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裁判例


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       主   文
申立人らの本件申立てをいずれも却下する。
申立費用は申立人らの負担とする。
       理   由
第一 申立人らの申立ての趣旨および理由
 別紙(一)ないし(五)記載のとおりである。
第二 被申立人らの意見
 別紙(六)ないし(八)記載のとおりである。
第三 当裁判所の判断
一 被申立人らが申立人らに対し、別紙(一)の執行停止申立書に添付する別紙処
分一覧表記載の各休業補償給付および休業特別支給金(以下、これらを休業補償給
付等という)の支払の一時差止め処分(以下、本件差止め処分という)を行なつた
ことは、本件記録上明らかである。
 そこで、本件執行停止の申立てに申立ての利益があるか否か、換言すれば、本件
差止め処分の効力を停止することによつて、申立人らに法的な利益が生ずるか否か
について、以下順次判断する。
二 まず、申立人らは、休業補償給付等については既に被申立人らによる支給決定
がなされているのであるから、本件差止め処分の効力が停止されたならば、申立人
らは被申立人らから当然に休業補償給付等の支払を受けうることとなり、申立ての
利益があると主張する。
 しかしながら、休業補償給付等を支給する場合には、被申立人らにおいて支給決
定がなされ、その旨書面をもつて申立人らに通知される(労災保険法施行規則一九
条、労働者災害補償保険特別支給金支給規則二〇条)のであるから、支給決定がな
されたことは右通知書の提出などによつて容易に認定することができるところ、そ
のような疎明のない本件においては、支給決定はいまだなされていないものと認め
ざるを得ない。
 申立人らは、最初の請求に基づく業務上外の認定は慎重になされるが、その後の
請求に対する支給決定は請求者に病状固定あるいは治ゆ等の事情変更がない限り形
式的な審査だけでなされており、実質的には最初なされた業務上認定に基づく継続
的支払であるという実態を有すると主張する。
 しかしながら、労災保険法等の関係法令の規定によれば、休業補償給付等の請求
は、請求者が業務上の負傷又は症病による過去の休業により賃金を受けられなかつ
たことに対する補償の請求であり、これに対する支給決定も、請求者が請求書に記
載した期間について、初回と同様その要件の存否に関する実質的な審査、判断を行
なつたうえ、請求の都度個別的になされるものであると認められるのであつて、仮
に、支給手続の実際において、最初の請求に対する審査が慎重で時間がかかり、第
二回目以降の審査がそうでないとしても、そのことから直ちに第二回目以降の審査
および支給決定が共に形式的で、その休業補償給付等の支給が最初の支給決定の継
続的支払であるとか、最初の支給決定に将来の休業補償給付等の決定が含まれてい
ると解することはできない。
 また、労災保険法四七条の三の規定及び本件差止め通知書には、いずれも、休業
補償給付等の支払を一時差止める旨記載されているところからみると、本件におい
ては既に差止めの対象となつた休業補償給付等の支給決定がなされていて、その支
払のみが一時差止められたものと解されないではない。
 しかしながら、右法条および本件差止め通知者の文言を本件の休業補償給付等の
支給に関して考察すると、右法条は、右給付の請求があつた場合において、いかな
る決定をするか(継続して休業補償給付を行なうか、これを打切るか、あるいは傷
病補償年金に切替えるかなど)を判断するに必要な請求者の病状に関する資料(診
断書を添付した傷病の状態等に関する報告書)が提出されないときは、当該請求に
関する適正な認定ができないので、右資料の提出があるまで右請求に対する決定を
一時留保することができる旨を定めたものであつて、具体的な支給決定がなされて
いることを前提とするものではないと解するのが相当である。
 そうだとすれば、支給決定の存在を前提とする申立人の主張は理由がない。
三 次に、申立人らは、被申立人らによる支給決定がない場合においても、本件差
止め処分の執行停止がなされたならば、被申立人らは必然的に休業補償給付等の支
給又は不支給の決定をしなければならない法的状況におかれ、しかも、申立人らが
支給決定を受けうることはほぼ確実な状態にあるから、申立人らにつき支給決定が
なされたときに近い状況となるのであり、従つて、本件申立ての利益が存すると主
張する。
 しかしながら、被申立人らは労災保険法一二条の七、同法施行規則一九条の二に
基づき申立人らに提出を要求している傷病の状態等に関する報告書が申立人らから
提出されないことを理由に労災保険法四七条の三の規定により一時差止め処分を行
なつたものであることは本件記録上明らかであり、たとえ本件の執行停止の申立て
が認容されたとしても、それは本件差止め処分の効力の停止、即ち本件差止め処分
が存在せず、単に休業補償給付等の支給申請が継続している状態になるにとどま
り、直ちに支給又は不支給いずれかの決定を受けうる法的状況になるとか、あるい
は支給決定を受けうることがほゞ確実な状態にまではなり得ずその他労災保険法等
の関係法令および記録を精査しても、何らの申立ての法的利益を認めることはでき
ない。
四 以上のとおりであつて、本件申立ては申立ての利益を欠くからその余の点につ
いて判断するまでもなく失当として却下することとし、申立費用の負担につき行訴
法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 上田次郎 安斎隆 上垣猛)
別紙(一)
執行停止申立書
申立の趣旨
 相手方らが申立人らに対してなした別紙処分一覧表記載の各休業補償給付および
休業特別支給金の支払いの一時差止処分の効力およびその執行は停止する
との決定を求める。
申立の理由
第一 処分に至る経過
一 申立人らは頸肩腕障害の業務上疾病により労働者災害補償保険法(以下労災保
険法という)第一四条により休業補償給付を労働者災害補償特別支給金規則(以下
特別支給金規則という)第二条により休業特別支給金の支払いを受けている者であ
る。
二 処分一覧表記載の各処分庁は申立人らに対し「傷病の状態等に関する報告書」
(以下報告書という)を提出していないことを理由として労災保険法第四七条の三
および特別支給金規則第二〇条の規定にもとづき申立の趣旨記載の各処分をおこな
つた。
三 前項の処分によつて申立人らが不利益を受けることは明らかであるから申立人
ら(申立人A、同Bは除く)は昭和五三年一〇月一一日各処分庁の上級行政庁であ
る大阪労働基準局長に対して前項の処分につき審査請求および執行停止申立をおこ
なつた。右執行停止申立に対しては昭和五三年一〇月一三日、「執行を停止しな
い」旨の決定がなされた。
四 申立人らは昭和五三年一一月二七日本件各処分につき処分取消の訴を提起し
た。
第二 本件処分の違法性
一 三疾病については傷病補償年金の対象にならないのであるから、年金移行の症
状把握に必要とされる報告書の提出義務はない。
1 相手方らの本件報告書を提出させる理由
 相手方らは本件報告書は労災保険法一二条の七、同施行規則一九条の二にもとづ
くものであり、その提出をさす理由としては、被災労働者に対する「適切な給付」
をおこなうため、すなわち休業補償給付等を継続するか傷病補償年金に移行するか
の判断をおこなうについて当該労働者の症状把握の必要があるということである。
2 労災保険法一条によれば、労災保険の目的は被災者に対して迅速且つ公正な保
護をするため必要な保険給付をおこない、あわせて「社会復帰の促進、当該労働者
及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進
に寄与すること」とされている。
 ところで申立人らの職業性疾病である頸肩腕症候群・腰痛症・むちうち症(いわ
ゆるこれを「三疾病」と表する)などは、適切な治療と訓練的就労の場が保障され
れば必ず職場復帰が可能であることが明らかにされている。このことをうけて行政
は企業に治療の一環として職場復帰訓練を位置づけさせることの重要性を認識し、
行政指導すべく通達を出している(頭頸部外傷症候群等の労働災害被害者に対する
特別対策の実施についてー五九三号通達)。したがつて、三疾病については、それ
が長期の療養を必要とする場合であつても、またある時期にはほとんど症状に変化
のみられないときがあつても、職場復帰を求めて適切な治療と訓練的就労の場を保
障すべきであつて、それが前記労災保険の目的である「疾病にかかつた労働者の社
会復帰の促進」にかなつたものなのである。ところが、傷病補償年金はその適用を
うければ業務上疾病中の療養期間中は原則として解雇してはならないという解雇制
限(労基法一九条)が撤廃されるため(労災保険法一九条)、使用者はいつでも被
災労働者を解雇し職場から放逐することができるようになつた。これでは現在通院
治療あるいは訓練的就労を通して社会復帰のための諸活動をおこなつている申立人
らのごとく三疾病被災者に対して傷病補償年金給付の判断材料としての報告書の提
出を命ずることは、被災者保護にならないことはもちろん社会復帰の促進にもなら
ないで前記労災保険の目的にも合致せず、また「手厚い保護」として導入された傷
病補償年金の制度趣旨にも合致しないこと明白である。
 したがつて適切な治療と訓練的就労があればかならず職場復帰できる三疾病につ
いては、傷病補償年金の対象にはならないといわなければならない。
 このことから傷病補償年金移行のための判断に必要な報告書は被災者には提出す
る義務がないのである。また、労災保険法施行規則一九条の二にいう「報告書」の
提出については、かかる三疾病の場合にはこれに含まれておらず、労災保険法一二
条の七の提出義務もかかる三疾病については課せられないのである。
3 傷病補償年金新設過程と三疾病
 そもそも以上のことは傷病補償年金が新設された昭和五一年の労災法改正におけ
る国会審議あるいはその後の経過のなかで明白にされたところである。
 すなわち、三疾病については、特に解雇制限との関係から「基本的に年金になじ
まない」ことが国会で認められ、その結果衆参両院ともに政府が講ずるべき措置と
して「傷病補償年金制度の運用に当たつては特に頸肩腕症候群、むち打ち症、腰痛
症の職業性疾病患者の療養の実情に即して、適切に行うよう努めること」など附帯
決議がなされた。あわせて、労災保険法一条の目的条項においても「労働者の社会
復帰の促進」、「適正な労働条件の確保」の項目をつけ加えられたのである。
 さらにその後の国会審議(昭和五二年三月二三日衆議院社会労働委員会)におい
ても労働大臣は「頸肩腕症候群とかあるいは腰痛症とかむち打ち症というようなも
のは、治療を受ければ労働不能にはならない。労災法はできるだけ多くの人人に職
場復帰をしてもらうというのがその精神であります。したがつて年金の対象になら
ない。したがつて解雇制限の解除にもならない」と明確に述べている(なお政府側
は昭和五二年三月一一日の予算委員会第二分科会議、あるいは昭和五三年三月一日
の予算委員会第三分科会議でも再三右の労働大臣答弁をくりかえしている)。
4 申立人らには報告書提出義務はない。
 以上のことから明らかなように申立人らのような三疾病被災者については傷病補
償年金の対象とならず、休業補償給付等が継続されるべきである。
 したがつて、ここに相手方労働基準監督署長らが労災保険法の目的や国会審議の
経過を全くわきまえず、年金移行の判断に必要と称して報告書を被災労働者に一律
に強要することは労災保険法一条、同一二条の七、同施行規則一九条の二の法意を
理解しないものであり、申立人らのその報告書の提出義務はない。
二 申立人らが報告書を提出しないことについては労災保険法四七条の三の「正当
な理由」が存在する。
1 一九二号通達と三疾病
 前項で述べたとおり、労災保険法の目的、傷病補償年金の新設過程からいつて、
三疾病については年金に移行することなく休業補償給付などの継続が正しい補償で
ある。
 ところが、労働省は、昭和五二年三月三〇日基発第一九二号でもつて法の運用通
達を出し、これでもつて年金移行の具体的取扱要件を示したのである。
 これによれば、傷病補償年金の成立要件(労災保険法一二条の八・三項)として
の廃疾等級三級六号の「常に労務に服することができない」とは、「基本的には
『生命維持のため必要な身のまわりの処理の動作について自用を弁ずることはでき
るが、労務に服することができない状態にあるもの』をいう、『技能・労働・事務
系労働などにあたつては、労働時間の一部について被災前と同様の労働に現に就労
しているか、若しくは就労可能な状態にある場合、または労働時間の一部について
補助的労働若しくは軽易な労働に現に就労しているか、若しくは(六カ月後には)
就労可能な状態にあるもの』以外をいう」(一九二号通達参考Ⅱ廃病等級表の「常
に労務に服することができないもの」の範囲についての判断基準)と規定してい
る。
 この運用通達は、三疾病の除外規定がないため、三疾病にそのまま適用されると
法が予想しない事態、三疾病についても疾病等級に該当し、年金移行・解雇制限解
除という事態が招来する。
 すなわち、いわゆる三疾病は、前項で述べたように、職場復帰訓練を含めた「適
切な」治療が必要であるが、「適切な」治療は、その疾病の特殊性、すなわちほか
の疾病とは違つて、個々の被災者の実情に見合つた治療、ということが特に要求さ
れ、徐々に回復していくというのが常であること、および職場復帰訓練を企業が拒
否し、ほかの健康な労働者と同様に扱うという実態があることから、症状が一時悪
化することもあり、相手方がこの一時期をとらえて三疾病の症状がこれに該当する
として傷病補償年金に移行させることができるのである。
 さらに上記運用規定一九二号通達によつて職場復帰訓練中あるいは訓練可能にま
で回復した申立人らに対してでさえ、年金移行の認定をおこなうことができる。こ
のことは現に大阪労働基準局は、本件申立人らに対し職場復帰の行政指導などを通
じて症状は十分すでに把握しているにもかかわらず、年金に移行しないとは明言せ
ず、あくまでも、「一九二号通達、参考Ⅱに該当するや否やで判断する」と回答す
るのみならず(参考Ⅱの具体的運用の内容については回答せず)、労働省は「参考
Ⅱに該当しないものは、年金移行、解雇もやむをえない」と言明さえしているとこ
ろからも明らかである(昭和五三年四月一九日労働省交渉)。
2 報告書の提出により年金移行をするやいなやを判断される以上、本件申立人に
は報告書不提出の正当理由がある。
 このような状況と、一九二号通達によれば、報告書の提出により年金に移行する
や否やを判断すると明記しているところからすれば申立人らが報告書を提出すれば
それをもとにして相手方が申立人らを傷病補償年金に移行させる可能性が極めて濃
い。これは前項で述べた労災保険の目的(特に社会復帰の促進)、三疾病の特殊性
(治療と訓練的就労をおこなえば必ずなおる)、国会での審議決議を軽視したもの
である。
 しかも申立人らが報告書提出によつて不利益取扱いがなされるのだと早くから指
摘しているのであるから、相手方としては十分な説明をしその納得を得べく努力す
る義務があるにもかかわらず全くしていない。この点では報告書と本質的に同じ問
題をもつ届書(労災保険法施行規則一八条の二)の提出命令に対する審査請求にお
いてさえ、全く具体的弁明を回避していることからも明らかである。
 したがつて法そのものが正しく運用されておらず、被災者の正しい補償を受ける
ことができないおそれがある状態においては、そのような状態がなくなるまで報告
書の提出をしないことは被災労働者としての当然かつ最低の権利であり労災保険法
四七条の三の「正当な理由」に該当する。
三 本件において一時差止をおこなう必要性がなく、労災保険法第四七条の三の目
的を逸脱するものである。
1 労災保険法第四七条の三は「保険給付の支払を一時差止めることができる」と
あるのであるから、一時差止処分をおこなう場合には当然その必要性が存在しなけ
ればならない。
2 ところで本件一時差止処分の対象となつている休業補償給付等は、毎月の生活
補償であり、被災者の生存にかかわるものであるから、その一時差止処分というの
は被災者の生存権の侵害という最も重大な利益に関するものであると言うべく、そ
の適用は最後の手段としてのみ許されるものと言わねばならない。
 すなわち他に代替手段がない場合という高度の補充性が要求されるのである。
3 しかるに本件報告書の未提出によつても保険給付の実施という行政においては
何ら支障は生じておらず、一時差止処分という最後の手段をおこなう必要性は全く
存しない。
 すなわち、休業補償給付等の継続は報告書にもとづいておこなわれなければなら
ないという法的規制は何らないのであるから(この点は労働省も認めている)、報
告書が提出されていなくても休業補償給付等の継続はできるのであり、何ら行政上
支障はない。
 なおこの点は基発第九〇六号によれば、差止めの対象となるのは、「…当該命令
に従わないことによつて支給決定に支障をきたすと認められるすべての保険給付」
とあるが、本件報告書の未提出によつて休業補償給付等の継続には何ら支障がない
のであるから、本件一時差止処分は右通達にも明らかに違反するものである。
 また、代替手段に関して言えば、基発第一九二号に報告書の提出のない場合の処
理方法を明示しているのであるから、この点からも本件差止処分はその必要性を欠
くものと言わねばならない。
4 本件一時差止処分は被災者が労働行政側の命令に盲目的に従わないことに対す
る一種の報復的な措置であり何らその必要性のない違法なものである。
第三 回復困難を避けるための緊急必要性
本件一時差止処分の効力および執行の停止は申立人に生ずる回復の困難な損害を避
けるため緊急の必要がある。
(1) 「回復の困難な損害」とは、抽象的な金銭賠償の能否や原状回復の能否を
基準とすべきでなく、事実として生ずる損害を申立人に受忍させることが、社会通
念上相当と認められるかどうかを係争処分が目的とする社会的利益との比較衡量に
よつて相対的に決せられるべきものであるとするのが通説である。
 判例においても、原状回復または金銭賠償が不能な場合ばかりでなくたとえ終局
的には金銭賠償が可能であつても社会通念上そのことだけでは、填補されないと認
められるような著しい損害を蒙ることが予想される場合や、特にその損害が人命に
かかわり、あるいは身体の障害を惹起せしめるような場合がこれにあたるものと解
している(東京高決昭四一・五・六 行裁例集一七巻五号四六三頁、神戸地決昭三
九・三・三〇 行裁例集一五巻三号四九四頁など)。
(2) 本件の場合申立人の唯一の生活の資金にかかる休業補償などの一時差止が
申立人の生活に回復の困難な損害を生じさせることはあまりにも明白である(その
詳細は申立人の報告書に記載されているとおりである)。
 前記東京高裁の決定は、市立大学助教授の懲戒免職処分の効力停止申立につき、
俸給を受けえないことによつて回復の困難な損害を避けるため緊急の必要性がある
と判示している。
 さらに、本件申立人は頸肩腕障害などの疾病のために休業して療養を行つている
