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平成25年9月19日判決言渡
平成24年(行ケ)第10435号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年9月3日
判決
原告三洋電機株式会社
訴訟代理人弁護士尾崎英男
日野英一郎
弁理士廣瀬文雄
豊岡静男
被告日亜化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士古城春実
牧野知彦
堀籠佳典
加治梓子
弁理士蟹田昌之
主文
特許庁が無効2012-800038号事件について平成24年11月
14日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
主文同旨
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,容易
想到性(実質的には,引用発明の認定誤り)の有無である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,名称を「窒化ガリウム系発光素子」とする発明の特許権者である(特許
4033644号,平成13年7月3日特許出願,優先権主張番号:特願2001
-202726号,優先日:平成12年7月18日,平成19年11月2日特許登
録,請求項の数は7。〈甲11〉)。
原告は,平成24年3月30日,請求項1及び3ないし7項について本件無効審
判請求
(無効2012-800038号)
をしたが,
特許庁は,
同年11月14日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月22日,原
告に送達された。
2本件発明の要旨
本件明細書(甲11)によれば,本件特許の請求項1及び3ないし7に係る発明
は,以下のとおりである。
【請求項1】
(本件発明1)
「ストライプ状の発光層の両端面に,光出射側鏡面と光反射側鏡面を持つ共振器
構造を有する窒化ガリウム系発光素子において,
光出射側鏡面には,窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が,該光出射
側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され,該光出射側鏡面に接し
た第1の低反射膜が,ZrO2,MgO,Al2O3,Si3N4,AlN及びMgF
2から選ばれたいずれか1種から成り,
光反射側鏡面には,ZrO2,MgO,Si3N4,AlN及びMgF2から選ばれ
たいずれか1種からなる単一層の保護膜が接して形成され,かつ,該保護膜に接し
て,低屈折率層と高屈折率層とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層となる
ように交互に積層してなる高反射膜が形成されてなる窒化ガリウム系発光素子。

【請求項3】(本件発明3)
「前記低反射膜が,前記第1の低反射膜に接しており,かつSiO2からなる第
2の低反射膜を有する請求項1に記載の窒化ガリウム系発光素子。

【請求項4】
(本件発明4)
「前記低屈折率層がSiO2からなり,前記高屈折率層がZrO2又はTiO2か
らなる請求項1乃至3のいずれか1つに記載の窒化ガリウム系発光素子。

【請求項5】
(本件発明5)
「前記高反射膜は,前記低屈折率層と前記高屈折率層とを交互に繰り返して2ペ
ア以上5ペア以下の積層膜とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の窒化ガリ
ウム系発光素子。

【請求項6】(本件発明6)
「前記低反射膜の膜厚は,λ/4n(λは発振波長,nは低反射膜の屈折率)と
する請求項1乃至5のいずれか1つに記載の窒化ガリウム系発光素子。

【請求項7】(本件発明7)
「前記低反射膜を2層以上とした第1の低反射膜の膜厚は,λ/2n(λは発振
波長,nは低反射膜の屈折率)とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の窒化
ガリウム系発光素子。

