弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 職権をもつて、本件上告趣意書の適否ないし効力の有無につき判断する。
 本件上告趣意書は、その差出最終日である昭和三九年一月八日に提出され、被告
人会社代表社員Aの作成名義にかかるものであるが、本件記録中の資料によれば、
被告人会社唯一の無限責任社員であつたAは、すでに昭和三八年一二月一八日死亡
していること並びに被告人会社定款には、無限責任社員たる代表社員死亡の場合に
おける、その資格相続についての特別の定めのないことが明らかであるので、本件
上告趣意書提出当時においては、被告人会社を代表すべき無限責任社員を欠いてい
たものと認めざるをえない(本件上告趣意書差出最終日の通知書は昭和三八年一二
月五日に送達されているので、右通知自体は有効である。なお、被告人会社として
は、当時、代表者を欠いたことにより上告趣意書の本件差出最終日以内の提出が期
待できない事情にあつたとすれば、残存有限責任社員等から、当裁判所に対し刑訴
二九条一項の規定に従い、特別代理人選任の職権発動を求め、選任せられた特別代
理人において、無限責任社員の新加入、会社継続等、所要の法的手続に要する日数
を勘案した上で、いわゆる上告趣意書差出最終日指定替の措置を求めるべきであつ
たと考えられる。)。従つて、本件上告趣意書の作成、提出が、残存有限責任社員
三名全員の意思に基づくものであることは、記録上、優に窺われるところではある
けれども、その提出当時においては、被告人会社の代表者でない者の作成、提出に
かかる点で、これを適式、有効のものと認める余地はなかつたものといわなければ
ならない。
 しかしながら、さらに本件記録中の資料を検討すると、被告人会社の有限責任社
員の一人であつた、亡Aの男Bは、昭和三九年二月二七日、戸籍上、「B」を「A」
と変更する届出を受理されたこと並びに同日被告人会社の有限責任社員Bが氏名を
Aと変更した旨、同年三月九日有限責任社員Aを無限責任社員に変更、会社を継続
した旨の各変更登記が、いずれも同年同月一三日付をもつてなされていることが認
められる。
 そこで、刑訴規則二六六条、二三八条の規定上、上告趣意書が差出最終日以後に
提出された場合においても、その遅延がやむをえない事情に基づくものと認められ
るときは、これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができるものと
されている趣旨を推及し、かつ、本件における前記の経過にかんがみれば、本件上
告趣意書の作成、提出に有限責任社員の一人として関与したものと認められ、かつ、
現在は無限責任社員として被告人会社の代表者であるAが右代表資格を取得するこ
とにより、本来無効であつた本件上告趣意書を有効とするだけの事実の変化(いわ
ゆる瑕疵の治癒)があつたものとして、結局本件上告趣意書は、これを有効と認め
て然るべきものと考えられる。
 被告人の上告趣意第一点について。
 所論は、判例違反をいうけれども、援用にかかる各判例は、いずれも本件には適
切でないから不適法であり、その余は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告
理由に当らない(なお、現行刑事訴訟法に公訴時効中断の規定がないからといつて、
その施行と同時に、他の法律に定められていた公訴時効中断の規定が当然に廃止さ
れたものとは解されない。従つて、いわゆる通告処分に公訴時効中断の効力を認め
た国税犯則取締法一五条も公訴時効中断につき現行刑事訴訟法の例外規定として有
効であると解されるから、所論の本件各罪につき公訴時効が完成したものとはいえ
ないとした原判断は相当である。)。
 同第二点について。
 所論は、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 同第三点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三九年一〇月一六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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