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平成18年(行ケ)第10355号審決取消請求事件
平成19年4月26日判決言渡,平成19年2月22日口頭弁論終結
判決
原告株式会社ニシベ計器製造所
訴訟代理人弁護士萬幸男,弁理士水野勝文,高木康志
被告二葉計器株式会社
訴訟代理人弁理士柳野隆生,森岡則夫
主文
特許庁が無効2005−80362号事件について平成18年6月20日にした
審決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部
分があり「タクシーメータ「タクシーメーター」は「タクシーメータ「マトリクス「マトリ,」」,」
ックス」は「マトリックス」で統一する。
第1原告の求めた裁判
主文同旨の判決。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告の有する本件特許について無効審判請求をしたところ,審
,。判請求は成り立たないとの審決がされたため同審決の取消しを求めた事案である
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲13)
特許権者:二葉計器株式会社(被告)
発明の名称:タクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示「
装置」
出願日:平成2年3月5日(特願平2−54504号)
設定登録日:平成7年3月23日
特許登録番号:特許第1917617号
(2)本件手続
審判請求日:平成17年12月26日(無効2005−80362号)
審決日:平成18年6月20日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成18年6月30日(原告に対し)
(,「」。)2本件発明の要旨以下請求項の番号に応じて本件発明1などという
【請求項1】少なくとも空車−営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成
されるタリフ設定用入力手段と,該タリフ設定用入力手段またはその近傍に位置す
るタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位
置を表示するタリフ表示部が一体的に構成されてなるドット方式の表示手段と,走
行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い,前記
表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と,各種走行データ
が一時的に格納されるRAMと,動作プログラム,各種パラメータ,表示手段に表
示する文字等が格納されるROMと,前記表示手段のタリフ表示部及びタリフ選択
表示部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と,を有し,その時のタリフ位
置に応じて前記表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示
するとともに,タリフ選択表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタ
リフ選択用文字を表示して,タリフ設定用画面を構成するタクシーメータにおける
料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項2】表示手段として,液晶表示板を利用してなる特許請求の範囲第1項
記載のタクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項3】表示手段として,螢光表示管を利用してなる特許請求の範囲第1項
記載載のタクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項4】液晶表示板の表面に透明の感圧素子で構成されるタッチスイッチが
積層され,タリフ設定用入力手段と表示手段のタリフ選択表示部が体的に構成され
てなる特許請求の範囲第1項記載のタクシーメータにおける料金,タリフ並びにタ
リフ設定画面表示装置。
3審決の理由の要点(審判手続の証拠番号は,本訴の証拠番号と同一)
(1)無効理由
本件発明1,4は,甲1(新型タクシーメータの開発に関する調査報告書(第「
2次案」平成2年2月,甲3(特開昭57−79489号公報),甲4(特開))
昭62−5268号公報,甲8(第2回新型タクシーメータ検討ワーキング委)「
」,「」員会開催のお知らせ資料第10として新型タクシーメータ開発課題検討報告
が添付されている)に記載された発明に基づいて,本件発明2は,上記各甲号証。
に加えて甲6(特表昭61−502561号公報)に記載された発明に基づき,本
件発明3は,上記各甲号証に加えて甲7(実開昭63−48277号公報)に記載
された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,無
効にされるべきである
(2)甲1に記載された発明
ア甲1の39頁の記載から読み取ることができる事項
「39頁には,上部に「メーターパネルの例」の図,下部に「操作部のマルチ化」について
の図が記載され,また,その間に次の記載がある。
「新機構を折り込んだタクシーメータは上図(1例)のごとく多くの操作部,表示部が必要
になる。
操作部,表示部の増設は,メーター本体の形状寸法の拡大となり車輌取付にも大きな影響を
与えるばかりでなく,操作性や視認性を損なうことにもなる。
これらの対策としては,次の方法が考えられる。
・表示部のマルチ化・・ドットマトリックス方式(小型液晶テレビ等で採用されている点
描画方式)を採用し,プログラムにより表示内容を変更し,表示部の省スペース化を図る。
・操作部のマルチ化・・関数電卓等に使用されている「SHIFT」機能のように,一つ
の操作ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択する」。
更に,表示装置について,42頁の20行から24行に次の記載がある。
「この図(審決注:39頁の図)は,ほぼ現在のメーター前面寸法の原寸(150×50m
m)になっているが,このままでは表示される字が小さくて実用にならないと思われる。
これの対策としては,
・表示機構に一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文字で順次表
示する」。
,,,これらの記載からタクシーメータの表示部についてはドットマトリックス方式を採用し
プログラムにより表示内容を変更すること,また,操作部については,一つの操作ボタンに二
,,,,,,つ以上の機能を与えてシフトボタンで機能を選択すること更に具体的には人数荷物
迎車等の料金を表示する部分,及び運賃を表示する部分にドットマトリックス方式を採用し,
例えば,一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文字で順次表示する
こと,を読み取ることができる。
しかし「メーターパネルの例」の図の右上のタリフ表示部については,該当するタリフを,
表示灯により照射するものであり,料金及び運賃を表示する部分とは表示方式が異なること,
また,どのようにドットマトリックス方式を採用して表示するかの具体的な記載がないことか
