弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主      文
1 被告は,原告らに対し,別紙「請求明細一覧表」の「合計」欄記載の各金員及
びこれに対する平成12年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,被告を退職した原告らが,成績による「加給金」,営業実績賞与,
「ブルーチップ」と称する報奨金の未払があるとして,その支払を求めるものであ
る。
 これに対し,被告は,加給金,営業実績賞与,ブルーチップのいずれについても
支給日現在被告に在籍していることが支給要件(以下「支給日在籍要件」とい
う。)であり,原告らはいずれも受給資格がないとして争っている。
2 争いのない事実
(1) 当事者
 被告は,商品取引所法によって設置された商品取引所に上場された商品の売買及
びその取次ぎを業とする株式会社である。
 原告らは,いずれも被告と雇用契約を締結して被告に勤務していた従業員である
ところ,平成12年7月31日までに被告を退職した。
(2)加給金,営業実績賞与の意義
ア 被告をはじめとする商品取引員は,一般の顧客を勧誘し,顧客に商品先物取引
をしてもらい,その売買注文を取引所に取り次ぐことにより,顧客から委託手数料
収入を上げることを目的とする。したがって,被告が会社として収益を上げるため
には,営業社員が多数の顧客から契約を取ってくること,また,その顧客が1度だ
けではなく,継続して売買取引をしてくれることが必要である。
イ 営業社員が新規顧客を勧誘し契約を獲得するか否か,また,取引を開始した顧
客に以後の取引をアドバイスする売買管理部門がいかに顧客に多数の量,何度も取
引をしてもらうかが会社の売上げを決定するため,商品取引員各社は,ほぼ全社と
いってもよいくらい,名称はともかくとして,加給金制度,営業実績賞与を設けて
いる。これは,営業社員がどれだけの新規の顧客を獲得したか,売買管理部門が,
一定期間にどれだけの取引を顧客にしてもらったかを基準として支給されるもので
ある。
ウ 被告の場合,この加給金,営業実績賞与の査定基準は,原則は顧客からの資金
導入額の多寡によって決定され,また,新規の件数,売買枚数,残玉数なども勘案
して支給されることとされていた。
(3) ブルーチップの意義
ア ブルーチップは,被告が1か月あるいは2か月単位で実施していた営業成績に
よる懸賞(インセンティブ=報奨金)制度であり,一定期間の成績が,基準を達成
した場合に,順位に応じて副賞として現金が支給される制度である。
イ これも,職務に対する対価として支払われていたものであり,賃金に該当す
る。
(4) 原告らの加給金,営業実績賞与,ブルーチップの額
 原告らの加給金,営業実績賞与,ブルーチップの額を計算すると,別紙「請求明
細一覧表」記載のとおりの額となる。
3 争点
 本件の争点は,加給金,営業実績賞与,ブルーチップのいずれについても支給日
在籍要件を満たすことが支給要件であるかという点にある。
(1) 被告の主張
ア加給金,営業実績賞与,ブルーチップの性格について
(ア) 加給金,営業実績賞与,ブルーチップは,外務員報酬であり,生活給である
基本給とは異なる。外務員報酬である加給金,営業実績賞与,ブルーチップは,新
規顧客の開拓と取引を開始した顧客の取引の継続,反復による営業成績を上げるこ
とを目的として支払われるものであり,それゆえ,外務員報酬は単に一定期間の勤
務に対する実績以外に社員の勤務の継続を期待して支払われるものである。加え
て,外務員報酬は,甲1ないし5のとおり,一定期間ごとに支払の基準を定め,そ
の基準に従って支給しているが,その基準については,労使の合意を得ることな
く,一方的に経営者サイドで取り決めて実施するものである。それゆえ,外務員報
酬は,給与とは異なるため,乙1の給与規程に定めをしていないし,その支払基準
については労働基準監督
署への届出もしていない。甲1ないし5の支払基準は,経営者サイドが一方的に3
か月又は4か月の目標を定め,単なる基準を決めたものであるので,恒常的に実施
