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平成12年(ワ)第10170号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年7月18日
判決
原   告    有限会社アマノエンジニアリングサー
ビス
訴訟代理人弁護士    三 山 峻 司
補佐人弁理士      谷     昇
被   告       ダイゲン工業株式会社
被   告       有限会社河崎精工
被告ら訴訟代理人弁護士 佐 伯 照 道
同           中 森   亘
同           荒 川 雄二郎
被告ら補佐人弁理士   横 井 健 至
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告ダイゲン工業株式会社(以下「被告ダイゲン工業」という。)は、被告
イ号物件目録記載の物件を製造、販売してはならない。
2 被告ダイゲン工業は、被告イ号物件目録記載の物件を廃棄せよ。
3 被告有限会社河崎精工(以下「被告河崎精工」という。)は、被告イ号物件
目録記載の物件を使用してはならない。
4 被告河崎精工は、被告イ号物件目録記載の物件を廃棄せよ。
5 被告ダイゲン工業は、原告に対し、金1500万円及びこれに対する平成1
2年9月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
6 被告河崎精工は、原告に対し、金475万円及びこれに対する平成12年9
月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
第2 事案の概要
 本件は、「輪体のローリング成形装置」の特許発明の特許権者である原告が
被告らに対し、被告らが製造販売ないし使用する金属リングの冷間成形装置は同特
許発明の技術的範囲に属すると主張して、その製造販売等の差止めと損害賠償を請
求した事案である。
1 争いのない事実等(証拠の掲記のないものは当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい、その請求
項1の特許発明を「本件発明」という。)。
ア 発明の名称 輪体のローリング成形装置
イ 特許番号 第2825792号
ウ 出 願 日 平成8年7月10日(特願平8-201175号)
エ 公 開 日 平成10年1月27日(特開平10-24338号)
オ 登 録 日 平成10年9月11日
カ 特許請求の範囲は、別紙訂正明細書(以下「本件訂正明細書」とい
う。)の該当欄記載のとおりである。
(2) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
A 中央周面に輪体成形部(9a)を形成した成形ローラ(9)と、中央周
面に輪体成形部(13a)が形成されると共に、この輪体成形部の両側周面に転動
面(13b、13b)を形成し、該輪体成形部が成形ローラと対向して配設された
マンドレル(13)と、このマンドレルを基準として上記成形ローラとは反対側
に、マンドレルの各転動面と対向して配設された左右一組の加圧ローラ(11a、
11b)とで構成され、
B 上記成形ローラ(9)が固定枠(4)に軸支され、
C また、マンドレルは平行な複数本のガイド軸(5c、5d)に沿って摺
動自在に嵌挿された支持枠(8)に軸支され、
D さらに、加圧ローラが平行な複数本のガイド軸(5a~5d)に沿って
摺動自在に嵌挿された可動枠(7)に軸支されてなり、
E 成形ローラを回転されると共に、加圧ローラをガイド軸に沿って摺動せ
しめてマンドレルの転動面を介し、該マンドレルを成形ローラに対し押圧移動する
ことにより、マンドレルの輪体成形部に通挿保持されたワーク(W)をマンドレル
(13)と成形ローラとの間で成形加工することを特徴とする
F 輪体のローリング成形装置。
(3) 本件発明の訂正の経過は、次のとおりである。
ア 本件特許権は、平成10年9月11日にその設定登録がされたが、設定
登録時の特許請求の範囲は、別紙「設定登録時の特許請求の範囲」記載のとおりで
あった(以下、設定登録時の別紙特許公報(甲2)を「本件訂正前公報」といい、
その明細書を「本件訂正前明細書」という。)。なお、弁論の全趣旨によれば、本
件特許出願時の明細書は本件訂正前明細書と同じ内容であると認められる。
イ その後、平成11年5月7日に共栄精工株式会社より請求項1及び2に
係る特許について、また、同月17日に山本昭より請求項1に係る特許についてそ
れぞれ特許異議の申立て(平成11年異議第71851号)がなされた(乙2、
3)。
ウ 特許庁は、同特許異議の申立ての審理において、平成11年7月29日
付で、原告に対し、次の各理由による特許の取消しの理由を通知した(乙3。以下
「本件取消理由通知」という。)。
(ア) 請求項1及び請求項2に係る発明は、本件特許権の出願前の公知文
献である特開平4-91839号公開特許公報(乙4。以下「乙4公報」とい
う。)、特開平3-198939号公開特許公報(乙5。以下「乙5公報」とい
う。)、特公平2-29414号特許公報(乙6。以下「乙6公報」という。ま
た、同特許に係る特開昭62-176627号公開特許公報(甲13)を「甲13
公報」という。)の発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、特許法
29条2項により特許を受けることができないとの理由
(イ) 本件特許権の出願前に出願され同出願後に公開された特願平7-2
21902号明細書(特開平9-57383号公開特許公報〔乙7。以下「乙7公
報」という。〕)には、請求項1に係る発明と同一の発明が記載されていることか
ら、請求項1の発明は、特許法29条の2により特許を受けることができないとの
理由
エ 原告は、上記のとおり本件取消理由通知を受けたことから、同年10月
12日、特許請求の範囲を別紙「本件訂正請求に係る特許請求の範囲」記載のとお
りとすることを含む訂正の請求をし(甲3の1・2。以下「本件訂正請求」とい
う。)、平成11年11月25日に、特許庁は、「訂正を認める。請求項1ないし
2に係る特許を維持する。」との決定をした(甲4、乙1)。
オ 被告ダイゲン工業は、平成13年2月23日、請求項1~3に係る本件
特許を無効とする旨の無効審判を請求し(無効2001-35080号。乙1
1)、特許庁は、平成13年10月11日、「請求項1及び2に係る発明について
の特許を無効とする。請求項3に係る発明についての特許の審判請求は成り立たな
い。」との審決をした(乙27)。
 これに対し、原告は、平成13年11月16日、東京高等裁判所におい
て、同審決中の請求項1及び2に係る発明に関する部分の取消しを求める訴えを提
起した(甲18)。