ら,このタリフ表示部までにもドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは
読み取ることができない。
また,操作ボタンの近傍に位置する操作ボタンの機能を説明する文字は,操作ボタンに付随
するものであり「操作部」に属すると考えるべきものである。,
したがって,甲1の39頁の記載から読み取ることができる事項は,次のとおりである。
「タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部(上記操作ボタンの機能を説明
する文字,その時の料金を逐次表示するドット方式の料金表示部,その時のタリフ位置を表)
示するタリフ表示部からなる表示手段を有するタクシーメータにおける料金,タリフ表示装
置」。
,,,「」,なお審判請求人は操作ボタンの機能を説明する文字は表示部に属するものであり
「表示部のマルチ化」とは「操作部のマルチ化」により一つの操作ボタンに与えられた二つ,
以上の機能を,マルチ化された表示部により表示内容を変更して表示することを含むと主張す
る。
しかし,操作ボタンの機能を説明する文字は,上記したように「操作部」に属すると考え,
るべきものであること,また「表示部のマルチ化」と「操作部のマルチ化」とは,並列的に,
記載されており「操作部のマルチ化」の後に「表示部のマルチ化」を行なうとの記載ないし,
示唆はないこと,更に「操作部のマルチ化」の後の「表示部のマルチ化」により,操作ボタ,
ンの機能をドットマトリックス方式を用いてどのように表示するのかの具体的な記載ないし示
唆もないことから,審判請求人の主張は採用できない」。
イ甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という)。
「少なくとも空車−営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入
力手段と,該タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次
表示するドット方式の料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部からなる表示
手段と,走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い,前記
表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と,各種走行データが一時的に
格納されるRAMと,動作プログラム,各種パラメータ,表示手段に表示する文字等が格納さ
れるROMと,を有するタクシーメータにおける料金,タリフ表示装置」。
(3)甲8に記載された技術事項
「甲8に資料第10として添付された「新型タクシーメータ開発課題検討報告」の別紙1に
は,スイッチの項に,以下の記載及び図がある。
「1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ,各項目の細分項目には,マトリックスにより
同一スイッチを兼用する」。
図には,3つの長方形からなる列が上下に2列記載され,これらの長方形は矢印で繋がれて
おり,また,長方形の列の上方には「割ボタン「迎車「料金関係」の文字の列がそれぞ,」,」,
れの長方形に対応して記載され,また,長方形の列の下方には「1割引「3割増「2割,」,」,
増」の文字の列等がそれぞれの長方形に対応して上下に3列記載されている。
これらの記載及び図から,図に記載された長方形は「割ボタン「迎車「料金関係」等,」,」,
の各機能毎に割り当てられたスイッチであり,これらのスイッチが複数の機能を兼用すること
は読み取れるが,これらのスイッチが具体的にどのような態様で複数の機能を兼用するのかは
不明である。
例えば,上側の列の「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると,下側の列の各スイッチ
に「1割引「3割増「2割増」の機能が割り当てられる,又は,上下に対応するスイッ,」,」,
チは,同じスイッチであり「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると,次に,そのスイ,
「」,「」「」,ッチに1割引の機能が割り当てられその右側の迎車に対応するスイッチに3割増
「料金関係」に対応するスイッチに「2割増」が割り当てられる,と推測できなくはないが,
定かではない。
」また,これらの機能をどのように表示するかについては,記載も示唆もない。
(4)本件発明1と甲1発明との対比
ア一致点
「少なくとも空車−営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入
力手段と,該タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次
表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部からなる表示手段と,走行
距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い,前記表示手段の料
金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と,各種走行データが一時的に格納されるR
,,,,AMと動作プログラム各種パラメータ表示手段に表示する文字等が格納されるROMと
を有するタクシーメータにおける表示装置」。
イ相違点
「本件発明1では「タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,そ(ア),
の時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一体的
に構成されてなるドット方式の表示手段と,前記表示手段のタリフ表示部及びタリフ選択表示
部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と,を有し,その時のタリフ位置に応じて前記
表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示するとともに,タリフ選択
表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して,タリフ設
定用画面を構成する」のに対して,甲1発明では,タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタ
リフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタ
リフ表示部は,一体的に構成されておらず,また,上記料金表示部のみがドット方式の表示手
段である点」。
「本件発明1は「タクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示(イ),
装置」であるのに対して,甲1発明は,タクシーメータにおける料金,タリフ表示装置である
点」。
(5)相違点についての判断
「甲3には,電子時計のような小型電子機器において,アルファベット等の情報を入力する
ために,これらの情報を複数種類入力できるスイッチをドットマトリックス表示部の近傍に複
数個設け,かつ,入力する情報が容易に確認できるように,その入力する情報を上記ドットマ
