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平成29年2月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ワ)第21853号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成29年2月6日
判決
原告有限会社リツコ
同訴訟代理人弁護士萱場健一郎
同片山律
同上坂こずえ
同清水信寿
同竹村嘉洋
被告タンスのゲン株式会社
同訴訟代理人弁護士井寺修一
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告商品目録記載の商品を販売し,販売のための展示をし,輸
出し,又は輸入してはならない。
2被告は,前項の商品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成27年9月4日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,原告が,被告の販売する別紙被告商品目録記載のテント(以下「被
告テント」という。)は原告の商品の形態を模倣したものであると主張して,
被告に対し,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号,3条
1項,2項に基づき,被告テントの販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,
同法4条,5条2項に基づき,損害合計500万円及びこれに対する不法行為
の後の日である平成27年9月4日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
なお,原告は,被告の他の製品に関しても,意匠権侵害を理由に販売等の差
止め及び廃棄並びに損害賠償を請求していたが,この請求部分については当審
において和解が成立している。
2前提事実(当事者間に争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認定で
きる事実)
(1)当事者
原告は,小間物又は日用品雑貨類の輸入又は販売等を目的とする会社であ
る。(弁論の全趣旨)
被告は,インターネットによる通信販売等を目的とする会社である。(弁
論の全趣旨)
(2)原告の商品
原告は,「FIELDOOR」とのブランドによるワンタッチ式のタープ
テント(以下「原告テント」という。)を日本国内で販売している。
本件において原告は,原告テントには①平成22年10月頃から販売され
たモデル(以下「第1世代」という。),②平成25年10月15日から販
売されたモデル(以下「第2世代」という。)及び③平成27年4月28日
から販売されたモデル(以下「第3世代」という。)が存在すると主張して
いる。
(3)被告テント
被告は,平成27年5月2日以降,被告テントを日本国内で販売している。
(弁論の全趣旨)
3争点
(1)原告の請求主体性
(2)「商品の形態」該当性
(3)被告テントの構成態様
(4)「模倣」の有無
(5)不競法19条1項5号イ(保護期間の終了)適用の可否
(6)損害発生の有無及びその額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(原告の請求主体性)について
〔原告の主張〕
原告テント(第2世代のもの)は,原告が独自に開発したものであって,そ
の形態はありふれたものではない。このことは,以下の点からも明らかである。
(1)ベンチレーション
原告は,原告テントを開発するに当たり,同業他社との差別化を図るため
に,ベンチレーションを天幕に取り付けることを考案し,原告テントに反映
させると同時に実用新案登録をしている。
(2)製品の高さ
原告テントの第1世代は3段階調節であったが,これを2段階に落とすこ
とで,梱包サイズを縮小化し,商品単価に反映させるように工夫している。
(3)グランドシートの固定に関する設計
原告テントでは,グランドシートとテント本体をマジックテープで固定し
ている。この点はこれまでに類を見ない画期的な設計であり,原告の独自設
計であることは明らかである。
(4)シルバーコーティング
原告は,シルバーコーティングをテントに応用するとUVカット等の効果
が期待できるのではないかと検討し,テントの生地との相性等を調整しなが
ら,原告テントに採用している。
(5)天幕とフレームの固定方法
原告テントにおける天幕とフレームの固定方法は,原告が考えたいくつか
