弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
一本件訴えを却下する。
二訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求の趣旨及び請求の原因
本件訴えの請求の趣旨及び原因は、別紙(訴状の写し)記載のとおり
である。
第二当裁判所の判断
一別紙(訴状の写し)によると、本件訴えは、被告国が設置する府中刑
務所において服役中の受刑者である原告が、平成17年1月6日から昼
夜間独居となり、いわゆる固定独居処遇とされ、精神的ストレスから体
調を崩しておう吐、吐血をし始めたため、東京地方裁判所に対して、昼
夜間独居拘禁の解除、一般工場での就業又は他施設への移送を求める旨
の人身保護を請求した(同裁判所同年(人)第11号)ところ、拘禁者
は、原告が府中刑務所内で受けた診察及び治療の経過等を記録した診療
録(以下「本件診療録」という。)のうち、一部を削除したり、一部を
紙等で隠したりしたものを疎明資料として提出したため、同裁判所は、
上記人身保護請求を認めず、原告の固定独居処遇が同年11月22日ま
で継続し、そのため原告が吐血、おう吐を繰り返したのであって、原告
が精神的傷害により投薬治療を受けるまでになったのであれば、有印公
文書偽造及び同行使罪並びに特別公務員暴行陵虐致傷罪により刑事訴追
されるべきであり、その刑事責任の立証の準備のために必要である旨主
張して、被告に対し、本件診療録の全部を開示するように命ずることを
求める義務付けの訴えであると解すべきである。
二1そこで検討するに、行政事件訴訟法3条6項2号の義務付けの訴え
(いわゆる申請型義務付けの訴え)は、法令に基づく申請がされたこ
とを前提としているから、法令上の申請権があるにもかかわらず、行
政庁に対する申請をしないでされた義務付けの訴えは、同法3条6項
2号の義務付けの訴えには当たらないというべきである。
2ところで、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下
「個人情報保護法」という。)は、その12条1項において、「何人
も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政
機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求すること
ができる。」と規定し、2条3項において、「この法律において『保
有個人情報』とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した個
人情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして、
当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、行政文書(行政機
関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)第
2条第2項に規定する行政文書をいう。以下同じ。)に記録されてい
るものに限る。」と規定している。そして、行政機関の保有する情報
の公開に関する法律2条2項は、「この法律において『行政文書』と
は、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電
磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識す
ることができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、
当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保
有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。一官報、
白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的
として発行されるもの二政令で定める公文書館その他の機関にお
いて、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は
学術研究用の資料として特別の管理がされているもの」と規定してい
る。
そうすると、刑務所において服役中の受刑者には、個人情報保護法
に基づき、当該受刑者が当該刑務所内において受けた診察及び治療の
経過等を記録するために作成された診療録の開示を求めるために申請
する法令上の申請権があるものというべきである。
ところが、別紙(訴状の写し)によると、原告が、本件訴えの提起
に先立って、個人情報保護法に基づき、本件診療録の開示を求める申
請をしたことは認められない。
したがって、本件訴えは、行政事件訴訟法3条6項2号の義務付け
の訴えには当たらず、これを同号の訴えと見れば、不適法であるとい
うべきである。
三1また、仮に本件訴えを行政事件訴訟法3条6項1号の義務付けの訴
え(いわゆる非申請型義務付けの訴え)と見たとしても、同法37条
の2第1項によると、同法3条6項1号の義務付けの訴えにおいては、
一定の処分がされないことにより重大な損害を避けるため他に適当な
方法がないこと(以下「補充性の要件」という。)が訴訟要件になっ
ていると解すべきである。
2そうすると、既に判示したところによれば、刑務所において服役中
の受刑者は、個人情報保護法に基づき、当該受刑者が当該刑務所内に
おいて受けた診察及び治療の経過等を記録するために作成された診療
録の開示を求める申請をすることにより、当該診療録の開示について
一定の処分がされる機会を得ることができるのであるから、本件訴え
について、一定の処分がされないことにより重大な損害を避けるため
他に適当な方法がないということはできない。
したがって、本件訴えは、行政事件訴訟法3条6項1号の義務付け
の訴えと見ても、補充性の要件を欠くものとして、不適法であるとい
わざるを得ない。
その余の点について判断するまでもなく、不適四よって、本件訴えは、
法な訴えであって、その不備を補正することができないことが明らかで
あるから、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法140条により、これを却
下することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事
訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官菅野博之
裁判官鈴木正紀
裁判官岩井直幸

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