弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立
一 控訴人ら
1 原判決を取消す。
2 被控訴人静内郵便局長が控訴人A、同B、同C、同Dに対してした昭和四三年
一月一三日付戒告の懲戒処分はこれを取消す。
3 被控訴人国は、控訴人Eに対し金五万円、同Aに対し金一〇万一二九円、同F
に対し金五万一三四円、同Gに対し金五万一一六円、同Bに対し金一〇万一四八
円、同Cに対し金一〇万一三四円、同Dに対し金一〇万一一二円をそれぞれ支払
え。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
二 被控訴人ら
 主文同旨の判決を求めた。
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりで
あるから、これを引用する。
一 原判決五枚目裏九行目の「被告ら」以降同一二行目の「認める。」までを削除
し、かわりに「昭和四二年一一月四日、同月七日、同月一〇日に被控訴人らの主張
する各控訴人らがその主張する時刻に退庁したことは認める。」とつけ加える。
二 控訴人らは当審において次のとおりその主張を敷衍した。
 郵政職員に対し労基法が適用された後も、職員は午後五時には退庁していたのが
勤務の実態であつたところ、勤務時間に関し、郵政省と全逓との間に団体交渉が行
なわれた結果、昭和三二年一二月五日「従来の実態どおりで行く」旨の妥結がなさ
れた。このことは、一般的に特例休息制度が普及し、その活用によつて一日の拘束
時間は八時間三〇分(うち休憩四五分)とされ、午後五時の退庁が行なわれていた
勤務の実態を郵政省側も承認し、そのように運用して行くことを双方合意したこと
にほかならない。したがつて、これを受けて締結された昭和三三年四月一五日付
「勤務時間および週休日等に関する協約」において、所属長が業務運営上支障なし
と認めたときは休息時間のうち一五分を勤務時間の終りにおくことができる旨定め
られているが、これは正に前記「実態どおりで行く」ということと同義のはずであ
つて、所属庁の認定如何にかかわらず、郵政職員は常に午後五時には退庁すること
ができたものであり、本件控訴人らについてもこの理は同じであつて、勤務時間の
終りにおかれた休息時間一三分は実際勤務を要しなかつたものである。
三 被控訴人らは当審において、控訴人らの時間外労働義務に関する主張を次のと
おり敷衍して述べた。
 郵政職員は、一般職の国家公務員であり、任命権者の任用行為に基づき国との間
の勤務関係に入つたものであつて、その勤務関係の法律的性質は、私法上の労働契
約関係ではなく公法上の任用行為という行政行為に基づく勤務関係である。すなわ
ち、右勤務関係の基本的条件は法律によつて定められ、国の公共目的達成のため国
民全体の奉仕者として勤務すべき公法上の特別の地位に立ち、国の規律支配に服す
るものであつて、この点は、一般私企業における被用者が当事者対等を原則とする
私的契約に基づき、単に労務給付義務を負うだけの場合とは異なる。従つて、郵政
職員の勤務関係の法的性質を労働契約と把握し、それを前提として時間外労働義務
を個々の職員の同意のない限り否定する控訴人らの主張は失当というべきである。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 控訴人らの請求の原因(一)、(二)の1、(三)の事実は当事者間に争いが
ない。
二 被控訴人らの抗弁1について
1 昭和四二年一一月四日控訴人E、同A、同F、同C、同Dが午後三時二〇分こ
ろに、同月七日控訴人E、同A、同B、同Dが午後三時一七分に、控訴人Gが午後
三時二五分に、同月一〇日控訴人F、同G、同B、同Dが午後三時二五分に、それ
ぞれ静内郵便局から退庁したことは各当事者間に争いがない。
 原審証人Hの証言によつて真正に成立したと認める乙第二二号証の一一及び原審
証人Iの証言によつて真正に成立したと認める乙第二四号証の三によれば、控訴人
Eを除くその余の控訴人らが、昭和四二年一一月一二日午後三時一五分に静内郵便
局から退庁したことが認められ、控訴人Eを除くその余の控訴人らの原審における
各本人尋問の結果のうち、右認定とくい違う部分に採用することができず、他に右
認定を左右するに足りる証拠はない。
 また、原審証人Jの証言によつて真正に成立したと認める乙第二三号証の三及び
