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裁判例


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主文
一第一事件から第九事件までの各原告らが日本国籍を有することをいず
れも確認する。
二訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
一事案の骨子
本件は、フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)国籍の母
と日本国籍を有する父との間に出生した第一事件から第九事件までの各
原告(以下、9名を合わせて「原告ら」という。)が、出生後に父から
認知を受けたことを理由に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ、
原告らが国籍法3条1項に規定する国籍取得の条件を備えていないとし
て、日本国籍の取得を認められなかったため、父母の婚姻及び嫡出子た
ることを国籍取得の要件とする同項の規定は、憲法14条に違反するな
どと主張して、被告に対し、日本国籍を有することの確認を求める事案
である。
二関係法令の定め等
1国籍法
(一)2条(出生による国籍の取得)
子は、次の場合には、日本国民とする。
1号出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
2号及び3号省略
(二)3条(準正による国籍の取得)
1項父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子
で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は、認知
をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合におい
て、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の
時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出ることによっ
て、日本の国籍を取得することができる。
2項前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国
籍を取得する。
2国籍法施行規則1条(国籍取得の届出)
1項国籍法(昭和25年法律第147号。以下「法」という。)第
3条第1項・・・(中略)・・・による国籍取得の届出は、国籍の取得
をしようとする者が日本に住所を有するときはその住所地を管轄
する法務局又は地方法務局の長を経由して、・・・(中略)・・・しな
ければならない。(以下省略)
2項(省略)
3項前2項の届出は、届出をしようとする者が自ら法務局、地方法
務局又は在外公館に出頭して、書面によってしなければならない。
4項届書には、次の事項を記載して届出をする者が署名押印し、国
籍取得の条件を備えていることを証するに足りる書類を添付しな
ければならない。
1号国籍の取得をしようとする者の氏名、現に有する国籍、出
生の年月日及び場所、住所、男女の別並びに嫡出子又は嫡出
でない子の別
2号(省略)
3号国籍を取得すべき事由
3国籍法改正の経緯
明治32年制定の国籍法(明治32年法律第66号。以下「旧国籍
法」という。)は、国籍の生来的取得(出生時点における国籍取得)
と伝来的取得(出生後の事後的な国籍取得)を峻別することなく、当
時の家制度を前提として、身分行為によって日本国籍を取得すること
を広く認めており、日本国民である妻、入夫又は養子となった外国人
に日本国籍の取得を認めていたほか、日本国民に認知された子につい
ても日本国籍の取得を認めていた。
現行憲法下において昭和25年に制定された国籍法(昭和59年法
律第45号による改正前の昭和25年法律第147号。以下「改正前
国籍法」という。)は、国籍の取得原因を出生による場合と帰化によ
る場合の二つに限定し、旧国籍法における身分行為による国籍取得は、
家制度に由来し、憲法の個人の尊厳と両性の本質的平等に反するとし
てこれを廃止した。しかしながら、改正前国籍法は、父系血統優先主
義を採用していたことから、日本国民を母とし、外国人を父とする非
嫡出子は原則として日本国籍を取得することができないこととされた。
また、国籍の取得原因から認知を排除した結果、現行の国籍法と同様、
父が日本国民である非嫡出子であっても、出生の時点において父と法
律上の親子関係が生じていない者は日本国籍を取得することができな
い扱いとなった。
昭和59年法律第45号による改正は、改正前国籍法が採用してい
た父系血統優先主義を見直し、父母両系血統主義を採用したことから、
現行の国籍法では、母が日本国民である非嫡出子については、出生と
同時に日本国籍が与えられることとなった(国籍法2条1号)。また、
昭和59年法律第45号は、国籍の取得原因として、出生及び帰化の
ほかに新たに届出による国籍制度(国籍法3条1項)を設けたが、父
が日本国民であって、生後認知を受けた非嫡出子が届出によって日本
国籍を取得することができるのは、父母が婚姻したことにより嫡出子
の身分を取得した場合に限定されている(以下、このような父母の婚
姻により嫡出子となった子を「準正子」という。)。
三前提事実
本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠及び弁論の
全趣旨により容易に認めることのできる事実は、括弧内に認定根拠を付
記しており、それ以外の事実は、当事者間に争いのない事実である。
1第一事件原告P1
(一)第一事件原告P1(戸籍上の表記は、「P2」。)は、平成▲
年▲月▲日、フィリピン国籍の母P3の子として日本で出生し、日
本で育った。(甲イ1、2、弁論の全趣旨)
(二)原告P1は、日本国民であって、父であるP4に対し、自らを
認知することを求めて千葉地方裁判所館山支部に提訴したところ、
その後、P4は、平成13年12月12日、原告P1を認知した。
(甲イ1、2)
(三)原告P1法定代理人親権者母P3は、法務大臣に対し、平成1
7年3月9日、上記認知を理由に同原告の日本国籍の取得を届け出
たが、同届出は受け付けられず、日本国籍の取得は認められなかっ
た。(甲イ3)
2第二事件原告P5
(一)第二事件原告P5(戸籍上の表記は、「P6」。)は、平成▲
年▲月▲日、フィリピン国籍の母P7(戸籍上の表記は、「P
8」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲ロ1、2、
弁論の全趣旨)
(二)原告P5の父であって、日本国民であるP9は、平成10年1
1月4日、原告P5を認知した。(甲イ1、2)
(三)原告P5法定代理人親権者母P7は、法務大臣に対し、平成1
7年2月22日、上記認知を理由に同原告の日本国籍の取得を届け
出た。東京法務局長は、P7に対し、同年3月10日、同届出は国
籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知して、国籍
の取得を認めなかった。(弁論の全趣旨)
3第三事件原告P10
(一)第三事件原告P10(戸籍上の表記は、「P11」。)は、平
成▲年▲月▲日、フィリピン国籍の母P12(同原告戸籍上の表記
は、「P13」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲
ハ1、2、弁論の全趣旨)
(二)原告P10の父であって、日本国民であるP14は、平成12
年8月16日、原告P10を認知した。(甲ハ1、2)
(三)原告P10法定代理人親権者母P12は、法務大臣に対し、平
成17年2月25日、上記認知を理由に原告P10の日本国籍の取
得を届け出たが、同届出は受け付けられず、日本国籍の取得は認め
られなかった。(甲ハ3)
4第四事件原告P15
(一)第四事件原告P15(戸籍上の表記は、「P16」。)は、平
成▲年▲月▲日、フィリピン国籍の母P17(同原告戸籍上の表記
は、「P18」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲
ニ1、2、弁論の全趣旨)
(二)千葉地方裁判所は、平成12年8月30日、原告P15が日本
国民であるP19の子であることを認知する旨の判決を言い渡し、
同判決は、同年9月13日に確定した。(甲ニ1、2、弁論の全趣
旨)
(三)原告P15法定代理人親権者母P17は、法務大臣に対し、平
成17年3月16日、上記認知を理由に同原告の日本国籍の取得を
届け出た。東京法務局長は、P17に対し、同年3月23日、同届
出は国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知し、
日本国籍の取得を認めなかった。(弁論の全趣旨)
5第五事件原告P20
(一)第五事件原告P20(戸籍上の表記は、「P21」。)は、平
成▲年▲月▲日、フィリピン国籍の母P22(同原告戸籍上の表記
は、「P23」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲
ホ1、2、弁論の全趣旨)
(二)横浜地方裁判所相模原支部は、原告P20が日本国民であるP
24の子であることを認知する旨の判決を言い渡し、同判決は、平
成13年7月26日に確定した。(甲ホ1、2、弁論の全趣旨)
(三)原告P20法定代理人親権者母P22は、法務大臣に対し、平
成17年3月1日、上記認知を理由に同原告の日本国籍の取得を届
け出た。横浜地方法務局長は、P22に対し、同年3月17日、同
届出は国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知し、
日本国籍の取得を認めなかった。(弁論の全趣旨)
6第六事件原告P25
(一)第六事件原告P25(戸籍上の表記は、「P26」。)は、平
成▲年▲月▲日、フィリピン国籍の母P27(同原告戸籍上の表記
は、「P28」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲
へ1、2、弁論の全趣旨)
(二)水戸家庭裁判所土浦支部は、平成14年6月4日、原告P25
が日本国民であるP29の子であることを認知する旨の審判をし、
同審判は、平成14年6月27日に確定した。(甲へ1、3の1、
3の2、弁論の全趣旨)
(三)原告P25法定代理人親権者母P27は、法務大臣に対し、平
成17年3月4日、上記認知を理由に同原告の日本国籍取得を届け
出た。東京法務局長は、P27に対し、同年3月10日、同届出は
国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知し、日本
国籍の取得を認めなかった。(弁論の全趣旨)
7第七事件原告P30
(一)第七事件原告P30(戸籍上の表記は、「P31」。)は、平
成▲年▲月▲日、フィリピン国籍の母P32(同原告戸籍上の表記
は、「P33」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲
ト1、2、弁論の全趣旨)
(二)原告P30の父であって、日本国民であるP34は、平成15
年3月20日、原告P30を認知した。(甲ト1、2)
(三)原告P30法定代理人親権者母P32は、法務大臣に対し、平
成17年3月4日、上記認知を理由に同原告の日本国籍の取得を届
け出た。東京法務局長は、P32に対し、同年3月10日、同届出
は国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知し、日
本国籍の取得を認めなかった。(弁論の全趣旨)
8第八事件原告P35
(一)第八事件原告P35(戸籍上の表記は、「P36」。)は、平
成▲年▲月▲日、フィリピン国籍の母P37(同原告戸籍上の表記
は、「P38」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲
チ1、2、弁論の全趣旨)
(二)原告P35の父であって、日本国民であるP39は、平成6年
2月22日、原告P35を認知した。(甲チ1、2)
(三)原告P35法定代理人親権者母P37は、法務大臣に対し、平
成17年3月4日、上記認知を理由に同原告の日本国籍取得を届け
出た。東京法務局長は、P37に対し、同年3月10日、同届出は
国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知し、日本
国籍の取得を認めなかった。(弁論の全趣旨)
9第九事件原告P40
(一)第九事件原告P40(戸籍上の表記は、「P41」。)は、平
成▲年▲月▲日、フィリピン国籍の母P42(同原告戸籍上の表記
は、「P43」。)の子として日本で出生し、日本で育った。(甲
リ1、2、弁論の全趣旨)
(二)東京家庭裁判所は、平成12年10月23日、原告P40が日
本国民であるP44の子であることを認知する旨の審判をし、同審
判は、平成12年11月7日に確定した。(甲リ1、2、3の1、
弁論の全趣旨)
(三)原告P40法定代理人親権者母P42は、法務大臣に対し、平
成17年3月4日、上記認知を理由に同原告の日本国籍の取得を届
け出た。東京法務局長は、P42に対し、同年3月10日、同届出
は国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知し、日
本国籍の取得を認めなかった。(弁論の全趣旨)
四争点
本件における争点は、(1)国籍法3条1項の規定は、届出による国籍取
得の要件として、日本国民である父又は母による認知のほかに、父母の
婚姻により嫡出子となったことを求める点において、憲法14条1項に
違反するか、(2)本件において、原告らは、国籍法3条1項の届出要件を
満たしているか、である。
五争点に関する当事者の主張の要旨
争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙「当事者の主張の要旨」記
載のとおりである。
第三当裁判所の判断
一争点1(国籍法3条1項の合憲性)について
1国籍法と憲法14条
(一)憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定め
る。」と規定している。これは、国籍は国家の構成員の資格であり、
元来、何人が自国の国籍を有する国民であるかを決定することは、
国家の固有の権限に属するものであり、国籍の得喪に関する要件を
どのように定めるかは、それぞれの国の歴史的事情、伝統、環境等
の要因によって左右されるところが大きいところから、日本国籍の
得喪をどのように定めるかを法律にゆだねる趣旨であると解するこ
とができる。このようにして定められた国籍の得喪に関する法律要
件における区別が、憲法14条1項に違反するかどうかは、その区
別が合理的な根拠に基づくものということができるかどうかによっ
て判断すべきものである。なぜなら、憲法14条1項は、法の下の
平等を定めているが、絶対的平等を保障したものではなく、合理的
理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、法的取扱いにおけ
る区別が合理的な根拠に基づくものである限り、何らこの規定に違
反するものではないからである(平成14年最高裁判決参照)。
(二)ところで、国籍の得喪に関する法律要件における区別が憲法1
4条1項に違反すると争っている者は、同区別の合憲性を争点とす
る国籍確認請求事件における認容判決が確定するまでは、日本国籍
を有しない外国人として取り扱われることとなる。そうすると、国
籍の得喪に関する法律要件における区別が憲法14条1項に違反す
るかどうか、すなわち、その区別が合理的な根拠に基づくものとい
うことができるかどうかを判断するに当たっては、憲法14条1項
に規定する「法の下」の「平等」が外国人にも及んでいることを前
提に、既に我が国の法律(国籍法)によって国籍が与えられて我が
国の国民となっている者と、未だに我が国の国籍が与えられずに我
が国の国民となっていない者とを比較検討することになるため、憲
法が外国人にも適用されるという前提に立つことができるか否かと
いう点も、問題となり得るとも考えられる。
しかしながら、憲法14条1項は「すべて国民は、法の下に平等
であって」と規定し、直接には日本国民を対象とするものではある
ものの、法の下における平等の原則は、近代民主主義諸国の憲法に
おける基礎的な政治原理の一として広く承認されていることにかん
がみれば、同項の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人
に対しても類推されるべきものと解するのが相当である(昭和39
年11月18日最高裁判決参照)。
そして、前述した国籍を与えられる者と与えられない者との比較
検討は、国籍法が設ける国籍の得喪に関する法律要件における区別
が憲法14条1項に違反するかどうかを検討するに当たって、不可
避的に問題となる事項である。したがって、仮に外国人に対して同
項の適用を否定すれば、国籍法が設ける国籍の得喪に関する法律要
件における区別に関しては、結局、同項の規定が全く適用されない
という不都合な結果が生じるが、同項が規定する「法の下」の「平
等」が、法適用の平等のほか、法そのものの内容の平等を含むもの
と解されること(昭和39年5月27日最高裁判決、最高裁昭和4
5年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3
号265頁参照)にかんがみれば、上記のような不都合な結果を憲
法が許容していると解することはできない。しかも、仮に原告らに
同項の規定が適用された結果、国籍法3条1項の規定が違憲となる
場合には、後述するように、原告らは日本国民であるということに
なるのであるから、憲法14条1項の規定を原告らに適用しないと
することは不合理である。
したがって、以下においては、原告らにも憲法14条1項が適用
されることを前提として、検討することとする。
(三)(1)次に、被告は、国際法上も国籍の得喪に関する立法は、国家
の対人主権の範囲を画するものとして各国の自由にゆだねられて
いること、憲法は、具体的にいかなる者を我が国の構成員とする
かについては、代表民主制の原理に基づき、国会が、全国民を代
表する立場において、我が国の歴史的事情、伝統、環境等様々な
要因を総合的に考慮して合理的に定めることにゆだねたものと解
されることなどに照らし、国籍の得喪に関する要件をいかに定め
るかについては、その性質上、立法府に広範な裁量が与えられて
いる旨主張する。
(2)しかしながら、国籍の得喪に関する要件の定め方において、立
法府に広範な裁量が与えられているとしても、その結果生じた区
別は、あくまでも憲法によって許される範囲内で認められるもの
にすぎないから、国籍の得喪に関する要件が定められた結果によ
って生じた区別が合理的な理由のない差別であれば、やはり、憲
法14条1項によって禁止されるといわざるを得ない。
(3)そして、国籍の取得は、我が国において基本的人権の保障を受
ける上で重要な意味を持つものであることは多言を要しない。ま
た、法の下の平等は、民主主義社会の根幹を成す重要なものであ
る。これらの点を考えると、国籍の得喪に関する要件をいかに定
めるかについては、立法府に広範な裁量が認められるとしても、
それは自由に定め得るというわけではなく、国籍の得喪の要件に
おける区別の合理性が必要であり、本件では、この点につき判断
することが求められているものと解すべきである。
また、実際にも、子供の福祉の観点からも、また親の感情の面
からも、日本国民を親として生まれてきた子供は、日本国籍を持
つことを期待していることが多いことは容易に想像し得るところ
である。したがって、このような期待が当然の権利であるという
ことはできないものの、後述するように、現行の国籍法が父母両
系血統主義に拠って立って立法されていることにかんがみると、
その期待は、無視することはできず、前記の合理性の判断をする
上でも、重要な考慮要素になると考えるべきである。そうすると、
立法府に与えられた前記の広範な裁量を理由として、日本国民の
子供の間で、国籍の取得につき異なる扱いをすることを当然に肯
定することはできないというべきである。
(4)国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて、立法
府に広範な裁量があるとする被告の主張は、以上に反する限度で
は採用することができない。
2国籍法の趣旨等
(一)現行の国籍法の基本的思想
(1)現行の国籍法における血統主義の意義については、同法の法案
審議において、立法担当者は、以下のように説明している(甲1
8。「改正国籍法・戸籍法の解説」法務省民事局内法務研究会編
305頁以下所収の昭和59年4月23日衆議院法務委員会議事
録。)。
(天野(等)委員)「国籍法・戸籍法の改正案についてお尋ねい
たします。
最初に国籍法につきまして、これは国民の範囲を定めるという
基本的な法律でもございますので、国籍法の基本原則であります
血統主義、なぜこの血統主義を今度の国籍法の改正でもおとりに
なったのか、その点について大臣からの御意見を伺いたいと思い
ます。」
(住国務大臣)「一つは、沿革的なものがあると思います。原則
としては、血統主義に生地主義と二つございますが、まあ大体世
界の原則がどういうことで取り上げるかということを考えてみま
すと、前世紀から今世紀にかけましてアメリカ大陸のようにどん
どん移住した国あるいはオーストラリアのようなところ、これは
大体生地主義ということでございまして、その他の旧大陸と申し
ますか、そういったところは伝統的に大体血統主義を採用してお
る。日本も旧国籍法以来血統主義、しかも父系をとっておった、
こういうような従来の血統主義を引き継ぎ、そしてまた最近の国
際化の状態あるいは特に国連の婦人差別撤廃条約の批准を目前に
控えて、それとの調整、こういうことからして従来のいきさつも
考え、血統主義を今度の改正法においても取り入れた、そして父
母両系にした、こういうようなことだと思います。」
(天野(等)委員)「現行の国籍法(注:改正前国籍法)、それ
から帝国憲法時代の旧国籍法、いずれも血統主義をとっておりま
したし、今回の改正法も血統主義をとっておるということは、今
大臣のお話にありましたように、日本の国民感情といいますか、
そういうものが血統主義、日本人の父、今回の改正で母でござい
ますけれども、日本人の子供は日本人だという考え方が一般的な
国民感情ではなかろうか、あるいはそういうのが法感情なんでは
ないか、その辺で私も血統主義を基本的にとられたということは
わかるのでございます。
その上で、実は大臣の趣旨説明等にもございますけれども、最
近の渉外婚姻の増加ということがこの改正の一つの動機、そうい
うふうに述べられているように思うのですけれども、この渉外婚
姻の増加というのが今度の改正でどういうふうにこの法案の中で
考えられているのか。どうも私は、渉外婚姻が増加し、いわゆる
血統主義が乱れてくる、これに対してむしろそれを純血にしてい
こうという考え方もあるんじゃないかというような感じがいたす
のでございますが、その点についてちょっといかがでございまし
ょうか。」
(枇杷田政府委員)「血統主義の中には純粋な血統主義、要する
に父母両方とも自国民であるということを要件にするという考え
方も十分にあり得ると思います。ただ、現在はかなり渉外婚姻が
ふえておりますけれども、かつてはそれほど多くはなかったので、
それを父系血統主義ということでやりましても、おおむね純血と
いいますか父母両方が日本人の子供は日本人という結果になるこ
とが多かったわけでございます。しかし、今度父母両系主義をと
ります場合には、もちろん純血といいますか父母がともに日本国
民であるということからは外れる日本国民がかなり出てくること
になりますけれども、どちらを選ぶのがいいかということになり
ますと、過去におきましても若干でも父親だけが日本人というケ
ースもあったわけでございますし、それからまた、国際結婚をい
たしました方々にとっての生活実態から考えますと、そういう場
合に常に日本国籍を与えないというようなことが現実に妥当する
かどうかということを考えますと、子供の福祉の面ということか
らいたしましても、それから母親の子供に対する感情ということ
からいたしましてもそれは適当ではないんじゃなかろうかという
ような考え方ができようかと思います。
そういう意味で、両性平等の立場から考えた場合に、純粋の血
統主義ではなくてどちらかの血統を引いている場合には日本国民
とするという方が妥当でもあるし、または現在の国民感情として
もその方が受け入れられる要素ではないかというところから、純
血血統主義ではなくて片親血統主義でいい、しかも、それがどち
らの血統を引くものでもいいということにいたしたわけでござい
ます。」
(2)以上の審議内容からすると、現行の国籍法は、父又は母が日本
国民である子は日本国民であるとする扱いが我が国の国民感情に
合致していることを前提に、血統主義を採り、さらに、血統主義
の中でも、父母ともに日本国民であることを要する純血主義や父
が日本国民であることを要する父系血統主義ではなく、両性平等
の観点から、父か母のどちらかが日本国民であれば足りるとする
父母両系血統主義の考え方に立っているということができる。そ
して、このことは、国籍法2条1号において、父又は母が日本国
民であることを出生時点における日本国籍取得の要件としている
ことからも裏付けることができる。
(二)国籍法3条1項制定の理由
(1)国籍法3条1項は、昭和59年法律第45号による改正によっ
て新設された規定であるが、立法担当者は、国会審議において、
届出による国籍の取得を認めた理由、また、認知を受けた非嫡出
