弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成10年3月30日付けで控訴人に対してした原判決別紙物件目
録記載一及び二の土地に係る平成8年7月1日から平成9年6月30日までの土地
の取得に対して課する特別土地保有税の課税標準額及び税額並びに不申告加算金額
の各決定処分をいずれも取り消す。
第2 本件事案の概要
 控訴人の本訴請求の趣旨は,上記第1の控訴の趣旨の2項のとおりであり,ま
た,本件事案の概要,平成10年法律第27号による改正前の地方税法等の定め,
当事者間に争いのない事実,当事者双方の主張等は,原判決の「事実及び理由」欄
の「第二 事案の概要」の項の記載のとおりであるから,この記載を引用する。
 すなわち,控訴人は,平成9年2月28日,東京都葛飾区内に合計面積が100
0平方メートルを超える原判決別紙物件目録記載一及び二の本件土地を取得した
が,この本件土地の取得については,平成10年法律第27号による改正前の地方
税法(以下「法」という。)により,平成9年8月31日までに,被控訴人に対
し,特別土地保有税の申告書を提出し,かつ,その申告した税額を納付しなければ
ならないとされていた。ところが,控訴人が上記期限までにこの申告書の提出及び
申告税額の納付を行わなかったため,被控訴人は,平成10年3月30日,控訴人
に対し,平成8年7月1日から平成9年6月30日までの取得に係る本件土地の特
別土地保有税の課税標準額を4億8656万円とし,その納付すべき税額を747
万0200円とし,不申告加算金112万0500円を徴収する旨の本件各処分を
行った。
 本件は,控訴人による本件土地の取得は,恒久的な利用に供される建物の敷地の
用に供する目的によるものであり,土地を投機の対象とすることを防止し,その有
効利用を図るという特別土地保有税の立法趣旨に反するものではないから,本件各
処分は権利の濫用により違法であるとし,また,上記建物の着工が遅れたのは,建
築確認申請に係る建築確認を遅滞した葛飾区の責任であり,通常であれば特別土地
保有税を課せられることはなかったのであるから,本件各処分は違法であるとし
て,控訴人が,被控訴人に対し,本件各処分の取消しを求めている事件である。
第3 当裁判所の判断
1 控訴人の本件土
地の利用及び本件各処分がされた経過について
 前記引用に係る原判決の記載にある当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨
によれば,控訴人の本件土地の利用及び本件各処分がされた経緯について,次のと
おりの事実が認められる。
(1) 控訴人は,葬祭業,葬儀ホールの経営等を業とする会社であるところ,葬
祭等の集会場であるセレモニーホール(以下「本件建物」という。)を建築するた
め,平成9年2月28日,葛飾区内に存する本件土地(合計面積1005.33平
方メートル)を取得した。控訴人は,この取得後直ちに本件建物の建築計画に着手
し,同年6月23日に本件建物の建築確認申請を行ったところ,同年12月5日に
この建築確認を受けたので,本件建物の建築に着手し,平成10年11月5日,本
件建物を完成させた。
(2) ところで,法は,土地の取得者に対し特別土地保有税を課することを規定
しているところ,この規定及び関係法令によれば,同一の者が平成9年7月1日の
基準日の前1年以内に同一特別区内に所在する合計面積1000平方メートル以上
の土地を取得すれば,この土地取得者に対して東京都が特別土地保有税を課するこ
ととされ,この納税義務者は,平成9年8月31日までに,都知事から権限を委任
されている都税事務所長に対し,当該特別土地保有税の課税標準額及び税額その他
の自治省令で定める事項を記載した申告書を提出しなければならないものとされて
いた(法595条1号,599条1項3号,737条2項,法附則31条の4第2
項等)。そうすると,控訴人の本件土地の取得は,上記の特別土地保有税の課税要
件を満たすものであるから,控訴人は,平成9年8月31日までに,被控訴人に対
し,本件土地の取得に係る特別土地保有税の申告書を提出する義務があった。な
お,控訴人の本件土地の取得は,法が定める非課税及び免税点の要件(法586
条,587条,595条)に該当するものではなかった。
 ところが,控訴人は,この提出期限である同年8月31日に至っても,上記申告
書を提出しなかったため,被控訴人は,同年9月4日,「特別土地保有税(取得
分)の申告について」と題する文書を送付して上記申告書の提出を促し,また,同
年9月19日,葛飾都税事務所に来所した控訴人の事務担当者(A氏)に対し,上
記申告書を提出するよう促し,さらに,同年11月4日,「特別土地保有税(取得
分)の申告納付につ
いて」と題する文書を送付して,上記申告書の提出を促した。
 しかし,控訴人は,上記申告書の提出を拒否し,遂にこれを行わなかった。この
ような場合,法は,都知事が,申告すべき課税標準額及び税額を決定し(法606
条2項,734条1項),また,この決定があった場合には,申告書の提出期限ま
でにその提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き,
決定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当す
る不申告加算税を徴収しなければならないと規定していること(法609条2項1
号)から,都知事から権限を委任されている被控訴人は,平成10年3月30日,
控訴人に対し,本件土地の特別土地保有税の課税標準額を4億8656万円,その
納付すべき税額を747万0200円と決定し,さらに,不申告加算金112万0
500円の徴収を決定する旨の本件各処分を行い,その旨の特別土地保有税決定通
知書を控訴人に送付した。
(3) なお,法は,特別土地保有税の納税義務について,次のような納税義務の