原審証人Hの証言によつて真正に成立したと認める乙第二二号証の一四によれば、
控訴人A、同G、同B、同C、同Dが昭和四二年一一月一九日午後三時一五分に静
内郵便局から退庁したことが認められ、原審における控訴人A、同G、同C、同
D、同B各本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用することができず、
他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
2 被控訴人らは、午後三時三〇分までは勤務時間であつてそれ以前に退庁すると
きは勤務欠如になる旨主張し、これに対し控訴人らは、午後三時一七分以後は郵便
省と全逓との間の協約上の特例休息時間であつて、しかも勤務を要しないと主張す
るので、この点につき検討する。
 控訴人らの始業時間が午前七時二五分であること、同人らの労働時間が一日につ
き拘束八時間五分であることは、当事者間に争いがない。したがつて、控訴人らの
終業時間は午後三時三〇分というべきである。
 原審証人K、同L、原審及び当審証人M、当審証人Nの各証言、成立に争いがな
い甲第五号証の二及び五、同第七号証の二、同第一二号証、同第一三号証、乙第一
号証、同第四四号証の三、同第四八号証の三、原本の存在と成立に争いのない甲第
六号証、乙第三二ないし第四二号証、同第四三号証の二、当審証人Nの証言によつ
て真正に成立したと認める乙第四九号証を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 昭和二八年一月一日以前における郵政職員の日勤勤務者についての勤務、
休憩、休息の各時間については、次のとおり定められていた。
 すなわち、一般職の職員の給与に関する法律第一四条において、「職員の勤務時
間は休憩時間を除き、一週について四〇時間を下らず、四八時間をこえない範囲で
人事院規則で又は人事院の承認を得て各庁の長が定める。」旨規定されていた。そ
して郵政省は、人事院の承認を得たうえ昭和二五年一〇月九日郵給第四六六号「服
務時間実施要綱」を制定したが、それによれば、官庁執務時間服務(昭和二四年一
月一日総理庁令第一号第一項による服務をいう。)については、日曜日は勤務を要
しない日とされ、月曜日から金曜日までは午前八時三〇分から午時五時まで(但
し、その間に三〇分の休憩時間を置く)、土曜日は午前八時三〇分から午後零時三
〇分までが勤務時間とされ(したがつて労働時間は一日八時間、一週四四時間と定
められていたことになる。)、休息時間については勤務四時間の中に一五分、休憩
時間については毎四時間の所定勤務の後に三〇分と定められていた。
(二) ところが、昭和二七年七月に公共企業体等労働関係法(以下「公労法」と
いう。)が改正され、その結果、昭和二八年一月一日から郵政職員にも公労法及び
労基法が適用されることとなつたため、従前の法律によつて規律されていた労働条
件につき疑義が生じた。特に、勤務時間については、従前は月曜日から金曜日まで
は午前八時三〇分から午後五時まで(ただし、その間に三〇分の休憩時間をお
く。)とされていたが、労働基準法第三四条によれば、休憩時間を四五分間おかな
ければならなくなつたので、実働時間を従前どおり維持するために勤務時間を午後
五時一五分まで延長することを主張する郵政省側と、従前どおり午後五時までに勤
務を終えたいと主張する全逓との間に、主張のくい違いが生じた。そこでこの問題
については労使双方が時間をかけて煮詰めていくこととし、郵政省としてはさし当
つて公労法適用後も従前の実働時間を確保する必要があつたので、とりあえず全逓
との間に昭和二八年一月一日いわゆる暫定協約を締結した。その第一条には「……
公労法第四〇条第一項により、従前の法律の適用を除外された労働条件は、昭和二
七年一二月三一日において適用されていた法令の規定する取扱及び従前の慣行によ
る。但し職員の労働条件に関する協約等が締結されたときはその定めるところによ
る。」と定められ、第二条には「この協約は暫定的なものであるから、郵政省及び
全逓は、職員の労働条件の改善を図る目的で誠意をもつて速かに労働協約締結のた
めに交渉を行う。」旨定められていた。このようにして従前の実働時間が確保され
ることになつたので、労働基準法適用の結果、月曜日から金曜日までの勤務時間は
午後五時一五分まで延長されることになつたわけである。