カ 原告は、平成13年12月8日、特許請求の範囲の請求項1を別紙「訂
正審判に係る特許請求の範囲」記載のとおり訂正することを含む訂正審判を申し立
てた(甲19の1・2)。
(4) 被告ダイゲン工業は、別紙イ号物件目録記載の金属リングの冷間成形装置
(以下「被告装置」という。)を製造、販売している。
 また、被告河崎精工は被告装置を使用している。
(5) 被告装置は、構成要件A、B及びFを備えている。
2 争点
(1) 被告装置は、「(マンドレルの支持枠が)平行な複数本のガイド軸に嵌挿
されている」(構成要件C)、「(加圧ローラの可動枠が)平行な複数本のガイド
軸に嵌挿されている」(構成要件D)、「加圧ローラをガイド軸に沿って摺動せし
める」(構成要件E)との構成を備えているか。
(2) 被告装置は、本件発明の構成と均等なものとして、その技術的範囲に属す
るか。
(3) 権利濫用(明白な無効理由)
(4) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成要件C~Eの充足性)について
〔原告の主張〕
(1) 被告装置は、マンドレル13の支持枠8が2本のガイドレール5c、5d
に取り付けられ、加圧ローラ11a、11bを軸支する可動枠7が4本のガイドレ
ール5a~5dに取り付けられているが、このガイドレール5a~5dは、本件発
明にいう「マンドレル」及び「加圧ローラ」をそれぞれ軸支する「支持枠」と「可
動枠」を前後方向へ直線状に安定して移動させるためのガイド部材(手段)として
の「ガイド軸」に文言上含まれる。
 そして、「嵌挿」とは文字どおり「挿入して嵌めること」を意味するが、
被告装置は、ガイドレールの端部から「挿入」してガイドレールと直動ブロックを
結合し、摺動可能に取り付けており、この取付態様は「嵌挿」そのものである。
(2) 本件発明の移動手段としての「ガイド軸」を、被告装置においてはガイド
部材として公知の「ガイドレール」を用いているが、これは単なる設計変更あるい
は構造上の微差にすぎないものである。
 このことは、後記争点(2)〔原告の主張〕(1)記載のとおり、本件発明の本
質(特徴)的部分が、マンドレルの支持枠(8)を2本のガイド軸(5c、5d)
により支持し(構成要件C)、さらに加圧ローラの可動枠(7)を上下左右に配置
した4本のガイド軸(5a~5d)によって支持する(構成要件D)という構成に
あり、被告装置が、上記構成をそっくりそのまま模倣していることからも明らかで
ある。
(3) したがって、被告装置は、「(マンドレルの支持枠が)平行な複数本のガ
イド軸に嵌挿されている」(構成要件C)、「(加圧ローラの可動枠が)平行な複
数本のガイド軸に嵌挿されている」(構成要件D)、「加圧ローラをガイド軸に沿
って摺動せしめる」(構成要件E)との構成を備えている。
(4) なお、被告らは、構成要件C、Dの「嵌挿」の意味を「通挿」の意味に限
定して解釈すべきであると主張する。
 「嵌挿」を「通挿」の意味に解釈するのは、明らかな縮小限定である。本
件訂正前明細書の【発明の実施の形態】の項の【0014】には「通挿する」との
言葉が使用されているが、これは【特許請求の範囲】にある「嵌挿」の一具体的実
施形態を説明するために使用したのである。被告らの主張は、【発明の詳細な説
明】の項の用語をもって特許請求の範囲を解釈するものであって、理由がない。
〔被告らの主張〕
(1) 「軸」とは、通常円形の物又は巻く物の中心に通じている棒あるいは物体
の位置、形状、運動などの中心となる特定の直線を指し、「嵌挿する」とは、通常
ある物をある物に嵌め込んでその中に挿し入れることを指すから、構成要件C~E
における「ガイド軸」とは「棒状のガイド軸」のことをいうと解すべきである。
 そして、本件訂正前明細書の【0014】に、「4本の平行なガイド軸5
a、5b、5c、5dに(この「に」は「を」の誤記と考えられる。)通挿するこ
とにより、……可動枠7が夫々摺動可能に支持されていると共に、……下方2本の
ガイド軸5c、5dを通挿することにより支持枠8が前後摺動自在に軸支されてい
るのである。」と記載されているとおり、本件訂正明細書の「嵌挿する」に対応す
る部分は「通挿する」と記載されているのであって、「通挿する」以外の表現は本
件訂正前明細書中には存在しない。したがって、構成要件C、Dの「嵌挿する」と
は、「通挿する」、すなわち棒状のガイド軸を支持枠及び可動枠に通すことにより
挿入することであると解すべきである。
(2) 被告装置のマンドレル13は、下部壁面体72に固設した左右平行な2本
のガイドレール5c、5dに、直動ブロック26を介して拘束状に取り付けた支持
枠8に軸支されている。また、被告装置の加圧ローラ11a、11bは、上下の壁
面体71、72に各平行に固設した4本のガイドレール5a~5dに、直動ブロッ
ク24、24を介して拘束状に取り付けた可動枠7に軸支されている。
 したがって、被告装置は、「(マンドレルの支持枠が)平行な複数本の
(棒状の)ガイド軸に嵌挿(通すことにより挿入)されている」(構成要件C)、
「(加圧ローラの可動枠が)平行な複数本の(棒状の)ガイド軸に嵌挿(通すこと
により挿入)されている」(構成要件D)、「加圧ローラを(棒状の)ガイド軸に
沿って摺動せしめる」(構成要件E)との構成をいずれも備えていない。
(3) 原告は、本件発明の「ガイド軸」(構成要件C、D、E)との構成に対
し、被告装置が「ガイドレール及び直動ブロック」との構成を採っていることにつ
いて、単なる設計変更あるいは構造上の微差にすぎないと主張する。
 しかし、本件発明では、複数本のガイド軸の両端が固定枠によって固着さ
れ、全体として平行な複数本のガイド軸による軸組み構造を形成するものである。
これに対し、被告装置は、上下の壁面体71、72からなる拘束枠体にガイドレー
ルが一体となって取り付けられており、全体として壁面体構造を形成している。
 したがって、本件発明と被告装置とは、その構造上根本的な差異を有して
おり、全く構造の異なるものというべきであるから、原告の上記主張は理由がな
い。
2 争点(2)(均等の成否)
〔原告の主張〕
 以下のとおり、被告装置は、均等論の適用要件をすべて充足するから、本件
発明の技術的範囲に属するものというべきである。
(1) 非本質的部分について
ア 本件発明にあっては、成形ロールと加圧ロールの中間に位置するマンド
レルの支持枠(8)は、前後から挟圧されるため下部左右の2本のガイド軸(5
c、5d)に支持されることで足りるのに対し、作用時に強大な負荷のかかる可動
枠(7)については、ガタつきを防止するため上下左右に配置した4本のガイド軸
(5a~5d)によって支持されることが作用の安定と装置全体の耐久性を図る上
から好ましいのであって、支持枠(8)を2本のガイド軸(5c、5d)により支
