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平成10年(行ケ)第171号審決取消請求事件(平成11年9月22日口頭弁論
終結)
         判     決
    原      告  コムサットコーポレーション
    代表者  【A】
    訴訟代理人弁護士  中村 稔
    同         熊倉禎男
    同         辻居幸一
    同         田中伸一郎
    同         宮垣 聡
    同    弁理士  【B】
    被      告  特許庁長官 【C】
    指定代理人  【D】
    同         【E】
同【F】
    同         【G】
         主     文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
     この判決に対する上告及び上告受理のための付加期間を30日と定め
る。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告
   特許庁が、平成9年審判第6659号事件について、平成9年12月24日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、昭和57年11月19日(優先権主張・1981年11月19日、
アメリカ合衆国)にした特許出願(特願昭58ー500335号)の一部を分割し
て、平成4年11月19日、名称を「防護信号通信方法」とする発明(以下「本願
発明」という。)につき特許出願をした(特願平4ー332267号)が、平成9
年1月27日に拒絶査定を受けたので、同年4月28日、これに対する不服の審判
の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成9年審判第6659号事件として審理したうえ、平
成9年12月24日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その
謄本は平成10年2月12日、原告に送達された。
 2 本願発明の要旨
  (1) 本願明細書の特許請求の範囲第12項に記載された発明(以下「本願第1
発明」という。)の要旨
    送信機から受信機へ信号を伝送する防護信号通信方法であって、前記送信
機側で、情報を示すプログラム信号を供給し、前記プログラム信号を受信する全て
の受信機に共通の第1シーケンス信号を発生し、前記プログラム信号を受信する全
ての受信機に共通のキー信号を供給し、少なくとも前記第1シーケンス信号に基づ
いて前記プログラム信号を暗号化し、暗号化された第1シーケンス信号を得るため
に前記キー信号により前記第1シーケンス信号を暗号化し、前記暗号化されたプロ
グラム信号と前記暗号化された第1シーケンス信号を送信し、前記受信機側で、前
記キー信号を得、解読された第1シーケンス信号を得るために前記キー信号に基づ
いて前記第1シーケンス信号を解読し、前記プログラム信号を得るために前記第1
シーケンス信号に基づいて前記暗号化されたプログラム信号を解読する防護信号通
信方法。
  (2) 本願明細書の特許請求の範囲第15項に記載された発明(以下「本願第2
発明」という。)の要旨
    送信機から受信機へ信号を伝送する防護信号通信方法であって、前記送信
側で、情報を示すプログラム信号を供給し、少なくとも毎分数回変化する第1シー
ケンス信号を発生し、キー信号を供給し、少なくとも前記第1シーケンス信号に従
って前記プログラム信号を暗号化し、暗号化された第1シーケンス信号を得るため
に前記キー信号により前記第1シーケンス信号を暗号化し、前記暗号化されたプロ
グラム信号と前記暗号化された第1シーケンス信号を送信し、前記受信側で、キー
信号を得、解読された第1シーケンス信号を得るために前記キー信号に素づいて前
記第1シーケンス信号を解読し、前記プログラム信号を得るために前記第1シーケ
ンス信号に基づいて前記暗号化されたプログラム信号を解読する防護信号通信方
法。
 3 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1、第2発明が、本願発明の
優先権主張の日の前にわが国において頒布された刊行物である特開昭56ー500
075号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」
という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ、特許
法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