されている支給日在籍要件の有無はその記載の有無で判断されるべきものではな
く,外務員報酬の性格と被告での実施状況で判断されるべきものである。
(イ) 加給金,営業実績賞与,ブルーチップの性格は,前述のとおりであり,原告
らも認めているとおり,社員の勤務の継続を期待するところが大きい。加えて,経
営者サイドの一方的な支給基準で支給が実施されることは,被告の社員に対する恩
恵的な支給の色彩が強い。加給金等の外務員報酬の性格は,給与規程に定められて
いる定期賞与以上に経営者の判断による恩恵的なものであり,勤務の継続に対する
期待の要素が強いといえる。乙1の給与規程には,外務員報酬に関する規定はない
が,外務員報酬の性格から判断すれば,給与規程の第3条の(3)の①,第22ないし
24条所定の賞与すなわち定期賞与の性格を持つものである。給与規程の定期賞与
においては,支給日在籍要件の記載があるため,被告では,外務員報酬についても
定期賞与と同じ取扱
いで,給与規程に従って支給日に在籍していない社員に対しては支払っていない。
イ加給金,営業実績賞与,ブルーチップと支給日在籍要件について
(ア) 被告では,加給金等の外務員報酬について,社員が支給日に在籍しているこ
とを条件に支払を実施してきた。被告では,乙5,6のとおり,支給日現在在籍し
ていない社員に対しては,加給金等の外務員報酬の支給は一切していない。これ
は,乙2のとおり,加給金,営業実績賞与,ブルーチップなどの制度を取り入れた
当時から一貫して実施している(証人B,乙7)。証人Cの尋問においても,同人
は,営業実績賞与,ブルーチップについては支給を受けた者はいない旨を認めてい
る。加えて,証人Cは,ブルーチップについて,懸賞品が研修旅行の場合,支払基
準に支給日在籍要件の記載がないときにも受取ができないことを認めている。仮
に,ブルーチップの懸賞品が金銭のとき,支払基準に支給日在籍要件の記載がない
ことを理由に支払うこと
になると,ブルーチップの懸賞品が研修旅行であるときとそうでないときとで取扱
いが違うことになるが,ブルーチップの性格からいって,取扱いが異なることは明
らかにおかしい。取扱いは同じであるべきである。前述のとおり,その期ごとの経
営者サイドの一方的な方針でブルーチップの支払基準が決められることを考える
と,支給日在籍要件の記載がないことを理由に懸賞品の違いにより取扱いに差異が
生じることはどのように考えてもおかしい。加えて,ブルーチップの懸賞品が研修
旅行であることは,社員の将来の勤務に期待するものであり,勤務の継続を前提と
するものである。ブルーチップの性格からも,支給日在籍要件が当然の帰結と言っ
ても過言でない。
(イ) 定期賞与の支給日在籍要件の存在が有効であることは,最高裁が認めるとこ
ろである(最判昭和57年10月7日・判例時報1061号118頁,最判昭和6
0年3月12日等)。被告における加給金等の外務員報酬は,以下に挙げる理由に
より,定期賞与と同じように支給日在籍要件が適用されるべきものである。
①定期賞与と加給金等の外務員報酬とを比較するに,加給金等の外務員報酬は,
経営者サイドが一方的に期間を区切って取り決めるものであり,経営者サイドの一
方的な恩恵的側面が定期賞与以上であること。
②加給金等の外務員報酬は,社員の将来に向けての勤務の継続と意欲の向上を目
的とする側面があり,定期賞与と何ら変わらないこと。
③被告の給与規程には,前述のとおり,定期賞与については支給日在籍要件の記
載があり,定期賞与と加給金等の外務員報酬の性格から,定期賞与と同じように加
給金等の外務員報酬に支給日在籍要件を適用しても,不自然ではないこと。
④被告では,加給金等の外務員報酬の制度を取り入れた時から,支給日在籍要件
の適用を行っており,支給日に在籍していない社員には一切加給金等の外務員報酬
の支払を行っていないこと。
⑤原告らと一緒に被告に移籍した社員についても,加給金等の外務員報酬の支払
を受けないで退職しており(乙6),Dら幹部は,加給金等の外務員報酬の支給日
まで退職しないように慰留していること。
⑥被告の同業他社も,外務員報酬については,支給日在籍要件を当然のこととし
