弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aに対する原判決および被告人A1、同A2、同A3に対する原
判決を破棄する。
     被告人A3を懲役一年六月に、被告人A1を懲役一年四月に各処する。
     被告人A3、同A1に対し、原審における未決勾留日数中、一三〇日を
右のそれぞれの刑に算入する。
     被告人A3、同A1に対し、この裁判が確定した日から四年間それぞれ
その刑の執行を猶予する。
     被告人A、同A2はいずれも無罪。
     被告人A3に対する公訴事実中、昭和四六年一〇月五日付起訴にかかる
競売入札妨害の点につき同被告人は無罪。
     被告人A4の本件控訴を棄却する。
     原審における訴訟費用中、その三分の一ずつを被告人A3、同A1の負
担とし、当審における訴訟費用中、その三分の一ずつを被告人A4、同A3、同A
1の負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人A4の弁護人上山義昭、被告人Aの弁護人廣瀬功、
被告人A3、同A1の弁護人小林健治、被告人A3の弁護人西田健がそれぞれ単独
で、被告人A2の弁護人岡崎源一および同長戸路政行が連名で提出した各控訴趣意
書に記載されたとおりであり、弁護人岡崎源一および同長戸路政行の控訴趣旨に対
する答弁は、検察官斎藤巌が提出した答弁書に記載されたとおりであるから、いず
れもこれを引用する。
 一、 被告人Aの弁護人廣瀬功の控訴の趣意第一点、被告人A3の弁護人小林健
治の控訴の趣意第一点の一(昭和四六年一二月二五日付判決の事実および昭和四七
年一月二八日付判決の判示第一の事実に関する事実誤認の主張)について。
 弁護人廣瀬功の所論は、要するに、原判決(昭和四六年一二月二五日付)は、被
告人Aが被告人A3と共同競買の形式をもつて最低競売価額による競買の申込をし
て競落することおよび右競落によつて将来生ずべき利益から応分の金員の配分をな
すことを協定し、競売の公正な価格を害し、かつ不正の利益を得る目的をもつて談
合したものであると認定したが、被告人Aは、被告人A3と右のような協定をした
事実はなく、単に双方がたがいに自己の計算において共同して競落する意思で共同
競買の申出をしたにすぎず、何ら公正な価格を害し不正な利益を得る目的はなかつ
たもので、被告人A、同A3は競売実施者である執行官の監督のもとに右の共同競
買の申出および共同競落をしたもので、これは法律上許された行為であつて何ら競
売の公正を害する行為ではないのであるから、原判決の前記認定は事実を誤認した
ものである、というのであり、弁護人小林健治の所論は要するに、被告人A3およ
び同Aは懇意の間柄にあつたので独立してせる意思を放棄し、被告人Aの依頼者の
手前被告人A3と同Aが共同競買の申出をしたにすぎず、被告人Aが独立してせる
意思があつたのに利益分配の話し合いのうえ右の共同競買の申出をしたというもの
ではないのであるから談合したものではなく、被告人A3および同Aには公正な価
格を害し、不正な利益を得る目的もなかつたのであるから、原判決(被告人A3ほ
か二名に対する昭和四七年一月二八日付)は事実を誤認したものである、というの
である。
 (一) そこで考えるに、原判決(昭和四六年一二月二五日付および昭和四七年
一月二八日付判決をいう。以下本項において同じ。)挙示の関係諸証拠を総合する
と、原判示事実のうち、東京地方裁判所が昭和四四年一一月二六日東京都千代田区
霞が関一丁目一番二号所在の同裁判所不動産競売場において実施した同裁判所昭和
四四年(ケ)第B号不動産競売事件の競売に際し、Cから右事件の競買申出の委任
を受けていた被告人Aと被告人A3は、それぞれ単独で競買の申出をし右の競売に
付された物件(東京都北区a町b丁目c番地所在の建物)を競落しようとして前記
競売場に臨んだこと、しかし右物件につき競買の申出をしようとする者は被告人A
および同A3の両名のみであつたところから、右両名は互に単独で競買の申出をす
るのを控え、共同で競買の申出をし、右物件の最低競売価額(五三〇万円)で競落
することの意思を相通じ、競売を実施した執行官に対し共同競買の申出をし、これ
を共同で競落したことを認めることができる。そして、原判決は、右は被告人Aお
よび同A3が自由競争をした場合には競落価額が上昇することを慮り、これを防ぐ
ため互にいわゆる「せり」を控えることを相謀り、前記CおよびA3両名の共同競
買の形式をもつて最低競売価額による競買の申込みをして競落することおよび右競
落によって将来生ずべき利益から応分の金員の配分をなすことを協定し、もつて前
記競売の公正な価格を害しかつ不正の利益を得る目的をもつて談合したものである
と認定判示しているところ、前記証拠によれば、被告人Aおよび同A3において双
方が互に競り合えば競落価格が上昇するであろうことおよび共同競買の方法をとれ
ばこれが回避され最低競売価額で競落できることを認識していたこと、共同競落し
た場合は将来生ずる利益金を配分する旨の暗黙の合意をしたことをそれぞれ認める
ことができる。
 (二) そこで被告人Aおよび同A3の右の行為が談合に当るかどうかについて
検討する。
 ところで刑法九六条ノ三第二項にいう談合とは、通常の場合、公の競売又は入札
において競買人又は入札者が互に通謀して或る特定の者をして契約者とならせるた
め他の者は一定の価格以上又は以下に付値又は入札をしないことを協定することを
いうものであるところ、前記のとおり、本件は、二人の競買希望者が双方とも契約
者となるため特定の価額で共同して競買の申出をする合意をしたものであるが、右
合意の内容である共同競買の申出は、特に本件のように他に競争者がいなければ、
原判決が判示するように、いわゆる「せり」を控える行為であり、結局自由競争を
回避することになる点では、前記の数人の者の間において特定の者をして競買人と
ならせる協定の場合と共通の要素を包含していることは明らかである。しかしなが
ら、数人の者の間において特定の者をして競買人とならせる協定の場合は、外観上
は公正な自由競争が行われるような体裁をとりながら、実質において右の自由競争
を行わない旨を通謀するもので、右の数人は競争者となるべき独立の地位にあるも
のであるところ、本件のように二人の者が共同競買人となる合意の場合は、二人の