の方法を中国の工場に持ち込み,どのような形で固定すれば良いのかを工場
側と検討した上で考案した方法であって,原告独自の開発によるものである。
(6)サイドシートのファスナーによる固定
原告テントの開発当時,サイドシートを取り付けることのできるタイプは
圧倒的に少なく,またその取付方法はフレームにマジックテープで取り付け
るものが主流であって,原告テントのようにファスナーで取り付けるという
テントは市場に見当たらなかった。
〔被告の主張〕
(1)原告テントのデザインはもともと中国にあったもので,15年前から同種
商品が生産され,他のメーカーも生産・販売を行っている。したがって,原
告が原告テントを開発・商品化した事実はなく,原告は請求主体たり得ない。
(2)この点に関して原告は,原告テントは原告が独自に開発したものであると
か,原告独自の工夫であるなどと主張する。
しかし,原告の主張するベンチレーションその他の特徴について,原告が
独自に開発したことの立証はなく,そもそも原告テント自体ですら,原告が
開発したことの立証がない。本件全証拠によっても,原告テントは単に原告
が販売しているものというにすぎない。
2争点(2)(「商品の形態」該当性)について
〔原告の主張〕
(1)原告テント(第2世代のもの)の基本的構成態様は下記アのとおりであり,
具体的構成要素は下記イのとおりであって,その形態は不競法2条1項3号
の「商品の形態」に該当する。
ア基本的構成態様
A地面から垂直に立つ4本の支柱と,略正四角錐形の天幕から成
るテントの形態をなしている。
Bワンタッチで折り畳むことが可能な構造になっている。
C天幕の4辺には,いずれもファスナーがついており,サイドシ
ートを取り付けられるようになっている。
D天幕部分には,風抜きのためのベンチレーションがついている。
E支柱には,支柱を覆う細長い天幕がついている。
Fテントの高さは2段階で調節できる。
イ具体的構成態様
A-1支柱の断面は,四角形である。
A-2支柱の基部には,略五角形の部材を用い,面ファスナー(マジ
ックテープ)で2方向からグランドシートを固定することができ
るようになっている。
A-3支柱の基部の部材にグランドシートを固定した後,1本の支柱
につき2本のペグを同部材の穴に通すことで,テントを地面との
間に固定することができる。
A-4略正四角錘形の底辺の長さは3mである。
A-5天幕とフレームは,支柱上部に巻かれた面ファスナーのオス面
に,天幕の裏地に固定された面ファスナーのメス面を固着させる
方法により固定されている。
A-6テントをロープで固定するため,ロープを通す略D字型の白い
部材が略正四角錘形の底面の四つの角に取り付けられている。
A-7天幕の内側には,UVカットのためのシルバーコーティングが
採用されている。
A-8天幕の内側には,縫い目の部分から水がしみ込むことを防止す
るために,縫い目の部分の裏側にシームシーリングの加工がされ
ている。
B-1天幕部分の骨組みは,パンタグラフ型の構造で,菱形が収縮す
ることで,折り畳むことが可能になっている。
B-2展開した状態を固定するために,プルピン式のロックを採用し
ている。
B-3収納時の大きさは,22.5cm,22.5cm,115cmである。
B-4収納用の袋は,黒色のポリエステル製で,持ち手が二つ付いて
いる略直方体形である。
C-1略正四角錘形の天幕の底辺の内側に,黒いファスナーが取り付
けられている。
D-1ベンチレーションのために開いている正方形の大きさは,約6
8cm四方である。
E-1支柱を覆う細長い天幕の先端には,鍵型の部材を用い,支柱に
開いた穴に,鍵型の部材を引っ掛けることで,同天幕を固定でき
る。
E-2天幕の形は,先端に行くにつれて細くなっていく略三角形である。
E-3天幕の色は,テント本体の天幕と同じ色を採用している。
F-1高くしたときの天頂部の高さは241cmであり,低くしたとき
の天頂部の高さは233cmである。
F-2支柱の中頃に,銀色の突起があり,その突起が二つの穴のいず
れかに入ることで高さの調節ができる。
(2)被告の主張に対する反論
この点に関して被告は,原告テントの基本的構成態様及び具体的構成要素
がいずれも「タープテントであれば一般的に有している態様」であって,当
該商品の機能を確保するために不可欠な形態が酷似するにすぎないと主張す
る。
しかし,まず,原告テントの基本的構成態様のうち,Dのベンチレーショ
ンは,テントが風で飛ばされないように原告が独自に開発したものであり,
決して一般的なものとはいえない。Fの高さの調節についても,一般的なも
