弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人森長英三郎の上告趣意第一点の(一)、(二)、(三)は憲法三一条違反
を主張するけれどもその実質は刑訴四一一条に該当する事由のあることを主張する
に帰するから、適法な上告理由にあたるものとはいえない。
 しかし職権を以つて右四一一条適用の事由ありや否やにつき調査するに、原判決
は第一審相被告人A、同Bの同判示所為は昭和二四年五月三一日法律第一六九号に
よる改正前の地方税法一三六条二項(刑法六〇条)に該るものとなし、しかも右所
為は被告人の業務に関するものであるから、被告人は同法一三九条の罪責を免れな
いとして被告人に対し有罪の言渡をしているのである。しかし、同法一三六条二項
の罪の主体となり得る者は、同法三六条にいわゆる「特別徴収義務者」たる身分を
有する者だけであつて、かような身分を有しない者は右「特別徴収義務者」と共犯
関係にない限り、同条の罪の主体となり得ないのである(昭和二五年(れ)第七六
六号、同二六年三月一五日第一小法廷判決==集五巻四号五三五頁以下参照)。ま
た、同条一三九条には「行為者を罰する外」と規定されているけれども、その一事
を以つて本来「特別徴収義務者」の如き税法上の義務(同法三六条、三七条、一二
五条、一二六条参照)を負担していない行為者を同法一三六条二項の罪に問擬する
ことのできないことは勿論であると共に、同法一三九条は行為者の所為が同条所定
の犯罪の構成要件に該当することを前提とした規定であると解すべきことは同条の
文理に徴しても極めて明かである。ところが、原判決は判示家族館における本件興
業の主体即ち興業者は判示C鉱業株式会社D炭鉱鉱員組合であり同興業の入場税及
び同附加税に関する特別徴収義務者は被告人であると判示しながら、第一審相被告
人たる前記A及びBの両名については、単に本件興業に関する実務を右組合のため
担当した者であつたと判示するだけで、同人等が特別徴収義務者の身分を有してい
たか否かについては何ら確定することなく(被告人との共犯関係はこれを認めてい
ない)、漫然と右両名の判示所為を同法一三六条二項にあたるものとなし、更に進
んで被告人を同法一三九条の罪に問擬しているのである。しかし、右A及びBの両
名の原判示所為が同法一三六条二項の罪にあたるというがためには、少くとも右両
名が本件興業に関し同法三六条にいわゆる「特別徴収義務者」たる身分を有するか、
またはかような者と共犯関係にあることが確定されなければならないのであり、ま
た、右両名の原判示所為が同法一三六条二項の罪を構成することの明かでない以上、
右両名が仮りに被告人の代理人、使用人または従業者として、原判示の如く被告人
の業務に関して判示所為に出でたものであつたと仮定しても、被告人において同法
一三九条の罪責を負うべき理由のないことは、これらの罪についてさきに説示した
ところから自ら明かである。して見ると、原判決にはその理由にくいちがいがある
か、または法律の解釈適用を誤つたものといわなければならない。そして、右の違
法は原判決に影響を及ぼすこと明かであつて、且つこれを破棄しなければ著しく正
義に反するものと認められるから、刑訴四一一条一号に則り原判決を破棄するのを
相当とする。
 よつて、その余の上告趣意に対する判断を省略し、刑訴四一三条本文に従い、裁
判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 この公判期日には検察官平出禾が出席した。
  昭和二八年八月一八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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