3原告が主張する無効理由
(1)無効理由1
本件発明1及び本件発明3ないし本件発明7は,刊行物1(特開2000-49
410号公報,甲1)に記載された引用発明及び刊行物2(特開平3-14289
2号公報,甲2)に記載された刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものである。
(2)無効理由2
本件発明4及び本件発明5は,引用発明及び刊行物2発明並びに甲5(特開平8
-191171号公報)及び甲6(特開平9-129983号公報)に記載された
周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4審決の理由の要点
(1)引用発明の認定について
ア刊行物1には,従来の窒化物半導体レーザ装置は,レーザ端面に設けた
保護層と窒化物半導体レーザダイオードとの間における格子不整合や熱膨張係数が
異なること等に起因して,特に高出力時の寿命が短いという問題があったが,保護
層の材料を窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl1
-x-y-zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)との
一般式から選択することで,窒化物半導体レーザダイオードと十分な格子整合及び
熱膨張係数の整合をとることができ,レーザ装置の長寿命化と熱応力による欠陥発
生を抑制することのできる窒化物半導体レーザ装置が記載されているものと認めら
れる。すなわち,引用発明において,保護層の材料を一般式から選択する技術的意
義は,単に,レーザの発振光に対して透明になるようにするのみならず,保護層の
格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,
保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係
数の約20%以下とすることにあるものと解される。
しかるところ,
刊行物1には,
窒化物半導体レーザダイオードのMQW活性層と,
格子整合及び膨張係数の整合をとることのできる保護層として具体的に記載されて
いるのは,実施形態6において「半導体レーザダイオード10の後面に直接形成さ
れる保護層として,In0.02Ga0.98N層を用いてもよい。
」と記載されているほ
か,すべての実施形態において,保護層として「GaN」が記載されているにとど
まり,上記一般式から「AlN」を選択することを示唆する記載は認められない。
そして,
「AlN」が,保護層の材料は,レーザの発振光に対して充分に透明な材料
であるのみならず,窒化物半導体レーザダイオードのMQW活性層と,格子定数及
び熱膨張係数の整合がとれる特性を備えた材料であることが,本件特許の優先日当
時の技術的常識であると認めるに足る証拠を見出せない。
よって,刊行物1の段落【0039】の記載を根拠に,MQW活性層と,格子定
数及び熱膨張係数の整合がとれる材料として,刊行物1に「AlN」が記載されて
いると直ちに認めるに到らない。
したがって,
刊行物1に,
保護層の材料として
「A
lN」が開示されていると認めることはできない。
イ以上によれば,刊行物1には,次の発明(引用発明)が記載されている
ことが認められる。
「窒化物半導体レーザダイオードと,窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面
に設けられた保護層とを有し,
保護層は,
窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl1-x-y-z
GaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなり,
窒化物半導体レーザダイオードは,
InuGa1-uN/InVGa1-VN(0≦u,v≦1)からなる多重量子井戸活
性層を有し,
保護層に接して,窒化物半導体レーザダイオードが発振する光を反射する反射層
を更に有し,
反射層は,屈折率が互いに異なる第1および第2層が交互に積層された積層構造
を有し,
保護層がGaNであり,第1層および第2層は,それぞれ,SiO2およびTi
O2,または窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であり,且
つ屈折率が互いに異なる2種類のAl1-x-y-zGaxInyBzN(0≦x,y,z
≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる,窒化物半導体レーザ装置であって,
窒化物半導体レーザダイオードが,
アンドープのIn0.02Ga0.98N/In0.15Ga0.85Nからなる多重量子井戸
活性層を有し,
多重量子井戸活性層の前面及び後面にGaN層が形成され,
後面に設けられたGaN層の上に,SiO2層及びTiO2層が交互に5対積層さ
れた反射層が形成された,窒化物半導体レーザ装置。

(2)刊行物2によれば,
以下の刊行物2発明が記載されているものと認められ
る。
「一対の対向する共振器端面のうち少なくとも一方の共振器端面が,該共振器端
面上に形成された放熱用誘電体膜と,該放熱用誘電体膜上に形成されたパッシベー
ション膜とを備えており,
該放熱用誘電体膜は,該パッシベーション膜の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有
し,
該パッシベーション膜は,該放熱用誘電体膜よりも高い耐水性を有した半導体レ
ーザ素子(請求項1を参照)であって,
放熱用誘電体膜がAlN膜である(請求項2を参照)

半導体レーザ素子。

(3)本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「発光層の両端面に,光出射側鏡面と光反射側鏡面を持つ共振器構造を有する窒化
ガリウム系発光素子において,
光出射側鏡面に,
膜が積層され,
光反射側鏡面には,
単一層の保護膜が接して形成され,かつ,該膜に接して,低屈折率層と高屈折率層
とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層となるように交互に積層してなる高
反射膜が形成されてなる窒化ガリウム系発光素子。

【相違点1】
発光層の形状に関し,本件発明1は,
「ストライプ状」であるのに対して,引用発
明は,ストライプ状であるか否か不明である点。
【相違点2】
光出射側鏡面の膜に関し,
本件発明1は,
「窒化ガリウムより低い屈折率を有する
低反射膜が,該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され,
該光出射側鏡面に接した第1の低反射膜が,ZrO2,MgO,Al2O3,Si3
N4,AlN及びMgF2から選ばれたいずれか1種から成」るのに対して,引用発
明は,窒化ガリウムより低い屈折率を有する膜が,光出射側鏡面から屈折率が順に
低くなるように2層以上積層されてはおらず,GaN層である点。
【相違点3】
光反射側鏡面の単一層の保護膜の材料に関し,
本件発明1は,
「ZrO2,
MgO,
Si3N4,AlN及びMgF2から選ばれたいずれか1種」であるのに対して,引
用発明は,GaNである点。
(4)相違点に関する審決の判断は以下のとおりである。
ア相違点2について
刊行物2発明は,半導体レーザ素子の共振器端面にAlN膜を形成することを前
提に,AlN膜の欠点を,パッシベーション膜を形成することで克服したものと解
される。しかしながら,引用発明は,保護層として「AlN」を用いたものではな
く,刊行物1にも,保護層の具体的な材料として「AlN」は記載されておらず,