のは3段階調節が可能であるのに対し,原告テントはあえて2段階調節まで
としている点が特殊である。
次に,原告テントの具体的構成要素のうち,ペグを用いないでも支柱がグ
ランドシートと固定できるように設計されている点(A-2),天幕とフレ
ームが面ファスナーにより固定されている点(A-5),UVカットのため
に天幕の裏側にシルバーコーティングを採用している点(A-7),サイド
シートとの固定方法としてファスナーを採用している点(C-1)は,いず
れも原告独自の工夫といえる。また,原告テントの耐水圧は2000mmであ
り,この点は機能的にも原告独自の工夫である。そして,ロープを固定する
ための部材(A-6),プルピン式のロックの採用(B-2),収納用の袋
の色(B-4),脚部の支柱の天幕の採用(E-1)も,一般的なものでは
ない。
〔被告の主張〕
(1)原告テントの基本的構成態様及び具体的構成態様は,いずれも不知。
(2)タープテントとは,1980年初頭の米国において製品化されたものであ
り,それ以後,市場は広がり,多数の商品が製作・販売されている。
原告テントに関して,原告の主張する基本的構成態様及び具体的構成態様
は,いずれもタープテントであれば一般的に有している態様である。原告は
原告テントの仕様のうちいくつかの点が特殊であるなどとも主張するが,い
ずれもありふれたものにすぎない。
したがって,原告テントと被告テントが酷似しているとしても,いずれも
当該商品の機能を確保するために不可欠な形態の酷似であるから,原告テン
トの形態は不競法2条1項3号の「商品の形態」に該当しない。
3争点(3)(被告テントの構成態様)について
〔原告の主張〕
被告テントの構成態様は,以下のとおりである。
(1)基本的構成態様
A地面から垂直に立つ4本の支柱と,略正四角錐形の天幕から成るテ
ントの形態をなしている。
Bワンタッチで折り畳むことが可能な構造になっている。
C天幕の4辺には,いずれもファスナーがついており,サイドシート
を取り付けられるようになっている。
D天幕部分には,風抜きのためのベンチレーションがついている。
E支柱には,支柱を覆う細長い天幕がついている。
Fテントの高さは2段階で調節できる。
(2)具体的構成態様
A-1支柱の断面は,四角形である。
A-2支柱の基部には,略五角形の部材を用い,面ファスナー(マジック
テープ)で2方向からグランドシートを固定することができるよう
になっている。
A-3支柱の基部の部材にグランドシートを固定した後,1本の支柱につ
き2本のペグを同部材の穴に通すことで,テントを地面との間に固
定することができる。
A-4略正四角錘形の底辺の長さは3mである。
A-5天幕とフレームは,支柱上部に巻かれた面ファスナーのオス面に,
天幕の裏地に固定された面ファスナーのメス面を固着させる方法に
より固定されている。
A-6テントをロープで固定するため,ロープを通す略D字型の白い部材
が略正四角錘形の底面の四つの角に取り付けられている。
A-7天幕の内側には,UVカットのためのシルバーコーティングが採用
されている。
A-8天幕の内側には,縫い目の部分から水がしみ込むことを防止するた
めに,縫い目の部分の裏側にシームシーリングの加工がされている。
B-1天幕部分の骨組みは,パンタグラフ型の構造で,菱形が収縮するこ
とで,折り畳むことが可能になっている。
B-2展開した状態を固定するために,プルピン式のロックを採用してい
る。
B-3収納時の大きさは,22cm,22cm,114cmである。
B-4収納用の袋は,黒色のポリエステル製で,持ち手が二つ付いている
略直方体形である。
C-1略正四角錘形の天幕の底辺の内側に,黒いファスナーが取り付けら
れている。
D-1ベンチレーションのために開いている正方形の大きさは,約68cm
四方である。
E-1支柱を覆う細長い天幕の先端には,鍵型の部材を用い,支柱に開い
た穴に,鍵型の部材を引っ掛けることで,同天幕を固定できる。
E-2天幕の形は,先端に行くにつれて細くなっていく略三角形である。
E-3天幕の色は,テント本体の天幕と同じ色を採用している。
F-1高くしたときの天頂部の高さは262cmであり,低くしたときの天
頂部の高さは253cmである。
F-2支柱の中頃に,銀色の突起があり,その突起が二つの穴のいずれか
に入ることで高さの調節ができる。
〔被告の主張〕
(1)基本的構成態様について
AないしEは認め,Fは否認する。テントの高さは3段階調整である。
(2)具体的構成態様について
D-1は不知,F-1のうち低くしたときの天頂部の高さは否認し,その
