弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
第2事案の概要
1本件は,高槻市の住民である被控訴人が,高槻市情報公開条例(平成15年
条例第18号。以下「本件条例」という。)に基づき,本件条例所定の実施機
関である高槻市自動車運送事業管理者(以下「管理者」という。)に対し,平
成19年度及び平成20年度に係るバス乗務員の超過勤務確認印簿の公開を請
求したところ,管理者が,同請求に係る公文書を「時間外命令簿(A営業所,
B営業所)平成19年4月1日~平成21年3月2日」(以下「本件文書」
という。)と特定した上,本件文書の一部が本件条例6条1項1号ただし書ウ
のただし書の非公開情報に該当するとして,本件文書の一部を非公開とする部
分公開決定(以下「本件処分」という。)をしたため,被控訴人がその非公開
とされた部分(ただし,その後公開された部分を除く。)の取消しを求めた事
案である。
原審は被控訴人の請求を認容したところ,これを不服として控訴人が本件控
訴を提起した。
2本件に関係する条例の定め
原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「1本件に関係する
条例の定め」(原判決2頁4行目から4頁6行目まで)に記載のとおりである
から,これを引用する。
ただし,原判決2頁7行目及び10行目に「条例」とあるのを,いずれも「本
件条例」と読み替える。
3前提事実
以下のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の
概要」の「2前提事実」(原判決4頁9行目から5頁13行目まで)に記載
のとおりであるから,これを引用する(ただし,「条例」とあるのを,いずれ
も「本件条例」と読み替える。)。
(1)原判決4頁24行目の「公文書部分公開決定(以下「本件処分」という。)」
とあるのを「公文書部分公開決定(高交運第▲号。以下「本件処分」という。)」
と改める。
(2)原判決5頁10行目から11行目にかけて「公文書部分公開決定」の次に
「(高交運第▲号)」を加える。
4争点
本件の争点は,本件処分(ただし,平成22年5月11日付け公文書部分公
開決定により公開された部分を除く。)の適否,具体的には,本件文書に記録
されているバス乗務員の氏名及び特定の日におけるその具体的な勤務内容に係
る情報(それが個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月
日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(以下「個人
識別情報」という。)であることは当事者間に争いがない。)が,(1)個人識
別情報を例外的に公開すべき事由とされている本件条例6条1項1号ただし書
アに該当するか否か,(2)個人識別情報を例外的に公開すべき事由のさらに除
外事由とされている本件条例6条1項1号ただし書ウのただし書に該当するか
否か(本件文書の記載内容が,例外的に公開すべき事由とされている本件条例
6条1項1号ただし書ウ本文に該当することは当事者間に争いがない。)であ
り,争点に関する当事者の主張は,後記「第3当裁判所の判断」において記
載するとおりである。
第3当裁判所の判断
1本件条例6条1項1号ただし書ア該当性
当裁判所も,本件文書の記載内容は,例外的に公開すべき事由とされている
本件条例6条1項1号ただし書アに該当しないものと判断するが,その理由は,
原判決の「事実及び理由」の「第3争点に対する判断」の「1条例6条1
項1号ただし書ア該当性」(原判決5頁26行目から6頁26行目まで)に記
載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,「条例6条1項1号ただし書ア」とあるのを,すべて「本件条例6
条1項1号ただし書ア」と読み替える。
2本件条例6条1項1号ただし書ウのただし書該当性
(1)本件条例6条1項1号ただし書ウは,同号本文において,実施機関の管理
する公文書に,「個人に関する情報」であって,「当該情報に含まれる氏名,
生年月日その他の記述により特定の個人を識別することができるもの」(個
人識別情報)や「特定の個人を識別することはできないが,公開することに
より,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非公開情報とし,
これらが記録されている場合には,当該公文書を原則として非公開とするこ
ととしたことを受け,それらの情報のうち当該個人が公務員等であり,当該
情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,「当該公
務員等の職及び氏名」並びに「当該職務遂行の内容」に係る部分については,
当該部分を非公開情報から除外し(ウ本文),さらに,そのうち当該公務員
等の「氏名」に係る部分については,これを公開することにより当該公務員
