弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主          文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 被告は,愛知県愛知郡東郷町の町民交流拠点施設「(仮称)夢創造の森」整備事
業に係る施設建設請負代金を支出してはならない。
第2 事案の概要
 本件は,愛知県愛知郡東郷町(以下「町」という。)の町民である原告らが,町
民交流拠点施設「(仮称)夢創造の森」整備事業(以下「本件事業」という。)に
係る施設建設請負契約は,これに先行した設計競技が偽装されたものであり,ま
た,その際に見積もられた概算事業費を大幅に上回る請負代金が定められていて,
地方自治法(以下「法」という。)2条14項等に違反するなどと主張して,被告
に対し,法242条の2第1項1号に基づき,請負代金の支出の差止めを求めた住
民訴訟である。
1 前提となる事実
(1) 当事者
ア 原告らは,いずれも町の住民である。
イ 被告は,本件事業に係る施設建設請負代金の支出命令権者である。
(2) 町による福祉関連施設用地の取得と利用方法の検討
 町は,平成9年11月19日,町役場の東側に隣接する同町大字春木字西羽根穴
2225番4,同2228番1,同番4の一団の印刷会社跡地約1.6ヘクタール
(以下「本件土地」という。)を,福祉関連施設用地とする目的で取得した。
 町は,平成11年5月12日,株式会社創建(以下「創建」という。)との間
で,本件土地の利用方法の検討を委託する内容の公共用地土地利用調査委託契約を
代金430万5000円(消費税を含む。以下,契約代金について同じ。)で締結
した(乙2)。創建は,同契約に基づき,同年9月11日,同年10月29日,同
年11月26日,平成12年1月7日,同月22日及び同年2月21日の6回にわ
たって,公募に応じた町民参加のワーキングを開催し,その結果を平成12年3月
付け町作成の「東郷町公共用地土地利用検討報告書」として取りまとめた(乙
3)。
 町は,これを受けて,平成12年5月29日,関係各部の次・課長級の職員8名
から成る公共用地土地利用検討委員会を設置し(乙4),同年6月から11月まで
の間に10回にわたる会合の検討結果を踏まえて,公共用地土地利用基本構想
(案)をまとめた。同案は,その後,幹部会議を経た上,議会全員協議会で了承さ
れ,平成13年3月26日,導入機能・施設,施設規模,施設配置,概算事業費等
の内容を含む公共用地土地利用基本構想(以下「本件基本構想」という。)として
最終的に決定された(甲1,5,16,26,乙4,6,弁論の全趣旨)。
 なお,その過程で,町は,平成12年6月12日,創建との間で,上記ワーキン
グより提示された土地利用案を基に,町役場各部にて具体的内容を検討して土地利
用構想案を策定すべく,上記公共用地土地利用検討委員会の審議を踏まえて各案の
長所・短所を整理し,必要な資料を同社から同委員会に提出してもらう内容の公共
用地土地利用基本構想調査委託契約を代金351万7500円で締結し,平成13
年1月26日,その契約期間を延長する内容の契約変更を行っている(乙5の1及
び2)。
(3) 設計競技の実施と設計業務委託等
 町は,本件基本構想を基本理念及び基本方針として,本件土地上に町民交流拠点
施設「(仮称)夢創造の森」(以下「本件事業施設」という。)を整備すべく本件
事業を立ち上げることを決定し,本件基本構想が最終的に確定する前の平成13年
3月21日には,同施設の設計者を選定するための設計競技(以下「本件設計競
技」という。)の実施要領を定めた(甲1)。
 本件設計競技は,指名設計競技の方法によるものとされた(同要領4(1))ため,
同年4月2日に指名業者等選定審査会が開かれ,指名業者(本件設計競技参加者)
として,株式会社アール・アイ・エー,株式会社青島設計,創建,株式会社司設計
事務所,株式会社東海設計,野々山建築設計株式会社の6社が選定された(甲
3)。同6社は,同月4日から11日までの間に,相次いで,被告に対し,本件設
計競技に参加する旨の指名設計競技参加承諾書を提出し(乙7の1ないし6),上
記実施要領において提出期限とされた同月26日午後5時までに,それぞれ設計案
を提出した。
 町は,同月27日,本件設計競技について,被告の諮問により,競技参加者から
提出のあった提案内容等を審査するための町民交流拠点施設「(仮称)夢創造の
森」整備事業指名設計競技評価審査会を設置した(乙8)。同審査会は,同年5月
1日午後1時30分から開催され(以下「本件審査会」という。),業者名を伏せ
た審査により,応募案番号2(株式会社司設計事務所の設計案)と同6(創建の設
計案)の2案を優秀作品の候補として,被告に答申した(甲2,乙9)ところ,被
告は,最終的に両案「を比較・検討し評価した結果,土地利用基本構想の基本方向
とコンセプトを踏まえ,屋外施設の芝生広場やビオトープなど,施設全体を交流の
場として機能的に配置している点において,より優れている応募案No.6を最優
秀作品と選定」し(乙
10),同月22日,同案の提案者である創建との間で,町民交流拠点施設「(仮
称)夢創造の森」整備工事の設計業務を委託する内容の(仮称)町民交流拠点施設
整備工事設計業務委託契約を,代金5491万5000円で締結した(乙11の1
及び2。以下「本件設計契約」といい,その委託に係る設計業務を「本件設計業
務」と,その業務目的物を,種類に応じて「本件基本設計」及び「本件実施設計」