子すべてに国籍の取得を認めるものではなく、父母の婚姻により
嫡出子(準正子)になったものに限った理由について次のように
説明している(甲2。「改正国籍法・戸籍法の解説」法務省民事
局内法務研究会編312頁以下所収の昭和59年4月3日及び同
月17日衆議院法務委員会議事録。)
(2)昭和59年4月3日衆議院法務委員会
(中村(巖)委員)「今度は違う問題ですけれども、父母のいわ
ゆる準正、それから認知、これによりまして今度は国籍を取得す
ることができるようになるわけでありますけれども、こういう制
度を新設されました理由というのはどういうことでございましょ
う。」
(枇杷田政府委員)「先ほど来申し上げておりますように、新法
におきましても血統主義をとっておるわけでございます。しかし
ながら、その血統主義をあらわします第2条の第1号で『父又は
母が』というふうに書いてございますが、これは法律上の父母と
いうことになるわけでございます。ところが、世間では、往々に
いたしまして子供が生まれてから婚姻届を出す、それで認知をす
るとか、そういうふうなケースが少なくないわけでございまして、
実際上は後になって婚姻をした夫婦の間の子供なんだけれども、
出生のときに婚姻届が出ていなかったというようなこともあるわ
けでございます。実質的には、血統主義という面から申しますと、
そういう方にとっても日本国籍を与えるという道があってもいい
のではないか。要するに血統主義の補完措置と申しますか、そう
いうふうなことがしかるべきだろうということで、準正による場
合に、本人の日本国籍を取得するという意思表示があればそれで
日本国籍を与えるという制度を設けた次第でございます。」
(中村(巖)委員)「現行の国籍法ではそういう身分行為によっ
ては国籍を取得しないんだというふうにされておったわけで、そ
このところは、現行法ができるときにはやはり考え方が違ったと
いうことになるのでしょうか。」
(枇杷田政府委員)「現行法でも身分行為によって国籍を取得す
るという道は設けておりません。今度の法律案でも、身分行為に
よって日本国籍を直にといいますか、直ちに取得するということ
ではなくて、いわばそういう準正というものがあれば、国籍取得
の意思表示が加わることによって国籍を与えようということで、
身分行為そのものに国籍取得のいわば契機を与えるというもので
はないわけでございます。しかし、実質的には、そういう身分行
為によって父または母を日本国民とする子供であるという実質に
は変わりがないという点に着目をいたしまして、血統主義の面か
らいっても、そういう条件がある場合に御本人が日本国籍を取得
したいというのであれば日本国籍を取得する方が妥当ではないか
という観点に立ったものでございます。」
(3)昭和59年4月17日衆議院法務委員会
(神崎委員)「次に準正についてお尋ねをいたします。
改正法は、準正によりまして日本国民の嫡出子たる身分を取得
した外国人たる子につきまして一定の要件のもとに届け出による
国籍取得の制度を新設したわけでございます。これはそれについ
ては大変評価されるわけでございます。
しかしながら、提案理由説明によりますと、改正法は父母両系
血統主義を採用すると明言しているのであります。血統主義とい
う観点からいたしますと、日本国民から認知された子も、準正に
よって日本国民の嫡出子としての身分を取得した者も同じ親子に
異ならないわけであります。それにもかかわらず、認知の場合を
改正において除外した理由は一体どういう点にあるのかという点
であります。確かに、嫡出子と嫡出でない子との間に、我が国の
身分法上、親権、氏、相続の関係で異なった取り扱いをしている
とか、外国の立法例では、認知によって国籍を取得するという国
よりも、準正の場合に限っている国が多い、こういうこともいわ
れているようでありますので、これらの点も考慮したものとは思
われるのでありますけれども、この点に関する法務当局の見解を
お伺いしたいと思います。」
(枇杷田政府委員)「単純な血統ということになりますと、おっ
しゃったとおり認知も一つの血統を示すものでございます。しか
しながら、血統主義と申しましても単に血がつながっていさえす
ればというふうなことではなくて、やはり血統がつながっている
ことが、一つは日本の国に対する帰属関係が濃いということを明
確ならしめる一つの重要な要素としてとらえられていることだろ
うと思います。そういう面から考えますと、認知というだけでは、
これは母親が日本人(注:外国人の誤りと思われる。)である場
合でありますから、生活実態といたしますと嫡出子の場合とはか
なり違うのではないか、民法におきましても嫡出子と非嫡出子で
はいろいろな扱いが違います。その扱いの違う根拠は、認知した
者とその子との間には生活の一体化がまずないであろうというこ
とが一つの前提となっていると思います。
そういうことからいたしますと、なるほど片親の血はつながっ
ておったにしても、当然に日本の国と結びつきが強いという意味
で国籍が取得されるというふうにすることは適当でないだろう。
これが準正になりますと、そこでは両親の間に婚姻関係があるわ
けで、生活の一体化というものが出てまいりますから、そういう
場合は意思表示によって日本の国籍を取得させてもいいだろうけ
れども、認知だけではそうはいかないのではないか、そういう考
えから現在のような案にしておるわけでございます。」
(4)以上の審議内容からすると、国籍法3条1項の基本的思想は、
国籍法が拠って立つ父母両系血統主義を前提として、出生時に日
本国民である父と法律上の親子関係を有していることが認められ
なかったことから、同法2条1号によっては日本国籍を付与され
なかった日本国民の実子についても父母両系血統主義をより拡充、
徹底するため、届出制によって日本国籍を認めようとしたもので
あるが、ただ、同じ日本国民の実子であっても、日本国民である
父親から認知を受けたにすぎない子の場合は、父親と生活の一体
化を欠くことが通常であることから、我が国との結び付きないし
帰属関係が強いとはいえないという理由によって、国籍付与の対
象から除外したものであると理解することができる(母が日本国
民である場合は、出生と同時に法律上の親子関係が成立する(昭
和37年最高裁判決参照)ため、常に同号が適用される結果、同
法3条1項が適用される余地はない。)。
(三)国籍法3条1項制定の合理性
(1)前記前提となる事実のとおり、改正前国籍法は、旧国籍法にお
ける身分行為による国籍取得の制度を廃止しているが、子の出生
後の身分行為によっては直接国籍変動を生じないとした改正前国
籍法の仕組みは、絶対的な法理あるいは憲法上当然必要な取扱い
であるとは解されないから、国籍法がその仕組みを一部改めて、
子の出生後の身分行為のうち一定の行為に限って、それによって
直接ないし間接的に国籍変動を生じる旨定めることは可能である
と解することができる。そして、①前述のとおり、我が国の国籍
法は父母両系血統主義を採用していること、②認知は、婚姻や養
子縁組などといった身分行為とは異なり、親と子の血統関係を前
提とする身分行為であること、③日本国民の非嫡出子であっても、
外国人を父、日本国民を母として出生した子は、特段の事情のな
い限り、日本国民である母の認知を待たずに、国籍法2条1号に
より当然に日本国籍を取得することができること、④同様に、非
嫡出子であっても、日本国民である父が胎児認知をした場合も、
同号により、子は日本国籍を取得することができることを勘案す
ると、生後認知の場合も、父母両系血統主義を拡充するため、届
出制による国籍取得の道を開くことには高い合理性があるという
ことができる。
(2)そして、国籍法3条1項は、生後認知された子のうち、我が国
との結び付きないし帰属関係が強いものに限って、日本国籍を付
与するのが相当であることを前提に、我が国との結び付きないし
帰属関係が強いものと認める指標として、日本国民である親と認
知を受けた子を含む家族関係ないし生活の一体化が成立している
点をとらえることとし、父母が法律上の婚姻関係にある場合に限
って、そのような家族関係ないし生活の一体化が成立しているも
のと考え、そのような場合に限って日本国籍を付与しようとして
いると解することができる。
そこで、以下では、上記のように父母が法律上の婚姻をした場
合に限って日本国籍を付与するものと規定することによって国籍
取得に区別が生じるか否か、国籍取得に区別が生じるとした場合
にその区別が合理的な根拠に基づくものということができるかど
うかを検討する。
3現行の国籍法における非嫡出子の取扱い及び同法3条1項によって
国籍取得に生じる区別
(一)現行の国籍法における非嫡出子の取扱い
(1)母が日本国民である場合
我が国の民法上、母子関係は出生と同時に成立すると解されて
いることからすると、母が日本国民である非嫡出子の場合は、前
示のとおり、国籍法2条1号によって出生と同時に日本国籍を取
得することになる。
(2)父が日本国民で胎児認知を受けた場合
父が日本国民である非嫡出子で、胎児認知(民法783条1
項)を受けた場合、出生時において法律上の親子関係が成立して
いることになるから、前示のとおり、この場合も、国籍法2条1
号によって出生と同時に日本国籍を取得することになる。
(3)父が日本国民で生後認知を受けた場合
民法上、認知の効力は出生時にさかのぼることとされているが
(民法784条)、国籍法2条1号の解釈においては、国籍の浮
動性防止の観点から、認知に遡及効はないと解されている(最高
裁平成8年(行ツ)第60号同9年10月17日第二小法廷判決・
民集51巻9号3925頁、平成14年最高裁判決)。その結果、
生後認知を受けた日本国民である父の子は、出生時点においては
日本国民である父と法律上の親子関係が存在していないというこ
とになるので、同号は適用されず、同号によって出生時点で日本
国籍を取得することはない。
また、国籍法3条1項は、認知及び父母の婚姻により嫡出子た
る身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であったもの
を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民で
あった場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、
又はその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出
ることによって、日本の国籍を取得することができる旨定めてい
る。したがって、日本国民を父とし、生後認知を受けた非嫡出子
が後に父母の婚姻によって嫡出子(準正子)となった場合には、
届出によって日本国籍を取得することができるが、父母の法律上
の婚姻がされていない場合には、届出によって日本国籍を取得す
ることはできないことになる。
なお、日本国民の子で日本に住所を有する外国人(日本国民を
父とする生後認知を受けた非嫡出子も含まれる。)は、国籍法8
条により、一般の外国人に適用される同法5条の帰化要件よりも
緩和された要件によって、帰化申請を行うことができるが、帰化
には一定の要件があり、かつ、許可制であるので、上述した届出
による国籍取得と同視することはできない。。
(二)国籍法3条1項によって国籍取得に生じる区別
(1)以上の取扱いの違いの結果、①日本国民を母、外国人を父とし
て出生した嫡出子は、国籍法2条1号により日本国籍を取得し、
②日本国民を父、外国人を母として出生した嫡出子は、国籍法2
条1号により日本国籍を取得し、③日本国民である母と外国人の
父との間に出生した非嫡出子は、国籍法2条1号により日本国籍
を取得し、④日本国民である父と外国人の母との間に出生した非
嫡出子のうち、日本国民である父から胎児認知を受けたもの、国
籍法2条1号により日本国籍を取得し、⑤日本国民である父と外
国人の母との間に出生した非嫡出子のうち、父から生後認知を受
け、かつ、父母が婚姻したもの(準正子)は、国籍法3条1項に
より日本国籍を取得することができ、⑥日本国民である父と外国
人の母との間に出生した非嫡出子のうち、父から生後認知を受け
たが、父母が法律上の婚姻をしていないもの(非準正子)は、国
籍法2条にも、3条1項にも該当しないから、出生又は届出によ
る日本国籍の取得をすることができないことになる。
(2)上記(1)の①から④までについては、いずれも国籍法2条1号
が適用されるが、国籍法2条1号は、生来的な国籍の取得はでき
る限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましいとして、
子の出生時に日本国民である父又は母と法律上の親子関係がある
ことをもって我が国の国籍を付与しようとしているのであるから、
同号は憲法14条1項に違反するものではないと解すべきである
(平成14年最高裁判決)。
(3)アこれに対し、前記(1)の⑤と⑥については、準正子と非準正
子は、ともに日本国民である父と外国人の母との間の非嫡出子
として出生し、日本国民である父から生後認知を受けた点で共
通の事情を有しており、唯一の違いは、その後父母の間に法律
上の婚姻が成立しているか否かである。両者は、国籍法が採用
する父母両系血統主義の観点からすると、同じく日本国民であ
る父の血統を受け継ぐ者であり、共に日本国籍を取得する基礎
を有していることとなる。そして、父又は母が日本国民である
子は日本国民であるとする扱いが我が国の国民感情に合致して
いることは、前述の国籍法3条1項制定の際の国会審議におい
ても明らかになっているところである。
それにもかかわらず、現行国籍法上、準正子は届出により日
本国籍を取得することができるのに対し、非準正子は届出によ
りこれを取得することができないという極めて大きな差が生じ
ることとなる。
イしかも、同じく非嫡出子であって、父又は母の一方が日本国
民である点で前記(1)の⑥と同一の条件にある場合であっても、
前記(1)の③の母が日本国民である非準正子及び前記(1)の④の
日本国民である父から胎児認知を受けた非準正子は、出生によ
り当然に日本国籍を取得することができるのである。これらと
対比すると、前記(1)の⑥の父が日本国民である非準正子に限り、
届出をしても日本国籍を取得することができないことは、相対
的に見て、極めて大きな不利益であるというべきである。
(4)そうすると、前記(1)の⑥の非準正子が日本国籍を取得するこ
とができないということは、前述した基本的人権の保障を受ける
上での国籍取得の重要性や、民主主義社会における法の下の平等
の重要性にかんがみれば、容易に許されるべきことではないとい
うべきである。すなわち、国籍の取得は、基本的人権の保障を受
ける上で重大な意味を持つものであって、本来、日本国民を親と
して生まれてきた子供は、等しく日本国籍を持つことを期待して
いるものというべきであり、父母両系血統主義を採る我が国では、
その期待は軽視することはできないというべきである。特に、後
述のとおり、嫡出子と非嫡出子とで異なる扱いをすることの合理
性に対する疑問が高いことにかんがみれば、両親がその後婚姻し
たかどうかといった自らの力によって決することのできないこと
によって差を設けるには慎重であるべきである。なぜなら、子に
とって、出生の時に、父母が婚姻しているか否かは、全くの偶然
のことにすぎず、個人の意思や努力によっていかんともし難いも
のである上、認知については、非嫡出子の側から強制的に認知の
訴え(民法787条)によって求めることができるのに対し、父
母の婚姻を非嫡出子の側から求める手段は現行法上存在しないか
らである。
(5)以上によれば、父が日本国民であって、生後認知をした場合に
おける国籍の取得について、準正による嫡出子(前記(1)の⑤)と
非嫡出子(前記(1)の⑥)との間に大きな差異を設け、非嫡出子に
大きな不利益を課すこととなっている国籍法3条1項は、日本国
籍の取得の条件として父母の婚姻という要件、すなわち準正要件
を設けたことを説明し得る十分合理的な理由がない限り、憲法1
4条1項に違反すると解するべきである。
なお、仮に国籍法3条1項が憲法14条1項に違反して無効で
あるとしても、これまで国籍法3条1項によって認められていた
準正による嫡出子の国籍取得が認められなくなるだけのことであ
り、このことによって非嫡出子である原告らの国籍取得原因が発
生することにはならないから、原告らの主張には理由がないので
はないかとの懸念も生じ得る。しかしながら、原告らが主張して
いるのは、国籍法3条1項全体の違憲無効ではなく、届出による
国籍の取得を認める同項のうち、「父母の婚姻」及び「嫡出子た
る身分」の部分の違憲無効であり(このような部分的違憲判断が
可能であるかについては、後述する。)、これが認められれば、
同項によって、日本国民である父又は母の認知と届出のみによっ
て日本国籍を取得することが可能となるから、原告らの主張、す
なわち、準正要件の違憲性を判断することには、意味があるとい
うことができる。
(三)小括
以上を踏まえ、以下においては、準正による嫡出子と非嫡出子と
の間に、準正要件のみをもって国籍取得に差異を設けることに合理
的な理由が認められるかどうかについて、更に各事由の個別的な検
討を進めることとする。
4我が国との強い結び付きないし帰属関係
(一)被告は、準正子の場合には、父と子の親子関係が非準正子より
強いとし、日本国民である父との親子関係が準正によって強くなっ
た場合に、我が国との密接な結合が生ずるものとして国籍を付与す
るとの立法政策を採ることについては十分な合理性がある旨主張す
る。そして、その根拠として、準正子と非嫡出子との間には法制度
上の差異があることを挙げ、具体的には、非嫡出子は、母の氏を称
し(民法790条2項)、原則として母の親権に服する(同法81
9条4項)ので、非嫡出子の父子関係は、法制度上も、実際上も、
結合関係、すなわち生活の同一性が希薄であるが、準正子である未
成年の子は、その準正のときから当然に母と共に父の親権に服し
(同法818条1項、3項)、出生時から嫡出子であった子と同様、
父母の下で監護・教育を受けて成長することが、民法上当然に予定
されている(同法820条以下)ことなどを挙げる。また、厚生労
働省の人口動態統計において、出生子全体に占める非嫡出子の割合
がわずか1.5パーセントにすぎないことも挙げる。
(二)(1)そこで検討するに、一般的にいえば、準正子は、父母が法律
上の婚姻をしているわけであるから、日本国民である親との家族
関係が成立し、生活の一体化が生じているはずであるという点に
おいて、我が国との結び付きないし帰属関係が強いことが多いと
いうことができよう。
また、一般に、生後認知された子は、出生時に日本国籍の取得
が認められなかったために、そのほとんどの者が外国籍を取得し
ているものと考えられる。また、生後認知された子のうち相当数
は、その外国人である母のみによって監護、養育されているもの
と考えられるから、生後認知された子が外国人である母と共にそ
の本国に帰ってしまったり、あるいは母の本国と密接なつながり
を生じさせていく可能性も考えられないではない。
そうすると、外国との間に密接な結び付きが生じていくかもし
れない生後認知された非嫡出子について、生後認知されたという
事実と国籍を取得したいという意思表示(届出)のみを基礎とし
て日本国籍の取得を認めるとすることは、生後認知された子をめ
ぐって種々の問題を生じさせかねないということもでき、そのこ
とをおもんぱかって、生後認知された子のうち、日本国民と生活
の一体化が生じている点において我が国との結び付きないし帰属
関係が強いものに限って、日本国籍を付与しようとする考えは、
その目的において一定の正当性を有するということができる。
そして、前示のように、父母が婚姻していない場合には、一般
論として、日本国民である親を含む生活の一体化が認められない
場合が多いであろうから、国籍法3条1項が、生後認知された子
のうち、父母の法律上の婚姻という要件も加わったものに限って、
我が国との結び付きないし帰属関係の強いものとして、日本国籍
を付与しようとすることには、一定の論拠はあるということがで
きる。
(2)アしかしながら、日本国民の子であって、生後認知により法律
上の親子関係も認められることとなった非嫡出子のうち、我が
国との結び付きないし帰属関係の強いものに限って、日本国籍
を付与しようとする場合には、前示のとおり、国籍法が父母両
系血統主義に拠って立っていること及び日本国民の法律上の子
であると認められながら日本国籍を取得することができないと
いう不利益の深刻さと区別の大きさに照らすと、そのような別
異の取扱いをする理由には、一定の論拠があるなどにとどまら
ず、十分な合理性が認められなければならない。
イそして、そもそも、日本国籍の取得において、子が我が国と
強い結び付きないし帰属関係を有していること、具体的には日
本国民である親との家族関係や生活の一体化があることは、我
が国の国籍法において、国籍の取得のための重要な考慮要素と
されているということは困難である。すなわち、法律上の婚姻
関係があっても、勤務上の必要性や不仲等のために別居してい
れば、そもそも生活の一体化等は存しないわけであるし、また、
外国人との婚姻の場合、日本国外において婚姻し、そのまま国
外に居住しているときも多いであろうから、そのようなときは、
父母の婚姻により我が国との結び付きがあるということはでき
ないのであり、結局、生活の同一性や我が国との強い結び付き
ないし帰属関係がなくとも、国籍法2条1号により出生による
国籍の取得が認められたり、同法3条1項による届出による国
籍の取得が認められることがあるのである。
逆に、上記のような生活の同一性や我が国との強い結び付き
等の事情のみがあっても、日本国民と血がつながっていないな
ら、同法2条又は3条による国籍取得の余地がないことはいう
までもないところである。
そうすると、国籍法の解釈上、このような我が国との強い結
び付きないし帰属関係や、日本人の親との家族関係ないし生活
の一体化等を、父母両系血統主義と並び立つような重要な理念
と位置付けることは相当でないというべきである。
ウまた、確かに、子にとって、日本国民である父と母が法律上
の婚姻をしているということは、その日本国民である父との生
活の一体化や、ひいては我が国との強い結び付きないし帰属関
係の存在をうかがわせる大きな要素ということができ、加える
に、民法が、準正子である未成年の子は、その準正のときから
当然に母と共に父の親権に服することを予定していることから
すれば、法律上は、準正子の父子関係が非準正子の場合より強
いということもできないわけではない。
しかしながら、そもそも、法律上の婚姻関係のある場合であ
っても、前示したように、勤務上の必要性や不仲等のために別
居していれば、生活の一体化等はないわけである。また、外国
人との間の子供については、日本国民である父が海外に滞在し
ている時に生まれた子供も多いであろうところ、外国で生まれ、
その後も海外に居住し続けているような子供については、日本
国民である父との生活の一体化があったとしても、我が国との
結び付きが強いとは必ずしもいえないことは明らかである。さ
らにいえば、準正子の場合でも、父母が婚姻届を提出した事実
があれば足りるのであるから、そもそも父母が同居していない
が、国籍を得させるために婚姻届を提出したときや、あるいは、
父母が婚姻届を提出した後に離婚したときも含まれるのであっ
て、このようなときも、国籍法3条1項は、届出による日本国
籍の取得を認めているのである。
他方、父母が婚姻していない非嫡出子であっても、法律上の
配偶者が別にいる場合の離婚の困難さや、婚姻についての考え
方の多様化に照らすと、法律上の婚姻がなくとも、日本国民で
ある親を含む家族関係や生活の一体化が実現していたり、日本
国民である父による養育監護も受けていることも何ら珍しいこ
とではないのである。このような場合は、非嫡出子であっても、
我が国と強い結び付きがあるということができる。また、日本
在留中の外国人の母と日本国民である父との間の子は、日本で
生まれ、その後も継続して日本で育っていることが多いであろ
うから、そのような場合などには、日本国民である親との生活
の同一化がなくても、日本人の親と緊密な親子関係があったり、
我が国との強い結び付きや帰属関係を肯定し得るときもあると
予測することは極めて容易なことである。
エそして、今日、国際化が進み、価値観が多様化して家族の生
活の態様も一様ではなく、それに応じて子供との関係も様々な
変容を受けていることからすると、法律上の婚姻という外形を
採ったかどうかということのみによって、父子関係の緊密さや
生活の一体化、まして、それによる我が国との結び付きや帰属
関係の強さを一律に判断することは、現実に符合しないという
べきである。
オさらに、前述したように、非準正子については、出生後外国
とのつながりの強くなる者もあり得る点については、国籍法3
条1項は、当然に国籍を取得する制度ではなく、届出により国
籍を取得することができる制度であることや、二重国籍につい
ては、選択をしなければならないこと(同法14条から16条
まで)に照らすと、この問題を過大視することは相当ではない。
カまた、被告は、準正子の場合には、父と子の親子関係が非準
正子ないし非嫡出子より強いとし、その根拠として、出生子全
体に占める非嫡出子の割合がわずかであることを挙げるが、出
生子全体に占める非嫡出子の割合が1.5パーセントにすぎな
いからといって、このことから直ちに、非嫡出子の父子関係や
生活の同一化が希薄であるとか、我が国との強い結び付きない
し帰属関係がないと推認することはできない。
キまた、前記国籍法改正の経緯及び甲第7号証によれば、日本
国民である父の認知による国籍取得を認めていた旧国籍法を改
め、改正前国籍法が認知による国籍取得を否定したのは、国籍
を取得する本人、すなわち子の意思を尊重するという趣旨から