(三) その後郵政省は、労基法に基づき就業規則を制定することとしたが、制定
前にこれを全逓に提示して意見を求めたところ、全逓は昭和二八年五月二九日付全
逓総第六二一号をもつて郵政省に対し意見を表明し、同時に「勤務時間に関する協
約案」を添付して勤務時間に対する考え方を明らかにした。右協約案の内容は、
(イ) 一日の勤務時間が四時間を超える場合は三〇分の休憩時間を勤務の途中に
設ける(第三条)、(ロ) 勤務時間四時間につき一五分以上の割合で勤務時間の
一部を休息時間とする(第四条)、(ハ) 職員の勤務は日勤勤務と交替制勤務の
二種類とする(第五条)、(ニ) 日勤勤務者の拘束時間は平日は午前八時三〇分
から午後五時までの八時間三〇分、土曜日は午前八時三〇分から午後零時三〇分ま
での四時間とする(第六条)、というものであつた。
 こうした経緯をへて、郵政省は昭和二八年六月一〇日就業規則を制定したが、そ
れによれば、勤務時間は一日八時間、一週四四時間、休憩時間は勤務時間が六時間
を超える場合に勤務途中に少くとも四五分、休息時間は原則として勤務時間四時間
の中に一五分とされていたが、右休息時間については、能率を維持しかつ保健と安
全のため勤務中に設けられる時間であつて、勤務時間に含まれるものと規定され
た。そして右就業規則は昭和二九年二月一日から施行されることとなつた。
 これに対し全逓は、昭和二八年八月一七日付で郵政省に要求書を提出し、そのう
ち勤務時間等に関しては前記協約案と同旨の要求をしたが、郵政省は同年一〇月五
日付で勤務時間等に関しては右就業規則に定めるとおりに実施する旨を回答した。
 ところで昭和二八年一二月五日、郵政省は右就業規則の取扱いにつき、同月二八
日付郵人管第四二九号をもつて同規則の解釈、運用についての指導通達を出した
が、休息時間については「休息時間(特例による休息時間を含む。)の割り振りに
ついては、所属長が実情に応じて定めるものとする。但し、この通達に定めるもの
のほか勤務時間の始又は終においてはならない。」とするほか、休息時間の一般の
特例として、「勤務時間が六時間をこえ八時間以内の場合においては、所属長が業
務の運営上支障がないと認めた場合に限り、所定の休息時間若しくは特例による休
息時間のうち一五分を勤務時間の終りに置くことができる。」旨の指導をし、運用
の如何によつては午後五時で退庁できるようにして、退庁時刻に関する前記全逓の
意見を容れようとしたものであつた。これが本件で問題とされているいわゆる特例
休息と呼ばれるものである。
(四) ところが全逓は、勤務時間及び退庁時刻等に関し就業規則に右のような規
定を設けることに反対し、日勤勤務者の退庁時刻を労基法適用前と同様午後五時と
することを確保するため、従前は、午前八時三〇分から午後五時までの拘束八時間
三〇分のうち休憩時間三〇分休息時間三〇分とすることを主張していたのを、実働
時間を短縮し、拘束八時間三〇分のうちに休憩時間四五分、休息時間三〇分を置く
ことを主張しだした。
 右の要求については労使の間で交渉が行なわれたが合意に至らず、結局全逓は昭
和二九年五月二八日に公共企業体等中央調停委員会に調停を申請し、昭和二九年九
月一日同調停委員会から調停案が提示されたが、労使ともこれを受諾しなかつたた
め調停は不調に終り、やむなく全逓は昭和二九年一〇月五日公共企業体等仲裁委員
会に対し仲裁の申請を行つたが、仲裁申請事項には休息時間の問題を含めず、拘束
八時間三〇分の中に休憩時間四五分を置くことを申請事項としたものであつた。し
かし右仲裁委員会は昭和三〇年四月一六日付をもつて、就業規則において休憩時間
を従前の三〇分から四五分に延長したことによつて生ずる一日の拘束時間八時間四
五分は現行どおりとする旨の仲裁をした。
(五) しかし郵政当局としても、郵政職員にも労基法が適用され休憩時間が一五
分間延長された結果として拘束時間も一五分間延長されることになつたことは、見
方によつては労働条件が悪化したといえなくもないので、労働者側の攻勢に苦慮せ
ざるをえなかつた。そして、拘束時間一五分間の延長を画一的に適用することをち
ゆう躇し、原則的には勤務時間は午後五時一五分までであるが、例外として、義務
に支障のない者については一般の特例休息の例にならつて勤務時間の終りに一五分
の休息時間をおいたものとみて、午後五時に退庁することを黙認し、超過勤務をす
る場合にも帳簿上は午後五時三〇分から(勤務八時間を超えるときはさらに一五分
