構造は,ロ
ータのような可動部分とは異なり静止部分であること,ロータとステータ
ヨークとの間に薄板パイプが設けられ,薄板パイプにシール材が嵌装され
ていることからすると,当業者において,被告訂正発明におけるシール構
造につき,薄板パイプという静止部分と,ステータヨーク及びその周辺構
造というもう一つの静止部分との間にシールを行うものであると把握する
ことができるから,特許請求の範囲には,被告訂正発明の技術的特徴を成
す発明の要旨である「静止部分でのシール構造を得る」ための構成が記載
されているということができる。
したがって,被告訂正発明の特許請求の範囲の記載は,改正前法36条
5項2号の要件を満たす。
オ以上によれば,被告訂正発明について無効理由が存在するとはいえない。
原告製品が被告訂正発明の技術的範囲に属するか否かについて
ア原告製品の構成要件充足性の前提問題として,原告製品の構成について
当事者間に争いがあり,被告が,原告製品について,非磁性体材より成る
「薄板の筒状部10a」を配設した正逆回転可能なモータユニット1を有
すると主張するのに対し,原告は,原告製品には上記「薄板の筒状部10
a」はなく,これに代わって,非磁性体材より成る「,貫通穴がなくなべ
状に成形され,開放端につばを有する薄板のケース体10」を配設した正
逆回転可能なモータユニット1を有すると主張する。
しかしながら,原告製品の「ケース体10は,有底筒状の形状,すなわ
ち,円筒状の筒状部10aと,この筒状部10aの後端を塞ぐ底部10b
とを有する」ことも含めて,原告製品が別紙原告製品説明書記載の構成を
有することについては当事者間に争いがないことに照らすと,上記争いは,
結局のところ,後記のとおり,原告製品の「ケース体10」が被告訂
正発明の「薄板パイプ(38)」を充足するか否かの評価によって決せら
れるものといえるのであって,原告製品の構成についての当事者間の主張
が実質的に食い違うとは認められない。
イそして,原告製品が被告訂正発明の構成要件B以外の構成要件(構成要
件A,C~E)を充足することは当事者間に争いがないから,以下,原告
製品が被告訂正発明の構成要件Bを充足するか否かを検討する。
被告訂正発明の技術的意義は,弁体側からモータ
を経て外部にガスが漏れないようにするために,薄板パイプをロータと
ステータヨークの間に配設して,シール材と協働してシール構造を形成
する点,すなわち,従来技術における可動部分と静止部分との間のシー
ルに代えて,薄板パイプをロータとステータヨークの間に配設し,シー
ル材と協働して静止部分でのシール構造を形成する点にある。このよう
な技術的意義に鑑みれば,「薄板パイプ」は,ロータとステータヨーク
の間に配設され,シール材と協働して静止部分でのシール構造を形成し
ていればよいのであって,薄板パイプの後端部について,必ずしもOリ
ングによってシールされている必要はなく,適宜の方法で封止されてい
れば足りると解される。この点,別紙原告製品説明書のとおり,原告製
品についても,ロータとステータユニットの間に円筒状の筒状部を有す
るケース体10が配置され,同筒状部がOリング8と協働して静止部分
でのシール構造を形成しているのであるから,同筒状部は「薄板パイプ」
に当たることが明らかである。したがって,原告製品は被告訂正発明の
構成要件Bを充足し,被告訂正発明の技術的範囲に属すると認められる。
これに対し,まず,原告は,被告訂正発明は,特許請求の範囲に記載
された構成のみでは発明本来の目的及び課題を解決するための技術的手
段となっておらず,サポート要件に違反するから,被告訂正発明に係る
特許を有効に解しようとすれば,構成要件Bを「薄板パイプの幅方向の
両端部をОリング等のシール材で装填し固定する」構成に限定解釈せざ
るを得ないとし,これを前提に,原告製品は,貫通穴がなくなべ状に成
形され,開放端につばを有する薄板のケース体10を具備し,ケース体
10の開放端部にОリングが取り付けられる構成であって,上記「薄板
パイプの幅方向の両端部をОリング等のシール材で装填し固定する」構
成を具備していないから,構成要件Bを充足しない旨主張する。しかし
定解釈を行うまでもなく,サポート要件に違反するものでもないから,
原告の上記主張は,その前提において失当というほかない。
また,原告は,「パイプ」の字義及び被告明細書の段落【0005】
及び【0015】の記載によれば,「薄板パイプ(38)」は,その両
端が開放されていることを必須の構成と見るべきところ,原告製品の貫
通穴のないなべ状に成形され開放端につばを有する「ケース体10」は,
その一端のみが開放された構成であって,被告訂正発明の「薄板パイプ