者は競争者としての独立の地位を失い、その間においては実質において自由競争を
行わず、外観上もその旨の形式をとることを内容とするもので、その事実は競売実
施者において当然了知するところであつて、前者のように外観上自由競争が行われ
るような体裁をとり、競売が公正な自由競争のもとに行われるものであるように仮
装するものではない。また、本件のような共同競買の申出は、通常は、原判示のよ
うに、自由競争による競落価額の上昇を妨げる結果になることを認識しながら、他
に競争者がなければ最低競売価額で競買の申出をすることおよび競落によつて将来
生ずべき利益から応分の金員を配分することの合意のもとに行われるものであるこ
とは、競売実施者にも自ずから明らかであるところ、現行の競売法上本件のような
共同競買の申出を禁ずる規定はなく、当審における事実取調の結果によれば、東京
地方裁判所において本件と同じ昭和四四年中に任意競売事件で競落を許可された事
件のうち、共同競買人による競落事件の割合は一七パーセントをこえており、共同
した競買人の数はおよそ二人ないし八人であることが認められ、共同競買の申出を
許さない旨の特例の売却条件が付されることもなかつたことが窺われる。
 <要旨>元来刑法九六条ノ三第二項は、公の競売等の公正を害する危険のある行為
を取締ることを目的とするものであるから、同条項の談合というのも右の競
売等に関する一定の協定ないし合意が競売等の公正を害すべき行為にあたるかどう
かすなわち競売等に不当な影響を及ぼすべきものであるかどうかという点から解釈
すべく、右の公の競売等は国又は公共団体が法令に従い公務として実施する手続で
あるので、右の競売等の公正を害すべき協定ないし合意というには、競売等が外観
上は公正な自由競争のもとに行われるものであるような体裁をとりながら、実質上
自由競争を回避し、結局競売実施者の不知の間に自由競争の実を失わせることを内
容とするものであることを要するものと解すべきである。これを本件の共同競買の
申出の合意についてみると、原判示のとおり、被告人A3および同Aは、自由競争
による競落価額の上昇が妨げられることになることを認識しながら、いわゆる「せ
り」を控え、最低競売価額で共同競買の申出をすることを合意したものであるとこ
ろ、右の共同競買の申出はその実質において自由競争を行わないということではあ
るが、この事実は競売実施者に了知されるところであつて、しかも右は、前記のと
おり、外観上公正な自由競争のもとに行われるものであるような体裁をとりなが
ら、実質において自由競争を回避するというものではないので、これをもつて直ち
に競売に不当な影響を及ぼし、その公正を害すべき行為であると解することはでき
ず、さらに右の共同競買の申出自体その真意を欠き、事後において共同者の一方を
して事実上単独競落の実を挙げさせるための一時的な方策である等公正な自由競争
の実を失わせる特段の事情のない限り、これを競売の公正を害すべき行為として談
合に当るものと解することはできない。前記証拠および原審記録中のDの司法警察
員に対する供述調書、Eの検察官に対する供述調書によれば、被告人A3とCの代
理人である被告人Aは、前記競売において最低競売価額五三〇万円で競落し、その
一割に相当する五三万円の保証金の二分の一宛を執行官に預け、その後被告人A3
およびCは競落許可決定を受けたこと、被告人A3は、競落後同AおよびCとの間
で、競落建物の転売等の交渉は被告人A3において行うこととし、Cに対しては保
証金相当の利益を配分する旨約束したが、右競落建物が借地上の建物で、所有者は
すでに地代の滞納のため借地契約解除の通知を受けており、被告人A3において地
主に対し借地権の復活と譲受の承認の交渉をしたが成功しなかつたので、被告人A
3およびCは競落代金の支払をしなかつたこと、そのため前記競売物件については
昭和四五年三月一一日再競売が行われたが競買の申出をするものがなく、さらに同
年五月六日再再競売が行われ、被告人A3の依頼によりF商事株式会社代表取締役
Eが他に競争者もなかつたので、最低競売価額四二四万円で競落したこと、同日被
告人A3は、右Eから競落物件を買い受ける旨の取り決めをし、Cに対し前記の利
益配分の合意の趣旨に従い五〇万円を支払い、Cは右金員のうちから一〇万円を被
告人Aに交付したこと、被告人A3は、その後右競落物件の買受代金の支払および
借受金五〇万円の返還としてEに対し合計五八〇万円を支払つたことがそれぞれ認
められ、以上のような本件競売およびその後の再競売、再再競売等の経過をみる
と、被告人A3および同Aの共同競買の申出がその真意を欠いていたとは認められ
ず、またこれが単にその一方をして事実上単独競落の実を挙げさせるための方策で
あつた等の特段の事情も認めることはできない。したがつて、前記の被告人A3お
よび同Aの共同競買の申出の合意は、競売の公正を害すべき行為として談合に当る
ものということはできず、これが談合に当るものとした原判決は、法律の解釈適用
を誤り、かつ事実を誤認したものであり、右の誤認が判決に影響を及ぼすことは明
らかである。
 論旨はいずれも理由がある。
 二、 被告人A3、同A1の弁護人小林健治の控訴の趣意第一点の二、被告人A
3の弁護人西田健の控訴の趣意第一、被告人A2の弁護人岡崎源一および同長戸路
政行の控訴の趣意第一(いずれも昭和四七年一月二八日付判決の判示第二の事実に
関する事実誤認の主張)について。
 各弁護人の所論中共通する部分は、要するに、被告人A3、同A1および同A2
は、原判決が認定するように、Gが被告人A3に対抗して競買の申込みをするため
執行官の面前に進み出ようとした際、右Gの競買の申込を妨げようという意思を相
通じて共謀した事実はないので、原判決には右の点で事実の誤認がある、というの
であり、弁護人小林健治の所論中その余の部分は、被告人A1は、Gの前に立つて
「うちで落すんだが。」と声をかけただけで、原判示のように、Gの進行を妨害し
た事実はなく、また被告人A2が原判示のようにGの袖を引張り再三「おりてくれ
んか。」と言つた事実はなく、さらに被告人A3がGを睨みつけたことは威力をも
つて競売の公正を害したものではないので、原判決には右の各点で事実の誤認があ
る、というのであり、弁護人西田健の所論中その余の部分は、被告人A3がGを睨
みつけたとしてもこれだけでは威力に当らず、原判示のように被告人A3において
Gに競買の申込みを中止するよう迫つた事実はないので、原判決には右の点で事実
