弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人を懲役三月及び罰金三〇万円に処する。
     本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
     右罰金不完納の場合は金三、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労
役場に留置する。
     押収の米国軍票一〇ドル券三八一枚五ドル券七八枚(原審昭和二九年押
第四六四号)はこれを没収する。
     外国為替及び外国貿易管理法違反の公訴事実につき被告人は無罪。
         理    由
 弁護人竹岡輯の上告趣意について
 第一点は判例違反を主張するけれども、論旨引用の大審院判例は本件と事案を異
にし本件に適切でなく、所論は採用できない。第二点は単なる法令違反の主張で刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。
 しかし、職権により調査すると、第一審判決は、被告人は法定の除外事由がない
のに、第一、支払手段たる米国軍票を輸入しようと企て、昭和二八年九月二四日午
後五時頃釜山から米国軍票四、二〇〇ドル(原審昭和二九年押第四六四号)を携帯
してA航空会社所属の航空機に搭乗し同日午後一〇時頃東京都大田区ab町所在a
空港に到着し、外貨申告所において右軍票を申告せずに通過上陸し、以つてこれを
輸入し、第二、所定の通関手続を経ないで米国軍票を輸入しようと企て、前同日右
航空機に搭乗して米国軍票四、二〇〇ドル(原審昭和二九年押第四六四号)を右空
港に携帯輸送し、所定の通関手続を経ずに国内に搬入しようとしたが、同空港旅具
検査所において税関吏員に発見された為めその目的を達せず、以つて法定の免許を
受くることなく右物品を輸入しようとしたものである、との事実を認定し、第一の
米国軍票を無申告で輸入した所為については、外国為替及び外国貿易管理法四五条
七〇条一九号外国為替管理令一九条昭和二七年政令一二七号四条二項、罰金等臨時
措置法四条二条を、第二、の米国軍票を無免許で輸入せんとした所為については、
旧関税法七六条二項一項を適用し、懲役と罰金を併科すべきものとし、懲役につい
ては刑法四七条により併合罪の加重をし、その刑期及び罰金額の範囲内で、被告人
を懲役一年但三年間執行猶予及び第一、第二の罪につきそれぞれ罰金三〇万円に処
した。そして、原判決も、外貨申告所における外貨申告手続と旅具検査所における
貨物輸入の免許申請手続は、本来別個独立のものであつて、その基礎をなす外国為
替及び外国貿易管理法と関税法の立法の趣旨も異るのであるから、被告人が携帯の
米国軍票の記載をしてない携帯物件申告書を、外貨申告所及び旅具検査所において、
順次係官に提示した時に、各別に関係手続の着手があつたものとみるべきであると
して、第一、と第二、の罪とを併合罪として処断した第一審判決を支持したのであ
る。
 しかしながら、原審における証人Bの供述によれば、税関空港たる羽田空港に到
着した旅客は、係員に誘導されて、検疫及び入国管理関係の手続を済ませ、次で外
貨申告手続を了し、最後に関税法による携帯品の検査を経てその輸入免許を受けた
上で、始めて携帯品を持つて自由に外部に出て行くことができるようになつている
ことが認められる。かようにして、たとえ外貨申告所をことなく通過しても、さら
に旅具検査所を経て税関の関門を通過しないかぎり、旅客の携帯品はまだ税関の実
力的支配の下におかれているのである。このような事実関係の下においては、a空
港の右区域が関税法上の保税地域に指定されていなくても、外国為替及び外国貿易
管理法における支払手段の輸入及び関税法上の貨物の輸入は、右旅具検査所におけ
る税関の関門を通過して外部にこれを持出すことによつて、完了するものと認める
のを相当とする。
 ところで、第一審判決挙示の証拠によれば、被告人は、第一審判決認定の意図を
以てその認定の日時にa空港において、自己の着衣に本件米国軍票四、二〇〇ドル
を隠匿して右軍票を申告せずに外貨申告所を通過したが、旅具検査所において、税
関吏員に発見され、その目的を遂げなかつたことが認められる、したがつて本件米
国軍票は未だ税関の実力的支配を脱しなかつたのであつて、関税法上は貨物の無免
許輸入の未遂罪を構成するけれども、支払手段の輸入未遂の処罰規定のない外国為
替及び外国貿易管理法上は、なんらの犯罪も成立しないものといわなければならな
い。
 そうだとすれば、第一審判決判示第一の被告人の所為を以て、外国為替及び外国
貿易管理法四五条七〇条一九号の罪にあたるものとし、これと判示第二の関税法違
反の罪とを併合罪として懲役刑につき刑法四七条を適用処断した第一審判決及びこ
れを支持した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを破棄
しなければ著しく正義に反するものと認めなければならない。
 よつて刑訴四一一条一号四一三条但書により、原判決及び第一審判決を破棄し、
当裁判所において更に判決をすることとする。
 第一審判決がその挙示の証拠によつて認定した関税法違反の所為は旧関税法七六
条二項一項罰金等臨時措置法二条一項本文に該当するから、懲役及び罰金を併科す
ることとして主文の刑を量定し、罰金の換刑処分につき刑法一八条、懲役刑の執行
猶予につき刑法二五条一項押収の米国軍票の没収につき旧関税法八三条一項を適用
する。
 外国為替及び外国貿易管理法違反の公訴事実は関税法違反の罪と併合罪の関係に
あるものとして起訴されたものと認められるところ、前記の理由により罪とならな
いから、刑訴四一四条四〇四条三三六条により無罪の言渡をすべきものとする。
 よつて裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決をする。
 検察官 安平政吉出席
  昭和三三年三月一四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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