と,両者を併せて「本件設計」という。また,本件設計に係る本件事業施設を「本
件施設」という。)。
 他方,町は,同年4月27日に町議会議員5名で構成される(仮称)夢創造の森
建設委員会を,同年5月10日には関係課長らで構成される(仮称)夢創造の森整
備事業庁内建設委員会を,それぞれ設置し(以下,両委員会を併せて「両建設委員
会」という。),本件基本設計における主要な機能及び施設の配置,面積等につい
ての意見の取りまとめ,本件実施設計における詳細の確認と意見の取りまとめ等の
任に当たらせた(甲16,乙13,14の1ないし3)。
 本件設計契約は,その後,同年11月16日と平成14年3月19日の2度,納
期に係る契約変更があった(甲9)ものの,創建は,同年5月15日,被告に対
し,検査結果が合格のときは業務目的物を引き渡す旨の完了届を提出し,翌16日
ないし17日に行われた町の企画情報課長による検査の結果,同月20日に合格で
あることが確認されて,本件設計業務は完了した(乙12の1及び2)。そこで,
町は,創建に対し,同年6月10日,本件設計契約の代金を支払った(弁論の全趣
旨)。
(4) 本件施設建設工事の入札と請負工事等
 町は,本件施設の建設工事を,本体工事,空調換気・給排水衛生設備工事,電気
設備工事,造園工事に区分した上,平成14年7月15日,本体工事と空調換気・
給排水衛生設備工事については制限付き一般競争入札を,電気設備工事については
指名競争入札をそれぞれ実施した結果,本体工事は清水・大井特定建設工事共同企
業体が19億7925万円で,空調換気・給排水衛生設備工事は菱和・春木特定建
設工事共同企業体が6億0900万円で,電気設備工事は東光電気工事株式会社が
2億5725万円でそれぞれ落札したため,町は,議会の承認を得た上,同月30
日,これらの企業との間で,各入札に係る内容の工事請負契約を締結した(乙15
ないし17,弁論の全趣旨)。また,造園工事についても,指名競争入札が実施さ
れた結果,清水建設
株式会社が9765万円で落札したため,町は,議会の承認を得た上,同年12月
4日,同社との間で,同内容の造園工事請負契約を締結した(乙19,弁論の全趣
旨。以下,これら4件の工事に係る入札をまとめて「本件各工事入札」と,その後
の工事請負契約をまとめて「本件各請負契約」と,その代金を「本件各請負代金」
という。)。なお,本件各請負工事の完了時期は平成16年1月31日とされてい
る。
 また,町は,同年7月30日,創建との間で,これら各請負工事の監理を委託す
る内容の本件施設建設工事監理業務委託契約を,代金1681万0500円で締結
した(乙18)。
(5) 原告らの住民監査請求と本訴の提訴
 原告らは,平成14年10月31日,法242条1項に基づき,町監査委員に対
し,本件事業への費用の支出の差止めを求めて,住民監査請求をした(甲10。以
下「本件第1次監査請求」という。)が,町監査委員は,同年12月25日付け東
監発第34号をもって,同請求の理由として主張された内容が財務会計上の行為に
ついてのものではなく,又は住民監査請求の範囲を超えるものであるとして,これ
を却下した(甲11)ため,原告らは,平成15年1月17日,これが監査委員に
よる監査職務の放棄であるなどとして,再度,町監査委員に対し,同趣旨の住民監
査請求をした(甲12。以下「本件第2次監査請求」という。)ところ,町監査委
員は,同年3月18日付け東監発第10号をもって,前回と同旨の理由でこれを却
下した(甲13)。
 原告らは,これらの監査結果を不服として,同年4月16日,法242条の2第
1項1号に基づき,本訴を提起した。
2 本件の争点とこれに関する当事者の主張
 本件の争点は,本件各請負代金の支出(以下「本件支出」という。)に係る違法
の有無であり,これに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告らの主張)
(1) 本件設計競技の偽装性と違法
ア 本件設計競技は,指名から応募の締切りまでわずか20日余りの期間で行われ
たもので,明確な審査基準の事前の公表もなかったことから,これに参加した他の
5社に比べ,公共用地土地利用調査委託契約や公共用地土地利用基本構想調査委託
契約を経て,コンセプトを固め,イメージパースまで作成していた創建の優位は明
らかであるところ,同社が加わり,審査ルールを作った監督がゲームの途中でプレ
ーヤーに変身したことにより,その公平性は失われている。
 すなわち,設計競技においては,総事業費を提示し,これを含めた審査基準を設
定すべきであるにもかかわらず,これが意図的に伏せられた結果,審査基準として
最も重要な予定事業費という物差しが外される結果となっている。また,平成13
年度に町に対して「入札参加資格審査申請書」を提出した業者は196社に上り,
そのうち実績,資力,技術,信用等の総合力で創建よりも優れている社は,全国的
な業者20社近くを含めて約70社に達するにもかかわらず,建築で見るべき実績
のない創建と極めて規模の小さい野々山建築設計株式会社が指名業者に選定されて
いることからすると,だれかが恣意的に競技参加者を選定したとしか考えられな
い。さらに,本件審査会は,町職員と町議会議員のみで構成され,外部の専門家は
含まれていなかったと
ころ,その席上,ヒアリングもプレゼンテーションも行われずに,内輪の者である
委員10名が,創建案は「評価は高い。悪い点があればお聞きしたい。」とか,他
社案は「建設費が安すぎないだろうか。」など,銘々が気付いた点を意見として述