ものであるから、生活の手段である休業補償などが一時差止されることによつて、
単に生活苦が生じるだけでなく、その療養にも悪影響を及ぼすことは必至である。
すなわち、申立人の療養の基本は精神的安定を保ち、規則正しい生活をするとい
う、まさに全生活を療養として位置づけるものである。しかるに本件支払差止処分
によりこのような生活条件は根本的に破壊された。また、申立人の中には休業補償
として給付される金員により療養目的のために体操クラブや水泳教室に通つている
ものもあるが、差止処分によりそれもできなくなつている。さらに療養そのものに
ついても、はり、きゅうなど療養給付以前に自己が費用を立替える療養方法は経済
的に受けられない事態となつている。
 このような身体への悪影響をも惹起する本件処分は、まさに申立人にとつて回復
の困難な損害であり、また当然それを避けるための緊急の必要も存在する。
 このことは、生活費である休業補償などの差止の執行停止のみが申立ての回復の
困難な損害を避ける唯一の方法であり、処分の効力の停止以外の措置ではその目的
は達せられない。
 よつて本申立に及んだ。
(別紙) 処分一覧表
<19705-001>
<19705-002>
別紙(二)
第一 申請人等の求めている執行停止の対象たる行政処分の性質と申立の利益
 相手方らの本件申立却下の主張は、一時差止処分の性質が「拒否処分」であり、
これに対してはその性質上執行停止の対象適格を欠くか、申立の利益を欠くとの理
由による。
 相手方らの右主張が全く不当なものであることを明らかにするため、以下、差止
処分の内容を見、そして申立の利益と一時差止処分が「拒否処分」でないことを明
らかにする。
一 執行停止の対象たる一時差止処分の内容
(一) 業務上の疾病又は負傷を理由として休業補償給付等の請求がなされた場
合、労働基準監督署長は、請求者より提出された請求書の記載事項(労働者災害補
償保険法施行規則第一三条)の検討はもちろん、必要な場合は請求者より事情をき
き、又、勤務場所や労働実態、症病発生経過等の調査をしたうえで業務上外の認定
をなすのであり、その決定に対して不服ある請求者に対しては、審査請求、再審査
請求等の不服申立の制度が認められている(労働者災害補償保険法第三五条)。
 右のように最初の業務上外の認定については非常に慎重な検討がなされて給付の
支給決定がなされるのであるが、その後の休業補償等の支給決定は請求者に症状固
定あるいは治ゆ等の事情変更がない限り請求者の請求に対しては形式的な(書面的
な)審査だけで給付の支給がなされており実質的には一度なされた業務上認定に基
づく継続的支払という実態にある。
(二) 以上のような実態をふまえつつも、本件の対象である一時差止処分の内容
を直接決定するものは一時差止処分の根拠法である労働者災害補償保険法第四七条
の三の文言及び労働基準監督署長等のなした「休業補償給付及び休業特別支給金の
支払の一時差止めについて(通知)」と題する書面の内容である。そしてその書面
の内容は「貴殿には昭和五三年 月 日を指定期限として『傷病の状態等に関する
報告書』を提出されるように督促したところ、いまだに提出がないので(中略)昭
和五三年 月 日から昭和五三年 月 日までの分に係る休業補償給付及び休業特
別支給金の支払を当該報告書が提出されるまでの間一時差止めることとした」とい
うものである。
二 本件における申立人等の申立の利益について
(一) 相手方等は休業補償給付及び休業特別支給金の各請求権は労働者災害補償
保険法施行規則一九条、労働者災害補償保険特別支給金規則二〇条による支給決定
により成立するものであり、本件申立人等には未だ右支給決定がなされていないか
ら、一時差止処分の執行停止は申立の利益がないと主張する。
 しかしながら、相手方等の主張は労災保険法第四七条の三の文言及び前記一、
(二)に引用した差止処分の通知書の内容に反するものである。右通知書は「休業
補償給付及び休業特別支給金の支払を・・・一時差止める」ものである。即ち、
「昭和 年 月 日から昭和 年 月 日までの分」というすでに具体化された請
求権の存在を前提にその「支払」を一時差止めるものであつて申立人等の労災保険
法施行規則第一三条等に基づく請求に対して労働基準監督署長等が支給決定の処分
を怠つている事態ではないのである。もし、相手方等の主張するように申立人等の
請求権がそもそも成立していないのであれば本件の一時差止という処分自体その目
的を欠く処分となり論理矛盾である。
 なお、相手方等は、申立人等が支給決定通知書を受けていないことから、支給決
定がないことが明らかとする。しかしながら、処分(決定)がなされたこととその
通知がなされたこととは別個の行為であり、このことは労災保険法施行規則第一九
条が処分と通知とを別に使いわけていることからも認め得ることである。よつて支
給決定通知書の有無により申立人等の請求権の有無が決せられるものではない。
三 執行停止の対象たる一時差止処分は「拒否処分」ではない。
(一) 相手方等は、「拒否処分はその性質上執行停止の対象適格を欠くか、執行
停止の申立利益を欠く」との一般論を主張し、本件一時差止処分も「一種の一時的
暫定的な拒否処分」であり、よつて、執行停止は不適法であるという。
 しかしながら、すでに前記「一、執行停止の対象たる一時差止処分の内容」
「二、本件申立における申立人らの申立の利益について」等で述べたところから、
本件処分が拒否処分でないことは明らかであつて再論の必要をみないが、相手方等
は三つの行政事件の判例を引用しているので、これらの判例は本件とは事案が全く
異なるものであること、それにもかかわらず、相手方等が、その趣旨を曲解して引
用していることを次に明らかにする。
(二) 東京高裁昭和二七年四月八日決定(行裁例集三巻三号六〇二頁)は、旅券
発給拒否処分に対する執行停止申立事件であり、大阪地裁昭和四四年一〇月二一日
決定(行裁例集二〇巻一二号一五五三頁)は、風俗営業不許可処分に対する執行停
止申立事件であり、さらに東京地裁昭和四五年一二月二四日決定(判例時報六一八
号一九頁)は、生活保護法に基づく保護開始申請却下処分に対する執行停止申立事
件である。
 これらの事件について共通していることは、執行停止の申立人等は、その申立時
点においては何ら具体的な権利を有していないものであることである。
 ところが本件の申請人等は既に業務上の認定を受け「保険給付を受ける権利を有
する者」(労災保険法第四七条の三)となつている者であり、執行停止を求める行
政処分は「昭和 年 月 日から昭和 年 月 日まで」の休業補償等という具体
化された請求権の支払差止処分なのである。相手方等の引用する判例は、このよう
な本件とは事案のことなる裁判例であつて、これによつて本件の判断を左右するこ
とはできないものである。
第二 差止処分の経緯についての反論
一 相手方らは改正前労災法第一二条の八第三項及び改正労災法第十二条の八第三
項を形式的に引用し、そこから労災則(省令)第一八条の二、第一九条の二の新設
を合理化せんと試みるものであるが、改正前労災法の解釈、運用、及び基発第五九
三号労働省通達、改正労災法の立法経緯ことに国会における付帯決議を全く無視し
た甚しい暴論である。
(一) もともと改正前労災法第一二条の八第三項が定めていた長期療養補償給付
については療養の開始後三年を経過した場合であつても長期療養補償給付に移行す
るには「政府が必要と認めた場合」に限られていた。そして頸肩腕障害などいわゆ
る三疾病については、それが疲労性疾病であり適切な治療と訓練的就労により必ず
職場復帰が可能であること、なしろ治療と職場復帰訓練が不可分の関係にあること
から三疾病については一般的に同条の定める長期療養補償給付の対象外と解されて
きた。そのため、行政当局が頸肩腕障害など三疾病について「政府が必要と認め」
たことはなく、長期療養補償給付に移行する例はなかつた。勿論相手方らが本件差
止処分の原因としている報告書の提出につき定めた労災則(省令)第一九条の二の
規定も届書の提出についての同第一八条の二の規定も全く存在しなかつたのであ
る。それどころか行政当局自身が、患者団体ら要望の運動の成果もあつて、三疾病
につき基発第五九三号本省通達「頭頸部外傷症候群等(頸肩腕症候群も対象疾病と
して列記)の労働災害被災者に対する特別対策の実施について」(甲第五号証)に
より不充分ながらも職場復帰促進の措置を講じてきた。同通達は職場復帰の促進の
ための「規則的段階的な就労を図ること、就労条件について事業主に対して必要な
行政指導を行なうこと、就労を困難とする諸条件の改善に努め、円滑に就労できる
よう取計らうこと」などを行政の責任としている。大阪労基局においても「社会復
帰特別対策事務処理要綱」(甲第六号証)により前記第五九三号通達に基づき同様
に職場復帰促進の措置を講じてきた。右「要綱」もまた頸肩腕障害などを対象とし
て職場復帰のための実態把握、職場復帰を阻害する事業主に対する行政指導につき
詳細に定めている。なお右「要綱」は「社会復帰対策カード」(社復様式1)「社
会復帰申出書」(同様式2)「社会復帰実態調査書」(事業主用)(同様式3)、
「社会復帰実態調査書」(該当者用)(同様式4)などは「社会復帰対策の実施に
関してのみ使用するものである」とし、「本来の目的以外、例えば長期療養補償給
付への移行、保険給付打切り等の資料として使用しない」ことをわざわざ断つてい
るほどである。
(二) 改正労災法第一二条の八第三項は長期療養補償給付に代えて傷病補償年金
を新設した。同条は「療養の開始後一年六箇月を経過した日において」「疾病が治
つていないこと」の外に、改正前の「政府が必要と認める場合」に代えて「廃疾の
程度が労働省令で定める廃疾等級に該当すること」を要件とする規定になつたた
め、前記改正前労災法第一二条の八第三項の解釈と運用の実情基発第五九三号通達
「復帰要綱」などをふまえ、より一層頸肩腕障害などについては、傷病年金にそも
そもなじまないことを明らかにするため、国会における付帯決議、さらに労働大臣
答弁に至つたものである。従つて、法改正の経緯、国会付帯決議による立法意思の
明示等からみても、三疾病について「傷病補償年金」への移行を強行するための省
令による報告書の提出強要などは全く予想するところではない。なお前記基発第五
九三号通達「職場復帰要綱」はいずれも廃止されず依然効力を持続しているのであ
つて、この点からみても、三疾病患者に対しては年金移行のための報告書の提出強
要は全く理由がない。
二 相手方らは、本件差止処分に先立ち、申立人らに対し、十分な配意をなし具体
的措置を講じた旨主張するが全くの虚構である。
(一) 相手方らは申立人らが、報告書の提出につき、その使用目的が明らかにさ
れ、傷病補償年金移行に使用しないことの保障が得られるなら、これに応じる方針
を一貫して表明してきた。ところが当局は申立人らの病状把握については前記「社
会復帰特別対策要綱」に基づく「社会復帰申出書」「社会復帰実態調査書(該当者
用)」などや専門医の詳細な診断書が提出されていることもあつて症状は把握して
いる旨を言明し、当初は申立人らについては年金移行はあり得ないかの如く申し向
けて報告書を提出されたい旨を発言してきたが申立人らの追及にあうと年金移行か
休業補償継続かを決めるために必要である、年金移行もあり得る旨を回答するに至
るなど無責任な態度に終始した。そのため、申立人らにおいてなお交渉を継続し、
明確な回答が得られるまで報告書の提出を一時留保したにすぎない。
(二) 相手方らは、その主張で明らかなように療養開始後一年六箇月以上経過し
た者で休業補償給付を継続している者一、六二五名に傷病補償年金制度の解説リー
フレツトを送付しながら、うち一、〇三九名について報告書及び診断書用紙を発送
し、さらに昭和五三年五月二五日報告書未提出者のうち七〇名にだけ報告書提出の
督促状を発送したうえ、そのうちの一部である申立人らを含む一七名についてのみ
全く恣意的に本件差止処分を強行した。右主張自体からも明らかなように本件差止
処分の対象とされた被災者以外にも報告書未提出者は多数現存するのであり現に休
業補償給付を継続受給しているのであつて、このことは、第一に報告書によらなけ
れば年金移行か休業補償給付の継続かを決定できないかの如き相手方らの主張がい
かに根拠のないものであるかを物語るものであり、第二に行政の恣意的判断により
一方で報告書未提出者であつても、休業補償の継続給付がなされ、他方で休業補償
給付を一時差し止めてまで報告書提出を強行する恣意的・差別的取扱いをなす点に
おいて著しく不公正であり、いずれにせよ本件差止処分が極めて不当なかつ違法の
処分であることは明白である。
第三 報告書の提出義務について(第二、二、1ないし4)
一 傷病補償年金制度は「手厚い保護」であるという主張について(第二、二、1
および2)
(一) 相手方は改正前の長期傷病補償給付にかえ傷病補償年金制度が創設され、
一層「手厚い保護」が図られることとなつたと主張する。しかし、少なくとも申立
人ら頸肩腕障害患者にとつては傷病補償年金制度は「手厚い保護」とならないこと
は明らかである。
(二) 即ち、
① 傷病補償年金(以下単に年金という)には廃疾等級が廃疾の状態に応じて三級
から一級まで分類されている。簡単に示せば、三級は諸々の障害により「常に労務
に服することができないもの」であり、二級は「随時介護を要するもの」であり、
一級は「常に介護を要するもの」という具合に、廃疾の状態は三級よりも二級、二
級よりも一級が重くなつている。
 ところが、二級、一級の廃疾の状態を示す「介護」の意義が一九二号通達によつ
て「生命維持に必要な身のまわり処理の動作についての介護」を意味するため(乙
六号証参照)、頸肩腕障害患者の年金移行はせいぜい「常に労務に服することがで
きない」という廃疾等級三級が限度である旨、つとに相手方より言われているとこ
ろである(これは申立人らと大阪労基局との交渉の中で相手方の指定代理人になつ
ているC自身言明しているところである)。
 そして、廃疾等級三級になつた場合は、当該患者が年金移行される前に支給され
ていた休業補償に比べ次の表の通り支給額は少なく、相手方のいう年金制度は「手
厚い保護」になるという主張が全く偽瞞的であることを示している。
<19705-003>
 つまり、休業補償患者は、全体として平均賃金の八〇%の支給をうけるが、廃疾
等級三級の年金患者は平均賃金になおすと約六七%の年金と(245÷365)、
額が不安定な特別年金を取得しうるにすぎない。この特別年金もその算定基礎が、
休業補償患者の特別支給金が基礎日額(特別事由ない限り平均賃金のこと)を基準
にしているのとことなり、被災前一年間の特別給与または給付基礎年額(平均給与
の年額)の二〇%に相当する額あるいは一〇〇万円のいずれか低い額を算定基礎と
するため、いずれにしても休業補償患者の休業特別支給金も低くおさえられている
ことになる。たとえば極く単純計算すると、一カ月一〇万円の給与と年二〇万円の
ボーナスを支給されていた労働者が被災した場合、
休業補償患者は一二〇万円×六〇%=七二万円の休業補償と、一二〇万円×二〇%
=二四万円の特別支給金、合計九六万円を得るが、
廃疾等級三級の年金患者は一二〇万円×245÷365=八〇万五四七九円と二〇
万円×245÷365=一三万四二四六円、合計九三万九七二五円
となる。
② しかも年金移行にともなつて打切補償を支払つたものとみなされるため(労災
法一九条)、労災休業期間は解雇できないという解雇制限が撤廃され(労基法一九
条)、使用者はいつでも被災労働者を解雇し職場から放逐することができる。これ
は、適切な治療と訓練的就労があるとなおるとされている申立人ら頸肩腕障害を職
場の外にすてさり社会復帰を困難にするもので、「手厚い保護」とならぬこと明白
である。
③ このように頸肩腕障害患者に対して、年金移行が「手厚い保護」とならないこ
とは申立人と労基局との交渉の中で局側代表C(本件では相手方の指定代理人)自
身が言明しているところである。にもかかわらず本件訴訟においてあらためて相手
方が「手厚い保護」の理論をもち出すことは、みずから主張の不当性を証明するも
のである。
二 報告書と休業補償給付(第二、二、3)
(一) 相手方は、報告書は傷病年金の支給要件に該当するか否か換言すれば休業
補償給付をおこなうべきかなどを中心に症状を把握するために提出を求めるものだ
と主張する。
 しかし、これは相手方自身報告書提出について矛盾をしめし、且つ休業補償支給
の要件をわすれたものである。
(二) すなわち、休業補償支給の要件は、施行規則一三条により、
① 労働者の氏名、生年月日および住所
② 事業の名称および事業場の所在地
③ 負傷または発病の年月日
④ 災害の原因および発生状況
⑤ 平均賃金
⑥ 休業の期間、療養の期間、傷病名および傷病の経過
⑦ 他の保険との関係記載事項
 であつて、これをいわゆる八号様式書面に従つて書いて提出すれば必要十分であ
つて報告書提出と全く無関係である。また、報告書を年金支給と休業補償支給とあ
わせて要件として使用しようとする相手方の主張は、相手方自身、意見書の他の部
分(第二、一、2)では、報告書は「傷病補償年金の支給要件に該当するかどうか
などを中心とした判断を継続的に行うため」と述べていることとも矛盾している。
いずれにしても、報告書を休業補償支給のふるいわけにも使用するという相手方の
主張の不当性は明白である。
三 頸腕・むち打ち・腰痛(いわゆる三疾病)は必ず職場復帰が可能である。
(一) 意見書は三疾病についての現在の医療水準は低く、被災者を職場に復帰さ
せるまでに達していないという。
 しかし、この主張は自己の立場を正当化するどころか、三疾病に対する行政の怠
慢と不見識を自白するものでしかない。
 確かにこれまで三疾病の被災者は長期の療養を強いられながらなおも職場復帰が
できないケースが多数存在した。これは専ら疾病に対する医学的・社会的解明の立
ち遅れに起因するものであつた。そもそもこの立ち遅れこそは三疾病に対する行政
の怠慢に起因していたのである。即ち、行政は三疾病に対して、特に頸腕・腰痛の
非災害性疾病については、高度経済成長期にあつた昭和四〇年頃より多発してきた
にもかかわらず実態調査をサボタージュしてきた。この態度は認定基準を不当に厳
格にすると共に、治養方法および予防方法の解明のサボタージュとつながるもので
あつた。何の補償もないままやつとのことで労災と認定された時には既に重症にな
つているという被災者が多く存在した。
(二) そこで行政に期待がかけられないことを知つた被災者は元の元気な体に戻
りたいという一心で医療機関と共に真の治療を追求してきた。
 その努力の積重ねの中で今日では医療機関から東洋医学(ハリ・キュウ等)を取
り入れた「受ける治療」被災者自身の体力を自身でつけていく「する治療」が有効
であることが解明されると共に、これに加えて職場復帰訓練が重要な治療であるこ
とが解明されるに至つた。
 既に病気一般に言えることとして職場復帰訓練は病気そのものが治つても身体が
発病以前の状態に戻つているとは限らないことから病気のために二次的におきてい
る心身のおとろえを計画的に訓練して、正常の状態に回復させるために是非とも必
要とされてきた。
 しかし、今日とりわけ頸腕障害の場合は治療の一環としての職場復帰訓練が重要