(38)」に相当する構成を具備していないと主張する。しかしながら,
上記の被告訂正発明の技術的意義に鑑みれば,薄板パイプの後端部につ
いては,必ずしもOリングによってシールされている必要がなく,適宜
の方法で封止されていれば足りると解されるから,薄板パイプの後端部
を薄板パイプと同一部材でなべ状に封止したからといって,これにより,
直ちに被告訂正発明の「薄板パイプ」該当性が否定されることとはなら
ず,原告の主張は採用することができない。
したがって,原告製品は,「薄板パイプ(38)」を有するものとい
え,構成要件Bを充足するから,被告訂正発明の技術的範囲に属する。
以上によれば,被告の訂正の再抗弁が認められるから,争点⑺について判
断するまでもなく,原告製品は被告特許権を侵害する。
8被告の損害額及び原告の不当利得額)について
①原告製品の販売数量,単価(税抜)及び売上高が,下記の表1及び表2
の該当欄記載のとおりであること,②平成22年12月2日から平成23年
9月10日までの間の変動費及び限界利益が,下記の表2の該当欄記載のと
おりであることは当事者間に争いがない。

【表1】
●(省略)●
【表2】
●(省略)●
以上
法102条2項に基づく損害額について
ア被告は,平成22年12月2日(反訴提起日である平成25年12月2
日からさかのぼって3年前の日)から平成23年9月10日(被告特許の
存続期間の満了日)までの間(以下「反訴損害賠償対象期間」という。)
に行われた原告製品の販売等について,法102条2項による損害賠償を
求めるから,被告の損害額は,同条項により,上記期間における原告の限
界利益額である●(省略)●
イこれに対し,原告は,①被告訂正発明が原告製品の販売にほとんど寄与
しておらず,原告の侵害行為と相当因果関係にあるのは原告製品の限界利
益の2割にすぎない,②被告特許が愛知時計との共有特許であり,愛知時
計の持分2分の1については,被告が請求することはできないと主張し,
他方,被告は上記①につき原告の侵害行為との間に相当因果関係が認めら
れる金額は原告製品の限界利益の8割を下回らない,②愛知時計は被告特
許を実施しておらず,法102条3項による損害賠償請求ができるにすぎ
ないから,控除されるのはこの限度にとどまると主張する。
この点,法102条2項により,被告の損害額が,●(省略)●円と推
定されることは上記アのとおりであるから,原告及び被告の上記各主張は,
いずれも,同推定に対する推定覆滅事情の存否の問題として検討すること
が相当である。
ウ推定覆滅の割合について
法102条2項の
侵害行為によって生じた特許権者の損害を適正に回復するとの観点から,
侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか,市場にお
ける代替品の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブラン
ド等といった営業的要因や,侵害品の性能,デザイン,需要者の購買に
結びつく当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴な
どを総合的に考慮して判断すべきである。
そこで検討するに,被告訂正発明に係る特許請求の範囲の記載に照ら
せば,被告訂正発明はガス遮断弁(モータ駆動双方向弁)の構成全体に
関する発明であると認められるから,原告製品の構成全体について被告
訂正発明が実施されているというべきである。また,被告訂正発明は,
上記7
うにするために,薄板パイプをロータとステータヨークの間に配設して,
シール材と協働してシール構造を形成すること,すなわち,従来技術に
おける可動部分と静止部分との間のシールに代えて,薄板パイプをロー
タとステータヨークの間に配設し,シール材と協働して静止部分でのシ
ール構造を得る点に,その技術的意義があり,そのために,①ステータ
ヨークの内周面に接するように非磁性体材の薄板パイプを配設し,②О
リング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造を成し,③
当該薄板パイプを当該シール材が嵌装される静止部分とするという具体
的な構成を採用したものであって,このような被告訂正発明の技術的意
義及び具体的構成に加えて,上記のとおり,原告製品の構成全体につい
て被告訂正発明が実施されていることも併せれば,被告訂正発明の存在
が原告製品についての需要者の購入意欲に大きく結びついているものと
認められる。また,原告製品と各被告製品等は,いずれもモータ式のガ