トリックス表示部の各スイッチに対応した位置に表示し,また,上記スイッチにより入力され
た情報を上記ドットマトリックス表示部に表示する点,具体的には,例えば,任意のアルファ
,,,ベットを入力するために5つのスイッチをドットマトリックス表示部の近傍に設け最初は
これらのスイッチがそれぞれA,B,C,D,Eを入力できるようにし,次に,F,G,H,
I,Jを入力できるようにし,これに対応して,上記ドットマトリックス表示部の各スイッチ
に対応した位置に,最初は,A,B,C,D,Eを表示し,次に,F,G,H,I,Jを表示
した点が記載されている。ここで,各スイッチに割り当てられる情報は,例えば,第1番目の
スイッチについては,A,F,K・・・というように,並列的な情報である。
甲4には,電子複写機等の画像形成装置において,液晶ドットマトリックス表示器の周縁部
に,複数の操作キー及び1つの説明キーを配置し,所要の操作キーを操作した後に説明キーを
操作すると,その操作キーの機能を説明する表示情報が上記表示器に表示される点,及び,上
記表示情報は,メモリに記憶されており,このメモリより所要の表示情報がメインプロセッサ
によって読出され,表示される点が記載されている。
甲8には「割ボタン「迎車」等の各機能毎に割り当てられたスイッチが複数の機能を兼,」,
用する点が記載されている。
しかし,甲3,甲4,及び甲8には,そのいずれにも上記相違点に係る本件発明1の構成が
記載されていない。
,,「[],,また本件発明1は発明の効果表示手段がドット方式であるため営業における料金
タリフ位置表示を明瞭に表示することが可能であるとともに,タリフ設定時の選択文字の表示
にも対応させることが可能であり,タリフ設定用入力手段またはその近傍にこのタリフ選択用
文字を表示し,これに対応するタリフ設定用入力手段のスイッチを操作することによってタリ
フ設定を容易にするものである。このことから,運賃制度の改正等があった場合にも,タクシ
ーメータのハード変更を必要とせず,ソフトウェアの変更だけで充分に対応することが可能と
なるものである。また,押ボタンスイッチ等のスイッチを省略することができ,コストを低減
することが可能である。更に,料金,タリフの表示を一体的に構成したドット方式の表示手段
で行っているため,表示を大きくとることができ,タリフや料金の表示を明瞭で確認な容易な
ものとすることができる(本件特許に係る特公平6−42269号公報4ページ7欄末行∼。」
8欄19行)というタクシーメータに特有の作用効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲1,甲3,甲4,及び甲8に記載された発明に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない」。
(6)本件発明2ないし4について
「本件発明1が,甲1,甲3,甲4,及び甲8に記載された発明に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものでないことから,本件発明1を引用する本件発明2ないし本件
発明4も,甲6に記載された発明,及び,甲7に記載された発明を考慮しても,当業者が容易
に発明をすることができたものとすることはできない」。
(7)むすび
「以上のとおりであるから,本件発明1ないし本件発明4は,審判請求人が提示した甲各号
証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることがで
きない。また,他に本件発明1ないし本件発明4を無効とする理由を発見しない」。
第3原告の主張の要点
1取消事由1(甲1発明の認定の誤り)
審決は,甲1の「メーターパネルの例(39頁)の右上のタリフ表示部につい」
て,ドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることが
できないと認定したが,この認定は誤りである。
甲1の39頁に記載されているタクシーメータは,甲1で説明されている各種新
機能をそのまま折り込んだ場合の予想図であり,甲1の2∼5頁に「現在のタクシ
ーメータ」として記載された電子式のタクシーメータの構成を備えたものである。
甲1の4頁右上に記載されたタクシーメータは,昭和61年から製造販売されてい
たタクシーメータのうち,最も国内販売台数シェアの高かった矢崎総業株式会社製
のタクシーメータ(製品名:アロフレンド18)をモデルにしたものである。この
タクシーメータは,表示部に1枚の蛍光表示管パネルを採用して料金表示部とタリ
フ表示部を一体的に構成し,料金及びタリフを同じ表示方式で表示する電子式のタ
クシーメータであり,このことからすると,甲1の39頁にいう「表示部のマルチ
化」は「料金表示部」と「タリフ表示部」が一体的に構成された蛍光表示管パネ,
ルをドット方式のものに交換して,プログラムにより表示内容を変更することを意
図するものであると解すべきである。
また,甲1の39頁にいう「表示部のマルチ化」の解釈は,甲1の記載全般に基
づいて行うべきである。甲1において「表示部」という記載は複数箇所において,
用いられているが,例えば,10頁では「⑤表示部」の下欄に「割増率」と「割,
増された運賃とが並列的に記載されタリフ表示部割増率と料金表示部割」,(「」)(「
増された運賃の両方を含むものとして用いられているしたがって甲1の表」)。,「
示部のマルチ化」は,少なくとも「料金表示部」と「タリフ表示部」のいずれも含
むと解釈するのが当然である。
さらに,甲1の38頁には,新型タクシーメータにおける乗務員が選択操作する
手段として,プッシュボタンのほかに「表示」と「ボタン」を兼用する方式であ,
るディスプレイタッチを採用することが記載されている。この「表示」は,ボタン
という入力方法を兼用するため,入力する機能の意味を表示する必要が生ずるので
あるから,操作ボタンの機能を説明する文字(タリフ選択文字)を意味することは
明らかである。甲11の2∼5に示されているとおり,タッチパネルであるスイッ
チと,液晶等のドットマトリックス方式の表示部を一体化してディスプレイタッチ
を構成することは,本件特許出願当時,汎用技術として認識されていたのであるか
ら,選択操作手段にディスプレイタッチを採用するということは「タリフ選択文,
字」をドット方式で表示するということにほかならない。
以上によれば,甲1には,本件発明1に係る請求項1の記載のうち「その時の,
料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一
体的に構成されてなるドット方式の表示手段と」及び「その時のタリフ位置に応,
じて前記表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示する」
ことが記載されているのであり,これに反する審決の認定は誤りである。
2取消事由2(甲8記載の技術事項についての認定の誤り)
(「」),甲8の資料第10新型タクシーメータ開発課題検討報告の別紙1について
審決は「割ボタン「迎車」等の各機能毎に割り当てられたスイッチが複数の機能,」
を兼用することは記載されているものの,これらの機能をどのように表示するかに
ついては記載も示唆もされていないと認定しているが,この認定は誤りである。
甲8の別紙1におけるスイッチの項には「割ボタン「迎車」等の各機能毎に割,」
り当てられたスイッチが複数の機能を兼用することに加えて,同じくスイッチの項