であることが解明されてきたのである。
それは
① その発病原因が職場の労働条件、労働環境、及び健康管理にある。
② これ迄の経験から自覚症状、他覚的所見が消失した段階で原職に復帰し、再発
している事例が少なくない。
などがあげられる。
 職場復帰を保障させる条件としては、本人の身体の状態にあつた時間短縮軽作業
の自由勤務(症状により作業密度・量の変更が自由にできる条件が必要であ
る。)。
 こうした考え方に基いて今日多くの人が職場復帰訓練を保障させ成果をあげてき
ている。
 しかし一方「合理化」のおし進められている現在の職場に復帰する以上、治療の
ための訓練としての位置付が企業になく、被災者の自覚に依存した方法で行なわれ
ているという現状のもとでは、再発の危険にさらされ、完治の見通しも持てないと
いう状態が存在する。
 このようなことから被災者の強い要望を受けて、行政も重い腰をあげて企業に治
療の一環として職場復帰訓練を位置づけさせることの重要性を認識し、行政指導す
べく通達を出すに至つた。
(頭頸部外傷症候群等の労働災害被災者に対する特別対策の実施について-五九三
号通達。
 申立人らを管轄する大阪労働基準局はこれを受けて、社会復帰特別対策事務処理
要綱を作成している。)
 ところで本件申立人らが長期の治療を強いられてきたのは前述の理由によるもの
であるが、治療方法の解明に伴ない序々にその治療効果をあげ、現在職場復帰訓練
中四名(申立人D、E、B、F)でありその他の四名は訓練可能な状態(現実の職
場復帰訓練ができないのは申立人らの勤務先である企業が行政の指導も拒否してこ
れを受け入れないためであるが、行政も企業に対してより以上の行政指導をすると
いつた姿勢にない)まで善快してきている。前記治療が有効であることは他にもそ
の実例は多々存在している。
(三) これらの経過と実態を踏えて今日では適切な治療と訓練的就労の場が保障
されれば必ず職場復帰が可能であることが公知の事実となつた。まさに職場復帰訓
練の段階に入つて申立人らが今行政に要求することは五九三号通達の完全実施即
ち、本来の行政の立前に沿つた申立人らに対する訓練的就労を企業に受け入れさせ
るよう強く指導することである。職場復帰訓練に入つている前記四名については企
業が他の健康な労働者と同様に扱うといつた実態をただちに改め個々の被災者の実
情に見合つた自由勤務を保障させること、又職場復帰訓練が可能であるとの医師の
診断があるにもかかわらず企業が受け入れを拒否している他の四名についてはまず
企業にこれを受け入れさせるよう行政指導することが緊急な任務であり、唯一申立
人らが完全に職場復帰をなしうる道である。
 ところでこの点は次のとおり国会(昭和五二年三月二三日衆院社会労働委員会)
での質疑応答の中で明確に確認されている。
(三疾病の長期療養者について)
 G委員の質問要旨
「昭和五一年一〇月発表の頸腕の実態調査によると療養期間一年以上の者は七二・
二%、うち療養期間と休業期間の重なる全体者とみなされる者が一七・一%であ
る。療養期間三年以上の者が三六%又全体者とみられるものが一〇・八%である。
これを見ると二割近くの人が傷病補償金に移つて、一割の人が解雇制限を受けるこ
とになるのではないかという疑問が出てくる。しかしながらこのようなことになる
と頸腕は相当期間適切な療養と段階的就労によつて職場復帰が可能であるという状
況下にある患者に年金を支給することは職場復帰の希望を打ち砕くことになるがど
うか。」
 H政府委員の答弁要旨
「三疾病について長く療養しておられる方がいるが、こういつた方は恐らく近い将
来に活動されるであろう、あるいは療養しながら一部労働や軽労働が可能だという
方が大部分であると考えている。労災保険の最終の目的は職場復帰ということにあ
る。行政としてはできるだけいろいろな援助をしながら、又事業主の指導をしなが
ら速やかに職場に帰れるようにすることが望ましいと考えている。
 長く療養を受けておられる方々に対しては一般的に私どもは治るという前提で以
前から長期傷病補償年金は支給してこなかつたので今日においても大部分の方は休
業補償給付として引続きその補償を受けられる方であり年金に移行しないというふ
うに考えている。」
四 解雇制限解除について(第二、二、4、(2))
(一) 長期傷病補償給付との関係
(1) 相手方は解雇制限解除は改正前法における長期傷病補償給付の場合となん
らかわつていないのであるから、申立人の主張自体失当であると主張する。しかし
本件は、まさに相手方が頸肩腕障害患者に対し年金制度が新設されたのにともない
これに移行させようと企てているのである。したがつてこれとの対比で改正前の長
期傷病補償給付の場合を論ずるなら、改正前は頸肩腕障害患者に対し長期傷病補償
給付に移行することがとられていたかを問題にすべきである。そうすると、改正前
は法制度とその運用が頸肩腕障害については長期傷病補償給付へは移行はなされて
いなかつたのである。
(2) いま、頸肩腕障害を中心に、新旧条文を整理すると、次のとおりである。
<19705-004>
 つまり、長期傷病補償給付の場合は条文そのものがきわめて弾力的に書かれてお
り、現にこの条文の運用通達であつた四一年一月三一日基発七三号にも、「単に療
養開始後三年を経過しても傷病がなおらないだけでなく、傷病がなおらないため長
期間にわたり労働不能の状態が継続するものと認められることを要するものとし
て、政府が必要と認める場合にその決定を行うべきものであることが明確にされ
た」となつていた。
 そして具体的適用も各労働基準監督署長の広い裁量にまかされていた。
 頸肩腕障害についていえば、適切な治療と訓練的就労の場を保障されれば社会復
帰が可能であることを明らかにして、被災者に対する対策実施を講ずべしとした昭
和四八年基発五九三号通達(甲五号証)からもあきらかなように、頸肩腕障害患者
の長期傷害補償給付への移行はなされていなかつた(年金制度が新設された昭和五
一年五月一〇日の国会において「傷病補償年金制度の運用に当つては特に頸肩腕症
候群……等の職業性疾病患者の療養の実情に即して、適切に行うよう努めること」
とした附帯決議=甲二号証は、以上の経過をふまえたものである)。
 ところが、相手方は、改正後の年金制度の新設とともに年金移行が法律と一九二
号通達によつて署長の裁量の余地なく規定されていることに目をつけ、頸肩腕障害
の性質(適切な治療と訓練的就労をおこなえば必ず職場復帰が可能)、あるいは国
会審議の経過や長期傷病補償給付時代の取扱を無視して、頸肩腕障害についても年
金移行を公然と表明しているのである。
 ここに、法律上は同じく解雇制限解除となる長期傷病補償給付と傷病補償年金と
の間において、頸肩腕障害に関して全く異なる運用がなされているのである。
(二) 解雇制限解除は労災保険制度の適用の結果生ずる「反射的結果」であると
いう主張について
 これは全く無責任且つ労災保険法一条の目的にそつて公務を履行すべき義務があ
るのを、みずからかなぐりすてた主張である。
(1) 解雇制限解除が単に反射的結果でなく、企業がまちのぞんでいることは、
① 四八年一一月には関西の独占企業の集まりである関西経営者協会が政府に対し
労基法改正の要望書をだし、その中で労災療養中の労働者の事実上の解雇制限撤廃
を要求した。この意思は年金移行に伴う解雇制限撤廃によつて十分達成できるので
あり、企業が解雇をおこなうことは当然予想できる。
② また年金移行とともに解雇してくることは、現に申立人(A、I、J、K)ら
の訓練的就労さえ拒絶している企業があることからも明白である。
(2) また、労災保険法の目的の一つには、「社会復帰の促進」も大きな柱であ
る。ここからみても、本来この目的にそつて運用すべき立場にある相手方が、年金
移行の結果当該解雇制限解除となる法律のたてまえを単に「反射的結果」とすます
ことはできないものというべきである。特に申立人は頸肩腕障害者であり、この病
気の特殊性として精神的動揺も社会復帰にマイナスとして働くことは五九三通達で
も認めるところである(甲五号証三四頁)。このことは当時労働省労働基準局長H
が五二年三月二三日におこなつた国会委員会での答弁でも明らかである。すなわち
「私どもといたしましては、やはり労災保険の最終の目的は、職場復帰と申します
か、社会復帰にあるわけでございますから、できるだけそういつたいろいろな援助
をしながら、また事業主の指導をしながら、速やかに職場に帰れるように、そうい
つた形にすることが行政として望ましい、こういうふうに考えております」と言つ
ているのである。
 みずから年金移行という種をまいておいて、それがもとで生ずる可能性ある解雇
を単に「反射的結果」と言つて逃げるのは、労災保険をあつかう者の自殺行為であ
る。
(3) 相手方は「反射的結果」が「社会復帰の促進」に反するならことは三疾病
傷病者以外にもあてはまるから、労災法は全体として矛盾をきたすことになると主
張している。しかし、今問題にしているのは、申立人の疾病である頸肩腕障害患者
の「社会復帰の促進」のことである。適切な治療と訓練的就労があればかならずな
おるこの病気に対して年金移行=解雇というものが、なによりも訓練的就労を不可
能にし職場復帰を不可能にさせることはあまりにも明白である。特に申立人らのよ
うに現在訓練的就労中の者(D、E、B、F)あるいは訓練的就労を要求して会社
の拒否にあつている者(A、I、J、K)に対して、年金移行させ解雇の「反射的
結果」を生起させることは「社会復帰促進」に反すること明白である。
五 国会附帯決議と委員会審議について(第二、二、4、(二)、(3))
(一) 相手方は傷病補償年金制度を決めた国会における附帯決議(甲二号証)は
原則的には三疾病も年金対象に含まれることを当然の前提としているのであると主
張する。
 しかし、
① 国会の附帯決議は「傷病補償年金制度の運用に当たつては、特に頸肩腕症候
群、むちうち症、腰痛症等の職業性疾病患者の療養の実情に即して、適切に行うよ
う努めること」とあり、この文理からしても三疾病について年金移行が原則だと読
めるものではない。
② 次に、その附帯決議がなされた背景も、三疾病特に頸肩腕障害について適切な
治療と訓練的就労こそが職場復帰ないし社会復帰の道である旨、その対策実施を訴
えた五九三号通達(四八年一一月五日、甲五号証)や、あるいは五〇年一二月二五
日の労働者災害補償保険審議会が出した意見書「労働者災害補償保険制度の改正に
ついて」に「長期療養者に関し、一年六箇月を経過した場合に年金に切換えること
については、該当者に不利益を来たすおそれがないよう本人に選択の余地を残すこ
とも検討に価いしよう」と述べられている(甲一号証)こと、あるいは実際に治療
と訓練的就労によつて職場復帰をかちとつていつた多数の頸肩腕障害患者の実体が
あつたのである。
③ したがつて、附帯決議はまさに頸肩腕障害患者に対して解雇と結びつく年金移
行をせずに安心してこれまでどおりの療養に専念してもらうための決議なのであ
る。
(二) 次に、相手方は、衆議院社会労働委員会での労働大臣の発言は三疾病につ
いての「一般的認識」を述べたものだと主張する。
 しかし、これは労働行政の最高の責任者である労働大臣の答弁を全くないがしろ
にする独善的な意見であつて、かえつて本件報告書不提出による給付差止が違法で
あることを相手方みずからが証明していることになる(甲二号証)。
① すなわち、労働大臣が「頸肩腕症候群とかあるいは腰痛症とかむちうち症とい
うものは治療を受ければ労働不能にならない。労災法はできるだけ多くの人々に職
場復帰をしてもらうというのが、その精神であります。したがつて、いわゆる労働
不能という認定を下す状態にならない。したがつて、年金の対象にならない、した
がつて、解雇制限の解除にもならない」と明白且つ具体的に述べているのである。
② しかも、この労働大臣答弁は、G委員の「頸肩腕症候群患者の……一割の人が
解雇制限の解除を受けることになるのではないかという疑問が出てくる、……頸肩
腕症候群というような病気は、いわば疲労性の職業病でありまして、相当期間適切
な療養と段階的な就労によつて職場復帰が可能である、……そこでこれら頸肩腕症
候群、むちうち症、腰痛症等の患者の方々は、いま言う一級から三級の対象にはな
らないのかなるのか答えていただきたい」という具体的質問に答えたものである。
③ この具体的労働大臣の答弁について、「一般的認識」を述べたものだとする考
えは、相手方が、頸肩腕障害の性質を全く理解していないことを示すものであり、
右患者である申立人への報告書提出をせまつて給付差止めにした処分の違法性を自
ら証明している。
六 報告書は休業補償給付を請求するものの症状を適確に把握する側面も有すると
いう主張について(第二、4、(二)、(4))
 相手方は報告書を年金給付要件の資料にとどまらず休業補償給付を請求している
者の症状を把握する面も有すると主張する。しかし、まず既に述べたように休業補
償要件は七つの事項を記載し、これが認められれば支給されているのであり(第
三、二、(二))、また後に述べるように休業補償患者の症状把握は報告書がなく
ても行なわれておることからすれば、これ以上さらに報告書を必要とする理由は結
局のところ年金移行の資料に使用するとしか考えざるを得ないのである。したがつ
て、相手方が意見書において他方のところでは「年金の支給要件に該当するかどう
かなどを中心とした判断をするため」(第二、一、2)、といいながら、ここでは
他に休業補償の症状把握にも必要なのだという主張そのものが、相手方の論理の欺
瞞性を証明するものである。
七 労災法、労災則の規定のどこにも「三疾病は除く」旨の文言はないとする主張
について(第二、二、4、(二)、(5))
 結局、相手方の最後のよりどころは、労災法、労災則の文理のみである。しか
し、法そのものは、労災保険法一条の目的にそつて解釈すべきものであり、くりか
えし述べたとおり、頸肩腕障害患者の特殊性(適切な治療と訓練的就労があれば職
場復帰できる)と、年金新設経過等を考えれば、解雇を可能とする年金移行のため
に報告書の提出義務はないこと明白である。
第四 報告書不提出の正当性について
 本件申立人らに対し労働省が前記のとおり法に違反する一九二号通達参考Ⅱによ
り年金移行の判断を下され療養開始後三年経過していることから即解雇ということ
が十分に予想される。
 以上、報告書の提出を留保するのは行政の違法行為に対する緊急性を要するいわ
ば正当防衛的行為である。
 よつて単なる主観的事情ではなく、まさに客観的事情による不提出である。
 なお現に、本年一月分の休業補償給付の請求の際に提出を要したとされる本件と
同時期の報告書の提出により全国で年金に移行したもの四四〇〇名で、そのうち三
疾病は五〇名となつている。
第五 本件においては、休業補償給付等の一時差止処分を行う必要性がない
一 報告書の未提出ということを理由として、休業補償給付等の一時差止処分を行
うには、報告書の未提出によつて休業補償給付等の継続をするについて、何らかの
支障をきたしているということが必要である。
 それだからこそ、報告書が提出されて支障がなくなるまで、休業補償給付等を一
時差止めるということがいえるのである。
二 ところで、報告書は何のために提出させるかというと、基発第一九二号通達
(疎甲第七号証一五頁~一六頁)などから明らかなように、それを提出させること
によつて、当該労働者の傷病の状態を把握し、それが廃疾等級に該当するか否かを
判断するためのものである(この点は相手方も認めているー意見書第二、一、
2)。
 しかるに本件においては、相手方は申立人らの傷病の状態を十分把握しており、
報告書が提出されなければ傷病の状態を把握できないというものではない。
 即ち、申立人E、同D、同B、同Fは基発第五九三号通達(疎甲第五号証)及び
社会復帰特別対策事務処理要綱(疎甲第六号証)に基づき、現在職場復帰訓練中で
あるが、これらの者は復帰にあたつては「社会復帰申出書」を相手方に提出し、復
帰後も一ケ月に一度文書(訓練計画又、診断書を添付する場合もある)又は口頭に
て症状報告を行つている。なお、口頭報告の場合は相手方において、その報告内容
を記録している(疎甲第二二号証の二~二一等参照)。
 又、前記以外の申立人らについても、会社が不当にも職場復帰訓練を認めないた
め、右訓練にはまだ入つていないが、それぞれの会社に対しては診断書などを添え
て、その傷病の状態を明らかにした上で職場復帰訓練をさせるよう要求し、それと
同時に相手方に対しても、その傷病の状態を明らかにした上で、前記通達や要綱の
趣旨に添つて申立人らが職場復帰訓練に入れるよう、会社に対し強力な行政指導を
するべく要請している。
 以上述べたことからしても明らかなように、相手方は申立人らの傷病の状態は十
分把握しているのである。
三 なお、傷病補償年金に移行するか否かを判断するについては、傷病の状態を把
握できればよいのであつて、それは原則としては報告書によつて行うが例外的には
他の方法よつて行つてもよいのである。このことは基発第一九二号通達において、
報告書の提出のない場合又はその内容が不十分な場合の代替手段が規定されている
ことからも明らかである。なお右代替手続に関して、相手方はその意見書(第二、
二、6、(二))において「通達に示されている代替手段は、例えば病状が重度で
必要な手続ができず、又他に代つて行うべき者も存しないといつたそれなりに理由
のある場合についていつているものと解すべき」旨述べているが、このような解釈
こそ自らに都合のよい、まさに独自の見解と言わざるを得ない。何故ならもし右の
ように解していたのなら、前記通達においては「提出がない」と規定せずに、「提
出が出きない」と規定していたはずであり、又「報告書の内容が不十分な場合」に
も代替手段を取り得ることを規定しているのは、相手方がいうような場合に限つた
ものではないことを示しているからである。
 このように、報告書も傷病の状態把握のための原則的な手段ではあるが、決して
絶対的なものではなく、他の方法により右把握が行われていれば、その上での判断
に基づき、休業補償給付等の継続はできるのである。
四 報告書が提出されていれば、傷病補償年金に移行されていたのに、それが未提
出だつたため、休業補償給付等が継続されていたということが万一起つたとして
も、そのような事態は内払処理の方法(労災法第一二条)により解決されるので、
この点においては何ら保険給付上の支障は生じない。
五 以上述べたことから明らかなように、報告書が未提出であつても、休業補償給
付等の継続はできるのであり、右給付等の継続においては基発第九〇六号通達(疎
甲第八号証)にいう支障は全く存しないのであるから、本件一時差止処分は全くそ
の必要性を欠く違法なものである。
 なおこの点についても、相手方は意見書において「支障がある」旨述べている
が、その内容をつぶさに検討すると、「保険給付のより適切な実現、確保というま
さしく労災法の根本にかかわる行政運営に必要」「報告書が適正な労災行政を行う
ために極めて重要な資料」「その未提出不存在は基本的に行政執行にとつて重大な
支障」などという極めて抽象的で大上段にかまえた説明があるだけで、具体的に如
何なる支障があるのかについては何ら述べられていない。このように抽象的な言葉