ス遮断弁であるところ,ガス遮断弁の市場シェアについては原告と被告
が2分し,寡占状態にあるから,需要者にとって原告又は被告の製品以
外に代替品の選択肢はほぼ存在しない。さらに,原告が我が国有数の電
機メーカーでそのブランド力は高いと認められる一方,被告についても,
事業規模こそ原告より小さいとはいえ,長年にわたって各被告製品等と
同種のモータ式双方向遮断弁を含む遮断弁を市場に供給し,モータ式遮
断弁の市場に限定すれば,長年にわたって原告と拮抗する市場シェアを
有していたことに照らせ
ば,事業規模による推定覆滅を認めることは相当でない。
他方で,被告訂正発明を除く原告製品の性能,デザイン等のその他の
特徴が需要者の購買意欲に殊更に影響していることを認めるに足る証拠
はない。確かに,原告が高いブランド力を有することに加え,原告の営
業努力や原告と顧客との継続的な関係性といった要素が原告製品の売上
に一定の役割を果たしたことは否定できず,原告製品の売上が被告訂正
発明のみによるものとまでは認めることができないが,このような事情
を十分に考慮しても,上記で検討した各事情に鑑みれば,被告の損害額
の算定において,大幅な推定覆滅を認めることは相当でない。
以上によれば,法102条2項の推定に係る推定覆滅の割合について
は,20%と認めるのが相当である。
なお,被告は,被告訂正発明がモータ駆動式のガス遮断装置に隔壁を
採用した先駆的な発明であり,同発明に係る特許を基本特許と評価でき
る一方,原告発明1は被告訂正発明の改良発明であり,その特徴的部分
は隔壁の開放端に設けられた「つば」にすぎないから,原告製品の売上
に対する被告訂正発明の寄与が,各被告製品等の売上に対する原告発明
1の寄与よりはるかに大きいと主張する。
しかしながら,法102条2項による損害賠償額の算定に際しては,
侵害者の利益の額が特許権者の受けた損害の額と推定されるのであるか
ら,同推定を覆滅するためには,侵害者において,侵害品に当該特許に
係る発明以外の特徴があり,この点に需要喚起力があるなど,当該特許
に係る発明を除く売上への貢献要素を具体的に主張,立証する必要があ
るというべきであり,発明の技術的意義や客観的価値の大小が推定覆滅
率と直結するものではない。したがって,被告が法102条2項の推定
を覆滅させるためには,各被告製品等の売上に対する原告発明1以外の
貢献要素について具体的な主張,立証を要するのであって,原告発明1
と被告訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨の被告の
上記主張は,直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえ
ず,失当である(なお,モータ駆動式のガス遮断装置について,ステー
タとロータを隔てる部材を採用すること自体は,被告特許に係る出願時
において,既に甲16文献で開示されていた周知技術であると認められ
るから,被告訂正発明の技術的意義が,ロータとステータヨークの間に
配設した薄板パイプとシール材との協働により静止部分でのシール構造
を形成するという点を超えて,被告主張のようなものであるとは認める
ことができない。)。
以上によれば,被告の上記主張は,推定覆滅事情についての当裁判所
の判断を左右するものではない。
エ被告特許が共有特許であることによる推定覆滅について
原告は,被告特許が,被告と愛知時計との共有に係るものであるとこ
ろ,愛知時計も,●(省略)●を搭載したガスメータを製造,販売して
被告特許を実施しているから,被告が原告に対して法102条2項に基
づき請求できるのは,共有持分に応じて按分した額にすぎないと主張す
る。
しかしながら,特許権の共有者は,その共有持分の割合にかかわらず
特許発明全部を実施することができるから(法73条2項),法102
条2項による損害額についての推定が,他の共有者の存在により直ちに
共有持分割合に応じて比例して覆滅されるということはできず,他の共
有者による実施の事実及び実施割合又は他の共有者に支払うべき実施料
相当額についての侵害者の主張,立証に応じて,個別に覆滅の可否を検
討する必要がある。
これを本件についてみるに,愛知時計は,●(省略)●を購入した上
でこれを搭載したガスメータを製造,販売しているのであるから,こう
した経緯に鑑みれば,原告製品の製造,販売によって愛知時計がその製
品の販売機会を喪失したという関係を認めることはできず,愛知時計が
●(省略)●を搭載したガスメータを製造,販売する行為が被告特許の
実施に当たるか否かにかかわらず,愛知時計による実施割合は認められ
ないというべきである。