『InuGa1-uN/InVGa1-VN(0≦u,v≦1)からなるMQW活性層』
を有する『窒化物半導体レーザ装置』
」の保護層として「AlN」の選択を示唆する
記載もないことから,引用発明の保護層の上に,刊行物2発明の「パッシベーショ
ン膜」を形成する動機付けが見当たらない。
また,刊行物1には,光出射側鏡面(前面)に保護層を2層以上積層することを
示唆する記載のないことに照らせば,引用発明の保護層は,ひとまず,単一層と解
されるところ,引用発明において,刊行物2の記載に基づいて「AlN」を選択す
ることを想定すると,あわせて,パッシベーション膜を形成する手間が生じるもの
と考えられるから,当業者が引用発明において,あえて「AlN」を選択すべき理
由が見出せない。
したがって,刊行物2の記載に基づいて,引用発明の保護層の材料として「Al
N」を選択することは容易に想到し得たとはいえない。
さらに,文献(
「よくわかる半導体レーザ」小沼稔他編著,平成7年4月10日,
141頁ないし149頁(甲3)
,特開2000-22269号公報(甲4)
,特開
平8-191171号公報(甲5)
,特開平9-129983号(甲6)
)の各記載
を参酌しても,引用発明において,保護層の材料として「AlN」を選択すべき理
由が見あたらない。
したがって,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を採用するこ
とは当業者が容易に想到しえたとはいえない。
よって,相違点1及び3を検討するまでもなく,本件発明1は,当業者が刊行物
1及び2並びに上記の文献に記載された発明に基づいて容易に発明をすることがで
きたものとはいえない。
イ本件発明3ないし7について
本件発明3ないし7と引用発明とは,少なくとも相違点1ないし3において相違
するから,上記と同様の理由で容易に発明することができたものではない。
第3原告主張の審決取消事由
審決は主引例である引用発明の認定を誤ったものであり,その誤りは審決の
結論に影響するものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきもので
ある。
1引用発明の認定の誤りについて
(1)刊行物1の【請求項1】には,保護層について「前記保護層は,前記窒化
物レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl1-x-y-zGaxInyBz
N(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる」との一般式が記
載されている。この式においてx=y=z=0を代入した場合には,AlNとなる
ところ,AlNは,窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であ
るから,本件特許の請求項1に記載されている条件を満たした保護層である。この
ように,刊行物1において保護層の組成として,AlNが開示されていることは極
めて明白である。
そうすると,
上記式の範囲内の組成から明らかに除外されている組成の保護膜は,
刊行物1に記載されていないと評価できるとしても,明らかに除外されてはいない
組成の保護膜が,刊行物1に記載されていないと認定するのは誤りである。
(2)刊行物1は,上記一般式で示される物質のうち,窒化物半導体レーザダイ
オードが発振する光に対して透明であるものを保護層として用いることで発明の目
的が達成できることを明示している。すなわち,刊行物1には,従来技術のSiO
2あるいはTiO2のアモルファス層では,格子不整合や熱膨張係数において問題が
生じていたとの課題が記載されているところ,上記一般式を満たし,かつ,透明で
ある保護層は,従来例と比べて,格子整合性や熱膨張係数の整合性を有するものと
されている。また,段落【0026】

【0039】において,保護層の材質として
は,GaNに限られないことを明確に記載しており,審決が認定したGaNは,請
求項10で,請求項1の従属項である請求項5,6のさらに従属項として記載され
ている。さらに,段落【0042】

【0043】には,格子定数や熱膨張係数の整
合性についての記載は,好ましい態様として述べられているにすぎない。
そうすると,引用発明は,
「保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差
をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱
膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすること」を必須の
条件としているとはいえない。
(3)具体的な実施形態として記載されていないという理由で,GaN以外が本
件明細書に記載されていないとする審決の論理には飛躍があり,審決が,保護層に
ついて「AlN」は開示されておらず,
「GaN」のみを認定したのは誤りである。
2以下のとおり,審決の引用発明の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼす
ものである。
相違点2を正しく認定すると,一致点と相違点2’は,以下のとおりとなる。
【一致点】
発光層の両端面に,光出射側鏡面と光反射側鏡面を持つ共振器構造を有する窒化
ガリウム系発光素子において,光出射側鏡面に,該光出射側鏡面に接して,窒化ガ
リウムより低い屈折率を有するAlN膜が積層され,光反射側鏡面には,単一層の
AlNからなる保護膜が接して形成され,かつ,該膜に接して,低屈折率層と高屈
折率層とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層となるように交互に積層して
なる高反射膜が形成されてなる窒化ガリウム系発光素子。
【相違点2’

