弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人本田秀夫の上告理由第一点の一ないし六について。
 原審が適法に確定したところによれば、上告人A1は、自己を本件土地の貸借人
として、一か月金五、〇〇〇円の割合による昭和三三年六月分から同三七年一月分
までの賃料をDあてに供託していたところ、Dの代理人Eは、昭和三七年二月二一
日その一部である所論供託金の還付を受けるにあたり、損害金として受領する旨の
留保をつけることなく、これを受領したのであるが、Dは、右還付の前後を通じ、
上告人A1を相手として、本件土地の返還による紛争の全面的解決を意図して訴訟
手段に訴え、同人と極力抗争中であつたというのであるから、所論のように、Eが、
右のような留保をつけることなく、右供託金の還付を受けた事実を捉えて、Dが賃
借権の譲渡について黙示の承諾を与えたものと解するのは相当でない。そして、原
判決挙示の証拠(ただし「証人Bの証言」とあるのは「被控訴人本人尋問における
同人の供述」の誤記と認める。)に照らせば、Eは、右還付を受ける際に、損害金
として受領する旨の留保をつけることを失念したものである旨の原審の認定は、首
肯することができる。所論は、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非
難するに帰する。所論の点に関する原審の判断は正当であつて、原判決には、所論
経験則違背ないし審理不尽の違法は認められず、論旨は採用することができない。
 同第一点の七および第二点について。
 本件賃貸借解除の意思表示は、訴外Fがした賃借権の無断譲渡を理由として、共
同貸借人であるFおよび上告人A2に対してされており、同上告人は、Fの右無断
譲渡行為を知らず、何らこれに関与していなかつたのであるが、右解除については、
解除権不可分の原則(民法五四四条一項参照)が働くのであるから、右解除の効果
は同上告人についても生ずるものといわなければならないところ、同上告人にみら
れる右のような事情を考慮しても、原審認定のその他の諸事情を綜合すれば、被上
告人の本件解除権および建物収去土地明渡請求権の行使は、権利濫用にあたらない
とした原審の判断は、正当として肯認することができる。原判決に所論の違法はな
く、論旨は採ることができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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