でしか説明できないということは、休業補償給付等を継続する上において具体的に
は何ら支障がないということを自認したのも同様である。
六 相手方は他法律を持ち出してきて、一年一回の報告書提出義務は決して過重な
義務ではないと弁解しているが、申立人らは報告書の必要性を問題としているので
あつてその過重性を問題としているのではない。
七 最後に、百歩譲つて報告書が未提出のため傷病の状態の把握が不十分な場合が
あるとしても、それは前述した基発第一九二号通達に規定する主治医に対する照会
等の調査を行えば補充できることであり、右のよる支障といつても補充可能な軽微
なものにすぎない。
 そしてそのような軽微な支障をきたすことを防止するために、申立人らにとつて
は生活のかてが奪われ又療養面においても重大な影響を及ぼすいわば健康権、生存
権の侵害という最大の不利益をもたらす本件一時差止処分を行うということは、国
民に対する不利益処分はその処分によつて保護しようとする利益に相応する処分即
ちその利益保護のために必要且最小限のものでなければならないといういわゆる比
例原則に明らかに違反するものであり、本件一時差止処分は裁量権踰越又は濫用の
違法なものである。
第六 公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあるとの主張について
一 相手方は、効力の停止は正当な理由なく報告書の提出を拒絶する者を助長する
ことになる、すなわち、その他の届書や報告書についても提出拒絶のおそれがあ
り、かくては労災法等の執行運営にまで著しい支障を生ぜしめることが明らかで、
公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとしている。
 右における公共の福祉は、労災法等の執行運営と同一視された立論であるが、公
共の福祉は決して行政処分の目的をさしているものではない。行訴法第三一条一項
は、事情判決ができる場合として「取消訴訟については、処分又は裁決が違法では
あるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、
原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事
情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認め
るとき」であるとしているが、この趣旨をふまえ同法第二五条三項にいう公共の福
祉を考えるべきである。
二 すなわち、公共の福祉は諸法益の対立を公正に調整した状態に他ならず、この
点からみると、申請人らは既に述べた正当な理由による報告書の留保を行なつてい
るのであり、労災給付について相手方が処分できる状況のもとで、一方で毎日の生
活の糧と療養のための給付を相手方が差止めたという本件差止処分の効力停止につ
き、申請人らのもつ法益と報告書提出についての行政上の法益を公正に調整できな
いのが、公共の福祉に影響を及ぼす場合であるといえる。したがつて、いずれ本訴
において結論が出されるにせよ、その解決まで、当事者間の対立状態(というよ
り、一方的制裁的処分というべきであるが)を執行停止によつて調整するというべ
きであつて、執行停止が何ら公共の福祉が危殆に瀕するものではない。
三 なお、相手方が例示している労働保険徴収法の保険料報告書は、同法第一四条
一項にある「申告書」のことであるが、使用者の申告書不提出に対しては、同第三
項により、政府が労働保険料額を決定でき、その額によつて徴収できるのであるか
ら、申告書不提出があつても、何ら保険料徴収事務に支障をきたすことはない。
四 申請人らは、既に述べたように正当な理由により提出を留保しているのであつ
て、それが何ら労災法等執行に支障をきたすものではないことが明らかであるか
ら、相手方の主張は全く理由がないといわねばならない。
別紙(三)
第一 本件申立人らの申立の利益について
一 休業補償給付等の支給決定の有無と申立の利益について
(一) 相手方は、休業補償給付等の支給決定はないと主張し、その釈明書一、
1、において支給決定に関する手続の説明を加えている。しかしながら本件で問題
としているのは、支給・不支給の決定の手続問題ではなく、まさに労災法第四七条
の三が規定する「支払の一時差止」の法的意味である。そして、その法的意味は支
給決定がなされ具体化された請求権の「支払」が一時差止められているものである
ことは、労災法第四七条の三の文言及び一時差止め通知書の「昭和 年 月 日か
ら昭和 年 月 日までの分に係る休業補償給は(中略)の支払を(中略)一時差
止める」との内容から明らかである。
 なお相手方は支払差止決議書(乙第一九号証)を提出し、それには「3、当該決
議は、支給決定の支給決議に先行して行うこと」という注が記載されている。そこ
で支払差止決議書の書式の成立経過をのべ、これが本件紛争発生後に、相手方らが
労災法第四七条の三を自己に都合よく解釈したうえで作成された書面であり、又そ
れは相手方等の内部手続にすぎない旨を明らかにする。
 即労働省労働基準局長は昭和五三年五月一五日付基発二七四号通達をもつて「傷
病の状態に関する報告書」の履行確保を図ること、その手段として一時差止処分を
行うことを指示し、さらに昭和五三年七月四日付基発三七三号通達をもつて一時差
止処分の具体的措置手続を各労働基準局長に明らかにし、この通達のために作成添
付された書式が乙第一九号証の支払差止決議書なのである。
 このような経過からも相手方らの見解に基づいて作成された書面をもつて労災法
第四七条の三を解釈することは、相手方の主張をそのままうのみにすることに外な
らない。
(二) 被申立人らは労災法第四七条の三の「支払の一時差止」という文言は年金
における支分権に基づく支払のような窓口的支払の意義のみならず、本件のように
支給決定がなされないことから、当然具体的な支払がなされないといつた場合も含
むものと解さねばならないという。しかし、被申立人らは休業補償給付についての
一時差止処分は支給決定前の処分であることを既述のとおり本件問題が起つてから
作り出した内部文書でしか証明しえない。
 この解釈およびこれに基づく内部文書の作成は本件申立を意識した被申立人らの
本省である労働省の作為であり法の予定したところを著しく逸脱するものである
(大阪労基局は審査請求に伴なう執行停止の申立の段階では申立の利益はあること
を前提としていた)。
 即ち、労災法第四七条の三は既述のとおりその文言および差止め通知書の形式か
らも窓口的支払を差止めることを予定したものであつた。だからこそ今日まで各回
の支払が基本権から発生する支分権に基づくものである遺族補償年金および障害補
償年金において専ら適用行使されてきた(被申立人らも認めるとおり)のである。
 さすれば今回初めて適用された休業補償給付についても支給決定後の窓口的支払
の差止めと解すべきである。支給決定のあるケースと支給決定前のケースを同一法
条で規定するという被申立人らの主張は法の常道に反するものといわざるをえな
い。
二 休業補償等の支給決定がない場合の本件申立人等の申立の利益について
(一) 相手方らは本件にあつては休業補償等の支給決定がなされていないことを
前提とし「それ故に申立人らの本件申立が仮に容認されたとしても、それは右一時
差止処分の効力が停止されるにとどまり、これによつて申立人等に対し、右支給決
定がなされたと同じ効力を生じることにはならず、申立人らの損害の発生、拡大を
避けるためになんら役立つものでない」よつて申立の利益を欠くと主張し、その釈
明書においても右をこえる説明はなされていない。
 しかしながら仮に、申立人等に対し休業補償等の支給決定がなされていないとし
ても、それが即申立の利益がないとの主張に結びつけるのは論理の飛躍がある。
 申立の利益の有無については、一時差止処分の執行停止が認容された場合、本件
の当事者がどの様な法的状態におかれることになるかの検討がなされなければ判断
できない事であつて、支給決定がないということと、申立の利益がないという事と
は同義ではない。
(二)1 申立人らが本件執行停止が認容されれば、どの様な法的な利益を受け得
るかと検討するためには、まず現在即ち、執行停止がいまだなされていない現時点
において申立人等がどの様な法的状態にあるか、換言すればどの様な権利を有する
かをみなければならない。そしてその状態とは
 まず第一に申立人らは、既に業務上の認定を受け「保険給付を受ける権利を有す
る者」(労災保険法第四七条の三)となつており、現在も療養給付については支給
を受けているのである。即ち、全くの無権利者ではなく、保険給付の一部について
は権利者なのである。
 第二に、相手らのうち大阪中央労働基準監督署長及び天満労働基準監督署長は、
申立人らが休業補償給付について労基法第八四条の「労働者災害補償保険法又は命
令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべき
もの」という法的地位にあることを認めている。即ち、労働基準法第七六条は、労
働者が業務上の疾病による療養のため、労働することができないために賃金を受け
ない場合においては、使用者は、労働者の療養期間中平均賃金の一〇〇分の六〇の
休業補償を行わなければならない旨を規定し、同法第八四条は、労災保険法等によ
り災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は
補償の責を免れる旨を規定している。そして申立人等の使用者である企業のなかに
は、申立人らが受けるべき労災保険給付につき、前述した補償金支払ののち、その
既払の補償の全額又は一部の支払を受けそれを右の既払の補償金を充当する手続を
取つているものもあつた。ところが、相手方らが労災保険法第四七条の三により給
付の一時差止を行つたので、申立人らの使用者である企業も前述した申立人らに対
する休業補償の支払をしなくなつた。
 そこで申立人らは、昭和五三年一〇月一一日、その使用者である雇主等に労基法
第七六条違反がある旨を、同法一〇四条に基づき大阪中央及び天満労基署長に申告
したところ、同署長らは、申立人らが保険給付を現実に受けていなくてもそれを受
けうる場合は、使用者の免責があるとの理由により右申告をしりぞけたのである
(昭和四二年三月一日、大阪地裁判決、労民集一八巻二号一五七頁の判例を引用し
た)。
 このことは、相手方らが、申立人らが休業補償給付についても一定の権利者であ
る事を認めている事に外ならないのである。
2 現在右の様な法的地位にある申立人らに対して一時差止処分の執行停止があつ
た場合、相手方らは必然的に休業補償給付の支給あるいは不支給の決定をなさねば
ならない法的状況におちいるのである。そしてこの法的状況は、行政庁である相手
方らに対して反省をうながし、再度の考案を期待するという様なものではなく、法
的拘束力をもつたものなのである。
 即ち、第一に相手方らが右決定をなさねばならない期限は、相手方らの裁量では
なく、労働基準法施行規則第三九条「休業補償は毎月一回以上これを行なわなけれ
ばならない」との規定によるのである。けだし、右規則は使用者である企業の休業
補償支払に関する規定であるが労災保険法による休業補償給付は使用者の休業補償
の義務を保険化したものであるから、保険給付の支払についても当然適用あるいは
準用されるものだからである。
 第二に、相手方らの支給・不支給の決定は全く裁量というものではなく、次の様
な支給要件等の事実に拘束されるのである。まず申立人らは現在も相手方らが釈明
書三、1で認めている休業補償給付等に固有の要件、即ち(1)労働者が業務上負
傷し、又は疾病にかかり、(2)その療養のため、労働する事ができず、(3)賃
金を受けていない等を備えている。次に申立人らは前述(本書面二、(二)1)し
たように保険給付或いは休業補償給付についても全くの無権利者ではないこと、本
件一時差止がなされるまで休業補償給付を受けていたこと等の事実がある。この様
なことから、休業補償給付の支給・不支給の決定においては、申立人等が支給決定
を受け得ることはほぼ確実な状態なのである。即ち、本件執行停止が認容されれ
ば、申立人等に対して支給決定がなされたに近い状況となるのであつて、この様な
状況は拒否処分にも執行停止を認める学説が申立の利益としていうところの「有効
な申請状態に復し行政庁が欲すればあらためて執行停止決定の趣旨をもかんがえた
許否決定がなされうるという法的期待」以上の法的拘束力あるものである。
 以上により本件における申立人らの申立の利益が存する事は明白といわねばなら
ない。
(三)1 相手方は、「一般に拒否処分は、その性質上執行停止の対象適格を欠く
か、執行停止の申立利益を欠くと解されている」旨主張している。しかしながら我
国の判例は、行政処分の性質が拒否処分であつても、関係実体法の解釈により申立
の利益を認める立場にあり、拒否処分に執行停止を認めた裁判例も多数存する(東
京地裁決昭和四二・一一・二三、同四二・一一・二七、判例時報五〇一号五三頁、
同五四頁、札幌地裁決昭和三四・五・一一行裁例集一〇巻五号一〇一六頁、東京地
裁決昭和四五・九・一四行裁例集二一巻九号一一一三頁、東京高裁決昭和四五・一
一・二五判例時報六一二号一一頁、東京地裁決昭和四三・八・九行裁例集一九巻
八・九号一三五五頁)。
 特に右判例中東京地裁決昭和四三・八・九は、法の規定がある札幌地裁決昭和三
四・五・一一とは異なり、明文の規定が存しないにもかかわらず超短波放送実用化
試験局の再免許拒否が停止されれば、有効期限後においても旧免許の効力が失効せ
ずに維持されるものと解して、執行停止を認めた事例であり、本件執行停止申立事
件に関して注目すべきものである。
2 右に引用した判例は、試掘権存続期間延長不許可あるいは外国人の上陸不許可
処分、在留期間更新不許可等々全て実体法的な内容の検討がなされて不許可という
拒否処分が出された後にそれに対し執行停止の申立がなされた事案である。これに
対し本件においては、相手方の主張どおり支給・不支給決定以前に一時差止処分が
なされたものであるとすれば、申立人らの休業補償請求について実体法的な内容の
検討は未だ何らなされていないのである。そして前述したように実体法的な検討が
なされれば申立人らはほぼ確実に休業補償給付を受け得るのであつて、本件の申立
の利益は右引用判例以上のものがあると言わねばならない。
第二 解雇制限解除と相手方監督署長の態度
一 はじめに
 申立人らが報告書を提出しないのは、相手方が「傷病補償年金の支給要件に該当
するかどうかなどを中心とした判断を継続的に行う」(意見書第二、一、2)と言
明しているように、報告書提出により傷病補償年金(以下単に「年金」という)に
移行され、ひいては労災中の解雇制限が解除され(労基法一九条、労災保険法一九
条)、企業が申立人らを解雇してくることはあまりに当然だからである。このう
ち、そもそも申立人ら頸肩腕障害患者(但し申立人Dはむちうち症)を含むいわゆ
る三疾病(頸肩腕障害、むちうち症、腰痛)については、年金の対象にならないの
だから、これを前提とする報告書提出義務など存しないことを述べてきた。ここで
さらに、申立人らの勤務している各会社が、実際においても申立人らの年金移行を
まちのぞみ解雇をくわだてていることを主張しておくことは(大企業の集まりであ
る関西経営者協会が労災中の解雇制限解除を要求していることは前回述べた)、申
立人らには報告書提出義務がないことをいよいよ基礎づけるとともに、報告書を提
出しないことにつき「正当な理由」(労災保険法四七条の三)の裏づけとなるもの
である(なお申立人前回準備書面第三、四、(二))。
二 就業規則にみる年金患者に対する解雇の制度化
① 申立人Bの使用者である住友生命保険相互会社は就業規則四一条でもつて、休
業補償の継続中は療養休暇とするが、長期傷病補償の場合は休業後五年すぎると療
養休暇とはならず解雇制限は撤廃されると定めている(就業規則七二条)。
② また、申立人A、I、J、Fの使用者である日本生命保険相互会社の就業規則
(その執務基準票の部分)あるいは申立人Eの使用者である(株)関西鉄工所の就
業規則(三四条)は労働基準法八一条による打切補償を受けたとき身分喪失になる
として直接間接に規定しており、年金を受ければ打切補償を支払つたことになつて
いる制度のもとでは、それらの企業は当然申立人らを解雇してくることは明白であ
る。これは申立人Dの場合(東雲運輸(株))、申立人Kの場合(三国製紙
(株))、申立人Fの場合(和泉乳児院、なお甲二九号証の一の自己意見書末尾に
は、就業規則を何度もかえて解雇をくわだてていることを明らかにしている。)も
同様である。
三 申立人らの訓練的就労に関する企業の態度
(一) 申立人らのうちE、D、B、Fは現在それぞれの会社で訓練的就労にはげ
んでいる。いうまでもなく、頸肩腕障害、むち打ち症をなおすのに適切な治療とと
もに訓練的就労が必要であることは五九三号通達からも明白である(甲五号証)。
しかし、
① Eの使用者(株)関西鉄工所は、五一年初めから再三、申立人が訓練的就労を
訴えたにもかかわらず、これを拒否し続け、同年一一月には会社内には入れたが向
こう五二年一一月まで守衛室で監禁状態にし、仕事も全く与えなかつた(甲二二号
証の二二、「昭和五二年」と書かれた書面)。
 しかも、今回の相手方からの報告書提出後は、行政の命令に従わないことを理由
に、かたよつた訓練をさせ、症状を悪化させている(甲二二号証の二二、「4、療
養面に生じた支障」)。
 さらには訓練的就労は申立人患者の積極的な要求によつておこなわれるのである
が、冷房の送風口に席が接近しているため配置換えして欲しいという当然の申し入
れに対しても、会社は「休業してもらうしかない」と言つて、全く訓練的就労を敵
視している(甲二二号証の二二)。
② 申立人Dは使用者である東雲運輸(株)に対して五三年四月一七日に訓練的就
労を要求したのであるが(甲二四号証の四)、結局すぐには認めることをせず五カ
月以上たつた九月二〇日であつた(甲二四号証の六)。
③ Bの使用者である住友生命保険相互会社も訓練的就労はさせているものの、
「イヤだけど、これ以上実施しないと社会的に批判されるので実施する」にすぎな
い(甲二七号証の一、五頁)。
④ 申立人Fの使用者である和泉乳児院もまた訓練的就労に全く無理解であつて、
職員会議でのFの発言をとめ、研修会などにもいかせず、精神的圧迫を加えてい
る。
 結局、以上の事実は、何よりも各企業がおこなつているものは、訓練的就労は名
も体もなしていないのであり、逆にすきをみては症状を悪化させ、監督署長の年金
移行決定とあわさつて解雇することをねらつていることは明白である。なお右申立
人らは各監督署長に対し、五九三通達実務処理要綱に従つて、訓練的就労を徹底さ
せるべく企業への強い指導を要求しているのであるが、監督署長は企業のやり方を
放任するのみである。
(二) その余の申立人らについては、各企業は訓練的就労を全く拒否している。
① 申立人Aの使用者である日本生命保険相互会社は、昭和五二年二月よりたびか
さなるAの要求に対して(甲二三号証の五)もこれを認めず、かえつて「無断病
欠」の扱いをして解雇事由をさがそうとしている(甲二三号証の一、一七頁)。ま
た訓練的就労を認めないので、結局申立人は正常勤務体制の中でやらざるを得ず、