もっとも,愛知時計は,特許発明の実施の有無にかかわらず,被告特
許の共有持分に基づき,法102条3項の実施料相当額として,それぞ
れ,単独保有の場合に想定される実施料相当額を持分割合に応じて按分
した額の損害賠償請求を行うことができるから,法102条3項に基づ
く愛知時計の損害額に相当する部分については,法102条2項に基づ
く被告の損害額の推定が覆滅されるというべきである。
版〕」(2003年。発明協会研究センター編)の250~251頁に
おいて「農業・林業・漁業の技術」を含む「他に分類されない製造業・
産業の技術(イニシャル無)」に関する実施料率別契約件数について,
最頻値が5%であるとされる一方,1~6%のものも相当程度存在して
いること,②「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に
関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に
関する実態把握~本編」(平成22年3月。株式会社帝国データバンク)
の52頁及び395頁においては,国内アンケートの結果,「工学一般」
の技術分野における特許権のロイヤルティ料率の平均値が3.3%で,
5%未満が全体の8割を占めているとされていること等の事情をも総合
考慮すると,被告特許権の仮想実施料率については,4%とみるのが相
当である。
したがって,法102条2項に基づく被告の損害額の算定においては,
法102条3項に基づく愛知時計の損害額に相当する●(省略)●円
(計算式は,●(省略)●円(反訴損害賠償対象期間における原告製品
の売上高))×4%(被告発明の仮想実施料率)×1/2(被
告特許についての愛知時計の共有持分))を被告の損害額から控除すべ
きである。
オしたがって,反訴損害賠償対象期間における原告の被告特許権侵害に
よる被告の損害額は,●(省略)●円(計算式は,●(省略)●円(原
✕80%(計算式は,100%-2
)-●(省略)●円(愛知時計が原告に
請求し得る損害賠償請求権の額(上記エ))となる。
原告の不当利得額(平成16年~平成22年12月1日)について
ア原告が,平成16年から同22年12月1日の間(以下「反訴不当利得
対象期間」という。)に,原告製品の製造,販売等によって得た利益につ
いて,被告は,原告に対し,民法703条に基づき,不当利得返還請求権
を有するところ,反訴不当利得対象期間における原告製品の売上高は,上
のとおり,合計●(省略)●円と認められる。
また,被告特許は,愛知時計との共有特許であるから,被告と愛知時計
は,原告の不当利得額について,それぞれ共有持分(2分の1)で按分し
た部分についての返還請求権を有する。
イしたがって,被告は,原告に対し,反訴不当利得対象期間における不当
利得返還請求権として,●(省略)●円(計算式は,●(省略)●円(反
訴不当利得対象期間における原告製品の売上高)×4%(被告
発明の仮想実施料率)×1/2(被告特許に係る被告の共
有持分))の支払を求めることができる。
まとめ
オのとおり,原告による被告特許権の侵害行為という不法行為に
よって被告が受けた損害額は,●(省略)●円であるところ,本件事案の
内容や本件訴訟に至る経過等を総合的に斟酌すれば,原告による被告特許
権の侵害行為と因果関係のある弁護士費用として950万円を認めるのが
相当である。他方,不当利得返還請求権に基づく返還請求額は,イ
のとおり,●(省略)●円と算定される。
したがって,被告は原告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権及び
不当利得返還請求権として,合計1億4458万4760円(計算式は,
●(省略)●円+950万円+●(省略)●円)を有すると認められる。
9結論
上記5及び7のとおり,①本訴
原告の被告に対する損害賠償金2億4142万7552円及びこれに対する平
成27年9月5日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
権が存在すると認められる一方,②反訴請求(前記第1の2)について,被告
の原告に対する損害賠償金及び不当利得金の合計1億4458万4760円並
びにこれに対する平成25年12月7日から支払済みまで年5分の割合による
遅延損害金の支払請求権が存在する。しかるに,原告と被告は,平成28年8
月31日,同日時点における上記①と②の各債権を対当額で相殺する旨の本件
相殺合意をしたから(前記第2の2⑺),これにより,同日時点における上記
①の債権2億5337万7633円(計算式は,2億4142万7522円×