本件発明1は,
『窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が,
該光出射側鏡
面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され』
るのに対して,
引用発明は,
光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層されてはいない点。
そうすると,引用発明を正しく認定すれば,引用発明の半導体レーザ素子の光出
射側鏡面には,AlNからなる保護層20aが設けられている。他方で,刊行物2
には,光出射側鏡面に形成されたAlNからなる保護層の変質を防止して高出力動
作時の信頼性を高めるための技術が開示されている。すなわち,刊行物2は,引用
発明の光出射側鏡面に設けられたAlNからなる保護層に対する改良技術を開示し
ているところ,刊行物2の改良技術を引用発明に適用して,所定の改良の結果を得
ることに,何ら阻害事由はない。そして,刊行物2の実施例のパッシベーション膜
であるAl2O3膜は,AlN膜よりも低い屈折率を有し,光出射鏡面からレーザ光
が効率よく取り出せることが記載されている。
したがって,引用発明の光出射側鏡面に形成されたAlNからなる保護層に刊行
物2の発明を適用して,
「光出射側鏡面に,
窒化ガリウムより低い屈折率を有する低
反射膜が,該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層形成され,該光出
射側鏡面に接した第1の低反射膜がAlNからなる」とすることは,当業者が容易
に想到し得るものである。
第4被告の反論
1原告主張1に対し
(1)刊行物1に記載された発明は,格子定数の不整合(段落【0008】
)及
び熱膨張係数の不整合(段落【0009】
)に起因して,窒化物半導体レーザ装置の
寿命が短命となってしまうという課題(段落【0007】
)に対して,
「従来のより
も寿命が長い高信頼性を有する窒化物半導体レーザ装置を提供することを目的とす
る」
(段落【0010】
)発明であり,その解決手段として,窒化物半導体レーザダ
イオードと十分に格子整合し熱膨張係数も整合する透明な保護層を提案するもので
あるから(段落【0024】

【0040】等)
,保護層の材料は,レーザ発振光に対
して透明であるのみならず,格子定数及び熱膨張係数の整合を必須の条件としてい
ることは明らかである。
(2)そして,刊行物1で具体的に開示された保護層は,GaN保護膜あるいは
InGaN(In0.02Ga0.98N)保護膜のみであるが,これはGaNやIn0.
02Ga0.98Nがレーザの発振光に対して透明であるばかりでなく,InGaNか
らなるMQW(多重量子井戸活性層)に対して格子整合や熱膨張係数の整合性にも
優れているためである(段落【0033】

【0040】


原告の指摘する段落【0042】

【0043】は,格子定数及び熱膨張係数が整
合すること自体を好ましい状態として述べているのではなく,格子定数及び熱膨張
係数が整合すること自体は必須であり,
その整合度合に関して好ましい状態
(範囲)
を指摘しているにすぎないから,原告の主張は誤りである。
したがって,AlNが単に透明であるというだけでAlN保護層が実質的に刊行
物1に開示されているという原告の主張は,明らかに根拠を欠くものであり,刊行
物1には,形式的にも実質的にも,
「AlN」を保護層として開示する記載は存在し
ない。
2原告主張2に対し
そもそも,引用発明に「AlN」が開示されているとの前提自体が誤りであるた
め,原告の主張は認められない。
第5当裁判所の判断
1本件発明について
本件明細書(甲11)によれば,本件発明につき以下のことを認めることができ
る。
本件発明は,発光ダイオードやレーザダイオードに使用される,高出力で信頼性
に優れた窒化ガリウム系発光素子に関するものである(段落【0001】


従来の窒化物半導体発光素子は,光反射側の鏡面にSiO2とTiO2との積層膜
を複数積層した高反射膜を形成して,発振光を光出射側の鏡面から効率的に取り出
せるようにしているが(段落【0002】

,高出力で動作させると,光反射側の鏡
面において端面破壊が起き易くなり,寿命が低下するという問題があり,また,高
出力で動作させる場合,スロープ効率が低いと,駆動電流が大きくなってしまうと
いう問題もあった(段落【0003】


そこで,
本件発明は,
高出力動作時における端面破壊を抑制して寿命を向上させ,
かつ,スロープ効率の高い,高信頼性の窒化物半導体発光素子を提供することを目
的とし(段落【0004】