持し(構成要件C)、さらに可動枠(7)を上下左右に配置した4本のガイド軸
(5a~5d)によって支持する(構成要件D)という構成が、本件発明の本質的
部分、つまり本件発明特有の作用効果を生じさせるための中核をなす特徴的部分で
あると解すべきである。
イ このことは、構成要件Aの構成が甲13公報、特公平5-45338号
特許公報(甲14)等により公知の構成であり、構成要件B、Eの各構成が乙7公
報に記載されていること、本件発明の本質的部分と捉えるべき上記の構成が上記各
公報や乙4~乙6公報等に全く示されていないものであること、前記第2の1(3)記
載のとおり本件取消理由通知を受けて申し立てた本件訂正請求が認められた経緯に
照らせば明らかである。
ウ ガイド軸あるいはガイドレールというのは、いずれも「ガイド部材」に
属しているのであって、これはブロックなどの移動手段(機構)として一般の産業
機械などに広く用いられているのであって、本件発明の本質的部分ではない。
エ 被告装置は、マンドレル13の支持枠8は、下方の2本のガイドレール
5c、5dに取り付けられ、加圧ローラ11a、11bを軸支する可動枠7は、上
下左右の4本のガイドレール5a~5dに取り付けられているから、本件発明の本
質的部分を備えており、ガイド軸とガイドレールという差異部分は本質的部分には
当たらない。
(2) 置換可能性について
 ガイド軸を被告装置のようにガイドレールに置き換えても、本件発明の
「成形ローラに対する上記支持枠ならびに可動枠の機台上での移動を各部に生じる
負荷の増減、変化にかかわらず可及的に安定した体勢で行わせうるのである」とい
う作用をし、「各枠を円滑に摺動させると共に、装置全体の耐久性が高められるこ
とにより、自動的に良好に保たれることになって成形品の加工精度が可及的に向上
し、真円度の秀れた輪体を成形しうる」といった効果を奏する。
 したがって、被告装置においても、本件発明の目的を達成することがで
き、かつ本件発明と同一の作用効果を奏するといえる。
(3) 容易想到性について
 被告装置の製造時に公知であった乙7公報には、「……サポートロール6
を回転可能に軸支するサポートブロック7(本件発明の可動枠に相当)をマンドレ
ル5の移動方向にのみスライダ8を介して移動させる手段としてガイドレール(無
符号)を用いる技術」が記載されている。したがって、本件発明の「ガイド軸」に
換えて被告装置のような「ガイドレール」を用いることは当業者が容易に想到する
ことができたものというべきである。
(4) 公知技術からの容易推考性について
 被告装置が採用する「可動枠7を上下左右の4か所でガイドレール5a~
5dに支持させる」構成は、本件発明の出願時における公知技術と同一ということ
もできないし、当業者が同出願時に公知技術から容易に推考することができたもの
であるということもできない。
(5) 意識的除外について
ア 出願人たる原告が、輪体のローリング成形装置においてガイド部材とし
てのガイドレールを採用する構成を、出願経過等において意識的に除外したような
事情は全くない。
イ 被告らは、原告が本件特許出願時ないし本件訂正請求時において、ガイ
ドレール及び直動ブロックを用いる構成を意識的に除外したと主張するが、以下の
とおり被告らの同主張は理由がない。
(ア) 本件特許出願時の明細書について
 原告提出の第2回準備書面(平成13年1月18日付)において「…
…『ガイドレール』その他『あり溝』などのガイド部材あるいはガイド機構は、一
般の産業(工作)機械はもとより、本件発明が属する圧造成形装置に広く用いられ
ているのである。」と述べているのは、被告らが主張しているように、「あり(ば
ち形)構造を採用した架台(摺動ブロック)」と、被告装置のガイドレールと直動
ブロックを用いた構成を何ら区別していないからではなく、これらのガイド部材あ
るいはガイド機構はいずれも公知の構成であることを述べているにすぎない。
 ガイド機構としての「あり(溝)構造」は本件訂正明細書の【000
3】の項の後段にも述べているように「摺動時にがたつき」が生じやすい欠点を有
しているのに対し、被告装置の「ガイドレール及び直動ブロック」は、高精度で安
定した直線運動が得られるのであって、「あり(溝)構造」と「ガイドレール及び
直動ブロック」の両者は、機構(構造)上はもとより使用箇所によって起用や作用
が峻別されて理解されている。
 したがって、本件発明が、この「あり構造」を除外しているからとい
って、被告装置の「ガイドレール及び直動ブロック」からなる構成を除外している
という被告らの主張は理由がない。
(イ) 本件訂正請求における明細書の訂正経過について
 本件訂正請求において、原告は、「支持せしめてなる」を具体的に摺
動自在に「嵌挿」という用語を使用して明瞭にしたが、「嵌挿」なる用語の意味
は、「挿入して嵌めること」であり、「通挿」や「貫通」のみに限定した特別の構
成の支持態様に限定したものではない。
〔被告らの主張〕
(1) 非本質的部分ついて
ア 本件発明が特許を認められたのは、「マンドレルは平行な複数本のガイ
ド軸に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠に軸支され」(構成要件C)、「加圧ロ
ーラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠に軸支されて
なり」(構成要件D)との構成が、公知文献や先願発明には開示されていない構成
であり、公知文献や先願発明の技術と同一とはいえないだけでなく、当業者が容易
に発明することができたとすることもできないと認められたからである。
 本件発明は、このような特有の構成を備えることによって、「成形ロー
ラに対するマンドレルならびに各回転軸のバランスが、複数本のガイド軸の案内に
より可動枠および支持枠によりそれぞれ前後動させられるようにされ、各枠を円滑
に摺動させると共に、装置全体の耐久性が高められることにより、自動的に良好に
保たれることになって成形品の加工精度が可及的に向上し、真円度の秀れた輪体を
成形しうるのである。」という効果を奏するものと認められたからであることは明
らかである。
イ 以上の事実からすれば、本件発明の本質的部分は、「マンドレルは平行
な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠に軸支され」(構成要件
C)、「加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動
枠に軸支されてなり」(構成要件D)との構成にある。
ウ 原告は、本件発明の本質的部分が、支持枠(8)を2本のガイド軸(5
c、5d)により支持し(構成要件C)、さらに可動枠(7)を上下左右に配置し
た4本のガイド軸(5a~5d)によって支持する(構成要件D)との構成にある