かえつて病状を悪化させているのである(同二〇頁~二五頁)。
 結局、申立人Aは五二年一一月一八日から再度休業に入つたのであるが、この事
例は、企業のやり方一つで申立人の症状を悪くすることができ、その悪い症状をと
らえて監督署長が年金移行させ、そして企業は解雇にもつて行こうとするねらいを
ありありと示している。
② 申立人I、同Jの使用者も日本生命保険相互会社であるが、訓練的就労を要求
しても(甲二六号証の四、五、七)全く応じない。とくにIの場合、「二時間ぐら
いより漸次増やしていけば完全就業可能と考えている」という診断になつているに
もかかわらず(甲二六号証の一〇、なお、これと申立人Jの甲二八号証の七の療養
内容の照会は西野田監督署長からのものであり、症状把握としてはこれで充分であ
るにもかかわらず、相手方が症状把握のために報告書が必要だと主張していること
がいかに詭弁にすぎないかを示している)、日本生命保険相互会社は拒否している
のである。
 また、申立人Jの場合も、五三年九月一日には次長から「職場排除もやむを得
ぬ」という発言をしており(甲二八号証の一)、解雇をちらつかせている。
③ 申立人Kの使用人である三国紙工(株)は、昭和五一年九月四日でもつて訓練
的就労の申し入れをしているが(甲二四号証の添付書類四)、現在まで拒否してい
る。Kはくわしい医師の診断書を数通(甲二四号証)会社と同様監督署長にも提出
して訓練開始を要求したが、全くききいれられなかつた(なお右診断書はすべて署
に提出しており、とくに添付書類三は労災保険用紙のものであり、署長はこれによ
り十分に症状を把握しており、報告書提出は全く理由がないことを示している)。
四 労災保険制度の趣旨を逸脱した監督署長の報告書の提出要求と休業補償等支払
差止
 労災保険の目的はその法律一条が規定しているように、保険給付と疾病にかかつ
た労働者の社会復帰の促進である。申立人らの疾病である頸肩腕障害およびむち打
ち症については、その具体的社会復帰施策として五九三号通達が発せられ(甲五号
証)、さらに細目を決めたものとして大阪労働基準局は社会復帰特別対策事務処理
要綱を決めている(甲六号証)。したがつて、相手方監督署長がまずなすべきこと
は、前述した申立人らの使用人である各企業が、社会復帰のため必要とされている
訓練的就労を阻害しているのであるからこれを完全且つスムーズにおこなわれるよ
う、各企業に対して五九三号通達や事務処理要綱に従わせることである。
 ところが相手方監督署長は企業に対してこの当然のことをおこなわないか、これ
を放任しておいて、逆に企業によつて身体を害された申立人に対し(各人の報告書
はこれをあますところなく伝えている)、国会審議あるいは大臣答弁等で結着がつ
いているにもかかわらず違法にも年金移行のため報告書を求めてきてしかも保険給
付の差止までおこなつているのである。労働者が人たるに値する生活としての休業
補償を本来なら確保してやらねばならぬ監督署長が(労基法一条、七六条、九七
条)、申立人ら労災労働者を解雇しようとたくらんでいる企業を助けるべく年金移
行をおこない、そのために報告書提出を求めて、その違法性を申立人らからつかれ
ると休業補償等支給を差止めるということは、法的に許すことのできない処分であ
ること明らかである。
第三 傷病補償年金制度は「手厚い保護」ではない。
 右の点については、既に前回準備書面第三、一で主張したが、これを申立人各人
にとつてみるといよいよ明白である(解雇制限解除については前項で述べた)。
すなわち、
① 申立人A、I、B、Jは日本生命保険相互会社の従業員であるが、同会社の就
業規則五八条によれば、休業補償給付を受けている場合は付加給付をうけることが
でき、現在基準賃金全額相当額(一〇〇%)を支払されている。ところが、右申立
人らが相手方監督署長によつて年金に移行されると、廃疾等級三級で六七%(相手
方は頸肩腕障害患者の年金移行はせいぜい三級どまりである旨言つている)支払わ
れるにすぎない。同一級でも三一三÷三六五=八六%であり、とうてい一〇〇%支
払とならぬ。
 なお申立人Fは和泉乳児院に勤務しているが、ここでも現在一〇〇%休業補償を
得ているので、年金移行したら減額になること明白である。
② 申立人Eは(株)関西鉄工所の従業員であるが、就業規則別表六(四七頁)に
よれば休業補償が労災保険から支給される場合、会社はさらに一〇%支給されるこ
とになつており、休業特別支給金とあわせれば九〇%支給となる。年金移行の場合
は廃疾等級六七%どまりであり、低い。
③ 以上の申立人らを含めて、申立人らすべて特別手当、臨時収入等、傷害特別年
金の算定基礎となる賃金を得ていない。結局、年金に移行した場合、支払われるの
は賃金相当額の六七%のみである。ここからみても申立人らに対する年金移行が相
手方のいう「手厚い保護」にならないこと明白である。
第四 不公正行政について
一 はじめに
 相手方監督署長は申立人らが報告書を提出しないという一点だけをもつて休業補
償支払等を差止めてきた。したがつて、申立人らと同じ頸肩腕障害患者でありなが
ら、監督署長が「差止め」どころか報告書提出を求めておらず、あいかわらず休業
補償支払等を支給している実態を述べることは、本件差止処分が全く理由のないこ
とを相手方みずから裏づけるものである。なお、これは申立人らが知りうる範囲内
のものであり、類似例がこの他多数あることは報告書提出義務者が一、〇三二名も
おる(五三年二月一〇日時点)ことからも明白である。
二 報告書提出を求めぬままで休業補償を支払う。
 申立人E、同Dに対して休業補償給付等支払差止をした中央労働基準監督署長
は、同じ疾病であるLに対して報告書提出免除のまま休業補償給付を継続支給して
いる。
 また、堺労働基準監督署長は申立人らが差止めを開始された五三年七月から一〇
月の間、M、N、Oに対して報告書の提出すら求めず継続して休業補償給付等を支
給している。
 さらに某患者団体に加盟している被災労働者多数に対しては報告書の提出すら求
めず、それどころか一部送付したものを後日回収し白紙撤回してまで休業補償給付
等の継続支給をしているのである(以上甲三〇号証・報告書三)。
 これらの人達は、すべて療養開始後一年六カ月を経過している頸肩腕障害を含む
三疾病患者である。したがつて相手方が申立人に対して報告書提出を求めてきた理
由が相手方がいうように正しいのであれば、当然これらの人達にも相手方は報告書
の提出を厳格に求めるはずである。ところがこれをしていない事例があるというこ
とは、三疾病患者に対する報告書提出そのものが強要できるものではなく、まして
やその不提出を理由に休業補償支払差止できないことを示している。
三 報告書提出督促もしないで差止めた申立人Aの事例
 申立人Aの場合は、報告書提出の督促も送付されておらず、いきなり差止めてき
た(甲二三号証の一、二八頁)。
 差止問題について相手方は報告書不提出が差止理由としているが、督促もしない
で差止めたことは相手方のこの主張が全く理由がないことを示している。
第五1 申立人らの昭和五三年一二月六日付意見書の一時差止処分一覧表(別紙)
において申立人らにつき「以後の休業補償給付の請求はない」旨の記載があるの
で、この点の事実関係につき以下に述べる。
2 申立人らが休業補償給付等を受領する具体的方法は、毎月休業補償給付等の請
求書(以下単に請求書という)を各事業主に提出し、それと同時に右事業主から休
業補償給付等を受領し、右各事業主はその後前記請求書を所轄労働基準監督署長宛
に提出して、保険給付を受けるというものである。
3 申立人Eは、八月分の休業補償給付(以下単に何月分という)については九月
四日に、九月分については一〇月三日に、一〇月分については一一月七日に、一一
月分については一二月七日にそれぞれその請求書を事業主に提出済である。しかる
に、事業主においてその理由は不明であるが、右請求書を被申立人に提出していな
いのである。
4 申立人Aは、九月分については一一月末日に、一〇・一一月分については一二
月八日にそれぞれ請求書を事業主に発送済である。なお、九月分については一二月
七日付で本件同様の一時差止処分が行なわれている。
5 申立人Kは八~一一月分については一二月六日に請求書を事業主に発送済であ
る。
6 申立人Iは、一〇・一一月分については一二月四日に請求書を事業主に提出済
である。
7 申立人Bは、九~一一月分については一二月四日に請求書を事業主に提出済で
ある。
8 申立人Jは、一〇・一一月分については一二月一一日に請求書を事業主に提出
済である。
9 申立人Fは、一一月分については一二月九日請求書を事業主に提出済である。
別紙(四) 申立人第三回準備書面

第一 申立人らは昭和五三年一二月一四日付準備書面第五の四で休業補償給付の継
続と傷病補償年金への移行時期との関係において内払処理の方法が労災法一二条に
定められており、この点からみても被申立人らが今回報告書の未提出を理由として
申立人らに対し休業補償給付を差止める必要性がない旨を主張した。
 本来、労災保険法四七条の三にいう支払いの一時差止めの対象になる保険給付は
「支給決定に支障をきたすと認められる」ものである。(九〇六号通達、甲第八号
証)従つて内払い処理制度が法で規定されていることは、第二回準備書面第四で述
べた行政の不公正取扱いとともに本件支払差止めが全く理由のないことを示し、そ
の違法性をあますところなく示すものである。
 このことについて、以下補足すれば次のとおりである。
 右の内払い処理の制度は従前から労災法一二条にあつたが、傷病補償年金の新設
に伴つて同条三項において休業補償給付から傷病補償年金への移行に当つても保険
給付に関する内払処理ができる旨を明記したものである。 
 つまり、休業補償給付を受ける権利が消滅し、同時に傷病補償給付を受けること
となつた場合に、従来支給されていた休業補償給付が引き続いて行なわれていたと
きは傷病補償年金の給付の内払とみなして処理できるのである。
 これによつて、かかる場合に従来行つていた過払額の徴収に伴う受給者及び行政
庁の事務手続が簡素化されるに至つた。
 また、この内払いで処理の方法については昭和五二年三月三〇日付の基発第一九
二号通達の中でも詳しくその方法が謳われているところである。
 従つて申立人らは昭和五三年一二月二二日付準備書面第一、二、(二)、2でも
述べたように休業補償給付を受ける地位にあり当然に休業補償給付を受給する地位
にあるものであるが、仮に一〇〇歩ゆずつて、当該患者が傷病補償年金の受給者と
なつていたとしても、右内払処理の結果保険給付手続において何ら混乱を来さない
のである。
 被申立人らがこの内払処理のことに関し、何ら反論をしないのは反論すればする
ほど不利益になるか、そうでなければ一定の狙いすなわち、何としても申立人らに
報告書を提出させようとするもの以外の何物でもない。
第二 労災法第四七条の三は年金について規定したものである。
一 厚生年金保険法・国民年金法も支払の一時差止めの規定をおいている。厚生年
金保険法第七八条は「受給権者が正当な理由なくして……保険給付の支払を一時差
止めることができる」と定め、国民年金法第七三条は「受給権者が正当な理由なく
して……年金給付の支払を一時差止めることができる」と定めている。労災法第四
七条の三も「保険給付を受ける権利を有するものが……保険給付の支払を一時差止
めることができる」と定め、前記二法と同一の文言を使つていることから本条は年
金について規定したものと解すべきである。
二 被申立人は「休業補償給付についても労災則二二条の届出が提出されない場合
及び労災法四七条、四七条の二の命令に従わない場合が多くみられるが、このよう
な場合でも、行政庁による指導の結果短期間内にその提出がなされ、命令に応じる
ため、差止め処分に至つた事例はなかつた」という。しかし年金受給者は行政庁に
よる指導に従わず、休業補償給付請求者はこれに応じてきたというのは不自然であ
り、休業補償の場合は本条を適用できないと解されていたと考える他はない。本件
の問題が生じてから休業補償給付用に差止め決議書なるものを急きよ作成したこと
からしても明白である。
別紙(五)
第一 労働者災害補償保険法施行規則第十九条の二は法律の委任を超えた労働省令
であつて違法である。
一 労災保険法第四七条の三によつて、保険給付の支払を一時差止めし得る場合
労災保険法第四七条の三は、次の三つの場合に保険給付の支払を一時差止めし得る
ことを規定している。
1 まず第一に労災保険法「第一二条の七の規定による届出をせず、若しくは書類
その他の物件の提出をしないとき」である。
2 第二に、労災保険法第四七条による行政庁の文書等の提出命令又は出頭命令に
従わない場合である。
3 第三に、労災保険法第四七条の二による行政庁の受診命令に従わない場合であ
る。
 そして右の2、3の場合については、右法条の委任により労災保険法施行規則第
五一条の二として具体化され、又、右1の場合については労災保険法第一二条の七
の委任により届出義務の一場合として労災保険法施行規則第一九条の二が規定され
ている。
二 労災保険法第四七条の三の制定及び改正の経過
(一) 保険給付の支払の一時差止めの根拠である労災保険法第四七条の三は、昭
和四〇年六月法律三〇号をもつて追加的に規定されたものであり、この当時同条に
は保険給付の支払を差止めし得る場合としては前記一、2、3の場合のみが規定さ
れ前記一、1の労災保険法第一二条の七に違反した場合は未だ規定されていなかつ
た。
(二) ところが、昭和四五年五月法律八八号をもつて、現在の労災保険法一二条
の七の前身であつてそれと同一内容をもつ同法二二条の二が追加的に設けられた。
これと同時に同法第四七条の三に、保険給付の支払を差止し得る一場合として同法
第二二条の二が挿入(改正)されたのである。
右労災保険法第二二条の二の立法趣旨は、昭和四〇年に労災保険給付に年金制度が
導入され「年金受給者が累増するに伴い、受給者の住所、受給権の内容等の正確な
把握が実際の年金支払に関する事務処理の面で必要不可欠となつたので……提出義
務の根拠規定を設けた」とされ、又同条が保険給付の支払の差止しうる一場合とし
て労災保険法第四七条の三に挿入された立法趣旨は「受給権者の現況報告の提出等
を正当な理由がなくて怠つた者については、厚生年金保険等の例にならい、年金が
正確に致達しないことがあるので……一時差止めを行うことができることとした」
とされている。このように昭和四〇年に労災保険給付に年金制度が導入されたこと
に一程の問題がでてきたことに対応して労災保険法第二二条の二の制定及び同第四
七条の三の改正が行なわれたのである。
(三) その後昭和四八年九月法律八五号をもつて労災保険法の「条名の整理」が
行なわれ、労災保険法第二二条の二が同法第一二条の七となり、同時に同法第四七
条の三に差止の一場合として規定されていた同法第二二条の二も同法第一二条の七
となつたのである。
三 労災保険法施行規則第一九条の二の制定とその違法性
 昭和五一年五月労災保険給付に傷病補償年金の制度が設けられ、これに伴ない昭
和五二年三月労働省令第六号をもつて労災保険法第一二条の七を根拠法として労災
保険法施行規則第一九条の二が設けられた。
 右規則は休業補償給付の請求権者に対して報告書の提出義務を課するものであ
る。しかしながら前述したところから明らかなように、規則一九条の二の根拠法で
ある労災保険法第一二条の七は年金受給者に対して書類等の提出義務を課したもの
であつて、休業補償給付権者を対象とするものではない。昭和五一年に傷病補償年
金制度が設けられた際にも、労災保険法第一二条の七及び同法四七条の三の法的性
格には何ら改正、変更はなされていない。しかるに労働省が労災保険法第一二条の
七についての独自の解釈にもとづき、労災保険法施行規則第一九条の二を設けたこ
とは、労災保険法第一二条の七の委任の範囲を超えた規則制定であり、右規則はそ
の法的根拠を欠く違法のものである。
第二 仮に労災保険法施行規則第一九条の二が違法でないとしても、申立人らに対
する本件一時差し止め処分は、労災保険法四七条の三に定められた要件を欠く違法
なものである。
一 報告書の提出命令なくして休業補償給付等の支払いの一時差し止め処分はでき
ない。
すなわち、法四七条の三は、保険給付の支払いを一時差し止め得る場合として、
① 一二条の七の規定による届出をせず、若しくは書類その他の物件の提出をしな
いとき。
または、
② 前二条の規定による命令に従わないとき。
が要件として掲げられている。
 後者の②のいう「前二条の規定」のうち法四七条は、「行政庁は、労働省令で定
めるところにより、保険関係が成立している事業に使用されている労働者……に対
して、この法律の施行に関し必要な報告、届出、文書その他の物件の提出若しくは
出頭を命ずることができる」と規定されている。すなわち、申立人らが仮りに労災
保険法施行規則第一九条の二により報告書の提出義務がありとしても、これに対し
て相手方が報告書不提出を根拠に休業補償給付等の支払いを差し止めるためには、
法四七条による提出命令をした上ではじめて法四七条の三の差し止め処分ができる
のである。
 そして、前者の①のいう法一二条の七に規定する報告書等の提出義務違反の事実
だけでもつて(すなわち提出命令をおこなわずに)保険給付の一時差し止め処分を
おこなうことができるのは、年金などのばあいでその受給者の住所等がわからない
ため、提出命令そのものをおこなうことができない場合なのであつて、施行規則一
九条の二による報告書提出義務違反の場合など含まれていないのである。
 したがつて、相手方が申立人らに対して法四七条にしたがつて報告書の提出命令
をおこなつていない以上、本件一時差し止め処分は違法である。
二 理由
1 このように法が保険給付の一時差し止め処分をおこなうための要件として行政
庁が、受給権者に対して報告書等の提出命令をおこなうこと、および右受給権者が
その命令にしたがわないことを要件として規定したのは次のような理由からであ
る。
 すなわち、法治主義のもとにおいては、行政庁の行為はすべて法律に根拠をも
ち、その内容において適法であるだけでなく、その手続きにおいても適正なもので
あることが要求される。
 とくに、国民に対して不利益な結果をもたらす行政行為である場合には、その行
為の適法性を確保し、国民の権利侵害がおこなわれないようにするため手続きの適
正さがより一層厳格に要請され、そのために右行政行為をおこなうにあたつては国
民に事前に疑問を提出し、また反論をする機会を十分与えなければならないのであ
る。
 そして、保険給付の一時差し止め処分もその受給権者の生活や療養に重大な影響
をおよぼし生存権の侵害という最も重大な利益に関するものであるから、このよう
な処分をおこなうには受給者の人権を十分配慮した慎重な手続きがとられなければ
ならないのは当然である。
 そこで、法は報告書等を提出しない受給権者に対しては、提出義務違反という事
実だけでもつて、ただちに保険給付の一時差し止め処分という不利益処分を課する
ことをしないで、まず提出義務違反と判断した受給権者に対し、行政庁に提出命令
を出させることによつて受給権者に報告書等の提出につき注意をうながすととも
に、もしその提出につき受給権者に疑問・異議がある時には審査請求をすることに