の休息時間を与えなければならないので、午後五時三〇分からとなる。)起算した
ように処理していたが、実際には午後五時以降の勤務を超過勤務として取扱うこと
もないわけではなかつた。このような背景のもとに郵政省と全逓とは勤務時間に関
し交渉を続けて来たが、昭和三二年一二月五日両者間に次のような合意が成立し
た。すなわち、日勤勤務の始終時刻を午前八時一五分から午後五時までとし、始め
一五分は勤務を行わないものとしてはどうかとの問題提起に対し、「従来の実態ど
おりで行く」ということで妥結し、勤務の終りに一五分の特例休息をおいた形とす
る従来の例外的取扱いを維持することとされたが、それをどのように明文化するか
については他日の協議に委ねることとされた。
(六) その後、郵政省と全逓とはさらに交渉を続けた結果、昭和三三年四月一五
日「勤務時間および週休日等に関する協約」並びにこれについての「付属覚書」が
締結され、その中に、「休息時間は、原則として、勤務四時間中に一五分を勤務の
途中に設ける。」また、一般の特例として、「勤務時間が六時間をこえ八時間以内
の場合においては、所属長が業務の運営上支障がないと認めた場合に限り、所定の
休息時間若しくは特例による休息時間のうち、一五分を勤務時間の終りに置くこと
ができる。」「休息時間を設ける方法は服務表によつて定める。」等の規定が設け
られた。
 以上のとおり認められ、右認定に反する前記乙第四九号証の記載部分、原審証人
L、原審及び当審証人M、当審証人Nの各証言中、右認定に反する部分は、いずれ
も採用することができず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
 控訴人らは、郵政職員に対し労基法が適用になつた後も、職員は午後五時には退
庁していたのが勤務の実態であつたところ、勤務時間に関し郵政省と全逓との間に
昭和三二年一二月五日「従来の実態どおりで行く」旨の妥結がなされたが、これを
受けて昭和三三年四月一五日付で締結された「勤務時間および週休日等に関する協
約」における休息時間一五分を勤務の終りにおくことができる旨の定めは同義のは
ずであるから、郵政職員は協約上午後五時には退庁することが許されていた旨主張
するが、従前の郵政職員の勤務の実態は、拘束時間は原則的には午後五時一五分ま
でとされているが、例外的に業務に支障がない者については一般の特例休息の例に
ならつて午後五時の退庁が黙認されていたというにすぎなかつたのであるから、控
訴人らの主張するように「従来の実態どおりで行く」との合意がなされ、これを受
けて勤務時間に関する協約が締結されたところで、郵政職員が協約上午後五時には
当然に退庁することを許されていたということはできない。また、原本の存在につ
いては争いがなく、本件弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認められる甲第七
号証の三には、控訴人らの右主張を裏付けるかのような記載部分があるが、当審証
人Nの証言によると、右書面は全逓が公労委に調停申請をする際に、形式要件をと
とのえるために組合側で作成したものであることが認められるばかりでなく、その
記載自体によつても、単に郵政省側が特例休息に関する従来の例外的取扱いを指摘
したことがあつたにすぎないと解されるので、右記載部分があるからといつて前記
認定を左右すべきものということはできない。そればかりでなく、当審証人Mの証
言によれば、全逓は昭和三〇、三一年ころ、午後五時に退庁できる状態を固定化し
ようとしてしばしばそうした要求をくりかえしていたことが認められるが、このこ
とは、午後五時の退庁が当然には承認されていなかつたことを裏付けるものといえ
よう。
3 以上の認定によれば、勤務時間協約はその文言どおりに解するほかなく、そう
すると、所属長が業務の運営上支障がないと認めて服務表上、休息時間を勤務時間
の終りに記載した場合にのみ、いわゆる特例休息が認められることになるが、原審
証人Jの証言によつて真正に成立したと認める乙第一三号証(服務表)及び成立に
争いがない同第三〇号証の二(外勤服務表)によれば(右乙第一三号証は昭和四二
年九月一二日から同年一一月四日まで、右乙第三〇号証の二はそれ以後に適用され
た服務表であることはその記載内容自体で明らかである。)、控訴人らに対し許さ
れていた休息時間は、勤務の途中に手すき時間を利用して二八分とされていたこと