に「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等」との記載があり,さら)
に,同紙の「表示機構」の項には「ドットマトリックス方式(プログラムにより表
示内容を変更する」との記載がある。これらの記載の内容について,甲8にはそ)
れ以上の具体的な説明はないが,タッチパネルであるスイッチと,液晶等のドット
マトリックス方式の表示部を一体化してディスプレイタッチを構成することは,前
記のとおり,本件特許出願当時の汎用技術であるから,甲8の「表示とスイッチの
一体化(ディスプレイタッチ式等」との記載は,スイッチと表示を一体化し,各)
スイッチの機能(割ボタン「迎車」等)をドットマトリックス方式で表示するこ「」
とにほかならない。
したがって,甲8の別紙1のスイッチの機能をどのように表示するかについては
記載も示唆もされていないとした審決の認定は誤りである。
3取消事由3(相違点の判断の誤り)
前記のとおり,甲1には「料金表示部」及び「タリフ表示部」を一つのドット,
マトリックス方式の表示部で一体的に構成すること,スイッチと「タリフ選択表示
部」とを一体化してディスプレイタッチを構成し,ドット方式でタリフ選択文字を
表示することが開示されている。甲1には「タリフ選択表示部」を一体的に構成,
することは記載されていないが,一つのドットマトリックス方式の表示部で一体的
に構成された「料金表示部」と「タリフ表示部」に,同じくドット方式で表示する
「タリフ選択表示部」を追加して一体的にすることは,タクシーの運転手の利便性
を考慮すれば当然想定される範囲内のものであり,かつ合理的であることから,当
業者にとって何ら困難なくなし得ることである。
また,前記のとおり,タッチパネルであるスイッチと,液晶等のドットマトリッ
クス方式の表示部を一体化してディスプレイタッチを構成することは,汎用技術で
あったのであるから,甲8の別紙1の記載に基づき,3つのスイッチを備えたタッ
チパネルと,これらスイッチの機能を表示するドット方式の表示部を一体化してデ
ィスプレイタッチを構成し,まず「割ボタン「迎車「料金関係」の機能を表」,」,
示しておき割ボタンに対応するスイッチが操作されると次に1割引3,「」,「」,「
割増「2割増」の機能が表示されるように,プログラムによって切り替えるよう」,
にすることは,当業者であれば容易に想起し得ることである。
さらに,審決は,甲3,4には「その時のタリフ位置に応じて,各スイッチに,
対応するタリフ選択用文字を表示してタリフ設定用画面を構成する」ことは開示さ
れていないとしているが,甲4の関連発明が開示された甲12(特開昭62−22
3767号公報)を見れば明らかなように,ある機能を選択すると,この選択され
た機能に応じて,各スイッチに対応する選択用文字を表示して機能設定用画面を構
成することは公知の技術である。
審決は,本件発明1の効果がタクシーメータに特有の作用効果であることを理由
,,,,にその進歩性を肯定しているが甲18に開示された事項を正しく認定すれば
本件発明1の効果を奏する全ての構成が開示されている。かかる効果は,甲1,8
に記載された発明から得られる効果であり,何ら格別なものではない。
以上によれば,本件発明1は,甲1,3,4,8に基づき,当業者が容易に想到
し得たものである。
4取消事由4(本件発明2ないし4の進歩性についての判断の誤り)
本件発明1は,甲1,3,4,8に記載された発明に基づき,当業者が容易に発
明をすることができたものであるから「本件発明1が,甲1,甲3,甲4,及び,
甲8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
ないことから,本件発明1を引用する本件発明2ないし本件発明4も,甲6に記載
された発明,及び,甲7に記載された発明を考慮しても,当業者が容易に発明をす
ることができたものとすることはできない」として,本件発明2ないし4の容易。
想到性を否定した審決の判断は誤りである。
第4被告の主張の要点
1取消事由(甲1発明の認定の誤り)に対して
原告は,甲1が作成された当時の最新機種として「アロフレンド18」を挙げて
いる。同機種は「料金表示部」について「7セグメント方式」により比較的効率,,
(,)的な表示プログラムにより表示内容を変更し表示部の省スペース化を図ること
を可能にしたものであるが「タリフ表示部」については,あらかじめ各表示タリ,
フごとに丸ゴシックの蛍光部を設けておき,これらのうちから選択的に表示させる
「キャラクタ表示方式」を採用しているにすぎない。このことからも明らかなとお
り,甲1の39頁の「表示部のマルチ化」というのは,人数,荷物,迎車等の「料
金」を表示する部分,及び「運賃」を表示する部分にドットマトリックス方式を採
用し,例えば,一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文
字で順次表示することを読み取ることを可能にするものである。他方,タリフ表示
部については,あらかじめ設けられたタリフを表示灯により照射するものであり,
料金表示部とは表示方式が異なる。したがって,甲1の39頁には,どのようにし
てドットマトリックス方式を採用して表示するかについての具体的な記載はないと
いうべきであり,タリフ表示部についてもドットマトリックス方式を採用すること
が記載されていると読み取ることができない。
また,甲1は,各社の願望的なアイデアをまとめた報告書であり,抽象的なアイ
デアが多々含まれているが,このような甲1を引用例として用いる場合には,そこ
に開示されている具体的な内容を慎重に認定すべきであり,他の箇所において「表
示部」の表現が「タリフ表示部」を含むものとして用いられているからといって,
甲1全体にわたり「表示部」がタリフ表示部も含むと解すべきではない。
原告は,甲1の38頁に「ディスプレイタッチ」との記載が存在することも指摘
するが,これは,あくまでも操作部の一つのアイデアとして抽象的に記載されてい
るにすぎず,タリフ選択文字に使用することや,表示形態としてドットマトリック
ス方式を採用することは記載されていない。
2取消事由2(甲8記載の技術事項についての認定の誤り)に対して
,。甲8の別紙1には極めて抽象的な願望的アイデアが記載されているにすぎない
例えば,スイッチの項の「1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ,各項目の細
分項目には,マトリックスにより同一スイッチを兼用する」という記載のみから。
は,各スイッチが具体的にどのような態様で複数の機能を兼用するのか理解するこ
とができない。また,これらの機能をどのように表示するかについての記載や示唆
もない。
,「」,同様に別紙1のスイッチの項目に記載されているディスプレイタッチ式も
あくまで「操作部」についてのアイデアであり,しかも同一スイッチを兼用するこ
ととは,並列的ないし選択的なものとして挙げられている。このディスプレイタッ
チ式については,甲1にも記載されているが,その表示形態について何ら具体的に
開示されておらず,ましてや「ディスプレイタッチ式」のアイデアをスイッチ兼用
のアイデアに組み合わせることは全く示唆されていない。
したがって,甲8の別紙1のスイッチの機能をどのように表示するかについては
記載も示唆もされていないとした審決の認定に誤りはない。
3取消事由3(相違点の判断の誤り)に対して