の誤認がある、いうのであり、弁護人岡崎源一および同長戸路政行の所論中その余
の部分は、被告人A2は、原判決のようにGの袖を引張つたり、「おりてくれん
か。」などと申し向けGの競買の申込を妨害した事実はないので、原判決には右の
点で事実の誤認がある、というのである。
 (一) そこで考えるに、原判決挙示の関係諸証拠(ただし被告人A3、同A
1、同A2に共通するもの)を総合すると、原判示第二の事実のうち、東京地方裁
判所が昭和四五年一一月一八日東京都千代田区霞が関一丁目一番二号所在の同裁判
所不動産競売場において実施した同裁判所昭和四五年(ケ)第H号不動産競売事件
(競売物件東京都中野区d町e丁目f番地家屋番号同町I番J木造瓦葺二階建居宅
一棟所有者K)の競売に際し、被告人A3、同A1および同A2は右競売場に臨ん
でいたこと、被告人A3が競買の申出をするため競売を主宰する執行官の面前(競
買人の立つ柵内)に出たこと、株式会社L代表取締役G(昭和五年三月二日生)が
同じく右の競買の申出をするため前記執行官の面前に出ようとしたとき、被告人A
1が右Gの前面に立ち、両手をひろげ、同人がこれを避けて左あるいは右に動いて
進もうとするや同じく左あるいは右に動いて同人の進行を妨げたこと、Gが右の被
告人A1を払いのけて執行官の面前に進み出た後まだ競りが始らないうちに被告人
A2も同じく執行官の面前に出てきてGの脇に近づき、同人に対し「おりてやつて
くれないか。」と言つたこと、被告人A3はGと競り合つて競買の申出をしたが、
その際Gを睨みつけるような様子をしたことがあることは肯認することができる。
 原判決は、被告人A2の行為として、Gが執行官の面前に進み出るや、被告人A
2は、右Gの身辺に体を近寄せ、「A3さんがやるのだからおりてやってくれ。」
と申し向け、同人がこれを拒み、同人と被告人A3との間に競りが開始されたのに
なお右Gの袖を引張りながら再三執拗に「おりてくれんか。」と申し向けたと認定
しているところ、なるほど、証人Gの原審公判廷における供述には、執行官の前に
立つとすぐ被告人A2が出てきて、「おりてやつてくれないか。」というので「私
の方は客がついているのでだめなんだ。」といつたら、同被告人は一度はさがつた
が、競つている間に二度ほど私の袖を引張り、「どうしてもおりてくれんか。」と
強くいわれた旨の右認定事実に照応する供述部分があり、また同証人は当審公判廷
においても、被告人A2は執行官の面前の同証人のところに何度も来ており、左に
来たことも、右袖を引張られたことも、後ろを引張られたこともある旨供述してい
る。この点について被告人A2は、警察官および検察官の取調、原審および当審公
判廷における供述を通じて、自分はMから競買申出の委任状と保証金のための現金
を預り競るつもりで執行官の面前に出て行つたが、同所にいたGに対し、「Gさん
利害関係があるのかね。」と何回か聞いたところ、Gは「地主の関係だ。」と答え
たので、地主の関係者と競り合つても仕方がないと思い、そのまま引き下つたにす
ぎない旨供述しているところ、証人Gの原審公判廷における供述には、Gが被告人
A2に対し「地主からの依頼なのだ。どうしてもおりられないのだ。」といつた旨
の供述もあるところからして、被告人A2とGとの間に右の被告人A2の供述にあ
るような言葉のやりとりがあつたことは認められるが、被告人A2の司法警察員
(三通)および検察官(二通)に対する各供述調書並びに原審公判廷における供
述、被告人A3の原審第五回公判廷における供述によると、被告人A2は、昭和三
〇年ころ以来不動産競売ブローカーをしているもので、同じく不動産競売ブローカ
ーである被告人A3とは親しく交際しており、競売に際し互に対抗して不動産を競
り合うことは避ける間柄であつたこと、しかも本件の競売物件については事前に調
査をして競買申出をすることを予定していたわけではなかつたことが認められるの
で、前記のように、すでに被告人A3とGが執行官の面前に出て競買申出をしよう
としている状況を見たのに、単純に自らも右両名と競り合つて競買申出をしようと
いう考えだけで前記のとおり執行官の面前に出て行つたものとは思われず、Gに対
し同人かどういう理由で被告人A3と競り合つて競落するつもりであるかを確かめ
る目的とこれに応じて一種の駆け引きをする意思があつたことが窺われ、前記の証
人Gの原審公判廷における供述のうち、被告人A2に対し、競りからおりられない
旨理由を加えて応答した点の供述部分は素直に供述していることが窺われるので十
分信用することができ、被告人A2がGに対し「おりてやつてくれないか。」とい
つたという事実はこれを否定することはできない。しかしながら、証人Gの原審公
判廷における供述によると、被告人A2はGからどうしてもおりられないのだとい
われてそのまま納得した様子で引き下つたことが窺われ、前記の同証人の供述にあ
るように、その後被告人A3とGが競り合つているうちに一度ならず二度までも被
告人A2が執行官の面前(前記の柵内)に出てきてGの袖を引つ張り、「おりてく
れ。」というような行動に出る契機となる状況は認められないし、被告人A3の原
審第五回公判廷における供述には、被告人A2は一旦執行官の面前に出て来た(も
つともGより先に)が、被告人A3に対し「A3さん関係があるのか。」と聞き、
同被告人が「本人に頼まれた物件だ。」と答えたところ、そのまま引き下つた旨の
供述があるが、再び被告人A2が出て来た旨の供述はなく、また、被告人A1の原
審第四回公判廷における供述には、被告人A2が執行官の直前に二回出て行つたと
いう趣旨の供述があるが、右の二回とも競りの始る前で、保証金に当てる現金らし
い物を持つて行つたのは二回目であるというのであつて、これも前記の証人Gの供
述とは符合せず、なお右供述中には被告人A2がGの袖を引いたことを窺わせる供
述はなく、当裁判所の検証調書によれば、前記不動産競売場の競売を主宰する執行
官席とG、被告人A3らが競りのため立つていた柵内の位置との間は約一・三メー
トル前後であつて非常に接近しており、さらに証人Nの原審公判廷における供述に
よれば、同人は本件競売を主宰した執行官であるが、競りをわつている際には右の
執行官面前の柵内に競買人以外の者が立ち入ることは計さず、右柵内で競買人の競
買申出を妨害するような動作をする者があれば現認できる状況にあり、本件競売に