と主張する。
 しかし、本件訂正明細書の【発明が解決しようとする課題】【課題を解
決するための手段】【作用】のいずれの項目においても、「ガイド軸」の「本数」
の作用効果に関する記載は一切なく、逆に「平行な複数本のガイド軸」が記載され
ているのであって、「ガイド軸」の本数に関する記載は、わずかに【発明の実施の
形態】のうちの【0023】の段落に「……前記可動軸7は上下左右のコーナ部に
貫通させた4本のガイド軸5a~5dにより、そして支持枠8は下方左右の2本の
ガイド軸5c、5dによって夫々前後に摺動案内されるので、これらの各枠は円滑
に進退しうると共に移動時のがたつきが少なく長期にわたり安定して使用しうるの
である。」と記載されているのみである。
 したがって、本件発明の本質的部分が、支持枠及び可動枠を支持するガ
イド軸の本数(2本及び4本)にあるとする原告の主張は理由がない。
エ 本件発明の本質的部分が構成要件C、Dに認められる以上、被告製品と
本件発明は、その本質的部分において相違するものである。
(2) 置換可能性について
ア 本件発明と被告装置の間の置換可能性を判断するに際し、置換の対象と
なるべきは、原告が主張するように「ガイド軸」と「ガイドレール」なのではな
く、「ガイド軸」と「ガイドレールと一体となった壁面体」である。
 被告装置は、上下前後の壁面体によって構成された剛性の高い拘束枠体
を形成し、マンドレル及び加圧ローラは、壁面体と全長にわたって一体となってい
るガイドレールに取り付けられた直動ブロックにそれぞれ支持されていることか
ら、両端を固定枠によって固着されているほかは、空中に剥き出しの軸構造となっ
ているガイド軸のように、軸そのものの伸縮、撓み、歪み、ねじれによる製品の加
工精度への悪影響という問題の発生する余地がなく、本件発明の「軸」と比較して
大きく加工精度を向上させるのである。
 よって、置換可能性、すなわち作用効果の同一性は認められない。
イ なお、仮に、置換可能性が認められるとしても、同一の作用効果を達成
する技術的手段が多様に存在するときに、同一の作用効果を奏する新たな技術手段
を開発した場合、当該特許発明とは別の技術思想と評価されるべきである。
(3) 容易想到性について
 上記のとおり、本件発明の「ガイド軸」と被告装置の「ガイドレールと一
体となった壁面体」を比較すべきところ、従来の同種の成形装置においては本件発
明と同じく軸構造であったから、これを高い剛性を有する壁面体構造とした被告装
置の置換は、当業者が容易に推考できたものではない。
(4) 公知技術からの容易推考性について
 原告は、本件発明と被告装置との差異部分を「ガイド軸」と「ガイドレー
ル」の差と捉えて公知技術からの想到非容易性について主張するが、その主張の前
提が誤っており、原告の主張は理由がない。
(5) 意識的除外について
ア 本件特許出願時の明細書について
 本件特許出願時の明細書(本件訂正前明細書と同じ内容である。)の
【発明の詳細な説明】の【発明が解決しようとする課題】の項には「上記成形ロー
ラを軸支する架台(摺動ブロック)は前記特開昭62-176627号〔甲13公
報〕の第6図に記載のように機台に対して摺動時にがたつきの生じ易いあり(ばち
形)構造を採用しているので耐久性を損ね、しかも製品の成形精度を著しく低下さ
れるのである。」(【0003】)、「本発明は、このような弊害に鑑みなしたも
ので、前記成形ローラを定位置に固定し、…加工精度を可及的に向上させると共
に、構成を簡素となして各部の耐久性を高めることを課題とする。」(【000
4】)、そのため、「本発明の請求項3記載の発明は、前記成形ローラに対して進
退するようにされた前記マンドレルの支持枠および加圧ローラを支持する可動枠
を、前記各ローラの回転軸心と直交した方向に架設した複数本のガイド軸に支持せ
しめてなることを特徴(とする)」(【0007】)等と記載されている。
 こうした記載からすれば、原告は、そもそも本件発明の出願時におい
て、製品の加工精度の向上と装置の簡素化による耐久性の向上を目的として、マン
ドレルの支持枠及び加圧ローラを支持する可動枠を軸支する手段・方法として、
「あり(ばち形)構造を採用した架台(摺動ブロック)」はこれを除いているので
ある。
 そして、原告提出の第2回準備書面には、「……『ガイドレール』その
他『あり溝』などのガイド部材あるいはガイド機構は、一般の産業(工作)機械は
もとより本件発明が属する圧造成形装置に広く用いられているのである。」とされ
ており、原告自身が、「あり(ばち形)構造を採用した架台(摺動ブロック)」と
被告装置のガイドレールと直動ブロックを用いた構成を何ら区別していないから、
本件発明の構成から「ガイドレール」及び「直動ブロック」を用いる構成を意識的
に除外していることは明らかである。
イ 本件訂正請求における明細書の訂正経過について
 原告は、特許異議の手続において、特許庁から本件訂正前明細書の特許
請求の範囲の請求項1、2の発明が進歩性を欠くことを理由とする本件取消理由通
知を受けて、特許の取消しを回避するため、特許請求の範囲の減縮を目的として、
本件訂正明細書のとおり訂正したものである。
 原告は、本来であれば、本件訂正請求後の請求項1について、単に「マ
ンドレルの支持枠を複数本のガイド軸(5c、5d)に支持せしめてなり」、「加
圧ローラを支持する可動枠7を複数本のガイド軸(5a~5d)に支持せしめてな
り」とすれば十分な減縮となるにもかかわらず、あえて、「マンドレルは平行な複
数本のガイド軸(5c、5d)に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠(8)に軸支
され」(構成要件C)、「加圧ローラが平行な複数本のガイド軸(5a~5d)に
沿って摺動自在に嵌挿された可動枠(7)に軸支されてなり」(構成要件D)と訂
正しているのである。
 すなわち、単に「支持せしめて」とすると、甲13公報の第6図に示さ
れているような「あり(ばち形)構造を採用した架台(摺動ブロック)」による軸
支の構成も本件発明の技術的範囲に当然に含まれることになるし、また逆に、その
ような従来技術から進歩性を欠くと判断されるおそれがあるため、本件発明の技術
的範囲からそのような構成を明確に除外する趣旨で、支持枠あるいは可動枠が、ガ
イド軸によって「通挿」あるいは「貫通」されていることを意味する「嵌挿され
た」という構成を付加したものにほかならない。
ウ したがって、原告は、本件発明の技術的範囲から、「あり(ばち形)構
造を採用した架台(摺動ブロック)」を用いる構成、すなわち被告装置のガイドレ
ール及び直動ブロックを用いる構成を意識的に除外していることは明らかである。
3 争点(3)(権利濫用(明白な無効理由))について
〔被告らの主張〕