て採用しており,職場を転々として移転している原告らは,加給金等の外務員報酬
の支給日在籍要件の存在を知っていること。
⑦原告らは全員,平成12年8月25日に給料の支払を受け,円満退社してお
り,給料,外務員報酬について全く不満などなかった。甲10の「報酬については
この限りでない」との文言についても,平成12年8月25日の給料支払により解
決済みであったこと。
ウ 原告らが支給日在籍要件を充たさないことについて
  原告らは,平成12年7月31日までに被告を退職しているが,加給金,営業
実績賞与,ブルーチップの支払日はいずれも同年8月10日であり,支給日在籍要
件を満たしていない。
(2) 原告らの主張
ア 加給金,営業実績賞与,ブルーチップの性格について
  賃金とは,労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものであって,
賃金,手当,賞与その他名称のいかんを問わないとされる。
 労働契約の法的構造については,①労働力の引渡し,すなわち,約定の期日に使
用者の指揮圏内に入り,従業員たる地位と職務に就くこと,②労働者が自己の労働
力を日々使用者の処分にゆだね,その状態を継続すること,という二つの行為であ
ると解される。
 賃金請求権も,この労働契約の複合的性格によって部分ごとに別個に発生する。
前記①の従業員たる資格の取得自体に対応する部分は,「報償的部分」あるいは
「保証的部分」であり,前記②の労働力の提供に対応して発生する賃金は,「交換
的部分」である。現実の賃金体系にこれを当てはめれば,固定給の一部,出来高給
の保証給,家族・通勤・住宅の諸手当が①に該当し,能率給,能力給,出来高給,
精勤・皆勤手当などが②に性格づけられる。
 争いのない事実にあるとおりの加給金,営業実績賞与,ブルーチップの支給基準
によれば,これらは,賞与ではなく,出来高給あるいは歩合給に該当するというべ
きである。
イ 被告の給与規程との関係について
  被告の給与規程の中には,加給金,営業実績賞与,ブルーチップについて直接
規定した規定はないが,労働の対価としての性格を持ち,労働基準法11条所定の
賃金に該当することに変わりはない。
 被告の給与規程22条,23条に「賞与」の規定が設けられているが,これはい
わゆる定期賞与であり,7月と12月に支給されるもの
で,その算定基礎期間は,12月1日から5月末日と,6月1日から11月末日と
規定されている。
 加給金,営業実績賞与,ブルーチップは,毎月の営業成績を基礎として,これを
一定期間で締めくくった上支給されていたものであり,定期賞与とは性格を異にす
る歩合給,能力給であるから,給与規程にいう「賞与」に該当するものではない。
すなわち,加給金,営業実績賞与,ブルーチップは,給与規程に規定された「賞
与」の算定基礎期間や支給時期とは,その算定基礎も支給日も異なるものであっ
て,営業実績賞与についていえば,①算定の期間が4月1日から7月末日までであ
る点,②支給日が8月10日である点,③金額が営業成績によって決定される点に
おいて,定期賞与とは異なるものである。
 したがって,定期賞与に関して,給与規程23条が「賞与は,…支給日現在に在
職している社員に対し支給する。」と支給日在籍要件について規定していても,か
かる規定は,加給金,営業実績賞与,ブルーチップには適用がない。
ウ 支給日在籍要件の厳格適用について
  仮に,被告が主張するように,加給金,営業実績賞与,ブルーチップが実質的
に「賞与」に該当するものであると解される場合にも,その算定基礎期間や支給日
が異なる以上,労働の対償としての賃金の支払を制限する規定である給与規程23
条は,制限的に解すべきものであって,拡張解釈は認められるべきでない。
定期賞与に関する支給日在籍要件を有効と判示した判決は,その理由を「勤務の継
続を目的とするものであるから」とか,「規定を承諾して入社したものであるか
ら」などと述べている。
原告は,かかる規定を有効と解する場合にあっても,労働の対価である以上,厳格
に適用されるべきものであると考える。