が認められ、右認定に反する証拠はないから、控訴人らには勤務時間の終りにおく
べき特例休息は認められていなかつたことが明らかである。
 右のとおり、控訴人らには特例休息制度が認められていなかつたのであるから、
休息時間を勤務時間の終りにおくことは許されず、同人らの拘束時間は原則どおり
午後三時三〇分までであるといわざるを得ない。控訴人らの主張は失当として排斥
を免れない。
4 次に控訴人らは、静内郵便局においては一〇年以上にわたつて一三分間の早帰
りの慣行が定着し、控訴人らもそれに従つたにすぎないと主張し、原審証人O、同
Pの各証言、控訴人Eを除くその余の控訴人らの原審における各本人尋問の結果中
には、控訴人らの右主張を裏付けるように見える部分がある。しかし、一方、原審
証人H、同I、同Jの各証言及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認める乙
第一一号証の一、二、八及び一〇を総合すると、昭和四一年一〇月J局長が静内郵
便局に赴任したころの局職員の中には遅刻、早退をする者が目だつ等職場規律が乱
れていたので、その確立が急務とされ、当局は業務打合会等を通じて時間厳守を強
く命じる等規律の確保に乗り出したことが認められ、また、原審における控訴人E
本人尋問の結果によれば、規律の強化に反発した組合員は本件紛争当時に限つて殊
更一五分の早帰りを実行していたことが認められるのであつて、前記控訴人らの主
張に符合するようにみえる原審証人O、同Pの各証言部分及び控訴人Eを除くその
余の原審における各控訴人ら本人の供述部分は右認定の事実と対比してみると措信
することができず、他に控訴人らの前記主張を認めるに足りる証拠はない。したが
つて、控訴人らの前記早帰りの慣行を前提とする主張も採用することができない。
三 被控訴人らの抗弁2及び控訴人らの再抗弁1について
1(一) 昭和四二年一一月一三日の超過勤務命令拒否について
 昭和四二年一一月一三日、H局長代理が控訴人Aに対し口頭で超過勤務を命じた
こと、同日同控訴人が配達未了により持戻つた郵便物があつたことは当事者に争い
がない。
 また、原審証人Hの証言及び同証人の証言によつて真正に成立したと認める乙第
二二号証の一二、原審証人Iの証言によつて真正に成立したと認める乙第二五号証
の六、原審証人Jの証言、原審における控訴人A本人尋問の結果を総合すれば、被
控訴人らの抗弁2のイの事実が認められ、右控訴人A本人尋問の結果中右認定に反
する部分は採用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
(二) 昭和四二年一一月一四日の超過勤務命令拒否について
 昭和四二年一一月一四日、H局長代理が口頭で控訴人E、同A、同G、同B、同
Dに対し超過勤務を命じたこと及び同控訴人らが配達未了により持戻つた郵便物が
あつたことは当事者間に争いがない。
 また、原審証人Hの証言及び同証人の証言によつて真正に成立したと認める乙第
二二号証の一三、原審証人Qの証言によつて真正に成立したと認める乙第二五号証
の七、原審証人Jの証言、原審における控訴人E、同A、同G、同B、同D各本人
尋問の結果を総合すると、被控訴人らの抗弁2のロの事実が認定できる。右控訴人
E、同A、同G、同B、同D各本人尋問の結果のうち、右認定とくい違う部分は採
用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 昭和四二年一一月二二日の超過勤務命令拒否について
 R局長代理が当日控訴人F、同B、同C、同Dに対し口頭で超過勤務を命じたこ
と及び同日同控訴人らが配達未了により持戻つた郵便物があつたことは当事者間に
争いがない。
 また、原審証人Hの証言によつて真正に成立したと認める乙第二二号証の一五及
び一六、原審証人Qの証言によつて真正に成立したと認める乙第二五号証の八、原
審における控訴人B、同C、同F、同D各本人尋問の結果を総合すると、次の事実
が認められる。
 R局長代理は、昭和四二年一一月二二日午前一一時一七分ころ、静内郵便局郵便
外勤室において調査の結果同日の一号便で配達すべき郵便物中市内全区にわたり相
当数の未配達郵便物があることを発見し、市内一区担当のS、同二区担当の控訴人
B、同三区担当の控訴人C、同四区担当の控訴人F、同五区担当の控訴人Dに対
