弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 東京都<地名略>山林八二七五平方メートルが保安林ではないことを確認す
る。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 請求の趣旨1記載の山林(以下「本件山林」という。)は、もと訴外Aの所有
であつたところ、原告らの先代亡Bは同人から本件山林を昭和四八年六月一七日買
い受け、同年七月四日所有権移転登記を経由した。
2 被告は、本件山林を保安林として取り扱つている。
3 しかし、本件山林についてはこれを保安林とする有効な手続がなされていない
から、保安林でないことの確認を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
(認否)
1 請求原因1の事実中、亡Bがその主張の日に訴外Aから本件山林を買い受けた
ことは不知、当時同訴外人が本件山林の所有者であつたことは否認、その余の事実
は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3は争う。
(主張)
1 本件山林は、次の経緯により、昭和三三年二月二四日以降保安林となつたもの
である。
(一) 昭和二九年八月三〇日、東京都<地名略>所在の山林(以下「<地名略>
山林」という。本件山林は<地名略>山林から分筆されたものである。)について
東京都知事から農林水産大臣に対し保安施設地区指定の申請があつた(森林法(以
下「法」という。)四一条二項)。
(二) 同年一一月一日、農林水産大臣が都知事に対し保安施設地区指定予定の通
知をした(法四四条、二九条)。
(三) 同年一二月七日、都知事が保安施設地区指定の予定告示(法西四条、三〇
条)及び同地区指定予定地の行為を禁止する旨の告示(法四四条、三一条)を行つ
た。
(四) 同年同月一一日、都知事が本件山林の当時の所有者である東京都大島差木
地村(昭和三〇年三月三一日に合併して<地名略>となる。以下「旧<地名略>」
という。)(当時の所有者が訴外Aでなかつたことについては後述する。)に対し
保安施設地区指定の予定を通知(法四四条、三〇条)するとともに、同村長に対し
その旨の掲示を依頼(法四四条、三〇条)した。
(五) 昭和三〇年二月二四日、農林水産大臣が保安施設地区を指定し、その有効
期間を三年と定めて、その旨の告示をした(法四四条、三三条一項)。
(六) 同年三月二日、林野庁長官が都知事に対し右告示をした旨通知した(法四
四条、三三条一項)。
(七) 同年五月一〇日、都知事が本件山林の当時の所有者である旧差木地村に対
し保安施設地区指定通知を行つた(法四四条、三三条三項)。
(八) 昭和三三年二月二四日、保安施設地区指定の有効期間が満了し、保安施設
地区から保安林へ転換した(法四二条、四七条)。
2 旧差木地村が本件山林の所有権を取得した経緯は次のとおりである。
(一) <地名略>山林は、もと訴外Cの所有であつたところ、昭和一七年ころ訴
外Aが右Cからこれを譲り受け、所有権移転登記を経由した。
(二) 昭和二一年三月三日、訴外Dは訴外Eを介して右Aから<地名略>山林及
びその隣地を代金八一七四円で買い受け、代金を完済した。
(三) 昭和二六年四月七日、旧差木地村は<地名略>山林及び右隣地を右Dから
代金一万円で買い受け、代金を完済してその所有権を取得した。
三 被告の主張に対する原告らの認否及び反論
(認否)
1 被告の主張1(一)ないし(七)の事実はいずれも不知、同(八)は争う。
2 (一)同2(一)の事実は認める。
(二) 同2(二)の事実は否認する。
(三) 同2(三)の事実は不知。
(反論)
本件保安施設地区指定処分は、次の理由により無効である。
1 都知事から農林水産大臣に対しなされた保安施設地区指定の申請が本件山林の
当時の所有者である訴外Aにまつたく無断でされている。
2 本件保安施設地区指定の予定通知及び同地区指定通知がいずれも当時の所有者
である訴外Aに対してされていない。特に、右予定通知は、保安施設地区指定の手
続が進行していることを土地所有者らに知らせ、その権利保護のために意見書の提
出と公開による聴聞の機会(法三二条)を付与するためのものであるから、右通知
の欠缺は重大な瑕疵というべきである。
四 原告らの反論に対する被告の再反論
仮に本件保安施設地区指定当時の本件山林の所有者が原告ら主張のとおり訴外Aで
あつたとしても、右指定処分は無効となるものではない。
1 都道府県知事が保安施設地区指定の申請をするについて、当該土地所有者への
通知又はその承諾を要するものでないことは、法上明らかである。したがつて、右
申請が訴外Aに無断でされたことをもつて無効である旨をいう原告らの反論1は理
由がない。
2 保安施設地区指定通知の欠如は同地区指定処分の効果に何らの影響を与えるも
のではない。すなわち、同地区指定処分の効力は農林水産大臣の行う告示により発
生する(法三三条二項)のであつて、その後なされる右通知によつて発生するもの
ではないからである。右通知の欠如に対し法が利害関係人の不服申立権を規定して
いないことからもそれは明らかである。
また、保安施設地区指定の予告通知は、法三〇条の告示、掲示及び法三二条の意見