,ストライプ状の発光層の両端面に,光出射側鏡面と光
反射側鏡面を持つ共振器構造を有する窒化ガリウム系発光素子において,光出射側
鏡面に,窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜を,該光出射側鏡面から屈
折率が順に低くなるように2層以上積層しているので,光出射側鏡面から発振光が
直接空気中に取り出される場合に比べ,発振光の反射が抑制され,光出射側鏡面か
ら取り出される発振光の割合を増加させることができる。また,光出射側鏡面に接
した第1の低反射膜を,ZrO2,MgO,Al2O3,Si3N4,AlN及びMg
F2から選ばれたいずれか1種の材料で形成したので,動作時における窒化ガリウ
ムと低反射膜との反応による光出射側鏡面の劣化を抑制することができるため,発
光素子の寿命を向上でき(段落【0006】

【0017】~【0019】

,さらに,
スロープ効率と寿命を向上させることができ,高出力で高信頼性の発光素子を提供
できる(段落【0115】


また,光反射側鏡面に,ZrO2,MgO,Si3N4,AlN及びMgF2から選
ばれたいずれか1種からなる単一層の保護膜を接して形成し,かつ,該保護膜に接
して,低屈折率層と高屈折率層とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層とな
るように交互に積層してなる高反射膜を形成するようにしたので,端面破壊を抑制
して高出力作動時における寿命を向上させることができる(段落【0023】

【0
024】

【0118】


2引用発明の認定について
審決が認定した引用発明について原告が主張するのは,
審決が,
刊行物1には
「保
護層」が「AlN」であることが開示されていないとして,引用発明の「保護層」
の材料が「AlN」であることを認定しなかったことが誤りであるというものであ
る。そこで,引用発明の「保護層」の材料について以下認定する。
(1)刊行物1には,以下の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,窒化物半導体レーザ装置に関するものであ
る。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述の従来の窒化物半導体レー
ザ装置600および700は,寿命,特に高出力時の寿命が短いという問題があった。本願発
明者は,
上述の窒化物半導体レーザ装置の寿命が短い原因が下記の点にあることを見い出した。
【0008】
(1)レーザダイオード60および70は複数の結晶層から構成されているのに
対し,レーザダイオード60および70の端面に形成される保護層69,80および反射層9
0はSiO2あるいはTiO2で形成されているので,アモルファス層であり,且つアモルファ
ス層を構成する材料の結合手(例えばSi-O)の長さがレーザダイオードを構成している結
晶層と格子定数と異なるので,これらの界面において格子不整合が起こり,結晶層中(特にM
QW活性層中)に格子欠陥が生じる。また,レーザ端面に保護層69,80および反射層90
をスパッタリング法や電子ビーム蒸着法で形成すると,ターゲットから飛散した材料粒子が比
較的高エネルギーでレーザ端面に衝突するので,この粒子の衝突エネルギーによってレーザ端
面が損傷を受け,その結果,レーザダイオード60および70を構成する結晶層に格子欠陥が
生じるという現象も起こっていると考えられる。
【0009】
(2)レーザダイオード60および70を構成する複数の結晶層の熱膨張係数,
保護層69,80および反射層90の熱膨張係数が異なるために,保護層69,80および反
射層90を形成後室温まで冷却する過程や,動作中(特に高出力動作中)に,結晶層(特にM
QW活性層)に歪みが発生し,結晶欠陥が発生または増加する。例えば,上述のMQW活性層
64の熱膨張係数(3.15×10-6
K-1
)と保護層69の熱膨張係数(1.6×10-7
K-