であって、認知を受けたのみでは、子が我が国と強い結び付き
ないし帰属関係を有しないという理由からではなかったことが
認められる。
(3)以上によると、認知による国籍取得の制度においては、現在で
は、我が国との強い結び付きないし帰属関係を要求することの合
理性は高いものと評価することはできず、かつ、そのような我が
国との強い結び付きないし帰属関係があるものと認める指標とし
て日本国民である親との生活の一体化を求め、これを父母の法律
上の婚姻関係があることを一律に要求することによって法定化し、
これをもって国籍を取得することができるか否かの区別を設ける
ことは、前述したような非嫡出子の受ける不利益の深刻さと取扱
いの区別の大きさに照らすと、それを裏付けるほどの合理性を有
するものではないというべきである。
被告の前記(一)の主張は、採用することができない。
5法律婚の尊重
(一)被告は、家族関係に関する我が国の伝統、社会事情、国民の意
識等を考慮して、法律婚を尊重するという基本理念に基づき、嫡出
子と非嫡出子とは、種々異なる取扱いを受けており(民法790条
2項、819条4項、900条4号ただし書)、嫡出子と非嫡出子
との間で異なる扱いをすること自体は不合理なものではない旨主張
する。
(二)そこで検討するに、この点、民法は、その790条2項におい
て、「嫡出でない子は、母の氏を称する。」と定め、819条4項
において、「父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親
権者と定めたときに限り、父が行う。」と定め、900条4号ただ
し書において、「ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子
の相続分の2分の1とし・・・(以下省略)」と定めており、家族関係
に関する我が国の伝統、社会事情、国民の意識等を考慮して、法律
婚を尊重するという基本理念に基づき、嫡出子と非嫡出子の間に種
々の異なる取扱いを設けている。
そして、このような取扱いが必ずしも不合理なものでないことは、
最高裁判決等において繰り返し述べられているところである(平成
7年最高裁決定、平成12年最高裁判決、平成15年3月28日最
高裁判決、平成15年3月31日最高裁判決、最高裁平成16年
(オ)第992号同年10月14日第一小法廷決定・裁判所時報13
73号3頁(以下「平成16年最高裁決定」という。))。
(三)(1)アしかしながら、上記のような日本国内における民法上の取
扱いの差異とは異なり、非嫡出子が、両親が婚姻していないが
ゆえに日本国籍を取得することはできないとすることは、両親
が婚姻している嫡出子に比して明らかに不利益な取扱いであり、
かつ、基本的人権の保障を受ける上でも、また、日本国内にお
いて現実に生活を送る上でも、重大な障害となることは明らか
である。日本国籍を認められた上で民法上の取扱いの差異が生
じることと、そもそも日本国籍が認められないことは、全く問
題を異にするものであり、前者において法律婚の尊重の観点か
ら合理的な理由があるからといって、後者においては優れて子
供自身の問題なのであるから、その両親についての法律婚の尊
重という観点から合理的な説明を行い得るとすることはできな
いといわざるを得ない。
イそして、前述のとおり、国籍法は父母両系血統主義を採って
おり、これを徹底し、同法2条1号をいわば拡充する規定であ
る同法3条1項についてもこれが妥当することは明らかである
から、法律婚の尊重という点は、国籍法を支配する指導原理の
一つと位置付けることはできないといわざるを得ない。このこ
とは、既に同法2条1号においては、両親が婚姻しないままに
出生した非嫡出子であっても、母が日本国民である場合及び日
本国民である父が胎児認知をした場合には国籍を取得し得るこ
とからも明らかである。さらに、国籍法は、日本国籍の取得に
ついて、父又は母が日本国民である子は日本国民であるとする
扱いが我が国の国民感情に合致していることを前提に父母両系
血統主義を採用したことは、前述のとおりであるが、本件全証
拠を精査しても、少なくとも現在において、父母が法律上の婚
姻をしていない限り、非嫡出子には届出による国籍の取得を認
めないという形で、国籍法の分野においても法律婚の尊重を重
視することが我が国の国民感情に合致していることを認めるに
足りる的確な証拠は見当たらない。
ウまた、前述のとおり、国籍の取得は、基本的人権の保障を受
ける上で重大な意味を持つものである。ところが、子にとって、
出生の時に、父母が婚姻しているか否かは、全くの偶然のこと
にすぎず、個人の意思や努力によっていかんともし難いもので
ある。そして、認知については、非嫡出子の側から強制的に認
知の訴え(民法787条)によって求めることができるのに対
し、父母の婚姻を非嫡出子の側から求める手段は現行法上存在
しないのである。そうすると、両親がその後婚姻したかどうか
といった、非嫡出子が自らの力によって決することのできない
ことによって、日本国民との法律上の親子関係の認められる子
供の国籍取得の有無という重大な事項について、大きな区別を
設けることには、極めて慎重であるべきである。
エ以上によると、国籍法において重要な指導原理となっていな
い法律婚の尊重の点をとらえて、前述のような非嫡出子の不利
益な取扱いを正当化することはできないというべきである。
(2)ア次に、日本国内における民法上の取扱いの差異について検討
するに、確かに民法790条、819条、900条等において、
子の氏、親権者、相続分等について嫡出子と非嫡出子とで異な
る取扱いをする旨の定めを置いているが、他方、扶養義務の存
否等(同法877条等)については、両者の区別を設けていな
い。そうすると、民法においても、嫡出子と非嫡出子とは、あ
らゆる局面において区別した取扱いがされているわけではない。
また、この両者を、あらゆる局面において区別した取扱いをす
るのが我が国の国民感情や社会通念に合致するというべき根拠
も見当たらない。したがって、結局、それぞれの局面に応じて、
嫡出子と非嫡出子とで区別した取扱いをすることに合理的な理
由が存するのかどうかを検討していくほかない。
イまた、そもそも、民法790条2項及び819条4項につい
ては、子の氏や親権者は、子の出生に当たって必ず決めなけれ
ばならないものである一方で、それを母の氏とする、あるいは
母の親権に服するとしても、差し当たり子にとって著しい不利
益はないということができる。しかも、子の氏については、家
庭裁判所の許可を経て変更することができ(同法791条1
項)、また、親権者についても、事後に協議により若しくは家
庭裁判所の決定によって変更することが可能とされているので
あるから(同法819条4項ないし6項)、これらの点におい
ても、子にとって著しい不利益はないということができ、本件
で問題とされている国籍の取得の差異とは、その程度が異なる
というべきである。
ウまた、民法900条4号ただし書は、非嫡出子にとって実質
的に不利益なものであるものの、嫡出子と非嫡出子のそれぞれ
の立場を考慮し、両者の利害を調整した規定である。これに対
し、国籍法3条1項の場合は、非嫡出子の国籍取得を認めるこ
とによって、嫡出子の利益が害されるという関係にはなく、両
者間の利害調整は問題にならない。したがって、両者は全く別
次元の議論というべきである。さらに、民法900条4号ただ
し書は、法律婚を尊重するために非嫡出子を一律に排除するも
のではなく、上記の立法趣旨に基づき、非嫡出子の相続分を嫡
出子の2分の1とすることによって両者の利害を具体的に調整
しているのに対し、国籍法は、日本国民である父から生後認知
を受けたにとどまる非準正子を国籍取得の機会から一律に排除
している点でも、両者の場合を同一に論ずることはできない。
エ以上によると、嫡出子と非嫡出子とで、民法上の取扱いの差
異がある場合があることを理由として、国籍法上の取扱いの差
異を正当化することができるわけではない。
(3)アさらに付言すると、一般論としていえば、嫡出子と非嫡出子
の法制度上の平等化は、時代のすう勢であるともいえる。
イ例えば、法務省民事局参事官室は、平成7年最高裁決定に先
立つ平成6年7月の民法改正要綱試案において、嫡出子と非嫡
出子の相続分の平等化を提案している。また、平成7年最高裁
決定の合憲判断にもかかわらず、平成8年2月に法制審議会が
答申した民法改正の法律要綱案では、なお、平等化が盛り込ま
れているのである(甲13)。
ウまた、自治省(現在の総務省)は、平成6年12月、住民票
の世帯主との続柄において、「嫡出子と非嫡出子」、「実子と
養子」をすべて「子」と改正し、これは平成7年3月1日から
施行されている(甲13)。
(四)以上によれば、我が国の法制度上、法律婚を尊重するという基
本理念に基づいて嫡出子と非嫡出子の間に種々の異なる取扱いが設
けられているからといって、このことを理由として、国籍法3条1
項における準正子と非準正子との区別によって生ずる、日本国民で
ある父から認知を受けた非嫡出子の被る大きな不利益をも、法律婚
を尊重するという基本理念に照らし合理的な根拠に基づくものであ
ると説明することはできない。
6準正要件の基準としての客観性
(一)(1)被告は、法律上婚姻していない父母が法律上の婚姻と同様の
事実上の婚姻状態にある場合があるとしても、内縁関係の態様は
様々であり、いかなる場合に法律上の婚姻と同様の事実上の婚姻
状態にあると評価するかは一義的ではないとして、国籍法3条1
項が、客観的に該当性を判断することができる準正要件をもって
届出による国籍取得の要件としたことには十分な必然性があり、
合理性が認められる旨主張する。
(2)確かに、国籍取得の届出の実務において、客観的な基準を要求
する必然性が高いことは容易に想定し得る。しかし、これは、あ
くまでも、非準正子が日本国籍を取得するためには、日本国民で
ある父の認知のほかに、我が国との強い結び付きないし帰属関係
を生じさせる父母の婚姻関係が必要であるとする被告の主張を前
提にした議論であって、この前提を採用することができないこと
は、既に判示したとおりである。そもそも、届出による非嫡出子
の日本国籍取得に当たって婚姻要件を不要とすれば、被告の上記
懸念は生じないのであるから、被告の主張は、本判決の立場から
すれば、的を射ないものというべきである。
(3)また、仮に、非準正子が日本国籍を取得するためには、日本国
民である父の認知のほかに、我が国との強い結び付きないし帰属
関係を生じさせる何らかの要件が必要であると考えてみたとして
も、それが必ず父母の法律上の婚姻でなくてはならないことを論
証することは困難である。このことは、後述のとおり、諸外国に
は、準正要件ではなく、一定期間の養育等別の事実を要件として
いる国もあるのであって、この養育などはある程度客観的に認定
することが可能であることからも明らかである。
(4)以上によれば、準正要件を付加した場合には、前述のとおり、
準正子と非準正子との間に国籍の取得における大きな差異が生じ
ていることからすると、その基準が客観的であるという理由程度
をもって、準正要件の合理性を基礎付けることはできないという
べきである。
(二)(1)さらに、被告は、日本国民である父の非嫡出子のうち我が国
と密接な結び付きがあると認められる可能性のある者は、手続内
で個別具体的な事情の検討が予定されている簡易帰化による国籍
取得にゆだねるのが法制度として合理的である旨主張する。
(2)これについても、国籍の取扱いについて、父母両系血統主義に
加えて、我が国との強い結び付きないし帰属関係を生じさせる事
情が必要であり、かつ、それが父母の法律上の婚姻であるとする
被告の主張を前提にした議論であって、その前提を採り得ないこ
とは前述のとおりである。また、簡易帰化制度(国籍法8条)は、
通常の帰化制度(同法4条以下)よりも、居住条件が緩和され、
能力条件や生計条件が免除されるだけであって、前示のとおり、
一定の要件が求められ、かつ、許可制であって、法務大臣の裁量
に法定の限定が加えられているわけでもないのであるから、届出
のみによって国籍を取得することのできる国籍法3条1項の場合
とは大きく異なるといわざるを得ない。
(3)したがって、簡易帰化制度の存在を理由として、国籍法3条1
項によって生じる区別が合理的であるとすることはできない。
(三)以上によれば、やはり、準正という基準が客観的であるという
ことのみをもって、国籍法3条1項における準正要件の合理性を基
礎付けることはできない。
7偽装認知のおそれ
(一)被告は、婚姻の場合と異なり、認知の場合は、父には認知した
子と同居する法的義務すらなく、また、実際にも偽装認知か否かを
調査することは極めて困難であり、現実に、日本国籍を有する子の
監護養育者として我が国の在留資格を得て、我が国に不法に入国し、
滞在する目的で、子に日本国籍を取得させるための虚偽の認知が行
われているという社会的事実も存することにかんがみると、時間的
制約がある胎児認知に比して、期間制限のない生後認知の場合に、
偽装認知の危険性が飛躍的に高まることは明らかであるとして、偽
装認知の防止という観点からも、国籍法3条1項は、合理性を有す
るというべきである旨主張する。
(二)この点、乙第4号証の1及び2によれば、我が国に不法に入国
し、滞在するために、子に日本国籍を取得させるための虚偽の認知
が行われている例があることが認められる。
しかしながら、本件の全証拠を精査してみても、非準正子が日本
国籍を取得することができるようにするために国籍法3条1項にお
ける準正要件を不要とした場合に、虚偽認知の危険性が飛躍的に高
まることを示す的確な証拠は見当たらない。
また、虚偽の認知をした場合、認知者と被認知者との間で親子関
係が一応設定されるため、認知者においては扶養義務が発生するな
ど、相応の負担も覚悟しなければならず、また、戸籍簿に虚偽の事
実が登載されてしまうことになる上、公正証書原本等不実記載罪な
どの犯罪に問われることも覚悟しなければならない。したがって、
偽装認知は、認知者において何らの心理的物理的障害なくしてなし
得るものではない。そうすると、国籍法3条1項における準正要件
を不要とした場合に、虚偽認知の危険性が飛躍的に高まるという社
会的事実が認められるかどうかについては疑問が残り、直ちにこの
ように推認することはできないといわざるを得ない。
(三)また、そもそも、虚偽の認知による日本国籍の取得を防止すべ
きであるからといって、真実の認知についてまで国籍取得から排除
するのは、明らかに本末転倒であるといえる。
(四)さらに、虚偽の認知は、被告も是認するとおり、国籍法3条1
項を前提にした現在の国籍取得制度の下でも見られている病理現象
であり、非準正子の国籍の取得を排除しているからといって、胎児
認知を偽装したり、婚姻を偽装することによって、行い得るのであ
る。したがって、仮に、準正を要件としない生後認知による国籍の
取得を認めた場合に、偽装認知による我が国の国籍取得が生じ得る
からといって、これを理由に準正要件の合理性が説明されるわけで
はない。
(五)なお、付言すれば、仮に、被告が主張するように、国籍法3条
1項における準正要件を不要とした場合に虚偽認知の危険性が高ま
るとしても、これに対処するためには、虚偽認知を防ぐための手段、
例えば、胎児認知及び生後認知を問わず、偽装認知が判明した場合
の国籍の取消制度の明定、虚偽認知に対する特別な罰則の創設等が
考えられなくもない。やはり、虚偽認知の防止の観点からのみでは、
前述のように、準正子と非準正子との間に取扱いの大きな差異を生
じさせている準正要件の合理性を説明することはできない。
(六)以上によれば、虚偽認知のおそれをもって、国籍法3条1項に
おける準正要件の合理性を基礎付けることはできない。被告の前記
(一)の主張は、採用することができない。
8各国の法制度
(一)被告は、国籍の付与に関して、我が国のほかにも、父子関係以
外に父母の婚姻等を国籍取得の要件としている国が複数存在し、国
籍法3条1項の準正要件は、比較法的にみても不合理な区別を設け
たものということはできない旨主張する。
(二)甲第2、第3、第5及び第6号証、第11号証から第13号証
まで、乙第1、第2及び第5号証並びに弁論の全趣旨によれば、以
下の事実が認められる。
(1)昭和59年改正時における諸外国の国籍取得制度
昭和59年法律第45号による改正において準正による国籍取
得の制度を新たに設けるに当たっては、諸外国の国籍取得制度に
ついても検討されたが、当時、父母両系血統主義を採る諸国は、
認知によって国籍を取得する国(フランス)もあったが、認知で
は国籍を取得せず、未成年の間に準正子となった場合に限り、国
籍を付与する国(スイス、デンマーク、スウェーデン、ドイツ
等)の方が多かった。
(2)非準正子に関する最近の諸外国の国籍取得制度
アアメリカ移民及び国籍法(1952年6月27日法律)によ
れば、アメリカ国籍を有しない非嫡出子は、アメリカ国民であ
る父との親子関係が形成され、子が18歳になるまでの間、当
該父が子に対して金銭的援助を行うことに書面で合意すること
によって、アメリカ国籍を取得する。
イ英国の1981年国籍法(1981年10月3日、1983
年1月1日施行)によれば、英国国籍を有しない子は、出生後、
英国人父から認知されても当然に英国国籍を取得することはな
く、登録、養子縁組及び父母の婚姻(準正)のいずれかを行わ
なければならないとされている。
ウフランス民法(1993年7月22日法律第93-933
号)によれば、フランス国籍を有しない子について、認知等に
よりフランス国籍を有する者との親子関係が確認された場合に
は、子は当然にフランス国籍を有し、その効果は出生時にさか
のぼると解されている。
エドイツ国籍法(1999年7月15日改正)によれば、ドイ
ツ国籍を有しない子についてドイツ人男との父子関係が確認さ
れた場合、子は、出生時にさかのぼって当然にドイツ国籍を取
得すると解されている。
オスウェーデン国籍法(2001年7月1日施行、2005年
7月1日改正)によれば、スウェーデン国内で出生した子につ
いて、出生後に、認知又は裁判手続等によりスウェーデン人父
との父子関係が確認された場合には、子は、出生日にさかのぼ
って当然にスウェーデン国籍を取得すると解されている。
なお、スウェーデン人父の非嫡出子で国外で出生したものは、
独身で18歳未満であれば、父母が婚姻し準正子となることに
よって、スウェーデン国籍を取得すると解されている。
カデンマーク国籍に関わる統合法(2004年6月7日統合法
第422号)によれば、両親が婚姻関係になく、かつ、父のみ
がデンマーク人である子の場合には、子がデンマーク国内で出
生した場合に限り、デンマーク国籍を取得する旨が規定されて
いる。
なお、デンマーク人父の非嫡出子で国外で出生したものは、
独身で18歳未満であれば、父母が婚姻し準正子となることに
よって、デンマーク国籍を取得すると解されている。
キノルウェー国籍法(2005年6月10日制定、2006年
9月1日施行予定)によれば、ノルウェー国籍を有しない非嫡
出子について、出生後に、認知又は裁判手続等によりノルウェ
ー人父と父子関係が確認された場合には、子は、出生した時点
で当然にノルウェー国籍を取得すると解されている。
クオーストリア公民権法によれば、オーストリア公民権を有し
ない未成年(18歳未満)かつ独身である者が、認知又は裁判
手続等により、オーストリア公民との父子関係が確認された場
合には、認知された時からオーストリア公民権を取得すると解
されている。
ケオランダ国籍法(1985年1月1日施行、最終改正200
3年4月1日)によれば、オランダ国籍を有しない子について、
出生後にオランダ人父から認知された場合には、2003年4
月1日のオランダ国籍法改正前においては、子は当該認知によ
って当然にオランダ国籍を取得することとされていたが、同改
正以後は、認知により当然にはオランダ国籍を取得しないこと
とされ、この場合には、当該子が未成年者(18歳未満)であ
る間に、認知したオランダ人により3年間養育された場合に、
当該子の法定代理人がオランダ国籍を選択する宣言をすること
によりオランダ国籍を取得することができることとされた。
コスイス国籍法(2006年1月1日施行)によれば、旧法下
での準正要件を廃止し、スイス人父と婚姻関係にない母の外国
人の子は、父と密接な関係があることを根拠に、あたかも出生
のときに取得したように、スイス国籍を取得するとされている。
サスペイン民法によれば、スペイン国籍を有しない子について、
出生後に、認知又は裁判手続等によりスペイン人父との父子関
係が確認された場合には、子は、出生時にさかのぼって当然に
スペイン国籍を取得すると解されている。
シギリシャ国籍法(2004年11月10日法律第3284
号)によれば、ギリシャ人父に認知された未成年(18歳未
満)の子は、ギリシャ国籍を取得するとされ、この場合、子は
認知の日からギリシャ国籍を取得すると解されている。
スベルギー国籍法(1984年6月28日国籍法)によれば、
非準正子は、準正がなくとも、ベルギー国籍を取得することが
できると解される。
セイタリア国籍法(1992年法)によれば、非準正子は、準
正がなくとも、イタリア国籍を取得することができると解され
る。
ソトルコ国籍法(1964年2月11日法律第403号、19
81年2月13日法律第2383号改正)によれば、トルコ人
父から認知された子は、出生時から当然にトルコ国籍を取得す
るものと解される。
タ大韓民国においても、無国籍又は6か月以内の現国籍の喪失
を条件として、認知による国籍取得が認められている。
(三)(1)以上によれば、最近の諸外国の国籍取得制度において、生後
認知に遡及効を認め、出生からの国籍取得を認める国は、スウェ
ーデン、デンマーク、フランス、ドイツ、スペイン及びトルコが
あり、生後認知に遡及効を認めず、認知のときから国籍取得を認
める国として、ノルウェー、オーストリア及びギリシャがあり、
その他、ベルギー、イタリア及び大韓民国も準正なくして非準正
子の国籍取得を認める。そして、これらの他に、認知に加えて養
育条件や密接な関係などの他の要件も必要とする国として、アメ
リカ、オランダ及びスイスがある。これに対し、準正ないしこれ
に近いものを要件とする国は、証拠上判明しているのは英国のみ
であることが認められる。
また、昭和59年改正当時に準正を要件としていながら、最近
ではこれを要件としない国として、スイス、デンマーク、スウェ
ーデン及びドイツがあることも認められる。
(2)以上によると、最近の諸外国の国籍取得制度においては、非嫡
出子に対し、国籍取得のために準正要件を要求する国は少数であ
って、準正要件を必要としない国の方が多数存在し、かつ、それ
が増える傾向にあることが認められる。
そうすると、非嫡出子に対する国籍付与において準正要件を要
求する国が我が国のほかにも存在することは確かであるが、その
ことをもって、国籍法3条1項の準正要件が、比較法的に見て、
不合理な区別を設けたものということはできないと論証すること
はできない。よって、被告の前記(一)の主張は、にわかに採用す
ることができない。
なお、付言するに、国籍の得喪に関する要件をどのように定め
るかは、それぞれの国の歴史的事情、伝統、環境等の要因によっ
て左右されるものであって、準正を国籍取得の要件としない国が
多数存在するからといって、我が国でも直ちに多数派にならって
準正要件を廃止しなければならないというものではない。しかし
ながら、準正要件を要求していない国の方がはるかに多数派であ
るということは、もはや諸外国の例をもって、準正要件の合理性
を基礎付けることはできないことを意味するものであり、さらに
は、準正要件の必要性について慎重な検討が必要であることをう
かがわせるものであるということができるのである。
9条約等との関係
(一)女子差別撤廃条約について
(1)原告らは、女子差別撤廃条約について、夫婦の間から生まれた
子供の国籍のみならず、非婚の男女から生まれた子供の国籍につ
いても、両性の平等が実現されなければならない旨述べ、国籍法
3条1項が女子差別撤廃条約に違反する旨主張する。
(2)しかし、女子差別撤廃条約9条1項前段は、「締約国は、国籍
の取得、変更及び保持に関し、女子に対して男子と平等の権利を
与える。」と、同条2項は、「締約国は、子の国籍に関し、女子
に対して男子と平等の権利を与える。」とそれぞれ定めるものの、
これは、あくまで女子又は母に対して子の国籍取得の際に、男子
又は父の場合と同様の権利を与えることを要求するものであって、
国籍取得の要件につき血統主義を採用する場合には、父母両系血
統主義を要請しているということはできるものの、それ以上に、
法律上の夫婦の間から生まれた子供と、そうではない男女から生
まれた子供の平等や、非婚の男女から生まれた子供の国籍の取得
について、日本国民である父に対しても、日本国民である母の場
合と同様に取り扱うべきことまでも要求するものと解することは
できない。
(3)よって、原告らの前記(1)の主張は、女子差別撤廃条約の裁判
規範性を検討するまでもなく、採用することができない。
(二)B規約について
(1)原告らは、B規約24条1項が、「すべての児童は、人種、皮
膚の色、性、言語、宗教、国民的若しくは社会的出身、財産又は
出生によるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要
とされる保護の措置であって家族、社会及び国による措置につい
ての権利を有する。」と定めていることをもって、国籍法3条1
項がB規約に違反する旨主張する。
しかしながら、同項は、あくまで「未成年者としての地位に必
要とされる保護の措置であって家族、社会及び国による措置」に
おける差別の撤廃を求めているものであり、国籍取得の場面にお
いて、非嫡出子に嫡出子と同一の地位と権利を与えることまでも
要請しているものと解することはできない。