余は認める。低くしたときの天頂部の高さは179cmである。
4争点(4)(「模倣」の有無)について
〔原告の主張〕
(1)実質的同一性
原告テント(第2世代のもの)の構成態様は前記2〔原告の主張〕のとお
りであり,被告テントの構成態様は前記3〔原告の主張〕のとおりである。
このように,原告テントと被告テントの形態は,テントの高さや,収納時の
サイズ,使われている部材のうち1か所において若干の相違があるものの,
それ以外については全く一致する。
したがって,原告テントと被告テントとを対比して観察した場合,両者は
実質的に同一といえるほど酷似している。
(2)依拠性
以下の各事情に照らせば,被告が原告テントの形態に依拠して被告テント
の形態を作り出したことは明らかである。
ア上記(1)のとおり,原告テントと被告テントの形態は実質的に同一であ
る。
イ機能的にも,被告テントは原告テントと同じ耐水圧2000mm以上の
生地を採用している。
ウ被告代表者Aは訴外株式会社G-DREAMSの代表者でもあるとこ
ろ,同社の前代表取締役であるB(以下「B」という。)は,被告テン
トの販売前である平成27年2月27日,原告テントを購入している。
エ被告が販売しているテント用物置ネットの商品説明用写真には,原告
テントの写真が用いられている。
(3)小括
以上によれば,被告テントは原告テントを「模倣」(不競法2条1項3号,
同条5項)したものである。
〔被告の主張〕
(1)実質的同一性について
原告テントと被告テントとは,原告の指摘する相違点にとどまらず,他に
も,①上部と側部のパイプの太さ,②パイプとパイプを連結するための上部
の部品,③トップカバー上部の仕様,④製品の高さ,⑤ロープを使用する際
に結ぶための部材,⑥トップカバーにおける擦れ防止の加工の有無,⑦脚部
のカバーの仕様が異なる。
(2)依拠性について
ア被告が原告テントに依拠して被告テントを製造したことについては,否
認する。被告は,平成27年3月に上海市で開催された展示会にタープテ
ントが出品されていたため,その製造メーカーと取引を開始したものにす
ぎず,原告の商品を知ってそれと酷似した商品を作り出したわけではない。
イ被告テントが耐水圧2000mm以上の生地を採用していることは認め,
Bが原告テントを購入した事実は不知。被告がBに購入を指示したことは
なく,仮にBが購入しているとすれば,それは個人的用途にすぎない。被
告の商品説明用写真に原告テントが写っている事実は不知。
(3)小括
以上のとおり,被告テントは原告テントを「模倣」(不競法2条1項3号,
同条5項)したものではない。
5争点(5)(不競法19条1項5号イ〔保護期間の終了〕適用の可否)につい

〔被告の主張〕
(1)原告によれば,日本国内における原告テントの販売開始時期は平成22年
10月頃というところ,被告はそこから3年以上経過した平成27年5月2
日に被告テントの販売を開始している。
したがって,被告による被告テントの販売には,不競法19条1項5号イ
により,同法3条及び4条の適用がない。
(2)原告の主張に対する反論
この点に関して原告は,平成22年10月頃から販売しているのは第1世
代の原告テントであって,本件で問題としている第2世代のものとは異なる
などと主張する。
しかし,原告がその主張の根拠とする「タープテント史」と題する書面
(甲13の1)は,本訴係属後に作成されたものであって,その信用性は認
め難い。そして,仮に原告の主張を前提にしても,原告のいう第2世代は第
1世代の改良品ないし手直し品にすぎないから,保護期間の始期は第1世代
の販売を基準とすべきである。
〔原告の主張〕
(1)原告が平成22年10月頃から販売しているのは,第1世代の原告テント
であり,本件で問題としている第2世代のものとは異なる。そして,第2世
代の原告テントの販売開始時期は,平成25年10月15日である。
(2)第1世代と第2世代の違いは,以下の5点である。
ア高さ調節
第1世代では高さ調節が3段階であったところ,第2世代ではこれを
2段階に変更し,これに伴い,支柱の長さ自体を短くした。これにより,
梱包サイズ(3辺の合計)が166cmから158cmになり,より安い運
賃で配送することができるようになった。
イシルバーコーティングによるUVカット加工
第1世代ではテントの中にも太陽光がじわりと届き,暑さやまぶしさ
を感じたり,日焼けをしたりしたという問題点があった。そこで,第2
世代ではテントの生地にシルバーコーティングを施して,上記の問題点
を解消した。
ウ支柱を覆う細長い天幕のデザイン
第1世代では,支柱を覆う細長い天幕には,テント本体とは異なり,