本件発明1は「料金表示部「タリフ表示部「タリフ選択表示部」を一体的,」,」,
にドット表示することにより,乗客が,現在の料金,その計算根拠,選択される機
能をそれぞれ関連付けて容易に理解できるというメリットを生かしつつ,乗務員の
スイッチ操作を容易にしたものである。
これに対し,前記のとおり,甲1には,タリフ表示部をドットマトリックス方式
で一体的に表示することや,タリフ選択表示部をドット表示することについての記
載はない。また,甲1が作成された当時の最新機種である「アロフレンド18」で
さえ,タリフ選択表示部は印刷表記である(乙3の7頁「④外観」の項参照。。)
甲1の39頁の図は,多機能化するタクシーメータの例として示されたものであ
り,タリフボタンの数は従来の6個程度から倍以上の13個に増えている。このよ
うに10個以上のタリフボタンのタリフ選択表示部を料金表示部とともに一体的に
ドット表示したと仮定すると,画面上の表示が増大し,料金表示部やタリフ表示部
が判別しにくくなり,また,限られた面積の表示欄における各表示は小さくならざ
るを得ない。
甲1には,タリフ選択表示部に表示される文字を選択するための表示文字選択手
段を設け,そのときのタリフ位置に応じた文字を表示させることにより,効率よく
表示させるという本件発明1のような仕組みは何ら開示されていない。ディスプレ
イタッチについてもあくまで操作部に関する抽象的なアイデアが記載されているに
すぎず,それを用いてどのように表示するかについては特に記載も示唆もなされて
いない。
かえって,原告は,本件特許出願時点において,タクシーメータの料金表示部及
びタリフ表示部をドットによるグラフィック表示部となし,従来の運賃,回送迎車
料金表示のみならず,それ以外の料金又は表示項目の表示や今後設定される特殊料
金や改正料金の表示等をソフト変更するのみで極めて容易に表示させることを内容
とする特許出願を行っている(乙1:特開平5−205124号公報参照。これ)
によれば,原告は,甲1の存在を知りながら,なおドット表示で種々の表示をさせ
ることに進歩性があると判断していたことがうかがわれる。
また,甲8の別紙1のディスプレイタッチは,操作部の一つのアイデアとして抽
象的に記載されているのみであり,並列的に記載されているボタン兼用のアイデア
に組み合わせて用いることまで示唆されていないことはもとより,その表示形態に
ついては全く考慮されていない。
このように,本件特許出願の当時,ディスプレイタッチを用いて表示部及び操作
部の双方のマルチ化を図ることまでは到底想定できず,具体的な記載はもとより,
抽象的な記載も何ら見出せないのであるから,当時の周知技術を考慮しても,当業
者にとって,本件発明1が容易に想到し得たものであるということはできない。
4取消事由4(本件発明2ないし4の進歩性についての判断の誤り)に対して
以上のとおり,本件発明1が甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものとすることができないとした審決の判断は正当であ
る。本件発明2ないし4は本件発明1を引用してその内容をさらに限定した発明で
あるから,甲6,7を考慮しても,同じく進歩性を有することは明らかである。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(甲1発明の認定の誤り)について
審決は,甲1の「メーターパネルの例」の図(39頁)について「その)右上(
のタリフ表示部については,該当するタリフを表示灯により照射するものであり,
料金及び運賃を表示する部分とは表示方式が異なること,また,どのようにドット
マトリックス方式を採用して表示するかの具体的な記載がないことから,このタリ
フ表示部までにもドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読
み取ることができない」と認定しているところ,原告は,審決のこの認定は誤り。
であると主張する。
。(1)甲1には,以下の記載がある
ア「現在のタクシーメータ(2頁)」
「3.運賃料金の表示
メーター本体に表示部があって「運賃」と「迎車料金」の二つの表示窓があるものと「運,,
賃料金」として一体化されたものがある。前者では各々独立して金額が表示され,合算金額は
表示されない(3頁)。」
イ「5具体的課題とその対応方法
このセクションでは,新型メータが狙いとするところを具体的な課題として示し,それを実
現する方法または問題点を検討した・・・。
5.1演算機能の多様化
5.1.1運賃の割増
・・・
●各ブロックの作用
・・・
⑤表示部
・演算処理部からの信号を受けて,乗客あるいは乗務員に必要な表示を行う部分である。
例えば
・割増された運賃。
・必要ならば割増の事由や割増率。
などを表示する。
・数字以外の文字や図形を自由に表示するならば,従来と異なる構造が必要となる(9∼。」
11頁)
ウ「5.1.10まとめ
以上「演算機能の多様化」の課題について要約すれば,凡そ次のようになる。,
・・・
●乗客とのトラブルの発生を避けるためには,運賃料金が計算される条件,例えば割増・割引
の理由,割増・割引率,乗車人数,荷物の数などが,どのような状態にセットされてメータが
作動しているかを明確に表示する必要があると思われる。したがって,実際に多種類の運賃
料金項目を盛り込む場合には,それ相応の表示装置または領収書発行器を備えなければならな
いと思われる(36頁)。」
エ「5.3機能の多様化と操作部
5.3.1機能の選択方式
タクシーメータが多くの演算機能を持っていても,どの演算を行うかを命令してやらなけれ
ば動くことができないから,後に述べる自動化ができないものは乗務員の選択操作に頼ること
になる。
機能を選択する方式の得失を簡単に挙げると,次のようになる。
●プッシュボタン
従来多用されている最も直接的で単純な方法であるが,多数の機能をワンタッチで選択しよ
うとすると数が増え,ボタンが小さいと操作がやり難くなるからスペースを必要とする。
・・・
●ディスプレイタッチ
表示とボタンを兼用する方法で,例えば該当する料金表示部等をタッチして選択する。料金
表示が省略された項目を選択しようとすると,プッシュボタンと同じことになり,現在ではコ
ストと技術的な問題がある。
5.3.2プッシュボタン方式の操作部の例
,,ここでは最もポピュラーな機能毎のプッシュボタンを用い割増と割引を各々2種類として
5.1項で例にとった機能全部を折り込んだ場合のメーター前面を想定すると,次ページのよ
。,,。うになるなお人数と荷物数の設定はそのボタンを押す回数によって行うこととしている
これによると,従来7個程度であったボタンが6個増えて13個となっているが,簡単な電
卓でも20個以上ボタンがあることを考えれば,一般的に見て,特に操作性が悪い機器ではな
いと思われる。なお,図中の説明のように,シフトボタンを用いてボタンの機能を切換えれば
ボタンの数が減るが,操作が面倒になる(38頁,40頁。なお,38頁末行は40頁1行。」
に続いている)。
オ「メーターパネルの例」の図(39頁。なお,図自体は省略)
「新機構を折り込んだタクシーメータは上図(1例)のごとく多くの操作部,表示部が必要に
なる。操作部,表示部の増設は,メータ本体の形状寸法の拡大となり車輌取付にも大きな影響
を与えるばかりでなく,操作性や視認性を損なうことにもなる。これらの対策としては,次の
方法が考えられる。
・表示部のマルチ化・・ドットマトリックス方式(小型液晶テレビ等で採用されている点描画
