弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役弐年に処する。
     原審及び当審に於ける訴訟費用中原審相被告人Bのための国選弁護人に
支給した分を除きその余は被告人Aの負担とする。
         理    由
 高橋弁護人の論旨第一、二、三点及び岡崎弁護人の論旨一について。
 よつて按ずるに、本件公訴事実は、主たる訴因(本来的訴因)として、被告人A
は原審相被告人Bと共謀の上、昭和二十六年十月二十日頃千葉市a町b番地株式会
社C銀行D店に於て、Eに対して真実預金払戻を受くる資格も権限もないのに拘ら
ず、あるように装い、「至急F公団に支払をせねばならないので間に合うように支
払つて貰いたい」と申し向け、同人をしてその旨誤信させ、即時同所に於てGの受
け取るべき現金五十万円及び金二百万円の同行振出自己宛小切手一枚を交付させて
之を騙取したものである、と云い、罰条として刑法第二百四十六条を掲げていたと
ころ、原審は、原判決挙示の証拠に基いて、被告人AはGから約束手形の割引を依
頼されてこれを割引現金化した内金三百万円を株式会社C銀行D店にA名義で当座
預金にしたところ、Gからこれが引渡を要求されたので、昭和二十六年十月十九日
(正確には翌二十日深夜)頃右預金の当座勘定入金帳当座小切手帳を同人に引渡
し、且つその小切手用紙二枚に振出人A名義の記名捺印をなして払戻準備を完了し
たものであるが、Gが右銀行から預金を払戻すのに先廻りしてこれを騙取しようと
企て、昭和二十六年十月二十日午前十一時過頃千葉市a町b番地株式会社C銀行D
店に於て、同行員Eに対し真実払戻を受ける正当権限がないのに拘らずこれあるよ
うに装い、「至急F公団に支払をせねばならないので間に合うように払つて貰いた
い」旨の虚構の事実を申向け、同人をしてその旨誤信させ、即時同所に於て預金払
戻の権限を有するGの受け取るべき現金五十万円及び金二百万円の同行振出自己宛
小切手一枚を交付せしめてこれを騙取したものである、と認定し、詐欺罪の成立を
認めた。而して検察官は当審に於て更に予備的訴因として、先ず(一)被告人Aは
昭和二十六年十月十七日頃千葉市a町b番地株式会社C銀行D店に於て、曩にGよ
りH株式会社振出I商店宛の約束手形合計十通(額面合計千十万円)の割引斡旋を
依頼せられ、その中一部を割引して得た金員中三百万円を擅に自己名義にて同銀行
に当座預金し、以てこれを着服横領したものである、と主張し、(二)仮に然らず
とするも、被告人Aは昭和二十六年十月二十日頃千葉市a町b番地株式会社C銀行
D店に於て、同行員EよりGに交付すべき現金五十万円及び金二百万円の同行振出
自己宛小切手一通を受領し、同人のために保管中擅にこれを自己に着服横領したも
のである、と主張し、いずれも罰条として刑法第二百五十二条を追加するに至つ
た。そこで当審の事実取調の結果をも参酌して記録を精査するに、被告人Aは原判
示の如くGよりH株式会社振出株式会社I商店宛の約束手形合計十通(額面合計千
十万円)の割引斡旋を依頼せられてこれを現金化した内金三百万円を自己が代表す
るJ株式会社名義を<要旨>以て株式会社C銀行D店に当座預金したことが認められ
る。ところで、凡そ他人より手形割引の依頼を受けたる者が委任の趣旨に従
いこれが割引を受けて金員を受領したるときは、其の金員は委任者の所有に帰する
を以て遅滞なくこれを委任者に引渡すことを要するは当然のことであるから、受任
者が他より受領した金員を自己名義を以て預金するが如きは、特段の事情のない限
り、自己の占有中のものを不法に領得するものと認め得べきところ、本件記録を調
査し当審の事実取調の結果に徴するも、被告人Aが右三百万円を同人の代表する前
掲J株式会社名義を以て株式会社C銀行に預金し置くにつき首肯し得べき特段の事
情を発見することができないから、被告人AはGのため自己が保管中の右三百万円
を自己に不正に領得する意思を以て、擅に同会社名義にて株式会社C銀行D店に預
金し、これを自己に着服横領したものであると云うべく、従つて同被告人が後日こ
の預金を自己のため払戻すことは当初より当然予想せられていたところであつて、
原判示の如く同銀行員Eが該預金を同被告人に対し払戻すに至つたのも、右Eか原
判示の如く同被告人の欺罔的言辞を誤信したためと云わんよりは、寧ろ該預金が同
被告人を代表者とする前記会社名義を以て為され且つその後に於ても何等名義変更
等の手続が為されていなかつたためてあると云わなければならない。果して然ら
ば、被告人Aの本件所為は横領罪を以て問擬するを相当とし、本件公訴事実中主た
る訴因として詐欺罪の成立を主張する同被告人の欺罔的所為は、前掲横領罪のいわ
ゆる事後処分であつて、別罪を構成しないものと云わなければならない。従つて原
審は宜しく訴因及び罰条の変更を命じ。横領罪を以て同被告人を処断すべきとこ
ろ、その措置に出てなかつたことは所論の如く事実を誤認し、延いて法令の適用を
誤つたものであつて、右事実の誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、
原判決は到底破棄を免れない、論旨は結局いずれも理由がある。
 (罪となるべき事実)
 被告人Aは曩にGよりH株式会社振出株式会社I商店宛の約束手形十通(額面合
計千十万円)の割引斡旋方依頼を受け、その中一部を割引現金化し、自己が右Gの
ために保管中、これを自己に不正に領得しようと企て、昭和二十六年十月十七日頃
干棄市a町b番地株式会社C銀行D店に於て擅にその中三百万円を自己が代表する
J株式会社名義にて当座預金し、以てこ礼を目己に着服横領したものである。
 (証拠説明省略)
 (法律の適用)
 法律に照らすと、被告人Aの判示所為は刑法第二百五十二条第一項に該当するの
で、所定刑期範囲内で同被告人を懲役二年に処し、原審及で当審に於ける訴松費用
中原審相被告人Bのための国選弁護人に支給した分を除きその余は、刑事訴訟法第
百八十一条第一項本文に則り全部被告人Aに負担させることとし、主文の通り判決
する。
 (裁判長判事 中西要一 判事 山田要冶 判事 石井謹吾)

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