弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定をいずれも取り消す。
     抗告費用は相手方の負担とする。
         理    由
 第一 申立及その理由
 一、 抗告人は主文同旨の決定を求め、次のとおり申し立てた。相手方を債権
者、申立人を債務者とする東京法務局所属公証人A作成昭和四八年第一、四〇三号
金銭消費貸借契約公正証書を債務名義として相手方は東京地方裁判所執行官に委任
し、昭和四九年一月一二日申立人の有体動産に対する強制執行をおこなった。(昭
和四八年執(イ)第七〇三五号)
 二、 申立人は右公正証書の執行力を排除するため、相手方に対し請求異議の訴
(東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第三一三号)を提起すると共に強制執行の取り
消しを申し立て(同裁判所同年(モ)第七四一号)、昭和四九年一月一九日「前記
請求異議の訴の本案判決があるまで前記公正証書に基く強制執行を停止する。」旨
の決定をうけ、この決定は同年三月九日相手方に送達された。
 三、 相手方は同年四月二日前記有体動産に対する強制執行の申立を取り下げ、
東京地方裁判所執行官より前記公正証書の返還をうけ、この公正証書の執行力が停
止されていることを知りながら、これを債務名義として東京地方裁判所に頭書の債
権差押及び転付命令の申請をなし、前記強制執行停止申立事件について申立人が供
託した保証金三五〇、〇〇〇円の国に対する取戻請求権の差押及び転付命令をう
け、この命令は国に対し同月六日、申立人に対し同月九日にそれぞれ送達された。
 (右債権差押及び転付命令の申立をなした相手方代理人鈴木紀男弁護士は、右申
立に先立ち前記請求異議事件の記録を閲覧しており、この点からも相手方が前記公
正証書による強制執行が停止されていることを熟知していたことは明らかであ
る。)
 四、 債務名義の執行力が停止されている間は、この債務名義によるすべての強
制執行は許されないから、原決定は違法である。よつてその取り消しを求める。
 第二、当裁判所の判断
 一、 前記第一の一、二及び三(但しかつこ内に記載した事実のうち鈴木紀男弁
護士が記録を閲覧したとの点を除く。)の事実は本件記録によって認められる。
 二、 如何なる種類の強制執行も、執行力が停止されている債務名義によつて行
うことが出来ないことは明らかであるが、債務名義そのものには執行停止の事実が
記載されないところから債権者が当該債務名義を利用し、その事実を知らない執行
機関に強制執行を申請した場合、執行がなされることはやむをえないけれども、差
押後直ちに完了しない強制執行においては、通常、債務者はこの違法な執行から救
済される機会をもつものである。しかしながら、「審尋を経ないで発付される債権
差押及び転付命令に対して不服のある利害関係人は、まず民事訴訟法五四四条一項
の異議申立をなし、この裁判に不服のあるものは、さらに同法五五八条の即時抗告
をなすべきものであり、債権差押及び転付命令が債務者及び第三債務者に送達され
たときは、これによって執行手続は終了するから、異議申立は許されず、従つて即
時抗告は許されない」という見解に従うかきり、債権差押及び転付命令については
前記のような違法な強制執行が救済される方法は事実上とざされる結果となる。
 <要旨>三、 右の結論は、実際上も、極めて不当てある。のみならず、法解釈上
も、債権差押及び転付命令は、即時抗告に服し(民事訴訟法五五八条)、即
時抗告期間中及び右抗告申立後これに対する裁判があるまでは、右命令はまだ確定
していないと解すべきであり、従つて、その限りにおいて、強制執行はなお終了し
ていないものというべきであつて、その間に、抗告裁判所に執行停止決定正本が提
出された(右正本が当裁判所に提出されたことは記録上明らかである。)ときは、
抗告裁判所としては、あたかも、執行裁判所が債権差押及び転付命令を発する手続
中に執行停止決定正本の提出を受けたにかかわらずこれを看過して、同命令を発し
た場合と同様に、右命令は、違法として取り消さるべきものである。
 よつて本件抗告は理由あるものとみとめ、原決定をいずれも取り消し、抗告費用
の負担については民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 白石健三 裁判官 小林哲郎 裁判官 間中彦次)

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