し、「一号便の持戻りは二号便に組込み、正規の勤務時間内に完配できない場合
は、二時間の範囲内の超過勤務により配達するよう」命じたが、控訴人Fにおいて
は一五九通、同Bにおいては六一通、同Cにおいては五一通、同Dにおいては四九
通の持戻りがあつたため、午後三時一〇分すぎころ、前同所において、前記控訴人
四名に対し口頭で前同様超過勤務により配達を完了するように命じたところ、同控
訴人らは口々に「命令簿に判を押さないと超勤しない。」旨申し立てたので、同局
長代理は、「命令は口頭でも文書と何ら変わるものではない。重ねて超勤を命ず
る。応じなければ処分されることがある。」と告げて再度超過勤務を命じた。これ
に対し控訴人Cは、「超勤をするから命令簿を出してくれ」と申し出たので、同局
長代理は「命令簿は関係ない。超勤しなさい。」と重ねて命じたが、同控訴人はこ
れにも応ぜず押し問答になつた。そこで同局長代理は「こんなことをとやかくいう
のであれば超勤をしなくてもよいから帰りなさい。」と言つて押し問答を切り上げ
たので、右控訴人らは事故郵便物の処理をすませてから午後三時三〇分ころ退庁し
てしまつた。
 以上の事実が認められる。右控訴人B、同C、同F、同D各本人尋問の結果中右
認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠は
ない。
 控訴人らは、R局長代理が一旦発した右超過勤務命令はその後同人が撤回した旨
主張し、右認定のとおり、同局長代理が「こんなことをとやかくいうのであれば超
勤をしなくてもよいから帰りなさい。」と言つたことは否定できないが、右発言の
なされた前認定の経緯に照らせば、それは控訴人らの超勤拒否の態度を快しとしな
い同局長代理が押し問答を打切るために洩らした単なる感情の表白にすぎないもの
と認めるのが相当であるから、このような発言をとらえて超勤命令撤回の意思表示
があつたと認めることは当を得ないものであり、他に右局長代理が超過勤務命令を
撤回したと認めるに足りる証拠はない。
2 次に時間外労働義務について、被控訴人らは、それは労働協約及び就業規則に
その定めがあつて、使用者がこれに基づき時間外労働を命ずるときに生ずるもので
あると主張するに対し、控訴人らは、労働者の時間外労働義務を定める労働協約、
就業規則は労働基準法に違反するから無効であり、時間外労働義務は、労働者が使
用者の申出に対しその都度承諾を与えることによつてのみ生ずるものであると主張
するので、この点について判断する。
 本件各控訴人らが郵政職員であることは前示のとおりである。
 ところで、本件控訴人らのような現業国家公務員は、一般職の国家公務員(国公
法第二条二項、公労法第二条二項二号、国の経営する企業に勤務する職員の給与等
に関する特例法第二条二項参照)として、国の行政機関に勤務するものであり、し
かも、その勤務関係の根幹をなす任用、分限、懲戒、服務等については、国公法及
びそれに基づく人事院規則の規定がほぼ全面的に適用されている(なお、郵政省設
置法第二〇条参照)などの点に鑑みると、その勤務関係は、基本的には公法的規律
に服する公法上の関係であるといわざるを得ない。もつとも、現業公務員は、国が
経営するものとはいえ、郵便事業等という経済的活動を行う企業に勤務する従業員
であり、更に、右公務員に適用される公労法は、労働条件に関する事項を団体交渉
の対象としたうえそれにつき労働協約の締結を認め(同法第八条)、また国公法の
適用を一部除外する反面、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法等の適用があ
るとしているのであつて(同法第四〇条一項参照)、これらの点を合わせ考える
と、その勤務関係は、国公法が全面的に適用されるいわゆる非現業の国家公務員の
それとは異なり、ある程度当事者の自治に委ねられている面もあるということがで
きる。しかしこのような面も、結局は国公法及び人事院規則による強い制約のもと
にあることを免かれるわけにはいかないのであるから、これをもつて、現業公務員
の勤務関係が基本的に公法上の関係であることを否定する根拠とすることはできな
い。
 そこで、まず、非現業国家公務員に対する超過勤務命令の法的性格について検討
する。
 非現業国家公務員の場合は、人事院規則一五ー一第一〇条により「公務のため臨
時又は緊急の必要がある場合」に限つて、超過勤務を命ずることができるとしてい
