弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 検察官片山恒が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の検察官松岡幸男提出の控訴趣
意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人山中唯二提出の答弁書
(記録編綴)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 検察官の控訴趣意(法令の解釈適用の誤)について。
 記録に徴するに、原判決が、被告人に対する本件公訴事実中の被告人は法定の除
外事由がないのに昭和四一年二月二二日頃その経営するキャバレー「A」において
氏名不詳の米国水兵らから遊興飲食代金として米国軍票三六〇ドルを収受しなが
ら、これを遅滞なく日本銀行に寄託しなかつたとして被告人に昭和二七年政令第一
二七号第四条第二項違反の罪責を追求した公訴事実に対し、右軍票三六〇ドルのう
ちの大半は当日の日本銀行の営業時間終了後に収受されたものであり、右銀行の営
業時間中に収受されたものについてもその部分が特定できず、しかも右軍票は全部
同日夜警察に押収されたものであるから、被告人において右軍票を寄託することが
不可能の状態にあつたか、またはいまだ遅滞なく寄託をしなかつたものとはなし難
いものといわざるを得ず、従つて右公訴事実についてはいまだ被告人に対し軍票寄
託義務違反の罪責ありとなすことはできないとして、無罪を言渡していることが明
らかである。
 所論によれば、被告人は既に昭和三八年九月五日頃から右「A」において客の米
国水兵らから度々遊興飲食代金として収受した米国軍票等はすべてはじめから関係
法規に従つて日本銀行に寄託する意思は毛頭なく、全部その都度これを隠匿所持し
ながら機会をみて不法に本邦通貨と両替していたものであり、従つて被告人が収受
した右米国軍票三六〇ドルについても、その入手の時期如何にかかわらず遅滞なく
その寄託手続をすることはとうてい期待できないことが明らかであるから、かりに
右軍票が日本銀行の営業時間終了後に収受されたものとしても、既にその状態にお
いて寄託義務履行の遅滞にあるものと解するのが相当であり、被告人は軍票寄託義
務違反の罪責を免れないというにある。
 そして、本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に徴すれば、被告人が昭
和三八年九月五日頃から昭和四一年二月二二日までの間、その経営するキャバレー
「A」において客の米国水兵らから遊興飲食代金として収受した米国軍票等はすべ
てその都度隠匿所持しながら、機会をみて不法に本邦の通貨と両替していたこと、
被告人は昭和四一年二月二二日も前記「A」において米国水兵らから遊興飲食代金
として米国軍票三六〇ドルを収受し、これを同店カウンター内及び同店三階鳥小屋
内に隠匿して所持していたところを同日夜警察に押収されたこと、従つて被告人が
前記軍票三六〇ドルについても、はじめから関係法規に従つて日本銀行に寄託する
意思はなかつたことがそれぞれ認められる。
 <要旨>ところで、前記昭和二七年政令第一二七号第四条第二項の規定する米国軍
票を遅滞なく日本銀行に寄託すべき義務に違反する罪は、これを寄託する意
思がないことのみに止らず、その意思さえあれば寄託が可能であつたにも拘らず、
これを寄託しなかつたことによりこれが成立するものと解すべきである。しかし
て、原審で取調べた証拠によると、被告人が昭和四一年二月二二日収受した右軍票
三六〇ドルのうちの大半は当日の日本銀行の営業時間終了後に収受されたものであ
り、しかも右軍票は全部同日夜警察に押収されたこと及び右軍票のうちには同日の
日本銀行の営業時間中に収受されたものもあつたことは明らかであるが、証拠上そ
のいずれが右銀行の営業時間中に収受されたものであるかを特定し、従つてその数
額を明確にするを得ない状態にあるから、たとえ右「A」と佐世保市内の日本銀行
代理店との距離が徒歩で約五分程度のものであつたことを考慮に入れても、被告人
が右軍票を寄託する意思がなかつたというその主観的意思の有無にかかわらず、そ
の三六〇ドルの軍票全部についていまだ前記政令第四条第二項にいうその収受した
軍票を遅滞なく日本銀行に寄託しなかつたとの客観的要件を充足したものとはなし
難く、被告人に対し軍票寄託義務違反の罪責を負わしめることはできないものとい
うべきである。
 けだし、前記政令第四条第二項が軍票を遅滞なく寄託すべきことを規定した趣旨
は寄託する意思のない軍票の所持そのものの段階、すなわち軍票寄託義務違反の未
遂状態をも処罰する趣旨とは文理上からもとうてい解することができず、(他に軍
票寄託義務違反の未遂を処罰する規定も見当らない。)同条項にいう軍票の寄託義
務の履行遅滞ということは、すくなくとも軍票を収受した後これをすみやかに日本
銀行に寄託する意思があればその機会が存したことが客観的に認められる程度の時
間的余裕があつたにもかかわらず、寄託しなかつたことが認められる場合において
はじめて論理的に矛盾なく理解し得られるからである。
 かくて、本件においては、前示のような「A」と日本銀行代理店との距離その他
の諸事情に鑑みれば、他に特段の事情の存しない限り、被告人において収受した軍
票を寄託する意思があれば、その寄託に要する時間は翌日の銀行開店を待つ数時間
を以て足るものと認められ、原判決の説示する如く収受の翌日の銀行閉店までの時
間を要するものと解すべきではないが、かりに被告人が右軍票を遅滞なく日本銀行
に寄託する意思があつたとしても、その寄託に要する時間が全くなかつたこと、言
い換えると寄託不可能の状態にあつたことに帰するから、前説示のとおり軍票寄託
義務違反罪の成立はこれを否定せざるを得ないのである。
 されば、たとえ右政令第四条第二項が国民経済の復興と発展に寄与することを目
的として米国軍隊以外の者の保有する軍票の集中をはかるために理由の如何をとわ
ずその寄託を命じ、米国軍隊以外の者をして絶対に軍票を所持させないことを趣旨
として規定されたものであること、また寄託した軍票については現実には代償が与
えられていないこと及び被告人において既にはじめからその収受した右軍票を日本
銀行に寄託する意思がなかつたことが明白であつた等の諸事情を十分に参酌考慮し
ても、所論並びにこれに副う検察官引用の昭和三一年六月一二日言渡の札幌高等裁
判所の判決及び昭和三三年一〇月三〇日言渡の福岡高等裁判所の判決にはとうてい
左袒することができない。
 そして、原判決が本件軍票のうち収受当日の日本銀行の営業時間中に収受された
分については、前示のように「遅滞なく」の概念をやや拡張し過ぎて、いまだ遅滞
なく寄託されなかつたものとはなし難いとした点については、まさに法令の解釈適
用の誤があつたものといわざるを得ないが、右の誤はいまだ明らかに判決に影響を
及ぼすものとなすに足らず、他に原判決に法令の解釈適用の過誤は存しないので、
原判決の判断はまことに正当であり、結局論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 山本茂 裁判官 生田謙二)

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