ストライプ状の柄が入っていた。しかし,このストライプは少し派手な
印象があり,ユーザーから敬遠されているとの意見があったため,第2
世代では,支柱を覆う細長い天幕の色をテント本体の天幕と同じ無地の
色に変更した。
エ収納バッグ
第1世代では,収納バッグの色をテント本体の色に合わせ,中にどの
色のテントが入っているのか分かるようにしていた。しかし,これでは
仕入れコストが掛かる一方,ユーザーにとってはテント本体と収納バッ
グとで色を合わせなくても困らないとの意見があったため,第2世代で
は,収納バッグの色を黒に統一した。
オ耐水圧及びシームシーリング
第1世代では商品に軽い撥水加工をしていたものの,防水処理がされ
ていなかったため,防水機能が不十分であった。そこで,第2世代では
防水処理を施した上,テントの縫い目からの浸水を防ぐため,シームシ
ーリングという方法で天幕の裏側から縫い目を保護し,防水機能を高め
た。
6争点(6)(損害発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
被告による被告テントの販売数量は3000台を下らないところ,被告テン
ト1台当たりの粗利は1500円を下らないので,被告が被告テントを販売し
たことにより原告に発生した損害(不競法5条2項)は450万円を下らない。
また,本訴訟追行に当たって相当な弁護士費用は,50万円を下らない。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1争点(5)(不競法19条1項5号イ〔保護期間の終了〕適用の可否)につい

事案に鑑み,争点(5)について判断する。
(1)不競法2条1項3号及び19条1項5号イは,他人の「商品」が日本国内
において「最初に販売された日」から起算して3年を経過しない間に限り,
当該商品の形態を模倣した商品の譲渡行為等を不正競争行為に当たるとした
ものである。その趣旨は,同法1条の事業者間の公正な競争等を確保すると
いう目的に鑑み,開発に時間も費用もかけず,先行投資した他人の商品形態
を模倣した商品を製造・販売し,投資に伴う危険負担を回避して市場に参入
しようとすることは公正とはいえないから,そのような行為を不正競争行為
として禁ずることにしたものと解される。
このことからすれば,不競法19条1項5号イの「最初に販売された日」
に係る「商品」とは,保護を求める商品の形態を具備した最初の商品を意味
するのであって,このような商品の形態を具備しつつ若干の変更を加えた後
続商品を意味するものではないと解すべきである。
(2)これを本件についてみるに,原告は,原告テントの第2世代を第1世代と
比較すると,①高さ調節を変更した点,②シルバーコーティングによるUV
カット加工を施した点,③支柱を覆う細長い天幕のデザインを変更した点,
④収納バッグの色を変更した点,⑤耐水圧及びシームシーリングを施した点
で異なるから,上記「商品」とは第2世代の原告テントを指し,その販売開
始日である平成25年10月15日を「最初に販売された日」とすべき旨主
張する。
しかし,本件全証拠を精査しても,そもそも原告テントに第1世代と第2
世代があり,第2世代は第1世代と上記①ないし⑤の全ての点で異なってい
ることを示すに足りる的確な証拠は見当たらない。
この点に関して原告は,「タープテント史」と題する書面(甲13の1)
にその旨記載されているかのように主張するが,原告作成の証拠説明書3に
よれば,同書面は本訴係属中の平成27年12月に原告自身によって作成さ
れたものというのであって,その形式に照らし,証明力は極めて低いといわ
ざるを得ない上,その内容をみても,「第1世代」や「第2世代」という用
語は直接的には記載されていない。しかも,同書面には,原告テントについ
て,高さ調節の変更(上記①)を平成25年10月15日生産開始分から施
した旨の記載があり,この点は原告の主張とも符合しているものの,他方で,
シルバーコーティングによるUVカット加工(上記②),支柱を覆う細長い
天幕のデザインの変更(上記③)及び耐水圧(上記⑤)を施したのは同年4
月18日生産開始分からという記載もあって,これらは原告の主張する時期
とは必ずしも整合するものではないし,収納バッグの色の変更(上記④)に
ついては記載すらされていない。
また,原告は,「ワンタッチタープテント取扱説明書」と題する2通の書
面(甲22,23)の記載に関し,原告作成の証拠説明書4において,この
うち前者が第1世代の,後者が第2世代のものであると説明する。しかし,
これらの書面にも「第1世代」や「第2世代」との用語はなく,各書面の作