)とは大きく異なる。
【0010】本発明は,上記課題に鑑みてなされたものであり,従来のよりも寿命が長い高
信頼性を有する窒化物半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の窒化物半導体レーザ装置は,窒化物半導
体レーザダイオードと,前記窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面に設けられた保護層
とを有し,前記保護層は,前記窒化物レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl1
-x-y-zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなり,その
ことによって上記目的が達成される。
【0024】本発明の窒化物半導体レーザ装置の窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端
面に設けられた保護層は,
窒化物レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl1-x-
y-zGaxInyBzNからなっているので,窒化物半導体レーザダイオードと十分な格子整合
をとることが可能である。従って,窒化物半導体レーザダイオード,特に活性層内の欠陥発生
を抑制することが可能で,窒化物半導体レーザ装置の長寿命化できる。さらに,保護層と窒化
物半導体レーザダイオードとの熱膨張係数の整合をとることができるので,熱応力による欠陥
発生を抑制することができる。さらに,MO-CVD法やMBE法を用いて保護層を窒化物半
導体レーザダイオード端面に堆積すると,保護層の堆積工程においてレーザダイオード端面が
損傷を受けることを抑制することができる。保護層上に反射層を設けることによって,反射率
を高めることができる。
【0026】窒化物半導体レーザ装置100は,窒化物半導体レーザダイオード10と,両
側のレーザ端面に形成されたGaNからなる保護層20aおよび20bを有している。GaN
からなる保護層20aおよび20bは,窒化物半導体レーザダイオード10の発振する光に対
して透明である。すなわち,保護層20aおよび20bを形成するGaNは,窒化物半導体レ
ーザダイオード10が発振する光の光エネルギーよりも大きなバンドギャップを有している。
保護層20aおよび20bを形成する半導体材料は,GaNに限られず,窒化物半導体レーザ
ダイオード10の発振する光に対して透明であればよい。
【0033】また,保護層20aおよび20bを形成するGaNの熱膨張係数は3.17×
10-6
K-1
であり,MQW活性層14の熱膨張係数(3.15×10-6
K-1
)と非常に近い
ので,室温に冷却したときや動作中にMQW活性層14と保護層20aおよび20bとの間に
は熱応力による歪みがほとんど生じない。
【0039】なお,上記実施形態1では保護層20aおよび20bの材料としてGaNを用
いたが,この保護層20aおよび20bの材料としては,Al1-x-y-zGaxInyBzN(0
≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)を好適に使用することができ,これらの層が
レーザの発振光に対して透明になるようにx,yおよびzを選べばよい。保護層20aおよび
20bの材料として,Al,In,Bを含有した窒化物半導体材料を用いることによって,良
好な格子整合が得られる材料の組み合わせが広がる。
【0040】上述したように,保護層20aおよび20bの材料としては,半導体レーザダ
イオードを構成する窒化物半導体の結晶層との格子整合をとるために,窒化物半導体材料を用
いることが好ましい。しかしながら,半導体レーザダイオードを構成する窒化物半導体の結晶
層との格子整合がとれ,且つレーザが発振する光に対する透明性を有していれば,他の材料を
用いても良い。もちろん,上述したように,熱膨張係数の整合および高い電気抵抗を有してい
る材料を用いることが好ましい。さらに,保護層20aおよび20bは,MO-CVD法やM
BE法で形成されることが好ましい。
【0042】保護層20aおよび20bの組成およびMQW活性層14の組成は,上述した
ように,レーザの発振光に対して透明であるように選択するとともに,保護層20aおよび2
0bの格子定数とMQW活性層14の格子定数との差が,MQW活性層14の格子定数の
約3%以下となるように,選択することが好ましい。上記格子定数の差が約3%を超えると,
保護層20aおよび20bとMQW活性層14との界面に格子不整合が生じ,MQW活性層1
4中に格子欠陥が生じ,窒化物半導体レーザ装置の寿命が低下することがある。なお,保護層
20aおよび20bの厚さが十分に厚い場合には,保護層20aおよび20bが応力を吸収で
きるので,約3%を超える格子不整合があっても,寿命が低下しない場合がある。
【0043】また,保護層20aおよび20bの熱膨張係数とMQW活性層14の熱膨張係
数との差がMQW活性層14の熱膨張係数の約20%以下となるように,選択することが好ま
しい。
【0087】
【発明の効果】本発明によれば,低出力時は勿論のこと,歪みや欠陥の影響が大
きい高出力発振時においても高信頼性の長寿命の窒化物半導体レーザ装置を得ることが出来る。
本発明の窒化物半導体レーザ装置は,高密度光ディスク装置等の光源に好適に利用される。
(2)以上の各記載によれば,引用発明は,従来の窒化物半導体レーザ装置にお
いて,レーザダイオードの端面に設けた保護層(SiO2又はTiO2)と窒化物半
導体レーザダイオードとの間における格子不整合や熱膨張係数が異なること等に起
因して,結晶層中に格子欠陥を生じ,特に高出力時の寿命が短くなるという課題を
解決するために,保護層の材料を窒化物半導体レーザダイオードが発振するレーザ
光に対して透明である上記一般式から選択することで,窒化物半導体レーザダイオ
ードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができ,格子不整合及び熱応力に
よる欠陥発生を抑制できるため,低出力時は勿論のこと,歪みや欠陥の影響が大き
い高出力発振時においても高信頼性で長寿命の窒化物半導体レーザ装置が得られる
ものであることが開示されている。他方で,審決が,引用発明の技術的意義である
と認定した「保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の
格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差を
MQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすること」に関しては,上記段落【0
042】

【0043】の記載に照らすと,いずれも上記の条件を満たすように「選
択することが好ましい」と記載されていること,格子定数の差に関して,段落【0
042】のなお書には,
「約3%を超える格子不整合があっても,寿命が低下しない
場合がある。