べたにすぎず,その結果,本件設計競技実施要領で定める留意事項に的確に対応し
ていない創建案を最優秀作品として選定するなど,本件設計競技がコンペの体を成
していないことは明らかである。
 このことは,創建のホームページに,上記応募の締切日である平成13年4月2
6日付けで,「この度,当社が提出した計画案が採択されました。東郷町の町民交
流拠点施設『(仮称)夢創造の森』です。」と掲載されていること,2度にわたっ
て本件設計の納期が大幅に延長されたこと,後に本件施設建設費が大幅に増加した
ことなどからもうかがい知ることができる。
イ そもそも,本件設計競技は,地方自治法施行令(以下「令」という。)167
条に定める指名競争入札の要件を満たさず,一般競争入札を実施すべきであるの
に,恣意的に6社を選んで指名競争入札としたものである。また,令167条の1
0の2第3項は,最低価格入札者以外の者を落札者とすることができる場合(総合
評価一般競争入札)においては,落札者決定基準を定めそれを公告しなければなら
ないと定めているにもかかわらず,本件設計競技実施要領には,審査の方法として
「審査は,選定委員会により厳正に審査した後,最優秀案1点を選定する。」旨記
されているだけで,本件審査会の記録からも,選定基準が存在しなかったことは明
らかである。これらの点から,本件設計競技は,法234条2項に違反する。
ウ さらに,本件設計競技において概算事業費が高額な案を選定したのは,法2条
14項違反である。
エ 被告は,本件事業施設が極めて非定型的な性格を有することを前提に,本件設
計競技は随意契約の相手方を特定する前置手続にすぎず,そこに参加する業者の選
定方法についても,法令等は何らの規制をしておらず,町の広範な裁量に委ねられ
ている旨主張するが,本件設計競技においては,本件事業施設の詳細な設計条件が
提示され,デザイン,構造はもとより,平面図,立面図,求積図求積表,概算事業
費などが確定しており,同施設の性格が極めて非定型であるとは考えられない。本
件設計競技実施要領が最優秀案応募者と設計業務委託契約を締結するとしている意
味は,落札業者が,応募案に基づいて基本設計図及び実施設計図を引くという当然
の作業を行うべきことが約束されているにすぎないもので,設計内容のすべてが確
定してしまった後で
,デザインなどの創意工夫が求められる随意契約の必要性が残されているとは考え
られないから,令167条,167条の2で認められている指名競争入札,随意契
約のいずれの条件にも該当しない。本件設計契約の実際は,言い回しはどうあれ,
総合評価指名競争入札方式により,町が創建案に落札を決定したものである。
(2) 本件基本設計時の概算事業費の過大性と本件各工事入札に係る違法
ア 設計競技以降の諸作業が応募案に拘束されることは設計業界の常識であっ
て,(1)エ記載のように施設設計内容に大きな変更もないのに,概算事業費を大幅に
増加させることは,落選した業者との公平性を保つためにも許されない。
 すなわち,本件設計競技時に創建から提案された案の概算事業費は25億990
0万円であったのに対して,本件基本設計後の平成14年2月に町が町議会議員全
員協議会で説明した概算総事業費は34億8500万円であり,この金額はその後
の入札で約31億1600万円となったものの,前二者間の8億8600万円(た
だし,本件設計競技時に含まれていない設計監理費,什器備品,消費税を除くと約
5億6000万円)の金額の開きは,各時点における設計のわずかな違いからは説
明のできない水増しである。
イ また,地方自治体が地方債を発行して庁舎の建築を行おうとする場合,国が示
している標準単価は,鉄筋コンクリート7階建て以上で1平方メートル当たり20
万0500円であり,福祉施設の実績単価全国統計値も1坪当たり65万円前後で
あるのに対し,本件施設建設費は,本件設計競技時で1平方メートル当たり32万
円であり,本件基本設計時には37万6000円に上昇しており,本件設計競技時
に世間の相場より5割も高い設計案を選んだことさえ問題なのに,本件基本設計で
8割高になることを許した町の公金管理者の金銭感覚が疑われる。被告は,本件基
本設計時の単価が高額であることの理由として,多目的ホールの存在,浴室,運動
浴室の水回りに経費がかかること,熱線吸収ガラスが高額であることなどを述べる
が,これらは本件設
計競技の応札時に織込み済みでなければならず,事業費が膨張した理由にはできな
い。
 被告が面積算出のルールを変えて事業費の増加を言い繕うのは問題であるが,建
築基準法上の床面積の増加分218.5平方メートルによる事業費の増加額も数千
万円程度で収まるはずで,町当局と創建との間で取り交わされた設計修正協議内容
も億のけたに達する金額ではなく,随所で,便乗水増しや,本件設計競技時の事業
費の算定ミスの糊塗が見られるのである。被告及び町当局は,恣意的で広範な裁量
権を認められているわけではなく,公正,公平を旨として定められた法その他の法
令や予算,手続等に拘束されているところ,本件施設建設のための概算事業費が増
額したことは,法2条14項及び234条の2第1項に違反する。
ウ そして,被告は,違法,不当に導かれた本件施設建設費を,故意に工事予定価
格として事前に公表し,本件各工事入札にかけたことで,改めて重大明白な瑕疵を
作った(本件各工事入札における落札率は98.32パーセントであり,本件各請
負代金は,実質的には本件設計により算出された価格で決まった。)。
(3) 町財政への圧迫