(2)また、原告らは、B規約24条3項についても言及している。
しかし、同項は、「すべての児童は、国籍を取得する権利を有す
る。」と定めているのであって、これは、子供が無国籍となるこ
とを防止する目的で規定されたものであり、締約国に対してその
領域内で生まれたすべての子供にその国の国籍を与えることを義
務付けているわけではないと解するのが相当である。
(3)よって、原告らの前記(1)及び(2)の主張は、B規約の裁判規範
性を検討するまでもなく、採用することができない。
(三)児童の権利に関する条約について
(1)原告らは、国籍の取得における非嫡出子の差別は、児童の権利
に関する条約2条及び7条に違反しているので、国籍法3条1項
は児童の権利に関する条約に違反する旨主張する。
(2)アこの点につき、児童の権利に関する条約2条1項は、「締約
国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若し
くは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意
見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、
心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もな
しにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。」と規定
し、また、同条2項は、「締約国は、児童がその父母、法定保
護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念に
よるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保す
るためのすべての適当な措置をとる。」と規定する。
イしかしながら、児童の権利に関する条約2条1項については、
非嫡出子に関して、明示の定めを欠いており、少なくとも、国
籍の取得という局面における嫡出子と非嫡出子との取扱いの違
いについてまで規定していると解することはできない。また、
同条2項にいう「地位」については、これが「活動」、「表明
された意見」及び「信念」と同列に並べられていることにかん
がみると、これは、父母が特定の政党の構成員であるなどとい
った「政治的・社会的地位」を意味すると解するのが素直であ
り、父母が法律上の婚姻関係にあるか否かなどといった身分的
・親族的地位を指すと解することは困難である。
ウよって、これらの規定が、国籍取得における嫡出子と非嫡出
子との取扱いの違いについてまで規定していると解することは
できない。
(3)また、児童の権利に関する条約7条1項は、「児童は、出生の
後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及
び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその
父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」と
規定し、また、同条2項は、「締約国は、特に児童が無国籍とな
る場合を含めて、国内法及びこの分野における関連する国際文書
に基づく自国の義務に従い、1の権利の実現を確保する。」と規
定している。しかし、これらの規定は、無国籍児童の一掃を目的
としたものであり、無国籍児ではない非嫡出子に対して締約国の
国籍を付与することを締約国に義務付けたものとまで解すること
はできない。
(4)よって、原告らの前記(1)の主張は、児童の権利に関する条約
の裁判規範性を検討するまでもなく、採用することができない。
(四)自由権規約委員会及び児童の権利委員会の懸念について
(1)原告らは、自由権規約委員会一般的意見、児童の権利委員会の
英国の新国籍法に対する最終所見、自由権規約委員会の日本政府
の第4回報告書に対する最終所見及び児童の権利委員会の日本政
府の第2回報告書に対する最終所見を挙げて、国籍法3条1項が
B規約及び児童の権利に関する条約に違反していることの根拠と
なる旨主張している。
(2)この点につき、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ
る。
ア自由権規約委員会の一般的意見17は、「子供に対して保障
されるべき保護については、さらに、24条3項に規定された
子供の国籍取得権にも特別な注意を払うべきである。たしかに、
この規定の目的は、子供が無国籍であることを理由として、社
会及び国家の保護が少なくならないようにすることであるが、
国家に対して、必ずしも自国の領域内で生まれたすべての子供
に、国籍を付与する義務まで負わせたものではない。しかし、
国家は、すべての子供が出生の時に国籍を取得することを確保
するために、国内法及び他国との協力関係によって、あらゆる
適切な措置を採ることを求められている。これに関連して、国
内法では、国籍の取得についての差別、たとえば、嫡出子と非
嫡出子の差別、無国籍の親から生まれた子供の差別、一方又は
双方の親の国籍に基づく差別は許されない。子供が国籍を取得
することを確保するために採った措置は、つねに締約国の報告
書に記載されるべきである。」と述べている。
イ児童の権利委員会は、英国の現行国籍法に対する最終所見と
して、「差別の撤廃に関する条約2条について、本委員会は、
その履行を確保するためにとられた措置が不十分であることに
懸念を表明する。とりわけ、非婚の父が子供に国籍を承継させ
る際に適用される制限は、条約7条及び8条に違反しており、
それが子供に与えるおそれのある弊害に懸念がある。」旨述べ、
また、提案及び勧告として、「国籍及び出入国管理に関する法
令並びに手続が、本条約の諸原則及び諸規定に適合するように、
再検討することを提案したい。」旨述べている。
ウ自由権規約委員会は、日本政府がB規約40条1項(b)に基
づき行った第4回報告中、B規約24条に関して、国籍法にお
ける非嫡出子差別に対する懸念を表明した。
エ児童の権利委員会は、日本政府が児童の権利に関する条約4
4条1項(b)に基づき行った第2回報告中、児童の権利に関す
る条約第7条に関して、日本国民である父と外国人母の非嫡出
子が胎児認知を受けなければ日本国籍を取得することができな
いことに対し、懸念を表明した。
(3)しかしながら、そもそも、自由権規約委員会及び児童の権利委
員会の各国政府からの報告書に対する最終所見や、前記(2)アの自
由権規約委員会の一般的意見は、締約国の国内的機関による条約
解釈を法的に拘束する効力は有しないものであり、もとより我が
国の裁判所による条約解釈を法的に拘束する効力を有しているも
のではない。
また、前記(2)イについては、英国の国籍法に対する児童の権利
委員会の最終所見であり、これは我が国の国籍法3条1項が児童
の権利に関する条約に違反するかどうかについて直ちに影響を及
ぼすものではない。
さらに、日本政府の勧告に関係する前記(2)ウ及びエについても、
国籍法における非嫡出子差別などについて懸念が表明されている
ものの、これらはいずれも我が国の国籍法の規定が条約に違反す
るとまで断言するものではない。
(4)以上によると、原告らの前記(1)の主張は、採用することがで
きない。
10小括
以上によると、①国籍法3条1項が準正を国籍取得の要件とした部
分は、日本国民を父とする非嫡出子に限って、その両親が婚姻をしな
い限り、法律上の親子関係が認められても、届出により日本国籍を取
得することができないという、非嫡出子の一部に対する大きな区別と
不利益をもたらすこととなり、②同項が準正要件を設けた理由は、国
籍取得のために、当該非嫡出子と我が国との強い結び付きないし帰属
関係の存在を要求し、これを認めるための指標として、日本国民であ
る父との家族関係ないし生活の同一性を想定し、これを法律上の婚姻
という要件として定めることによって、法定化したものと考えられる
ところ、③国籍取得のために子と我が国との強い結び付きないし帰属
関係を要求することは、我が国の国籍法上、父母両系血統主義と並び
立つような重要な理念であるということはできず、④また、法律上の
婚姻の成否によって、日本国民である父との生活の同一性の有無を一
律に判断したり、生活の同一性の有無によって、我が国との強い結び
付きや帰属関係の有無を一律に基礎付けることもできず、⑤法律婚の
尊重、基準の客観性、偽装認知のおそれ及び各国の法制度という観点
から見ても、いずれも上記区別を十分合理的に根拠付けることはでき
ないというべきである。
そうすると、前述したこのような区別によって非準正子の被る不利
益の深刻さや、区別の大きさ等にかんがみると、この区別は、合理的
な根拠に基づくものであるとはいえず、憲法14条1項に反する不合
理な差別であるといわざるを得ない。
そこで、以下においては、以上の認定判断を前提にした上で、具体
的に国籍法3条1項が違憲となる範囲について、さらに審究すること
とする。
11国籍法3条1項が違憲となる範囲
(一)前示のとおり、国籍法3条1項の基本的思想とは、(1)国籍法が
基調とする父母両系血統主義を前提として、出生後に日本国民であ
る父と法律上の親子関係があると認められるに至ったものの、出生
時には、これが認められなかったために、同法2条1号によっては
日本国籍を付与されなかった日本国民の実子について、父母両系血
統主義を徹底、拡充するため、届出によって日本国籍を取得させよ
うとしたものであり、(2)ただ、同じ日本国民の実子であっても、父
親から認知を受けたにすぎない非嫡出子の場合は、父親と生活上の
一体性を欠き、家族としての共同生活が認められないのが通常であ
って、そのため我が国との結び付きも強いものとはいえないという
理由で、国籍付与の対象から除外したものであると理解することが
できる。そして、既に判示したところによれば、このうち、上記
(1)の部分には合理性があるということができるが、上記(2)の部分
には合理性があるということはできないことになる。
(二)そこで、上記(一)(1)の部分と上記(一)(2)の部分とが不可分一
体のものか否かについて検討するに、国籍法3条1項の要件のうち、
上記(一)(1)と上記(一)(2)の立法者意思に対応する部分、すなわち、
後者の準正要件と前者のその余の要件については、本来的、論理的
には可分なものである。
そうすると、法律の規定は、できるだけ合憲的に解釈すべきであ
るから、同項のうち、一部を違憲無効と解することで足りるのであ
れば、そのように解するにとどめるのが相当であるというべきであ
る。
しかるところ、既に判示したところによれば、国籍法3条1項の
全部を合憲有効と解することはできない。他方、同項の全部を違憲
無効とすれば、出生時に法律上の親子関係が認められる場合の国籍
の取得が認められるのみで、血統主義を採りながら、出生後に法律
上の親子関係を認められた子の国籍取得の余地は全くなってしまう。
そして、前示のとおり、生後認知を出生後の事由として国籍の取得
原因とすることには合理性があることや、既に認定判断してきたと
ころによれば、国籍法3条1項を制定した立法者の最大の眼目は、
国籍取得の要件を拡大して、父母両系血統主義を拡充し、日本国民
の実子は日本国籍を得られるであろうという国民的な期待にこたえ
ることにあったと考えられることに照らすと、その拡大、拡充に不
十分な点があるからといって、国籍法3条1項の全部を違憲無効と
解することは不合理であり、むしろ立法者の意思に反するというべ
きである。そうすると、国籍法3条1項を制定した立法者の意思は、
前記(一)(1)の部分と前記(一)(2)の部分とを不可分一体のものとし
て国籍法3条1項を制定することにあるのではなく、前記(一)(1)の
部分と前記(一)(2)の部分とは可分であると解すべきである。
このように考えると、前示のとおり、国籍法3条1項は、父母両
系血統主義を採る同法2条1号による国籍の付与を更に拡充する規
定であり、同号は法律上の親子関係を要求するものの、父母の婚姻
関係まで要求していないことにもかんがみれば、同法3条1項にお
ける中核的な要件は、前記(一)(1)の部分、すなわち日本国民である
父又は母から認知された子という部分(条文の文言としては、「認
知により・・・(中略)・・・身分を取得した子」と同項後段の部分)で
あって、前記(一)(2)の部分、すなわち準正要件は、重要ではあるも
のの、中核的なものではないと解するのが相当である。
以上によれば、上記両部分が本来的に可分であり、準正要件につ
いては合理性が認められず、また、準正要件は中核的なものではな
いと解される以上、国籍法3条1項のうち、準正要件を定める部分
のみを違憲無効と解すべきである。
仮に、このような規定の一部分の違憲無効を認めないとすると、
国籍法3条1項が憲法14条1項に違反して無効であるとしても、
非準正子たる原告らの国籍が認められる余地はなくなってしまい、
原告らは、同項全体が違憲無効であるとして被告の立法不作為を争
うしかなくなるが、これは余りに迂遠であり、結局、原告らに対し
実質的な救済までの道を長くすることとなり、相当とはいえないと
考える。
12結論
以上によると、国籍法3条1項の規定は、準正要件を定める部分、
すなわち条文の文言でいえば、「婚姻及びその」並びに「嫡出」の部
分に限って憲法14条1項に違反し、違憲無効であるというべきであ
る。
二争点2(国籍法3条1項の届出要件の充足)について
1被告は、原告P1及び原告P10については、本件において国籍取
得に関する届書を提出したとはいえない旨主張する。
また、被告は、両原告以外の原告らについては、届書に準正要件を
欠いているから記載内容に不備があり、準正要件を満たしていること
を証する書面を添付しなかったのであるから、適法な届出があったと
は認められない旨主張する。
2(一)しかしながら、前記前提となる事実、甲イ第3号証、甲ハ第3
号証及び弁論の全趣旨によれば、原告P1及び原告P10は、親権
者母及び弁護士と共に日本国籍の取得を届け出たところ、準正要件
を欠くとの理由から届書が受理されなかったことが認められる。し
かるところ、前述のとおり、同項の準正要件は違憲無効であるから、
同届書は受理されるべきであったというべきであって、原告P1及
び原告P10は、受理されるべき届書を提出して、届出に必要な行
為を行ったということができる。
(二)また、前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、原告P
1及び原告P10以外の原告らは、親権者母と共に日本国籍の取得
を届け出たところ、準正要件を欠いたため、同届出が日本国籍取得
の条件を備えているとは認められない旨通知されたことが認められ
る。しかるところ、上記(一)と同様に、国籍法3条1項の準正要件
が違憲無効である以上、届書に準正要件を満たしていることの記載
がなく、また準正要件を満たしていることを証する添付書類がなく
ても、同原告らの同届出は有効とされるべきであったと解すべきで
ある。
3以上によると、本件においては、原告らに関しては、有効な国籍法
3条1項の届出があったと認めることができ、国籍法上要求されてい
る届出要件に欠けるところはないということができる。
三結論
以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由があるからこれを認容
することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟
法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官菅野博之
裁判官鈴木正紀
裁判官岩井直幸
(別紙)
当事者の主張の要旨
一争点1(国籍法3条1項の合憲性)について
1原告らの主張
(一)国籍は、国家の構成員の資格を定めるものである。国籍を取得さ
せるかどうかについての要件を定めることは、国家の固有の権限に属
し、立法の広い裁量があることを肯定する立場を尊重したとしても、
国籍法3条が準正を非嫡出子の国籍取得の要件とした部分は、日本国
民を父とする非嫡出子に限って、その両親が出生後婚姻をしない限り、
帰化手続によらなければ日本国籍を取得することができないという非
嫡出子の一部に対する差別をもたらすこととなり、このような差別は、
その立法目的に照らし、十分な合理性を持つものというのは困難であ
り、憲法14条1項に違反する。
(二)国籍法制定に関する立法裁量について
(1)被告は、「国籍の取得に関する法律の要件における区別について、
憲法14条1項違反の問題を生じ得る場合は極めて限定されるとい
うべきである。」と主張し、その理由として、憲法は「いかなる者
を我が国の構成員とするかの具体的決定を、我が国の歴史的事情、
伝統、環境等の諸事情を総合考慮したところに基づく立法府の広範
な裁量にゆだねられている」と述べる。
(2)しかしながら、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たって立法
府に特別に広範な裁量権が認められているとの被告の主張は、憲法
上の根拠を有しない。
すなわち、国会の立法行為はすべて憲法の制限(特に、憲法13
条以下の基本的人権保障規定に基づく制限)の下にあるのであり、
「日本国民たる要件を定める法律」、すなわち国籍法も、全くの例
外ではない。国籍の得喪に関する基準を定める権限を国会が有する
ことは、憲法10条において規定されているとおりであるが、この
国籍の得喪の基準を定める法律の制定に当たって、立法府に他の一
般の立法行為に比べて特別に広範な立法裁量が認められているとす
る憲法上の根拠規定は存在しないし、かかる解釈も存在しない。被
告が指摘する、「国籍の得喪に関する基準を定めるに当たって様々
な事情を総合考慮しなければならない」という事情は、国籍法に特
殊固有の問題ではなく、およそすべての立法行為に共通の事情であ
る。また、そうであるからこそ、立法裁量が認められているのであ
る。殊更に国籍法の制定改廃についてのみ上記事情を強調し、他の
立法行為に比し、格段に広範な立法裁量が認められているとする被
告の主張は、何ら憲法上の根拠を有しないものである。
(3)のみならず、かかる主張は、判例の見解にも適合しないものであ
る。
すなわち、最高裁平成10年(オ)第2190号同14年11月2
2日第二小法廷判決(裁判所時報1328号1頁。以下「平成14
年最高裁判決」という。)は、憲法10条が「日本国民たる要件は、
法律でこれを定める。」と規定する趣旨について、「国籍は、国家
の構成員の資格であり、元来、何人が自国の国籍を有する国民であ
るかを決定することは、国家の固有の権限に属するものであり、国
籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは、それぞれの国の歴
史的事情、伝統、環境等の要因によって左右されるところが大きい
ところから、日本国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかを
法律に委ねる趣旨であると解される。」と判示した上で、「このよ
うにして定められた国籍の得喪に関する法律の要件における区別が、
憲法14条1項に違反するかどうかは、その区別が合理的な根拠に
基づくものということができるかどうかによって判断すべきであ
る。」としている。ここでは、国籍の得喪に関する要件を定めるに
当たっての立法府の裁量権が、他の立法に当たっての立法府の裁量
権と比較して、特に広範であるとの判示もされていないし、国籍法
の憲法14条違反について判断する合憲性判定基準が他の法律の場
合に比べ緩やかでよいとの判示もされていない。このように、国籍
法制定における立法裁量の範囲が特に広範であるとする被告の主張
は、最高裁判例にも沿わない独自の見解であって、採り得ないもの
である。
(4)国籍の取得は、基本的人権の保障を受ける上で重大な意味を持つ
ものであって、本来、日本国民を親として生まれてきた子供は、等
しく日本国籍を持つことを期待しているものというべきで、その期
待は、できる限り満たされるべきである。また、「嫡出子・非嫡出
子」の区別は、憲法14条1項後段の「社会的身分」に該当すると
ころ、同段列挙の事項については、原則としていかなる差別も禁止
される、あるいは、差別扱いの合憲性についてより厳格な基準によ
り判断されるべきである、とする見解も存在する。
このようなことも併せ考慮するならば、国家の根幹に関わる規定
である国籍法3条1項が憲法14条に適合するか否かの判定は、一
般の立法についての憲法14条適合性の判断よりむしろ厳格である
べきとの要請すらあるものというべきであり、緩やかでよいとする
被告の主張には何ら合理的な根拠は見いだせないのである。
(三)国籍法制の変遷とその要点
(1)国籍法の変遷
国籍法は、旧国籍法時代から以下のような変遷をたどっている。
ア1899年に制定された旧国籍法では、父系優先血統主義を採
り、「出生の時に父が日本国民であるとき」は、子は、日本国籍
を取得するとしていた。この「父」とは、法律上の父を指すもの
とされ、出生に基づく生来的国籍取得のためには、出生時に日本
国籍を有する父との法律上の父子関係が成立していることを必要
とし、認知の遡及効(民法784条)による生来的な国籍取得は
否定されていた。したがって、生来的な国籍取得が認められたの
は、嫡出子の場合及び非嫡出子が父から胎児認知をされた場合で
あった(補充的に、父が知れない場合において、出生の時に母が
日本国民であれば日本国籍を取得するとされていた。ただし、こ
の場合も、出生の時に法律上の親子関係の成立が求められ、日本
国民である母が胎児認知をしていなければ、子は日本国籍を取得
しないとされていた。)。
他方、旧国籍法は、生後認知による伝来的な国籍取得を認めて
おり(同法5条、6条)、その国籍取得には届出その他の行為を
要せず、認知のときに国籍を取得するものとされていた。
イ昭和25年に新たに制定された改正前国籍法では、父系優先血
統主義を維持しつつ、認知という父親の一方的行為によって、子
供の意思に基づかないで自動的に国籍の得喪を生じさせるのは、
個人の尊厳の原則に反するとして、旧国籍法の認知による国籍取
得を廃止した。その結果、父との血統に基づいて国籍取得が認め
られるのは、嫡出子の場合若しくは胎児認知を受けた場合に限ら
れることとなった。
ウ昭和59年の国籍法改正により、国籍取得に関する原則が、父
系優先血統主義から父母両系血統主義に移行した。同時に、準正
による国籍の伝来的取得を認める国籍法3条1項が新たに設けら
れた。同項の創設の必要性については、以下のような説明がされ
ている。
父母両系血統主義の下でも、国籍法2条1項の「父又は母」と
は、法律上の親子関係を有するものを指すされたため、民法の原
則(779条)の下では、日本国民である親が胎児認知をしない
限り、母親が日本国民であっても、生後認知によっては日本国籍
を取得することはできないこととなる。しかし、婚外子と母との
母子関係は、原則として母の認知を待たず、分娩の事実によって
当然に発生するとした最高裁昭和35年(オ)第1189号同37
年4月27日第二小法廷判決(民集16巻7号1247頁。以下
「昭和37年最高裁判決」という。)により、実際には、母が日
本国民である場合には、婚内子・婚外子を問わず、子は、必ず生
来的に日本国籍を取得することとなった。しかしながら、その結
果、非嫡出子の父が日本国民である場合には、胎児認知をした場
合を除き、出生等の事実に起因する国籍取得の可能性がないこと
とのアンバランスが顕著となった。特に、準正によって嫡出性を
取得した子について、生来的な(婚姻中の夫婦から生まれた)嫡
出子との対比及び日本国民である母の婚外子との対比において、
日本国籍を取得し得ないことの不均衡が著しいとして、これを是
正すべき必要性が示唆された。その結果、準正子について、届出
による伝来的国籍取得を認める国籍法3条1項が創設されるに至
ったのである。
(2)法制におけるポイント
ア以上のような旧国籍法から改正前国籍法を経て現在の規定に至
るまでの国籍法の変遷を見るならば、血統主義を採用する日本の
国籍法制において国籍の取得を規律する要因は、以下の点である
ことが明らかである。
①父系優先血統主義から父母両系血統主義への移行
②生来的国籍取得のためには、出生時において日本国民である
親との法律上の親子関係が成立していること
③国籍の浮動性の防止
④出生の場合を除いて、国籍を取得する本人の意思の尊重(子
の意思によらない国籍取得は認めないこと)
イ他方、出生後の国籍取得について、国籍法は準正(3条1項)
のほか、帰化(4条以下)、国籍の再取得(17条)を規定し、
旧国籍法の下では、認知による国籍の変動も認められており、出
生後の国籍の変動も、国籍法は当然に想定しているものである。
(四)生活の同一性について
(1)国籍法は、血統主義の内容として、自国民の家族関係への包摂
(生活の同一性)を要求していない。
被告は、血統主義に基づく出生による国籍の取得の根拠を、日本
国民を含む家族関係への包摂(生活の同一性)に求めている。しか
しながら、旧国籍法以来の日本の国籍取得に関する法制を見ても、
国籍法は、このような立場に立っていない。
(2)すなわち、生後認知による生来的な国籍取得は、旧国籍法以来一
貫して否定されてきたが、その理由は、単純に「国籍の浮動性の防
止」の要請にあり、「嫡出子と同様の日本国民である親との実質的
結合を有しない」という理由によるものではない。
他方で、旧国籍法においては、日本国民である父の認知による伝
来的な国籍の取得を認めており、日本国民である父と子との間の生
活の同一性は何ら要求されていなかった。また、改正前国籍法が認
知による国籍取得を否定したのは、前述のとおり、国籍を取得する
本人、すなわち子の意思を尊重するという趣旨からであって、認知