際し右のような競買申出を妨害するような動作を行つたのを現認した記憶はないと
いうのであるので、これらの点から考えると、前記の証人Gの原審公判廷における
供述中、被告人A2から競つている間に二度ほど私の袖を引張られ、「どうしても
おりてくれんか。」と強くいわれたという供述部分は当審公判廷における供述では
一層強調されているが、いずれも直ちに措信ずることはできない。そしてその他に
は原判決が認定した被告人A2がGの袖を引張りながら再三、執拗に「おりてくれ
んか。」と申し向けたという事実を肯認するに足りる証拠はない。
 (二) ところで刑法九六条ノ三第一項に威力を用いるとは人の自由意思を制圧
するような勢力を示すことをいうものであつて、暴行、脅迫に限られるものではな
いが、被告人らの行為が右の威力を用いたというのに当るかどうかを検討する。ま
ず、前記の被告人A1がGの前面に立ち、両手をひろげ、左右に動いて同人の進行
を妨げた行為について考えると、被告人A1の原審および当審公判廷における各供
述によると、同被告人は「うちで落すんだが。」といつてGの前に立つたにすぎな
いというのであり、右被告人A1および証人Gの原審並びに当審における各供述に
よると、被告人A1は昭和四四年一〇月ころから昭和四五年七月ころまでGが代表
取締役をしていた株式会社Lに雇われ、同人の下で不動産競売関係の仕事をしてい
たというのであるが、右のような事情を考慮しても、被告人A1の前記行為は単に
説得の目的に出たものであるとはいえず、右各供述および被告人A3の原審第五
回、第七回(ただし被告人A3の関係で)各公判廷における供述によると、被告人
A3は不動産競売ブローカーとしてはGより数段上の経験と実績があつて、東京地
方裁判所の不動産競売場では名前がよく知られていたことが認められ、被告人A1
は自己が右のような被告人A3の勢力下にあることを背景として前記の行為に出た
ものであることが認められ、しかも右の行為はGが競売を主宰する執行官の面前に
出るのを妨げ、ひいては同人が競買の申出をしようとする意思を抑制するに至るべ
き行為であつて、威力を用いたものであるということができる。もつとも、前記の
とおり、Gは現実には右の競買の申出をしょうという意思を制圧されず、被告人A
1を払いのけて執行官の面前に出て行き、被告人A3と競り合つて競買の申出をし
たのであるが、これによつて被告人A1が威力を用いて公の競売の公正を害すべき
行為をしたことを否定することはてきない。次に、前記の被告人A2がGの脇に近
づき、同人に対し「おりてやつてくれないか。」といつた行為について考えると、
証人Gの原審公判廷における供述によれば、被告人A2のGに対する言葉は普通の
声で、おつかないという気持はなく、いやだなという程度の気持を抱いたが、どう
してもおりられないのだと説明したというのであつて、被告人A2の前記の言葉お
よび態度自体には威圧的な或いは威勢を示すというようなところがあつたとは認め
られない。なるほど証人Gの原審公判廷における供述、被告人A2の司法警察員に
対する昭和四六年五月一六日付供述調書並びに原審および当審公判廷における供述
によると、被告人A2は、不動産競売業者であつた実父を見習つて昭和三〇年ころ
から独立して不動産競売に関する仕事をするようになり、同業者の中では顔役的存
在であつたAとも懇意にしており、被告人A2自身東京地方裁判所の不動産競売場
においては広く名が知られ、その経験と実績はGより数段上であつたことが認めら
れるが、証人Gの前記供述中、被告人A2が前記競売場において我が物顔に振舞つ
ていたかのように供述する部分は、多少誇張した供述であることが窺われ、また証
人Gおよび被告人A2の前記各供述によると本件の二、三か月前に或る競売物件に
ついて競売場外でGから同人が競落しようとしていることを聞かされ、被告人A2
とその実父が競買の申出をするのをさし控えたこともあつたことが認められ、後記
のとおり、被告人A2が被告人A1および同A3との間でGが競買の申出をするの
を妨げようという意思を相通じて競売妨害の共謀を遂げた事実は認められないの
で、被告人A2のGに対する前記の言動は精精駆け引きの程度で、Gの競買の申出
の意思を制圧し、或いは原判示のように競買申出を中止するよう迫つたものである
ということはできない。さらに、被告人A3がGを睨みつける様子をしたというこ
とについて考えると、証人Gの原審および当審公判廷における供述、被告人A3の
原審第五回、第七回(ただし同被告人について)各公判廷における供述によると、
被告人A3がGを睨みつける様子をしたのは二人で競り合つた際競りの終りのころ
というのであり、前記の本件競売について被告人A3は競売物件の所有者から依頼
され、同人の内妻名義の委任状を持つて右競売に臨み、Gは右建物の敷地の所有者
との関係で右競売に臨み、最低競売価額が四〇三万円であつたところ、被告人A3
が五五二万円で競落するまで両者は競り合い、しかもGは相当小刻みに競買申出価
額を上げていつたというのであるから、被告人A3が不満を覚え、顔付がけわしく
なつたであろうことは推察に難くなく、前記証人Gの供述のように睨みつけるよう
な様子であつたというのはあながち否定することはできないが、しかしそれ自体が
威力に当るとみるのは早計であるといわなければならない。弁護人西田健の所論指
摘のように、本件の起訴状(被告人A1、同A2に関しては昭和四六年六月七日
付、被告人A3に関しては同月一七日付)記載の公訴事実には、「かねてより被告
人らはいずれも暴力団O会の関係者であることを知つて被告人らに畏怖の念を抱い
ていた」Gをして競買の申込を中止させるべく迫りと記載されていたところ、原判
決は右のかつこ内の事実を認定しなかつたのであるが、前記各証拠によると、Gは
被告人A3の実弟が暴力団O会の幹部であることを知つており、同被告人がそれま
で前記競売場に若い従業員を連れて来ていたところを見たこともあつたことが認め
られるものの、被告人A3が本件当時右のO会に関係していた事実はなく、またG
はもと一〇年間近く警察官の職にあつた経歴を有し、競売業者の旅行会に被告人A
3らと三回位参加したことがあるというのであるから、Gが被告人A3らを畏怖し
ていたとは認められないし、本件競売における競り合いの状況は、証人Gの原審公
判廷における供述によると、同人は五五〇万円まで競るつもりていたところ、被告
人A3が五五二万円で競買申出したので、競り合うのをやめたものであることが認
