弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被上告人B1に対する上告を棄却する。
     右上告費用は上告人の負担とする。
     被上告人B2に対する上告につき、原判決を破棄し、本件を仙台高等裁
判所に差し戻す。
         理    由
 一、被上告人B1に対する上告について。
  原判決は、被上告人B1は、原判示売買契約の当事者ではたなく、売主たる被
上告人B2の代理人として上告人と契約締結の衝に当つたにすぎないことを認定し
たものであつて、原判決挙示の証拠によれば、右事実はこれを肯認できなくはない。
論旨第一点は、原審がその裁量権の範囲内で適法になした事実の認定ないし証拠の
取捨を争うものに帰し、また、論旨第三点は、原審の事実認定に副わない事実を前
提とする主張であつて、いずれも採るをえない。
 二、被上告人B2に対する上告について。
  原判決は、被上告人B2は、かねてから原判示家屋の一部をDから賃借し、こ
れを店鋪として食堂Eを経営していたが、昭和二八年三月中上告人との間に右食堂
の営業権、家屋賃借権、営業用什器等の売買契約を締結し、同被上告人の代理人B
1において売買代金の支払をうけたこと、B2は家屋賃借権の譲渡につき賃貸人の
承諾をえないまま、同月下旬頃上告人に店舗及び営業用什器類を引き渡したが、賃
貸人Dは結局右賃借権の譲渡を承諾するにいたらず同人の妻Fは同年一〇月頃つい
に右店舗を含む本件家屋全部を取りこわしてしまい、店舗の使用は不能となつたこ
とをそれぞれ確定したものである。ところで、賃借権の譲渡人は、特別の事情のな
いかぎり、その譲受人に対し、譲渡につき遅滞なく賃貸人の承諾をえる義務を負う
ものと解すべきであり、前記事実関係によれば、被上告人B2は賃借権の譲渡につ
き賃貸人Dの承諾をえる義務があるにかかわらず、これをえることができないでい
るうちに、本件家屋は取りこわされてしまつたのであるから、本件売買契約のうち
家屋賃借権の譲渡に関する部分についての同被上告人の債務は履行不能となつたも
のというべく、少くとも右部分に関する限り、債務看者である被上告人B2として
は、右履行不能が債務者の責に帰すべからざる事由によつて生じたことを証明する
のでなければ、債務不履行の責を免れることはできないと解さなくてはならない(
大審院大正一三年(オ)第五六九号、同一四年二月二七日判決、民集四巻九七頁参
照)。しかるに、原審は、「履行不能となつたことが債務者であるB2の責に帰す
べき事由によることについては主張も立証もない」旨判示し、かかる主張及び立証
の責任を債権者たる上告人に負わしめ、同人の売買代金返還の請求を排斥したもの
であつて、この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨第二点は、
結局その理由があるというべきである。
 よつて、被上告人B1に対する上告は、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、
これを棄却し、被上告人B2に対する上告については、民訴四〇七条一項により、
原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すべきものとし、裁判官全員の一致で、主文
のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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