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平成26年(受)第266号保証債務履行請求事件
平成28年1月12日第三小法廷判決
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人鈴木祐一ほかの上告受理申立て理由について
1本件は,主債務者から信用保証の委託を受けた被上告人と保証契約を締結し
ていた上告人が,被上告人に対し,同契約に基づく保証債務の履行等を求める事案
である。上告人の融資の主債務者は反社会的勢力であり,被上告人は,このような
場合には保証契約を締結しないにもかかわらず,そのことを知らずに同契約を締結
したものであるから,同契約は要素の錯誤により無効であるなどと主張して争って
いる。
2原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人と被上告人は,昭和41年8月,約定書と題する書面により信用保
証に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。本件基本契約
には,上告人が「保証契約に違反したとき」は,被上告人は上告人に対する保証債
務の履行につき,その全部又は一部の責めを免れるものとする旨が定められていた
が,保証契約締結後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合の取扱い
についての定めは置かれていなかった。
(2)政府は,平成19年6月,企業において暴力団を始めとする反社会的勢力
とは取引を含めた一切の関係を遮断することを基本原則とする「企業が反社会的勢
力による被害を防止するための指針」(以下「本件指針」という。)を策定した。
これを受けて,金融庁は,平成20年3月,「中小・地域金融機関向けの総合的な
監督指針」を一部改正し,また,同庁及び中小企業庁は,同年6月,「信用保証協
会向けの総合的な監督指針」を策定し,本件指針と同旨の反社会的勢力との関係遮
断に関する金融機関及び信用保証協会に対する監督の指針を示した。
(3)上告人は,A社から,2回にわたり運転資金の融資の申込みを受け,それ
ぞれ審査した結果,これらをいずれも適当と認め,平成20年12月及び平成22
年5月,被上告人に対してそれらの信用保証を依頼した。A社と被上告人は,上記
各月,それぞれ保証委託契約を締結した。
(4)上告人は,平成20年12月及び平成22年5月,A社との間でそれぞれ
金銭消費貸借契約を締結し,8000万円の貸付け(以下「本件貸付け1」とい
う。)及び1000万円の貸付け(以下「本件貸付け2」という。)をした。被上
告人は,上記各月,上告人との間で,本件貸付け1及び2に基づくA社の債務を連
帯して保証する旨の各契約(以下,それぞれ「本件保証契約1」,「本件保証契約
2」という。)を締結した。本件保証契約1及び2においても,契約締結後に主債
務者が反社会的勢力であることが判明した場合の取扱いについての定めは置かれて
いなかった。
(5)上告人は,B社(旧商号はB’社)から,2回にわたり運転資金の融資の
申込みを受け,それぞれ審査した結果,これらをいずれも適当と認め,平成21年
2月及び平成22年7月,被上告人に対してそれらの信用保証を依頼した。B社と
被上告人は,上記各月,それぞれ保証委託契約を締結した。
(6)上告人は,平成21年3月及び平成22年8月,B社との間でそれぞれ金
銭消費貸借契約を締結し,1000万円の貸付け(以下「本件貸付け3」とい
う。)及び3000万円の貸付け(以下「本件貸付け4」という。)をした。被上
告人は,平成21年3月及び平成22年7月,上告人との間で,本件貸付け3及び
4に基づくB社の債務を連帯して保証する旨の各契約(以下,それぞれ「本件保証
契約3」,「本件保証契約4」という。)を締結した。本件保証契約3及び4にお
いても,契約締結後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合の取扱い
についての定めは置かれていなかった。
(7)警視庁は,平成22年12月,国土交通省関東地方整備局等に対し,A社
について,暴力団員であるCが同社の代表取締役を務めてその経営を実質的に支配
している会社であるとして,公共工事の指名業者から排除するよう求めた。これを
受けて,国土交通省関東地方整備局は,同月,A社に対し,公共工事について指名
を行わないことを通知した。
(8)B社は,A社の元従業員を代表取締役,Cの実母を取締役として平成20
年に設立された会社であり,Cがその全株式を有している。また,B社は,その本
店事務所をA社から賃借していた。
(9)A社は,本件貸付け1について平成23年2月に期限の利益を喪失し,本
件貸付け2について弁済期である平成22年12月までに債務の履行をしなかっ
た。B社は,本件貸付け3について平成23年7月に期限の利益を喪失し,本件貸
付け4について弁済期である同年2月までに債務の履行をしなかった。その後,上
告人は,被上告人に対し,本件保証契約1ないし4(以下,併せて「本件各保証契
約」という。)に基づき保証債務の履行を請求した。
3原審は,上記事実関係の下において,次のように判断して,上告人の請求を
棄却すべきものとした。
本件各保証契約が締結された当時,主債務者が反社会的勢力でないことは,本件
各保証契約の当然の前提となっていたといえるから,法律行為の内容になってい
た。しかし,実際には,主債務者であるA社及びB社は上記当時から反社会的勢力
であったから,被上告人の本件各保証契約の意思表示には要素の錯誤がある。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保
証契約を締結し,金融機関において融資を実行したが,その後,主債務者が反社会
的勢力であることが判明した場合には,信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があ
るということができる。意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があ
るものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の
内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろ
うと認められる場合であることを要する。そして,動機は,たとえそれが表示され
ても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限
り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(最高裁昭和3
5年(オ)第507号同37年12月25日第三小法廷判決・裁判集民事63号9
53頁,最高裁昭和63年(オ)第385号平成元年9月14日第一小法廷判決・
裁判集民事157号555頁参照)。
(2)本件についてこれをみると,前記事実関係によれば,上告人及び被上告人
は,本件各保証契約の締結当時,本件指針等により,反社会的勢力との関係を遮断
すべき社会的責任を負っており,本件各保証契約の締結前にA社及びB社が反社会
的勢力であることが判明していた場合には,これらが締結されることはなかったと
考えられる。しかし,保証契約は,主債務者がその債務を履行しない場合に保証人
が保証債務を履行することを内容とするものであり,主債務者が誰であるかは同契
約の内容である保証債務の一要素となるものであるが,主債務者が反社会的勢力で
ないことはその主債務者に関する事情の一つであって,これが当然に同契約の内容
となっているということはできない。そして,上告人は融資を,被上告人は信用保
証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから,主債務者が反社会的勢力である
ことが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき,その場合に被上告人が保
証債務を履行しないこととするのであれば,その旨をあらかじめ定めるなどの対応
を採ることも可能であった。それにもかかわらず,本件基本契約及び本件各保証契
約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると,主債務
者が反社会的勢力でないということについては,この点に誤認があったことが事後
的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでを上告人及び被上告
人の双方が前提としていたとはいえない。また,保証契約が締結され融資が実行さ
れた後に初めて主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,既に上記
主債務者が融資金を取得している以上,上記社会的責任の見地から,債権者と保証
人において,できる限り上記融資金相当額の回収に努めて反社会的勢力との関係の
解消を図るべきであるとはいえても,両者間の保証契約について,主債務者が反社
会的勢力でないということがその契約の前提又は内容になっているとして当然にそ
の効力が否定されるべきものともいえない。
そうすると,A社及びB社が反社会的勢力でないことという被上告人の動機は,
それが明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,これが本件
各保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件各保証契約の意思
表示に要素の錯誤はないというべきである。
5以上によれば,被上告人の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤があると
した原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響
を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そし
て,被上告人の保証債務の免責の抗弁等について更に審理を尽くさせるため,本件
を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大谷剛彦裁判官岡部喜代子裁判官大橋正春裁判官
木内道祥裁判官山崎敏充)

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