よつて、提出義務の存否を十分検討する機会を与え、もつて違法不当な報告書等の
提出を一方的に強要されない権利を規定したのである。
 なお、本件報告書の提出と同じ目的を有するとされている症状届書の提出(施行
規則一八条の二)の場合、申立人らはやはり届出は傷病補償年金移行を目的とした
ものだと判断し提出しなかつたのであるが、相手方はこれに対して、届書の提出命
令を発したのである(現在、申立人らはこの点について行政不服審査を請求して争
つている)。
2 次に、法第四七条の三の趣旨が右のようなものであることはその立法経過から
して明らかである。
 すなわち、昭和四〇年の法改正により労災保険給付に年金が導入されたのである
が、その時に第四七条の三の規定も設けられた。
 そして、この時の第四七条の三の規定は、政府は保険給付を受ける権利を有する
者が正当な理由がなくて、前二条の規定による命令にしたがわない時は、保険給付
の支払いを一時差し止めることができるというものであつた。右規定の下において
は行政庁が報告書等の提出命令や受診命令をおこなうこと、そして受給権者がそれ
にしたがわないことが一時差し止め処分をおこなうための要件であることは、その
文理上明らかであつた。
 ところが、その後新設された年金の受給者が増え続ける中で、受給者の中には住
所変更をする者もあり、せつかく年金を送つても手元に届かない等のトラブル(疎
甲五二号証参照)が発生してきたため、そのような場合までも一時差し止め処分を
行うには一律に提出命令をおこなわなければならないとするとその提出命令そのも
のが有効に送達されないため一時差し止め処分ができなくなるという不都合が生じ
てきたため、昭和四五年の法改正において報告書等の提出義務を規定した第二二条
の二(現行第一二条の七)を新設し、それに伴つて前記のような例外的な場合には
提出義務違反だけを理由として(すなわち提出命令をおこなうことなく)一時差し
止め処分ができるよう第四七条の三を「前二条の規定による命令にしたがわない
時」という文言に加えて「第二二条の二の規定による届出をせず若しくは書類その
他の物件の提出をしない時」という文言を挿入し、現行のような内容に改正したの
である。
 改正の趣旨がこのようなものであることは、昭和四五年第二二条の二(現行第一
二条の七)を新設する際の趣旨説明として「年金受給者が累増するに伴い受給権者
の住所受給権の内容等の正確なは握が実際の年金支払いに関する事務処理の面で必
要不可欠となつたので受給権者の現況報告の提出義務等の根拠規定を設けたもので
ある」旨説明し、また第四七条の三の改正の際「受給権者の現況報告の提出等を正
当な理由がなくて怠つた者については、厚生年金保険等の例にならい年金が正確に
到達しないなどのことがあるので受給権者の現況が判明するまで年金の一時差し止
めをおこなうことができることとしたものである」旨の趣旨説明から明らかであ
る。昭和四五年の改正以後、条名の整理はあつたものの国会の審議を経て法の趣旨
変更をおこなう旨の法的手続きはおこなわれていないのであるから、現在において
も第四七条の三の趣旨が前述したものであることは疑問の余地がない。そして現に
これまで法四七条の三の差し止め処分は年金のみであり、休業補償に適用したこと
はないことを相手方自ら認めている(説明書四、1)。
3 なお、第四七条の三における一時差し止め処分の要件の規定の仕方が並列的で
あるため、相手方はその形式的な文理解釈から休業補償給付等の一時差し止め処分
の場合も提出命令は不要であるとの解釈のもとに本件一時差し止め処分をおこなつ
てきていると思われるが、右解釈が誤つたものであることは前述した如き規定の趣
旨およびその立法の経過からして明らかである。仮りに本条を右の如き形式的な文
理解釈をするならば、本件の如き一時差し止め処分をおこなう際には事前に提出命
令をおこなつてもよいし(法四七条)、またおこなわなくてもよい(法一二条の
七)ということになつてしまうが、行政庁にこのような恣意的な選択を許容する解
釈が誤つていることはすでにのべた適正な行政手続きの原則からして、明らかであ
る。
三 以上述べたことから明らかなように、本件の如き休業補償給付等の受給権者で
ある申立人らに対して、一時差し止め処分をおこなうには「報告書の提出命令」が
必要であるにもかかわらず、相手方はその提出についての督促-なお督促は行政処
分ではなく不服申立をする方法がないので、法にいう提出命令とは異なるものであ
ることは言うをまたない-をしただけで提出命令をおこなつていないのであるか
ら、申立人らに対する本件一時差し止め処分は、法の規定する要件を欠いた違法な
ものである。
第三 仮りに、法一二条の七が年金のみを対象としたものでないとしても、本件に
おける休業補償給付等の支払い一時差し止め処分は法四七条の三の必要性を欠く処
分であり違法である(申立書三、五三年一二月一四日付準備書面五の追加)。
一 年金において差し止め処分がおこなわれる場合
 年金において、法一二条の七の規定による書類等を提出しないとして法四七条の
三により差し止めることができるのは、「受給権者が定期報告若しくはその添付資
料または随時報告若しくはその添付資料を提出しないことにより、受給権の存否、
支給額、受給権者の住所等を把握することができず、過誤払いのおそれがあると
き」である(昭和五・一〇・三〇基発七八五号、甲八号証)。つまり年金の場合に
おいても定期報告書あるいは随時報告書等が提出されなかつたら全て当然のように
法四三条の七によつて差し止め処分を発せられるのではなく、過誤払いという実質
弊害のおそれが生じてはじめて差し止め処分をしていたのである。これは定期報告
あるいは随時報告等が提出されなくても過誤払いのおそれがない場合は、法四七条
の三の差止めの必要性を欠くとして、差止めはおこなわれていなかつたことを示し
ているものである。これは既に述べたように、昭和四五年に法四七条の三の中に差
し止めできる一場合として、法一二条の七(但し当時の法条は二二条の二)違反が
つけ加えられた経過からみても当然のことである。むしろ過誤払いのおそれない場
合は、定期報告など必要ないとして労働基準監督署長は通知を出すことができるよ
うになつている(施行規則二一条)。
二 休業補償の場合
1 ところで、休業補償の要件は、①労働者が業務上負傷し、または疾病にかか
り、②その療養のため、労働することができず、③賃金を受けていない、ことの三
つであることは、相手方も認めているところである(五三年一二月一五日釈明書
三、1)。したがつて、本件報告書の不提出が休業補償の過誤払いのおそれをきた
すことはありえない。
2 また、休業補償の支払いは原則として月一回ごとの請求によつておこなわれて
おり、年金とちがつて支給額や受給権者の住所等の把握ができず過誤払いのおそれ
をきたすことはありえない。ましてそのことと報告書の不提出とは何らかかわりあ
いはない。
3 さらに、報告書が提出されておれば本来傷病補償年金に移行し、その年金を支
給すべきにもかかわらず、提出をしていないために誤つて休業補償を支給するよう
なおそれが仮りにあつたとしても(申立人としては三疾病については年金移行はな
いと主張し、また、症状把握は申立人らが既に出している社会復帰申出書等で明白
であると主張しているのであるが)、この給付内容の過誤は内払い処理制度がある
以上、これによつておこなわれるのであり(法一二条三項、甲四九号証、なお三回
準備書面一、)本件一時差し止めによつておこなうべきものではない。けだし、申
立人らにとつて生活のかてが奪われ、または療養面においても重大な影響をおよぼ
す、いわば健康権、生存権の侵害(申立人らが休業補償の一部を療養費用にもあて
がつていることは各報告書にくわしい)という最大の不利益をもたらすのであるか
ら、法が内払い処理制度を設けて保険給付の連続支給をすべく被災者の保護をはか
つている以上、それにもかかわらず、差し止め制度を利用することは、内払処理制
度の趣旨を没却するものだからである。
4 いずれにしても、休業補償の場合は、過誤払いのおそれはないし、内払い制度
がある以上差し止め処分は必要がないにもかかわらずなされたものであり違法であ
る。
第四 頸肩腕障害などの病気の性質と申立人らの症状について
一 頸腕、むちうち、腰痛のいわゆる疲労性三疾病(以下三疾病という)はその症
度から分類する発病期、増悪期、重症期の三つに分類され、当然その治療期間は右
の症状の進行に正比例して長期化の傾向を示す。(疎甲四六号証、P医師報告書三
頁、この報告書では頸肩腕障害が中心となつているが、むちうち、腰痛についても
同様である)しかして、本症患者は当該患者のおかれている一つの企業の従業員と
いう社会的背景の中で、その発見や治療の開始が遅れ、また治療を開始しても職場
における業務軽減や休業治療が思うにまかせないという悪条件の下に健康破壊が進
行し、その治療期間が遷延しているのである(同報告書三頁参照)。
 しかし、三疾病は業務による神経、筋疲労を生ずる結果おこる機能的あるいは器
質的障害であり、したがつて労働医学的にも臨床医学的にも当然治療によつてそれ
の回復は可能であり、また治療によつて職場復帰が可能であるとされているもので
ある(同報告書五頁および七頁)。
二 だが、三疾病の患者は現実には全快するまでには良くなつたり、悪くなつたり
しながら長い期間を要している。それは何故なのか。
 一つには右にも述べたように、健康破壊がかなり進行して始めて治療を開始する
という患者がおかれている現実と、今一つは、企業が患者の健康回復に欠かすこと
ができない訓練的就労を認めようとしない態度に終始してきたことに起因してい
る。
 申立人らは昭和五三年一二月一四日付準備書面第三、三において三疾病の患者が
全快するためには医師による適切な治療という医学的要素と企業における訓練的就
労等の社会的要因とが不可欠である旨を述べた。
 患者の元の元気な体に戻りたいという基本的な願いとこれに応える医療機関の努
力によつて、医療面における治療方法は一定の成果をあげるに至つている(同報告
書四頁)。
 そして、難治病とされていた三疾病は今や医師によつて「業務による神経・筋疲
労を生ずる結果おこる機能的あるいは器質的障害であり、したがつて当然治療によ
りそれの回復は可能である」とされるに至つている(同報告書五頁)。
 ところが、この治療過程において医学的にも、不可欠であるとされている企業に
おける訓練的就労は労働行政におけるそのことを認めた五九三号通達にも拘らず、
企業の受け入れ体制の不十分さとそれを是正させるための適切・強力な行政指導が
なされない結果として十分な機能を発揮していない現状にある。
 そればかりか、むしろ、企業は患者が健康を回復し、職場復帰を申し出ても、当
該患者に完全就労を要求し、一切の訓練的就労を認めなかつたり、訓練的就労を認
めても必ずしも患者が健康を十分なものにするための就労条件を確保しない(申立
人らの各報告書および疎甲五一号証のGの報告書参照)など、およそ職業病を発生
せしめたものにはあるまじき態度に終始しているのである。
 かかる患者のおかれている現実が、回復期の本症患者に生理的にも心理的にも悪
条件となつて、再発したり、再療養を余儀なくされているのである(疎甲四六号
証、報告書四頁および六頁)。
三 申立人らの症状の経過について
 申立人らは各々の報告書(疎甲二二ないし二九号証)でも明らかなように、いず
れも少くとも療養開始後三年以上を経過した長期の治療期間を余儀なくされ、やつ
と職場復帰をして訓練的就労が可能となるまでに回復してきているが、あるいは企
業からその就労を拒否され、あるいは訓練的就労をしていてもその受け入れ体制が
不十分なために再休業、再治療においこまれたりしているのである。
 しかして、申立人らの使用者である各企業の訓練的就労に関する拒否ないしは不
十分な態度は、申立人らの昭和五三年一二月二二日付準備書面二の三「申立人らの
訓練的就労に関する企業の態度」において主張したとおりである。かかる企業の態
度が申立人らの健康回復に計り知れない弊害を与えているばかりか、かえつて症状
を悪化させているというのが現状である。
 ここでは申立人Aの事例を紹介するだけで十分であろう。
 申立人Aは、昭和四三年初めごろから発病し、昭和五〇年三月から休業し、その
治療に専念しなければならなかつた(疎甲第二三号証の一A報告書一頁)。そして
Aは、使用者である日本生命に対し、昭和四六年六月より同五二年二月までの間、
少くとも一四回にわたつて、リハビリのための適切な訓練的就労を申し入れたにも
拘らず、日本生命はすべてこれを拒否しているのである(同報告書二頁)。
 日本生命の態度は、就労は「完治が前提」であり、したがつて、通常の勤務に就
くことを主張し、訓練的就労は認めないというものである(同報告書二一頁から二
三頁)。そのために、Aは昭和四八年のいわゆる五九三号通達が出されるという状
況の中で、会社の良心的運用に期待をつないで、昭和五〇年六月就労したが、会社
の五九三号通達無視の就労要求や職場におけるAを孤立化ないしは排斥するような
雰囲気の下で再び症状を悪化し(同報告書二二頁から二三頁)、再休業・再治療を
くり返えしているのである(同報告書二四頁から二五頁)。
 このような職場実態および症状の変化について、相手方は一体どのように主張す
るのか。相手方が五九三号通達にもとづく企業への十分な指導もしないでおいて
(同報告書二二頁、疎甲五一号証G報告書参照)、まさか、そのような職場実態に
はないとか、症状が悪化し、再休業、再治療においこまれている事実はないなどと
主張できないことだけは明白である。
 また、現に本件申立後においても昭和五三年一二月初ごろより、かねてより訓練
的就労をしていた申立人Dは、不十分な訓練的就労条件の下に療養のため休業を余
儀なくされ、また、訓練的就労を拒否され続けている申立人Kは、三叉神経症の併
発により右顔面のひきつけを起して再治療を余儀なくされているのである(疎甲五
一号証Gの報告書参照)。これらの申立人らが「報告書」を提出すれば一体どうな
るか、結論は一目瞭然である。
四 以上みてきたように、申立人らの症状が回復にむかつているから、あとは悪化
することなどありえないという保障はどこにもないのであり、相手方が現在「報告
書」を提出しても一九二号通達参考Ⅱに徴して年金移行はありえないといくら主張
しても、これは前述した三疾病の性質や企業の受け入れ体制を顧りみないまやかし
の主張でしかないといわなければならない。申立人らが今後提出し続けなければな
らない「報告書」の提出のある時期に再療養、しかも、休業治療を要する症状にあ
つたとき、相手方はそれでも年金移行はありえない、したがつて解雇されることは
ありえないというのであろうか。このように申立人らが年金移行される蓋然性はき
わめて高いといつても過言ではない。
第五 訂正
一 昭和五三年一二月一四日付準備書面第二、一、(一)および(二)にある長期
療養補償給付を長期傷病補償給付と訂正する。
二 昭和五三年一二月二二日付準備書面第二、二、②にあるFは削除。
 同第三、①のBは削除。
別紙(六)
意見書
意見の趣旨
本件申立を却下する
申立費用は申立人らの負担とする
との決定を求める。
意見の理由
本件申立は以下その理由により不適法であるから速やかに却下されるべきである。
第一 申立人らの本件申立にかかる一時差止処分はその性質上執行停止の対象とな
りえず、もしくは、本件申立は申立の利益を欠如するものである。
 行政事件訴訟法二五条二項の規定は、行政処分の効力等を本案判決の確定までの
間一時的に停止することによつて、当事者間の法的状態につき暫定的な安定を図る
とともに不服申立人の権利の保全および損害の発生、拡大の防止を目的としたもの
であるから、行政処分の効力等の停止の申立をなしうるのは、当該行政処分の効力
等を停止することが申立人の権利の保全および損害の発生、拡大の防止に直接役立
つ場合に限ると解すべきであり、一般に拒否処分は、その性質上執行停止の対象適
格を欠くか、執行停止の申立利益を欠くと解されている(東京高裁決昭和二七・
四・八行裁例集三巻三号六〇二頁、大阪地裁決昭和四四・一〇・二一行裁例集二〇
巻一二号一五五三頁、東京地裁決昭和四五・一二・二四判例時報六一八号一九頁ー
疎乙第一号証ないし三号証。Q、注釈行政事件訴訟法二二八頁)。
 しかして、本件一時差止処分(以下「本件処分」という。)にかかる申立人らの
休業補償給付及び休業特別支給金の各請求権は申立人らの労働者災害補償保険法施
行規則(以下「労災則」という。)一三条及び労働者災害補償保険特別支給金支給
規則(以下「労特則」という。)に基づく請求に対して被申立人らの支給決定がな
される(労災則一九条、労特則二〇条)ことによつて成立するものであるが、本件
にあつては右支給決定がなされていない。このことは、申立人ら自身において、被
申立人らの支給決定通知書を受けていないことからしても明白である。
 それ故に、申立人らの本件申立が仮に容認されたとしても、それは、右一時差止
処分の効力が停止されるにとどまり、これによつて申立人らに対し、右支給決定が
なされたと同じ効力を生じることにはならず、申立人らの損害の発生、拡大を避け
るためになんら役立つものでない(行訴法三二条二項は、執行停止の決定に準用さ
れていない)。本件処分は、いわば一種の一時的暫定的な拒否処分というべきもの
であり、本件申立は執行停止の対象適格を欠くか申立の利益を欠如するものといわ
ねばならない。
第二 本件申立ては、本案について理由がないことが明らかである。
一 本件一時差止処分を行つた経緯
1 申立人らは頸肩腕障害の業務上疾病により労働者災害補償保険法(以下「労災
法」という。)一四条の規定により休業補償給付を、労働者災害補償保険特別支給
金規則二条の規定により休業特別支給金の支払いを受けてきた者である。
2 昭和五一年五月労災法の一部改正がなされ本件関係法は昭和五二年四月に施行
されたものである。すなわち従前は療養開始後三年を経過してなお治療及び休業を
必要とする長期療養者に対し政府が必要と認めたときは長期傷病補償給付が支給さ
れていた(改正前法一二条の八第三項)が、改正法により療養開始後一年六箇月を
経過した日において又は同日後、当該負傷又は疾病が治つていない者でその廃疾の
程度が労働省令で定める廃疾等級に該当する者には、傷病補償年金が支給されるこ
とになつた(労災法一二条の八第一項六号、三項)。
 そして、右改正に伴い労災則も改正され、傷病補償年金制度の適切な運用をはか
るため、労災則一八条の二は業務上の事由により負傷し又は疾病にかかつた労働者
が所定の要件を具備するとき所轄労働基準監督署長は、当該労働者について傷病補
償金の支給の決定をしなければならないとし(一項)右署長は業務上の事由による
傷病にかかつた労働者が療養開始後一年六箇月を経過した日において治つていない
とき、又は右決定を行うため必要があると認めるときは、傷病の状態など所定の事
項を記載した届書(以下「届書」という。)又は右決定を行うため必要があると認
めるときは、傷病の状態など所定の事項を記載した届書(以下「届書」という。)
(疎乙第四号証)を提出させるものとする(二項)旨規定し、労災則一九条の二に
おいては、療養開始後一年六箇月以上経過して、なお休業補償給付を請求している