方式)を採用し,プログラムにより表示内容を変更し,表示部の省スペース化を図る。
・操作部のマルチ化・・関数電卓等に使用されている「SHIFT」機能のように,一つの操
作ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択する(39頁)。」
カ「5.4機能の多様化と運賃料金の表示
・・・
5.4.2表示装置
現在の表示装置の特徴は,
・メータの本体と一体化している。
・表示窓は二つしかない。
・自発光性の機構によって数字か,一定の文字だけを表す。
・乗客と乗務員が同じ表示を見る。
となっている。これと同じ思想で新型メーターに対応する表示窓を増やした表示部を想定した
ものが前掲39ページの図である。この図は,ほぼ現在のメータ前面寸法の原寸(150×5
0mm)になっているが,このままでは表示される字が小さくて実用にならないと思われる。
これの対策としては,
・表示機構に一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文字で順次表示
する。
・・・
などの方法を更に検討する必要がある。
5.4.3表示装置の取付位置
・・・
この場合,液晶画面を使用する表示機構ならば漢字,図形なども自由に表示できるが,現状
では斜め方向から見にくいなどの欠点を改良する必要があろう(42∼43頁)。」
,,(2)甲1の上記記載によれば①甲1作成当時のタクシーメータの表示装置は
表示窓は二つしかなく,自発光性の機構によって数字か,一定の文字だけを表すも
のであったこと,②タクシーメータの料金項目の多様化に伴い,乗客とのトラブル
の発生を避けるために,運賃料金が計算される条件(例えば,割増・割引の理由,
割増・割引率,乗車人数,荷物の数など)を明確に表示する必要が生じたこと,③
多種類の運賃料金項目を盛り込む場合には,それ相応の表示装置を備えなければな
らないが,操作部,表示部の増設は,メータ本体の形状寸法の拡大となり車輌取付
にも大きな影響を与える上,操作性や視認性を損なうこと,④従来と同じ技術思想
で新型メータに対応する表示窓を増やした表示を想定したのが,39頁の図(メ「
ーターパネルの例)であるが,表示される字が小さくて実用的には使用できない」
こと,⑤その対策として,表示部については,ドットマトリックス方式(小型液晶
テレビ等で採用されている点描画方式)を採用し,プログラムにより表示内容を変
更し,表示部の省スペース化を図ることを検討し,操作部については,一つの操作
ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択することを検討する
必要があったこと,⑥機能を選択方式としては,従来多用しているプッシュボタン
式のほかに,表示とボタンを兼用する方法としてディスプレイタッチが考えられ,
液晶画面を使用する表示機構であれば漢字,図形なども自由に表示することが可能
となること,が開示されているということができる。
また,甲1の39頁の「表示部のマルチ化」の部分には,新機構を盛り込んだタ
クシーメータの問題点に対する対策が記載されているところ,これらの新機構を盛
り込んだ新型メータの詳細については,甲1の「5.具体的課題とその対応方法」
において検討され「割増の事由や割増率(11頁「人数,荷物の個数(20,」),」
頁「待」の状態であること(27頁)などの機能を表示部に表示することが),「」
。,「」,,記載されているしたがって甲1の39頁の表示部には料金にとどまらず
運賃料金を計算する条件を文字で表示することが予定されているというべきであ
る。本件明細書においては「空車,賃走,割増,迎車,支払等」をタリフとして,
例示しているが,甲1の表示部にも「割増の事由や割増率」などを表示することが
記載されているのであるから,甲1の39頁にいう「表示部」には,タリフ表示も
含むということができる。
また,甲1には,上記のとおり,機能選択方式としてディスプレイタッチを採用
することが開示されている。ディスプレイタッチは,表示とボタンを兼用する方法
であり,プッシュボタンの代わりに,ディスプレイタッチを39頁の図に適用した
場合には,少なくとも「人数「荷物「迎車」等の料金を表示する部分,及び,」,」,
運賃を表示する部分が,デイスプレイタッチに対応するものと解される。このよう
に,甲1は,少なくとも人数,荷物,迎車等のタリフ表示を,ディスプレイタッチ
で表示することが示唆され,そのためには,これらのタリフ表示をドットマトリッ
クス方式で行うことが前提となる。
以上のとおり,甲1には,タリフ表示も含む表示部にドットマトリックス方式を
採用することが記載されているということができる。したがって「タリフ表示部,
までにもドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取るこ
とができない」とした審決の認定は誤りである。
(3)これに対し,タリフ表示部については,あらかじめ設けられたタ被告は,
リフを表示灯により照射するものであり,料金表示部とは表示方式が異なるのであ
り,甲1の39頁には,どのようにしてドットマトリックス方式を採用して表示す
るかについての具体的な記載もないと主張する。
しかしながら,甲1発明より以前の表示装置は,あらかじめ設けられたタリフを
,,,表示灯により照射するものであったとしても甲1においては前記判示のとおり
タクシーメータの機能の多様化に伴い,運賃料金が計算される条件(例えば,割増
・割引の理由,割増・割引率,乗車人数,荷物の数など)を明確に表示する必要性
が強調され,従来とは異なる思想に基づく表示装置として,表示部にドットマトリ
ックス方式を採用することが記載されるとともに,機能選択方式としてディスプレ
イタッチを採用することが記載されているのであるから,甲1の「表示部」には,
タリフを含む新たな機能をドットマトリックス方式で表示することが意図されてい
たというべきである。
また,被告は,甲1は,各社の願望的なアイデアをまとめた報告書であり,抽象
的なアイデアが多々含まれているが,このような甲1を引用例として用いる場合に
は,そこに開示されている具体的な内容を慎重に認定すべきであり,甲1の他の箇
所で「表示部」が「タリフ表示部」も含むとしても,39頁の「表示部」について
同様の解釈をすべきことを意味しないと主張する。
しかしながら,甲1は,新型タクシーメータの開発に関する調査報告書であるか
ら,調査報告書内の関連する技術については,その全体を参酌して理解すべきもの
であり,とりわけ,39頁の図は,5.1項の機能全部を折り込んだ場合のメータ
前面を想定しているのであるから,関連する「5.具体的課題とその対応方法」の
記載は,特に考慮して,開示されている技術内容を認定する必要があることは当然
である。
したがって,被告の主張は採用できない。
(4)以上のとおり,原告の主張する取消事由1には理由がある。
2取消事由2(甲8に記載された技術事項の認定の誤り)について
審決は,甲8の資料第10として添付された「新型タクシーメータ開発課題検討
報告」の別紙1に記載又は図示された事項について「これらの記載及び図から,,
図に記載された長方形は「割ボタン「迎車「料金関係」等の各機能毎に割り,」,」,
当てられたスイッチであり,これらのスイッチが複数の機能を兼用することは読み
取れるが,これらのスイッチが具体的にどのような態様で複数の機能を兼用するの