るので、右超過勤務については職員の同意を要せず、右要件が備わつているかぎ
り、各所属庁の長が一方的にこれを命じ得るものであることは明白である。
 そして、本件控訴人らのような現業国家公務員の場合も、「国の経営する企業に
勤務する職員の給与等に関する特例法」第六条は、主務大臣又は政令の定めるとこ
ろによりその委任を受けた者が当該企業に勤務する職員の勤務時間等について規程
を定める旨規定しており、このように勤務時間等については主務大臣等が一方的に
定めるという建前は非現業国家公務員の場合と全く異なるところがない。右規定に
基づき郵政省の郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程第四〇条、第四
一条は、所属長は職員に対し一定の場合に時間外勤務を命ずることができる旨を定
めている。そして、右命令は国家公務員法第九八条に定める職務上の命令というべ
きであるから、この命令を受けた本件控訴人らのような現業国家公務員も、命令が
右規程に基づくものであり、かつ、後記協約の制約に従うものである限りこれを拒
否することはできないというべきである。
 しかし、一方、前記のように、公労法第八条は、労働時間についても団体交渉の
対象とし、労働協約を締結することを認めているので、労働時間について労働協約
が締結されれば、主務大臣はこれを尊重すべきことは当然であつて、これと異なる
規程を定めることはできないというべきところ、前掲甲第五号証の二及び成立につ
き争いのない同号証の三によれば、郵政省と全逓とは昭和三三年四月一五日前示の
とおり「勤務時間および週休日等に関する協約」を締結し、勤務時間について一日
八時間、一週四四時間とするとの合意がなされたが、さらに翌昭和三四年一二月二
一日「時間外労働および休日労働に関する協約」(以下「時間外協約」という。)
を締結し、前記「勤務時間および週休日等に関する協約」に定める時間をこえて就
労する場合の原則について合意がなされ、その第二条に「甲(郵政省)は、やむを
得ない事由のある場合に限り、職員に時間外労働又は休日労働をさせることができ
る。」旨、第三条において「甲の各機関が、前条により時間外労働又は休日労働を
させようとするときは、あらかじめ本人に通知する。前項の通知は原則として時間
外労働については四時間前、休日労働については前日の正午までにこれを行う。」
旨、さらに第四条に「前条により時間外労働又は休日労働の通知を受けた職員に左
の事由があるときは、本人又は甲の機関に対応する乙(全逓信労働組合)の機関は
異議の申立を行うことができる。」旨の各規定が設けられていたことが認められ、
右認定を動かすに足りる証拠はない。
 また、成立に争いのない乙第四七号証の一ないし四によれば、昭和三六年二月二
〇日郵政省就業規則が定められ、そこにおいて右協約の趣旨に沿う規定が設けられ
たことが認められる。そして、成立に争いのない乙第二〇号証によれば、昭和四二
年一一月一三日静内郵便局長Jと全逓日胆地方支部長Tとの間で「時間外労働およ
び休日労働に関する協定」(いわゆる三六協定)が締結され、そこにおいて殊に
「静内郵便局長は、郵便の業務が著しくふくそうして利用者に不便を与えると認め
られるとき、その他急速に処理を要する業務の渋滞を防止するためやむを得ないと
き等特定の場合には、所属職員に労基法第三二条もしくは第四〇条に定める労働時
間を延長することができること及び右時間外労働を命じ得る時間数は昭和四二年一
一月一三日から同月三〇日までの間において一日二時間、期間中一五時間とす
る。」旨の規定が設けられていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠
はない。
 本件各超勤命令が出されたのは、前記認定のとおり、被控訴人ら主張の各控訴人
らが多数の未配達郵便物を持戻つたためであり、このことは、前記時間外協約第二
条にいう「やむを得ない事由のある場合」に該当するものというべきである。
 また、本件各超過勤務命令のうち昭和四二年一一月二二日以外の命令は、就労時
間の四時間前に通知がなされなかつたことは前認定のとおりであるが、前記時間外
協約第三条の規定に徴しても、就労の四時間前の通知に関しては原則を定めたもの
であつて例外を許さないものとする趣旨ではないと解するのか相当である。けだ
し、通常は予測し得ないような事態に対処するため時間外勤務を必要とする場合に