したがって,規定の予定していない他の名目の労働の対価についてまで,この規定
を拡大解釈して適用することは厳に慎むべきと考える。
エ 過去の支給実績について
  乙2は,平成5年のもので,原告らが入社する相当以前のものであり,これに
は,ブルーチップ,奨励金,賞与について,「支給日現在在籍者に限る」との記載
がある。
しかし,原告らが入社した以後の「加給金基準」,「賞与基準」には「支給日在籍
要件」の記載はないし,そのような取決めの存在は聞かされていない。原告らが在
籍中の乙2に該当する書類は甲1ないし5であるところ,そのような記載は存在せ
ず,原告らはそのような扱いについて認識していない。
証人Bは,「ブルーチップ,加給金,営業実績賞与は賞与である」と述べ,このこ
とは,平成10年に原告らが入社した後も「意識は一緒である」と証言している。
しかし,被告の給与規程には,定期賞与の規定はあるものの,営業実績賞与や
加給金に関する規定は一切存在せず,そのような類推は不適当といわざるを得な
い。
証人Bの証言によれば,「加給金,営業実績賞与という名の制度が採用された
のは平成10年ころからであり,それ以降は支給日在籍要件は明示されていなかっ
た」ものである。
甲7の1は給与,定期賞与に関し被告が発行した源泉徴収票であり,甲7の2は外
務員歩合給の名で被告が発行した「加給金,ブルーチップ,営業実績賞与」の源泉
徴収票であるが,2通の金額を対比すれば,外務員歩合給の金額が573万644
4円と極めて高額であり,給与賞与866万円に勝るとも劣らない重要な生活給と
なっていたことは容易に推測し得る事実である。被告がこのように2通の名目で支
給していた理由は,「税務対策」であり,社員は,確定申告をなす際に,「外務員
報酬」に対する営業経費を計上して申告をしており,一方,被告は,本来被告が負
担すべき営業経費の一部を社員の負担とさせることによって経費の削減が可能であ
る。証人Bの証言によれば,被告は,「平成7年くらいまでは基本給と加給金部分
を給与所得として一
本化で支給していた」とのことであり,外務員報酬という区分が税務対策上のもの
にすぎないことが浮き彫りとされている。給与,賞与,加給金,営業実績賞与,ブ
ルーチップのすべてが給与所得として取り扱われていたものである。
 万一被告において,加給金や営業実績賞与に関してまで支給日在籍要件を適用し
てきた経緯が存するとしても,それはその運用自体が労働基準法24条の規定に違
反するものであって,直ちに是正されるべきものであり,原告らはその取扱いに拘
束されるものではない。
オ 結論
労働の対価である賃金を労働者の承諾なく支給しないという取扱いは,特に就業規
則や給与規程に明示されていればともかく,そうでない限りは認められるものでは
ない。
第3 判断
1 前記争いのない事実に証拠(証人C,同B,甲1ないし6,7の1,2,8の
1,2,乙1,2,4,7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
(1) 被告においては,平成2年10月期以前は,歩合外務員については,社会保険
料を支払えるだけの最低限の固定給と売上手数料の35パーセントくらいの割合に
よる歩合給からなる給与制度を採用しており,営業経費は,外務員の個人負担とし
ていた。
(2) その後,組織による営業へと営業態勢が変わっていく中で,給与体系も変えて
給与の安定を図ることとし,固定給部分を多くするとともに,それまでの歩合給に
代わって,ブルーチップを含む表彰制度,奨励金制度,営業実績に対応した賞与で
ある営業実績賞与制度が導入された。
  ブルーチップによる表彰の場合,旅行等の現物支給的なものが大半であった
が,その副賞としての現金が支給され,また,期ごとに支給内容が変わり,現金の
みの支給の場合もあった。
(3) 平成5年当時の被告における給与,報酬体系としては,給与規程に定めのある
給与,賞与(いわゆる定期賞与)のほかに,社員の売上げ等の実績に対応したブル
ーチップを含む表彰制度,奨励金制度,営業実績賞与制度が存在しており,ブルー
チップと奨励金については,「支給対象者は支給日現在在籍者に限る」と明記され