 町は,本件施設建設のために,約8億円の基金を取り崩すほか,約26億円の借
入れを予定しており,借入金残高は130億円に達する。この結果,本件施設が完
成した後12年間にわたり,毎年,約2億円の元金,約5000万円の利息の支払
に加え,2,3億円の維持管理費が必要となり,合計で4,5億円の歳出増加とな
る。他方,不況と少子高齢化によって町税等の歳入が伸び悩み,平成15年度は前
年比約1億円の減収が見込まれている。なお,ここ数年,単年度の実質収支は2,
3億円の赤字となっている。
 そのため,本件事業計画の推進に疑問を持った一部の町会議員と住民らは,平成
14年2月,「凍結させる会」を結成し,4100名の署名を得て議会に請願する
などの反対運動を行い,更にはこの計画の是非を最大の争点とする町長選挙が行わ
れたが,きん差で推進派の現町長が当選したという経緯がある。
 現在,人口急増地域に必要な保育園,小学校の建設が遅れているが,このよう
に,投資の優先順序を誤り,町財政を破たんに陥れる本件事業の計画は,法2条1
4項に違反するものである。
(4) 本件各請負代金の支出に係る違法
 本件事業は,計画の当初から被告の指揮監督の下に推進されてきたものであり,
被告は,その予算の執行に当たっても,自ら事業を取り消したり停止することがで
きる立場にあるところ,地方自治体の長は,法令に違反してその事務を処理しては
ならないのである(法2条16項)から,自らが法令に違反してはならないことは
もとより,地方自治体が法令に違反しないよう,その行為の適法性を確保しなけれ
ばならない。また,地方自治体の執行機関は,当該自治体の事務を,自らの判断と
責任において,誠実に管理し,執行する義務を負う(法138条の2)から,この
誠実執行義務からも,地方自治体の長は,法令に違反する行為に対して公金を支出
してはならない。
 本件の場合,町側と創建とのなれ合いによって行われた本件設計競技,本件設計
契約は違法,無効であり,これを引き継いだ本件各請負契約も違法,無効であるか
ら,これから派生した工事費の支出の差止めを求めるのは当然のことである。ま
た,建設工事費は,設計業務委託によって算出された価格で決まるところ,(2)ウで
述べたとおり,被告は,違法な本件施設建設費を工事予定価格として事前に公表
し,競争入札にかけているから,本件各請負契約にも重大明白な瑕疵を作出したと
いうべきであって,被告がこれらを正さなかったのは誠実執行義務違反である。
(被告の主張)
(1) 本件支出と先行行為との無関係
 本件支出の直接の原因行為は,本件各請負契約であるが,これらと本件設計契約
(その前提手続である本件設計競技を含む。)とは,ともに本件事業の一環として
行われる行政行為ではあるものの,前者は建築物の建設工事を行い,後者が建築物
の設計を行うというそれぞれ完結した目的,給付内容を有する全く別個,独立の法
律行為であって,いずれか一方が他方の原因ないし前提となるような関係ではな
い。確かに,本件設計契約に基づく給付として提出された設計図書(本件設計)の
内容が本件各請負契約に基づく工事内容となり,また,後者の競争入札において
も,本件設計に記載された工事費見積額を基に工事予定価格が定められているが,
それは,本件設計が本件事業の設計図書に採用され,これにより具体化された本件
施設の建設を目的として
本件各請負契約が締結されたからにすぎず,本件各請負契約と本件設計契約とは,
行政計画である本件事業を介して,いわば間接的な関係を有するにすぎないのであ
って,本件設計契約自体が,本件各請負契約の原因となっているわけではない。本
件においては,それ自体財務会計行為である本件設計契約を住民訴訟の対象とする
ことができ,それにより住民訴訟の趣旨は満たされるところ,全く別個の財務会計
行為である本件支出に同契約の違法が承継することを認め,これを訴訟の対象とす
ることを許すのは,住民訴訟が地方公共団体の財務会計の公正を担保するため客観
訴訟であることに照らし,余りに要件を緩め,ひいては濫訴を誘発することとな
る。
 仮に本件設計契約が本件支出の原因行為であるとして,違法の承継が問題となる
としても,原因行為の違法性が後行行為たる財務会計上の行為に承継されるのは,
その原因行為が不存在又は重大かつ明白な瑕疵があるような場合に限定されると解
すべきところ,原告らの主張する違法事由がこれに当たらないことは明白である。
 さらに,本件請求は,本件支出の差止めを求めるものであるところ,町は,本件
各請負契約の相手方である各請負業者に対して,これら契約に基づく債務を履行す
べき義務を負っているのであるから,これら契約が私法上無効とはいえない場合に
は,その債務の履行として行われる支出行為自体は違法ということはできないと解
すべきところ,本件設計競技及び本件設計契約において,本件各請負契約を私法上
無効ならしめるような重大かつ明白な瑕疵が存するものでないことも明らかであ
る。
 よって,本件において,原因行為の違法が承継することによって,本件支出が違
法性を帯びる余地は全くない。
(2) 本件設計競技及び本件設計契約の適法性
 本件設計契約は,指名競争入札ではなく,指名設計競技(コンペ)による審査を
経た上で随意契約の方法で締結されており,本件設計競技は,随意契約の相手方を
特定する前置手続にすぎないから,本件設計競技の方法いかんが直ちに法234条
2項の問題となるとは解されない。
 そして,令167条の2第1項2号によれば,「その他の契約でその性質又は目
的が競争入札に適しないものをするとき」は随意契約によることができるとされて