められ、右状況からはGは被告人A3に対し何ら臆するところはなかつたものと認
められる。したがつて以上のようにみてくると、前記の被告人A3がGを睨みつけ
るような様子をしたことは単に不満を表わす目付であつたというべきで、後記のよ
うに、被告人A3は、被告人A1に対し競りに出ようとしている者があれば出ない
ようにしてくれといつていたのであるが、被告人A3に執行官の面前に出て競り合
いを始めた後においてまで相手に競買の申出を中止させようと迫る意思があつたも
のとは認められず、その後は競り合いを続けるほか仕方がないと思つていたことが
認められるので、前記の被告人A3の睨みつけるような様子、態度をもつて威力を
用いて公の競売の公正を害すべき行為をしたものと断ずることはできない。
 (三) そこで、被告人A3、同A1、同A2が原判示のように、「Gが競買の
申込みをするため執行官の面前に進み出ようとするや、被告人らは意思を相通じて
共謀のうえ、右Gの競買の申込みを妨げようと考え」たかどうかについて検討する
に、原判決に被告人A3および同A1に対する関係で挙示してある諸証拠を総合す
ると、被告人A3は、原判示の日に前記不動産競売場に赴く途中において、被告人
A1に対し、本件競売物件につき競りに出ようとしている者があれば出ないように
してくれと指示したことが認められるが、右証拠および当審における事実取調の結
果によると、Gが執行官の面前に進み出ようとした際、被告人A3はすでに右の執
行官の面前に出ており、被告人A1はその約三メートル後方右側の長椅子の間の通
路にいたもので、被告人A3はGが右通路を通つて執行官の面前に出るため被告人
A1のいた地点まで来た状況は現認してはいないことが認められ、その際被告人A
3と被告人A1が右Gの競買申出を妨げようという意思を相通じた事実は認めるこ
とができない。また、原判決が被告人A2に対する関係で挙示している証拠を総合
すると、被告人A2は、Gが前記通路を通つて執行官の面前に進み出ようとした際
の状況を現認しておらず、同被告人が見たときにはすでに被告人A3およびGは執
行官の面前に出ていたことが認められ、Gが執行官の面前に進み出ようとした際被
告人A2が被告人A1および同A3とGの競買申出を妨げようという意思を相通じ
た事案は認めることができない。そして、前記証拠によると、被告人A2が事前に
被告人A1および同A3と本件競売物件についての競売妨害の共謀を遂げていた事
実もないことが認められる。なお、原審記録中の被告人A2の司法警察員に対する
昭和四六年五月一八日付、同年六月四日付各供述調書、原判決挙示の同被告人の検
察官に対する同月七日付供述調書および原審公判廷における供述によると、被告人
A2は競買申出をするため保証金用の現金を持つて執行官の面前に出る途中被告人
A1に対し「どうなんだ。」と尋ねたところ、被告人A1は「うちでどうしても欲
しいんだ。」と答えたというのであるが、被告人A2は、当審公判廷において、右
は同被告人の記憶違いのようである旨供述し、また被告人A1は原審および当審公
判廷において、被告人A1と被告人A2との間で前記被告人A2の供述のような言
葉のやりとりをした事実はない旨供述しており、当審における事実取調の結果によ
れば、被告人A1のいた位置と被告人A2が執行官の面前に出るため通つた通路が
反対側にあることを考えると、右のような言葉のやりとりがあつたかどうかについ
ては疑問があり、また仮に右事実が認められるとしても、右の言葉のやりとりでG
の競買申出を妨害する意思を前記の原判示の時点においてすでに相通じ合つていた
ものとは認められない。さらに、被告人A3の原審第五回公判廷における供述によ
ると、被告人A3が執行官の面前に出た後、被告人A2が出て来て「A3さん関係
があるのか。」と聞いたので「本人に頼まれた物件だ。」と答えたら、そのまま被
告人A2は引き下つたというのであるが、右供述によると被告人A2はGより先に
執行官の面前に出て来たことになり、他の関係証拠と符合しないし、被告人A2は
原審および当審公判廷において、右被告人A3の供述のような言葉のやりとりをし
た事実はない旨供述しているので、右被告人A3の供述は直ちに措信することがで
きず、仮に右事実が認められるとしても、前記のようなGの競買申出を妨害する意
思を相通じ合つたものとは認められない。その他原審記録中の被告人A2の関係で
適法に証拠調を経た証拠を精査しても、被告人A2が被告人A3或いは被告人A1
と本件競売についての競売妨害の意思を相通じるために話し合うなどした状況は認
められない。すなわち、被告人A3、同A1および同A2の三名が、原判示のよう
に、Gが執行官の面前に進み出ようとした際に同人の競買申込みを妨げようという
意思を相通じて共謀を遂げたという事実はこれを認めることかできない。なお、前
記のとおり、被告人A3が原判示の日に前記不動産競売場に赴く途中において被告
人A1に対し本件競売物件につき競りに出ようとしている者があれば出ないように
してくれと指示したことが認められ、これに前記のような被告人A3が所有者の依
頼により是非競落しようと考えていたこと、被告人A3と被告人A1の関係、被告
人A1が現実に競売妨害の行為に出たことなどを考え合わせると、右被告人両名の
間では、強い威力を用いることまでは含まれなかつたとしても、被告人A1がなし
た程度の威力を用いて競売の公正を害すべき行為を行うことの意思を通じ合い共謀
を遂げたものと認められる。
 以上のとおり原判決は被告人A3、同A1および同A2の三名の共謀を認定した
点、被告人A2および同A3の行為がGに競買の申込みを中止するよう迫り、威力
を用いてする公の競売の公正を害すべき行為に当ると認定した点はいずれも事実を
誤認したものであり、右の誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 論旨はいずれも理由がある。
 三、 被告人A3の弁護人小林健治の控訴の趣意第一点の三(被告人A3ほか二
名に対する原判決判示第三の事実に関する事実誤認の主張)、被告人A4の弁護人
上山義昭の控訴の趣意第一点、第二点(被告人A4ほか二名に対する原判決判示第
一の事実に関する事実誤認および法令適用の誤りの主張)について。
 弁護人小林健治の所論は、要するに、被告人A3は、単にGに対して罵声をあび
