弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人松久利市上告趣意第一点について。
 論旨は、本件強盗殺人被告事件において被告人は、被害者(母方の祖母)に対し
本件犯行決意の当初から犯行終了に至るまで殺人の故意は毛頭無いばかりではなく、
被害者の首を絞め死の結果を招来した第一審相被告人Aの実行行為には被告人は加
担しておらず、又致死の実行行為に関しては被告人と右Aとの意思共通の範囲を超
えてなされたA単独の挙動に基くものであるから、被告人は致死の結果の加重責任
を負うべきものでないと言うに帰着する。しかし強盗殺人罪は、強盗をする機会に
人を殺すによつて成立する結合的犯罪である。数人が強盗の罪を犯すことを共謀し
て各自がその実行行為の一部を分担した場合においては、その各自の分担した実行
行為は、それぞれ共謀者全員の犯行意思を遂行したものであり、又各共謀者は他の
者により自己の犯行意思を遂行したものであるから、共謀者全員は何れも強盗の実
行正犯としてその責任を負うべきものである。そして、強盗共謀者中の一人又は数
人の分担した暴行行為により殺人の結果を生じたときは、他の共謀者もまた殺人の
結果につきその責任を負うべきものである。さて、適法な証拠によつて原判決の認
定した事実によれば、被告人は第一審相被告人Aと共謀して、被告人の祖母B方か
ら同女の不在中を窺つて金品を窃取しようと企て、午前中から同家縁の下で同女の
外出するのを待つていた。がしかし、同女が外出する様子がさらにないので、被告
人及びAはむしろ同女に暴行脅迫を加えて金品を強取しょうと相謀り、午後二時頃
Aが縁の下から飛び出して座敷えあがろうとしたところを逸早く同女に気付かれて
大声を立てられたので、先ずAが同女を組み伏せ、続いて被告人も縁の下から出て
右手で同女の口を抑えた。すると同女が極めて悲痛な声を出したので、被告人は思
わずその手を同女の口から離したところ、同女は這うように逃げ出した。そして、
なおも頻りに声を立てるので、Aは、むしろ同女を殺害して物品を強取しようと決
意して、両手で同女の頸を緊めて急性窒息死に至らしめて殺害した。そこで、両名
は金品を物色し、同女所有の現金約六百円、洋服及び洋服生地その他雑品合計十六
点を強取したという事案である。されば、被告人がAと強盗につき共謀したことは
動かぬ事実である以上、犯行の途中からAが強盗の手段として殺意を生じて殺害し
た結果について、被告人もまた強盗殺人の加重責任を負担すべきは当然である。論
旨は、それ故に理由がない。
 同第二点について。
 所論憲法第三七条にいわゆる「公平な裁判所の……裁判」とは、公平にして偏頗
のない組織構成を有する裁判所の裁判という意義であつて、個々の具体的事案の裁
判の内容が常に公平なことを保障する意義を有するものでないことは、既に数次に
亘り当裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第五九号、同年六月
二日大法廷判決)。されば、原審が所論のごとき諸事情を斟酌し情状を酌量して減
刑をしなかつたとしても、それは憲法第三七条に違反するものということはできな
い。又情状酌量による減刑をするか否かは、専ら原事実審の裁量権に属するから、
これに対する非難は上告適法の理由とならない。それ故、論旨は採用すること得な
い。
 被告人上告趣意について。
 原判決の挙げている証拠によれば、原判決のした事実認定は、当裁判所において
も肯認することができる。犯罪事実の認定は、事実審である原裁判所の自由裁量権
に属するから、事実認定の当否に対する非難は法律上上告の理由とすることは許さ
れないところである。又祖母さんに対して被告人が殺意をもたなかつたこと及び殺
害に自ら手を下さなかつたことは、原判決をよく読めばはつきりするが、被告人は
Aと強盗について共謀したものであるから、Aのした殺人の結果に対して法律上責
任を負わなければならぬことは、弁護人松久利市上告趣意第一点について前述した
とおりである。それ故、被告人の上告理由は採用することができない。
 よつて、刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二三年一一月四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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