かは不明である・・・また,これらの機能をどのように表示するかについては,。
記載も示唆もない」と認定した。甲8の別紙1のスイッチ。これに対し,原告は,
の機能をどのように表示するかについては記載も示唆もされていないとした審決の
認定は誤りであると主張する。
甲8の資料第10(新型タクシーメータ開発課題検討報告)の「1.各種機能「」
を組み込んだ基本設計」においては「運賃料金の割増,割引「人数・荷物割増」,」
運賃料金の合算1固定迎車料金2固定無線料金3無線等待料金ス「...」「
リップ迎車機構」を含むイ∼チの項目が挙げられ「2.運賃料金改定又は新しい,
運賃料金設定に効率的に対応できるメータ構造」の「ロ」においては「項目」と,
して「多様な運賃料金制度に対応できる効率的なボタン・ノブ等のスイッチ機構及
」,「」「」,び運賃料金表示機構項目の狙いとしてタクシーメータシステムの多機能化
「検討結果」として「1項の各項目を網羅すると,少なくとも15種類くらいの切
替えスイッチ及びタリフ指示部25桁くらいの表示部が必要となるため,車両への
取付スペースの点から別紙1のような基本設計を検討した上で,都市・地域別に操
作性等も考慮し,数種類の型式に分割する必要がある」と記載されている。。
そして,この別紙1を見ると「部位」欄に「スイッチ「方法(案」欄に「1,」,)
項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ,各項目の細分項目には,マトリックスに
より同一スイッチを兼用する」と記載され,その下方には「例」として図が。,()
。,,示されているこの図においては3つの長方形からなる列が上下に2列記載され
,,,「」,これらの長方形は矢印で繋がれておりまた長方形の列の上方には割ボタン
「迎車「料金関係」の文字の列がそれぞれの長方形に対応して記載され,長方形」,
の列の下方には「1割引,3割増,2割増←割ボタン「無線固定,スリップ,」
←迎車「人員,荷物←料金関係」との文字の列が上下に3列記載されている。」
また,別紙1の「スイッチ」欄には「方法(案」として「表示とスイッチの一,)
()」,「」「()」体化ディスプレイタッチ式等との記載があり表示機構欄には方法案
として「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する」との)
記載がある。
甲8のこれらの記載及び図によれば,上記別紙1の図には,1項でまとめた新機
構毎にスイッチをつけ,各項目の細分項目には,マトリックスにより同一スイッチ
を兼用することが記載されているということができ,同図を見れば「例えば,上,
「」,,側の列の割ボタンに対応するスイッチを操作すると下側の列の各スイッチに
「1割引「3割増「2割増」の機能が割り当てられる,又は,上下に対応す」,」,
るスイッチは,同じスイッチであり「割ボタン」に対応するスイッチを操作する,
と,次に,そのスイッチに「1割引」の機能が割り当てられ,その右側の「迎車」
に対応するスイッチに「3割増「料金関係」に対応するスイッチに「2割増」が」,
割り当てられる(審決書9頁5∼10行)ことが明らかに読み取れるものと理解」
することができるというべきである。
また,上記別紙1には「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等」,)
との記載があり「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更す,
る」との記載もあるのであるから,別紙1に例示されたスイッチをディスプレイ)
タッチ式とし,表示をドットマトリックス方式とすることも開示されているという
ことができる。
これに対し,被告は,甲8の別紙1には,極めて抽象的な願望的アイデアが記載
されているにすぎないなどと主張するが,甲8の資料第10には新機構が具体的に
記載され,同資料の別紙1には,これらの新機構につけられたスイッチの具体例が
,,示され同図からは前記判示のとおりの内容を読み取ることができるのであるから
被告の主張は採用の限りではない。
したがって,甲8の資料第10として添付された「新型タクシーメータ開発課題
検討報告」の別紙1には「割ボタン「迎車「料金関係」等の各機能毎に割り,」,」,
当てられたスイッチが複数の機能を兼用することはもとより,これらのスイッチが
複数の機能を兼用する態様やその表示についても記載されているというべきであ
り,これらの機能を兼用する態様やその表示について記載も示唆もないとする審決
の認定判断は誤りである。
3取消事由3(相違点の判断の誤り)について
審決は,本件発明1と甲1発明の相違点を,
「本件発明1では「タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料,
金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一体的に構成さ
れてなるドット方式の表示手段と,前記表示手段のタリフ表示部及びタリフ選択表示部に文字
を選択して表示する表示文字選択手段と,を有し,その時のタリフ位置に応じて前記表示文字
選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示するとともに,タリフ選択表示部に
タリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して,タリフ設定用画面
を構成する」のに対して,甲1発明では,タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択
表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示
部は,一体的に構成されておらず,また,上記料金表示部のみがドット方式の表示手段である
。」「,「,」点本件発明1はタクシーメータにおける料金タリフ並びにタリフ設定画面表示装置
であるのに対して,甲1発明は,タクシーメータにおける料金,タリフ表示装置である点」。
と認定している。
,,,,,これを整理すると審決は①タリフ選択表示部料金表示部タリフ表示部が
一体的に構成されているかどうか,②タリフ選択表示部,タリフ表示部が,ドット
方式の表示手段かどうか,③そのときのタリフ位置に応じて表示文字選択手段が,
タリフ表示部にタリフを表示するとともに,タリフ選択表示部にタリフ設定入力手
段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して,タリフ設定用画面を構成
するかどうか,④タクシーメータにおける料金,タリフ,タリフ設定画面表示装置
であるかどうかの4点において相違すると認定したものと理解できる。
(1)上記相違点①②に関し,甲1には,タリフ表示部及び料金表示部を含む表
示部にドットマトリックス方式を採用することが記載されているということができ
ることは前記判示のとおりである。また,表示部に選択すべきタリフを表示するか
どうかは設計事項にすぎず,選択すべきタリフを表示する場合には,選択されたタ
リフの表示,料金表示とともに,一体的に表示することが望ましいのは当然のこと
であるから,タリフ選択表示部をタリフ設定用入力手段の近傍に位置させてマトリ
ックス方式で表示し,表示部をタリフ選択表示部,料金表示部,タリフ表示部を一
体的に構成することは,当業者であれば容易に想到し得る事項である。
上記相違点③に関し,甲1には,タリフ表示をドットマトリックス方式で行うこ