を受けたのみでは、子は日本国民を含む家族との生活の同一性を有
しないから、という理由からではない。
さらに、旧国籍法以来一貫して、日本国民である父から胎児認知
された婚外子は、父子間の生活の同一性の有無を問わず、一律当然
に日本国籍の生来的取得が認められていること、その理由は、単純
に、出生時において「父が日本国民」であるからであることも、婚
内子と婚外子に関する被告の主張するような「日本国民である父と
子の生活の同一性」による区別を国籍法が予定していないことを示
すものである。
(3)胎児認知制度について述べれば、同制度は、死後認知制度が認め
られる以前に設けられた制度であり、婚外子が出生する前に父が死
亡してしまい、子を認知することができない場合が生じることをお
もんぱかって設けられた制度である。死後認知制度が昭和17年の
民法改正によって設けられたことに伴い、胎児認知制度の本来的な
役割は半減したが、出生後に死後認知の裁判手続を経る必要がない
こと、父の死亡後、直ちに相続関係の処理ができることなどの点に
おいていまだに実益があると指摘されている。このように、胎児認
知制度は、父子の結合関係が強いことを基盤にして設けられた制度
ではなく、むしろ、出生時に父は死亡しているかもしれないという
不安定さから設けられた制度である。したがって、胎児認知を受け
た子とその父との間には、嫡出親子関係に準じた実質的な結合関係
があるなどの主張は、胎児認知制度の趣旨にも、また、その実情に
も反しているのである。
(4)これに対し、日本国民である母の子は、婚内子・婚外子を問わず
に常に日本国籍を取得することができる点を挙げて、「日本国民を
含む家族への包摂」ないし「日本国民を含む家族との生活の同一
性」は、なお要求されているとの主張もあり得る。
しかしながら、現行国籍法下で、日本国民である母の婚外子が当
然に日本国籍を取得することになったのは、前述したとおり、父母
両系血統主義と昭和37年最高裁判決の論理的帰結であり、要する
に、出生時における日本国民である母との母子関係の証明の確実性、
画一性にその根拠があるのであって、母子の結合関係が密接である
という理由からではないのである。例えば、出産後、母が新生児を
置き去りにして産院から立ち去ったとしても、母を特定することが
できる限り、子が日本国籍を取得することに何ら問題はない。もし
仮に、昭和37年最高裁判決が存在しなかったとしたら、日本国民
である母と子の間にいかに密接な結合関係、生活関係があったとし
ても、胎児認知をしていない限り、子は日本国籍を取得することは
できない。このことを考えれば、母子の結合関係の有無、強弱が日
本国民である母の婚外子に日本国籍の生来的取得を認める根拠とな
り得ないことは容易に理解することができる。
(5)以上のとおり、国籍法の立脚する血統主義は、日本国籍を有する
親との法律上の親子関係の存在をその内容とするものであって、日
本国籍を有する親との生活の同一性を要求するものではないことは、
旧国籍法以来の法制の検討及び現行法の解釈上明白であり、被告の
主張は、失当である。
(6)あるいは、被告は、準正子についてのみ、「日本国民を含む家族
関係への包摂」を求めるとするものであるかもしれない。
しかしながら、「日本国民を含む家族関係への包摂」をもって、
国籍法が立脚する血統主義の内実であるとするのであれば、以下の
矛盾が生ずることとなる。すなわち、国籍法2条1号と同法3条1
項とで血統主義の内容が異なるという見解は皆無であり、また、そ
のように生来的な国籍の取得と伝来的な国籍の取得とで異なる血統
主義に立脚しなければならない合理的な理由も存在しない。したが
って、国籍法3条1項と同法2条1号は、共通の血統主義に立脚し
た制度であることは明らかであり、やはり、同法3条1項について
のみ、「日本国民を含む家族関係への包摂」を要求することは、合
理的根拠がないものというべきである。
(7)ア被告は、厚生労働省の人口動態統計によれば、日本における出
生子に占める非嫡出子の割合は、1.5パーセントにすぎないと
している。
しかしながら、日本国民である母の非嫡出子が日本国籍を取得
することができることに争いがない(国籍法2条1号)ことから
も分かるように、嫡出子であるか否か、また、非嫡出子の割合が
多いか少ないかということ自体は、全く問題ではない。被告は、
国籍法3条1項が準正すなわち日本国民である父による認知に加
えて日本国民である父と外国人母の婚姻を要件としている理由と
して、単なる非嫡出子は、日本国民である父との生活の同一性が
ないが、準正によりこれが形成される結果、日本国との密接な結
び付きが生じる旨主張しているのであるから、非嫡出子とその父
親との生活の一体性が社会一般的に存在しないこと、及びこれが
準正によって初めて形成されることという社会的事実の存在が国
籍法3条1項を裏付ける立法事実となる。しかるに、被告からは、
かかる立法事実が存在することを示す何らの主張・立証もされて
いない。
イ他方、原告らにおいても、かかる立法事実の有無について調査
を行ったが、調べる限り、嫡出子と非嫡出子、あるいは非嫡出子
と準正子の親子の生活同一性について調査したデータは皆無であ
り、また、国籍制度に詳しい法学研究者や社会学研究者に問い合
わせをしても、昭和59年の国籍法改正前後から現在に至るまで、
そのような調査結果を見たことはないとの回答のみ得られた。
ウこのように、国籍法3条1項は、被告の主張するような立法事
実を全く欠いたものであり、それ自体既に立法の合理性を欠くも
のというべきである。
(8)ア民法789条2項は、「婚姻中父母が認知した子は、その認知
の時から、嫡出子の身分を取得する。」と定めており、同項の適
用については、離婚後の認知、裁判認知、死後認知も同項の認知
要件を充足し、準正が成立するとの解釈が確立している。その結
果、日本国民である父と外国人である母の間に婚外子が出生し、
両親が婚姻し同居を開始したが、離婚して別居し、その後に日本
国民である父が子を認知する、あるいは子が父に対して裁判手続
で認知を求めるというケース、あるいは、日本国民である父と死
別した後に死後認知訴訟を提起するケースが生じる。これらの事
案において、子と日本国民である父(生物学上の父)との間に生
活の同一性が認められる時期には法律上の父子関係は存在せず、
認知によって法律上の父子関係が成立したとき、したがって準正
が成立したときには、既に生活の一体性は存在しない。このよう
に、準正により日本国民を含む家族関係に包摂され、あるいは日
本国民を含む家族との生活の同一性、生活の一体性が生じるとの
被告の主張は、何らの根拠もないものである。
被告は、このような事案はまれな事態であり、かかる例外的な
事実関係に基づく批判は失当であると反論するかもしれない。し
かしながら、父親との同居がない準正子の存在は、事案としても
決してまれなものではない。そして、そもそも問題は、事案の件
数の相対的な多寡ではなく、準正制度自体にこのような場面が内
在されていることである。前述のとおり、離婚後の認知、死後認
知による準正の成立は、民法789条2項の解釈として確立して
おり、また、これらの場合に国籍法3条1項により国籍を取得す
ることができることについても争いはない。このように、準正と
いう制度は、それ自体に日本国民である父との生活の一体性を欠
く場面を内在しているのであり、同項もこれを許容しているので
ある。準正により日本国民を含む家族との生活の同一性、生活の
一体化が生じるとする被告の主張は、準正制度に対する誤った理
解に依拠するものであり、この点で既に失当である。
イ非嫡出子とその父との間に同居関係若しくはそれに準ずると評
価し得る密接な関係が存在する事案もまれな例ではない。非嫡出
子とその父との間の関係の存在や濃淡は個々様々であり、決して
被告が主張するように、嫡出子と非嫡出子とで単純に区別し得る
ものではないのである。
(9)以上のとおり、準正の成立により日本国民を含む家族関係に包摂
され、日本国民を含む家族との生活の一体性、生活の同一化が生じ
ることを根拠に、国籍法3条1項が両親の婚姻を要件とすることの
合理性を主張する被告の主張は、その前提を欠き、失当である。
(五)準正子と非嫡出子が区別されるとの主張には合理性がない
(1)被告は、準正子と非嫡出子の法制度における差異(民法790条
2項、819条4項、900条4号ただし書)を理由に、父子関係
の結合の強さが異なるので、準正により日本との結合が強くなった
場合に日本国籍を付与するとして、準正子と非嫡出子の差別的取扱
いの合理性を主張する。また、国会答弁においては、準正によって
出生時に法律上の父子関係があったということと同評価し得べき関
係に立つことをもって、国籍取得を認める根拠となると述べている。
いずれの見解も、父子関係の強弱を理由に、嫡出子と非嫡出子の国
籍取得上の取扱いを区別しようとするものである。
(2)しかしながら、国籍法は、子の嫡出性の有無をもって国籍取得の
可否の要件とはしていない。国籍法2条1号は、「父又は母」と規
定しており、父母の婚姻を要件とはしていないのであるから、この
ことは文言上明らかである。また、解釈上も、日本国民である母の
非嫡出子及び日本国民である父から胎児認知を受けた非嫡出子が日
本国籍を取得することに争いはない。さらに、旧国籍法の下では、
生後認知によって日本国籍を取得したのであり、この点からも嫡出、
非嫡出の区別が国籍取得の可否を分ける分水嶺となったことは、我
が国の国籍法の歴史上一度もなかったのである。
(3)また、胎児認知を受けた非嫡出子と、生後認知を受けた非嫡出子
の法律上の地位は全く同一であり、準正子と生後認知を受けた非嫡
出子との間の法制度上の差異は、準正子と胎児認知を受けた非嫡出
子との間のそれと全く異ならない。したがって、法制度上の差異を
理由に父子関係の強弱の違いがあるとして生後認知された非嫡出子
の国籍の取得が否定される根拠とする被告の主張は、胎児認知を受
けた非嫡出子との対比において整合性がつかないのである。
(4)被告は、嫡出子と非嫡出子の扱いに関する法制度上の差異として、
民法790条2項、819条4項を挙げる。
しかしながら、子の氏や親権者は、子の出生に当たって必ず決め
なければならないものである一方で、それを母の氏とする、あるい
は母の親権に服するとしても、さしあたり子にとって著しい不利益
はない。しかも、親権者については、事後に協議により又は家庭裁
判所の決定によって変更することが可能とされているのであるから
(民法819条4項ないし6項)、子の利益を十分に考慮したもの
である。
これに対し、非嫡出子のゆえに日本国籍を取得することはできな
いとすることは、嫡出子に比して明らかに不利益な取扱いであり、
かつ、基本的人権の保障を受ける上でも、また、日本国内において
現実に生活を送る上でも、重大な障害となることは明らかであるか
ら、わずかな法制度上の取扱いの違いをもって、かかる重大な差別
的取扱いを合理化することは到底できないといわざるを得ない。
(5)アさらに被告は、民法900条4号ただし書を挙げて、日本の法
制度が法律婚を尊重する立場を取っていることを指摘し、嫡出子
と非嫡出子とを別に取り扱うことに合理性がある旨主張する。
イ(ア)しかしながら、そもそも民法900条4号ただし書は、嫡
出子と非嫡出子のそれぞれの立場を考慮し、両者の利害を調整
した規定である。最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月
5日大法廷決定(民集49巻7号1789頁。以下「平成7年
最高裁決定」という。)も、同規定の立法理由として同旨の判
示をしている。これに対し、国籍法は、非嫡出子の国籍取得を
認めることによって、嫡出子の利益が害されるという関係には
なく、両者間の利害調整は問題にならない。したがって、両者
は全く別次元の議論である。
(イ)また、民法900条4号ただし書は、法律婚を尊重するた
めに非嫡出子を一律排除するものではなく、上記の立法趣旨に
基づき、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とすることによ
って両者の利害を具体的に調整しているのに対し、国籍法は、
日本国民である父から生後認知を受けたにとどまる非嫡出子を
国籍取得の機会から一律に排除しているのであり、この点でも
同規定が国籍法の取扱いを根拠づけるものとはなり得ない。
(ウ)さらに、民法900条は、私的財産の処分に関する規定で
あり、遺言がない場合の補充的規定であるのに対し、より強く
法の下の平等の要請が働くはずの国籍法の場面において、非嫡
出子を国籍取得の機会から完全に排除していることの合理性は、
同条4号ただし書から根拠づけることは到底不可能というべき
である。
ウ平成7年最高裁決定には、民法900条4号ただし書を憲法1
4条違反とする5人の裁判官の反対意見があるほか、合理性につ
いて疑わしい状態にあるとの4人の裁判官の補足意見があった。
また、その後も、①最高裁平成11年(オ)第1453号同12年
1月27日第一小法廷判決(裁判所時報126号6頁。以下「平
成12年最高裁判決」という。)において、一人の裁判官の反対
意見と、合理性について疑わしい状態にあって立法的に解決すべ
きであるとの一人の裁判官の補足意見があり、②最高裁平成14
年(オ)第1630号同15年3月28日第二小法廷判決(裁判所
時報1336号10頁。以下「平成15年3月28日最高裁判
決」という。)においても、二人の裁判官の反対意見、③最高裁
平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決
(裁判所時報1337号1頁。以下「平成15年3月31日最高
裁判決」という。)においても、二人の裁判官の反対意見と極め
て違憲の疑いが濃いとする一人の裁判官の補足意見がある。この
ように、私的財産の処分に関する補充規定である民法900条4
号ただし書でさえ、嫡出子と非嫡出子との差別的取扱いについて、
憲法14条違反であるとの疑いが強まっているのである。
エさらに、法務省民事局参事官室は、平成7年最高裁決定に先立
つ平成6年7月民法改正要綱試案において、嫡出子と非嫡出子と
の相続分の平等化を提案している。さらに、平成7年最高裁決定
の合憲判断にもかかわらず、平成8年2月に法制審議会が答申し
た民法改正の法律要綱案では、なお、平等化が盛り込まれている。
また、自治省(現在の総務省)は、平成6年12月、住民票の
世帯主との続柄において、「嫡出子と非嫡出子」、「実子と養
子」をすべて「子」と改正し、これは平成7年3月1日から施行
された。
オこのように、嫡出子と非嫡出子との法制度上の平等化は、今や
時代のすう勢であり、日本における基本的な地位を決定する重要
な法律である国籍法においては、率先してこの平等化を実現する
ことが求められるのである。しかるに、その違憲性が疑われる民
法900条4号ただし書に拘泥して、非嫡出子を日本国籍から排
除しようとする被告の主張は、平等化の実現という時代のすう勢
に逆行するものであり、到底認められないものである。
カ以上のとおり、準正子と非嫡出子の法制度上の取扱いの違いを
根拠とする被告の主張は、やはり失当であり、採り得ない。
(六)実質上の不都合、不平等
日本国民である父から生後認知を受けた子のうち、準正が成立した
子についてのみ日本国籍を認めることの実質的な不都合、不平等は、
以下のように明らかである。
(1)準正の成立要件のうち、認知は裁判によって子から父に求めるこ
とが可能であるが、もう一つの要件である両親の婚姻は、子の立場
から強制することはできない。すなわち、子にとっては、日本国籍
取得の可否が本人以外の他人の意思によって左右されるのであり、
憲法13条の個人の尊重の趣旨に立脚して旧国籍法の認知による国
籍の当然取得を否定した趣旨に反することになる。
(2)民法上、準正の成立要件は、認知と両親の婚姻であり、いずれも
単なる届出のみで成立する。したがって、実際に家族としての生活
の一体性があるか否かという実態判断なく日本国籍を付与すること
になる。準正は成立していないものの、日本国民である父と同居し、
あるいは、経済的精神的援助を受けて生活している非嫡出子と比較
するとき、後者が日本国籍を取得し得ないことの不都合はだれが見
ても明らかである。
(3)国籍法3条1項の解釈上、いったん準正が成立すれば、その後、
例えばわずか1か月で離婚しても準正性は失われず、しかも離婚後
に国籍法3条1項による国籍取得の届出をしても認められる。その
結果、日本国民である父を含む家族との生活の同一性がほとんどな
いことが明らかな場合であっても、日本国籍を取得することができ
ることになる。このことは、むしろ、国籍法が生活の同一性を要求
していないことを示すものである。
(4)非嫡出子の親の一方がその法律上の配偶者と離婚することができ
ない場合、子の両親は婚姻することができず、子は準正子の地位を
得ることが法的に不可能である。殊に原告らの本国法であるフィリ
ピン家族法には離婚制度が存在しないため、本国においてフィリピ
ン人男性と婚姻が成立しているフィリピン女性がその後日本国民で
ある男性との間に子をもうけても、その子が準正子の地位を得るこ
とは法的に不可能であり、それによる不都合は著しい。
(5)平成14年最高裁判決の事実関係は、以下のとおりであった。
上告人(原告、控訴人)である姉の出生当時、日本国民である父
と外国人母は未婚のまま同居し、内縁関係にあったが、母が父との
間の二人目の子を妊娠した後、両者は内縁関係を解消した。その際、
父は上告人を認知するとともに、未だ出生していなかった二人目の
子を胎児認知した。その後二人目の子(上告人の妹)が出生し、日
本国籍を取得したが、上告人については、両親が未婚のままであっ
たため、日本国籍を取得することができなかった。この事案では、
上告人は、日本国民である父と同居生活があり、妹はそれがないに
もかかわらず、妹は日本国籍を取得し、姉である上告人はこれが認
められないという著しいアンバランスが生じていたのである。
原告らの中にも、自分は生後認知を受けたため日本国籍を取得し
得なかったが、妹は胎児認知を受けたため日本国籍を有する者があ
る。妹が胎児認知を受けたのは、姉である原告が日本国民である父
から認知された後に、生後認知では日本国籍を取得できず、胎児認
知が必要であると知ったからであった。
(6)以上のとおり、認知による国籍取得を認めず、更に両親の婚姻を
要求することは、実質的にも著しい不都合、不平等をもたらすもの
である。
(七)偽装認知のおそれについて
(1)認知による国籍取得を認めることについては、虚偽の認知を誘発
させるおそれがあるので妥当でないとの反論があるが、以下に述べ
るとおり、理由がない。
(2)アまず、虚偽の認知は、生物学的な親子関係を前提としないもの
であるから、当然に無効であるだけでなく、抑止すべき違法行為
あるいは犯罪行為であることに疑いはない。
イ次に、虚偽の認知による日本国籍の取得を防止すべきであるか
らといって、真実の認知についてまで国籍の取得から排除するの
は、明らかに本末転倒である。虚偽の認知は、認知制度が生物学
的な親子関係を確認することなく認知を受理する制度である以上、
発生することを完全には防止し得ない病理現象であって、同様の
病理現象は、何も虚偽の生後認知に限らず、偽装の胎児認知、偽
装結婚、親を偽った出生届、他人への成りすまし等、様々な形態
が考えられ、事実、相当数発生しているのが現状である。それに
もかかわらず、同様の措置が採られているわけではないことから
も、被告の主張が一貫性を欠くものであることが看取される。
ウさらに、虚偽の認知をした場合、それを一応有効として取り扱
った場合には、認知者と被認知者との間で親子関係が一応設定さ
れるため、認知者においては扶養義務が発生するなど、相応の負
担も覚悟しなければならない。また、戸籍簿に虚偽の事実を登載
することである以上、公正証書原本等不実記載罪などの犯罪に問
われることを覚悟しなければならないのであって、認知者におい
て何らの心理的物理的障害なくしてなし得るものでもない。
(3)以上のように、被告の主張は、ささいな病理現象の発生を過大に
評価し、反対に、平等の確保という憲法的価値を過小に評価したも
のであって、理由とはならないことが明らかである。
(八)諸外国法令との比較
(1)ドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」という。)
ドイツでは、1993年6月30日の法改正によって、ドイツ人
父の非嫡出子の生来的国籍の取得が認められることとなった。すな
わち、「父母の一方がドイツ国籍を有するときは、子は出生により
ドイツ国籍を取得する。非嫡出子の出生に際して、父だけがドイツ
国籍を有するときは、国籍取得を主張するために、ドイツ法上有効
な父子関係の確認が必要であり、父子関係確認の手続は、子が23
歳に達するまでに開始されなければならない。」(4条1項)
連邦議会の理由書は、この改正を次のように説明している。
「この規定は、血縁によるドイツ国籍の取得について、可能な限り、
嫡出子と非嫡出子の区別をなくす趣旨である。もっとも、嫡出子の
場合には、民法【59】により、・・・(中略)・・・父子関係の推定が
働くのに対して、非嫡出子の場合には、父子関係の形式的確認(認
知又は裁判)を要するから(民法1600a条)、ドイツ人父の非
嫡出子については、血縁による国籍取得の主張は、有効な父子関係
の確認に係らせることが必要であった。」「国籍法における父子関
係の確認について、家族法と異なった基準を用いることは、ほとん
ど考えられない。嫡出子の血縁による国籍取得も、家族法上の規定
に基づいて規律されている。」
(2)フランス共和国(以下「フランス」という。)
1973年1月9日の国籍法改正法は、嫡出子と非嫡出子との平
等を図るために、従来の枠組みを大きく変え、「少なくとも一方の
親がフランス人である子は、嫡出子であると自然子であるとを問わ
ず、フランス人とする。」(同法17条)という規定を置いた。
旧法は、認知を先に行った親がフランス人であること及び認知が
同時に行われた場合には、父がフランス人であることを要求してい
たが、国籍法改正法17条は、認知の先後を問わず、また、認知を
行った親の性別を問わず、少なくとも親の一方がフランス人であれ
ば、子にフランス国籍を付与することにした。
国籍法改正法は、1993年7月22日の法律によって民法に編
入されたが、内容は変更されていない。
(3)ベルギー王国(以下「ベルギー」という。)
1984年6月28日の国籍法は、従来の基本的枠組みを大きく
変更した。すなわち、同法第2章第1節「父又は母の国籍によるベ
ルギー国籍の付与」は、「以下の者はベルギー人とする。1ベル
ギー人を親としてベルギーで生まれた子。2外国で生まれた以下
の場合の子。(a)ベルギー人親がベルギーにおいて、又はベルギー
の主権若しくは委任統治に服する領域において生まれたとき。(b)
ベルギー人親がこの出生の日から5年以内に、子のためにベルギー
国籍の付与を求める届出をしたとき。(c)親がベルギー人であり、
かつ子が18歳又は未成年解放までに他の国籍を取得しないか、そ
れとも保持しないとき」(同法8条1項前段)、「前項の適用につ
いては、親は、子の出生の日、又は子の出生前に死亡したときは、
その死亡の日に、ベルギー国籍を有していなければならない」(同
条2項)と規定している。
これらの規定は、国籍の付与における嫡出子と非嫡出子との差別
を撤廃している。
(4)イタリア共和国(以下「イタリア」という。)
1992年法2条は、認知による国籍の取得について、以下のよ
うに規定している。
「1項子が未成年の間に親子関係の認知又は裁判上の確認があっ
たときには、この法律の規定により子の国籍を定める。2項認知
又は裁判上の確認された子が成年に達しているときは、子は従来の
国籍を保持する。ただし、認知、裁判上の確認又は外国処分の効力
の承認から1年以内に、親子関係により定まる国籍の選択を届け出
ることができる。3項本条の規定は、父子関係又は母子関係を確
認することができなくても、扶養又は扶養料を請求する権利を裁判
上認容された子にも適用する。」
(5)スイス連邦(以下「スイス」という。)
2006年1月1日施行のスイス国籍法は、「スイス人父と婚姻
関係にない母の外国人の子は、父と密接な関係があることを根拠に、
あたかも出生のときに取得したように、スイス国籍を取得する。」
とし、従来の「外国籍を有する未成年の子は、父がスイス国民であ
りその子の出生後に母と婚姻したときは、スイス国籍を取得し、そ
の取得は、出生と共に行われたものとみなす。」(旧スイス国籍法
1条2項)という準正要件を廃止した。
(6)その他
認知のみによって、国籍を取得する制度を採用する国には、スウ
ェーデン王国(以下「スウェーデン」という。)、ノルウェー王国
(以下「ノルウェー」という。)、オーストリア共和国(以下「オ
ーストリア」という。)、スペイン、ギリシャ共和国(以下「ギリ
シャ」という。)、トルコ共和国(以下「トルコ」という。)等が
あり、更に要件が緩やかである国には、デンマーク王国(以下「デ
ンマーク」という。)、スイス、アメリカ合衆国(以下「アメリ
カ」という。)等がある。
(7)認知以外の要件を必要とする国
ア被告は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(以下
「英国」という。)及びオランダ王国(以下「オランダ」とい
う。)のように、現在でも認知のみでは国籍取得を認めない国も
あることを根拠に、準正要件が不合理な区別を設けたものではな
いとする。
イしかし、英国においては、準正要件以外にも、登録、養子縁組
による国籍取得の方法が別途認められているのである。
ウまた、オランダにおいても、認知のみならず3年間の監護養育
が要求されるのは、届出による場合に限られ、別途、父子関係確
