弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金五〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納できないときは金五〇〇円を一日に換算1)た期間被告人
を労役場に留置する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人黒田慶三提出の控訴趣意書記載のとおりであつて、こ
れに対する当裁判所の判断はつぎに示すとおりである。
 所論は、要するに、原判決は被告人の発射した弾丸がメスキジに命中してこれを
現実に捕獲したと認定しているのか、命中はしていないが捕獲したことになるとい
うのか明確でないが、もし前者であるとすると右メスキジを撃ち落したのがAであ
ること明白であるから、原判決は事実を誤認したものであり、もし後者であるとす
ると、原判決の「捕獲」の解釈は不当な拡張解釈で罪刑法定主義にも反するもので
あり、原判決に法令適用の誤りがあつて判決に影響を及ぼすことが明らかでありい
ずれにしても原判決は破棄を免れないというのである。
 よつて、審按するのに、原判決の挙示引用にかかる各証拠を総合すると、(1)
被告人は福岡市在住の猟友であるB、Cと徳山方面で狩猟しようと話し合い、昭和
四二年一〇月三一日右三名は徳山市在住の猟友A方に宿泊し、同人に案内役を依頼
し同人はこれを承諾して同市在住の猟友D、Eらも誘い、翌一一月一日は被告人、
Aの組とB、Eらの組の二組に分れ一一月二日及び三日は被告人、A、Bの組とそ
の余の組に分れて、いずれも通称a地区で狩猟をしたが、その間同じ組の者は常に
一しよに行動して猟犬を鳥が立ちそうなところではなし、鳥を追い出し、鳥が飛び
立つと一斉に猟銃を発射するという方法で狩猟したこと(2)一一月二日午後三時
頃A、被告人、Bの順で山裾の荒地のあたりを歩いていると犬が臭いをかぎつけた
ようだつたのでその跡を追い、Fが射撃の用意をするとかやの中からメスキジが一
羽飛び立ち、三名はいずれもメスキジあるいはメスキジではあるまいかと思いなが
ら右キジに向つて一斉に発射し、Fのうち誰かの発射した弾丸が右キジに命中して
被告人の猟犬が右命中により落下したキジをくわえて来たこと(3)Aは「自分の
二発目でキジが落ちた」と言い、被告人はBに「処分はあとでどうにもなるから一
応車の中にいれておく方がよい」と言うのでBが右キジをAの自動車の中にいれて
おいたこと(4)一一月三日午後AはCに対し福岡から来た人に分配するようにと
言つて、それまでA方に保管していた一日と二日の捕獲分オスキジ五羽、メスキジ
五羽を交付したことを認めるのに十分であり、被告人の原審公判廷における供述記
載中「メスキジであると分つたのでわざと狙いを外して発砲した」との部分は被告
人の捜査官に対する各供述調書の記載にてらしても、又狙いを外す位ならそもそも
発砲しなければよいと常識上考えられることにてらしても信用し難い。しかし本件
各証拠を十分検討しても、被告人の発射した弾丸が右(2)のメスキジに命中した
ことはこれを認めるに十分な証拠はなく、むしろAの発射した弾丸が右メスキジに
命中した可能性が強い。そうすると、原判決が所論のように被告人の発射した弾丸
がメスキジに命中したものと認定したものとすれば、事実誤認の違法があるといわ
なければならないが、原判決の罪となるべき事実の判示方法と適条末尾の括弧内の
説示にてらせば、原判決はむしろ被告人がメスキジに向つて猟銃を発射した以上そ
の行為は鳥獣保護及狩猟二関スル法律第一条ノ四第三項にいわゆる「捕獲」にあた
るものと解して、その弾丸が命中したか否かは犯罪の成立に必要がないものとして
敢えてこの点につき判示しなかつたと考えられる。
 そこで次に原判決の右「捕獲」の解釈の当否について考える。およそ刑罰法規を
解釈するにあたつては、法益保護の目的、行為の性質等を検討して目的論的方法に
よりその法規の規範的意味を決定しなければならないが、それは罪刑法定主義の原
則によりあくまでその法規に用いられた語句の可能な意味の限界をこえてはならな
い、これを本件についてみるに、鳥獣保護及狩猟二関スル法律第一条ノ四第三項は
「農林大臣又ハ都道府県知事ハ狩猟鳥獣ノ保護蕃殖ノ為必要ト認ムルトキハ狩猟鳥
獣ノ種類、区域、期間又ハ猟法ヲ定メ其ノ捕獲ヲ禁止又ハ制限スルコトヲ得」と規
定し、これに基づき農林大臣は、昭和四〇年農林省告示第一一七九号をもつて昭和
四〇年一一月一日から昭和四三年一〇月三〇日までメスキジの捕獲を禁止している
ので、右立法の趣旨が、メスキジを濫獲してキジの蕃殖を著しく阻害することのな
いようその蕃殖を保護することにあることは明らかであり、又同法は鳥獣保護のた
め種々の禁止規定を設けているが、その態様をみると「捕獲」を禁止したり(同法
第一条ノ四第一項、第三項、第二条、第三条、第四条、第一一条、第一五条等)、
「狩猟」を禁止したり(同法第一七条、第一八条)、銃猟を禁止したり(同法第一