   審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例記載事項の認定、本願第1発
明と引用例発明との一致点及び相違点並びに本願第2発明と引用例発明との一致点
及び相違点の各認定は認める。
   審決は、本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断及び本願第2
発明と引用例発明との相違点についての判断を誤って、本願第1、第2発明が引用
例発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとの誤った結論に至ったも
のであるから、違法として取り消されなければならない。
 1 取消事由1(本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)
  (1) 審決は、本願第1発明と引用例発明との相違点である「前者(注、本願第
1発明)においては、『プログラム信号を受信する全ての受信機に共通のキー信
号』を用いるのに対し、後者(注、引用例発明)においては、『加入の種類に従っ
て複数の値をとることができるキー信号』を用いる点」(審決書6頁14~19
行)について、「『加入の種類に従って複数の値をとることができる』ということ
は、加入の種類にかかわらず共通の値をとることを排除するものではなく、また、
同一のサービスを行う場合には、共通のキーでよいことは自明であり、全ての受信
機に共通のキー信号を用いるとした点に、格別の創意を要するものとすることはで
きない。また、その効果も、当業者の予測し得る程度のものであって、格別のもの
とも認められない。」(同8頁3~11行)と判断したが、それは誤りである。
    すなわち、従来技術においては、各加入者ごと又は一定の加入者のグルー
プごとに、それぞれ別個のキー信号を付与していたために、キー信号により暗号化
された第1シーケンス信号の種類はキー信号の種類と同数になることから、これら
のすべてをプログラム信号と同時に送信することが実質的に不可能であったとこ
ろ、本願第1発明は、キー信号をすべての受信機に共通するものとする構成を採用
したことにより、キー信号により暗号化された第1シーケンス信号もすべての受信
機に共通となるため、暗号化された第1シーケンス信号をプログラム信号とともに
即座に送信することが可能となり、これによって、2段階の暗号化によって通信の
安全を高めつつも、システムの複雑化を回避し、送信時間を要しない暗号化システ
ムを得ることができたものである。
    これに対し、引用例発明は、サービス・キーK(本願発明の「第1シーケ
ンス信号」に相当する。)を加入キーCi(本願発明の「キー信号」に相当す
る。)で暗号化し、メッセージM1(本願発明の「暗号化された第1シーケンス信
号」に相当する。)として送信するものであるが、引用例に、加入キーCiを全加
入者に共通なものとすることは全く記載されていないのみならず、1か月、3か
月、6か月、1年という4種類の加入期間による加入方式の例が示され(甲第5号
証8欄9~13行)、「この方式によれば、所与の月の間所与のサービスに対して
使用者が使用できる加入キーは22在ることになる。」(同欄15~17行)、
「前にのべた加入方式で与えられるサービスに対し、あらゆる時点において22の
異なったメッセージが用意されている。メッセージの持続期間はサービス・キーK
の持続期間に等しくそして所与のサービスに対しあらゆる時点において、現在の加
入キーと同数のメッセージが存在する」(同9欄15~20行)と記載されてお
り、このような記載からすれば、引用例発明は、キー信号(加入キーCi)を加入
の種類又はサービスごとに複数設ける(上記の加入方式の例では、4種類の加入期
間のうち、1か月のものは1個だが、3か月、6か月、1年のものはそれぞれその
初めの月により3個、6個、12個に分かれ、合計22個となる。)という技術思
想を開示するものであり、キー信号を全加入者に共通のものにするということは全
く予想していないといわざるを得ない。
    したがって、本願第1発明と引用例発明とは、全く異なる技術思想に基づ
くものであり、本願第1発明を引用例発明から容易に推考することは到底できない
ものというべきであって、審決の上記相違点についての判断は、この点についての
判断を誤ったものであることが明らかである。
  (2) 被告は、引用例発明において、加入種別を1種類のみとしてキー信号をプ
ログラム信号を受信するすべての受信機に共通とすることに当業者が格別の創意を
要するものではないと主張するが、加入種別を1種類(例えば1か月の加入期間)
としたとしても、各加入者ごとに異なるID番号を付して、かかるID番号によっ
て第1シーケンス信号を暗号化することも可能であるから、加入種別を1種類のみ
としたからといって、暗号化された第1シーケンス信号をプログラム信号と同時に