とが記載されているということができるのであるから,タリフ表示部に選択された
タリフを表示すること,つまり「その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手
段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示する」ことが記載されているこ
とは明らかである。
また,甲1には「SHIFT」機能のように,一つの操作ボタンに二つ以上の,
機能を与えて,シフトボタンで機能を選択するようにすることが開示され,また,
甲8の資料第10の別紙1の図にも,1つのスイッチが複数の機能又はその細分項
目の選択肢を兼ねることが開示されている。さらに,同別紙には「表示とスイッ,
チの一体化(ディスプレイタッチ式等「ドットマトリックス方式(プログラムに)」
より表示内容を変更する」などの記載もあり,スイッチをディスプレイタッチ方)
式又はドットマトリックス方式で表示することが開示されている。
こうした甲1及び8の記載によれば,当業者であれば,タリフ選択表示部の表示
をドットマトリックス方式とした上で,各選択表示が複数の選択肢を兼ねるように
構成し,選択されたタリフ(例えば,割増)に応じて,表示文字選択手段が,タリ
フ選択表示部に当該タリフの細分項目(2割,3割,4割)を表示するようにする
ことは容易に想到し得るというべきである。
したがって,上記相違点③の構成は,甲1発明及び甲8に記載された技術事項に
基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
上記相違点④に関し,審決は「本件発明1は「タクシーメータにおける料金,,,
タリフ並びにタリフ設定画面表示装置」であるのに対して,甲1発明は,タクシー
メータにおける料金,タリフ表示装置である点」を相違点とするが,タクシーメ。
ータに画面表示装置にタリフ設定画面表示を設けることは,設計事項にすぎないと
いうべきである。
以上,審決が認定した相違点は,甲1に記載されているか,あるいは甲1発明及
び甲8記載の技術事項から容易に想到し得たものである。したがって,上記相違点
に係る構成は容易に想到し得ないとした審決の判断は誤りである。
(2)仮に,審決の認定するとおり,甲1のタリフ表示部について,ドットマト
リックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができず,甲8の
資料第10の別紙1のスイッチの機能の態様や表示が明らかでないとしても,前記
,,判示のとおり表示部に選択すべきタリフを表示するかどうかは設計事項にすぎず
選択すべきタリフを表示する場合には,タクシー運転手や乗客の便宜を考えれば,
表示画面においてタリフ選択表示部,料金表示部,タリフ表示部を一体的に構成す
ることは,至極当然のことである。
また,甲1には,タリフ表示をドットマトリックス方式で表示することが記載さ
れていないとしても,料金表示をドットマトリックス方式で表示することは開示さ
れており,また,甲3に「ドットマトリックス表示装置で表示を行う・・・小型電
子機器において,カタカナ,アルファベット,数字等の多くの情報を入力する場合
に(1頁右欄11∼14行)と記載されているとおり,文字をドットマトリック」
,,,ス方式で行うこと自体は周知の技術であったのであるから料金表示タリフ表示
タリフ選択表示をいずれもドットマトリックス方式で行うことも,容易に想到し得
ることである。
,,,さらに甲1には1つの操作ボタンに2つ以上の機能を与えることが開示され
甲8にも1つのスイッチが複数の機能又はその細分項目の選択肢を兼ねることが開
示されている上,甲1と8はいずれもタッチパネルについて言及していることは前
記判示のとおりである。一般に,表示画面の操作部において,複数の選択肢が示さ
れ,その中から一つの機能を選択すると,同一のスイッチ等が細分項目の選択肢を
兼ねるように構成することは,ごくありふれた構成にすぎない。タクシーメータに
おいても,スイッチの近傍にタリフ選択表示部を設けて選択肢を表示し,スイッチ
またはタッチパネル化されたタリフ選択表示部にタリフを割り当て,その中から一
つのタリフを選択すると,同一の位置に,当該タリフに対応する細目的な選択肢を
,,表示する構成とすることは当業者が通常工夫する事項の範囲内というべきであり
タクシーメータについてこのような構成を想起することが困難であることをうかが
わせる事情も存在しない。
以上のとおり,仮に,甲1,8についての審決の認定を前提としても,本件発明
1は,甲1,3,4,8に基づき,当業者が容易に想到し得たものということがで
きる。
(3)審決は,本件発明1により,料金,タリフ位置表示の明瞭化,タリフ設定
の容易化,タクシーメータのハード変更の不要化,コスト削減などの作用効果を奏
すると判断した。しかしながら,これらの効果は,甲1,8に基づき,本件発明1
の構成とすることにより当然に奏するものと予測されるものにすぎず,予期しない
顕著な作用効果であるということはできない。
(4)以上のとおり「本件発明1は,甲1,甲3,甲4,及び甲8に記載された,
発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできな
い」とした審決の判断は,誤りであるから,取消事由3には理由がある。。
4取消事由4(本件発明2ないし4の進歩性についての判断の誤り)について
本件発明1が,甲1,甲3,甲4及び甲8に基づいて,当業者が容易に想到し得
るものであることは,前示のとおりである。
,,,本件発明2は請求項1の記載を引用するものであって請求項1の表示手段が
さらに「液晶表示板を利用してなる」ものであるが,液晶表示板を利用してなる表
示手段は,甲1に記載されているのであるから,当業者であれば容易に想到し得た
ものである。
,,,本件発明3も請求項1の記載を引用するものであって請求項1の表示手段が
さらに「蛍光表示管を利用してなる」ものであるが,蛍光表示管を利用してなる表
示手段は,被告も甲1発明当時の機種である「アロフレンド18」のタリフ表示部
に蛍光部が設けられていたことを認めているとおり,タクシーメータにおいて周知
である。
そして,本件発明4も,請求項1の記載を引用するものであって,請求項1のタ
リフ設定用入力手段と表示手段のタリフ選択表示部が,さらに「液晶表示板の表面
に透明の感圧素子で構成されるタッチスイッチが積層され,一体的に構成されてな
る」ものであるが,この構成は,ディスプレイタッチが普通に備えているものであ
り,また,ディスプレイタッチが,甲1及び8に記載されていることは,前記判示
のとおりである。
,,,,,したがって本件発明1を引用する本件発明2ないし4はいずれも甲13
4,8に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるの
であり,原告の主張する取消事由4には理由がある。
5結論
以上によれば,原告の取消事由はいずれも理由があるから,審決は取消しを免れ
ない。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官佐藤達文は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官塚原朋一

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