弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年(わ)第2041号,第2125号強盗致傷,建造物侵入,窃盗被告事

判決
主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1金品窃取の目的で,平成22年5月10日午前6時10分頃,A株式会社代
表取締役Bが看守する愛知県一宮市CD丁目E番F号にあるA社一宮営業所
に,その南側腰高窓から侵入し,同所において,Bが所有又は管理する現金約
1000円及びゴルフクラブ10本在中のゴルフバッグ1個外3点(時価合計
12万500円相当)を窃取した。
第2同年5月10日午前6時25分頃,同市CD丁目E番G号H方北側月極駐車
場において,同所に駐車中の自動車内から上記Bが所有するゴルフクラブ13
本外49点在中のゴルフバッグ1個(時価合計37万8600円相当)を窃取
した。
第3金銭に窮していたことから,ガソリンスタンドで給油を受けた上,その代金
を支払わないで逃走すること(いわゆる「入れ逃げ」)を企図し,同年6月1
5日午前8時44分頃,同県稲沢市I町JK番地にある株式会社L(以下「本
件ガソリンスタンド」という。)において,同店店長M(当時37歳)からレ
ギュラーガソリン34.28リットルの給油代金4559円(消費税等を含む。)
を請求された際,その支払を免れて逃走すべく,同人が被告人が運転する普通
乗用自動車(以下「被告人車両」という。)の助手席側後部付近に立っている
のを認識しながら被告人車両を発進させた上,上記Mが被告人車両を制止する
ため,その助手席側後部スライドドア(以下「スライドドア」という。)のハ
ンドル取っ手部分(以下「ドアハンドル」という。)に手を掛けて同ドアを開
け,同人が「まだだよー。」などと声を掛けるなどしたにもかかわらず,同人
がドアハンドルを手でつかんだままでいるのを認識しながら被告人車両を停止
させることなく同店南側道路まで引き続き進行させ,さらに,同人を引きずっ
たまま被告人車両を約35.6メートルにわたり走行させて時速約40キロメ
ートルまで加速させ,同人を地面に転倒させる暴行を加え,その反抗を抑圧し
て逃走し,もって上記代金の支払を免れて同金額相当の財産上不法の利益を得,
その際,上記暴行により同人に約1か月間の加療を必要とする左橈骨遠位端骨
折の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
省略
(争点に対する判断)
1本件の争点
本件の争点は,判示第3の事実について,被告人に強盗致傷罪の実行行為であ
る暴行の故意があったか否か,具体的には,被告人は,被害者がドアハンドルを
手でつかんだまま被告人車両を進行させ,被害者を引きずったまま被告人車両を
加速させることを認識していたか否かである(なお,本項において「本件」とい
うのは判示第3の事件を指す。)。
2被害者の証言の信用性について
本件の被害者であるMは,公判廷で被害当時の具体的な状況等について証言す
るので,その信用性について検討する。
Mは,被告人車両への給油作業終了後,被告人車両が動き出し,右手でスライ
ドドアのドアハンドルをつかんだところ,スライドドアが開き,「まだだよー。」
などと声を掛けたが,被告人車両は停止せず,一旦歩道のところで止まったもの
の,そのまま急発進したため,ドアが全開となって体が引きずられるようになっ
たなどと証言するが,その証言内容に殊更不自然なところはないし,証人として
わざわざ虚偽の供述をする動機も見当たらない。また,この被害状況は,本件を
目撃していたNの証言とも概ね一致しており,両者が事件後に供述をすり合わせ
た形跡も認められない。弁護人らが指摘するとおり,Mは,スライドドアの開き
方について,当初半開きだったと述べたのに対し,後に全開だったと述べており,
供述内容が変わっている。しかし,Mは,実際に被告人車両を用いた実況見分の
結果,スライドドアにしがみついた状態で被告人の姿が見えたという記憶がある
ため,その状況に合致するようにスライドドアは全開だったと供述するようにな
ったというのであり,被告人の姿を見たという供述は一貫していることに加え,
スライドドアの開き方についてはN証言とも一致することから,不合理な変遷が
あるとはいえない。
以上からすると,弁護人らのその余の指摘を考慮しても,M証言は信用するこ
とができる。
3推認の前提となる事実
M証言を中心とする関係証拠により認められる事実に加え,被告人が自認し,
弁護人らも争わない事実は,以下のとおりである。
被告人は,当初からいわゆる「入れ逃げ」の目的で,本件ガソリンスタンドに
入店し,運転席窓を全開にして,上記Nに給油を依頼した。
Mは,被告人車両助手席側後部にある給油口の付近に立って給油作業を行い,
給油口の蓋を閉めているときに,被告人車両が動きだしたので,被告人に聞こえ
るように普段より大きな声で「まだだよー。」と声を掛け,さらに,スライドド
アのドアハンドルを右手でつかんだところ,スライドドアが開いたため,再度,
大きな声で「まだだよー。」と声を掛けた。
その後,被告人車両は歩道上で一旦停止した後,急発進して大きくふくらむよ
うに左折して本件ガソリンスタンド南側道路に進行した。このとき,Mがドアハ
ンドルをつかんだままであったため,スライドドアは全開となり,Mは引きずら
れるような状況となった。
4検討
そこで検討すると,被告人は元々,いわゆる「入れ逃げ」をしようと考えてい
たというのであるから,このような場合,逃走時に店員の動向に最も関心を向け
るのが通常であると考えられることから,被告人が給油時から逃走を開始し,逃
走に成功したといえるまでの間,後方,特に店員がいるスライドドア付近に注意