 以下のとおり、本件特許権には明白な無効理由が存するから、本件特許権に
基づく権利行使は権利の濫用に当たる。
(1) 乙8公報による新規性・進歩性の欠如
ア 本件発明の出願前の公知文献である乙4~6公報や、本件発明の出願前
に出願され本件発明の出願後に公開された乙7公報からすれば、輪体のローリング
成形装置において、加圧ローラ、マンドレル、成形ローラという3つの回転要素が
存在し、加圧ローラがマンドレルを押圧移動することによって、マンドレルと成形
ローラの間にあるワークを成形加工するという技術自体は、新規性のない公知技術
であるというべきである。
イ そして、前記争点(2)の〔被告らの主張〕(1)に記載のとおり、本件発明
の本質は、構成要件C、Dの構成、すなわち「平行な複数本のガイド軸」「嵌挿さ
れた支持枠」「嵌挿された可動枠」といった構造を有することによって、成形品の
加工精度が向上するという効果を奏することにあるというべきであるが、同効果を
奏する技術は、本件発明の出願前の刊行物である乙8公報(バードドゥーベン社の
出願に係るもの)に記載されているものである。
ウ そうすると、本件発明は、全体として新規性・進歩性を欠くことが明白
であるというべきである。
(2) 公然実施されたバードドゥーベン社製品による進歩性の欠如
ア 西島鐵工所(現在の社名は「西島株式会社」)は、日本におけるバード
ドゥーベン社の販売代理店として、平成7年に製造されたバードドゥーベン社製品
「URWA100」(乙8公報の実施品)を、デモンストレーション用の製品とし
て平成7年4月21日に輸入し、輸入後、同社の社屋内に展示していたほか、東
京、名古屋及び大阪で開かれた見本市に随時出品していた。西島鐵工所は、平成9
年5月ころ、この「URWA100」を株式会社オー・エス・テックに売却した。
 したがって、「URWA100」は、本件特許出願日より前の平成7年
4月21日に、日本国内において公然実施された発明である。
イ 「URWA100」は、本件発明の構成要件をすべて備えている。な
お、「URWA100」は成形ローラ、マンドレル及び加圧ローラの3つの回転要
素を上下に配置した縦型の装置であるが、仮に、縦型の装置であることから本件発
明の構成要件の一部を備えていないと解されるとしても、本件特許出願当時、縦型
の装置を横型に置き換える程度のことは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎな
い。
ウ したがって、本件発明は、公然実施された発明から容易に想到できたも
のであり、少なくとも進歩性を欠くことが明らかである。
〔原告の主張〕
(1) 乙8公報の技術は、「形状ロール」(「成形ローラ」に相当)を支持して
いる「ブラケット」が可動する構造であるから、「成形ローラは固定枠に軸支され
る」(構成要件B)との構成を備えていない。
 また、乙8公報の技術は、「支持枠」及び「可動枠」という2つの枠を備
えておらず、マンドレルは「支持枠」のような部材を介して支柱に支持されていな
いから、「支持枠はマンドレルを軸支する」(構成要件C)との構成を備えていな
い。
 さらに、本件発明は「ガイド軸」が水平であることを前提とするものであ
るところ、乙8公報の技術は「ガイド軸」が縦置の構造となっている(乙8公報の
実施品であるバードドゥーベン社製品「URWA100」も同じ。)。
 なお、被告らが本件発明の出願前に公然実施された製品であると主張する
バードドゥーベン社製品「URWA100」は、被告ら提出の証拠によっても、具
体的な構造及び各部の作用の把握が困難である。
(2) したがって、乙8公報及び「URWA100」の技術を理由として新規
性・進歩性を欠くことが明白であり、本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に
当たるとの被告らの主張は理由がない。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について
〔原告の主張〕
(1) 被告ダイゲン工業は、平成9年から平成11年にかけて、被告河崎精工外
の業者から受注を受け、少なくとも3台を製造し、1台当たり2000万円で販
売、納品した。
 被告ダイゲン工業は、被告装置3台の販売により1500万円(1台当た
り500万円)の利益を得ている。
 原告は、被告ダイゲン工業による被告装置の販売行為により、1500万
円の損害を被ったものと推定される(特許法102条2項)。
(2) 被告河崎精工は、平成9年6月に被告装置を購入し、これを使用して、ベ
アリングの内外輪を月間5000個加工し、1個当たり25円の加工賃利益を得て
いる。
 被告河崎精工は、平成9年7月から平成12年8月末日までの38か月間
に475万円の上記加工賃利益を得た。
 原告は、被告河崎精工による被告装置の使用行為により、475万円の損
害を被ったものと推定される(特許法102条2項)。
〔被告らの主張〕
 被告ダイゲン工業が、平成9年から平成11年にかけて被告河崎精工外の業
者から受注を受け、少なくとも3台を製造しこれを販売納品したこと、被告河崎精
工が、平成9年6月に被告装置を購入しこれを使用していることはいずれも認める
が、その余の各主張事実は争う。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(構成要件C~Eの充足性)について
(1) まず、構成要件C、Dにおける「ガイド軸」の解釈について検討する。
ア 「ガイド軸」とは、マンドレルの支持枠及び加圧ローラの可動枠をガイ
ドする「軸」を意味すると解されるところ、「軸」の一般的な語義をみると、「広
辞苑」〔第五版〕(岩波書店)には「車の心木(しんぎ)。巻く物の中心にする丸
い棒。中心線のまわりに回転する棒状の部材。」などと記載され、「大辞林」(三
省堂)には「車の左右二つの車輪をつないでいる棒。車の心棒。巻物や掛物の心に
する丸い棒」などと記載されている。
イ また、本件訂正明細書において実施例を示す図として引用する図1~5
(本件訂正前公報参照)によれば、いずれも「ガイド軸」(5a~5b)に相当す
る部材が丸棒状のもので構成されており、その他、本件訂正明細書及び図面中に、
「ガイド軸」が、丸棒状以外の形態を備えたものを含むと解すべきことを示唆する
ような記載は見当たらない。
ウ そうすると、「ガイド軸」とは、丸棒状の形態を備えたガイド部材と解
すべきである。
 そして、こうした解釈は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項3
において「ガイド軸……を同一軸心に配列させる」と記載されていることにも合致
する。
(2) 被告装置は、当事者間に争いがない別紙イ号物件目録の記載によれば、マ
ンドレル13の支持枠8及び加圧ローラ11a、11bの可動枠7が、上下の壁面