せかけただけで、脅迫した事実はなく、P、Qの脅迫的言辞、多少の暴行は被告人
A3の意思とは何ら関係なく行われたもので、原判示のように被告人A3がP、Q
との間で数人共同して暴行、脅迫を加える意思を通じたことはなく、仮に被告人A
3とP、Qとの間に右の共謀があつたとしても、被告人A3は実行行為を行つてい
ないので実行共同正犯として数人共同して暴行、脅迫を加えた事実はないので、原
判決はこれらの点で事実を誤認したものであり、本件訴因については責任はないと
いうのであり、弁護人上山義昭の所論は、被告人A4は、原判示のように立腹した
ことも、被告人A3から「二度と裁判所に来れないようにやつちやえ。」といわれ
たことも、「うちのおやじが出た時せつたらただじやおかんぞ。」と語気鋭く申し
向けたこともなく、被告人A4はむしろP、Qを制止したもので、被告人A3と事
前に共謀し、或いは被告人A3がP、Qに命じてGに暴行、脅迫を加えさせた事実
も知らないのであるから、原判決が被告人A4も共同して暴行を加え、脅迫したと
認定したのは事実を誤認したものであり、また原判決は、被告人A4が被告人A
3、P、Qと「互いに意を通じた」事実はないのに共犯の責任を問うものである点
で法令の適用を誤つたものである、というのである。
 そこで考えるに、原判決(被告人A3ほか二名に対する原判決および被告人A4
ほか二名に対する原判決)挙示の関係者証拠を総合すると、原判示事実中被告人A
3、同A4、P、Qは東京地方裁判所が昭和四五年一一月一八日午後二時四〇分ご
ろ、東京都千代田区霞が関一丁目一番二号所在同裁判所不動産競売場において実施
した同裁判所昭和四五年(ケ)第H号不動産競売事件の競売に際し、株式会社L代
表取締役G(昭和五年三月二日生)が同事件の競売物件につき被告人A3に対抗し
て競買の申込をし同被告人と競り合つたことに立腹していたこと、被告人A3、同
A4、P、Qは同日午後三時過ぎころ、同区gh番i号軽飲食店「R」屋外店舗に
赴き、同所で休憩していた右Gを認め、被告人A3において右Gに対し「おいLの
餓鬼、なんであんなにせるんだ。」と怒鳴つたこと、P、Qにおいて椅子に腰かけ
ていたGの背広の襟を掴んで引張りあげ、こもごも「この野郎こつちへ来い。」な
どと語気鋭く申し向けたこと、Gが席を立つて帰りがけた際、被告人A3において
「おいLの餓鬼もう帰るのか。」と申し向けたこと、P、Qにおいて同所前の路上
に出たGの背広の襟および腕を掴んで引き止めたこと、被告人A4において「これ
から社長(原判決が「おやじ」と判示したのは誤りであるが、趣旨としては異るも
のではない。)が出たときせりに出るとただじやおかんぞ。」などと語気鋭く申し
向けたことは十分これを肯認することができる。なるほど前記証拠によると、被告
人A4は、前記の競売に直接関係したわけではないので、被告人A3ほど立腹して
いたとは認められないが、被告人A4は、被告人A3の実弟で暴力団O会の幹部で
あるSの若い衆で、Sが同日被告人A3から借り受ける予定の現金を代りに受け取
るため、同じくSの若い衆であるP、Qを連れて前記競売場に被告人A3に会いに
来たもので、前記の被告人A3とGの競り合いの状況を見て多少立腹したことは原
判決挙示の被告人A4の司法警察員(昭和四六年六月八日付)および検察官(同月
一七日付)に対する各供述調書によつて明らかである。また原判決は、被告人A3
が被告人A4らに「二度と裁判所に来れないようにやつちやえ。」と言い放つたと
認定しているところ、証人Gの原審公判廷における供述、被告人A4の前記司法警
察員および検察官に対する各供述調書には右認定に照応する供述があるが、Pの司
法警察員(同月一二日付)および検察官(同月一八日付)に対する各供述調書、Q
の検察官に対する同月一四日付供述調書、被告人A3の司法警察員(同月一〇日
付、同月一四日付)および検察官(同月一六日付)に対する各供述調書によると、
被告人A3はGに対し「二度と競売場に来れないようにしてやる。」と大きな声で
いつたというのであつて、原判決挙示の関係証拠によつて認められる当時の状況は
被告人A3が専らGに対して発言を続けていた状況であつて、被告人A4および
P、Qに暴行、脅迫を命令するほどの険悪な状況であつたとまでは認められないの
で、被告人A3はGに対し「二度と競売場に来れないようにしてやる。」といつた
ものと認めるのが相当である。
 したがつて、この点に関する原判決の前記認定は事実を誤認したものであるが、
原判決が認定している被告人A3のGに対する言動、P、QのGに対する言動、被
告人A4のGに対する言動はいずれも原判示のように、Gの身体にいかなる危害を
も加えかねない気勢を示して脅迫したものと認めるべく、原判決が認定したP、Q
のGに対する暴行とともに被告人A4およびP、Qらが被告人A3の当初のGに対
する言動から被告人A3の意思を察知し、ここに数人共同して暴行、脅迫を加える
ことの意思を相通し、前記の各行為に及んだことが認められるので、前記の点の原
判決の事実の誤認はいまだ判決に影響を及ぼすものとはいえない。その他記録を精
査し、当審における事実取調の結果を検討しても、原判決に各所論のような事実誤
認ないし法令適用の誤りは認められない。論旨はいずれも理由がない。
 四、 被告人A1の弁護人小林健治の控訴の趣意第一点の四(被告人A1ほか二
名に対する原判決判示第四の事実に関する事実誤認の主張)について。
 所論は、被告人A1は、原判示第四の日Tと円満に話合をしようという意思であ
り、同判示のように、同人に対し「命知らずの若い者がいるとか柱をぶつこわして
やる。」などといつた事実はなく、Uの態度が多少険悪になつたので、被告人A1
はこれを止めたほどであり、Tを脅迫する意思は全くなかつたのであるから、この
点で原判決は事実を誤認したものである、というのである。
 しかしながら、原判決挙示の関係諸証拠を総合すると、原判示第四の事実は、被
告人A1らのTに対する脅迫文言中「おれのところには命知らずの若い者が大勢い
るから夜中でもおしかけて追い出してやる。店の柱をぶつこわして風が吹けば家が
倒れるようにしてやる。」という部分をも含め、被告人A1がU、Vと共謀のう
え、Tに対し同判示のような文言で怒鳴りつけ、同人の身体、財産に対しいかなる
危害をも加えかねない気勢を示して、数人共同して同人を脅迫した事実は十分これ
を肯認することができる。なるほど前記証拠および当審における事実取調の結果に