送信するためにすべての受信機に共通のキー信号を採用することが、格別の創意な
しに導かれるものではない。
    また、現実には、加入者の便宜を考慮して複数の加入方式を採用せざるを
得ないものであるが、本願第1発明は、加入の種類を複数としても、キー信号をす
べての受信機に共通のものとする技術思想に基づくものであって、引用例発明とは
異なる発想に基づくものである。
 2 取消事由2(本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)
   審決は、本願第2発明と引用例発明との相違点である「前者(注、本願第2
発明)においては、『少なくとも毎分数回変化する第1シーケンス信号』を用いる
のに対し、後者(注、引用例発明)においては、『数分台の比較的短い期間でラン
ダムな仕方で変わるサービス・キー』を用いる点」(審決書7頁15~19行)に
ついて、「少なくとも毎分数回変化する第1シーケンス信号を用いるのも、数分台
の比較的短い期間でランダムな仕方で変わるサービス・キーを用いるのも、共に伝
送の機密性を高めるためのものであって、毎分数回変えるのも、数分の周期で変え
るのも、その効果において大差なく、当業者ならば設計上、適宜選択し得る事項に
過ぎない。」(同8頁14行~9頁1行)と判断したが、それは誤りである。
   すなわち、本願発明においては、プログラムの暗号化に用いた第1シーケン
ス信号が非加入者にも受信されてしまうため、本願第2発明は、非加入者による暗
号解読を極力防ぐために、第1シーケンス信号を少なくとも毎分数回変化させる構
成を採用したものである。従来技術においては、プログラム信号を暗号化する信号
を頻繁に変更した場合、それをさらに暗号化することなく送信し、また、プログラ
ム信号を暗号化する信号をさらに暗号化する信号が用いられた場合、それを頻繁に
変更することはなかったのであるが、本願第2発明は、この両者を組み合わせるこ
とに想到し、プログラム信号を暗号化する第1シーケンス信号を頻繁に変更するう
えに、さらに第1シーケンス信号をキー信号により暗号化する構成としたものであ
る。
   本願第2発明のかかる第1シーケンス信号の変化の頻度は、通信の安全性を
高める上での必須の要件であって、その毎分数回という高頻度と、引用例発明にお
ける数分に1回という周期とでは、変化の頻度の差は数十倍にも及ぶものであり、
両者の差は、単なる設計事項に止まらない本質的な差であるというべきである。
   したがって、審決の上記相違点についての判断は、この点についての判断を
誤ったものであることが明らかである。
第4 被告の反論の要点
   審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)
について
   原告は、引用例発明がキー信号(加入キーCi)を加入の種類又はサービス
ごとに複数設けるという技術思想を開示するものであり、キー信号を全加入者に共
通のものにするということは全く予想していないと主張するが、誤りである。
   すなわち、引用例の1か月、3か月、6か月、1年という4種類の加入期間
による加入方式の例の記載は、引用例の「この二重キー方式の動作を説明するため
に、例として4つの種類の加入が用いられる加入方式に関し説明される。」(甲第
5号証8欄9~11行)との記載のとおり、あくまで1例であって、キー信号(加
入キーCi)を加入の種類に従って複数設けることができることを示したものにす
ぎず、キー信号を1個とすることを排除するものではない。引用例発明において、
1種類の加入種別のみの場合でもシステムを構築できることが明らかであるから、
加入種別を1種類のみとし、これに対して1つのキー信号を用いること、例えば、
上記の加入方式の例のうちキー信号が1個しかない1か月の加入期間のみを採用し
た場合、すなわち審決のいう「同一のサービスを行う場合」には、キー信号は加入
種類と関わりがなくなるので、プログラム信号を受信するすべての受信機にキー信
号を共通とすることに、当業者が格別の創意を要するものではなく、その効果も当
業者の予測し得る程度である。
   したがって、審決の本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断に
誤りはない。
 2 取消事由2(本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)
について
   原告は、本願第2発明の毎分数回という高頻度と、引用例発明における数分
に1回という周期とでは、変化の頻度の差は数十倍にも及ぶものであり、両者の差
は、単なる設計事項に止まらない本質的な差であると主張するが、誤りである。
   テレビジョン等のプログラム信号の暗号化技術において、暗号化に用いられ