{1+5%×(118/365+244/366)年})と上記②の債権1億
6435万7881円(計算式は,1億4458万4760円×{1+5%×
(25/365+2+244/366)}年)とは,対当額で消滅したものと
認められる。
したがって,口頭弁論終結日(平成28年8月31日)の時点において,上
記①の債権のうち8901万9752円(計算式は,2億5337万7633
円-1億6435万7881円)の債権が残存する一方,上記②の債権は全て
消滅したこととなる。
以上によれば,原告の本訴請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由があ
るからこれらを認容し(なお,主文第3項に係る遅延損害金の始期は,本件相
殺合意の翌日である平成28年9月1日と認めるのが相当である。),原告の
その余の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないから棄却すること
として,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官沖中康人
裁判官矢口俊哉
裁判官瀬達人
(別紙)
被告製品目録
型番「6」の遮断弁
型番「7」の遮断弁
ステータの底の外側に「D」と記載されている遮断弁
ステータの底の外側に「E」と記載されている遮断弁
以上
(別紙)
原告製品目録
パナソニック株式会社が製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出若しくは輸入
し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする別紙原告製品説明書記載の構成を有
するガス遮断弁(モータ駆動双方向弁)(製品型番GB-V7Y6M2,GB-V
3C2M1を含む。)
以上
(別紙)
原告製品説明書
1下記図1に示す,モータの正逆回転によって弁体を弁座に密着又は離隔させて
ガスの流路の開閉を行うモータ駆動双方向弁
【図1】外観図
2下記図2に示すとおり,原告製品は,モータユニット1と,取付板2と,スプ
リング3と,弁ユニット4とによって構成されている。
取付板2の前面には,弁ユニット4が取り付けられており,この弁ユニット4
と取付板2との間には,スプリング3が装着されている。
取付板2の後面には,モータユニット1が取り付けられており,モータユニッ
ト1は,ロータユニット5とステータユニット6とによって構成されている。
【図2】ユニット分解図
3下記図3(a)に示すとおり,取付板2の前面には,前方に向かって突出した
突出部2aが設けられており,この突出部2aには,取付板2の前後面を貫通す
る開口部2bが設けられている。開口部2bには,前方に向かって突出した回転
軸7が臨んでおり,この回転軸7の前端部には,リードスクリュー7aが設けら
れている。開口部2bの周囲には,前方に向かって突出した複数のガイド爪2c
が設けられている。
また,同図3(b)に示すとおり,取付板2の後面には陥没部2dが設けられ
ており,この陥没部2dには,ロータユニット5が取り付けられている。ロータ
ユニット5の外周面と陥没部2dの内周面との間には,Oリング8が装着されて
おり,両者の間が全周にわたってシールされている。
(a)(b)
【図3】取付板まわりの組立状態図
4下記図4は,ロータユニット5を回転軸7の軸方向Xに展開した展開図である。
ロータユニット5は,回転軸7と,ロータ9と,ケース体10と,蓋体11と,
一対の軸受12a,12bとを有する。回転軸7に取り付けられたロータ9は,
ケース体10及び蓋体11によって形成される収容空間内に収容されており,軸
受12a,12bを介して回転自在に取り付けられている。
ケース体10は,非磁性材によって薄板状に形成されている。ケース体10は,
有底筒状の形状,すなわち,円筒状の筒状部10aと,この筒状部10aの後端
を塞ぐ底部10bとを有する。底部10bの中央は,軸後方に向かって凸状に突
出しており,これによって,軸受12aを保持するための,凹状に陥没した軸受
保持部10cが上記収容空間内に形成されている。また,筒状部10aの前端部
には,ケース体10の径方向外側に向かって突出したフランジ10dが全周にわ
たって形成されている。
ロータ9が収容されたケース体10は,その前開口が蓋体11によって塞がれ
ており,この状態で取付板2の陥没部2dに取り付けられている。そして,筒状
部10aの外周面と陥没部2dの内周面との間にはOリング8が嵌入され,これ
によって,ロータユニット5が取付板2とステータユニット6とに挟まれて固定
されている。