者について傷病補償年金の支給要件に該当するかどうかなどを中心とした判断を継
続的に行い、適正な保険給付を行うために年一回これらの者の症状を適確には握で
きるよう傷病の状態等に関する報告書(以下「報告書」という。)(疎乙第五号
証)を対象労働者より提出させることとしている。
3 ところで、申立人らは、いずれも当該業務上の負傷又は疾病にかかる療養開始
後、昭和五三年一月一日において一年六箇月以上経過し、同年一月一日から同月末
日までの間についての休業補償給付の請求をしている者であるから労災則一九条の
二にもとづく報告書の提出義務があるにもかかわらず、いまだもつてこれを提出し
ていない。
4 申立人らの右の不提出に対して被申立人らは、申立人らが「大阪労働者生命と
健康を守る実行委員会」、「大阪頸腕罹病者の会」等頸肩腕患者の組織する団体に
所属する関係から、申立人らを含む団体との間で行つた再三にわたる話し合いの過
程においてはもちろん、各傷病者に対しても強く報告書の提出を、求めたほか一時
差止処分を行う前には、その旨予告付きの督促状を送付して督促を行う等提出を求
めて必要な措置を講じてきた。それらは以下のとおりである。
(一) 昭和五二年八月五日療養開始後一年六箇月以上経過した者で休業補償給付
を継続している者一、六二五名に対し傷病補償年金制度の解説リーフレツト(疎乙
第六号証)を送付した。
(二) 同月同日大阪府下労災保険指定診療七〇〇機関に対し傷病補償年金制度に
ついての解説リーフレツト(疎乙第七号証)を発送した。
(三) 昭和五二年八月一一日及び同月一二日大阪府下労災指定診療機関に対し改
正法の説明会を実施し、傷病補償年金制度の周知ならびに診断書記載要領等を説明
した(疎乙第八号証の一及び二)。
(四) 昭和五三年二月一日頃療養開始後一年六箇月以上経過した者で昭和五三年
一月分の休業補償給付等の請求が見込まれる者一、〇三九名に対し報告書及び診断
書用紙を発送した(疎乙第九号証の一ないし一二)。
(五) 昭和五三年五月二五日報告書未提出者七〇名(申立人らを含む)に対し保
険給付の一時差止処分がある旨の警告を付して報告書提出の督促状を発送した(疎
乙第一〇号証の一ないし一一)。
 被申立人らが以上のような具体的措置を講じ十分な配意を行つたにかかわらず、
申立人らはあくまでも報告書の提出義務はないとの独自の見解を固執し、提出に応
じなかつたものである。
5 そこで被申立人らは、やむなく労災法四七条の三にもとづき別紙処分一覧表の
とおり申立人らに対し本件給付の一時差止処分を行つたものであるが、申立人ら
(A、Bを除く。)は、この一時差止処分を不服とし昭和五三年一〇月一一日各処
分庁の上級行政庁である大阪労働基準局長に対し、行政不服審査法にもとづく審査
請求及び執行停止の申立を行つた(疎乙第一一号証の一ないし一二)が、右局長は
当該処分の執行を停止しない旨昭和五三年一〇月一三日決定を行つた(疎乙第一二
号証の一ないし六)ものである。なお、申立人A、Bは昭和五三年一一月二七日行
政不服審査法にもとづく審査請求及び執行停止の申立てを行つた(疎乙第一三号証
の一ないし四)が昭和五三年一一月三〇日前記同様当該処分の執行を停止しない旨
の決定をなされている(疎乙第一四号証の一ないし二)。
二 本件一時差止処分は適法である
1 労災保険制度は、その発足以来、被災労働者の負傷、廃疾等の程度に応じた適
切な給付を行うべく給付内容の改善を図つており、この一環として五一年改正法に
おいて改正前法の長期傷病補償給付にかえて傷病補償年金制度が創設され、被災労
働者の傷病の程度に応じた一層手厚い保護が図られることとなつた。
2 この傷病補償年金は療養開始後一年六箇月を経過した日又は同日後において、
当該傷病が治ゆせず、かつ、廃疾の程度が一定要件に該当している者には、廃疾の
程度に応じた年金を給付するものであり、(労災法一八条)従来の長期傷病補償給
付の画一的給付内容(一律給付基礎年額の六割すなわち給付基礎日額の二一九日
分)(疎乙第一五号証)をより合目的化して症状の程度(廃疾等級)に応じて給付
基礎日額の三一三日分(第一級)、二七七日分(第二級)、二四五日分(第三級)
が給付されること(疎乙第一六号証の一及び二)に改善されたものである。他方傷
病が治ゆせずしかも廃疾の程度が前記要件に該当しない者には、従来どおりの給付
が行われることとなる。このように廃疾の程度に応じた適切な給付を行うことによ
つて被災労働者を保護すると共に窮極的にはその社会復帰の促進を図つているもの
である。
3 ところで、労災法一二条の七は保険給付を受ける権利を有する者に対して労働
省令で定めるところによる保険給付に関する必要な書類の提出等の義務を課してい
る。この規定をうけて労災則一九条の二は前記一・3で述べたように当該業務上の
負傷又は疾病にかかる療養開始後その年の一月一日において一年六箇月を経過して
同年一月一日から一月末日までの間の日についての休業補償給付を請求する者につ
いて、傷病補償年金の支給要件に該当するか否か換言すれば休業補償給付を行うべ
きかどうかなどを中心にこれらの者の症状を適確には握するため、その休業補償給
付請求に際して、当該対象者に対し報告書の提出を求めている。したがつて前記
一・3で述べたように報告書の提出は、労災法一二条の七によつて申立人らに課せ
られた義務であることは明らかである。
4 この点について申立人らは申立人らの傷病である頸肩腕症候群、むち打ち症、
腰痛(以下「三疾病」という。)については、傷病補償年金の対象とならず、した
がつて報告書提出義務は課されていない旨主張し、その根拠として累々述べている
が、以下に述べるように、いずれも申立人らの単なる独断にすぎず、その主張に理
由のないことは明らかである。
(一) 申立人らの根拠とするところを要約すれば、「三疾病については適切な治
療と訓練的就労の場が保障されれば、必ず職場復帰が可能であることが明らかにさ
れている。したがつて三疾病については、長期の療養を必要とする場合でも、また
ある時期にはほとんど症状に変化のみられないときがあつても、あくまで職場復帰
を求めて適切な治療と訓練的就労の場を保障すべきである。
 しかるに、傷病補償年金の適用をうければ労働基準法一九条の解雇制限が解除さ
れ職場復帰ができなくなる。これでは「社会復帰の促進」にならず改正の趣旨であ
る「手厚い保護」にはならない。
 したがつて、三疾病については傷病補償年金の対象から除外され、労災則一九条
の二の報告書を提出する義務はないと解すべきである。
 このことは、改正に関する国会審議の過程でなされた付帯決議ないしは、その後
の国会審議における大臣答弁から明らかである。」ということになろう。
(二) しかしながら
(1) もちろん三疾病についても適切な治療方法の研究開発の努力は続けられな
ければならない。しかし、そのことと現実に適切な治療方法が発見、利用されてい
るかどうかとは自ら別問題で、この点についての現在の医療水準は、申立人らがい
う程度に達していない。そのことは申立人ら自身その大部分の者が療養を五、六年
ないし一〇年継続していることからも明らかである。したがつて申立人らがいうよ
うな「必ず職場復帰が可能であることが、明らかにされている。」ということは、
必ずしもいえない。
(2) また、解雇制限解除の点は、なんら理由となし得ない。なぜなら、まず、
本件傷病補償年金と解雇制限解除の関係は、改正前法における長期傷病補償給付と
解雇制限解除との関係となんら変らないのである(改正前法一二条の八第三項、一
九条-疎乙第一七号証)から、本件傷病補償年金創設による新たな問題かのごとく
主張すること自体失当である。
 また、解雇制限解除という法的効果は、労災保険制度の適正な運用の結果生じう
る可能性のあるひとつの反射的結果であるが、申立人らの言うように、このような
結果が発生すること自体「社会復帰の促進」に反することになるなら、事は、三疾
病傷病者以外の傷病者にもあてはまるから、労災法は全体として矛盾を来たすこと
になる。しかし、そのような理解は社会復帰促進方法に関する立法的選択ないし政
策を非難する独自の見解というべきであり、しかも前述したように報告書の提出自
体は解雇制限解除を目的とするものではなく、あくまで症状に適応したより適切な
給付を実現すべく求められるものであるから、解雇制限解除の是非という別個の問
題をもつて、報告書提出義務の存否に結びつけ得ないというべきである。
 したがつて、かりに提出した報告書等に基づいて審査がなされ傷病補償年金給付
の決定がなされたとしても、これに対し不服がある者は、法定救済制度(労働者災
害補償保険審査官、労働保険審査会に対する不服審査請求、訴訟上の請求)によつ
て救済を求めることができるのであつて、右の決定を阻止するために報告書の提出
を拒むことは、全く正当な理由になり得ず法制度を曲解するものといわざるを得な
い。
(3) さらに申立人らは、三疾病については、基本的に年金になじまないこと
が、国会で認められたとして、衆参両議院における附帯決議ないしは、改正成立・
公布後の衆議院社会労働委員会における労働大臣の発言を挙げているが、国会にお
ける附帯決議は改正法の施行にあたり三疾病等の症状の特異性を考慮に入れつつ、
実情に即した運用を行うよう求めたものであり、三疾病の傷病認定については、他
の疾病以上に慎重に行うべきであることをいつているのであつて、かえつて原則的
には、三疾病も傷病補償年金の対象に含まれることを当然の前提にするものである
ことが明らかである。
 なお労働大臣の発言は、前記したように本件改正法が成立・公布された後の国会
でなされたもので、法運用における三疾病についての一般的認識を述べたものであ
る。
(4) また、報告書は傷病補償年金の支給要件に該当するか否かのみを判断する
ための資料にとどまらず適正な給付を行うため、療養開始後一年六箇月以上経過し
て、なお、休業補償給付を請求している者の症状を適確には握するという重要な側
面も有しており、しかも傷病補償年金に移行するか否か休業補償給付が引続き給付
されることとなるか否かについては、報告書の提出があつてはじめて行政庁の適切
な判断がなされる性質のものである。
(三) 以上に述べてきたこと及び傷病補償年金等に関する労災法・労災則の規定
のどこにも、申立人らの主張する「三疾病は除く」旨の文言はなく、またそれをう
かがわせるような文言すらないことからして、申立人らの主張する根拠は理由のな
いものであることが明らかである。申立人らに報告書提出義務が存在することは、
疑問の余地がないといわなければならない。
5 申立人らが報告書を提出しないことについては、労災法四七条の三に定める
「正当な理由」は全く存在しない。
 申立人らは、報告書提出義務の不存在を主張したと同様の根拠から、右「正当な
理由」が存在する旨主張する。
 しかしながら同法四七条の三にいう「正当な理由」とは、そのような事情があれ
ば誰しもが命令に従うことができず、義務を履行することができなかつたであろう
と認められる場合をいい、当事者の単なる主観的事情はこれに含まれない(昭和四
〇・七・三一基発第九〇六号ー疎乙第一八号証ー参照)と解すべきところ、前記4
で明らかにしたように申立人らの正当理由の根拠とするところは、いずれも、独自
の観点に立つた主観的判断にとどまるものであつてとうてい正当の理由となし難い
ことは明らかである。
6 被申立人らが、申立人らの労災法一二条の七の義務不履行に対して同法四七条
の三の一時差止処分を選択し行つたことに何ら違法性はない。
 すなわち、申立人らは本件においては一時差止処分を行う必要性及び補充性がな
く、したがつて同法四七条の三の目的を逸脱している旨主張するが、その失当であ
ることは、以下に述べるとおりである。
(一) 本件において一時差止処分を行う十分の必要性が存在した。
 すなわち、同法一二条の七は「……保険給付に関し必要な……書類の提出」と規
定し、何がこれに該当するかは、労働省令に委ねている。
 他方これを受けて労災則一九条の二が保険給付のより適切な実現・確保というま
さしく労災法の根本にかかわる行政運営に必要なものとして、報告書の提出を規定
したものであり、このことは、これまで繰り返し明らかにしてきたところである。
しかして報告書が右のごとく適正な労災行政を行うために、極めて重要な資料であ
る以上、その未提出・不存在は基本的に行政執行にとつて重大な支障となるものと
いわざるを得ない。
 それにもかかわらず申立人らのように、保険給付の実施になんらの支障をも及ぼ
さないかのごとくいうのは、独自の観点に立つた暴論というべきである。
 もつとも、被申立人らは、申立人らが報告書を提出しないにもかかわらず、直ち
に一時差止処分を断行することはせず、一定期間(六箇月)は申立人らの請求にか
かる休業補償給付等について給付決定し給付してきた。しかしながら、この措置
は、決して行政執行において支障がなかつたことを意味するものでなく、被申立人
らとして可能なかぎり申立人らの理解を求め説得をくりかえすという行政努力によ
つて提出を得ようとし、そのため一時差止処分を行うことを差し控えていたもので
ある。
 しかしながら、このような長期にわたる行政努力と、処分猶予の期間経過にもか
かわらず、なお、申立人らは種々の理由に藉口して報告書の提出を拒み続けたの
で、被申立人らはついに一時差止処分という手段に訴えたものである。
(二) また、申立人らは基発第一九二号通達で報告書の提出のない場合の処理方
法が明示されているから、まずその方法によるべきであつて、この点からも一時差
止処分は、その必要性を欠如するかのように主張する。
 しかし、右通達に示されている未報告の場合の調査等は、例えば、症状が重度で
必要な手続ができず、また、他に代つて行うべき者も存しないといつた場合等、そ
れなりに理由のある場合についていつているものと解すべきであつて、本件の申立
人らのように、独自の法解釈のもとに労災則の趣旨を否定し、それ故報告書を提出
しないといつた場合等は、到底本通達の予想し含みうるところではない。
 仮に報告書の提出がなされない場合、そのすべてについて被申立人らが調査を行
うべきものとすれば労災法一二条の七が受給権者に対して義務を課していること自
体が全く無意味となり、また同条をも受けて立法されている同法四七条の三の存在
意義も没却されることになるが、このような結果を招来する申立人らの主張の失当
なことは、明白である。
 さらにそもそも、事業主の負担による限られた原資から労災法の目的にかなつた
適切な給付を実現・確保するにあたつて、保険給付受給権者に課せられた本件の一
年一回報告書提出義務は受給権者の最小限度のいわば権利が当然に前提とする協力
内容を法的義務としたものであつて、決して過重な義務ではない。
 この点は労災法と同様に保険給付を行う他の社会法においても同一の規定がおか
れており、例えば国家公務員災害補償法二六条の義務規定とその履行担保のための
一時差止処分規定、厚生年金保険法九八条三項と七八条、国民年金法一〇五条三項
と七三条等がそれであるが、このことからしても、右に述べたことが、看取されよ
う。
 したがつて、申立人らのような義務不履行の場合、法はまずもつて被申立人らが
独自に調査すべきことを、少なくとも本件一時差止処分を違法ならしめる意味にお
いて要求しているものとは到底解されないのである。
 以上述べたことから明らかなように、本件一時差止処分は、その必要性にもとづ
いて行われたものである。
三 結論
 以上詳述してきたように、申立人らは、前記一・3で述べたように昭和五三年一
月一日においていづれも当該業務上の傷病にかかる療養開始後一年六箇月以上経過
し、かつ同年一月一日から同月末日までの間の当該業務上傷病のため労働すること
ができず賃金を受けられなかつた日についての休業補償給付を請求しているもので
あるから、本件報告書を提出すべき義務があるにもかかわらず、現在に至るも提出
していないのであつて、労災法一二条の七の義務不履行であることは明らかなとこ
ろであるところ、右義務不履行につき何ら正当な理由が存在しないので、同条の実
効性を担保すべく規定されている同法四七条の三に基づき行つた被申立人らの本件
処分が適法であることは疑問の余地がないというべく、したがつて、申立人らの本
案につき理由がないことは明白であるといわねばならないのである。
第三 本件一時差止処分の効力を停止することは、公共の福祉に重大な影響を及ぼ
すおそれがある。
 一時差止処分は、過去の違法行為に対する制裁的処分ではない。この処分は、労
災法一二条の七の義務履行の促進を図るものであり、したがつて、本件の場合にお
いても、報告書が提出され、差止理由がなくなれば直ちに差止処分を解除し直ちに
休業補償給付請求等について審査し、その支給要件充足の有無を判断のうえ支給決
定を行つて給付すべき保険給付等を支給することとなるのである。
 ところで、右のような内容を有する本件処分は申立人らの義務不履行に対して保
険給付の適正な支払を確保し、法の適正・円滑な運営を確保するため、行政上とり
うる唯一の法的対抗手段であるところ、その処分の効力が停止されることになれ
ば、申立人らのように独自の主張のもとに、正当な理由もなく報告書の提出を拒絶
する者を助長することとなる。
 すなわち、申立人らはもちろんのこと、これらを含む少なくとも三疾病による長
期療養中の被災労働者約八〇〇名(大阪局管内)の者の明五四年一月中の定期報告
時から報告書提出義務不履行を助長することになり、またその他の届書や報告書、
例えば労災給付の原資である保険料について、その負担者である事業主に自主的に
額を申告のうえ納付させる目的で、労働保険徴収法が事業主に課している労働保険
料報告書の提出義務についても、そのおそれが発生することとなる。
 かくては、労災法のみならずその関係法の執行運営にまで著しい支障を生ぜしめ
ることが明らかであるから、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるといわ
ねばならないのである。
以上のとおりであるから、本件申立はすみやかに却下されるべきである。
(別紙) 一時差止処分一覧表
<19705-005>
<19705-006>
別紙(七)
 釈明書
一 求釈明第一項について
1 休業補償給付等の支給に関する手続は次のとおりである。
 一定様式の請求書・申請書(疎乙第二〇号証)による請求(労災則一三条、五四
条の規定による労働者災害補償保険法の施行に関する事務に使用する文書の様式を
定める告示・様式第八号)に基づき書面上の審査及び必要がある場合は調査を行
い、その結果、支給すべきものについては、様式上部の決議欄に支給すべき金額を
記載して、行政官庁の長であり同時に資金前渡官吏である労働基準監督署長が決裁
することにより、支給決定決議が、また、同時に会計法上の支払決議が行われ、支
給すべきでないものについては、その旨の決議が行われ請求に関する決定が、内部
的に成立する。
 右決定は一定様式の書面(疎乙第二一号証一ないし三)により請求人あて通知さ
れ(労災則一九条)、これにより外部的に成立し効力を生じる。
2 また、右請求はあくまで各請求者の過去の「休業により賃金をうけられなかつ
た」ことに対する「補償」の請求であり、これに対する支給決定も当然各請求にか
かる過去の休業・療養の期間等所定要件事実をそれぞれ認定・判断して行うもので