成時期も必ずしも判然としない(甲23には「2013.0731」との記
載があり,これは2013年〔平成25年〕7月31日を意味するものと解
されるが,原告の主張する第2世代の販売開始日〔平成25年10月15
日〕と整合しない。)。しかも,上記各書面からは,原告テントにおいて3
段階調節から2段階調節への変更(上記①)及び支柱を覆う細長い天幕のデ
ザインの変更(上記③)がされたことはうかがえるものの,その余の変更点
(上記②,④及び⑤)は書面上直ちに確認することができない。
以上からすれば,原告の上記主張は,そもそもその前提を欠くものといわ
ざるを得ない。
(3)仮に原告の主張するとおり,原告テントに第1世代と第2世代があり,第
2世代は第1世代と上記①ないし⑤の全て点で異なっているとしても,以下
のとおり,原告が保護を求める商品の形態は第1世代から具備されていたも
のというべきである。
ア原告は,第2世代の原告テントの構成態様が次の(ア)及び(イ)のとおり
であるとし,この形態が不競法2条1項3号により保護される「商品の
形態」である旨主張している。
(ア)基本的構成態様
A地面から垂直に立つ4本の支柱と,略正四角錐形の天幕から成
るテントの形態をなしている。
Bワンタッチで折り畳むことが可能な構造になっている。
C天幕の4辺には,いずれもファスナーがついており,サイドシ
ートを取り付けられるようになっている。
D天幕部分には,風抜きのためのベンチレーションがついている。
E支柱には,支柱を覆う細長い天幕がついている。
Fテントの高さは2段階で調節できる。
(イ)具体的構成態様
A-1支柱の断面は,四角形である。
A-2支柱の基部には,略五角形の部材を用い,面ファスナー(マジ
ックテープ)で2方向からグランドシートを固定することがで
きるようになっている。
A-3支柱の基部の部材にグランドシートを固定した後,1本の支柱
につき2本のペグを同部材の穴に通すことで,テントを地面と
の間に固定することができる。
A-4略正四角錘形の底辺の長さは3mである。
A-5天幕とフレームは,支柱上部に巻かれた面ファスナーのオス面
に,天幕の裏地に固定された面ファスナーのメス面を固着させ
る方法により固定されている。
A-6テントをロープで固定するため,ロープを通す略D字型の白い
部材が略正四角錘形の底面の四つの角に取り付けられている。
A-7天幕の内側には,UVカットのためのシルバーコーティングが
採用されている。
A-8天幕の内側には,縫い目の部分から水がしみ込むことを防止す
るために,縫い目の部分の裏側にシームシーリングの加工がさ
れている。
B-1天幕部分の骨組みは,パンタグラフ型の構造で,菱形が収縮す
ることで,折り畳むことが可能になっている。
B-2展開した状態を固定するために,プルピン式のロックを採用し
ている。
B-3収納時の大きさは,22.5cm,22.5cm,115cmである。
B-4収納用の袋は,黒色のポリエステル製で,持ち手が二つ付いて
いる略直方体形である。
C-1略正四角錘形の天幕の底辺の内側に,黒いファスナーが取り付
けられている。
D-1ベンチレーションのために開いている正方形の大きさは,約6
8cm四方である。
E-1支柱を覆う細長い天幕の先端には,鍵型の部材を用い,支柱に
開いた穴に,鍵型の部材を引っ掛けることで,同天幕を固定で
きる。
E-2天幕の形は,先端に行くにつれて細くなっていく略三角形であ
る。
E-3天幕の色は,テント本体の天幕と同じ色を採用している。
F-1高くしたときの天頂部の高さは241cmであり,低くしたとき
の天頂部の高さは233cmである。
F-2支柱の中頃に,銀色の突起があり,その突起が二つの穴のいず
れかに入ることで高さの調節ができる。
イ他方,原告が第1世代と第2世代の相違点として指摘するのは,上記
(2)のとおり,①高さ調節を変更した点,②シルバーコーティングによる
UVカット加工を施した点,③支柱を覆う細長い天幕のデザインを変更
した点,④収納バッグの色を変更した点,⑤耐水圧及びシームシーリン
グを施した点という5点でしかない。そして,このうち①は原告のいう
基本的構成態様F(具体的構成態様のF-1及びF-2)に,②ないし
⑤は原告のいう具体的構成態様のA-7(②),A-8(⑤),B-4
(④)及びE-3(③)に相当するものと解されるとしても,その余の
構成態様,すなわち基本的構成態様のA,B,C,D及びEと,具体的
構成態様のA-1,A-2,A-3,A-4,A-5,A-6,B-1,
B-2,B-3,C-1,D-1,E-1及びE-2は,いずれも第1