【図4】ロータユニットの展開図
5図5に示すとおり,ステータユニット6は収容部6aを有し,この収容部6a
内には,これと略同径のロータユニット5が収容されており,この状態において,
ロータユニット5及びステータユニット6は,モータユニット1として機能する。
【図5】モータユニットの構成図
6下記図6に示すとおり,弁ユニット4は,可動体13と弁体14とを有する。
可動体13は,保持部13aと,この保持部13aから軸方向X(図4参照)に
突出した貫通突出部13b及び突出片13cとを有し,これらの部位13a~1
3cは一体形成されている。
保持部13aは,その外周に弁体14側の内溝が嵌め入れられ,これによっ
て,弁体14を保持する。貫通突出部13bの前端は,保持部13aに固定され
ていると共に,この貫通突出部13bには,可動体13を貫通するネジ孔13d
が軸方向Xに沿って設けられている。突出片13cは,貫通突出部13bと同心
円状に配置されており,軸方向Xに延在する切欠き状のガイド溝13eが複数設
けられている。
【図6】弁ユニットの構成図
7以上のとおり,原告製品は,下記図7に示す各構成部材からなるものである。
【図7】全体展開図
8下記図8は,可動体13の動作説明図である。
可動体13のガイド溝13eは,取付板2のガイド爪2cと係合している。両
者が係合している状態において,可動体13は,その回転が規制され,ガイド溝
13に沿った軸方向Xへの変位のみが許容される。また,可動体13のネジ孔1
3は,回転軸7のリードスクリュー7aと螺合している。
この螺合によって,モータユニット1による回転軸7の回転運動は,軸方向X
に沿った可動体13の直進運動に変換される。ステータユニット6の電磁力によ
ってロータ9を一方向に回転させた場合,可動体13はスプリング3の付勢力に
抗して後方に変位して,弁体14は弁座から離隔する(弁状態=開)。これに対
し,ロータ9を逆方向に回転させた場合,可動体13は前方に変位して,弁体1
4は弁座に密着する(弁状態=閉)。
【図8】可動体の動作説明図
9下記図9は,図3(b)のA-A断面を示したモータユニット1の模式断面図
である。
同図に示すとおり,ステータユニット6内にケース体10が収容された状態に
おいて,ケース体10の筒状部10aは,ステータユニット6の内周面と接して
いる。
【図9】モータユニットの模式断面図
以上
(別紙)
被告発明の訂正後における請求項1の記載
(訂正箇所に下線を付した。)
ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁において,回転軸(28)の左端
部にリードスクリュー(28a)を形成し,ロータ回転手段(34)のステータヨ
ーク(37)の内周面に接するように配置され,Oリング等のシール材と共に内部
の気密を確保するシール構造をなし,当該シール材が嵌装される静止部分となる非
磁性材の薄板パイプ(38)を有する正逆回転可能なモータDと,このモータDの
取付板(23)との間に装着されたスプリング(24)により付勢されて弁座(2
1)に密着する弁体(22)と,先端部(25a)がこの弁体(22)の保持板
(22a)に固定され,前記リードスクリュー(28a)と螺合して,左右に移動
する弁体移動手段25とからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁。
(別紙)
原告の主張に係る各被告製品の構成
1被告製品1
①被告製品1は,励磁コイルを有するステータを備える。
②ステータの内側には,同軸に配設され貫通穴がなく,大径の円筒部と小径の円
筒部で形成された2段の底を有するなべ状に絞り加工で成形され,開放端につ
ばを有するキャンが設けられている。
③被告製品1は,キャンの大径の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部
が形成された剛体性のベースフランジを備える。
④キャンの大径の円筒部外周とベースフランジ段差部内周との間には,円周方向
に圧縮されて配設された弾性体製のOリングが設けられている。キャンのつば
は,Oリングと共にベースフランジの段差部に挿入される。
⑤キャンの内側には,ステータに対向してロータが配設されている。ロータには
回転軸が設けられており,ロータは,励磁コイルへの通電によって励磁され回
転する。
⑥被告製品1は,キャンの小径の円筒部のなべ側面に嵌挿される嵌挿部と中心孔
とを有し,回転軸の一方を受ける合成樹脂製の軸受Pを備えている。軸受Pは,
キャンの大径の円筒部の底に当接するストッパを備え,ストッパはキャンの大