あつて、その性質上、将来の給付等に関することをその内容とするものではあり得
ない(労災則一三条、一九条の二、告示様式第八号等)。したがつて、右決定はそ
の点で年金におけるように基本権を発生させる支給決定とは根本的に異なる。
3 労災法一二条の七に規定する届出・書類・その他の物件等(労災則一九条の
二、二二条等)の内容及び労災法四七条、四七条の二に規定する命令の内容は、適
正な給付に関する決定すなわち当該請求にかかる支給・不支給の決定(認定判断)
に重要な資料であるから、このような資料が得られないということは、右の支給・
不支給のいずれにしても適正な決定ができないことを意味する。
 そこで権限者において裁量判断の結果、資料なしで給付に関する決定をすること
は妥当でないとの結論に達したときは、労災法四七条の三の一時差止処分を行うこ
ととなるのである。
 すなわち、本項冒頭に挙げた法令に基づく届出・書類の内容及び命令の内容はい
ずれも支給・不支給の決定或いは、支給決定の内容それ自体にかかわるもので「支
払」という窓口的問題以前の問題にかかわるものであるところ、労災法四七条の三
は、これらの有する労災給付の支給に関する適正な決定に重要な資料であるという
性格をふまえて、不適正な給付決定をさけるべく、権限者に裁量権を付与すると同
時に、適正給付の決定を可能ならしめるべくその提出等の促進を図つて、その不提
出等の義務不履行の場合には「支払の一時差止処分」をなしうるとしたものであ
る。
 したがつて、これらの場合において、年金におけると同じように、まず、決定を
なすべきことが常に要求され、差止された「支払」は単なる窓口的支払の意味にす
ぎないと解することは、法の根本趣旨に反するといわねばならないのである。
 そこで、右のような制度趣旨を具体化する各法条の相互関係から労災法四七条の
三の「支払の一時差止」という文言は、年金における支分権に基づく支払のような
窓口的支払の意義のみならず、本件のように支給決定がなされないことから、当然
具体的な支払がなされないといつた場合をも含むものと解さねばならないのであ
る。
 被申立人らは、このような理解のもとに本件支払の一時差止処分を行い、申立人
らにはその旨の通知のみ行い、支給決定の通知はこれを行わなかつたものである。
二 同第二項について
1 同項前段について
 昭和五三年二月一日時点における報告書提出義務者は一、〇三二名である。
2 同項後段について
 報告書提出の督促状を発送した未提出者七〇名のうち一時差止処分を受けたもの
は一七名(内一名は、報告書を提出したため差止処分解除)である。
 その他の者が右処分を受けていない理由及びその数は次のとおりである。
 報告書の提出を得ようとして督促状を発送し、或は説得を繰り返すなどの行政努
力をなし、そのため一時差止処分を猶予している間に報告書を提出してきた者が三
二名であり、七月一日以後の休業補償給付等の請求自体がなされない者が七名であ
る。また、提出の意志があり、かつ、医療機関の診断書の依頼が行われているが医
療機関の十分な理解が得られず報告書に添付すべき診断書の受領に手間どつて提出
が遅延している事情が認められたため処分を差し控えた者が一四名である。
三 同第三項について
1 休業補償給付等に固有の要件としては
(1) 労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり
(2) その療養のため、労働することができず
(3) 賃金を受けていない
ことがその内容となつている(労災法一四条)。
 なお、傷病補償年金を受ける者には、休業補償給付は行わないこととされている
(労災法一八条第二項)。
 すなわち、前記の要件を満たしていても、その者が療養開始後一年六箇月を経過
し、当該負傷又は疾病が治つておらず、かつ、当該負傷又は疾病による廃疾の程度
が労働省令で定める廃疾等級に該当する場合は、傷病補償年金を支給されることと
なり(労災法一二条の八第三項)休業補償給付は支給されない。
2 報告書等の提出については、これまで繰り返し明らかにしてきたように、その
存否が保険給付の支給に関する適正な決定(認定・判断)に重要な影響を及ぼすも
のであるから、未提出の場合には、右支給に関する決定がなされない場合もありう
る(労災法一二条の七、四七条の三)。したがつて、この意味においていずれの給
付が求められているにしろ、給付の実現にとつて根本的障碍事由となりうるもので
ある。
四 同第四項について
1 同項前段について
 休業補償給付について、労災法四七条の三に基づく一時差止処分を行つた事例は
ない。
 ただし、労災則二二条の届出が提出されない場合及び労災法四七条、四七条の二
の命令に従わない場合が多くみられるが、このような場合でも、行政庁による指導
の結果短期間内にその提出がなされ、命令に応じるため、本件のように差止処分に
至つた事例はないのである。
2 同項後段について
 労災年金については、基本権である年金額が裁定され、各四半期ごとに年金が受
給権者に支払われているが、基本権である年金額は受給権者の数の増減(遺族補償
年金)、身体障害の程度の増悪、軽減等所定事由の発生により変動を生ずるので、
このような事由を行政庁は十分は握して適正な保険給付を行う必要があるところか
ら、受給権者には毎年一回定期報告の義務を課している(労災法一二条の七、労災
則二一条)。(なお、各種の変更に関する届出(労災則二一条の二、二一条の三)
も要請されている。)
 この定期報告書の提出については、通常の場合、提出督促を行うとそのほとんど
が提出期限後一箇月程度までに提出されるが、受給権者の中には、住所不明等で督
促状も返送され、事業場等に照会しても所在が判明しない者があり、このような者
に対しては労災法四七条の三に基づく一時差止処分を実施している。そして、その
数は昭和五三年一〇月現在において遺族・障害・傷病の各年金を併せ三七名である
(大阪局管内)。
 なお、労働省所管にかかる他の法制度には、労災法四七条の三のような一時差止
処分にかかる規定はない。
別紙(八)
 意見書(補足)
一 申立人らは、「・・・・最初の業務上外の認定については、非常に慎重な検討
がなされて給付の支給決定がなされるのであるが、その後の休業補償等の支給決定
は、請求者に症状固定あるいは治ゆ等の事情変更がない限り、請求者の請求に対し
ては、形式的な(書面的な)審査だけで給付の支給がなされており、実質的には一
度なされた業務上認定に基づく継続的支払という実態にある。」と主張し、以上の
実態をふまえつつも、労働者災害補償保険法四七条の三の文言、及び本件処分の通
知の書面内容から、申立人らには、すでに具体的請求権が存在する旨主張してい
る。
 しかし、この点については、既に釈明書で述べたことから明らかなところである
が、以下に補足主張するように、申立人らの右主張は失当である。
二1 本件休業補償給付等は、その性質上、継続的な支払を予定されているもので
はない。
(一) 休業補償給付等の請求は、あくまで各請求者が、その請求行為前の過去の
日において、療養のため休業し労働することができないためにその賃金を受けなか
つた場合に、その補償を請求することを意味するものであり、この補償請求に対す
る決定も、これに対応して、申立人ら請求者が請求書に記載した期間(一般に過去
一箇月間単位の請求が多い)における要件の存否についての認定判断に基づいてな
されるものであり、支給される場合は、一括して支払われるのである。
(二) 右のとおり、請求とこれに対する決定は、個別請求毎の個別決定としてな
されるものであつて、決して年金における基本権と支分権のような関係を発生させ
るものではない。
 すなわち、その個別請求が、一の請求者について初回のものであろうと数回目の
ものであろうと、これに対する審査・決定において何の変更もなく行われるもので
ある。つまり、申立人らの頸肩腕障害については、その疾病が業務上であるかどう
かに関し、当初の調査に際しては慎重を期する必要から、決定に至るまでの日数が
かかることがあるにとどまり、第二回目以降の請求についても、その都度その要件
存否に関する審査を実質的に行い(請求期間についての事業主の証明の有無とその
内容の適否、主治医の証明にかかる傷病名と業務上とした傷病名との関連の有無及
びその適否、請求期間にかかる療養の有無及び診療実日数の適否等)、請求期間に
かかる負傷・疾病の業務上外、その療養のために必要な休業であるかどうか等を判
断し決定を行つている。したがつて、第二回目以降の請求については、治ゆ・症状
固定等の事情変更がない限り、形式的審査だけで決定を行うという性質のものでは
決してなく、本件休業補償給付等が、申立人らが強調するごとき年金給付の支分権
と同様の継続的支払であるということは、法制度上も実際上もあり得ないのであ
る。
 申立人らがいう「継続的支払」というのも、単に、結果から見た現象にすぎず、
その実体は、前記した個別の請求とこれに対する個別の決定の結果的集積にほかな
らない。
2 本件一時差止処分の法的性格
(一) 意見書及び釈明書において明らかにしたように、本件における申立人らの
休業補償給付等の請求に対しては、被申立人らの支給決定は未だなされておらず、
したがつて、申立人らの国に対する具体的な金銭支払請求権は発生していない。
 しかし、労災法四七条の三は、このような場合、つまり、本件報告書等は、具体
的な保険給付の請求がなされた場合、これに対していかなる決定を行うか、すなわ
ち傷病補償年金給付、休業補償給付等、若しくは治ゆ・症状固定等による障害補償
年金或いは障害補償一時金給付ないしは不支給のいずれの決定を行うか、について
重要な資料であるにもかかわらず、その提出がなされない結果、当該請求に対して
法の趣旨にしたがつた適正な保険給付に関する決定ができず、その結果、給付すべ
き決定を前提とする具体的金員の支払も当然なされ得ないという場合をも含むもの
ないし予定しているものと解さねばならない。
(二) その理由は次のとおりである。
(1) 釈明書一ー3において明らかにしたように、関係法条を相関的有機的にみ
れば、被災労働者の公正な保護(法一条)、したがつて適正な保険給付の実現・確
保、を図るという制度の根本趣旨にとつて、保険給付に関する決定は、具体的にし
て重要な機能をもたされていることは明らかなところであり、この決定の可否、適
不適は、その用いる判断資料が存在するか否かまたそれが十分か否かによつて決定
的に影響を受けることもまた明らかなところである。
 そうだとすれば、そのような判断資料がなくあるいは不足しているにもかかわら
ず、常に給付に関する決定をなすことを法は求めているとみることはできず、右決
定以前にまずそれに必要な資料を確保し、あるいは補うための措置を講じ、これを
得たのち給付に関する適切な決定を行うべきことを求め、その間は右決定を差し控
えることを、法としてはむしろ予定しているものと解さねばならない。
 しかして、法四七条の三は、同一二条の七(本件については労災則一九条の二で
具体化)、同四七条、同四七条の二を受けているが、右三つの法条における文言
(「・・・保険給付に関し必要な・・・」、「・・・この法律の施行に関し必要
な・・・」、「・・・保険給付に関し必要がある・・・」)及びその求める診断書
等の資料の支給・不支給決定ないし支給決定の場合の内容の確定における重要性か
らみて、これらの法条は、少くとも保険給付に関する決定がなされていない者をも
対象としているものと解される。
(2) 法四七条の三の「保険給付を受ける権利を有する者」の意義は、具体的支
払請求権を有する者に限定して解すべきでなく、広く保険給付を受ける地位を有す
る者、換言すれば支給決定を受ける前の抽象的な保険給付受給資格を有する者一般
を意味すると解される。
 すなわち、例えば法一二条の八は「保険給付は・・・・災害補償の事由が生
じ・・・補償を受けるべき労働者・・・の請求に基づいて行う。」と規定している
が、右の「補償を受けるべき」者とは、補償を受けることができる者すなわち、保
険給付を受ける地位ないし資格を有する者を意味していると解され、また同一一条
の一項と二項を見れば、未だ請求行為をしていない者を「保険給付を受ける権利を
有する者」と表現している。
 更に、同四二条では、諸種の保険給付(同一八条の二、二一条)を受ける権利の
時効消滅について規定しているが、具体的な金銭支払請求権であれば、国に対する
金銭債権であるから、会計法三〇条一項後段により消滅時効期間は、五年とされね
ばならず、しかも右法四二条がその特則を定めたものと解せるだけの特段の理由は
ない。したがつて、同条は抽象的な「保険給付を受ける権利」換言すればその具体
的表われである保険給付に関する審査決定請求権の消滅時効期間について定めたも
のと解さねばならない。
(3) 法四七条の三の立法趣旨説明及び、その後の運用からも、支給決定未済し
たがつて具体的支払請求権の発生していない者をもその対象としていることが明ら
かである。
 すなわち、本条は「保険給付の支給の適正を確保するため、保険給付を行うにつ
いて必要な報告等をしない受給権者」に対する保険給付の支払の一時差し止めを行
うべきことをその趣旨として(疎乙第二二号証)国会に上程され、昭和四〇年に制
定されたものである。
 そして、同年発せられた昭和四〇年七月三一日基発第九〇一号通達(新法第四七
条の三関係・・・・保険給付に関する事務の円滑化をはかるため、保険給付の受給
権者その他の者が、正当な理由なく、新法四七条及び四七条の二の規定に基づいて
なされる都道府県労働基準局長又は労働基準監督署長の保険給付の支給について必
要な文書等の提出、医師の診断を受けるべきこと等の命令に従わない場合には、保
険給付の支払を一時差止める・・・。)(疎乙第二三号証)及び同日付基発第九〇
六号通達(2・イ・・・差止めの対象となる保険給付・当該労働者の請求に係る保
険給付で、命令時において支給決定未済のもののうち、当該命令に従わないことに
よつて支給決定に支障をきたすと認められるすべての保険給付)(疎乙第一八号
証)の理解のもとに運用してきたものである。
(三) 以上述べたことから明らかなように、法四七条の三は、本件におけるよう
な保険給付に関する決定がなされず、その当然の結果として具体的な支払もなされ
得ないといつた場合をも予定した規定と解すべく、「支払」という文言にこだわ
り、これを狭く限定して解釈することは正当でない。
 被申立人らが申立人らになした本件通知の書面に、申立人ら指摘の文言(報告書
の提出があるまでの間、昭和五三年 月 日から昭和五三年 月 日までの分に係
る休業補償給付等の支払を一時差止める旨の文言)が用いられているのは、右の当
然の結果として生じるところを表現したものであるから、申立人らのいう具体的権
利が存在することの根拠ないし理由とはならない。
(四) 以上の結果、本件「支払の一時差止処分」は、意見書第一に述べたごと
く、一種の一時的暫定的拒否処分というべきであるが、その実質的意味は、当該請
求人がその義務を履行するまで保険給付に関する審査・決定の手続を続行しないこ
ととすることにある。
三 以上詳述したことから明らかなように、申立人らには、本件申立てにつき申立
ての利益がないというべきであるから、本申立てはすみやかに却下されるべきであ
る。
 なお、申立人らは、被申立人ら引用の判例における事案と異なる旨主張し、その
根拠として申立人らは、右事案における申立人と異つて、申立時において具体的権
利を有していると主張する。
 しかしながら、申立人らの申立時における権利が具体的給付との関係では、抽象
的な地位ないし資格にとどまるものであり、保険給付に関する審査決定請求権とし
てしか表現されないことは、前述したところから明らかであり((二)ー
(2))、他方、例えば、生活保護申請に関する生活保護法二条、七条、二四条を
みれば、保護をうける抽象的地位ないし資格を有し、その審査決定請求権たる申請
権を有しているものであることが看取されるのであつて、申立人らと同程度の権利
ないし地位を有しているものというべきである。したがつて、申立人らの右主張は
正当でないことに帰着する。
申立人らの昭和五三年一二月一九日付求釈明に対する釈明
一 求釈明第一項前段について次のとおりである。
1 昭和五三年七月一日時点において報告書用紙を送付するという形でその提出を
要請した事実はない(右時点以前に口頭等で直接間接その提出要請を行つてい
る)。
 なお、昭和五三年二月一日頃一、〇三九名に対し報告書用紙を送付するなどして
その提出を要請していることは、意見書で明らかにしたとおりである。
2 昭和五三年七月一日時点における報告書提出義務者であつて、しかも報告書を
提出していない者の数を現時点からみて確定するならば八四名であるが、右提出義
務者のうち、前記二月一日頃、報告書用紙を送付するという形でその提出を要請し
ている者は四五名であり、その頃、右方法による報告書の提出を要請していなかつ
た者は三九名である。
3 右三九名について、報告書用紙を送付するという形でその提出の要請をしなか
つた理由は、次のとおりである。
 すなわち、被申立人らは、報告書の提出の促進を図つて、種々の具体的措置を講
じ、十分な配意を行つたところ、右の者のうち大部分の者は報告書は提出するが提
出については、関係医療機関に対して、当局から法改正にともなう報告書(診断書
を含む)提出の趣旨ならびに診断書の記載要領について理解を得て欲しい等の要請
を行い、当局はこの申出に対し、そのような手段を講ずることにより報告書の提出
が円滑に行われると判断したため、当面報告書の要請を差し控えたものである。
 その他その時点における事務手続上の誤により要請が遅れたものも若干数あつ
た。
 なお、申立人らの場合はあくまでも、報告書の提出義務はない、との独自の見解
を固執し、その見解に基づく取扱いを規則・通達で保証されない限り提出に応じら
れないという主張、(すなわちそれは、法律が改正されない限りその提出は全く見
込まれないことを意味するものである。)を繰り返すのみであつた。
4 その後右三九名に対しても、すでに報告書用紙を送付するという形での提出の
要請をも実施している。
 その結果、大半の者が報告書を提出しており、提出未済の者のうちでも、医療機
関に対し本人からの診断書の依頼は行われており、医療機関における作成事務処理
が遅れているため、提出が遅延している事情が認められる者が大部分である。
二 求釈明第一項後段については次のとおりである。
 報告書の提出のあつた者については、現在までに労災法一二条の八第三項(傷病
補償年金)に該当する者は無く、他方休業補償給付の支給要件を充足していると認
められた都度決定のうえ、支払を行つている。また、現在までに報告書の提出がな
い者については、上述の医療機関との実情を考慮し、裁量判断の結果、差止処分を
差し控えて、右同様の措置をとつている。
 なお、その他の者で事務手続上の誤りにより、報告書用紙を送付してその提出要
請を行わなかつた者についても、すでにその提出要請を行つているが、提出状況に
応じ、提出督励のための督促状発送等を行う予定としており、現時点では右同様の
措置を行つている。

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