も、右四時間前の通知を遵守しなければならないとすることは、緊急の場合の事務
処理を不能とするにひとしく、甚しく合理性を欠くからである。そして、本件超勤
命令を発するに至つた経緯については前認定のとおりであり、それによれば、本件
超勤命令を発しなければならない事態の発生を予期することは困難であり、四時間
前に通知することは不可能であつたことが明らかであるから、このような場合には
例外として、右事前の通知を欠いてもなお超過勤務命令を発することが許されるも
のといわざるを得ない。
 以上認定のとおりとすれば、本件各超勤命令は適法になされたことが明白であつ
て、控訴人らはこれにより時間外労働義務を負うにいたつたものというべきであ
る。
 なお、控訴人らは、静内郵便局においては労使交渉の結果、超過勤務命令を発す
る場合は、事前に「超過勤務・夜間祝日勤務の命令簿、整理簿」と題する書類中の
承認印欄に命令を受けた本人の承認印を押捺することと定められていた旨主張する
が、右労使交渉がなされたこと及び労使の間に右約定がなされたことを認めるに足
りる証拠はなく、かえつて原審証人Iの証言によれば控訴人らが主張するような約
定など存在していなかつたことが認められる。
 また、原審における控訴人ら各本人尋問の結果によれば、前記命令簿、整理簿に
時間外労働を命じられた者が承認印を押していたことは認められるが、一方、成立
に争いのない乙第一八号証の二によれば、郵政省は昭和三九年六月二五日付人事局
長通達(郵給第三四二号)により、超過勤務命令を発した場合はその都度勤務時間
管理員に対し超過勤務命令簿にその月日、時間数等を記入するよう命じていたこと
が認められるので、右控訴人らが承認印を押していたのは前記通達に基づいたもの
と認めるのが相当である。したがつて、控訴人らが命令簿に承認印を押していたこ
とがあるからといつて、それは、労使双方の交渉の結果、時間外勤務を命ずる場合
には事前に本人の承認印を押捺する定めがあつたことの根拠となるものではない。
四 処分の適法性について
 以上の次第であつて、控訴人らには被控訴人らが主張するとおりの勤務欠如及び
超過勤務命令違反の事実があるから、被控訴人静内郵便局長が控訴人らそれぞれの
勤務欠如回数、時間、超過勤務命令拒否回数等を総合的に考慮したうえ、控訴人
A、同B、同C、同Dに対して同人らの前記認定の各行為がいずれも国家公務員法
第八二条各号に該当するものとして戒告処分に付し、またその余の控訴人らに対し
ては前記各控訴人らの非違行為よりもその程度が軽微であるとして郵政部内職員訓
告規程(成立に争いのない乙第二一号証の二参照)に定める訓告をしたことは適法
であり、何らの違法もないといわざるを得ない(なお控訴人Fについては昭和四二
年一一月四日、同月一〇日における勤務欠如が訓告理由とされていないことは被控
訴人らの主張するとおりであるが、同人についてその余の前記非違事実についてな
された訓告が適法であることもいうまでもない)。
 なお、控訴人らは懲戒権の濫用を主張するが控訴人らについては前認定のとおり
の非違行為があり、かつ、その処分内容も戒告処分や訓告処分という比較的軽いも
のであるから、彼此対比検討すれば、控訴人ら主張のような各事情につき上来認定
のような諸事情の存在することを考慮したとしても、懲戒権の濫用とまでいうこと
は到底できない。
五 以上のとおりであつて控訴人らに対してなされた各戒告、訓告処分はいずれも
適法であり、また、提供すべき業務を提供しないで勤務を欠如した控訴人らに対し
てはその分の賃金を支払うべきいわれはない(支払われなかつた賃金額については
当事者間に争いがない)。なお、前認定の事実によれば、被控訴人らが控訴人らに
対して本件慰藉料を支払うべき理由もないことが明らかである。
 控訴人らの本訴請求はすべて失当として棄却すべきものであるから、これと同旨
の原判決は相当である。よつて、本件控訴を理由なしとして棄却することとし、控
訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九
三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石澤健 矢崎秀一 永吉盛雄)
(別表)
<19719-001>
<19719-002>

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