認による国籍取得の規定が設けられているのである。すなわち、
オランダ国籍法「第3条の規定にかかわらず、父子関係が裁判に
より確認された子は、第一審判決の日に未成年であり・・・(中略)
・・・かつ父が(判決確定の日等に)オランダ人である」場合には、
判決の確定により、法律上当然にオランダ国籍を取得する(同法
4条)のである。
(九)人権諸条約における差別禁止規定違反について
(1)女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約について
ア昭和54年、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する
条約(以下「女子差別撤廃条約」という。)が国連で採択された。
我が国は、昭和60年に女子差別撤廃条約を批准した。
女子差別撤廃条約9条2項では、「締約国は、子の国籍に関し、
女子に対して男子と平等の権利を与える。」と規定されているが、
この規定は、以下の三つのことを意味したものである。
イ第一に、血統主義と出生地主義のいずれを採用するのかは、各
国の自由とされている以上、出生地主義を採用する諸国に対して、
血統主義の採用を強制するものではない。しかし、血統主義を採
用する諸国に対しては、子供の国籍について、父母の間に差別を
設けることを禁止している。
要するに、この規定は、血統主義を採用する諸国を主たる対象
としているのである。
ウ第二に、文言上明らかなように、夫婦間の平等のみを定めたも
のではない。すなわち、嫡出子の国籍だけではなく、非嫡出子の
国籍も規律している。
したがって、夫婦の間から生まれた子供の国籍のみならず、非
婚の男女から生まれた子供の国籍についても、両性の平等が実現
されなければならない。
エ第三に、嫡出子については、父系優先血統主義の弊害が問題と
なっていたが、非嫡出子については、むしろ、母の国籍だけに基
づいて国籍を付与する母系優先血統主義が問題となる。
オそして、この条約は、女子差別の撤廃を主たる目的としている
が、だからといって男子の差別を容認しているわけではない。そ
の意味でも、この規定は、広く子供の国籍の決定における男女の
平等を規定したものと解される。
なお、女子差別撤廃条約9条1項前段は、「締約国は、国籍の
取得、変更及び保持に関し、女子に対して男子と平等の権利を与
える。」と規定している。
(2)市民的及び政治的権利に関する国際規約24条1項、3項につい

ア(ア)1989年の市民的及び政治的権利に関する国際規約(以
下「B規約」という。)委員会(以下「自由権規約委員会」と
いう。)の一般的意見17は、概要下記のように述べている。

子供に対して保障されるべき保護については、さらに、24
条3項に規定された子供の国籍取得権にも特別な注意を払うべ
きである。たしかに、この規定の目的は、子供が無国籍である
ことを理由として、社会及び国家の保護が少なくならないよう
にすることであるが、国家に対して、必ずしも自国の領域内で
生まれたすべての子供に、国籍を付与する義務まで負わせたも
のではない。しかし、国家は、すべての子供が出生の時に国籍
を取得することを確保するために、国内法及び他国との協力関
係によって、あらゆる適切な措置を採ることを求められている。
(イ)自由権規約委員会は、かような一般論を展開した後、さら
に、概要下記のように続けている。

これに関連して、国内法では、国籍の取得についての差別、
例えば、嫡出子と非嫡出子の差別、無国籍の親から生まれた子
供の差別、一方又は双方の親の国籍に基づく差別は許されない。
子供が国籍を取得することを確保するために採った措置は、常
に締約国の報告書に記載されるべきである。
イ(ア)この一般的意見は、次の三つのことを意味していると思わ
れる。
(イ)第一に、B規約24条3項では、「すべての児童は、国籍
を取得する権利を有する。」とされているが、無国籍を完全に
防止することはできない。特に、親の本国が出生地主義を採用
しており、子供の出生地国が血統主義を採用している場合には、
血統主義と出生地主義の狭間で、子供が無国籍になることは避
け難い。なぜなら、血統主義を採用するか、出生地主義を採用
するかは、各国の自由とされているからである。一般的意見の
前半部分は、このことを確認しているにすぎない。
(ウ)第二に、B規約24条3項は、それにもかかわらず、各国
が無国籍の防止に向けて最大限の努力をすることを求めている。
特に、血統主義の下では、親の地位による差別は、無国籍を発
生しやすいので、禁止されるべきである。例えば、父母が婚姻
しているか否か、父母のうち、どちらが自国民であるかなどに
よる差別が念頭に置かれている。一般的意見の後半部分は、直
接的にはこの趣旨である。
(エ)第三に、この一般的意見は、現実に無国籍が発生する場合
だけを問題にしているわけではない。
例えば、血統主義の下では、非嫡出子は、父の国籍を取得し
なくても、通常、母の国籍を取得するし、また、嫡出子は、仮
に父の本国法によって父の国籍を取得しなくても、母の本国が
父母両系血統主義を採用していれば、母の国籍を取得すること
になる。しかし、B規約24条1項は、「すべての児童は、人
種、皮膚の色、性、言語、宗教、国民的若しくは社会的出身、
財産又は出生によるいかなる差別もなしに、未成年者としての
地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会及び国によ
る措置についての権利を有する。」と規定し、いずれにせよ、
出生による差別を禁止しているから、もともと親の地位による
国籍取得の差別は、この規定に違反していると解される。
(3)児童の権利に関する条約2条及び7条について
ア(ア)児童の権利に関する条約に関しては、1981年に英国が
新国籍法(BritishNationalityAct)を制定し、新法の施行日
(1983年1月1日)以降に英国で生まれた子供は、父若し
くは母が英国市民であるか、又は英国に定住している場合に限
り、英国市民となると定め(1条1項)、「父又は母」とは、
母については、嫡出関係であるか、非嫡出関係であるかを問わ
ないが、父については、嫡出関係に限定された(50条9項)
ことにより、非嫡出子が英国市民になるためには、母が英国市
民であるか、又は英国定住者でなければならなくなったことが、
国籍取得について非嫡出子を不当に差別しているのではないか
と問題になった。
(イ)児童の権利委員会は、最終所見について、概要下記のよう
な意見を述べている。

差別の撤廃に関する条約2条について、本委員会は、その履
行を確保するために採られた措置が不十分であることに懸念を
表明する。とりわけ、非婚の父が子供に国籍を承継させる際に
適用される制限は、条約7条及び8条に違反しており、それが
子供に与えるおそれのある弊害に懸念がある。
(ウ)さらに、児童の権利委員会は、提案及び勧告として、「国
籍及び出入国管理に関する法令並びに手続が、本条約の諸原則
及び諸規定に適合するように、再検討することを提案した
い。」旨述べている。
イ(ア)児童の権利委員会における審議からは、次の三つのことが
明らかとなる。
(イ)第一に、国籍の取得における非嫡出子の差別は、児童の権
利に関する条約2条及び7条に違反する。
(ウ)第二に、これに対する英国代表の反論は、英国人父の非嫡
出子が一定の条件を満たせば、内務大臣の裁量によって、英国
人として登録される(前記新国籍法3条)というものであった。
しかし、国家の裁量による後天的な国籍取得は、出生時にお
ける法律上当然の国籍取得とは異なる。
そして、児童の権利委員会は、かような反論が、児童の権利
に関する条約の違反を正当化するものではないと結論付けたの
である。
ウなお、児童の権利委員会は、英国による国籍法の適用に関する
留保が児童の権利に関する条約の基本原則と相容れないとも述べ
ており、国籍の人権的側面を考慮するならば、国家は、自国民の
範囲を全く自由に決定することができるわけではなく、不当な差
別をもたらす国籍の決定は、直ちに国際法違反の疑いが生じると
した。
エ以上のように、国家は、国籍の決定にあたり、自国が当事国と
なった人権諸条約を遵守する必要があるのである。
(4)日本の国籍法に対する懸念表明について
1998年、自由権規約委員会は、日本政府の第4回報告書に関
する最終所見において、国籍法における非嫡出子の差別に対する懸
念を表明し、また、児童の権利委員会は、日本政府の第2回報告書
に関する最終所見において、日本国民である父と外国人母の非嫡出
子が胎児認知を受けなければ日本国籍を取得することができないこ
とに対し、懸念を表明した。しかし、その後も我が国は、国籍法を
改正しようとはしていない。
これに対し、英国は、2002年11月7日、英国国籍法を改正
し、父子関係の証明によって、英国人父と外国人母の非嫡出子も、
生来的な英国国籍の取得が認定されるようになった。
(5)以上のとおり、国籍の取得における非嫡出子の差別が違法である
ことは、国際人権法の分野においても共通認識となっているのであ
り、日本国民である父による子の認知に加え、両親の婚姻、すなわ
ち、嫡出性を要件とする国籍法3条1項は、日本が批准する女子差
別撤廃条約、B規約及び児童の権利に関する条約のいずれにも違反
しているのである。
(一〇)平成14年最高裁判決について
(1)被告の主張は、最高裁判決においても採用されていない。
すなわち、平成14年最高裁判決の原審である大阪高裁平成10
年9月25日判決は、控訴人(一審原告)の控訴を棄却したが、そ
の理由において、日本国民の嫡出子については、当該日本国民が父
であるか母であるかを問わず、日本国籍を付与するのが適当である
が、非嫡出子の場合は、婚姻家族に属していない子であり、あらゆ
る場合に嫡出子と同様の親子の実質的結合関係が生じるとはいい難
いこと、婚外の父子関係は、通常母子関係に比較して、実質的な結
合関係が希薄であること、現行法は、その親子関係の差異に着目し、
親子関係の希薄な場合の国籍取得について、段階的に一定の制約を
設けたのであって、この現行法の基本的立場は、国籍立法政策上、
合理性を欠くものとはいえないことを判示した。
これに対し、平成14年最高裁判決は、生来的な国籍の取得は、
できる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましいところ、
出生後に認知されるか否かは出生の時点で未確定であるから、国籍
法2条1号が、子が日本国民である父から出生後に認知されたこと
により、出生時にさかのぼって法律上の父子関係が存在するものと
は認めず、出生後の認知だけでは日本国籍の生来的な取得を認めな
いものとしていることには、合理的根拠があるというべきである旨
判示した。すなわち、平成14年最高裁判決は、あえて原審である
上記大阪高裁判決の論理を採用せず、浮動性の防止の要請から認知
の遡及効を否定することの合理性の点のみに言及して、国籍法2条
1号の合憲性を判示したものである。
しかも、平成14年最高裁判決は、「生来的な国籍の取得は」と
繰り返し限定して論じている。このような論理に立脚したことによ
って、国籍法3条1項が憲法違反である疑いが高いとする補足意見
と論理的に整合していることに着目すべきである。
(2)以上のとおり、平成14年最高裁判決は、被告の主張に立脚する
ものではなく、かえって、国籍法3条1項が憲法14条違反である
とする同判決補足意見及び原告らの主張と整合性を有するものであ
る。
(一一)国籍法3条1項の合憲的な改正
国籍法3条1項が違憲無効とされた場合、これを合憲とするには、
理論的には、父母の婚姻及び認知により嫡出子たる身分を取得しても
日本国籍を取得しないという法改正が考えられる。
しかしながら、血統主義を基本原理とする国籍法の趣旨に照らして、
そのような改正はあり得ず、また、そのような改正自体は、新たに憲
法違反の状態を生じさせることが明らかである。
よって、国籍法3条1項については、「父母の婚姻及びその認知に
より嫡出子たる身分を取得した子」という部分を、「父から認知され
た子」とすることが、憲法に違反しない唯一の改正方法である。
2被告の主張
(一)原告らは、国籍法3条1項の準正要件が憲法14条1項に反する
などとして、原告らが日本国籍を取得していると主張する。
しかしながら、以下のとおり、国籍立法に関する立法裁量は極めて
広範なものであり、国籍法3条1項の準正要件は、その立法の経緯等
を総合すると憲法14条1項に違反するものとはいえないから、上記
原告らの主張は理由がない。
(二)国籍立法についての立法裁量の広範性
憲法は、国籍の得喪に関する要件につき、10条において「日本国
民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定して、これを法律によ
って定めるべきものとするものの、その要件の具体的内容について明
示するところがない。これ以外には、憲法上、国籍の得喪について定
める規定はなく、日本国民たる父母がその子に日本国籍を承継させる
権利又は日本国民の子が日本国籍を取得する権利は存在しないのであ
る。
これは、国際法上も、国籍の得喪に関する立法が国家の対人主権の
範囲を画するものとして各国の自由にゆだねられていることを踏まえ、
憲法は、具体的にいかなる者を我が国の構成員とするかについては、
代表民主制の原理に基づき、国会が、全国民を代表する立場において、
我が国の歴史的事情、伝統、環境等様々な要因を総合的に考慮して合
理的に定めることにゆだねたものと解される。最高裁も、国籍法2条
1号の合憲性が問題となった国籍確認等請求訴訟において、「国籍は
国家の構成員の資格であり、元来、何人が自国の国籍を有する国民で
あるかを決定することは、国家の固有の権限に属するものであり、国
籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは、それぞれの国の歴史
的事情、伝統、環境等の要因によって左右されるところが大きいとこ
ろから、日本国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかを法律に
ゆだねる趣旨である」(平成14年最高裁判決)として、同様の見解
に立つことを判示している。
このような国籍の得喪に関する憲法の趣旨に照らせば、国籍の得喪
に関する要件が、上記のような諸事情を総合考慮して決定されるもの
であり、その性質上、立法府に与えられている裁量が広範なものであ
ることは明らかである。
(三)憲法14条の平等原則
(1)憲法14条1項は合理的な根拠に基づく差別を禁止するものでは
ないこと
憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人
種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は
社会的関係において、差別されない。」と法の下の平等を定めてい
るが、同規定は、合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであ
って、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異
を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合
理的な根拠に基づくものである限り、何ら同規定に違反するもので
はない(最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大
法廷判決・刑集18巻9号579頁(以下「昭和39年11月18
日最高裁判決」という。)、最高裁昭和37年(オ)第1472号同
39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁(以下「昭
和39年5月27日最高裁判決」という。)等参照)。したがって、
国籍の得喪に関する法律の要件における区別についても、それが合
理的な根拠に基づくものである限り、何ら憲法14条1項に反する
ものではない(平成14年最高裁判決)。
(2)合理的な根拠に基づく差別であるか否かについての審査基準
憲法は、前記のとおり、いかなる者を我が国の構成員とするかの
具体的決定を、我が国の歴史的事情、伝統、環境等の諸事情を総合
考慮したところに基づく立法府の広範な裁量にゆだねているのであ
るから、国籍の取得に関する法律の要件における区別について、憲
法14条1項違反の問題を生じ得る場合は極めて限定されるという
べきである。等しく日本国民の子でありながら、国籍法上、日本国
籍を取得することができる者と取得することができない者が存在す
ることがあったとしても、立法府が採用した立法政策上の区別に合
理的な根拠があり、いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の
限界を超えていないと認められる限り、合理的理由のない差別とは
いえず、これを憲法14条1項に反するものということはできない。
そして、この合理性の有無を判断する「合理性の基準」とは、①
立法目的が正当であり、②具体的な取扱い上の違いが前記目的達成
に合理的に関連していることをもって足り、違憲を主張する側が、
いかなる合理的根拠に基づいても支持することができないことを証
明する責任を負うとする基準とされている。
(四)国籍取得に関する立法主義と国籍法の制定及び改正の経緯等
(1)国籍の取得に関する立法主義
国籍の取得の要件は、その国の歴史的沿革、伝統、環境等様々な
要因を考慮して定められるものであり、実際に、各国における国籍
の取得の要件は多種多様であるが、立法上の主義としては、血統主
義と出生地主義(生地主義)に大別される。
血統主義とは、自国民の子として出生した者に対して、自国の領
土内で出生したかどうかを問わずに、自国の国籍を付与する主義を
いい、同一文化を有する同一民族により国家を形成するという民族
主義に由来するものである。
これに対し、出生地主義とは、父母の国籍のいかんにかかわらず、
自国の領土内で出生した子に自国籍を付与する主義であり、元来、
中世封建制に由来し、自国領内の居住の利益を享受する者に自国籍
を付与して、自国民としての義務を負担させるという思想に基づく
ものと考えられるが、現代においては、移民受入国において、移民
の子孫に自国籍を付与し、その定着、同化、宥和を促進する機能を
有する点に特色があるとされている。
諸国の国籍法は、この二つの主義のいずれかを基礎としているも
のの、国際的な人的交流が活発な現代においては、その一方の主義
のみを徹底することは困難となっている。なぜなら、その一方の主
義を徹底すれば、場合によっては、自国との実質的な関連のない者
に国籍を付与し、あるいは自国との関連の強い者に国籍を与えない
結果となり、また、国籍の積極的又は消極的な抵触の防止の理想も
達成することができないことになるからである。したがって、諸国
の立法例においては、原則としては血統主義又は出生地主義のいず
れか一方によりつつも、程度の差異はあれ、他方の要素をも考慮し
て、出生による国籍付与の要件を定めている。我が国の国籍法も、
昭和25年に廃止された旧国籍法以来、伝統的に血統主義を採用し
ているものの、地縁的要素をも加味し、日本で生まれた場合におい
て、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないときは、子は
出生により日本国籍を取得するとしている(国籍法2条3号、旧国
籍法4条)。
また、国籍立法の基礎となるべき諸事情は、時の経過に伴って変
化するものであるから、国籍の取得に関する要件をどのように定め
るかということも時代の要請に応じて異なるものであり、血統主義
や出生地主義という基本的な立法主義についてさえ、これを支える
思想に変遷があることは、上記のとおりである。我が国の国籍法も、
後記のとおり、その時々の社会情勢、国際情勢を踏まえて制定と改
正を経てきたものである。
(2)国籍法の制定及び改正経緯
ア現行国籍法(改正前国籍法)の制定(父系優先血統主義)
改正前国籍法は、個人の尊厳及び両性の本質的平等を立法の基
本原則とする現行の憲法が制定され、従来の民法上の家制度が全
面的に改正されたことに伴って、旧国籍法を廃止して新たに制定
されたものであり、昭和25年5月4日に公布され、同年7月1
日に施行されたものである(昭和25年法律第147号)。
改正前国籍法においては、憲法24条による個人の尊厳及び両
性の本質的平等の保障の精神に反することを理由に、旧国籍法の
中の家制度に立脚する規定及び婚姻、養子縁組、認知、離婚等の
身分行為に基づく国籍の得喪の制度が廃止され、身分行為は、国
籍に影響を及ぼさないものとされ、同様に夫又は父母の国籍の変
更は、当然に妻及び子の国籍の変更を生ずるとの旧国籍法の規定
も廃止され、妻及び子についての国籍上の独立の地位が認められ
た。
一方、出生による国籍の取得については、従来我が国で採用さ
れてきた父系優先血統主義を維持し、原則として父が日本国民で
あるときに子は日本国籍を取得するものとした。これは、①憲法
は、国籍に関する事項を立法府の裁量にゆだね、日本国民の子に
日本国籍を取得する権利又は日本国民たる父母が子にその国籍を
承継させる権利を保障していないこと、②したがって、父系優先
血統主義は、父に対して母の権利を差別したものではないこと、
③血統主義を採用する諸外国の立法例では父系優先血統主義が採
用されているので、父系優先血統主義は重国籍の防止に有効であ
ることなどの理由に基づくものである。
イ昭和59年改正(昭和59年法律第45号)
(ア)父母両系血統主義の採用
その後、日本社会の国際化に伴って、多数の外国人が我が国
に定住し、渉外婚姻が増加した結果、日本国民たる母の子で日
本国籍を有しない者が増加したこと、両性平等意識の高揚によ
り、母を日本国民とする子についても国籍を付与すべきである
とする世論が高まったこと、さらに、父系優先血統主義から父
母両系血統主義に改める国が続出し、我が国のみが父系優先血
統主義を維持しても、将来にわたり重国籍の発生を防止するこ
とが困難になったことなどの国際情勢、社会情勢の変化を背景
とし、直接には、昭和54年に第34回国際連合総会において
採択された「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する
条約」の批准を契機として、昭和59年に改正前国籍法の大幅
な改正がされた。
その結果、従来の父系優先血統主義に代わって、出生の時に
父又は母のいずれか一方が日本国民であれば、子は出生により
日本国籍を取得するものとする父母両系血統主義が採用された
(国籍法2条1号)。
平成14年最高裁判決は、この父母両系血統主義について、
「法2条1号は、日本国籍の生来的な取得についていわゆる父
母両系血統主義を採用したものであるが、単なる人間の生物学
的出自を示す血統を絶対視するものではなく、子の出生時に日
本国民である父又は母と法律上の親子関係があることをもって
我が国と密接な関係があるとして国籍を付与しようとするもの
である。」と判示している。同じく血統上の日本国民の子であ
っても、出生時における法律上の親子関係の有無により国籍取
得の要件が異なることは、血統を絶対視する立場からは、不均
衡との批判があり得ようが、血統という単なる生物学的要素を
絶対視せず、親子関係により我が国との密接な結合が生ずる場
合に国籍を付与するとの法の基本的政策からは、当然の帰結と
され、平成14年最高裁判決もこの理を認めたものである。
(イ)届出による国籍の取得制度の創設
昭和59年改正では、父母両系血統主義が採用されるととも
に、旧国籍法及び改正前国籍法の下において認められていた出
生等による国籍の当然取得及び帰化等法務大臣の許可による国
籍取得の方法に加え、準正子など法定の要件を備える者が、法
務大臣に対し届出をすることによって当然に日本の国籍を取得
するという制度が新たに設けられた(国籍法3条、17条、昭
和59年改正法附則5条、6条)。この届出による国籍取得は、
血統主義の補完あるいは実質的な日本国籍の再取得(回復)の
見地から、ある者が我が国と特別な関係にある場合に、その者
が日本国籍の取得を欲するならば、帰化のように法務大臣の裁
量による許可を要することなく、法務大臣への意思表示(届
出)のみによって簡易に日本国籍を取得することを認めようと
するものである。そして、この届出による日本国籍の取得の効
力は、その届出の時に生ずることとされており(同法3条2項、
17条3項等)、効力発生につき官報告示を要するとする制度
(同法10条参照)も採られていないので、届出が適法なもの
である限り、この届出によって確定的に日本国籍を取得するも
のである。
(五)国籍法3条1項の準正による国籍取得制度の趣旨
国籍法3条1項が一定の準正子に届出による国籍取得を認める制度
を創設した趣旨は、次のとおりである。
すなわち、父母両系血統主義(同法2条1号)によれば、日本国民
である母の子は、父が外国人であっても、子の嫡出又は非嫡出を問わ
ず、出生により日本国籍を取得するが、日本国民である父の子は、母
が外国人であれば、出生時に父子関係が確定している場合(子が嫡出
子である場合又は父から胎児認知されている場合)でなければ、出生
により日本国籍を取得しない。このことは、日本国民である父の子に
着目すれば、父母の婚姻が子の出生の前であるか後であるかによって、
子の国籍に大きな差異が生ずることを意味し、制度の均衡上考慮する
必要がある。特に我が国では往々にして、子が生まれてから婚姻の届
出をするということも少なくないことを考えると、このような準正子
については、帰化の手続によることなく、実質的に血統主義の補完措
置として、より簡易な方法による日本国籍の取得を認める必要がある。
また、親と生活関係を同一にする未成年の嫡出子は、親と同一の国籍
であることが望ましく、日本国民である父の準正子は、父母の婚姻及