六条)し、「捕獲」「狩猟」「銃猟」という言葉を各禁止目的に従い一応合理的に
使い分けしており(ことに同法第一七条、第一八条においては同条項内において狩
猟と捕獲とを区別している)、更に「捕獲」の日常的意味が「とらえること、つか
まえること、いけどること、と<要旨>りおさえること」であるから、これらを考え
合わせると、同法第一条ノ四第三項にいわゆる「禁止狩猟鳥獣を捕獲した」
というのは「同鳥獣を現実に捕捉するか、少なくとも同鳥獣を容易に捕捉しうる状
態において、同鳥獣が右状態においた者の実質的支配内に帰属するに至つた」こと
を意味するものと解するのが相当である(最高裁昭和二九年三月四日判決、最高裁
判例集八巻三号二二八頁参照)。
 原判決は、「メスキジに向つて猟銃を発射した以上たとい弾丸がそれたため現実
に捕獲しなかつたとしても同条項にいう捕獲したものとして同条項違反の罪が成立
すると解する」と説示しているが、発射した弾丸がメスキジに命中せず従つてメス
キジに実害を生ぜしめなかつた場合には前記立法趣旨にてらしても、又メスキジが
弾丸を発射した者の実質的支配内に帰属するに至つたとはいい難いことからも「捕
獲」したとはいえず、原判決の説示するごとく「猟銃を発射した」だけで「捕獲し
た」と解することは用語の普通の意義からいつて無理であり、同法の他の条項との
関係でぜひそのように解さなければならないような特段の根拠も認められないか
ら、原判決の解釈はあきらかに不当といわなければならない。もつとも、同法の前
身である狩猟法第五条第六項(鳥獣保護及狩猟二関スル法律第四条第七項)にいわ
ゆる「捕獲」の意義につき「現実に狩猟鳥獣を捕獲する場合のみならず一般に狩猟
行為をも禁止するにあるものと解する」旨判示した判決例(東京高裁昭和二九年一
二月三日判決、高裁判例集第七巻第一二号一七四三頁)があるが、右は狩猟期間外
に狩猟行為をした場合の「捕獲」の解釈で本件と事案を異にするばかりでなく、右
類推解釈は本件に適切でないことが明らかである。 そうだとすると、被告人の発
射した弾丸が本件メスキジに命中したとの証明が十分でないこと前記説示のとおり
であるから、右「捕獲」の意義にてらし、「被告人が単独でメスキジを捕獲した」
旨の本位的訴因は結局その証明が十分でないことに帰し、右訴因につき有罪の認定
をした原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りがあつて、右違法が判決に影響を
及ぼすこと明らかであるというべきであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄
を免れない。
 しかし、原審において適法に、「被告人はB、Aと共謀の上本位的訴因記載の日
時場所においてメスキジ一羽を猟銃を使用して捕獲した」との予備的訴因変更がな
されているので、これについて判断するのに、原判決の挙示引用にかかる各証拠を
総合して認められる前記(1)ないし(4)の被告人とB、Aとの関係、本件狩猟
に至つた経過、狩猟方法、本件メスキジ捕獲の際の手段、方法、その際の被告人、
B、Aの言動、右捕獲後のメスキジの処置等によると、被告人がB、Aと本件メス
キジ捕獲の意思を相通じ、右三名において一斉に猟銃を発射する等共同して右意思
実現の行為に出、うち誰かの弾丸をメスキジに命中させて落下させ三名においてこ
れを捕獲したことを認定するのに十分であるから右予備的訴因は優にこれを認める
ことができ、被告人とA、B間に共謀がなかつた旨の弁護人の所論は到底採用でき
ない。
 よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条、第三八〇条により原判決を
破棄し、同法第四〇〇条但書に則り本件につき更に次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、B、Aと共謀の上、昭和四〇年一一月二日午後三時頃山口県熊毛郡b
町通称a地区の山野において農林大臣が捕獲を禁止しているメスキジ一羽を猟銃を
使用して捕獲したものである。
 (証拠の標目)
 原判決の挙示引用にかかる各証拠を引用する。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は鳥獣保護及狩猟二関スル法律第一条ノ四第三項、第二二条第
二号、昭和四〇年農林省告示第一一七九号、刑法第六〇条に該当するので、所定刑
中罰金刑を選択し、所定罰金額の範囲内で被告人を罰金五、〇〇〇円に処し、刑法
第一八条により罰金を完納できないときは金五〇〇円を一日に換算した期間被告人
を労役場に留置することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 厚地政信 裁判官 淵上寿 裁判官 武智保之助)

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