いるところ,本件事業施設の性格は極めて非定型的で,町がその設計を委託する時
点では,本件基本構想によって施設の用途,規模,敷地状況等の設計条件の概略が
決定していたのみであり,設計者としては,この設計条件を基に,創意工夫をもっ
て施設の空間構成を具体化する必要があり,町としても,単に設計料の多寡により
設計者を選定することは妥当ではなく,設計者の創造性,技術力,経験等を適正に
審査の上,その設計業務の内容に最も適した設計者を選定することが必要で,かつ
町の利益にかなうものと考えられた。したがって,被告が,以上の点を考慮すると
ともに,契約の公正
及び価格の有利性を図ることにも配慮して,事前に複数の指名業者間での設計競技
を行い,本件審査会による審査を経た上で,そこで提出された案の中から最優秀の
ものを選定し,当該最優秀案提出者と随意契約の方法により契約することが適当で
あると判断して,本件設計契約を締結したことは,何ら法234条2項に抵触する
ものではない。
 また,設計競技における指名業者の選定方法は,法令等によって何らの規制もさ
れていないから,指名業者等選定審査会が,過去における町及び他の地方公共団体
の設計に関する実績,業者の資力,技術,信用等を総合的に勘案して創建を含む6
社を選定したことに問題はないし,公共用地土地利用検討委員会においても,施設
の具体的な配置やデザイン等について検討の対象とはなっていなかったから,本件
基本構想作成に携わった創建が,本件設計競技において取り分け有利になったわけ
ではなく,指名業者間の公正,公平は,本件設計競技の審査方法によっても十分担
保されていた。
 さらに,建築設計においては,単に整備費の多寡のみならず,デザインや構造,
機能などの創造的な要素が極めて重要であり,設計競技に当たっても,これらの諸
要素を総合的に考慮していく中で価格の有利性を多少犠牲にすることはやむを得な
いものと解すべきところ,本件設計競技において,結果的に比較的高額の概算事業
費を提示する2案を選出することになったからといって,それが,地方自治体の能
率性・効率性を要求する法2条14項に抵触するものとは到底解されない。
 なお,原告らが,本件設計競技における設計案の提出期限である平成13年4月
26日付けで,創建のホームページに同社の案が採択された旨のトピックスが掲載
されたことを指摘して本件設計競技の偽装性を主張するのは,誤解に基づくもので
あり,同社がこれをホームページに掲載したのは,実際には同年6月下旬である。
(3) 概算事業費増加の正当性
 本件設計競技時の創建案における概算事業費25億9900万円と本件基本設計
の際に計上された概算事業費34億8500万円の単純な差額である8億8600
万円から,本件設計競技時の創建案に計上されていなかった設計監理費,什器備
品,消費税を控除して計算した差額である約5億5500万円の増額のうち,約2
億9580万円は,く体,外装及び内装の各建設工事費増額によるものである。す
なわち,これらについて積算の基礎となる床面積が901.2平方メートル増加し
たこと(両建設委員会が取りまとめた町の意見を反映させて設計案を見直したこと
による建築基準法上の床面積357.2平方メートルの増加と,施工面積との算定
方法の違いに基づく544平方メートルの合計面積),うち特にく体建設工事の単
価の増加(町の要請に
よる,単価の高い浴室,運動浴室,便所の各二重ピット,地下ポンプ室,地下水槽
等の地下施設の設置)に基づくものである。
 その他の増額分約2億5920万円については,両建設委員会との協議を重ねて
町の意向を反映していく過程で,本件設計競技時の案にはなかった研修室AV設
備,子ども広場及び水景施設等の設備を新規に加えるとともに,計上済みの施設の
内容についても詳細を詰め,再検討していった結果,全体として増額になったこと
による。
 そもそも設計競技において競われるべきものは,課題に対する基本的な考え方及
び構想の中身であり,その細部等ではないから,工事費の見積書についても,その
段階で詳細なものを望むのは無理な要求であって,設計競技応募案の段階と基本設
計の段階とでは,精度に対する要求水準が大きく異なる以上,それを反映して,そ
れぞれの段階で異なった算出方法が採られるのは当然である。また,設計競技は設
計「案」を評価し選出するものであり,究極的には発注者である地方公共団体の企
画目的を達成し,その利益の増進を図るための手段にすぎないのであるから,発注
者が,その企画目的を達成させる観点から,設計者の行う設計の内容について意見
を述べ,設計者と協議を行い,設計者もこれを容れて合理的な範囲で設計内容につ
いて変更を加えるこ
とは何ら禁止されているわけではなく,設計の段階において,発注者の要請を反映
して案に変更を加えることも当然である。
 原告らは,本件設計競技における落札業者は,応募案に基づいて基本設計図及び
実施設計図を引くという当然の作業を行うべきことを求められているにすぎない旨
主張するが,本件設計競技の法的性質について理解を誤った上での独自の見解に基
づく主張といわざるを得ない。
 本件設計契約の履行の結果,概算事業費が増額したことは,これらの合理的な理
由に基づくものであるから,これが,地方自治体の能率性・効率性を要求する法2
条14項,及び地方公共団体に契約の適正な履行の確保を要求する法234条の2
第1項に抵触するものではないことは明らかである。
 また,本件基本設計時の施工単価が本件設計競技応募案のそれと比べて大きく変