ていた(乙2)。
(4) 乙2に記載の「支給対象者は支給日現在在籍者に限る」との支給日在籍要件に
係る記載は,平成七,八年ころまでは記載されていたが,それ以降は記載されなく
なった。
(5) 被告は,平成10年7月ころ,従前のブルーチップを含む表彰制度,奨励金制
度,営業実績賞与制度について,被告へ大量移籍してきた社員が従前勤務していた
ミリオン貿易株式会社の制度を基に,本件で原告らが請求している加給金,営業実
績賞与,ブルーチップの制度に改めた。
被告における加給金,営業実績賞与の査定基準は,原則は顧客からの資金導入
額の多寡によって決定され,また,新規の件数,売買枚数,残玉数なども勘案して
支給されることとされ,ブルーチップは,被告が1か月あるいは2か月単位で実施
していた営業成績による懸賞制度で,一定期間の成績が,基準を達成した場合に,
順位に応じて副賞として現金が支給される制度であり,加給金については,毎月の
実績に応じて翌月の10日に,営業実績賞与については,平成12年3月までは,
3か月を1期とし,その間の実績に応じて翌月の10日に,同年4月以降は,4か
月を1期とし,その間の実績に応じて翌月の10日に支払われ,ブルーチップにつ
いては,平成12年第4期は,2か月単位の達成率に応じて現金が支給されるもの
とされた(甲5)。
  被告においては,加給金,営業実績賞与,ブルーチップのいずれについても,
事前に各期ごとの具体的支給基準等が定められて書面化され,これが社内に配布さ
れていたものであり,その配布された書面には,支給日在籍要件の記載はなかった
(甲1ないし5)。
(6) 被告においては,平成7年ころまでは,給与規程に規定された給与及び定期賞
与とこれに規定のないブルーチップを含む表彰制度,奨励金制度,営業実績賞与制
度に基づき支給される金員を合わせた額を給与所得の源泉徴収票に記載していた。
しかし,その後は,税務対策として,給与規程に規定された給与及び定期賞与は,
給与所得の源泉徴収票に記載し(甲7の1,8の1),給与規程に規定のない加給
金,営業実績賞与,ブルーチップなどの制度に基づき支給される金員については,
報酬,料金,契約金及び賞金の支払調書に外務員歩合給として記載していた(甲7
の2,8の2)。
(7) 原告らは,平成10年7月,被告に入社した。その際,被告は,原告らに対
し,給与体系についての説明をし,加給金,営業実績賞与,ブルーチップの制度に
ついても説明したが,加給金,営業実績賞与,ブルーチップに支給日在籍要件があ
るとの説明はしなかった。
(8) 平成12年4月1日から実施されている被告の給与規程(乙1)の3条は,給
与の体系として,基準内賃金,基準外賃金,特別賃金があり,基準内賃金には,基
本給として本俸,手当として役職手当,営業手当,住宅手当,物価手当,市場代表
者手当,単身赴任手当,調整手当が,基準外賃金には,時間外労働手当として残業
手当,休日出勤手当,深夜労働手当,その他の手当として通勤手当が,特別賃金に
は,在職中に支給される賃金として賞与,退職後に支給される賃金として退職金
(年金)がある旨規定しているところ,同給与規程にいう賞与については,同22
条1項において,「賞与は,12月1日から5月末日迄の算定基礎期間について7
月に,6月1日から11月末日迄の算定基礎期間について12月に支給する。」と
規定しており,いわゆ
る定期賞与について規定したものであり,同給与規程には,加給金,営業実績賞
与,ブルーチップの制度に関する規定はない。
そして,同給与規程23条は,「賞与は,各算定基礎期間に勤務し,支給日現在に
在職している社員に対し支給する。」と規定し,定期賞与に係る支給日在籍要件を
明記している。
2 以上認定のとおり,被告においては,平成2年10月期以降の給与体系の変更
に伴い,固定給部分を多くするとともに,それまでの歩合給に代わって,ブルーチ
ップを含む表彰制度,奨励金制度,営業実績賞与制度を導入したものであり,その
導入当時は同制度に基づく支給に関して支給日在籍要件に係る記載があったが,平