世代と第2世代とで共通する構成態様ということになる。
そうすると,原告が不競法2条1項3号により保護されるべき商品の
形態として主張する構成態様の大部分は,第1世代の当時から存在して
いたものというべきである。
ウ次に,原告の主張する上記①ないし⑤の各相違点について,以下検討
を加える。
(ア)高さ調節
原告は,第1世代では高さ調節が3段階であったところ,第2世代で
はこれを2段階に変更したと主張する。
しかし,「商品の形態」とは,「需要者が通常の用法に従った使用に
際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並
びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう」(不競法2
条4項)ものであって,商品の機能及び性能それ自体は不競法2条1項
3号で保護される「商品の形態」には当たらないと解されるところ,高
さ調節を「3段階」で行うのか,それとも「2段階」で行うのかという
点は,まさに原告テントの機能ないし性能それ自体の違いをいうものに
すぎず,「商品の形態」には当たらないといわざるを得ない。
また,原告は,支柱の長さを変更し,テントを展開したときの高さが
8.5cm小さくなったと主張する。
しかし,証拠(甲13の1)によれば,この変更は,従前の支柱の長
さが198.6cmであったものを190.1cmに縮めたというものにす
ぎず,その割合からすれば,わずかな相違点であるといわざるを得ない。
なお,原告は,原告テントを発送する場合には梱包サイズ(3辺の合
計)が160cmを超えるか否かで送料が変わるところ,上記各変更によ
り梱包サイズが166cmから158cmになったため,送料が安くなり,
その結果,売れ行きが伸びたなどとも主張するが,そのこと自体は形態
を変更した理由若しくは目的や効果にすぎず,結局,その外観上は大き
さに関するわずかな変更がされたというにとどまるから,この点をもっ
て,不競法2条1項3号で保護される「商品の形態」において顕著な変
更がされたとはいえない。
(イ)シルバーコーティングによるUVカット加工
原告は,第2世代ではテントの生地にシルバーコーティングを施して
UVカットを実現した旨主張する。
しかし,この点は,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚に
よって認識することができるものとはいい難く,商品の機能及び性能そ
れ自体の変更をいうものにすぎないから,不競法2条1項3号の「商品
の形態」には当たらない。
この点に関して原告は,従前はテントの中にいても太陽が透けて見え
ていたのが,シルバーコーティングを施したことによりまぶしくなくな
り,もって見た目や色が変化したなどとも主張するが,これを裏付ける
証拠は存在しないし,仮にそのような変化が生じたとしても,基本的に
は商品の機能及び性能の変化の範囲を超えるものではないか,外観にお
いてわずかな差異を生じさせるものにすぎないから,原告の上記主張は
採用することができない。
(ウ)支柱を覆う細長い天幕のデザイン
原告は,第1世代では支柱を覆う細長い天幕にストライプ状の柄が入
っていたのを,第2世代ではテント本体の天幕と同じ無地の色に変更し
たと主張する(別紙「天幕デザイン変更図」参照)。
しかし,上記変更は,原告も自認するとおり,支柱を覆う細長い天幕
の部分にプリントされた色彩及び図柄の変更にすぎず,支柱を覆う細長
い天幕の外形的な形状自体には何ら変更がないのであるから,仮に上記
デザインが不競法2条1項3号の「商品の形態」に該当するとしても,
テント全体からみればわずかな変更にすぎないといわざるを得ない。
(エ)収納バッグ
原告は,収納バッグの色を黒色に統一したと主張するが,これを裏付
ける証拠はない上,そもそもこの主張自体はテント本体の形態の変更を
いうものでもないし,その変更点も,色を変更したというものにすぎな
い。
なお,原告は,収納バッグの色を統一したことにより在庫リスクが減
ったとも主張するが,具体的に在庫リスクが減ったことを裏付ける証拠
は存在しないし,そもそも在庫リスクが減ったかどうかは「商品の形態」
の問題ではない。
(オ)耐水圧及びシームシーリング
原告は,第2世代では防水処理を施した上,シームシーリングという
方法で天幕の裏側から縫い目を保護し,より防水機能を高めたと主張す
る。
しかし,これらはいずれも需要者が通常の用法に従った使用に際して
知覚によって認識することができるものとはいい難く,商品の機能及び
