弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人古家福丘の上告趣意について。
 論旨第一点は事実誤認と法令違反の主張、同第二点は量刑不当の主張であつて刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。なお、所論自転車番号札採用施行に関する条例
であつても、昭和二五年茨城県条例第二三号(記録一冊、五九四丁)、のように、
その内容によつては必ずしも県の予算を伴なわない条例も可能であり、このような
県条例議案の提案及びその議決が県議会議員の職務権限に属することは明白である。
そして、第一審判決判示の「条例案」が右のような内容のものを含む趣旨であるこ
とは、その判文及び挙示の各証拠、特に、一審公判廷における被告人A及び同Bの
各供述(同三三六丁以下、五二四丁以下)に徴し明らかである。さすれば、かよう
な条例案の提案及びその議決に関して尽力方請託しその報酬として金員を供与した
以上、贈賄罪の成立を免れないことは当然である。またかりに、所論のように、右
条例が県の予算を伴うものであるため、県議会議員において、その議案を提案する
権限を有しないとしても、いやしくもかゝる議案の議決について職務権限を有する
以上は、その議決について尽力方請託しその報酬として金員を供与すればまた贈賄
罪が成立するものといわなければならない。従つて、いずれにしても、本件贈賄罪
の成立については、所論主張の、予算を伴う県条例議案の提案権が県議会議員にあ
るか否かの点について判断するまでもないところであるから、原判決が所論の点に
ついて確定判示するところがなかつたとしても、なんら所論のような違法はない。
 被告人A、同Bの弁護人重富義男の上告趣意について。
 諭旨第一点は訴訟法違反と事実誤認の主張、同第二点は理由不備、審理不尽の主
張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない(なお、本件において、予算を伴う
条例議案の提案権が県議会議員にあるか否かの点につき判断の必要のないことにつ
いては、古屋弁護人の上告趣意に対する前示説明参照)。
 被告人Cの弁護人海野普吉、同新野慶次郎、同江橋英五郎の上告趣意について。
 論旨第一点は憲法三二条違反をいうが、その実質は原判決の判断遺脱をいう訴訟
法違反、同第二点は量刑不当の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
なお、原判決は、所論控訴趣意第三点について所論指摘のように説示したに止まる
けれども、同控訴趣意第四点に対する判断において、「原判決の判示するところも、
請託の内容は、要するに自転車番号札採用施行に関する山梨県条例の制定にありと
することは極めて明白であり、而して此のことは原判決の挙示する照応証拠により
優にこれを認め得られるところである云々」と説示しており、右は本件請託の内容
と金員授受の趣旨に関する所論事実誤認の主張を排斥した趣旨であると認められる
のみならず、一審判決挙示の各証拠によればその認定にかゝる本件請託の内容、金
員授受の趣旨は優に肯認できるところであるから、たとえ原判決に所論のような判
断遺脱があるとしても、その違法はいまだ判決に影響を及ぼすものとは認められな
い。
 また、記録を調べても、本件について刑訴四一一条を適用すべきものとは認めら
れない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三三年五月七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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