体71、72に固設されたガイドレール5a~5dに直動ブロック24を介して拘
束状に取り付けられていて、ガイドレールは同目録記載のとおり断面が非円形の細
長い鋼材であり、しかも機壁に固設されているものであって、上記のとおり丸棒状
の「ガイド軸」との構成を備えるものではない(なお、「軸」を断面円形の丸棒状
のものに限定せず、棒状の部材をいうと解釈できるとしても、被告装置のガイドレ
ールは「ガイド軸」の範ちゅうに入るものとはいえない。)。
(3) 原告は、被告装置のようなガイドレールも、ガイド部材としての「ガイド
軸」に含まれる、単なる設計変更あるいは構造上の微差にすぎないと主張する。
 しかし、本件訂正明細書の【発明の詳細な説明】の【作用】、【発明の効
果】の項には、請求項1の発明の奏する作用効果として、複数本のガイド軸を用い
た構成により、各枠を円滑に摺動させうるとともに装置全体の耐久性を高めしめう
るという点についても記載されていることからすると(詳細は、後記2(1)ウ参
照)、本件発明の構成は、ガイド部材としてのガイド軸自体が装置全体の強度を支
える軸組み構造の構成部材としての機能を果たしているといえるのに対し、被告装
置の構成は、ガイド部材としてのガイドレールは装置全体の強度を支える部材とし
ての機能を果たしていない。
 したがって、本件訂正明細書に記載されている作用、効果の点を考慮すれ
ば、「ガイドレール」と「ガイド軸」の差異が、単なる設計変更あるいは構造上の
微差にすぎないということはできない。
(4) 以上によれば、被告装置は、「(マンドレルの支持枠が)平行な複数本の
ガイド軸に嵌挿されている」(構成要件C)、「(加圧ローラの可動枠が)平行な
複数本のガイド軸に嵌挿されている」(構成要件D)、「加圧ローラをガイド軸に
沿って摺動せしめる」(構成要件E)という本件発明の特許請求の範囲の文言上の
構成を備えているとはいえない。
2 争点(2)(均等の成否)
 上記のとおり、被告装置は、マンドレル13の支持枠8及び加圧ローラ11
a、11bの可動枠7が、ガイドレール5a~5dに直動ブロックを介して取り付
けられている点で、本件発明の「(マンドレルの支持枠が)ガイド軸に嵌挿されて
いる」(構成要件C)、「(加圧ローラの可動枠が)ガイド軸に嵌挿されている」
(構成要件D)、「加圧ローラをガイド軸に沿って摺動せしめる」(構成要件E)
との構成と文言上異なることになる。
 しかるところ、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部
分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分
を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、
同一の作用効果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の
製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、
特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容
易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続にお
いて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない
ときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、
特許発明の技術的範囲に属するものと解される(最高裁判所平成10年2月24日
第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
(1) 上記要件のうちの⑤(意識的除外)について、まず検討することとする。
ア 均等が成立するための要件として、「対象製品等が特許発明の特許出願
手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事
情もない」ことが挙げられているのは、特許出願手続において出願人が特許請求の
範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的
範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動を
とったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法
理に照らし許されないという趣旨に基づくものと解される。以下、本件発明の出願
経過について検討する。
イ 本件発明の出願経過は、前記第2の1(3)記載のとおりであるが、まず、
本件訂正請求前後の各明細書の記載における特許請求の範囲の記載について検討す
る。
(ア) 原告が本件請求の根拠としている訂正明細書の請求項1の発明は、
本件訂正前明細書における請求項1を引用する請求項3(「成形ローラ(9)に対
して……各支持せしめてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の輪体のロー
リング成形装置。」〔別紙「設定登録時の特許請求の範囲」参照〕)の発明に対応
するものである。一方、訂正前明細書の請求項1、2には、「ガイド軸」について
は全く記載されていなかった。
(イ) そして、構成要件C、Dに対応する構成は、本件訂正前明細書の請
求項3における「成形ローラ(9)に対して進退するようにされた前記マンドレル
(13)の支持枠(8)および加圧ローラ(11a、11b)を支持する可動枠
(7)を、前記各ローラの回転軸心と直交方向に架設した複数本のガイド軸(5
c、5d)、(5a~5d)に各支持せしめてなる」との記載に対応するものであ
るが、本件訂正前明細書においては、支持枠及び可動枠が「複数本のガイド軸に各
支持せしめてなる」とされていたのが、本件訂正請求後には、「マンドレルは平行
な複数本のガイド軸(5c、5d)に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠(8)に
軸支され」(構成要件C)、「加圧ローラが平行な複数本のガイド軸(5a~5
d)に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠(7)に軸支されてなり」(構成要件
D)との記載に訂正されている。
ウ さらに、本件訂正請求前後の各明細書の【発明の詳細な説明】の記載を
検討する。
(ア)a 本件訂正前明細書の【発明の詳細な説明】の【作用】の項には、
請求項1及び請求項3の発明が奏する作用について、次の記載がある。
(a)請求項1については、「上記請求項1記載の発明によれば、固定