動している事実はないし,福祉施設の実績単価と比較して若干高額であるのは,本
件施設が福祉施設と生涯学習施設の併用施設で300人規模の多目的ホールを備え
ていること,一般に単価を押し上げる浴室の数が多く,水回りが複雑な運動浴室を
備えていること,建築資材として比較的高額な熱線吸収ガラスや木目天井等を採用
していることなどが主たる理由で,不合理なものではない。そもそも公共施設の設
置は,地方公共団体の長の事務に属し,その職務の遂行に当たっては広範な裁量が
認められるところ,本件においても,被告は,本件施設の規模,導入機能,設備,
建築資材の選択等の判断に広範な裁量を有するものであり,結果的に施工単価が比
較的高額に傾いたこ
との一事をもって,前記判断が裁量を逸脱したとのそしりを受けるいわれはないこ
とは明白である。
第3 当裁判所の判断
1 本件訴えの適法性について
 法242条の2第1項は,「……住民は,前条第1項の規定による請求(住民監
査請求)をした場合において,」住民訴訟を提起することができる旨のいわゆる監
査請求前置を定めているところ,前置されるべき住民監査請求は,それ自体適法な
ものでなければならないと解される。もっとも,監査委員がこれを不適法であると
して却下したとしても,客観的に住民が適法な住民監査請求をしているときは,当
該住民は,適法な住民監査請求を経たものとして,直ちに住民訴訟を提起すること
ができるのみならず,当該請求の対象とされた財務会計上の行為又は怠る事実と同
一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも
許され,かつ,この場合の出訴期間は,同条2項1号に準じ,再度なされた住民監
査請求の結果の通知
を受けた日から30日以内と解するのが相当である(最高裁判所平成10年12月
18日第三小法廷判決・民集52巻9号2039頁参照)。
 これを本件についてみるに,証拠(甲10,11)によれば,本件第1次監査請
求は,原告らが,本件支出を含む本件事業に係る費用の支出の全体をもって,法2
42条所定の財務会計上の行為として特定した上,工事費総額について,本件設計
競技において採用された案を約9億円も上回る34億8500万円に膨張すること
を容認したのは予算管理上著しく不当であり,本件施設運営費や利用料金さえ詰め
られていない現状は最少の費用で最大の効果を上げることを基本原則とした法2条
に違反するなどと違法,不当事由を主張して住民監査請求に及んだもので,客観的
には適法な住民監査請求であるにもかかわらず,町監査委員は,財務会計行為と違
法,不当事由に関する主張とを混同した上,原告らの主張は住民監査請求の範囲を
超えた不適法なもの
であるなどと判断して,これを却下したことが認められるから,同一の財務会計上
の行為を対象として原告らが所定の期間内にした本件第2次監査請求も適法であ
り,これが却下された後,30日以内に提起された本件訴えもまた,適法というべ
きである。
2 本件における判断の枠組みについて
 原告らは,本件支出(より具体的には,本件各請負契約に基づく請負代金の支出
を命ずる支出命令(法232条の4第1項。以下「本件支出命令」という。)を指
すものと解される。)の差止めを求める根拠として,当該支出命令そのものに内在
する違法を主張するものではなく,専ら本件各請負契約の目的たる建設工事の指針
である本件設計の形成過程において行われた本件設計競技及び本件設計契約並びに
本件各工事入札の違法等を主張するので,まず,本件支出の適否に関する判断の枠
組みを検討する。
 この点,法242条の2の規定に基づく住民訴訟は,普通地方公共団体の執行機
関又は職員による法242条1項所定の財務会計上の行為の違法な行為又は怠る事
実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え,もって地方財務行政の適
正な運営を確保することを目的とするものであり,法242条の2第1項1号の規
定に基づく当該執行機関又は職員に対する差止請求訴訟は,このような住民訴訟の
1類型として,財務会計上の行為を行う権限を有する当該執行機関又は職員に対
し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為の差止めを求めるものにほかならな
いから,同規定に基づき,当該執行機関又は職員の財務会計上の行為の差止めを求
めることができるのは,たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合で
あっても,その原因行
為を前提としてする当該執行機関又は職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違
反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である(最高裁判所平成
4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。
 上記のとおり,本件において,原告らが被告に対して差止めを求める財務会計上
の行為は,本件各請負代金に係る本件支出命令であるところ,このように,基礎と
なる支出負担行為が契約である場合に,当該契約が私法上当然に無効といえないと
きは,普通地方公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行すべ
き義務を負うのであるから,仮に当該契約に無効をもたらさない程度の違法が存在