と記載されていることに照らすと,
引用発明における上記条件につい
ては,好ましい条件とされているにすぎず,必須の条件であると見ることはできな
い。
そして,刊行物1に示された従来の保護層(SiO2又はTiO2)がアモルファ
ス層であり,
結晶構造をとっていないのに対し,
「Al1-x-y-zGaxInyBzN
(0
≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)
」の一般式で示されるものは,必ず
Nを含む窒化物系半導体としての結晶構造を有することから,従来の保護層(Si
O2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードとの格子定数の整合がとれ
ることは当業者に自明の事項である。また,後記のとおり,熱膨張係数も窒化物系
半導体と相当に異なるものであったことからすると,従来の保護層との比較におい
て,窒化物系半導体である保護層が熱膨張係数において,一般的に整合がとれるも
のであることも,当業者に自明の事項である(段落【0024】参照)

そうすると,上記のような引用発明における従来技術の問題点及び解決課題に,
上記段落【0011】

【0024】

【0026】

【0039】

【0040】の各記
載を合わせて考慮すれば,引用発明は,保護層の材料をレーザ光に対して透明であ
り,かつ,上記の一般式を満たす材料を選択することで,従来の保護層(SiO2
又はTiO2)よりも,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数
の整合をとることができるものであるといえる。
以上により,引用発明において,
「保護層の材料をAl1-x-y-zGaxInyBz
N(以下「一般式」という。
)から選択する技術的意義は,単に,レーザの発振光に
対して透明になるようにするのみならず,保護層の格子定数とMQW活性層の格子
定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW
活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすること
にあるものと解される」とした審決の判断は誤りである。
(3)次に,引用発明における保護層の材料として,
「AlN」が開示されてい
るか否かについて見るに,刊行物1には,GaN及びIn0.02Ga0.98N層(た
だし,In0.02Ga0.98N層については,窒化物半導体レーザダイオードの後面
の保護層のみ)は記載されているが,
「AlN」を保護層の材料として選択した実施
例に関する記載はない。
しかし,AlNがレーザ光に対して透明であることは当事者間に争いがなく,上
記一般式においてx=y=z=0を代入した場合には,保護層の材料が「AlN」
となることは明らかである。そして,段落【0039】には,Alを含有した窒化
物半導体材料を用いることが開示されており,刊行物1中において,特段,x=y
=z=0を代入することを阻む事情についての記載はない。また,刊行物1には,
窒化物半導体レーザダイオードの活性層及び従来の保護層の熱膨張係数について,
「例えば,上述のMQW活性層64の熱膨張係数(3.15×10-6
K-1
)と保護
層69の熱膨張係数
(1.
6×10-7
K-1

とは大きく異なる。

(段落
【0009】

との記載及び「保護層20aおよび20bを形成するGaNの熱膨張係数は3.1
7×10-6
K-1
であり,MQW活性層14の熱膨張係数(3.15×10-6
K-1