びその認知によって嫡出子たる身分を取得したことにより、通常は、
日本国民を含む家族関係に包摂され、我が国との密接な結合関係を有
することが明らかとなったものであるから、その者の意思により簡易
に日本国籍を付与することが実質上適当である。
以上のとおり、国籍法3条1項は、昭和59年法律第45号による
改正によって、出生による国籍の取得について父母両系血統主義が採
用された際に、出生時に日本国民の嫡出子である子との均衡を図るこ
とを目的として新設された制度であり、殊更非嫡出子を差別すること
を目的としたものではない。
(六)我が国は法律婚尊重主義の法政策を採用していること
(1)家族関係に関する我が国の伝統、社会事情、国民の意識等を考慮
して、法律婚を尊重するという基本理念に基づき、嫡出子と非嫡出
子とは、種々異なる取扱いを受けており(民法790条2項、81
9条4項、900条4号ただし書)、嫡出子と非嫡出子との間で異
なる扱いをすること自体は不合理なものではない。このことは、民
法における両者の取扱いの差異に関する今日までの諸判例からも明
らかである。
(2)例えば、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた
民法900条4号ただし書前段の規定については、憲法14条1項
に違反しないことは、最高裁によって繰り返し判示されているとこ
ろである(平成16年最高裁決定、平成15年3月28日最高裁判
決、平成15年3月31日最高裁判決、平成12年最高裁判決、平
成7年最高裁決定)。
このうち、平成7年最高裁決定は、相続制度を定めるに当たって
の合理的な裁量を立法府に認めるに当たり、民法900条4号ただ
し書前段の規定の立法理由について、「法律上の配偶者との間に出
生した嫡出子の立場を尊重するとともに、他方、被相続人の子であ
る非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に嫡出子の2分の1の法
定相続分を認めることにより、非嫡出子を保護しようとしたもので
あり、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解され
る。」として、現行民法が法律婚を採用している以上、このような
立法理由にも合理的な根拠があると判示している。
(3)上記判示の根底には、婚姻や家族に対する価値観が多様化したと
いわれる現代社会においても、なお、「法律婚を尊重すべき」とい
う法律婚を基調とする家族観や社会倫理が根強く存在し、法律婚を
保護することが、法律婚に基づく家族に社会経済上の一体性が認め
られる場合が多いという社会実情に合致し、国民感情に沿うとの判
断があるものと考えられる。そうすると、嫡出子と非嫡出子との間
で法的に異なる取扱いをしていることのみをもって、直ちに不合理
な差別との法的非難を受けるべきものではない。
(七)準正要件の合理性
(1)生活の同一性について
ア国籍法3条1項の準正要件について考えてみると、そもそも、
民法789条に定める準正の制度は、非嫡出子についての父母の
婚姻及びその認知があった場合に、法の擬制によってその子に嫡
出子たる身分を与えることとした制度である。非嫡出子は、母の
氏を称し(民法790条2項)、原則として母の親権に服する
(同法819条4項)とされていて、非嫡出子の父子関係は、法
制度上も、実際上も、結合関係、すなわち生活の同一性が希薄で
ある。ところが、準正子である未成年の子は、その準正のときか
ら当然に母と共に父の親権に服し(同法818条1項、3項)、
出生時から嫡出子であった子と同様、父母の下で監護・教育を受
けて成長することが、民法上当然に予定されているのである(同
法820条以下)。
このように、準正子と非嫡出子との間には法制度上の差異があ
り、準正子の場合には、父と子の親子関係が非嫡出子より強いも
のとされている。そのため、日本国民である父との親子関係が準
正によって強くなった場合に、我が国との密接な結合が生ずるも
のとして国籍を付与するとの立法政策を採り、届出のみによる国
籍の取得を認めることについては十分な合理性がある。そして、
このような立法政策を採ることは、前記の法律婚尊重主義という
我が国の基本的な法政策にも整合するものである。
イまた、厚生労働省の人口動態統計によれば、我が国における嫡
出子と非嫡出子の別に見た出生数は、平成6年から平成15年ま
での10年間の平均で、嫡出子116万6300人に対し、非嫡
出子1万8100人であり、出生子全体に占める非嫡出子の割合
は、わずか1.5パーセントにすぎない。我が国においては、先
進諸外国において婚外子が著しく増加しているのとは異なり、依
然として、法律婚に基づく家族に社会経済上の一体性が認められ
る場合が多いといえる。
したがって、子の出生時に日本国民である父と法律上の親子関
係がある場合とない場合とで我が国との結び付きという点で類型
的に異なるとすることは、社会の実情に合致し、国民感情にも沿
うものであり、今日でもなお、国籍法3条1項において準正子と
非嫡出子とを区別することの合理性は失われていないというべき
である。
(2)準正要件という客観的に明確な基準を要求すべき必然性があるこ

準正子となっていない日本国民である父の非嫡出子の中にも、個
別的にみれば我が国と密接な結び付きのある者が存在することはあ
り得る。しかし、そのような者であるか否かは客観的に明らかでは
ないのが通常である。言い換えれば、法律上婚姻していない父母が
法律上の婚姻と同様の事実上の婚姻状態にある場合があるとしても、
内縁関係の態様は様々であり、いかなる場合に法律上の婚姻と同様
の事実上の婚姻状態にあると評価するかは一義的ではないのである。
そして、届出による国籍の取得が簡易な方法による国籍の取得を認
める制度であるにもかかわらず、国籍の取得の可否を決するために
このような個別具体的な事情の検討を要するというのでは、その制
度趣旨も没却させることになるし、個別具体的な事情をこの手続内
で検討するのも容易ではない。むしろ、日本国民である父の非嫡出
子のうち我が国と密接な結び付きがあると認められる可能性のある
者は、手続内で個別具体的な事情の検討が予定されている簡易帰化
による国籍取得にゆだねるのが法制度として合理的である。そうす
ると、日本国民である父の非嫡出子を一律に届出による国籍取得の
対象としなかったことが、立法理由との関連で著しく不合理なもの
といえないことも明らかである。以上のようなことから、我が国の
国籍法は、日本国民である父から認知を受けたにとどまる非嫡出子
については、一律に簡易に国籍取得を認めることをせず、我が国の
構成員とすることが相当であるか否かについて、なお法務大臣の個
別的判断を求めることとして、通常の場合に比して緩和された帰化
条件により、簡易に帰化を認めることとした(同法8条)ものであ
る。
したがって、同法3条1項が、客観的に該当性を判断することが
できる準正要件をもって届出による国籍取得の要件としたことには
十分な必然性があり、合理性が認められるものである。
(八)偽装認知のおそれについて
婚姻の場合には、夫婦の同居の有無によって偽装婚か否かの判断が
可能であり、同居の有無を調査することは比較的容易であるのに対し、
認知の場合は、父には認知した子と同居する法的義務すらなく、偽装
認知か否かを調査することは極めて困難である。昭和59年の法改正
に当たっても、認知のみにより国籍取得を認める場合には、偽装認知
がされる危険があることが考慮されていた。
現実に、日本国籍を有する子の監護養育者として我が国の在留資格
を得て、我が国に不法に入国し、滞在するために、子に日本国籍を取
得させるための虚偽の認知が行われているという社会的事実も存する
ことにかんがみると、時間的制約がある胎児認知に比して、期間制限
のない生後認知の場合に、偽装認知の危険性が飛躍的に高まることは
明らかである。
したがって、偽装認知の防止という観点からも、国籍法3条1項は、
合理性を有するというべきである。
(九)比較法的にみても不合理な立法ではないこと
(1)諸外国の国籍法の立法例にも、準正の場合には簡易な国籍取得を
認めるものが存在している。国籍の付与に関して、我が国のほかに
も、父子関係以外に父母の婚姻等を国籍取得の要件としている国は
複数存する。国籍法3条1項の準正要件は、比較法的にみても不合
理な区別を設けたものということはできない。
(2)昭和59年改正時における諸外国の国籍取得制度
昭和59年改正における準正による国籍取得の制度を新たに設け
るに当たっては、諸外国の国籍取得制度についても検討されたが、
当時、父母両系血統主義を採る諸国は、認知によって国籍を取得す
る国(フランス)もあるが、認知では国籍を取得せず、未成年の間
に準正子となった場合に限り、国籍を付与する例の方が多かった
(スイス、デンマーク、スウェーデン、ドイツ等)。
このような諸国の国籍取得制度の違いは、嫡出でない子を国内法
体系上どう取り扱うか、親子国籍同一主義の原則をどの程度で徹底
するかについての法制及び考え方の違いから生ずるものと解される。
男女平等の原則から父母両系血統主義に改めた諸国においても、父
親が自国民であることが確定しても、それだけでは国籍を取得する
こととしていないのは、国籍の付与が、各国の身分法と関係するだ
けでなく、親子同一主義との関係を無視することができないことに
よるものと思われる。
(3)最近の諸外国の国籍取得制度
最近の諸外国の国籍取得制度の調査結果を整理すれば、以下のと
おりである。
アスウェーデン国籍法(2001年7月1日施行、2005年7
月1日改正)
スウェーデン国籍法1条2項において、子の出生による国籍取
得につき「父がスウェーデン国籍で子がスウェーデンで出生した
場合」と規定されているが、これについては、2001年7月1
日以降スウェーデン国内で出生した子について、出生後に、認知
又は裁判手続等によりスウェーデン人父との父子関係が確認され
た場合には、子は、出生日にさかのぼって当然にスウェーデン国
籍を取得すると解されている。
また、同法4条において、「スウェーデン国籍である男性が外
国籍である女性と婚姻した場合は、婚姻前にその女性から出生し
ていた子で、1条の規定によりスウェーデン国籍を持たない独身
で18歳未満のものはスウェーデン国籍を取得する。」と規定さ
れている。
したがって、スウェーデン人父の非嫡出子で国外で出生したも
のは、独身で18歳未満であれば、父母が婚姻し準正子となるこ
とによって、スウェーデン国籍を取得すると解されている。
イデンマーク国籍に関わる統合法(2004年6月7日統合法第
422号)
デンマーク国籍に関わる統合法1条1項において、デンマーク
人を父又は母とする子は、生来的にデンマーク国籍を取得する旨
が規定されている。また、同項において、両親が婚姻関係になく、
かつ、父のみがデンマーク人である子の場合には、子がデンマー
ク国内で出生した場合に限り、デンマーク国籍を取得する旨が規
定されている。
また、同法2条において、デンマーク人父と外国人母の子であ
って、出生によりデンマーク国籍を取得しないものは、その後両
親が婚姻すれば、当該婚姻時に子が独身かつ18歳未満であれば、
デンマーク国籍を取得する旨が規定されているが、これについて
は、両親の一方がデンマーク人であるにもかかわらず、子がデン
マーク国籍を取得しない場合とは、デンマーク人父と外国人母の
婚姻外でデンマーク国外で出生した子の場合であると解されてい
る。
したがって、デンマーク人父の非嫡出子で国外で出生したもの
は、独身で18歳未満であれば、父母が婚姻し準正子となること
によって、デンマーク国籍を取得すると解される。
ウノルウェー国籍法(2005年6月10日制定、2006年9
月1日施行予定)
2006年9月1日施行予定のノルウェー国籍法4条において、
「父親あるいは母親のいずれかがノルウェー国籍保持者であれば、
その誕生した子供はノルウェー国籍を取得する。当該児の誕生以
前に父親が死亡している場合には、父親が死亡時にノルウェー国
籍を有していれば、十分である。」と規定されているが、これに
ついては、ノルウェー国籍を有しない非嫡出子について、出生後
に、認知又は裁判手続等によりノルウェー人父と父子関係が確認
された場合には、子は、出生した時点で当然にノルウェー国籍を
取得すると解されている。
エアメリカ移民及び国籍法(1952年6月27日法律)
アメリカ移民及び国籍法309条a号において、「本編第30
1条(c)号、(d)号、(e)号及び(g)号並びに第308条第(2)号
の規定は、婚姻外で出生した子につき、その父が当該子の出生の
時に合衆国の国籍を有しており、父子間の血縁関係が明確な、証
明力ある証拠により確定し、及び父が死亡している場合を除き、
書面をもって、当該子に対し、当該子が18歳に達するまで金銭
的な援助を行うことに合意し、並びに、当該子が18歳に達する
までに次のいずれかの事由が生じた場合には、かかる子の出生の
時にさかのぼって適用する。(1)子が、その居住地若しくは住所地
の法律により、嫡出子たる身分を取得したこと。(2)父が、宣誓の
下に作成した書面により、父子関係を認知したこと。(3)父子関係
が管轄権を有する裁判所の裁定により確定したこと。」と規定さ
れている。
なお、上記規定において引用される第301条(c)号、(d)号、
(e)号及び(g)号並びに第308条第(2)号の規定は、アメリカ領
土外で出生した子について、一定の要件のもとに補充的に血統主
義を採用し、アメリカ国籍を付与する規定である。
したがって、アメリカ国籍を有しない非嫡出子は、アメリカ国
民である父との親子関係が形成され、子が18歳になるまでの間、
当該父が子に対して金銭的援助を行うことに書面で合意すること
によって、アメリカ国籍を取得することとなる。
オ1981年英国国籍法(1981年10月3日、1983年1
月1日施行)
1981年英国国籍法1条1項によれば、同法施行の後に英国
内で生まれた子は、両親の一方が英国市民である(父に関しては、
子が嫡出の場合に限る。)か、若しくは子の出生時に英国に定住
している場合、英国市民となる旨が規定されている。
英国国籍を有しない子が、出生後に、英国人父からの認知によ
り当然に英国国籍を取得することはない。英国国籍のない子が出
生後に英国国籍を取得するためには、以下のとおり、登録、養子
縁組及び父母の婚姻(準正)の三つの方法がある。
(ア)登録による国籍取得
1981年英国国籍法1条3項によれば、1983年1月1
日以降、英国内で出生し、かつ、出生以降、両親のどちらかが
英国市民になったか、英国に定住することとなり、かつ、子の
18歳の誕生日前に登録申請がなされた場合、英国市民として
登録される資格を有する。
また、同法1条4項によれば、1983年1月1日以降、英
国内で出生し、かつ、申請時に10歳以上であり、かつ、申請
後10年間のうち、英国に不在であった日数が各年90日を超
えない場合、登録申請により、英国市民として登録される資格
を有する。
なお、英国外で出生した未成年者の登録による国籍取得につ
いては、同法3条2項から6項までに規定がある。さらに、同
法6条によれば、成年者の場合は、帰化により英国国籍取得が
可能である。
(イ)養子縁組による国籍取得
1981年英国国籍法1条5項によれば、未成年者(18歳
未満)の養子縁組を許可する命令が英国内の裁判所で下された
場合において、当該命令が下された日に養親の一方が英国市民
であるときには、その未成年者は当該命令が下された日から英
国市民となる。
(ウ)父母の婚姻による国籍取得
1981年英国国籍法47条1項によれば、「本法の適用に
関して、婚外子で両親の婚姻により準正された者は両親が婚姻
した日に嫡出子として生まれたものとして取り扱うものとす
る。」と規定されているが、これについては、出生時に両親が
婚姻していないため、英国国籍が付与されなかった子について、
出生時に父が英国市民であるか英国に定住している場合には、
その後に両親が婚姻することにより、その子は準正嫡出子とし
て取り扱われることとなり、出生時にさかのぼって英国国籍を
取得したとみなされると解されている。
カフランス民法(1993年7月22日法律第93-933号)
フランス民法18条において、「両親の少なくとも一方がフラ
ンス人である子は、嫡出子であると非嫡出子であるとを問わず、
フランス人である。」と規定されているが、これについては、フ
ランス国籍を有しない子について、認知等によりフランス国籍を
有する者との親子関係が確認された場合には、同条の趣旨により、
子は当然にフランス国籍を有し、その効果は出生時にさかのぼる
と解されている。
キドイツ国籍法(1999年7月15日改正)
ドイツ国籍法4条1項において、「親の一方がドイツ国籍を有
する場合、その子は出生によりドイツ国籍を取得する。子の出生
において、父のみがドイツ国籍を有し、ドイツの法律による血縁
の証明のために、認知又は父子関係の確認が必要とされる場合に
は、国籍取得の権利主張のために、ドイツの法律に基づく法的に
有効な認知又は父子関係の確認が必要とされる。認知の意思表示
又は父子関係の確認手続は、子が23歳になるまでに開始されな
ければならない。」と規定されている。この規定により、ドイツ
国籍を有しない子についてドイツ人男との父子関係が確認された
場合、子は、出生時にさかのぼって当然にドイツ国籍を取得する
と解されている。
クオーストリア公民権法
現行のオーストリア公民権法によれば、非嫡出子の出生による
国籍取得については、同法7条3項において、出生の時に母がオ
ーストリア公民であるときは、出生によりオーストリア公民権を
取得する旨が規定されている。
また、認知又は裁判手続等により、オーストリア公民との父子
関係が確認された場合の国籍取得については、同法7a条1項にお
いて、未成年(18歳未満)かつ独身である者が認知された場合、
認知された時からオーストリア公民権を取得する旨が規定されて
いる。
ただし、同法7a条2項において、認知された者の年齢が満14
歳以上の場合、認知によりオーストリア公民権を取得するために
は、認知された者及び法定代理人が公民権取得に同意する必要が
ある旨が規定されている。さらに、同条3項において、同条2項
の同意は、公民権保有者登録課に同意書を提出することによって
行い、この場合の認知による公民権取得は、同課が同意書を受領
した時から効力を生ずる旨が規定されている。
ケオランダ国籍法(1985年1月1日施行、最終改正2003
年4月1日)
オランダ国籍法3条1項において、出生の時に父又は母がオラ
ンダ人である子は、出生によりオランダ国籍を取得する旨が規定
されているが、この規定によりオランダ国籍を取得する子は、オ
ランダ人である父又は母の嫡出子、オランダ人母の非嫡出子又は
オランダ人父から胎児認知をされた非嫡出子である。
また、同法3条3項によれば、子がオランダ国内、オランダ領
アンティル又はアルーバ内で出生し、かつ、当該父又は母の出生
時、その父又は母の主な居所が同国内又は領内にあったもので、
当該子の出生の登録の際、当該子の住所を同国内又は領内に定め
る場合には、当該子は出生によりオランダ国籍を取得する。
次に、オランダ国籍を有しない子について、出生後に、裁判手
続によりオランダ人父との父子関係の存在が確認された場合には、
同法4条1項において、一定の条件の下に当然にオランダ国籍を
取得する旨が規定されている。
また、オランダ国籍を有しない子について、出生後にオランダ
人父から認知された場合には、2003年4月1日のオランダ国
籍法改正前においては、子は当該認知によって当然にオランダ国
籍を取得することとされていたが、同改正以後は、認知により当
然にはオランダ国籍を取得しないこととされた。この場合には、
同法6条1項c号において、当該子が未成年(18歳未満)であ
る間に、認知したオランダ人により3年間養育された場合に、当
該子の法定代理人がオランダ国籍を選択する宣言をすることによ
りオランダ国籍を取得することができる旨が規定されている。こ
こでいう「養育」とは、金銭的援助のみでは足りず、認知の時か
ら当該子と3年間家族として同居することが必要であるとされて
おり、その養育の有無については、オランダ国内においてはオラ
ンダ地方当局(市長)が、オランダ国外においては在外公館の長
が、オランダ国籍選択の宣言に署名する者(当該子の法定代理
人)から提出された養育に関する証拠資料に基づいて認定するこ
ととされている。
上記のとおり、2003年4月1日の改正により、認知のみに
よってはオランダ国籍を取得しないこととされた理由は、生物学
的にも社会的にも子の父ではないオランダ人が、子のオランダ国
籍取得のみを目的として当該子を認知することを回避するためで
ある。子のオランダ国籍取得のみを目的とする認知については、
多くの場合、既に10代後半となった子をオランダに在留させる
ための単なる手段であった旨、オランダ法務省から回答を得てい
る。
コスイス国籍法(2006年1月1日施行)
スイス国籍法1条2項において、「外国籍を有する未成年の子
は、父がスイス国民でありその子の出生後に母と婚姻したときは、
スイス国籍を取得し、その取得は、出生とともに行われたものと
みなす。」と規定されていたが、2006年1月1日からは、
「スイス人父と婚姻関係にない母の外国人の子は、父と密接な関
係があることを根拠に、あたかも出生のときに取得したように、
スイス国籍を取得する。」とされた。
サスペイン民法
スペイン民法17条1項において、スペイン人の父又は母から
出生した者は、出生によりスペイン国籍を取得する旨が規定され
ているが、これについては、スペイン国籍を有しない子について、
出生後に、認知又は裁判手続等によりスペイン人父との父子関係
が確認された場合には、子は、出生時にさかのぼって当然にスペ
イン国籍を取得すると解されている。
ただし、同法17条2項において、スペイン人父との親子関係
が確認された子が18歳以上の場合には、当該子は、当然にはス
ペイン国籍を取得せず、当該子がスペイン国籍を取得するために
は、認知により父子関係が確定した時から2年以内にスペイン国
籍を選択する必要がある旨が規定されている。
なお、1990年12月17日改正前の同法17条4項におい
ては、スペイン国民である父又は母との間の親子関係の確定によ
り、子が生来のスペイン国籍を自動的に取得する旨が規定されて
いたが、同改正後は、当該条文が削除され、新たに民法17条2
項のより、子が18歳以上の場合の条件が付された。この理由に
ついては、1990年12月17日付け国籍についての民法改正
に関する法律第18号において、「親子関係又はスペインにおけ
る出生が確定した子が、スペインとの関係を持たない又は非常に
希薄である場合があるところ、現実的観点及び子の利益(国籍選
択の自由)を尊重し、子が18歳以上の場合の条件を付した」と
明記されている。
シギリシャ国籍法(2004年11月10日法律第3284号)
ギリシャ国籍法1条において、ギリシャ人男性又はギリシャ人
女性の子は、出生によりギリシャ国籍を取得する旨が規定されて
いる。
また、同法2条において、ギリシャ人父に認知された未成年
(18歳未満)の子は、ギリシャ国籍を取得する旨が規定されて
いる。この場合、子は認知の日からギリシャ国籍を取得すると解
されている。
ストルコ国籍法(1964年2月11日法律第403号、198
1年2月13日法律第2383号改正)
トルコ国籍法1条において、「トルコ又は外国において、トル
コ人を父又は母として生まれた子は、出生によるトルコ国民とす
る。」と規定されている。
また、同法2条において、「外国人を母として婚姻外で生まれ
た者は、血統上、次の方法のいずれか一つによりトルコ国民と関
係が生じたときは、出生によるトルコ国民となる。(a)準正、
(b)判決による父子関係の確立、(c)認知」と規定されている。
したがって、トルコ人父から認知された子は、出生時から当然
にトルコ国籍を取得するものと解される。
(4)小括
以上のとおり、諸外国の国籍取得制度についてみると、英国やオ
ランダのように、現在も認知のみでは国籍取得を認めない国があり、
比較法的にみても、国籍法3条1項の準正要件が不合理な区別を設
けたものということはできない。
一方、スウェーデン、デンマーク、ドイツ等のように、国籍の取
得に当たり、準正を要件としない法改正がされている国もある。し
かし、だからといって、国籍法3条1項が準正によって嫡出子とな
った子と非嫡出子との扱いを区別することの合理性が直ちに失われ
るわけではない。なぜなら、平成14年最高裁判決が判示するとお
り、国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは、それぞれの
国の歴史的事情、伝統、環境等の要因によって左右されるものであ
って、準正を国籍取得の要件としない国が増加しているからといっ
て、我が国でも直ちに同様に扱わなければいけないということには
ならないからである。
まして、我が国における家族観や婚姻制度に関しては、今日でも
準正子と非嫡出子との間に、親子関係に基づく我が国との結合関係
の程度に類型的な相違を認めることができるのであるから、国籍法
3条1項の準正要件の合理性が否定されることはない。
(一〇)条約等との関係
(1)女子差別撤廃条約について
原告らは、女子差別撤廃条約について、夫婦の間から生まれた子
供の国籍のみならず、非婚の男女から生まれた子供の国籍について
も、両性の平等が実現されなければならない旨述べ、国籍法3条1
項が女子差別撤廃条約に違反する旨主張する。
しかしながら、昭和59年改正により、従来の父系優先血統主義
を改め、父母両系血統主義を採用(国籍法2条1号)を採用するに
至ったのは、我が国が女子差別撤廃条約を批准したことを契機とす
るものであり、父母両系血統主義を採った場合、日本国民である母
の子は、父が外国人であっても、子の嫡出又は非嫡出を問わず、出