よれば、右のTに対して被告人A1らが立退かせようとしていた建物(ガソリンス
タンド)は鉄筋コンクリートブロック造陸屋根平家建事務所兼作業所であるから、
前記の「店の柱をぶつこわして風が吹けば家が倒れるようにしてやる。」という脅
迫文言はその内容につき客観的な実現の可能性があるかは疑問であるが、しかし前
記証拠によれば、右文言は、被告人A1らがTに対し気勢を示している状況の下で
相手方を脅迫するため思わず口をついて出た言葉であるとみられ、右のように実現
の可能性は疑わしいとしても、右は通常人を畏怖させるに足りる文言であつて、原
判決の認定に誤りはない。なお原判決は、宅地付ガソリンスタントはA3が昭和四
五年一二月一六日千葉地方裁判所松戸支部において競落したものと認定している
が、原判決挙示の関係諸証拠および当審における事実取調の結果によると、A3は
同年九月一六日に右宅地付ガソリンスタンド(正確には松戸市jk丁目l番m宅地
九二五・六一平方メートル、同所同番地一家屋番号W番X鉄筋コンクリートブロッ
ク造陸屋根平家建事務所兼作業所床面積一〇三・〇九平方メートル)を競落した
が、代金を納付せず、同年一二月一六日の再競売においてはY株式会社(代表取締
役A3)が競落したものであるので、原判決はこの点で事実を誤認したものといわ
なければならないが、右の事実は単に動機に関連するにすぎないので判決に影響を
及ぼさないものというべきである。また原判決は、被告人A1ほか二名がA3と共
謀のうえ、前記の脅迫をしたものであると認定しているところ、原判決挙示の被告
人A1の検察官に対する昭和四六年七月二九日付、同年八月五日付各供述調書謄
本、Uの検察官に対する供述調書謄本には、A3は事前に被告人A1らが原判示の
脅迫を行うことを知つていたはずであるとの供述記載があるが、原判決挙示の関係
各証拠を総合すると、被告人A1およびUはA3からTに対する前記競落建物(た
だし当時は代金未納付)の明渡の交渉を委されたもので、被告人A1が原判示の日
の前日右交渉の状況等をA3に報告した際に、場合によつては強い態度で右の交渉
に当ることもA3と被告人A1の間では互に諒解していたことは認められるが、原
判示のような脅迫行為に出ることの共謀を遂げていたものと断定するのは躊躇せざ
るを得ない。そこで右の点で原判決には事実の誤認があるといわなければならない
が、右は単に共謀のみにかかる共犯者A3に関する事実で、他に共犯者がいる場合
であるので、右の誤認はいまだ判決に影響を及ぼさないものというべきである。そ
の他記録を精査し、当審における事実取調の結果を検討しても原判決には所論のよ
うな事案の誤認はない。論旨は理由がない。
 五、 被告人A4の弁護人上山義昭の控訴の趣意第三点について。
 所論は、被告人を懲役一年二月および罰金二〇万円に処し、その刑の執行を再度
猶予しなかつた原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。
 そこで原審記録を調査し、当審における事実取調の結果を合わせて検討するに、
被告人の本件犯行は、原判示第一のように、被告人A3ほか二名と互に意思を相通
し、Gに対し数人共同して暴行を加え、同人の身体にいかなる危害をも加えかねな
い気勢を示して脅迫し、同判示第二のように、他二名と共謀のうえ、中央競馬の競
走に関しいわゆる呑み行為をして勝馬投票類似の行為をさせて利を図つたというも
ので、そのうち重い同判示第二の罪については被告人A4が主動的な役割を果した
こと、被告人A4に昭和三五年一〇月以降昭和三九年七月までの間に暴行、暴力行
為等処罰ニ関スル法律違反、傷害の罪で四回罰金刑に処せられ、昭和四四年四月お
よび昭和四五年一二月に賭博罪で二回罰金刑に処せられ、昭和四四年一二月賭博開
張図利幇助の罪で懲役八月、三年間執行猶予に処せられた前科があること、本件各
犯行は、右の執行猶予の期間中の犯行で、他人の射倖心を利用して利得を得ようと
する意味で右の前科の犯罪と類似した犯罪であること、被告人が暴力団に所属して
いることなどを考え合せると、被告人の責任を軽視することはできず、被告人の年
令、職業、家庭の状況等被告人に有利な事情を斟酌しても被告人を懲役一年二月お
よび罰金二〇万円に処した原判決の量刑はやむを得ないところであって、右刑の執
行を再度猶予すべき情状があるとはいえないし、またその刑期を減ずるのを相当と
する理由もない。論旨は理由がない。
 そこで被告人A、同A3、同A1、同A2に関するその余の所論に対する判断を
省略し、刑訴法三九七条一項、三八二条、(被告人A、同A3についてはさらに三
八〇条)により被告人Aに対する原判決および被告人A3、同A1、同A2に対す
る原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所においてさらに次のとおり
判決する。
 (被告人A3、同A1につき、原判示第二の事実にかえて当裁判所が新たに認定
する罪となるべき事実)
 被告人A3は不動産の売買、仲介等を業とするY株式会社の代表取締役で裁判所
における競売不動産の競落および売買等に従事し、被告人A1は右会社に雇われ被
告人A3を補助していたもので、東京地方裁判所が昭和四五年一一月一八日午後一
時から東京都千代田区霞が関一丁目一番二号所在の同裁判所不動産競売場において
実施した同裁判所昭和四五年(ケ)第H号不動産競売事件(競売物件東京都中野区
d町e丁目f番地家屋番号同町I番J木造瓦葺二階建居宅一棟一階六二・八〇平方
メートル、二階三八・〇一平方メートル、所有者K)の競売に際し、被告人A3は
Zを代理して競買の申出をしようとしていたものであるが、被告人A3と被告人A
1は、被告人A3に対抗して競買の申出をしようとする者に対し威力その他の手段
を用いて右申出を断念させることを共謀のうえ、同日午後二時四〇分ころ、同競売
場において、株式会社L代表取締役G(昭和五年三月二日生)がすでに右競売を主
宰する執行官の面前に出ていた被告人A3に対抗して競買の申出をするため同じく
右執行官の面前に出ようとしているのを認めた被告人A1において、右Gの進路に
立つて両手をひろげ、これを避けて進み出ようとする同人の動きに対応して左右に
移動するなどして同人の進路をふさぎ、右Gが執行官の面前に出て競買の申出をし
ようとするのを妨害し、もつて威力を用いて公の競売の公正を害すべき行為をした
ものである。