と非常に近い」
(段落【0033】
)との記載があり,また,AlNの熱膨張係数に
ついては,文献(甲14,乙3ないし6)によってばらつきがあるものの,2.2
27×10-6
K-1
ないし6.09×10-6
K-1
の範囲に収まっているから,いず
れの数値をとるにせよ,AlNの熱膨張係数は,従来の保護層の熱膨張係数(1.
6×10-7
K-1
)と比較して,活性層の熱膨張係数(3.15×10-6
K-1
)に
近く,そのことからも,一般式において,x=y=z=0を代入した材料であるAl
Nからなる保護層は,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レ
ーザダイオードと熱膨張係数の整合がとれているといえる。さらに,AlNが窒化
物系半導体であることから,前記のとおり,従来の保護層(SiO2又はTiO2)
に比べて窒化物半導体レーザダイオードの活性層との格子整合がとれることも明ら
かである。
以上によれば,刊行物1において,保護層の材料として「AlN」が除外されて
いるとはいえず,刊行物1には,レーザ光に対して透明であり,かつ,AlNを含
む一般式からなる材料が開示されていると認められる。したがって,審決が,
「甲1
に,保護層の材料として「AlN」が開示されていると認めることはできない」と
したのは,誤りである。
(4)この点,被告は,SiO2・TiO2のアモルファス層については,格子定
数,格子整合という概念はないから,段落【0008】は技術的に意味の分からな
い記載であって,これに依拠して,刊行物1の目的が,SiO2・TiO2よりも,
格子定数及び熱膨張係数の整合性に優れた保護層を得ることにある,とすべきでは
ないと主張する。しかし,
段落【0008】には,アモルファス層の格子ではなく,
アモルファス層を構成する材料の結合手(例えばSi-O)の長さを問題にしてい
る上,窒化物半導体レーザダイオードの結晶層が格子構造を有していることが明ら
かであるところ,この界面の不整合によって結晶層に格子欠陥が生じることを述べ
ているにすぎないのであるから,当該記載に明らかな技術的誤りが含まれていると
いうことはできず,被告の上記主張は前記の認定を左右するものではない。
また,被告は,刊行物1に開示されているのは,上位概念としては,
「Al1-x-
y-zGaxInyBzN」であり,より具体的な組成として開示されているのは,そ
の下位概念である「GaN」あるいは「InGaN(In0.02Ga0.98N)
」のみ
であるところ,引用発明が上位概念で表現されている場合,原則として,その下位
概念で表現された発明が示されていることにはならないことは明らかであり,一般
式をもって,刊行物1にAlNという特定の組成が開示されているとはいえないと
主張する。しかし,刊行物1に記載された保護層は,Al,Ga,In,Bの組合
せにより組成される窒化物系半導体であって,その組成及び組成比を選択できると
いうものにすぎず,本件の一般式が上位概念に該当するとして,実施例に示された
組成物以外のものは不開示であると理解すべきという被告の主張が妥当する場面と
は解されず,被告の上記主張は採用の限りでない。
3以上を前提として,上記に認定した引用発明と本件発明1との一致点・相違
点について見ると,一致点及び相違点1については審決が認定したものと同一であ
るが,相違点2及び3については以下のとおり認定すべきこととなる。
【相違点2”】
光出射側鏡面の膜に関し,
本件発明1は,
「窒化ガリウムより低い屈折率を有する
低反射膜が,該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され,
該光出射側鏡面に接した第1の低反射膜が,ZrO2,MgO,Al2O3,Si3
N4,AlN及びMgF2から選ばれたいずれか1種から成」るのに対して,引用発
明は,窒化ガリウムより低い屈折率を有する膜が,光出射側鏡面から屈折率が順に
低くなるように2層以上積層されてはおらず,AlNを含むAl1-x-y-zGaxI
nyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる層である点。
(下線部が,審決認定の相違点2との相違部分)
【相違点3”】
光反射側鏡面の単一層の保護膜の材料に関し,
本件発明1は,
「ZrO2,
MgO,
Si3N4,AlN及びMgF2から選ばれたいずれか1種」であるのに対して,引
用発明は,AlNを含むAl1-x-y-zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且
つ,0≦x+y+z≦1)である点。
(下線部が,審決認定の相違点3との相違部分)
そうすると,
相違点2”に関し,
引用発明における保護層としてAlNを含むAl
1-x-y-zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)か
らなる層」の中から「AlN」を選択することについての容易想到性の有無,並び
に保護層の材料としてAlNを選択したとして,それを積層すること及び光出射側
鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層することについての容易想到性
の有無について検討し,
同様に相違点3”に関する本件発明1の構成についての容易
想到性,さらには,相違点1に関する本件発明1の構成についての容易想到性の有
無を判断して,本件発明1が引用発明から容易に発明することができたか否かの結
論に至る必要がある。ここまで至って,引用発明を主たる公知技術としたときの本
件発明1の容易想到性を認めなかった審決の結論に誤りがあるか否かの判断に至る
ことができる。
しかし,本件においては,審決が,認定した相違点1及び3に関する本件発明1
の構成の容易想到性について判断をしていないこともあって,当事者双方とも,こ
の点の容易想到性の有無を本件訴訟において主張立証してきていない。
相違点2
(当
裁判所の認定では相違点2”)
に関する本件発明1の構成については,
原告がその容
易想到性を主張しているのに対し,被告において具体的に反論していない。
このような主張立証の対応は,特許庁の審決の取消訴訟で一般によく行われてき
た審理態様に起因するものと理解されるので,当裁判所としては,当事者双方の主
張立証が上記のようにとどまっていることに伴って,主張立証責任の見地から,本
件発明1の容易想到性の有無についての結論を導くのは相当でなく,前記のとおり
の引用発明の認定誤りが審決にあったことをもって,少なくとも審決の結論に影響
を及ぼす可能性があるとして,ここでまず審決を取り消し,続いて検討すべき争点
については審判の審理で行うべきものとするのが相当と考える。本件のような態様
の審決取消訴訟で審理されるのは,引用発明から当該発明が容易に想到することが
できないとした審決の判断に誤りがあるか否かにあるから,その判断に至るまでの
個別の争点についてした審決の判断の当否にとどまらず,当事者双方とも容易想到
性の有無判断に至るすべての争点につき,それぞれの立場から主張立証を尽くす必
要がある。本件については,上記のように考えて判決の結論を導いたが,これから
の審決取消訴訟においては,そのように主張立証が尽くすことが望まれる。
なお,本件発明3~7の容易想到性判断も,本件発明1についてのそれを前提と
するものであり,これについても本件発明1に関する判断と同様である。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由には理由がある。
よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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