するとしても,同債務の履行上の手続として行われる支出命令自体は違法というこ
とはできず,このような場合に住民が法242条の2第1項1号所定の住民訴訟の
手段によって普通地方公共団体の執行機関又は職員に対し,その差止めを請求する
ことは許されないものというべきである(最高裁判所昭和62年5月19日第三小
法廷判決・民集41
巻4号687頁参照)。そうすると,本件においては,原告らが主張する違法事由
によって,本件支出命令に対応する支出負担行為としての本件各請負契約が私法上
当然に無効を来すといえる場合に限って,本件支出命令自体が財務会計法規上の義
務に違反する違法なものになると考えられる。
 以下,この見地に立って,原告らの主張につき検討する。
3 本件設計契約締結までに係る違法の主張について
 原告らは,まず,本件設計競技が,被告の主張するように随意契約である本件設
計契約の前置手続であることを否定した上で,一般競争入札とされるべきであるに
もかかわらず,恣意的に選定された6社による指名競争入札として実施されたもの
であり,また最低価格入札者以外の者を落札者にする場合には,その決定基準を定
め,公告すべきところ,これらが欠けている点が法234条2項に反し,さらに,
そうした手続であるにもかかわらず,同競技において概算事業費の高額な案が選定
された点が法2条14項に反するから,違法である旨主張する(前記原告らの主
張(1))。
 その趣旨は必ずしも明らかではないものの,本件事業施設の詳細な設計条件が本
件設計競技実施要領により確定されている以上,その設計行為に創意工夫は必要の
ないはずであるから,本件設計契約は一般競争入札の方法によって締結されるべき
であったとの主張を前提とした上,本件設計競技を本件設計契約の相手方を確定す
る指名競争入札手続ととらえ,この手続によって創建を相手方として選定した本件
設計契約は違法であると主張しているものと解されるところ,なるほど,一般論と
しては,法234条2項,令167条の要件を欠き,一般競争入札以外の方法が許
されないのに,指名競争入札(あるいは被告の主張する随意契約)の方法によって
締結された契約は違法であり,更に契約締結の方法に制限を加える法令の趣旨を没
却する結果となる特
段の事情が認められれば,これが私法上も無効となる場合もあり得ると解される
(前掲最高裁判所昭和62年5月19日第三小法廷判決参照)。
 しかしながら,本件において適否が問題とされているのは,先に指摘のとおり,
本件各請負契約を支出負担行為とする本件各請負代金の支出命令(本件支出命令)
であるところ,本件設計契約の内容は,委託を受けた創建が本件施設の設計を完成
して設計図書を引き渡し,委託した町が委託代金を支払うものであるのに対し,本
件各請負契約のそれは,請負人である建設会社等が建設等を完成して建築物等を引
き渡し,注文者である町が請負代金を支払うものであって,法的には両者はそれぞ
れ目的,契約当事者,給付の内容を異にし,それぞれが完結した契約であるから,
仮に本件設計契約に手続上の瑕疵が存したとしても,これに基づいて本件設計が完
了し,その成果物である設計図書が町に引き渡されるなど,実体的に債務の本旨に
従った履行がなされ
たことが客観的に明らかである以上,上記設計図書で定められた本件施設の建設を
目的とする本件請負契約が無効となる余地は存在しないというべきである。このこ
とは,請負契約の相手方が設計契約の相手方と異なる場合,設計契約の無効事由を
知る由もなく,それにもかかわらず請負契約まで無効とされたのでは請負契約の相
手方の地位が害されることからも裏付けられる。
 そうすると,原告らが,本件設計競技ないし本件設計契約の違法をもって本件支
出命令の違法原因として主張するのは,それ自体失当というほかない。
4 本件設計契約後に係る違法の主張について
(1) 次に,原告らは,本件施設建設のための概算事業費が,本件設計競技時に提案
された案と本件基本設計とで,約5億6000万円の増加となった点を指摘した
上,①国が示す標準単価や福祉施設の全国統計単価と比べて8割高となっており,
②概算事業費の増加額には,床面積の計算方法の違いによるもの以外に,水増しに
よる増額又は本件設計競技時の算定ミスを糊塗する内容の増額が多く含まれている
ので,法2条14項及び234条の2第1項に違反し,更に③このように違法,不
当に導かれた本件施設建設費を,故意に工事予定価格として事前に公表し,本件各
工事入札にかけたことが重大明白な瑕疵である旨主張する(前記原告らの主
張(2))。
(2) そこで①について判断するに,なるほど,証拠(甲18,19)によれば,平
成15年1月ないし3月における福祉施設の坪当たり平均施工単価は64万600
0円であること,地方債を発行して庁舎の建設を行う場合に,国が示す標準単価
は,平成14年度において,1平方メートル当たり20万500円(鉄筋コンクリ
ート造7階建て以上の建物)であること,以上の事実が認められ,これに照らせ
ば,本件基本設計における施工単価が割高感を与えるものであることは否定できな
い。しかしながら,庁舎と福祉施設とは,その設置目的や設備内容が大きく異な
り,同列に論ずることは不適当であるし,同じ福祉施設といっても,その目的や対
象者等によって大きく設備内容が異なり得るところ,証拠(乙23,24)によれ
ば,本件施設は,福祉施設
と生涯学習施設の両方の性格を有する併用施設であり,300人規模の多目的ホー
ルを備えていること,浴室が多い上,運動浴室を備えていること,地上施設の1.