等の個人の権利利益が不当に害されるおそれがある場合には,当該氏名に係
る部分を非公開情報とする(ウただし書)としている。
(2)そこで検討すると,本件文書の記載内容は,バス乗務員である職員ごとに
その「氏名」,「基本」,「実働」,「当日勤務」,「退勤出勤拘束」,
「実働」,「休憩」,「時間外」及び「確認」の各欄からなっているところ,
これらの各欄に記載された情報は,いずれも公務員であるバス乗務員という
職に係る情報であり,また,バス乗務員の職務の遂行の内容に係る情報でも
ある。したがって,本件文書の上記各欄に記載された情報は,本件条例6条
1項1号ただし書ウ本文に該当する情報であると認められ,以上の限りでみ
れば,本件文書に記載されている本件条例6条1項1号本文に該当する情報
は,同号ただし書ウ本文により非公開情報から除外された情報ということに
なる。
(3)ア次に,上記のうち「公務員等の氏名に係る部分」(本件文書においては
「氏名」欄及び「確認」欄の印影)が本件条例6条1項1号ただし書ウの
ただし書の非公開情報に該当することとなるか,すなわち,本件文書の「氏
名」に係る部分を公開することにより当該公務員等の個人の権利利益が不
当に害されるおそれがあるか否かについて検討する。
この点について,控訴人は,高槻市自動車運送事業は変則勤務職場であ
ることから,「点呼記録表」及び「乗務員勤務割出表」を備えており,こ
れらの文書には職員個人の氏名や当初の勤務予定が記載されているとこ
ろ,これらの文書は,平成19年8月,同年9月,平成20年2月,同年
7月及び同年11月に被控訴人がした公開請求によって既に公開されて
おり,この「点呼記録表」及び「乗務員勤務割出表」と本件文書に記載さ
れた情報とを組み合わせることによって職員の個人情報である収入額が
判明し,その結果,公務員個人の権利利益を不当に害するおそれがあると
主張している(なお,控訴人のいうところは,本件文書のうち「氏名」に
係る部分が本件条例6条1項1号ただし書ウのただし書の非公開情報に
該当すると主張するものであり,「氏名」に係る部分以外の部分が非公開
情報に該当するとする条例上の根拠は必ずしも明らかではないが,本件文
書に記載された情報のうち,「氏名」に係る部分以外の部分については,
本件条例7条の規定により部分公開できる場合に当たらないと主張して
いるようにも理解できる。)。
イところで,一般に,公務員といえども個々の公務員の収入は「公務員個
人の私事に関する情報」であり,これを公開されることによって公務員個
人のプライバシーが侵害され得るといえる。そして,証拠(乙10)によ
れば,高槻市自動車運送事業の非常勤職員の給与は,月額報酬,時間外勤
務等に伴う割増報酬,通勤に伴う割増報酬等からなり,バス乗務員の月額
報酬が定額の17万円であることや,時間外勤務等に伴う割増報酬の割増
率(深夜や休日であれば割増率が高くなる。)や計算方法の詳細は,公表
されている「高槻市自動車運送事業の特別職の職員で非常勤のものの報酬
及び費用弁償に関する規程」(乙6)や「高槻市自動車運送事業非常勤職
員就業要綱」(乙7)から明らかであるところ,本件文書で非公開とされ
た各非常勤職員ごとの「基本」欄中の「当初の予定」の記載及び「当日勤
務」欄中の「勤務についた路線」の記載と,これも公開されている「点呼
記録表」(甲8),「乗務員勤務割出表」(甲9)及び「仕業票」(乙8)
とを照合することにより,各非常勤職員の時間外勤務の時間とその区分等
を把握することができ,それを基にして各非常勤職員の実収入を相当程度
具体的に推知できるものと認められる。
ウしかしながら,そうであるからといって,本件文書中の「氏名」欄及び
「確認」欄の印影が本件条例6条1項1号ただし書ウのただし書の非公開
情報に該当するものと解するのは相当でない。その理由は以下に述べると
おりである。
①本件条例6条1項1号が,個人識別情報については,「(他の情報と
照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるも
のを含む。)」としながら(1号本文),同号ただし書ウのただし書の
「当該公務員等の個人の権利利益が不当に害されるおそれがある場合」
については,他の情報と照合することにより個人の権利利益が不当に害
されるおそれがある場合を含むとの規定を置いていない。
②本件条例(甲1)は,市民の市政に対する理解を深め,市民の市政へ
の参加を促進し,もって地方自治の本旨に即した市政の発展と市民の知
る権利の保障に資することを目的とし,そのために市民の公文書の公開
を求める権利を明らかにするとともに(1条),実施機関に対し,個人
に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしつ
つ,市民の公文書の公開を求める権利を十分に尊重して本件条例を解釈
運用する責務を負わせ(3条),さらに,市民に対して市政に関する情
報につき行政の説明責任を厳格に果たすという見地から,個人に関する
