弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人森有度、同三原道也の上告理由第一点について。
 原判決は、被控訴人(上告人)先代Dより控訴人ら(被上告人ら)先々代Eに対
し所論の不動産を被控訴人主張のように既存債務のための売渡担保としたものと認
めるに足る証拠がなく、かえつて、買戻の特約を附した売買契約によりその所有権
を移転したものと思われる旨判示し、もつて被控訴人の主張を排斥したものであつ
て、その際認定された売買契約成立の日が所論の証拠と多少合致しないところがあ
つたとしても、そのことは何ら右の結論を左右するものではない。また、売買代金
の一部の支払につき、直接の証拠によらず判示の事情に徴して推認したとしても、
証拠によらないで事実を認定したものということはできない。論旨はいずれも採用
できない。
 同第二点について。
 本件請求原因は、原告(上告人)先代Dは、被告ら(被上告人ら)先々代Eより
大正一四年三月一六日金二万円を借受け、右債務の担保として右Eに対し所論(一)
(二)の不動産の所有権を移転し、さらに同年六月一八日金三、〇〇〇円を借受け、
右債務の担保として所論(三)(四)の不動産の所有権を移転し、同日現在におけ
る借入金の元利合計を一口に併せて二三、一五七円三七銭と定め、利息を年一割二
分とし毎月家賃名義をもつてこれを支払うこととしたところ、右Dの地位を承継し
た原告は昭和二五年一一月二八日元金および未払利息合計二四、七五七円三七銭を
弁済供託して右不動産の所有権を回復したから、右Eの地位を承継した被告らは、
原告に対し右不動産の所有権移転登記手続をなす義務がある、というのである。こ
れに対し、原審は、所論の不動産は、右Dが右Eに対し既存債務の整理のため売渡
し、譲渡代金債権をもつて既存債務を清算したものであつて、既存債務のため譲渡
担保に供したものでない旨を判示したものであるから、右売買契約につき、さらに
買戻約款を附したかあるいは再売買の予約をなしたかの判示は、判決の傍論にすぎ
ない。されば、所論は判決の傍論を非難するものにすぎないから、論旨は採用でき
ない。
 同第三点について。
 本件記録に徴すると、被上告人らが所論の貸金債権の存在について自白をなした
形跡がなく、また、所論の売渡担保の自白については、本件第一審昭和二九年一二
月一四日の口頭弁論期日において被上告人ら代理人は右自白を撤回し、上告人の右
主張事実を否認したところ、上告人代理人がこれに異議を申述べなかつたのである
から、右自白は有効に撤回されたことが認められる。原判決に所論の違法がなく、
論旨は採用できない。
 同第四点について。
 本件不動産の所有権移転が、売渡担保としての移転でない旨の原判決の認定は、
その所掲の証拠に照し肯認できる。所論は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、
事実の認定を非難するに帰するので、採用できない。
 同第五点について。
 所論は、原判決が、被上告人先々代Eの上告人先代Dに対する貸付金が二三、一
五七円三七銭ある旨の証拠がないというが、右事実は被上告人代理人の自白すると
ころであるのみならず、これを裏付ける証言もある。また、何らの証拠によらない
で、貸金と売買代金とを相殺し、その差額残高四、四〇〇円以上をDに交付したで
あろうと認定したのは違法である、というが、所論前段は、上告理由第三点に対し
判示するとおり、被上告人ら代理人は所論の自白を撤回したものであり、また、所
論の証人F、上告人本人の証言は原判決はこれを措信しない旨判示しており、証人
Gは所論の証言をしていないから、原判決に所論の違法がない。また、所論後段は、
上告理由第一点において判示するとおりであり、原判決挙示の証拠によりこれを肯
認することができる。論旨はすべて採用できない。
 同第六点について。
 原判決は、甲二号証その他の証拠を総合して、上告人先代Dが本件不動産を被上
告人先々代Eに対し売渡したものであつて、その貸金債務の担保として所有権の移
転をしたものでない事実を認定したものであつて、甲二号証中の貸主とは不動産賃
貸借の貸主、借主とは不動産賃借の借主と解釈できるから、原判決の右判断は肯認
できなくはない。原判決はさらに進んで同証拠により右売買契約につき買戻約款が
附せられたことを認定しているが、この点は判決の傍論にすぎないこと所論第二点
において説示したとおりである。されば、所論は、原審の専権に属する証拠の取捨、
事実の認定を非難し、また判決の傍論を非難するものにすぎないから、採用できな
い。
 同第七点について。
 所論は、差戻前の本件上告審判決は、差戻前の二審判決の認定した売渡担保とし
て本件不動産の所有権を移転した事実を前提として判示しているから、原審は右事
実認定に拘束されると解すべきである。しかるに、原審はこれと異なる事実を認定
したのは違法である、というのが、所論の点は、上告判決が破毀の理由となした判
断ではないから、原審が所論の事実と異る事実を認定したからといつて、これを違
法ということはできない。論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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