る第1シーケンス信号を少なくとも毎分数回というような高い頻度で切り替ること
は、必要に応じて当業者が適宜選択し得る常套手段であるので、テレビジョン等の
プログラム信号の伝送をも包含していることが明らかな引用例発明において、第1
シーケンス信号(サービス・キーK)の変化頻度を少なくとも毎分数回と設定する
ことは、必要に応じて適宜選択し得る事項であり、また、そのことによる効果も引
用例から予測し得る程度のものである。
   したがって、審決の本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断に
誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)
について
  (1) 平成7年3月20日付手続補正書(甲第3号証)及び平成9年5月28日
付手続補正書(甲第4号証)による各補正を経た後の本願明細書(甲第2号証)
(以下単に「本願明細書」という。)には、「本発明は、テレビジョン信号伝送の
機密性に関し、詳言すれば、テレビジョン信号伝送の非公認受信の防御に関するも
のである。」(甲第3号証7頁13~14行)、「加入者テレビジョン方式が増大
することによって、同様にプレミアムテレビジョンプログラムを料金を支払わずに
受信しかつ映し出そうとする者の数も増大してきている。」(同頁21~23
行)、「加入衛星テレビジョン(SSTV)方式は非公認受信に対して確かに弱味
があり、そしてそれゆえ有効な防御技術が非常に望まれる。」(同号証8頁4~6
行)、「より複雑な技術は加入者のデコーダボックスに追加の情報を含むことがで
き、このデコーダボックスは個々の加入者に特別にアドレスされかつ幾つかのまた
はすべてのチャンネルをオンまたはオフするのに使用される制御センタからの命令
を受信する能力を含んでいる。」(同9頁6~9行)、「本発明の目的は、・・・
加入テレビジョン方式用防護補助装置を提供することにある。本発明のさらに他の
目的はコストおよび複雑さを最小にするかかる防護補助装置を提供することにあ
る。」(同頁19~22行)との各記載があり、本願第1発明の要旨自体とこの各
記載とによれば、本願発明は、加入テレビジョンの非公認受信の防御のための防護
信号通信方法であって、本願明細書上必ずしも明確ではないものの、本願第1発明
は、個々の加入者ごとに別個のキー信号を付与していたより複雑な従来技術に対
し、キー信号をすべての受信機に共通するものとする構成を採用したことにより、
システムの複雑化を回避してコストを減ずる作用効果を奏するものであることが窺
われる。
  (2) 他方、引用例に、「『二重キー方式が採用され・・・情報のロック(鎖
錠)を可能にするサービス・キーK。このキーは数分台の比較的短い期間でランダ
ムな仕方で変わる。加入の種類に従って複数の値Ciをとることができる加入キ
ー・・・この加入キーは各受信局に挿入される加入担体に書き込まれている。送信
に際して、特定のメッセージが作成されて、データと共に伝送』・・・するもの
で、送信機において、『サービス・キーKを利用する自動ロック回路24は、情報
を搬送する信号dを受けて、ロックされた信号Dを発生・・・加入キーCiおよび
サービス・キーKから出発して、メッセージMiを形成・・・情報信号およびメッ
セージの送信』・・・し、受信機において、『メッセージならびに加入キーを受け
て、送信局で用いられたサービス・キーに対応する信号を再生・・・ロックされた
信号Dを受けると共に、サービス・キーを受け・・・ロックされている信号Dを解
放、即ちアンロックされた信号dを発生』・・・するようにした伝送方式」(審決
書4頁9行~5頁9行)が記載されていることは当事者間に争いがない。そして、
引用例(甲第5号証)には、「この二重キー方式の動作を説明するために、例とし
て4つの種類の加入が用いられる加入方式に関し説明される。ここで4つの種類の
加入とは、1ヶ月の加入、3ヶ月の加入、6ヶ月の加入および1年の加入(予約)
である。加入はこのような加入期間によって特徴付けられるばかりでなく、初めの
月によって特徴付けられる。この方式によれば、所与の月の間所与のサービスに対
して使用者が使用できる加入キーは22在ることになる。即ち、1つの1ヶ月キー
と3つの3ヶ月キーと6つの半年キーと12の1年キーである。」(同号証8欄9
~18行)、「前にのべた加入方式で与えられるサービスに対し、あらゆる時点に
おいて22の異なったメッセージが用意されている。メッセージの持続期間はサー
ビス・キーKの持続期間に等しくそして所与のサービスに対しあらゆる時点におい
て、現在の加入キーと同数のメッセージが存在する。」(同9欄15~20行)と
の各記載があり、加入期間及びサービス開始月によって区分される22の異なった
キー信号(加入キー)、したがって22の異なった暗号化された第1シーケンス信