成七,八年ころ以降はその記載がされなくなったこと,被告は,平成10年7月こ
ろ,それまでのブルーチップを含む表彰制度,奨励金制度,営業実績賞与制度を本
件で原告らが請求している加給金,営業実績賞与,ブルーチップの制度に改めた
が,この制度に関して社員に配布された書面にも,支給日在籍要件の記載はなく,
同年7月被告に入社した原告らは,入社に際し,被告から,給与体系の説明を受
け,加給金,営業実績賞
与,ブルーチップの制度についても説明を受けたものの,加給金,営業実績賞与,
ブルーチップに支給日在籍要件があるとの説明は受けなかったこと,被告の給与規
程においては,定期賞与に係る支給日在籍要件は明記されているが,同給与規程に
は加給金,営業実績賞与,ブルーチップに係る規定はなく,定期賞与に係る支給日
在籍要件が当然に加給金,営業実績賞与,ブルーチップにも適用されることが明示
されていないことが認められる。
  そうすると,原告らと被告との間の労働契約における給与については,給与規
程に規定のある前記の各基準内賃金,基準外賃金及び特別賃金の支給のほか,加給
金,営業実績賞与,ブルーチップの支給も受けられることが合意されたものという
べきであり,定期賞与については,支給日在籍要件があることが,給与規程によっ
て,原告らと被告との間の労働契約における合意内容になったものといえるが,加
給金,営業実績賞与,ブルーチップについても支給日在籍要件があることが合意内
容となったものということはできない。
そうすると,加給金,営業実績賞与,ブルーチップのいずれについても支給日
在籍要件を満たすことが支給要件であるということはできず,原告らが,平成12
年7月31日までに被告を退職したからといって,同年8月10日が支給日である
加給金,営業実績賞与,ブルーチップについて支給を受けることができないものと
認めることはできない。
3 これに対し,被告は,加給金,営業実績賞与,ブルーチップは,外務員報酬で
あり,支給日在籍要件の有無は,その記載の有無ではなく,外務員報酬としての性
格と被告での実施状況で判断されるべきであって,その性格から判断すれば,給与
規程の定める定期賞与の性格を持つものであるから,定期賞与と同じように支給日
在籍要件が適用されるべきである旨主張し,その根拠として,①定期賞与と加給金
等の外務員報酬とを比較すると,外務員報酬は,経営者サイドが一方的に期間を区
切って取り決めるものであり,経営者サイドの一方的な恩恵的側面が定期賞与以上
であること,②外務員報酬は,社員の将来に向けての勤務の継続と意欲の向上を目
的とする側面があり,定期賞与と何ら変わらないこと,③被告の給与規程には,定
期賞与について支給
日在籍要件の記載があり,定期賞与と外務員報酬の性格から,定期賞与と同じよう
に外務員報酬に支給日在籍要件を適用しても,不自然ではないこと,④被告では,
外務員報酬の制度を取り入れた時から,支給日在籍要件の適用を行っており,支給
日に在籍していない社員には一切外務員報酬の支払を行っていないこと,⑤原告ら
と一緒に被告に移籍した社員も,外務員報酬の支払を受けないで退職したが,その
際支給日まで退職しないように慰留されたこと,⑥被告の同業他社も,外務員報酬
については,支給日在籍要件を当然のこととして採用しており,職場を転々と移転
している原告らは,外務員報酬の支給日在籍要件の存在を知っていること,⑦原告
らは全員,平成12年8月25日に給料の支払を受け,円満退社しており,外務員
報酬について全く不
満などなかったことを挙げる。
しかし,被告の主張するとおり,加給金,営業実績賞与,ブルーチップが「経
営者サイドが一方的に期間を区切って取り決める」ものであるとしても,前記認定
のとおり,被告における加給金,営業実績賞与の査定基準は,原則は顧客からの資
金導入額の多寡によって決定され,また,新規の件数,売買枚数,残玉数なども勘
案して支給されることとされ,ブルーチップは,被告が1か月あるいは2か月単位
で実施していた営業成績による懸賞制度で,一定期間の成績が,基準を達成した場
合に,順位に応じて副賞として現金が支給される制度であったところ,加給金につ