枠に支持され、かつ所定速度で回転する成形ローラに対し、中央の輪体成形部にワ
ークを保持させたマンドレルを該マンドレルの両側に形成した転動面へ背後から回
転状態で転接させるようにした加圧ローラにより押圧させるのであるから、従来の
ように、左右2ケ所で支持させたマンドレルに対し中央正面から成形ローラで押圧
する場合に比較して、前者の方がマンドレルに調心作用が自動的に生じてバランス
が良好に保たれることになるのである。これは一般に弥次郎兵衛(釣合人形)とし
て知られている重心の理論を応用した「やじろべい振子の理論」に共通するのであ
って、すなわち軸受各部に若干(許容範囲内)の誤差を有していても各ローラ、特
にマンドレルに生じる振れ、がたつきなどは左右可及的平均に是正されて自動調心
が適切、良好に保たれることにより前記従来装置に比較して圧造加工のバラつきを
少なくして製品の精度を向上させ、真円度の高い輪体が得られるのである。」(4
欄37行~5欄4行)と記載されている。
(b)請求項3については、「さらに、請求項3記載の発明によれば、
マンドレルの支持枠および加圧ローラを軸支する支持枠は夫々の回転軸心と直交し
た方向に架設した複数本のガイド軸へ摺動自在に支持させているので、成形ローラ
に対する上記支持枠ならびに可動枠の機台上での移動を各部に生じる負荷の増減、
変化にかかわらず可及的に安定した体勢で行なわせうるのである。」(5欄19~
25行)と記載されている。
b また、【発明の効果】の項には、請求項1及び請求項3の発明が奏
する効果について、次の記載がある。
(a)請求項1については、「本発明の請求項1記載の発明は、成形ロ
ーラに対するマンドレルならびに各回転軸のバランスが自動的に良好に保たれるこ
とになって成形品の加工精度が可及的に向上し、真円度の秀れた輪体を成形しうる
のである。」(8欄47行~9欄1行)と記載されている。
(b)請求項3については、「さらに、本発明の請求項3記載の発明
は、機台上の可動枠および支持枠は複数本のガイド軸の案内により前後動させるよ
うにしているので各枠を円滑に摺動させうると共に、装置全体の耐久性を高めしめ
うるのである。」と記載されている。
(イ) 本件訂正明細書における【発明の詳細な説明】の【作用】の項の
【0008】、【発明の効果】の項の【0025】には、本件訂正請求後の請求項
1の発明が奏する作用効果について、本件訂正前明細書の請求項1及び請求項3の
各作用効果を合わせた内容が記載されている。
エ そうすると、本件訂正前明細書においては、請求項1の発明は、自動調
心作用により真円度の秀れた輪体を成形し得るという作用効果を奏し、請求項3の
発明は、複数本のガイド軸を用いた構成により、各枠を円滑に摺動させ得るととも
に装置全体の耐久性を高めしめ得るという作用効果を奏していたところ、原告は、
請求項1及び請求項2に係る発明は乙4~乙6公報の発明に基づいて当業者が容易
に想到し得る(特許法29条2項違反)、先願発明である乙7公報には請求項1に
係る発明と同一の発明が記載されている(同法29条の2違反)との本件取消理由
通知を受けて、こうした取消理由を避けるため、「ガイド軸」以外の構成からなる
発明を除く趣旨で、「ガイド軸」との構成を含む請求項3の構成を合わせて、請求
項1としたものと解される。
オ(ア) もっとも、「ガイド軸」に係る構成が本件訂正前明細書の請求項3
に記載されていたものであり、その構成がそのまま本件訂正明細書の請求項1に引
き継がれているとみることができる場合には、本件訂正請求前の請求項3の発明を
そのまま残したものにすぎず、その発明の技術的範囲を限定する趣旨ではないと認
めるべき場合もあり得ると解される。
 そして、そうした場合には、本件訂正請求前の請求項3の発明の技術
的範囲が、均等論を含めて解釈すると「ガイドレール及び直動ブロック」からなる
構成もその技術的範囲に属すると判断されれば、そうした請求項3の発明における
均等論を含めた技術的範囲が、そのまま本件訂正請求後の請求項1に引き継がれる
との解釈が可能となる余地がある。
(イ) しかしながら、本件訂正請求においては、前記イ記載のとおり、本
件訂正前明細書の請求項3においては、「(支持枠及び可動枠が)複数本のガイド
軸に各支持せしめてなる」と記載されていたところ、本件訂正明細書の請求項1に
おいては、「マンドレルは平行な複数本のガイド軸(5c、5d)に沿って摺動自
在に嵌挿された支持枠(8)に軸支され」(構成要件C)、「加圧ローラが平行な
複数本のガイド軸(5a~5d)に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠(7)に軸
支されてなり」(構成要件D)との記載に訂正されている。
 「特許技術用語集」(特許技術用語委員会編・日刊工業新聞社発行)
には、「嵌挿」とは「挿入して嵌めること。(例)差し込みをコンセントに嵌挿す
る。ピン孔に抜け止めピンが嵌挿される。」と記載されており(甲20)、本件訂
正明細書の請求項1は、「嵌挿」という用語を用いたことにより、本件訂正前明細
書の記載と比較すると、「ガイド軸」への支持態様を具体的に限定したものになっ
ている。
(ウ) そして、前記第2の1(3)記載のとおり、原告は、請求項1及び請求
項2に係る発明は乙4~乙6公報の発明に基づいて当業者が容易に想到し得る(特
許法29条2項違反)、先願発明である乙7公報には請求項1に係る発明と同一の
発明が記載されている(同法29条の2違反)との本件取消理由通知を受けたもの
であるところ、乙4公報及び乙5公報においては、加圧ローラ、マンドレル、成形
ローラを軸支する部材の支持方法についての記載はないが、乙6公報の実施例に記
載の技術は、成形ローラを軸支する摺動ブロックが、機台に設けられたあり溝構造
のガイド部により前後方向に摺動可能に支持されていること、乙7公報の実施例に
記載の装置は、サポートロール(本件発明の「加圧ロール」に相当)を軸支するサ
ポートブロックが、スライダを介してベッド(機台)に支持されていることが認め
られる。
カ そうすると、本件取消理由通知に引用された公知技術及び先願発明にお
いて、あり溝構造のガイド部により摺動可能に支持するものや、スライダを介して
機台に支持するものが存在していること、原告が本件取消理由通知を受けて請求項
1に付加した請求項3記載の構成は、マンドレル及び加圧ローラを軸支する部材の
支持方法に関するものであること、原告は同支持方法に関する請求項3記載の構成
を本件訂正請求後の請求項1にそのまま引き継いだものではなく、更に具体的に限
定を加えた訂正をしていることからすると、少なくとも、本件訂正請求の経緯を外
形的に見た場合には、原告は、被告装置のように「ガイドレール及び直動ブロッ
ク」から構成され文言上「ガイド軸」との構成を充足しない発明を、本件発明の対
