弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人らの地役権設定登記手続請求に関する部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
     上告人らのその余の上告を棄却する。
     訴訟の総費用は、これを四分し、その一を上告人らの、その余を被上告
人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人石川英夫の上告理由第一ないし第四について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
 1 Dは、昭和四一年当時、千葉市a町b番c宅地一〇〇・八九坪を所有してい
たところ、右土地を住宅地として分譲することを計画し、同年五月六日、右土地を、
同所b番cの土地(宅地一六六・九二平方メートル)、同番dの土地(宅地一四八・
八三平方メートル)及び第一審判決別紙第一物件目録(三)記載の土地(以下「本
件土地」という。)に分筆する旨の登記手続をした上、同月一二日、E商事有限会
社に対し、右b番dの土地及び近隣の住民のための公道に通ずる通路の一部を成し
ていた本件土地を売却して、同月一三日、その旨の所有権移転登記手続がされた。
この際、DとE商事との間において、少なくとも黙示的に、D所有の右b番cの土
地を要役地としE商事が取得した本件土地を承役地として通行地役権を設定する旨
の合意(以下「本件合意」という。)がされた。
 2 Dは、昭和四一年一〇月二九日、右b番cの土地を、前記物件目録(一)、
(四)ないし(六)記載の各土地(以下、同物件目録(四)ないし(六)記載の各
土地を、それぞれ、「(四)の土地」、「(五)の土地」、「(六)の土地」とい
う。)に分筆する旨の登記手続をした。その後、これらの土地は、F等に順次売却
され、更に転売されて、上告人A1は昭和五三年一一月二七日に(五)の土地を、
上告人A2は昭和六一年一一月一九日に(六)の土地を、上告人A3建設株式会社
は平成元年三月六日に(四)の土地をそれぞれ取得し、その旨の各所有権移転登記
手続がされた。この間、本件土地は、右各土地の所有者等により通路として利用さ
れていた。
 3 株式会社G工務店は、昭和六二年一〇月二二日、E商事から本件土地及び前
記b番dの土地を購入した者から更に右各土地を購入し、同日、その旨の所有権移
転登記手続がされた。G工務店は、昭和六三年九月九日、右b番dの土地を、前記
物件目録(二)、(七)及び(八)記載の各土地(以下、それぞれ、「(二)の土
地」、「(七)の土地」、「(八)の土地」という。)に分筆する旨の登記手続を
し、同年一一月三〇日、G工務店から、被上告人B1は本件土地及び(八)の土地
の各三分の二の持分並びに(七)の土地を、被上告人B2は本件土地及び(八)の
土地の各三分の一の持分並びに(二)の土地をそれぞれ購入して、同日、右の旨の
所有権移転登記手続がされた。
 この際、被上告人らは、G工務店から、本件土地は公衆用の通路である旨の説明
を受け、これが従前から(四)ないし(六)の各土地を含む近隣土地の所有者等の
ための通路として使用されていたことを認識し、本件土地が右のように用いられる
ことについて了解していた。
 二 本件において、上告人らは、主位的に本件合意に基づく通行地役権を承継取
得したとして、予備的に上告人らは右と同内容の通行地役権を時効取得したとして、
被上告人らに対し、上告人らがそれぞれ通行地役権を有することの確認と、右各通
行地役権に基づき本件土地について地役権設定登記手続をすることを求めている。
 原審は、次のように判示し、上告人らの通行地役権確認請求は認容すべきものと
したが、地役権設定登記手続請求は棄却した。
 1 被上告人らは、本件合意により設定された通行地役権の負担のあることを十
分に承知して、通路であることが明白な状況にある本件土地を取得したものである
から、被上告人らは、右通行地役権について、設定登記の欠缺を主張するにつき正
当な利益を有する第三者に当たらず、上告人らは、被上告人らに対し、設定登記な
くして通行地役権の存在を主張することができる。
 2 しかし、右のように上告人らが被上告人らに対して通行地役権を設定登記な
くして主張し得ると認められるからといって、他の特段の登記原因がないのに、上
告人らの被上告人らに対する地役権設定登記請求権が生ずるとはいえない。したが
って、上告人らの被上告人らに対する地役権設定登記手続請求は、理由がない。
 三 しかしながら、原審の右判断のうち、1は是認できるが、2は是認すること
ができない。その理由は、次のとおりである。
 通行地役権の承役地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な
利益を有する第三者に当たらず、通行地役権者が譲受人に対し登記なくして通行地
役権を対抗できる場合には、通行地役権者は、譲受人に対し、同権利に基づいて地
役権設定登記手続を請求することができ、譲受人はこれに応ずる義務を負うものと
解すべきである。譲受人は通行地役権者との関係において通行地役権の負担の存在
を否定し得ないのであるから、このように解しても譲受人に不当な不利益を課する
ものであるとまではいえず、また、このように解さない限り、通行地役権者の権利
を十分に保護することができず、承役地の転得者等との関係における取引の安全を
確保することもできない。
 これを本件について見るに、DとE商事との間に昭和四一年五月一二日にDの所
有地を要役地としE商事所有の本件土地を承役地として通行地役権を設定する旨の
合意がされ、上告人らはその後分筆された要役地をそれぞれ承継取得し、被上告人
らは承役地を承継取得したのであるところ、右通行地役権については地役権設定登
記はないが、前記のとおり被上告人らは右設定登記の欠缺を主張するにつき正当な
利益を有する第三者に当たらないのであるから、上告人らは、被上告人らに対し、
右通行地役権に基づき、右合意の日である昭和四一年五月一二日設定を原因とする
地役権設定登記手続を請求することができるものというべきである。
 そうすると、右とは異なる見解の下に上告人らの地役権設定登記手続請求を棄却
した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、右違
法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由が
あり、原判決中右請求に関する部分は破棄を免れない。そして、前記説示に徴すれ
ば、上告人らの地役権設定登記手続請求は理由があり、これと結論を同じくする第
一審判決は正当であるから、被上告人らの控訴のうち同請求に関する部分は理由が
なく、これを棄却すべきである。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認する
に足りる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    福   田       博
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    北   川   弘   治
 裁判官根岸重治は、退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    福   田       博

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