いては,毎月の実績に応じて翌月の10日に,営業実績賞与については,平成12
年3月までは,3か月を1期とし,その間の実績に応じて翌月の10日に,同年4
月以降は,4か月を
1期とし,その間の実績に応じて翌月の10日に支払われ,ブルーチップについて
は,平成12年第4期は,2か月単位の達成率に応じて現金が支給されるものとさ
れたものであって,加給金,営業実績賞与,ブルーチップのいずれについても,事
前に各期ごとの具体的支給基準等が定められて書面化され,これが社内に配布され
ていたものであるから,このように事前に具体的支給基準が決められていた以上,
これに基づいて発生する請求権について,「経営者サイドの一方的な恩恵的」なも
のということは困難である。
  また,被告の主張するとおり,加給金,営業実績賞与,ブルーチップに社員の
将来に向けての勤務の継続と意欲の向上を目的とする側面があるとしても,そのよ
うな性格論から,明文の定め等がないにもかかわらず,算定基礎も支給日も異なる
ものとして規定されている定期賞与について定められた支給日在籍要件について,
当然に加給金,営業実績賞与,ブルーチップにも適用されると解することは,労働
契約における原告らと被告の合理的意思解釈としての域を超えるものというべきで
ある。
さらに,被告が主張するとおり,被告において外務員報酬の制度を取り入れた時か
ら,支給日在籍要件の適用を行っており,原告らと一緒に被告に移籍した社員も,
外務員報酬の支払を受けないで退職したが,その際支給日まで退職しないように慰
留されたとしても,そのことにより,定期賞与について規定された支給日在籍要件
が加給金,営業実績賞与,ブルーチップにも適用されることが原告らと被告との間
の労働契約における合意内容となっていたことを裏付けるに足りる事情ということ
はできない。
そして,被告は,原告らは全員,平成12年8月25日に給料の支払を受け,円満
退社しており,外務員報酬について全く不満などなかった旨主張するが,証人Cの
証言によれば,甲10の「退職に伴う確認書」と題する書面に「但し,退職社員個
々の報酬の件については,この限りではない。」との文言が入ったのは,加給金,
営業実績賞与,ブルーチップ等の労働に対する報酬については,今後要求すること
があることを留保したものであると認められるのであって,定期賞与について規定
された支給日在籍要件が加給金,営業実績賞与,ブルーチップにも適用され,原告
らがその支給を受けられないことを納得した上で円満退社したものということはで
きない。
さらに,被告は,ブルーチップについて,懸賞品が研修旅行の場合は,支払基準に
支給日在籍要件の記載がないときにも,支給日に在籍しない者がその受取ができな
いことを証人Cも認めるところ,仮に,ブルーチップの懸賞品が金銭のときは,支
払基準に支給日在籍要件の記載がないことを理由に支払うことになると,ブルーチ
ップの懸賞品が研修旅行であるときとそうでないときとで取扱いが違うことになる
が,ブルーチップの性格からいって,取扱いが異なることは明らかにおかしい旨主
張する。
しかし,証人Cも,懸賞品が研修旅行の場合は,その支給日である旅行実施日に既
に在職していない者については,旅行に参加できない旨認めているにすぎず,旅行
の副賞としての金銭について,あるいはブルーチップの懸賞品が金銭である場合に
ついて,支給日前に退職した者は,その支給も受けられないことまで認めているも
のではない。
4 以上によれば,加給金,営業実績賞与,ブルーチップについて,定期賞与につ
いて規定された支給日在籍要件が適用になるものということはできず,原告らの加
給金,営業実績賞与,ブルーチップの額を計算すると,別紙「請求明細一覧表」記
載のとおりの額となることは,当事者間に争いがないから,原告らは,それぞれ同
額の請求権を有するというべきである。
第4 結論
 よって,原告らの請求はすべて理由があるから,いずれも認容することとし,主
文のとおり判決する。
 名古屋地方裁判所民事第1部
裁判官橋本昌純

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