象から意識的に除外したと解される行動をとったものというべきである。
(2) したがって、被告装置が本件訂正請求において特許請求の範囲から意識的
に除外されたものに当たると解すべき特段の事情があるというべきであるから、そ
の余の均等の要件について判断するまでもなく、原告の均等の主張は理由がない。
3 以上によれば、被告装置は本件発明の技術的範囲に属さないから、その余の
争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
      大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官   小 松 一 雄
裁判官   阿 多 麻 子
裁判官   前 田 郁 勝
(別紙) 設定登録時の特許請求の範囲
【請求項1】
 中央周面に輪体成形部(9a)を形成した成形ローラ(9)と、この成形ロー
ラと対向して、中央周面に輪体成形部(13a)を、両側周面に転動面(13b)
を各形成したマンドレル(13)と、このマンドレルの上記成形ローラとは反対が
わに対設され、かつ該マンドレルの転動面と対接する左右一組の加圧ローラ(11
a、11b)との3つの回転要素を平面上に平行として夫々回転可能に軸支した輪
体のローリング成形装置において、
 上記成形ローラ(9)は固定枠(4)に軸支させ、該成形ローラに対し上記マ
ンドレル(13)を加圧ローラ(11a、11b)により押圧移動させるようにし
たことを特徴とする輪体のローリング成形装置。
【請求項2】
 前記加圧ローラ(11a、11b)の駆動部に一方向クラッチ(27)を介設
すると共に、該加圧ローラを成形ローラ(9)の回転速度より低速度で回転させる
ようにしたことを特徴とする請求項1に記載の輪体のローリング成形装置。
【請求項3】
 成形ローラ(9)に対して進退するようにされた前記マンドレル(13)の支
持枠(8)および加圧ローラ(11a、11b)を支持する可動枠(7)を、前記
各ローラの回転軸心と直交方向に架設した複数本のガイド軸(5c、5d)、(5
a~5d)に各支持せしめてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の輪体の
ローリング成形装置。
【請求項4】
 請求項1に記載の輪体のローリング成形装置において、該成形装置(1、1)
の2台を夫々のガイド軸(5a~5d)を同一軸心に配列させるようにして各端部
枠(3、3)が前後背中合わせとなるよう対設させ、加圧ローラ(11a、11
b)を各軸支する前後の可動枠(7、7)をこれら両可動枠間に介設せしめた復動
型油圧シリンダ(30)の各ピストンロッド(31、31)により前後方向へ交互
に進退させるようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の輪体のロー
リング成形装置。
(別紙) 本件訂正請求に係る特許請求の範囲
【請求項1】
 中央周面に輪体成形部(9a)を形成した成形ローラ(9)と、中央周面に輪
体成形部(13a)が形成されると共に、この輪体成形部の両側周面に転動面(1
3b、13b)を形成し、該輪体成形部が成形ローラと対向して配設されたマンド
レル(13)と、このマンドレルを基準として上記成形ローラとは反対側に、マン
ドレルの各転動面と対向して配設された左右一組の加圧ローラ(11a、11b)
とで構成され、
 上記成形ローラ(9)が固定枠(4)に軸支され、また、マンドレルは平行な
複数本のガイド軸(5c、5d)に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠(8)に軸
支され、さらに、加圧ローラが平行な複数本のガイド軸(5a~5d)に沿って摺
動自在に嵌挿された可動枠(7)に軸支されてなり、成形ローラを回転されると共
に、加圧ローラをガイド軸に沿って摺動せしめてマンドレルの転動面を介し、該マ
ンドレルを成形ローラに対し押圧移動することにより、マンドレルの輪体成形部に
通挿保持されたワーク(W)をマンドレルと成形ローラとの間で成形加工すること
を特徴とする輪体のローリング成形装置。
【請求項2】
 前記加圧ローラ(11a、11b)の駆動部に一方向クラッチ(27)を介設
すると共に、該加圧ローラを成形ローラ(9)の回転速度より低速度で回転させる
ようにしたことを特徴とする請求項1に記載の輪体のローリング成形装置。
【請求項3】
 請求項1又は2に記載の輪体のローリング成形装置において、該成形装置
(1、1)の2台を夫々のガイド軸(5c、5d)又は(5a~5d)を同一軸に
配列させるようにして各端部枠(3、3)が前後背中合わせとなるように対設さ
せ、加圧ローラ(11a、11b)を各軸支する前後の可動枠(7、7)をこれら
両可動枠間に介設せしめた復動型油圧シリンダ(30)の各ピストンロッド(3
1、31)により前後方向へ交互に進退させるようにしたことを特徴とする請求項
1又は2に記載の輪体のローリング成形装置。
(別紙) 訂正審判に係る特許請求の範囲
【請求項1】
 中央周面に輪体成形部(9a)を形成した成形ローラ(9)と、中央周面に輪体
成形部(13a)が形成されると共に、この輪体成形部の両側周面に転動面(13
b)を形成し、該輪体成形部が形成ローラと対向して配設されたマンドレル(1
3)と、このマンドレルを基準として上記成形ローラとは反対側に、マンドレルの
各転動面と対向して配設された左右一組の加圧ローラ(11a、11b)の3つの
回転要素を平面上に平行として夫々回転可能に軸支した輪体のローリング成形装置
において、
 前記成形ローラは固定枠(4)に軸支され、
 前記マンドレルは支持枠(8)に軸支され、
 前記加圧ローラは可動枠(7)に軸支されると共に、
 該可動枠は、その上下左右において嵌挿させた、前記回転要素の各軸心と直交方
向に架設した4本のガイド軸(5a~5d)により摺動自在とされ、
 前記支持枠は、これに嵌挿させた、前記4本のガイド軸における下方2本のガイ
ド軸(5c、5d)により摺動自在とされてなり、
 成形ローラを回転させると共に、可動枠をガイド軸に沿って支持枠側へ摺動せし
めて加圧ローラでマンドレルを成形ローラに対し押圧移動させることにより、マン
ドレルの輪体成形部に通挿保持されたワーク(W)をマンドレルと成形ローラとの
間で成形加工することを特徴とする輪体のローリング成形装置。
(下線部は訂正部分を示す。)
(別紙)
イ号物件目録イ号図面訂正明細書

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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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