5倍の工事費を要する地下ポンプ室などを備えていること,建築資材に比較的高額
な熱線吸収ガラスや木目天井などを採用していること,以上の事実が認められ,こ
れによれば,本件基本設計における施工単価が平均施工単価を上回っているからと
いって,価格設定が合理性を欠くとはいえない(現に,甲18によれば,坪当たり
施工単価106万円の福祉施設建設の実例が存在していることが認められる。)。
(3) 次に,②について判断するに,少なくとも床面積の計算方法の違いによる増額
と,本件設計競技時の算定が適当でなかったことによる増額として主張する点につ
いては,本件基本設計における本件施設建設費用の算定自体に問題があるというよ
りも,本件設計競技時における本件施設建設費用の算定方法に問題があったと考え
られるから,最終的な建設費(本件各請負代金)の算定を違法ならしめ,これを内
容とする本件各請負契約に無効をもたらすなどの結果を導く性質のものではあり得
ないというべきである。
 他方,水増しによる増額とは,通常の用語法からすると,存在しない設計につい
ての建設費を積算したという趣旨に理解できるところ,仮に,このような事実があ
り,当該建設費がそのまま本件各請負契約の内容である本件各請負代金の一部に引
き継がれているとすれば,設計の存在しない建築物についてその建設費を支払うも
のとして,当該契約部分につき無効と解する余地がある。
 しかしながら,どの部分にいくらの水増しが存在するかについて,原告らは具体
的に指摘するものではない上,前記前提となる事実(4)によれば,そもそも,本件各
請負契約においては,原告らが過大であると指摘する本件基本設計時の概算事業費
34億8500万円が,そのまま本件各請負代金額となったわけではなく,本件各
工事入札を経て,最終的に本件各請負代金は,4つの工事の合計で29億4315
万円と定められて,本件各請負契約が締結されたことが認められ,これから消費税
を除けば28億0300万円であって,本件設計競技時の案における概算事業費で
ある25億9900万円(乙26)との差額は2億円余にとどまるところ,この金
額は,町民を代表する町議会議員又は町職員らから成る両建設委員会の意見を採り
入れての設計変更等
に基づく増額であるとして十分に説明できるものといえる(甲16,34,乙24
参照。その意味では,本件設計競技時の案における概算事業費は,文字どおりの
「概算」としては機能していたといえる。)から,原告らの上記主張は,それ自体
失当というほかない。
(4) 最後に,③について判断するに,上記のとおり,工事予定価格とされた概算で
の本件施設建設費が違法,不当に導かれたものであるとの前提を欠く上に,そもそ
も請負契約における予定価格の制限とは,これより高額な請負代金では契約を締結
しないという効果を有するにすぎず,これがそのまま請負代金になるわけではない
から,仮に予定価格の設定に合理性を欠く点があったとしても,直ちに請負契約自
体の無効を来すものではないと解され,そうすると,いずれにせよ,原告らの上記
主張は理由がない。
5 まとめ
 原告らによる本訴は,結局,厳しい町財政下にあって,本件設計競技において比
較的高額な概算事業費を示していた創建案(甲4)を採用したこと,更には多額の
費用負担を伴う本件事業を実施すること自体を違法視し,これを阻止すべく提起さ
れたものと考えられるが,住民訴訟の判断の対象となるのは,飽くまで具体的な財
務会計法規上の義務違反の有無であり,このようなものとして構成,認定すること
ができない以上,予算の配分の問題は,基本的には住民の代表で構成される地方議
会の了承を前提とした行政の裁量に属するというべきであり,当不当の問題を生ず
ることはあり得ても,司法審査の対象となるものではないといわざるを得ない。
6 結論
 よって,原告らの本訴請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することと
し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61
条を適用して,主文のとおり判決する。
    名古屋地方裁判所民事第9部
          裁判長裁判官   加 藤 幸 雄
             裁判官   舟 橋 恭 子
             裁判官   平 山   馨

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