弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
      本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人喜田村洋一の上告理由について
 1 本件は,被上告人社団法人B1通信社が被上告人株式会社B2新聞社に配信
し,同被上告人の発行する新聞紙に掲載された記事が上告人の名誉を毀損するもの
であるとして,上告人が被上告人らに対して不法行為に基づく損害賠償を請求する
訴訟である。原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人B1通信社は,地方新聞等全国の報道機関を社員(加盟社)とす
る社団法人であり,全国的な内容のニュースを加盟社に配信する業務を行う通信社
である。
 同被上告人から記事の配信を受けた加盟社は,当該記事を自社の発行する新聞紙
に掲載するかどうか及びどのような見出しを付するかについては,自ら決定するが
,当該記事を掲載する場合には,裏付け取材をすることなく,記事内容に何ら実質
的な変更を加えることなく,当該記事が配信された日又はその翌日に発行する新聞
紙面にこれを掲載することを常としている。
 被上告人B2新聞社は,同B1通信社の加盟社であり,日刊紙「B2新聞」を発
行している新聞社である。
 (2) 被上告人B1通信社は,昭和60年9月12日,同B2新聞社に対し,
第1審判決別紙二記載の記事(以下「本件配信記事」という。)を配信し,同被上
告人は,同月13日付けのB2新聞紙上に,「乙さん殴打事件 甲,口封じに圧力」
,「丙の身辺に出没」等の見出しを付して,同別紙一記載の記事(以下「本件記事」
という。)を掲載した。
 (3) 上告人は,平成3年ころ,被上告人B1通信社が配信した本件配信記事
とは異なる記事(以下「別件記事」という。)に関する別件損害賠償請求訴訟の過
程で同被上告人の加盟社に対する記事配信のシステムを知り,同被上告人の加盟社
が発行する全国の新聞紙に別件記事と同内容の記事が掲載されているのではないか
と考え,調査会社を使って調査したところ,平成4年初めころまでに,被上告人B
2新聞社が同B1通信社の加盟社であること及び同B2新聞社を含む30社以上の
加盟社が発行する新聞の紙面に別件記事と同内容の記事が掲載されていたことを知
った。
 (4) 上告人は,平成3年12月16日,株式会社E社が発行する日刊新聞「
E」紙の昭和60年9月13日付け紙面に本件記事と同内容の記事が掲載されたこ
とに関し,同社に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。E社は,同記事が被上告人
B1通信社から配信を受けた記事に基づくものであることを明らかにして,同被上
告人に対して訴訟告知をした。同訴訟告知書は,平成4年7月9日に上告人に送達
された。
 これによって,上告人は,被上告人B1通信社の加盟社である同B2新聞社が発
行する新聞紙上にも本件配信記事に基づく記事が掲載されている可能性が高いこと
を知った。
 (5) 被上告人B2新聞社は,本件記事掲載当時,掲載記事についての閲覧,
謄写サービスを行っていなかったが,閲覧,謄写の申込みに対しては,栃木県内の
各市町村立図書館等がB2新聞のバックナンバーをそろえており,栃木県立図書館
等が閲覧,謄写サービスを行っているので,これらの施設を利用するよう回答して
いた。
 栃木県立図書館では,当時から,掲載紙,掲載年月日,記事内容が特定されれば
,申込者に対して,当該記事の写しを郵送するサービスを行っていた。
 (6) 上告人は,本件記事掲載時から継続して勾留されていたが,自己に関す
る新聞報道に強い関心を持ち,拘置所内にいても,知人を通じるなどして強力な情
報収集能力を発揮するだけの知識,技能を有している。
 (7) 本件訴えが提起されたのは,平成7年7月25日であるが,被上告人ら
は,上告人の被上告人らに対する本件名誉毀損に基づく損害賠償請求権について,
上告人が本件配信記事の存在を知った同4年7月9日を起算日とする消滅時効を援
用した。
 2 原審は,次のように判断して,上告人の被上告人らに対する損害賠償請求権
は時効により消滅したとし,請求原因について判断することなく,上告人の請求を
棄却すべきものとした。
 (1) 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは,被害者にお
いて,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度に損害
及び加害者を知った時を意味するものと解するのが相当であり,被害者に現実の認
識が欠けていても,その立場,知識,能力などから,わずかな努力によって損害や
加害者を容易に認識し得るような状況にある場合には,その段階で,損害及び加害