書の提出、公開の聴聞の手続とともに同地区指定の事前の準備的手続を構成するも
のであり、右通知自体には法上何らの効果も付与されていないところからして、そ
の通知の趣旨は右準備的手続が進行していることを通知するにすぎないものであ
る。したがつて、右通知の欠缺は右指定処分を無効ならしめるほどの重大な瑕疵に
はあたらない。もつとも、利害関係人は、法三〇条の告示の日から三〇日以内に農
林水産大臣に対して意見書を提出することができ、その提出があつたときは公開の
聴聞を行うことになつているが、保安施設地区制度の有する高度の公益性及び一律
性からすると、右意見書の提出、聴聞の開催も、当該保安施設地区指定がもつとも
公益に合致するよう行われることを目的として設けられているものというべきであ
る。したがつて、右通知の欠缺のため意見書の提出、聴聞の開催がなくても、保安
施設地区指定処分の無効を招来するものではなく、原告らの反論2も理由がない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 いずれも成立に争いのない乙第一〇、一一、一三号証(右第一三号証について
は原本の存在と成立に争いがない。)、いずれもその方式及び趣旨により公務員が
職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第七ないし第
九、第一二号証、第一四号証の一、二、第一五、一六号証によれば、本件山林を含
む<地名略>山林については、被告主張のとおりの経緯によつて昭和三〇年に保安
施設地区の指定がされていること(ただし、当時の同山林の所有者が旧差木地村で
あつたとの点を除く。)を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はな
い。
二 原告らは、同山林の真の所有者が訴外Aであつたことを前提として、本件保安
施設地区の指定申請がAに無断でされていること並びに本件保安施設地区指定の予
定通知及び同指定通知がAに対してされていないことを理由に、本件保安施設地区
指定処分が無効であると主張する。
1 無断の指定申請について
都道府県知事が保安施設地区指定の申請をするに際して、土地所有者に対する通知
ないし同人の承諾を要するものでないことは、法上明らかである。
2 指定予定の欠缺について
法は、保安施設地区指定の予定を土地所有者らに通知すべきものと定めているが
(法四四条、三〇条)、右通知を受けた土地所有者らにおいて当該通知の内容を直
接争いうることを認めた規定はなく、また、土地所有者らの権利に対する制限(法
四四条、三四条、四五条)は指定処分によつて生ずるものであることから考える
と、右の予定通知は、指定のための手続が開始されたこと並びに指定後における指
定施業要件の内容等をあらかじめ土地所有者らに知らしめようとするものであると
解される。もつとも、右通知は、単なる予告であるのみにとどまらず、これによつ
て、土地所有者らの農林水産大臣に対する意見書の提出とその結果としての公開の
聴聞開催の機会(法四四条、三二条)を実際上保障する効果をもつものではあるけ
れども、右意見書の提出等は指定に利害関係を有する地方公共団体の長又は指定に
直接の利害関係を有する者について広く認められているものであつて、その主眼と
するところは、保安施設地区の指定という広汎な影響を及ぼす処分を行うにつき、
事前に広く意見を聞き、これを処分に反映させて処分の適正を期する点にあり、土
地所有者らの個人的利益の保護ないし救済を直接の目的としたものではないという
べきである。
土地所有者らに対する予定通知のもつ意義が右のようなものであるとすれば、その
通知の相手方を誤つた瑕疵があるとしても、それだけでは後続の指定処分を当然無
効ならしめるほどの重大な違法にはあたらないと解するのが相当である。
3 指定の通知の欠缺について
法によれば、保安施設地区の指定がされたときは、所定の事項を告示すべく、右告
示によつて指定の効力が生ずるものとされている(法四四条、三三条一項、二
項)。これは、保安施設地区の指定においては、指定した範囲の土地全域につき洩
れなく一律に指定の効果が発生することが不可欠であつて、これなくしては保安施
設地区制度の目的を達成することができないからである。したがつて、右告示後に
土地所有者らに対してされる指定通知(法四四条、三三条三項)は、専ら同人らに
指定処分がされたことを知らしめてこれを争う機会を与えるためのものとみるべき
であるが、右述の趣旨に照らせば、右通知の相手方を誤つたとの一事によつて指定
処分の効力が当然失われるものと解しえないことは明らかである。
以上により、本件指定処分当時において<地名略>山林の所有者が仮に訴外Aであ
つたとしても、原告らの主張する事由はいずれも右指定処分を無効ならしめるもの
ということはできない。
そうすると、同山林は右指定の有効期間が満了した昭和三三年四月二四日に保安林
として指定されたものとみなされることになる(法四七条)。
三 してみれば、原告らの請求は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のと
おり判決する。
(裁判官 佐藤 繁 八丹義人 菊池洋一)

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