性能それ自体の変更をいうものにすぎないから,不競法2条1項3号の
「商品の形態」には当たらないし,仮に天幕の裏側から縫い目を保護し
たことにより外観に変更が生じているとしても,テント全体からみれば
わずかな差異にすぎない。
(カ)小括
以上からすれば,原告の主張する原告テントの第2世代における変更
点は,そもそも不競法2条1項3号の「商品の形態」を変更するもので
はないか,仮に「商品の形態」を変更するものであるとしても,原告テ
ントの第1世代の商品形態を具備しつつ若干の変更を加えたものにすぎ
ないというべきであるから,第1世代と第2世代は実質的に同一の形態
であるものといわざるを得ない。
(4)以上によれば,原告の主張を前提としても,原告が保護を求める商品の形
態を具備した最初の商品は,第2世代の原告テントではなく,第1世代の原
告テントであるというべきである。そして,第1世代の原告テントが日本国
内で最初に販売されたのは平成22年10月頃というのであるから(前記第
2,2(2)),被告テントの販売開始時点である平成27年5月2日時点で
は,既に3年が経過していることになる。
したがって,被告による被告テントの販売には,不競法19条1項5号イ
の適用除外事由があり,そもそも同法3条及び4条の適用がない。
2結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,本訴請求は理由がないか
らこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
瀬孝
裁判官
勝又来未子
(別紙)
被告商品目録
商品名タープテント簡単設置高耐水UVカット
型番19000010
構成
(構成の特定は平成28年5月27日付け原告準備書面3の記載による。)
(1)基本的構成態様
A地面から垂直に立つ4本の支柱と,略正四角錐形の天幕から成るテ
ントの形態をなしている。
Bワンタッチで折り畳むことが可能な構造になっている。
C天幕の4辺には,いずれもファスナーがついており,サイドシート
を取り付けられるようになっている。
D天幕部分には,風抜きのためのベンチレーションがついている。
E支柱には,支柱を覆う細長い天幕がついている。
Fテントの高さは2段階で調節できる。
(2)具体的構成態様
A-1支柱の断面は,四角形である。
A-2支柱の基部には,略五角形の部材を用い,面ファスナー(マジック
テープ)で2方向からグランドシートを固定することができるよう
になっている。
A-3支柱の基部の部材にグランドシートを固定した後,1本の支柱につ
き2本のペグを同部材の穴に通すことで,テントを地面との間に固
定することができる。
A-4略正四角錘形の底辺の長さは3mである。
A-5天幕とフレームは,支柱上部に巻かれた面ファスナーのオス面に,
天幕の裏地に固定された面ファスナーのメス面を固着させる方法に
より固定されている。
A-6テントをロープで固定するため,ロープを通す略D字型の白い部材
が略正四角錘形の底面の四つの角に取り付けられている。
A-7天幕の内側には,UVカットのためのシルバーコーティングが採用
されている。
A-8天幕の内側には,縫い目の部分から水がしみ込むことを防止するた
めに,縫い目の部分の裏側にシームシーリングの加工がされている。
B-1天幕部分の骨組みは,パンタグラフ型の構造で,菱形が収縮するこ
とで,折り畳むことが可能になっている。
B-2展開した状態を固定するために,プルピン式のロックを採用してい
る。
B-3収納時の大きさは,22cm,22cm,114cmである。
B-4収納用の袋は,黒色のポリエステル製で,持ち手が二つ付いている
略直方体形である。
C-1略正四角錘形の天幕の底辺の内側に,黒いファスナーが取り付けら
れている。
D-1ベンチレーションのために開いている正方形の大きさは,約68cm
四方である。
E-1支柱を覆う細長い天幕の先端には,鍵型の部材を用い,支柱に開い
た穴に,鍵型の部材を引っ掛けることで,同天幕を固定できる。
E-2天幕の形は,先端に行くにつれて細くなっていく略三角形である。
E-3天幕の色は,テント本体の天幕と同じ色を採用している。
F-1高くしたときの天頂部の高さは262cmであり,低くしたときの天
頂部の高さは253cmである。
F-2支柱の中頃に,銀色の突起があり,その突起が二つの穴のいずれか
に入ることで高さの調節ができる。
(別紙)
天幕デザイン変更図
1ストライプあり
2ストライプなし
(甲13の1より抜粋)

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