 なお被告人A3、同A1に対するその余の罪となるべき事実は原判決が認定した
ところによる(被告人A3に対する原判示第二の事実を除く。)が、被告人A1ほ
か二名に対する昭和四七年一月二八日付原判決判示第三に「同人の面前で右A4ら
に『二度と裁判所に来れないようにやつちやえ。』と言い放ち」とある部分および
被告人A4ほか二名に対する昭和四六年一二月二一日付原判決判示第一に「同人ら
の面前でかたわらの被告人らに『二度と裁判所に来れないようにやつちやえ。」と
言い放ち」とある部分を削除し、被告人A1ほか二名に対する原判決判示第二およ
び被告人A4ほか二名に対する原判決判示第一に「うちのおやじか出たときせつた
らたたじやおかんぞ。」とあるのを「これから社長が出たときせりに出るとただじ
やおかんぞ。」と訂正し、被告人A1ほか二名に対する原判決判示第四の三行目に
「右A3」とあるのを「Y株式会社(代表取締役A3)」と訂正し、同七行目「と
共に、右A3」とあるのを削除する。
 (当裁判所が新たに認定する罪となるべき事実に関する証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 当裁判所が新たに判示する被告人A3、同A1の所為は、刑法九六条ノ三第一
項、六〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号(刑法六条、一〇条により昭和四七年
法律第六一号による改正前のもの。以下同じ)に、被告人A1ほか二名に対する原
判決が確定した被告人A3の原判示第三の所為は、包括して暴力行為等処罰ニ関ス
ル法律一条、刑法二〇八条、二二二条一項、六〇条、罰金等臨時措置法三条一項二
号に、被告人A1の原判示第四の所為は、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法
二二二条一項、六〇条、罰金等臨時措置法三条一項二号にそれぞれ該当するので、
所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人A3、同A1の以上の各罪は刑法四五条
前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、被告人A3については
重い原判示第三の罪の刑に、被告人A1については重い原判示第四の罪の刑にそれ
ぞれ法定の加重をした刑期範囲内で、被告人A3を懲役一年六月に、被告人A1を
懲役一年四月にそれぞれ処し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中各一
三〇日をそれぞれ被告人A3、同A1の右刑に算入し、被告人A3、同A1の本件
各犯行の動機、罪質、態様、被害の程度、被害者の被害感情、右被告人両名の反省
の態度、前科歴、年令、職業、健康状態等の諸事情を考慮し、刑法二五条一項を適
用し被告人A3、同A1に対しこの裁判が確定した日からいずれも四年間右各刑の
執行を猶予することとし、刑訴法一八一条一項本文を適用して原審および当審にお
ける訴訟費用中、その三分の一ずつを被告人A3、同A1の負担とする。
 (被告人A、同A2に対する無罪および被告人A3に対する無罪部分の理由)
 被告人A、同A3に対する昭和四六年一〇月五日付起訴にかかる公訴事実は「被
告人Aは、東京地方裁判所が昭和四四年一一月二六日、東京都千代田区霞が関一丁
目一番二号所在の同裁判所不動産競売場において実施した同裁判所昭和四四年
(ケ)第B号不動産競売事件の競売(最低競売価額五三〇万円)に際し、Cの委任
を受け、同人の競買代理人として右競売物件につき競買の申込みをしようとしてい
た者、被告人A3は、右競売に際し、自ら競買人として同様競買の申込みをしよう
としていた者であるが、同日前記不動産競売場において、右競買の申込みをしよう
とするものが被告人ら両名のみであつたところから、被告人両名が自由競争をした
場合には競落価額が上昇することを慮り、これを防ぐため、互にいわゆる『せり』
を控えることを相謀り、よつて、前記Cおよび被告人A3両名の共同競買の形式を
もつて最低競売価額による競買の申込みをして競落することおよび右競落によつて
将来生ずべき利益から応分の金員の配分をなすことを協定したうえ、両名におい
て、前記最低競売価額で競落し、もつて前記競売の公正な価格を害し、かつ不正の
利益を得る目的をもつて談合したものである。」というのであり、被告人A2に対
する公訴事実は「被告人は、A1、A3と共謀のうえ、東京地方裁判所が昭和四五
年一一月一八日午後一時から東京都千代田区霞が関一丁目一番二号所在同裁判所不
動産競売場において実施した同裁判所昭和四五年(ケ)第H号不動産競売事件の競
売に際し、同日午後二時四〇分ころ、同競売場において、株式会社L代表取締役G
が同事件競売物件につき、右A3に対抗して競買の申込をするため、執行官面前に
進み出ようとするや、A1において右Gの進路に両手をひろげ、あるいは左右に移
動するなどして立ちふさがってその進出を妨害し、同人が右A1のかたわらをすり
抜けて執行官面前に出るや、A3において右Gをにらみつけ、被告人A2において
右Gにすり寄つて、「Lさん、おりてやらないか」と申し向け、さらに同人とA3
との間でせりが開始されるや、被告人A2において右Gに対し、その右袖をひつぱ
りながら執拗に「あれはA3さんが落すんだからおりてやらないか」等と申し向け
るなどして、かねてより被告人らはいずれも暴力団O会の関係者であることを知つ
て被告人らに畏怖の念を抱いていた右Gをして競買の申込を中止させるべく迫り、
もつて、威力を用いて公の競売の公正を害すべき行為をしたものである。」という
のである。
 しかしながら、前記説示のとおり、被告人Aおよび同A3に対する前記公訴事実
は罪とならず、被告人A2に対する公訴事実は犯罪の証明がないことに帰するの
で、刑訴法三三六条によりいずれも無罪の言渡をする。
 被告人A4の本件控訴は刑訴法三九六条によりこれを棄却することとし、刑訴法
一八一条一項本文を適用し、当審における訴訟費用中三分の一を同被告人の負担と
する。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 脇田忠 裁判官 西村法 裁判官 福嶋登)

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