径の円筒部のなべ側面に接しない大きさである。
⑦被告製品1は,キャンの開放端側に挿入され回転軸の他方を受ける金属性の軸
受Qを備えている。
⑧軸受Pと軸受Qは,それぞれ回転軸に接触するラジアル軸受部とロータと当接
するスラスト軸受部を有する。
⑨被告製品1は,キャンの大径の円筒部のなべ側面の開放端側に嵌挿された中心
孔を有する合成樹脂製のふた状部材を備えている。ふた状部材には,中心孔が
同軸になるよう軸受Qが嵌挿されている。
⑩被告製品1は,軸受Qから外側に突出し回転軸に配設された弁体を備えており,
弁体は,弁シート及び移動体から構成される。回転軸に形成したねじ部と移動
体に形成したナット部との係合により,ロータの回転運動を直進運動に変換す
る変換手段を備えている。
⑪被告製品1は,弁体を弁座側に付勢するコイルスプリングを備えており,変換
手段を介して弁体が弁座に当接・離反することにより,ガス流路の開閉が行わ
れる。
⑫被告製品1は,ロータが回転する際に弁体が回転しないように規制する回
転防止手段を備えている。回転防止手段は,ふた状部材の円筒部内に形成され
たリブを,弁体のナット部の外周に形成された凹状部に係合させることによっ
て弁体の回転を防止する。
2被告製品2
①’被告製品2は,励磁コイルを有するステータを備える。
②’ステータの内側には,貫通穴がなく,円筒部と底を有するなべ状に絞り加工
で成形され,開放端につばを有するキャンが設けられている。
③’被告製品2は,キャンの円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部が形
成された剛体性のベースフランジを備える。
④’キャンの円筒部外周とベースフランジ段差部内周との間には,円周方向に圧
縮されて配設された弾性体製のOリングが設けられている。キャンのつばは,
Oリングと共にベースフランジの段差部に挿入される。
⑤’キャンの内側には,ステータに対向してロータが配設されている。ロータに
は回転軸が設けられており,ロータは,励磁コイルへの通電によって励磁され
回転する。
⑥’被告製品2は,キャンの円筒部のなべ側面に嵌挿される嵌挿部と中心孔とを
有し,回転軸の一方を受ける合成樹脂製の軸受Pを備えている。
⑦’被告製品2は,キャンの開放端側に挿入され回転軸の他方を受ける金属性の
軸受Qを備えている。
⑧’軸受Pと軸受Qは,それぞれ回転軸に接触するラジアル軸受部とロータと当
接するスラスト軸受部を有する。
⑨’被告製品2は,キャンの円筒部のなべ側面の開放端側に嵌挿された中心孔を
有する合成樹脂製のふた状部材を備えている。ふた状部材には,中心孔が同軸
になるよう軸受Qが嵌挿されている。
⑩’被告製品2は,軸受Qから外側に突出し回転軸に配設された弁体を備えてお
り,弁体は,弁シート及び移動体から構成される。回転軸に形成したねじ部と
移動体に形成したナット部との係合により,ロータの回転運動を直進運動に変
換する変換手段を備えている。
⑪’被告製品2は,弁体を弁座側に付勢するコイルスプリングを備えており,変
換手段を介して弁体が弁座に当接・離反することにより,ガス流路の開閉が行
われる。
⑫’被告製品2は,ロータが回転する際に弁体が回転しないように規制する回転
防止手段を備えている。回転防止手段は,ふた状部材の円筒部内に形成された
リブを,弁体のナット部の外周に形成された凹状部に係合させることによって
弁体の回転を防止する。
(別紙)
被告の主張に係る原告製品の構成
原告製品は,以下の構成を備える遮断弁である。
aガスメータに用いられるモータ駆動双方向弁において,
b回転軸7の一端部にリードスクリュー7aを形成し,ステータユニット6
の内周面に接するように配置され,筒状部10aと取付板2の間を全周に
わたってシールすることで,Oリングと共に内部の気密を確保するシール
構造をなし,Oリングが外周面に嵌装される静止部分となる非磁性材より
なる薄板の筒状部10aを配設した正逆回転可能なモータユニット1と,
cこのモータユニット1の取付板2との間に装着されたスプリング3により
付勢されて弁座に密着する弁体14と,
d前記回転軸7の軸方向に突出した一端が,弁体14を保持する保持部13
aに固定されていると共に,前記軸方向に沿って設けられたネジ孔13d
を有し,このネジ孔13dがリードスクリュー7aと螺合して,前記軸方
向に移動する貫通突出部13bと
eからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁。
以上

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