弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主      文
被告人を懲役7年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
理     由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 公安委員会の運転免許を受けないで(免許の効力停止中),平成15年1
1月6日午後11時55分ころ,大阪市a区b丁目d番e号付近道路において,普通
乗用自動車を運転した
第2 そのころ,道路標識等により最高速度を50キロメートル毎時と指定されて
いる左方に湾曲する前記場所付近道路において,4輪の前記普通乗用自動車
を運転してf方面からg方面に向かって進行中,その進行を制御することが困難
な時速約100キロメートルの高速度で自車を走行させたことにより,自車を,同
道路の湾曲に応じて進行させることができず,左斜め前方に滑走させて同道路
左側の歩道に乗り上げさせ,折から同歩道上を通行中のA(当時29歳)が乗っ
た自転車に自車を衝突させ,同人を同自転車もろとも約36メートル先の同道路
左側高架下側道に転落させ,よって,同人に頭蓋骨骨折,脳挫滅の傷害を負わ
せ,即時同所において同人を死亡するに至らしめた
第3 前記普通乗用自動車を運転中,前記日時場所において前記第2のとおり
Aを負傷させて死亡させる交通事故を起こしたのに,歩道上で停止した自車から
降りて,前記高架下側道に倒れている同人の姿を認めたものの,いまだ生死も
つまびらかでない同人を救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生
の日時場所等法定の事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかっ

ものである。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)
  被告人の判示第1の所為は道路交通法117条の4第1号,64条に,判示第
2の所為は刑法208条の2第1項後段,前段(致死の場合)に,判示第3の所為
のうち,救護義務違反の点は道路交通法117条,72条1項前段に,報告義務
違反の点は同法119条1項10号,72条1項後段にそれぞれ該当するところ,
判示第3は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項
前段,10条により,1罪として重い救護義務違反の罪の刑で処断し,判示第1
及び第3の各罪について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45
条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,最も重い判示第2の
罪の刑に同法47条ただし書,14条の制限に従って法定の加重をし,その刑期
の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60
日をその刑に算入することとする。
(量刑理由)
1 本件は,運転免許停止中の被告人が,一般道を時速約100キロメートルも
の高速度で自動車を走行させたため,カーブを曲がりきれずに自車を滑走さ
せ,歩道上を自転車で通行していた被害者に衝突し,被害者を自転車もろとも
高架下へ転落させて脳挫滅等の傷害により即死させ,側壁に衝突するなどして
停止した自車から降りた際に高架下側道に被害者が倒れているのを発見しなが
ら,いまだ生死も定かでない被害者を救護するための措置を何もとらず,警察に
通報もしないで,その場から逃走した道路交通法違反及び危険運転致死の事
案である。
2 被告人は,友人が新しく購入した自動車を運転してみたいという極めて安易
な理由で判示自動車を無免許運転し,一般道を時速約100キロメートルもの猛
スピードで走行し,しかもその運転直前まで友人らと飲酒していたというのである
から,被告人の本件運転行為は,交通三悪すべてに抵触する危険きわまりない
ものであり,本件のような重大な結果を惹起したのは必然とすらいいうるところで
あって,本件危険運転行為の犯行態様はきわめて悪質である。もとより,そのよ
うな犯行動機や犯行経緯に酌量の余地など微塵も認められない。そればかり
か,被告人は,事故後,高架下に倒れている被害者の姿を認めながら,救急車
を呼んだり警察官に報告するなどの措置をまったくとることなく,直ちに現場から
逃走し,同乗者らとともに犯行使用車両に消火剤を噴射する等の犯跡隠蔽工作
までおこない,犯行の3日後に警察署に出頭した際にも,人をはねたことは気づ
かなかったなどと虚偽の供述をしているのであって,事故後の態度も卑怯でまこ
とに悪質である。
被告人は,普通自動車運転免許取得後わずか2年程の間に,速度超過等の
交通違反で何度も検挙され,2度にもわたり運転免許停止の行政処分を受け,
しかるに,極めて安易に本件に至っているのであって,交通法規無視の態度は
はなはだしいとの非難を免れない。
  本件の結果がきわめて重大であることは改めていうまでもない。被害者は,
当時弱冠29歳,仕事上の大きな飛躍を目前にした前途洋々たる青年であった。
もとより,被害者には何の落ち度も認められない。たまたま本件歩道を通行して
いたというそれだけの理由で,「事故」と呼ぶことすらはばかられる被告人の蛮
行により,突如としてその尊い生命を断たれ,将来の夢も希望もすべてを奪われ
たのである。その無念の想いや,肉体的・精神的苦痛には,およそ余人の安易
な想像を許さないものがある。まことに痛ましいというほかはない。そして,残さ
れた遺族の悲嘆と憤りも大きい。わずか数日前に言葉を交わしたばかりの息子
の変わり果てた姿に対面せざるを得なかった母親の悲しみと苦しみ,そして怒り
は,これもまた余人の想像も及ばないものがある。被害者の母と姉とが当公判
廷における意見陳述に際し,極めて峻厳な処罰感情を示しているのは,けだし
当然というべきである。そして,そのような悲しみ,怒りは,被害者を知る多くの
人々に共通の思いであることが窺われるのである。
  被告人の刑事責任にはまことに重いものがある。
3 他方において,被告人が,きわめて遅きに失したとはいえ,自ら警察署に出
頭している点は,被告人にもその当時から幾分かは反省の念が存したことを窺
わせるものではある(なお,この出頭は,判示第1及び第2事実に関する限りで
は,法律上の自首が成立するものと認められるが,本件犯情に照らし,自首減
軽をすべきであるなどとは到底認められない。また,判示第3事実については,
被告人は上記のとおり出頭当初は被害者をはねたことは知らなかったなどと述
べており,自己の犯罪を自発的に申告したとは評価できず,自首は成立しな
い。)。そして,被告人は本件犯行時の心情等につきやや不合理な供述もしては
いるが,本件各犯行を遅まきながらも被告人なりに反省していることは窺える
上,いまだ若年でもあり,今後は厳しく監督する旨証言した母親,雇用を約束す
る旨証言した雇用主,寛刑を嘆願する友人らも存在し,被告人自身の決意の堅
さによっては,今後の更生も期待できないわけではない。さらに,保険加入状況
や被告人の資力等に照らし,最低限必要な賠償すら直ちには期待できない状況
ではあるが,被告人の母が,遺族のもとへ謝罪に赴いたり,事故現場に献花し,
被害弁償の申入れを行うなど,現時点でなし得る慰藉の努力をしている様子も
窺える。
4 以上の諸事情を総合考慮して被告人に対する科刑を検討するに,きわめて
危険な運転行為の結果,何の落ち度もない被害者の死亡という重大な結果を招
いた上,被害者を救護するどころか自動車の破壊等の自己保身行為に走ったと
いう本件各犯行態様の悪質さや,被害者の遺族の被害感情が峻烈なままであ
ること等の事情に鑑み,被告人に対しては,被告人のため斟酌すべき事情を考
慮しても,長期間の刑をもって臨むほかはなく,そこで,主文のとおり量刑した次
第である。
(求刑懲役8年)
平成16年3月30日
大阪地方裁判所第2刑事部
        裁判長裁判官   川  合  昌  幸
           裁判官   畑  口  泰  成
           裁判官藤  原     瞳

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