号(メッセージ)が、各時点において存在する例が示されているが、各時点におい
てキー信号をすべての受信機に対し共通とし、したがって暗号化された第1シーケ
ンス信号を1種類とする例は示されていない。
    しかしながら、前示引用例の「加入の種類に従って複数の値Ciをとるこ
とができる加入キー」との記載は、キー信号(加入キー)が加入の種類に従って複
数の値をとることのほかに、加入の種類に従った複数の値をとらなくてもよいこ
と、すなわち、加入の種類が複数あろうとも、これに関わりなく共通の値をとる場
合をも含む表現であることは明白である。また、引用例の前示の加入方式の説明も
「二重キー方式の動作を説明するため」の例であることはその記載上明らかである
ところ、その二重キー方式(送信側で、情報を搬送する信号dをサービス・キーK
でロックしてロックされた信号Dを発生するとともに、加入キーCi及びサービ
ス・キーKから出発してメッセージMiを形成し、受信側で、メッセージ及び加入
キーを受けてサービス・キーに対応する信号を再生するとともに、ロックされた信
号Dをサービス・キーによって解放しアンロックされた信号dを発生する方式)自
体には、キー信号(加入キーCi)を加入期間やサービス開始月等によって区分さ
れる複数のものとする技術的必然性がないことも明白であって、引用例に、かかる
キー信号を加入の種類に従って複数とする例が記載され、キー信号をすべての受信
機に対し共通とする例が記載されていないからといって、引用例において、キー信
号をすべての受信機に対し共通とすることが排除されているものとすることもでき
ない。
    したがって、引用例発明が、キー信号を加入の種類又はサービスごとに複
数設けるという技術思想を開示するものであり、キー信号を全加入者に共通のもの
にすることは全く予想していないとする原告の主張を採用することはできない。
    そうすると、引用例発明において、加入種別又はサービスを1種類のみと
することを想定した場合(引用例発明において1種類の加入種別又はサービスのみ
とした場合であってもシステムを構築できることは明らかである。)はもとより、
複数の加入種別又はサービスの種類があることを前提とした場合であってもそれに
関わりなく、キー信号をプログラム信号を受信するすべての受信機に共通とするこ
とについて、当業者が格別の創意を要するものでないというべきである。そして、
そのようにした場合のシステムの複雑化を回避してコストを減ずる効果も当業者の
予測し得る程度のものであることが明らかである。
    したがって、本願第1発明と引用例発明との相違点についての審決の判断
に原告主張の誤りはない。
 2 取消事由2(本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)
について
   本願第2発明の要旨自体と前示1の(1)の本願明細書の各記載とによれば、本
願第2発明は、加入テレビジョンの非加入者による暗号解読を防ぐために、第1シ
ーケンス信号を少なくとも毎分数回変化させる構成を採用したものであることが窺
えるが、本願明細書(甲第2~第4号証)には、第1シーケンス信号を「少なくと
も毎分数回変化する」ことに係るその具体的な変化の頻度(回数)が有する技術的
意義についての特段の記載又は示唆は見当たらない。
   そうであれば、本願第2発明の「少なくとも毎分数回変化する第1シーケン
ス信号」と、引用例発明における第1シーケンス信号(サービス・キーK)が「数
分台の比較的短い期間でランダムな仕方で変わる」こととの間で、変化の頻度の差
が数十倍にも及び得ることは原告主張のとおりであるとしても、かかる第1シーケ
ンス信号の変化の頻度の差が、暗号の解読を防止し、伝送の機密性を高める効果に
おいて、その頻度の差に応じて予想される以上の差異を生じさせるものとは認め得
ないから、該第1シーケンス信号の変化の頻度の差は、当業者において、設計上、
適宜選択し得る事項にすぎないものといわざるを得ない。
   したがって、本願第2発明と引用例発明との相違点についての審決の判断に
原告主張の誤りはない。
 3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審
決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上
告受理のための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、9
6条2項を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 田中康久
裁判官   石原直樹
裁判官   清水 節

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