免除の制度を設けている。すなわち,建物,構築物又は特定の施設のうち恒久的な
利用に供するものとして定められた一定の基準に適合するものの用に供する土地
で,東京都に係る土地利用基本計画,都市計画その他の土地利用に関する計画に照
らし,当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものである
ことについて,特別土地保有税審議会の議を経た上で,都知事が認定した場合に
は,当該土地に係る特別土地保有税の徴収金に係る納税義務を免除するものとし
(法603条の2第1項,4項本文等),土地の取得者が,上記の適用を受けよう
とする場合は,法599条1項の納期限(本件では平成9年8月31日)までに,
都知事から権限を委任されている被控訴人に対し,免除認定の申請をしなければな
らない(法603条の2第2項本文)と定めていたのである。
ところが,控訴人は,本件土地の取得に係る特別土地保有税に関する上記の免除認
定の申請も行わなかった。
2 本件各処分が違法であるか否かについて
(1) 控訴人は,特別土地保有税の趣旨は,これを土地の取得者等に課すること
により土地保有に伴う管理費用を増大させて,土地の有効利用の促進や投機的取引
の抑制を図ることであるところ,控訴人の本件土地取得の目的は,恒久的な利用に
供する本件建物の建築であるから
,実質的にみて,特別土地保有税を課すべき理由はないとして,本件土地に特別土
地保有税を課するとした本件各処分は,権利の濫用になると主張する。
 確かに,特別土地保有税の趣旨は,これを土地の取得者等に課することにより土
地保有に伴う管理費用を増大させ,これを通じて,土地の有効利用の促進や投機的
取引の抑制を図ることにある。しかし,法は,上記趣旨を実現するため・その趣旨
に沿って特別土地保有税の課税要件を定めるとともに,有効利用に供されるような
一定の土地については,個別的な事由に基づき,非課税(法586条,587条
等)あるいは免税(法595条,737条2項等)とすることを定め,また,前記
のとおり,当事者の申請に基づく納税義務の免除認定の制度(法603条の2第1
項,第2項本文,4項本文等)をも設けている。そうすると,法は,このような非
課税,免税及び当事者の申請に基づく納税義務の免除認定の制度により,有効利用
される土地には特別土地保有税を課さないようにし,これによって,投機的取引の
抑制と土地の有効利用との調和を図っているものと考えられる。
 したがって,控訴人が,本件建物の建築を目的に本件土地を取得したことを理由
として,本件土地の取得には特別土地保有税が課されるべきでないと考えるのであ
れば,この取得が法に定める非課税及び免税点の要件に該当しない以上,上記の納
税義務の免除認定の申請をするほかなく,そうすれば,この手続により,控訴人の
本件土地の取得が,前記の納税義務の免除認定の要件に該当するか否かが判断され
たはずである。しかし,控訴人は,法が定める申請期限までにこの申請を行わなか
った。
 そうすると,控訴人は,本件土地の取得に係る特別土地保有税の申告書の提出を
義務付けられていながら,これを提出せず,そのため本件各処分を受けるに至った
のであるが,上記の納税義務の免除認定の申請をその期限までに行わなかったこと
により,既に納税義務の免除認定を受けられなくなっているにもかかわらず,この
申請の理由となるべき事由と同一の事由を理由として,本件各処分が権利の濫用に
なると主張しているものである。したがって,このような控訴人の主張する事由
が,本件各処分の権利の濫用を基礎付ける事由に該当しないことはいうまでもない
ところであり,また,本件各処分が法の規定に従って適法にされていることは前記
のとおりであるから,本件各
処分が権利の濫用であるとする控訴人の前記主張が失当であることは,明らかとい
うべきである。
(2) また,控訴人は,本件建物の着工が遅れたのは,建築確認申請の確認を遅
滞した葛飾区の責任であり,通常であれば特別土地保有税を課せられることはなか
ったのであるから,本件各処分は違法であると主張する。
 すなわち,控訴人は,本来であれば,本件建物の着工時期が特別土地保有税の納
税義務免除認定の要件とされている期間内に行われ,特別土地保有税の納税義務免
除認定の申請をすることにより,納税義務が免除されていたはずであるのに,葛飾
区が控訴人の建築確認申請に係る建築確認を遅滞したため,本件建物の着工時期が
上記の期間を徒過してしまい,納税義務の免除がされなくなったとして,本件各処
分は違法であると主張するのである。
 しかし,控訴人が,上記の事由を理由として,本件土地の取得が特別土地保有税
の納税義務免除認定の要件に該当すると考えるのであれば,納税義務の免除認定の
申請を行い,その手続の中でその主張をすべきである。ところが,控訴人は,上記
の納税義務の免除認定の申請をその期限までに行わなかったことにより,既に納税
義務の免除認定を受けられなくなっているにもかかわらず,これと同一の事由を主
張して,本件各処分が違法であると主張しているものである。
 そうすると,法が,非課税,免税及び当事者の申請に基づく納税義務の免除認定
の制度により,投機的取引の抑制と土地の有効利用との調和を図っていることに照
らせば,控訴人の前記のような主張は,その主張事実の有無を判断するまでもな
く,失当であることは明らかというべきである。
(3) 以上によれば,控訴人の本訴請求には理由がないというほかない。
第4 結論
 よって,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり,その取消しを求める
控訴人の本件控訴には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官 近藤崇晴
裁判官 宇田川基
裁判官 加藤正男

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