者を知ったものと解するのが短期消滅時効の起算点に関する特則を設けた同条の趣
旨にかなう。
 (2) 上告人は,拘置所内にあっても,その知識,技能により,自らあるいは
支援者たる知人を通じて栃木県立図書館に本件記事の写しの郵送を申し入れ,これ
を入手することが容易であったから,さほどの困難もなく,本件記事の存在及び内
容を確知し,損害賠償請求権を行使することが可能な状況にあった。
 (3) したがって,上告人は,本件配信記事の存在を知った平成4年7月9日
の時点において,被上告人らに対する損害賠償請求が事実上可能な状況の下に,そ
の可能な程度に損害及び加害者を知ったものと認めるのが相当である。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 民法724条は,不法行為に基づく法律関係が,未知の当事者間に,予期しない
事情に基づいて発生することがあることにかんがみ,被害者による損害賠償請求権
の行使を念頭に置いて,消滅時効の起算点に関して特則を設けたのであるから,同
条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは,被害者において,加害者に対する
賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味す
るものと解するのが相当である(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11
月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。そして,次に述べ
るところに照らすと,【要旨】同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が
損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。
 不法行為の被害者は,損害の発生を現実に認識していない場合がある。特に,本
件のような報道による名誉毀損については,被害者がその報道に接することなく,
損害の発生をその発生時において現実に認識していないことはしばしば起こり得る
ことであるといえる。被害者が,損害の発生を現実に認識していない場合には,被
害者が加害者に対して損害賠償請求に及ぶことを期待することができないが,この
ような場合にまで,被害者が損害の発生を容易に認識し得ることを理由に消滅時効
の進行を認めることにすると,被害者は,自己に対する不法行為が存在する可能性
のあることを知った時点において,自己の権利を消滅させないために,損害の発生
の有無を調査せざるを得なくなるが,不法行為によって損害を被った者に対し,こ
のような負担を課することは不当である。他方,損害の発生や加害者を現実に認識
していれば,消滅時効の進行を認めても,被害者の権利を不当に侵害することには
ならない。
 民法724条の短期消滅時効の趣旨は,損害賠償の請求を受けるかどうか,いか
なる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果,極めて不安定な立場に置かれ
る加害者の法的地位を安定させ,加害者を保護することにあるが(最高裁昭和49
年(オ)第768号同年12月17日第三小法廷判決・民集28巻10号2059
頁参照),それも,飽くまで被害者が不法行為による損害の発生及び加害者を現実
に認識しながら3年間も放置していた場合に加害者の法的地位の安定を図ろうとし
ているものにすぎず,それ以上に加害者を保護しようという趣旨ではないというべ
きである。
 これを本件について見ると,上告人は,平成4年7月9日の時点においては,被
上告人B1通信社の加盟社である同B2新聞社の発行する新聞紙上に本件配信記事
に基づく記事が掲載されている可能性が高いことを知ったにすぎず,本件記事が実
際に掲載されたこと,すなわち同被上告人が上告人の名誉を毀損し,不法行為に基
づく損害が発生したことを現実に認識していなかったというのであるから,同日を
もって消滅時効の起算点とすることはできないといわなければならない。
 4 そうすると,上告人の被上告人らに対する損害賠償請求権が時効により消滅
したとする原審の判断には,民法724条の解釈適用を誤った違法があり,この違
法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,原判決は破棄を
免れない。そして,上告人の被上告人らに対する請求について更に審理判断させる
ため,本件を原審に差し戻すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田
邦夫)

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