弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aは無罪。
         理    由
 弁護人中嶋邦明、同宮崎誠、同川瀬久雄の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違
反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 しかし、職権により調査するに、原判決の確定するところによれば、本件は、大
阪府豊中市a町b丁目c番地先の、府道大阪池田線(総幅員約三六・二五米、その
中央に幅員約二二米の阪神高速道路の高架橋の橋脚が連続し、それが中央分離帯を
構成して南行車道と北行車道を分離しているもの)の南行車道(幅員九・一米)を
時速五〇粁で南進していた被告人運転の普通乗用自動車(以下A車と略称)が、右
分離帯の切れ目にあたるところを起点とする神崎刀根山線(幅員一五・二米)とT
字型に交差する特殊の形状のもので、かつ交通整理の行なわれていない交差点内に
おいて、前記府道の北行車道から右中央分離帯の切れ目を右折通過して、南行車道
の西端付近に一時停止した後、南行車道を東に向け横断のため発進したB運転の普
通乗用自動車(以下B車と略称)と衝突した事故に関するものである。
 先ず、原判決が、本件現場の特殊な道路状況にかんがみ、B車はA車の進行を妨
げてはならなかつたものであり、A車に優先通行権があつた、と判示する部分は正
当として是認しうる。
 原判決の確定するところによれば、被告人Aが、南行車道西端付近にB車が一時
停止したのを認めたおりの彼我の距離は約四六・六米であり、B車が南行車道を横
断のため発進するのを発見したおりの彼我の距離は約二四・六米であつたというの
である。そして、記録によれば、A車の車幅は、一・四四五米、B車の車長は四・
一一米であること、前記南行車道は、幅員四・一米の走行車線(東側車線)と、幅
員五米の追越車線(西側車線)よりなり、A車は西側車線を南進していたこと、東
西両車線の境目には白線がひかれており、A車の左側車輪のスリツプ痕は、南行車
道と神崎刀根山線の交差する交差点北辺入口から南四・一米、右白線の西一・一米
の地点から始まり、長さ約九・四米、右白線の東側約四〇ないし五〇糎の地点に終
つており、また右側車輪のスリツプ痕は、終始西側車線上にあり、長さ約九・四米、
その終点は、右白線の西側七〇糎の地点にあつたこと、A車のスリツプ痕の終点付
近からA車およびB車の各前輪の横すべり痕が始まつていることなどがうかがわれ、
それらの事実から判断すれば、A車右前部とB車左前部が衝突した地点は、右の白
線より西側七〇糎のところから、右白線に至る間の地点であり、衝突時においては、
車長四・一一米のB車が幅員五米の前記西側車線をほぼ一杯にふさいでいたことが
うかがわれる。
 原判決は、被告人Aが、B車が一時停止するのを認め、アクセルを踏んで加速し
時速五〇粁で進行したことに注意義務違反はないとしながらも、「B車と約二四・
六米に迫つた地点でB車が南行車道を東へ向け横断のため発進するのを発見し、そ
のまま進行すれば、同車と衝突する危険が発生したのであるから、このような場合、
自動車運転者としては、直ちに制動をかけながら、右方に転把し、もつて自車をB
車の後方を迂回せしめるなど適切な措置を講じ、もつて事故の発生を未然に防止す
べき業務上の注意義務があるのに、これを怠りむしろ自車を加速して、右B車の進
路直前を突つ切ろうとした過失」があり、またA車には優にB車の後方に迂回する
場所的、時間的余裕が、あつたものと認定し、被告人AはB車の進路前方を突つ切
ろうとして、制動するかわりに加速し、右に転把するかわりに左に転把したもので
あつて、その過失は否定すべくもないと判示している。
 しかしながら、前述のごとく、本件衝突時において、B車がA車の進行車線を、
ほとんど一杯にふさいでいたと見られるのであるから、A車がB車の後方に迂回す
る場所的余裕があつた旨の原認定には、事実を誤認した疑いがあるうえ、前記のよ
うな状況下に発進したB車は、衝突の危険を感じ急停車することも考えられるとこ
ろであるから、被告人Aは事故回避の措置として、直ちに制動をかけながら右に転
把しなければならないとすることは、かえつて衝突の危険を増大させるとともに自
車の走行に危険状態を発生させることにもなりかねないのであつて、適切ではない
と断ぜざるを得ない。また、前述のような状況のもとにB車が自車の直前を横断発
進するのを見て、被告人としては、B車が、加速進行するか、あるいは減速停止す
るかを突嗟に予測することはほとんど不可能であつたものと見ざるを得ないのであ
るから、被告人に、左に転把しなければならないとすることもまた、適切ではない。
そうなると、被告人に残された措置はB車の発進を発見したら、ただちに急制動の
措置をとり、かつB車の判断をまどわせないため、従前の進路を直進するの外はな
かつたことになる。しかし、本件事実関係の下では、一旦停止した車が高速車の直
前で横断を開始するようなことは通常予測することが困難であるから、被告人Aに
おいて驚愕の余り、急制動措置に移行するのに多少の時間を要したとしても、この
点を注意義務違反とすることは酷に失するものといわなければならない。
 この見地に立つて、B車の発進発見後の被告人A車の空走距離を、A車の時速、
被告人AがB車の発進を発見したおりの彼我の距離、A車のスリツプ痕の長さを参
酌して勘案すると、通常の場合に必要な空走距離を著しく超えているとは認め難い
から、被告人Aのとつた停止措置が、適切を欠くものであつたと断定することも相
当ではない。
 してみれば、被告人Aの本件所為につき、業務上過失致傷罪にあたるとして有罪
を言い渡した原判決には、事実を誤認したか、または法令の解釈を誤り、ために罪
にならない所為を有罪とした違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすべきもの
であつて、原判決中、被告人Aに関する部分を破棄しなければ、著しく正義に反す
るものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条に
より、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官別所汪太郎 公判出席
  昭和四八年三月三〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    小   川   信   雄

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