情報であっても,当該個人が公務員等である場合で,当該情報がその職
務の遂行に係る情報であるときには,当該情報のうち,当該公務員等の
職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分は公開するものとし,
当該公務員等の氏名についても原則公開するとの立場をとっているとこ
ろ(6条1項1号ただし書ウ本文),例外である「当該公務員等の氏名
に係る部分を公開することにより,当該公務員等の個人の権利利益が不
当に害されるおそれがある場合」(同号ただし書ウのただし書)の判断
に当たって,氏名の公開が,他の情報と組み合わされることにより当該
公務員等の個人の権利利益が不当に害されるおそれがあるとされて,非
公開情報に該当するということになれば,職務遂行に関するどのような
情報でも他の情報と組み合わせることによって個人のプライバシーを侵
害する可能性があるということになりかねず,情報公開の実が上がらな
いこととなって,上記の本件条例の目的,趣旨に反する結果となるおそ
れがある。
③さらに,前記のとおり,高槻市自動車運送事業の非常勤職員の給与は,
本件文書と他の情報を組み合わせることによって,各非常勤職員の実収
入を相当程度具体的に推知できるものと認められるものの,高槻市交通
部総務課長作成の報告書(乙10)によれば,各非常勤職員の実収入を
相当程度具体的に推知するためには,非常勤職員の報酬について「高槻
市自動車運送事業の特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁償に
関する規程」(乙6),「高槻市自動車運送事業非常勤職員就業要綱」
(乙7)に基づく処理がなされていることを知っているほか,職員が勤
務した時間のうち,どの時間が正規の勤務時間で,どの時間が普通時間
外で,どの時間が休日時間外なのか,また時間帯により深夜業の範囲の
勤務であったのかを職員ごとに明らかにするためには,本件文書だけで
は足りず,本件文書に「仕業票」(乙8),「点呼記録表」(甲8),
「乗務員勤務割出表」(甲9)を組み合わせることが必要であることも
知っており,しかも,組み合わせるためには,これらの書類に用いられ
ているアルファベットや数字の意味を知っていることも必要であること
が認められるから,本件文書に他の情報を組み合わせることによって各
非常勤職員の実収入を相当程度具体的に推知することが,市民一般にと
って容易にできるものとは到底いえない(なお,公文書の公開を求める
権利は市民一般が有しているのであるから,非公開情報に該当するか否
かは,当該情報公開請求の請求人ではなく,市民一般を基準に考えるべ
きものである。)。
④以上に加えて,個々の公務員個人を離れた,公務員の給与・報酬は,
一般に法令・条例等によって定められており,それ自体が公務の遂行に
関する行政情報という性質を有するもので,高槻市自動車運送事業の非
常勤職員の報酬等について定めた規程・要綱が公表されていることも上
記のとおりであり,当該非常勤職員については昇給等の制度がなく,上
記規程・要綱も,その報酬を時間外勤務の時間やその区分等の外形的な
事実に基づいて算定・支給するものとしていることから,職務の遂行に
関する外形的な事実を明らかにすれば,その具体的な実収入も相当程度
明らかになるが,そのような事態が生ずるのは,当該非常勤職員の報酬
体系上やむを得ないところであって,このような報酬体系の下で公務に
従事する以上,当該非常勤職員において甘受しなければならないものと
いわざるを得ない。
エ以上①~④に述べたところを総合勘案すると,高槻市自動車運送事業
の非常勤職員につき,本件文書が公開されることによって,そこに記載
された情報を手がかりにして,その収入額が相当程度具体的に推知され
ることとなったとしても,本件条例6条1項1号ただし書ウのただし書
にいうところの当該非常勤職員個人の権利利益が「不当に害される」場
合には当たらないと解するのが相当である。
(4)したがって,本件文書の「氏名」に係る部分について,これを公開する
ことにより当該公務員等の個人の権利利益が不当に害されるおそれがあ
るものとは認められず,そうすると,「氏名」に係る部分を含め,本件
文書には本件条例6条1項1号ただし書ウのただし書の非公開情報は記
録されていないというべきである。
3以上によれば,本件処分のうち非公開とした部分(ただし,平成22年5月
11日付け公文書部分公開決定(高交運第▲号)により公開された部分を除く。)
の取消しを求める控訴人の請求には理由があるから,これを認容した原判決は
相当であって,本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり決定する。
大阪高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官三浦潤
裁判官大西忠重
裁判官井上博喜

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