生により国籍を取得するのに対し、日本国民である父の子は、母が
外国人であれば、出生時に父子関係が確定している場合でなければ、
出生により日本国籍を取得しないとするのでは均衡を欠くことから、
国籍法3条1項の準正による国籍取得の制度が設けられたものであ
る。
女子差別撤廃条約の趣旨に沿って国籍法を改正し、その結果、準
正による嫡出子と非嫡出子との間で国籍取得の要件が異なることに
なったとしても、かかる区別は合理的なものである以上、女子差別
撤廃条約違反の問題は生じないことは明らかである。
(2)B規約について
原告らは、B規約24条1項が、「すべての児童は、人種、皮膚
の色、性、言語、宗教、国民的若しくは社会的出身、財産又は出生
によるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされ
る保護の措置であって家族、社会及び国による措置についての権利
を有する。」と定めていることをもって、国籍法3条1項がB規約
に違反する旨主張するものと思われる。
しかしながら、同項は、保護の措置における差別の撤廃を求めて
いるものであり、非嫡出子に嫡出子と全く平等な地位と同等の権利
を与えることまでも要請しているものではないと解されている。
また、B規約24条3項は、「すべての児童は、国籍を取得する
権利を有する。」と定めているが、同項は、現状では子供が無国籍
のために権利を享有・行使することができないこと、社会や国から
低い保護しか与えられないことなどを防止する目的で規定されてお
り、締約国に対してその領域内で生まれたすべての子供にその国の
国籍を与えることを義務付けているわけではないと解されている。
したがって、B規約24条1項、3項を根拠に、国籍法3条1項
がB規約に違反するとする原告らの主張は失当である。
(3)児童の権利に関する条約について
原告らは、国籍取得における非嫡出子差別は、児童の権利に関す
る条約2条及び7条に違反している旨述べ、国籍法3条1項が児童
の権利に関する条約に違反する旨主張する。
しかしながら、同条約2条1項は、「締約国は、その管轄の下に
ある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮
膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族
的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかか
わらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及
び確保する。」と規定し、また、同条2項は、「締約国は、児童が
その父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意
見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されること
を確保するためのすべての適当な措置をとる。」と規定していると
ころ、これらの規定が、国籍取得における嫡出子と非嫡出子との取
扱いの違いについてまで規定しているとは解されないとされている。
また、同条約7条1項は、「児童は、出生の後直ちに登録される。
児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を
有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母に
よって養育される権利を有する。」と規定し、また、同条2項は、
「締約国は、特に児童が無国籍となる場合を含めて、国内法及びこ
の分野における関連する国際文書に基づく自国の義務に従い、1の
権利の実現を確保する。」と規定しているところ、これらの規定は、
無国籍児童の一掃を目的としたものであり、無国籍児ではない原告
らに対して憲法14条1項を超えた利益を保護するものではない。
したがって、同条約2条及び7条を根拠に、国籍法3条1項が同
条約に違反するとする原告らの主張は失当である。
(4)自由権規約委員会及び児童の権利委員会の懸念について
原告らが主張する自由権規約委員会の懸念については、日本政府
がB規約40条1項(b)に基づき行った第4回報告中、B規約24
条に関してのものである。
また、同じく原告らが主張する児童の権利委員会の懸念について
は、日本政府が児童の権利条約44条1項(b)に基づき行った第2
回報告中、児童の権利に関する条約第7条に関してのものである。
B規約24条及び児童の権利に関する条約7条について、国籍法
3条1項がこれらの規定に違反するものでないことは、前述のとお
りである。
また、原告らが主張する上記両委員会の各国政府からの報告書に
対する最終所見は、締約国の国内機関による条約解釈を法的に拘束
する効力は有しないものであり、もとより我が国の裁判所による条
約解釈を法的に拘束する効力を有しているものではないとされてい
る。
なお、原告らは、英国は、2002年11月7日、英国国籍法を
改正し、父子関係の証明によって、英国人父と外国人母の非嫡出子
も、生来的な英国国籍の取得が認定されるようになった旨主張する。
しかし、2005年に被告が調査した結果、1981年英国国籍法
は現在も有効であって、出生による国籍取得に関する改正はなく、
英国国籍を有しない子が、出生後に、英国人父からの認知により当
然に英国国籍を取得することはなく、英国国籍のない子が出生後に
英国国籍を取得するためには、登録、養子縁組及び父母の婚姻(準
正)の三つの方法がある。
(5)小括
以上のとおり、原告らが主張する各条約を根拠とする主張には、
いずれも理由がない。
(一一)平成14年最高裁判決の補足意見について
原告らは、国籍法3条1項が憲法14条1項に違反することの論拠
として、平成14年最高裁判決における3名の裁判官の補足意見を挙
げる。
上記補足意見における2名の裁判官は、「その父母が婚姻関係にな
い場合でも、母が日本人であれば、その子は常に日本国籍を取得する
ことを容認しているのであるから、法自身、婚姻という外形を、国籍
取得の要件を考える上で必ずしも重要な意味を持つものではない、と
いう立場を採っていると解される。そして、法2条1号によれば、日
本人を父とする非嫡出子であっても、父から胎児認知を受ければ、一
律に日本国籍を取得するのであって、そこでは親子の実質的結合関係
は全く問題にされてはいない」ことを指摘し、国籍法3条1項が準正
を非嫡出子の国籍取得の要件とした部分は、憲法14条1項に違反す
る疑いが極めて濃い、との意見を述べている。
しかしながら、国籍法2条は、国籍の安定性の要請という観点から、
その出生時点において日本国民との間に法律上の親子関係が生じてい
る者について生来的に国籍を認めるとしたものであるが、同法3条1
項は、出生時に日本国民の嫡出子である子との均衡を図ることを目的
として新設された制度であるから、法律婚尊重主義という我が国の基
本的な法政策に照らし、同項が父母の婚姻をも国籍取得の要件とした
ことには十分合理性が認められるというべきである。
その上、準正子と非嫡出子の父子関係は、前記のように、法制度上、
前者の関係が後者の関係より強いものとされているなど、同法3条1
項が前者の場合のみ同項による国籍取得を認めたことに合理的な理由
のあることは前記のとおりである。
二争点2(国籍法3条1項の届出要件の充足)について
1原告らの主張
(一)(1)国籍法3条1項の定める準正要件、すなわち、両親の婚姻を子
の国籍取得の要件とすることが憲法14条1項違反であり、かつ、
同規定の合憲限定解釈によって、「婚姻」要件のみを無効とするこ
ととなるならば、届書の記載事項を定める国籍法施行規則1条4項
のうち、3号の「国籍を取得すべき事由」としては、日本国籍を有
する父による認知の事実の記載をもって足りることとなる。また、
それを証する書類としても、父による認知が記載された戸籍謄本を
添付することをもって足りることとなる。
したがって、国籍法3条1項の準正要件、すなわち、両親の婚姻
の要件が違憲無効であるならば、日本国民である父の認知をもって
同項の国籍取得要件を充足することになるのであるから、届書には
認知の事実を記載し、かつ、これを証する日本国民である父の戸籍
謄本その他の書類を添付することによって適法な届出となるもので
ある。
(2)原告P1及び原告P10以外の原告らの国籍取得届出においては、
「国籍を取得すべき事由」として、日本国民である父から認知され
た事実を記載し、かつそれを証する書類として、日本国民である父
の認知の事実が記載された戸籍謄本を提出した。その余は、国籍法
施行規則1条が規定する要件をすべて充足している。
よって、原告P1及び原告P10以外の原告らについては、国籍
法3条1項の届出が適法に行われたものである。
(3)原告P1及び原告P10については、以下のような経緯があるた
め、いずれも社会通念上国籍取得の届出と同視し得る行為があった
ものと見るべきである。
ア原告P1は、平成17年3月9日、親権者母と共に弁護士を伴
って、千葉地方法務局館山支局に出頭し、対応した支局長に対し、
国籍取得届出を行いたい旨を申し出た。支局長が「両親の婚姻が
ない」ことを理由に受理はできないと回答した。これに対し、同
行した弁護士が、受理伺いなどの形でいったん受付をした上で後
日不受理とするという扱いもある、現に東京都や神奈川県ではそ
のような扱いが行われた旨を申し述べ、重ねて届出書の受領を要
請した。これに対して、上記支局長は、そのような扱いをすると
ころもあるかもしれないが、当支局としては、書類を受領し後日
不受理とすることもできない旨返答した。そのため、原告P1、
親権者母及び同行した弁護士は、これ以上交渉を継続しても書類
を受領させることは不可能であると考え、やむなく届書の提出を
断念し、届書のコピーを交付して退出した。
イ原告P10は、平成17年2月25日、親権者母と共に弁護士
を伴ってさいたま地方法務局越谷支局に出頭し、対応した職員に
対し、国籍取得届出を行いたい旨を申し出た。これに対し、職員
は、両親の婚姻がないことを理由に受理はできない旨回答した。
これに対し、同行した弁護士が、同行した趣旨を説明して重ねて
国籍取得届書及び証明書類の受領を求め、かつ受領ができないの
であれば、不受理通知を発行したほしい旨申し述べたところ、職
員は、書類を受領することもできないし、後日不受理通知を発す
るという処理もできない旨返答した。そのため、原告P10、親
権者母及び同行した弁護士は、これ以上交渉を継続しても書類を
受領させることは不可能であると考え、やむなく届書の提出を断
念して退出した。
ウ以上のとおり、原告P1及び原告P10は、いずれも国籍取得
届出を行いたい旨繰り返し申し出、かつ同行した弁護士により受
理伺いなどの形でいったん受付をした上で不受理とする扱いの提
案さえ行った。しかるに、これに対する各法務局担当者の対応は、
被告が指摘する本件通達第1、4(2)にすら反し、弁護士による提
案すら許否しているものである。
国籍法3条1項のうち、婚姻要件が違憲無効であり、認知を理
由とする届出により国籍取得が認められるならば、原告P1及び
原告P10の上記各届書提出行為はいずれも要件を充足した適法
な届出行為であり、届書及び証明書類の受領すら許否した各法務
局の対応は不適法なものとなる。しかるに、届書を受領しない限
り、いかにそれが違法であっても、届出に係る法律関係が発生し
得ないとするのは著しく不当であり、行政の恣意的な対応を放置
することとなる。したがって、本件においては、原告P1及び原
告P10については、いずれも社会通念上国籍取得の届出と同視
し得る行為があったと見るべきである。
(4)以上により、原告らについては、いずれも形式的な届出要件を充
足しているものというべきである。
(二)口頭による届出(原告P1及び原告P10)について
(1)口頭による有効な国籍取得届出行為が可能であること
ア国籍法3条1項は、国籍取得届の手続について、「法務大臣に
届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。」
と規定し、届出の方式について法律による限定はない。したがっ
て、法定の要件を満たし、かつ届出の意思が確定的に表示されて
いるならば、口頭による届出行為も法律上有効かつ適法に行うこ
とが可能である。そして、口頭による届出において届出要件すべ
ての充足を書面によって証明させるのは背理であるから、届出行
為の本質的事項、すなわち、届出の内容ないし目的(本件でいえ
ば国籍の取得)及び届出人の特定が本人の申告若しくは提出書類
で確認できれば、口頭による届出は有効に成立するものというべ
きである。そのときに確認し得ないその余の要件は、後日の追完
によることで足りる。
イまた、被告自身が書面によらない口頭での届出行為を適法なも
のとして認めた先例も存在する。
フィリピン人女性と日本国民である男性の間の子について、そ
の出生前に日本国民である男性が胎児認知届をしようとしたが、
書類の不備を理由に届書の受理を許否され、日本国籍を取得でき
なかったため、出生後の平成5年4月に日本国籍の確認を求めて
広島地方裁判所に提訴した事件で、1996年11月18日、国
は、子の出生前に日本国民である男性による口頭での胎児認知届
があったことを認め、国籍法2条1号による国籍取得を認めた
(甲第13号証「国籍法における婚外子の平等処遇」第1項第2
段落及び注(1)、甲第14号証平成8年11月19日付け朝日新聞
朝刊広島版)。なお、法律上は、認知届は届書の提出によって行
う旨明記されている(民法781条、戸籍法60条)。
このように被告は、法律上その方式が明記されている届出につ
いてさえ、口頭による届出が有効に行い得ることを認めているの
であり、届出行為の方式が法律上限定されていない国籍取得届に
ついて口頭で行い得ることは法律上明らかである。
よって、原告P1及び原告P10については、口頭による国籍
取得届出行為があったか否かが問題となる。
ウ(ア)戸籍法60条が認知届は届書の提出によるものとする一方、
同法27条は、届出の方法について書面又は口頭で行うことが
できるとし、同法37条は、口頭による届出の方式等について
規定し、同条3項において口頭による認知届を認める趣旨の規
定がある。被告は、これらの規定を根拠に口頭による認知届は
法律上認められているのに対し、口頭による国籍取得届は法律
上認められていないから、原告P1及び原告P10について口
頭による国籍取得届を行ったとの原告らの主張は、失当である
と批判する。
しかしながら、以下に述べるとおり、この批判は的はずれで
ある。
(イ)戸籍法27条及び37条1項、2項の内容を詳しく見ると、
以下のとおりである。
戸籍法37条1項、2項は、口頭による届出の方式について
規定する。その内容は、届出人が市町村役場に出頭して届書に
記載すべき事項を陳述し、市町村長は、この陳述を筆記して日
付を記載したものを届出人に読み聞かせ、かつ届出人に署名押
印させる。
すなわち、同法27条が予定する「口頭による届出」とは、
市町村役場の窓口に赴いて口頭で届出をしたい旨を申し立てる
行為をすべて許容するものではなく、同法37条1項、2項に
明確に規定された一定の限定された方式を備えたものに限って
「口頭による届出」として許容しているのである。
(ウ)前述した事案(甲第13及び第14号証)は、子の父であ
る日本国民である男性が子の出生前に胎児認知の届出をしよう
としたところ、これを拒否された事案であり、戸籍法37条1
項、2項の「口頭による届出」の要件を充足していないことは
明らかである。嫡出推定が働くため、当時の戸籍実務では、書
面であれ口頭であれ、胎児認知はできない事案であったはずで
あり、また、そもそも口頭による届出が成立していたならば裁
判にならなかったはずである。したがって、同事案で父による
口頭での認知届があったとしているのは、決して同法37条に
規定する要件を充足した届出をいっているのではなく、正に同
法の規定していない口頭での申出行為を口頭での届出として認
めたものにほかならない。
したがって、同法27条及び37条が口頭による認知届を認
め、他方で、口頭による国籍取得届を認める規定が存在しない
ことをもって、原告P1及び原告P10についての口頭での国
籍取得届の成立を否定する被告の主張は、的はずれであり、失
当である。
(2)原告P1及び原告P10について口頭による国籍取得届出行為の
存在
ア原告P1は、平成17年3月9日、親権者母であるP3及び弁
護士と共に、千葉地方法務局館山支局を訪れ、対応した支局長に
対し、日本国民である父であるP4から認知を受けたことに基づ
き国籍取得届を行う旨を告げるとともに、届書及び必要書類(原
告P1の外国人登録原票記載事項証明書、P3の外国人登録原票
記載事項証明書、原告P1の認知が記載されたP4の戸籍謄本、
改正原戸籍謄本、原告P1の出生証明書及びその翻訳文)を提示
した。
これに対し、上記支局長は、原告P1らの上記届出の意思の内
容を了解し、かつ提示書類によって原告P1らの人定及びP4か
ら認知された事実を確認した上で、両親の婚姻が成立していない
ことを理由に届書の受領を許否した。これに対し、原告P1らは、
不受理証明書の交付を求めたが、同支局長は、これも許否した。
ただし、後日の確認のために、原告P1らが持参した国籍取得届
書のコピーを受領した。
イ原告P10は、平成17年2月25日、親権者母であるP12
及び弁護士と共に、国籍取得届のための必要書類(原告P10の
外国人登録原票記載事項証明書、P12の外国人登録原票記載事
項証明書、原告P10の認知が記載されたP14の戸籍謄本、原
告P10の出生証明書及びその翻訳文)を持参してさいたま地方
法務局越谷支局を訪れ、対応した職員に対し、上記書類を示して、
日本国民である父であるP14から認知を受けたことに基づき国
籍取得届出を行いたい旨を申し出た。これに対し、職員は、原告
P10らの上記届出の意思の内容を了解し、かつ提示書類によっ
て原告P10らの人定及びP14から認知された事実を確認した
上で、両親の婚姻が成立していないことを理由に届書の受領を許
否した。これに対し、原告P10らは、不受理証明書の交付を求
めたが、担当職員は、これも許否した。
ウ以上のとおり、原告P1及び原告P10は、いずれも日本国民
である父の認知を理由とする国籍取得届を口頭で行ったものであ
る。このことは、両原告らが外国人登録原票記載事項証明書、戸
籍謄本、出生証明書等の必要書類一式を事前に準備し、当日持参、
提示していること、両原告らが弁護士を同行したこと、不受理証
明書の交付を要求していること等からも明らかである。
また、上記各法務局職員が、上記各原告らの口頭による国籍取
得届での意思を認識理解したことも、上記の事実関係から明らか
である。
よって、原告P1及び原告P10について、口頭による適法有
効な国籍取得行為がなされたことは明らかである。
エなお、仮に口頭での国籍取得届出行為が法律上有効に行い得る
としても、原告P1及び原告P10については、いずれも届出に
伴い必要な書類の提出がされていないので、やはり届出行為の有
効性は認められないとの反論があり得る。
しかしながら、届出行為については、その意思が明確であり、
届出の理由も本人の説明内容から確認でき、合理的期間内に必要
書類の追完を期待することができる場合には、これを直ちに不適
法として排斥すべきではない。殊に、本件においては、上記原告
らは必要書類を整えて持参し実際に提示したにもかかわらず、対
応した職員がその受領を許否したため、提出できなかったのであ
るから、不提出による不利益を原告P1及び原告P10の側に課
すことは極めて不当である。したがって、必要書類の不提出を理
由に有効な届出行為の存在を否定することは許されない。
2被告の主張
(一)国籍取得の届出が適法なものであることを要すること
国籍法3条2項は、「前項の規定による届出をした者は、その届出
の時に日本国籍を取得する。」と定めるところ、規則1条は、届出の
手続を定めており、その届出はこれを満たした適法なものである必要
がある。
この届出は、法務局等(以下「受理機関」という。)に自ら出頭し
て行うべきものとされ、受理機関において受付事務が行われることに
なるところ、受理機関は、国籍取得の届出が適法なものである限り、
必ず受付をしなければならないが、届書の記載内容に不備があり、又
は添付書類を欠くなどの理由から適法な届出とは認められないときは、
これを受け付けないことは正当な取扱いというべきである。
そこで、実務上、受理機関が受付手続を行うに当たっては、届出人
の提出すべき書類がそろっているか否か、届書の記載が整っているか
否かを点検し、書類が不足する場合には完備させ、記載に不備がある
場合には補正させた上、適法な届出であると認められるときに受け付
ける取扱いがされている(昭和59年11月1日付け法務省民五第5
506号各法務局長、地方法務局長あて法務省民事局長通達(以下
「本件通達」という。)第1、2(2))。
ただし、窓口での混乱を避けるため、届出が適法でないことが明ら
かな場合であっても、届出人が強いて受付を求める場合には、いった
ん届出の受付をし、後日、届出が適法な手続によってされていない又
は国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨の通知をする
ことがある(本件通達第1、4(2))。
なお、本件通達は、上記届書の様式も定めており(本件通達付録第
1号様式。以下「1号様式」という。)、原告P1及び同P10以外
の原告らから提出された届書は、同様式によるものであった。
(二)原告P1及び原告P10以外の原告らについて
国籍法施行規則1条4号は、届書に「国籍を取得すべき事由」を記
載し、「国籍取得の条件を備えていることを証するに足りる書類」を
添付すべきことを定めるところ、上記「国籍を取得すべき事由」及び
「国籍取得の条件」が、法に定められた実体的な国籍取得要件に該当
する具体的事実関係を意味することは明らかである。
ところが、原告P1及び原告P10以外の原告らについては、両原
告らが主張する各日、受理機関に各原告らの法定代理人が出頭し、1
号様式による届書が提出されたものの、各届書における「国籍を取得
すべき事由」欄の記載は、国籍法3条1項に定める準正要件に該当す
る事実関係を欠いており、また、準正要件を満たしていることを証す
る書面も何ら添付されていなかった。
上記原告らが、国籍法3条1項に定める準正要件を実体的に欠くこ
とは、両原告らも自認するとおりであり、両原告らの届書は、その記
載内容に不備があり、かつ、添付書類を欠くものであって、適法な届
出と認められないものであった。
(三)原告P1及び原告P10について
原告P1及び原告P1母は、平成17年3月9日、弁護士と同行の
上、千葉地方法務局館山支局に来所し、国籍取得届の受付を求めたが、
同支局係官が、国籍法3条1項の要件を満たさない記載内容の国籍取
得届を受け付けることはできないと説明したところ、原告P1母らは、
強いて国籍取得届の受付を求めることなく退出した。
また、原告P10及び原告P10母は、同年2月25日、弁護士と
同行の上、さいたま地方法務局越谷支局に来所し、国籍取得届の受付
を求めたが、同支局係官が、国籍法3条1項の要件を満たさない記載
内容の国籍取得届を受け付けることはできないと説明したところ、原
告P10母らは、強いて国籍取得届の受付を求めることなく退出した。
国籍取得の届出は、これにより、その時点において国籍取得という
法的効果を生じさせるものであるところ、以上の事実関係によれば、
原告P1及び原告P10については、社会通念上そのような効果を生
じさせる国籍取得の届出と評価し得る事実がないといわざるを得ない。
(四)口頭による届出(原告P1及び原告P10)について
(1)戸籍法は、口頭による届出を認めていること
原告らの指摘するとおり、民法781条は、「認知は、戸籍法の
定めるところにより届け出ることによってする。」と定め、戸籍法
60条は、「認知をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、
その旨を届け出なければならない。」と定めているが、届出の通則
(第四章第一節)として、同法27条は、「届出は、書面又は口頭
でこれをすることができる。」と規定している。同条は、届出が書
面又は口頭のいずれによることもできることを明らかにした規定で
あって、報告的届出又は創設的届出のいずれにも適用されるとされ
ている。
そして、同法37条は、口頭による届出の手続等について規定し
ており、認知については、口頭による届出を代理人によってするこ
とはできないとされている(同条3項)。
以上のとおり、戸籍法上の届出については、法律上口頭での届出
が認められている。
(2)国籍法は、口頭による届出を認めていないこと
一方、国籍法上の届出については、国籍法19条によって国籍の
取得に関する手続について必要な事項を定めることを委任された国
籍法施行規則1条3項(同規則3条で準用する場合を含む。)にお
いて、届出は「書面によってしなければならない。」と定めている。
これは、届出意思の確認と届出の事務処理を適正迅速に行うため、
書面による要式行為とされたものであり、口頭による届出は無効で
あるとされている。
原告らは、国籍取得届の手続につき、口頭による届出により、届
出の内容ないし目的及び届出人が特定できれば足り、その余の要件
は後日の追完によることで足りると主張するが、かかる主張は、同
規則を無視した独自のものであり、失当である。
国籍法3条2項は、「前項の規定による届出をした者は、その届
出の時に日本の国籍を取得する。」と定めるところ、その届出は同
規則1条所定の各手続を満たした適法なものでなければならないこ
とは明らかである。
(以上)

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