を払っていたものと考えるのが自然である。また,Mは,スライドドアが大きく
開いたときを含めて少なくとも2回,普段より大きな声で声を掛けており,被告
人の聴力が多少低下していたとしても,被告人もその声を聞いたはずである。そ
の上,車両内の音や明るさ等の変化により,被告人は,スライドドアが開いたこ
とに当然気付いたはずである。
以上からすれば,被告人は,被告人車両を発進させた際,Mが近くにいて,そ
の後,Mがスライドドアにしがみつき,ひきずられたままでいることを認識した
ものと推認される。
そして,このような認識を有しながら,本件の運転行為に及んだ被告人に,暴
行の故意があったことは明らかである。
5被告人の弁解について
これに対し,被告人は,スライドドアが開いたり,Mが声を掛けてきたのは気
付かなかった,給油が終わるのを左サイドミラーで確認した後は,左後方を確認
することは一切なかったなどと供述する。
しかし,被告人が,当初から,いわゆる「入れ逃げ」をするつもりだったこと
からすると,左後方を全く確認しなかったというのは不自然である。また,被告
人は,日常生活に支障を来すほどの聴力の低下があったとまでは認められず,M
の声が聞こえなかったという点も不自然である。その上,被告人が供述する運転
態様は,信用できるM証言の内容とも大きく異なっている。その他弁護人らが被
告人の供述の信用性に関して主張するところもいずれも採用することができず,
被告人の弁解は信用できない。
6結論
以上によれば,弁護人らの主張はいずれも採用できず,被告人に暴行の故意が
あったと認められ,被告人には強盗致傷罪が成立する。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,建造物侵入の点は刑法130条前段に,窃盗の
点は同法235条に,判示第2の所為は同法235条に,判示第3の所為は同法2
40条前段にそれぞれ該当するところ,判示第1の建造物侵入と窃盗との間には手
段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗
罪の刑で処断し,各所定刑中判示第1及び第2の各罪についてはいずれも懲役刑を,
判示第3の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併
合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に法定
の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,同法21条を適用して未決
勾留日数中230日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条
1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,車上生活をしていた被告人が,金に困って犯した判示第1の建造物侵入,
窃盗(事務所荒らし),判示第2の窃盗(車上荒らし)及び判示第3のガソリンス
タンドにおいていわゆる「入れ逃げ」をしようとして逃走した際に,従業員を負傷
させた強盗致傷の事実からなる事案である。
判示第3の犯行は,交通量の多い道路で,被害者がドアハンドルをつかんでいる
ことを認識しながら,約35.6メートルにわたり自動車を走行させ,時速約40
キロメートルまで加速させて被害者を引きずったというものであって,成行きによ
っては振り落とされた被害者が被告人車両又は後続車にひかれて死に至る危険性も
あった非常に危険で悪質な行為である。被害者は,たまたま加療約1か月間の骨折
で済んだものの,その後長期間の不便を余儀なくされ,仕事にも支障を来したこと
を考えれば,傷害結果には重いものがある。治療費を含めて被害者に生じた財産的
損害も軽視できず,被害者が厳しい処罰を望んでいることももっともである。これ
に対し,被告人は,被害者には気付かなかったと不合理な弁解に終始しており,反
省の態度は窺えない。
判示第1及び第2の各犯行については,被害結果は合計で50万円を超える多額
なものである上,事務所ドアのガラスを割って侵入するなど,その態様も悪質であ
る。被告人は,車上で生活するようになった後,約2か月間のうちに,生活費欲し
さやガソリンを入手するために安易に判示各犯行に及んでおり,その動機は誠に身
勝手なものというべきであり,強い非難に値する。
他方,判示第1の被害品であるゴルフバッグ一式及び判示第2の被害品である給
油カードのクレジット利用分については被害弁償がなされ,その他の被害品につい
ては還付され,あるいは還付される見込みであること,判示第3については,当初
から強盗致傷に及ぼうとするまでの計画性は認められないこと,被告人の父親が監
督を誓約していること,被告人に前科がないことなど,被告人のために酌むことが
できる事情も認められる。
以上を総合して,被告人に科すべき刑について検討する。判示第3の強盗致傷罪
については,その犯行態様の危険性,傷害結果の重さ,身勝手な動機などからする
と,その刑事責任には重いものがあるというべきであり,加えて判示第1及び第2
の各犯罪の刑事責任も軽視することはできない。そうすると,本件は酌量減軽すべ
き事案であるとは認められないが,上記の被告人のために酌むことができる事情の
ほか,弁護人らが指摘する事情を考慮して,主文の刑を科するのが相当であると判
断した。
(求刑・懲役8年)
平成23年6月28日
名古屋地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官伊藤納
裁判官谷口吉伸
裁判官塚田久美子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