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平成12年(ネ)第4764号特許権侵害行為差止請求控訴事件(原審・東京地方裁
判所平成10年(ワ)第7865号)
平成13年2月15日口頭弁論終結
         判        決
       控訴人           オリンパス光学工業株式会社
         代表者代表取締役   A
         訴訟代理人弁護士     大 場 正 成
同    鈴 木   修
         被控訴人       有限会社三笠商事
         代表者代表取締役   B
      被控訴人      B
         被控訴人          株式会社渡邉工業(旧商号 
有限会社渡邉工業)
代表者代表取締役   C
         被控訴人ら訴訟代理人弁護士  吉 邉 敬 夫
   同           牧 野 知 彦
          主        文
       本件各控訴をいずれも棄却する。
       控訴費用は控訴人の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2) 被控訴人有限会社三笠商事及び同Bは、原判決別紙物件目録(一)記載の
物件を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡
又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
(3) 前記被控訴人両名は、その占有にかかる前項記載の物件及びその半製品並
びに製造用部品(フィルムを除く。)を廃棄せよ。
(4) 被控訴人株式会社渡邉工業は、原判決別紙物件目録(二)記載の物件を製
造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡
しのための展示を含む。)をしてはならない。
(5) 同被控訴人は、その占有にかかる前項記載の物件及び同物件製造用の金型
を廃棄せよ。
(6) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人
  主文と同旨
第2 事案の概要
  事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第二 事
案の概要」のとおりであるから、これを引用する。なお、当裁判所も、「本件特許
発明」、「被控訴人製品」、「本件明細書」の用語を、原判決の用法に従って用い
る。
(当審における控訴人の主張の要点)
1 均等の主張における発明の本質的部分について
  原判決は、本件特許発明の本質的部分に関し、「半球面という形状を含めた
係合部材の具体的構成は、本件特許発明特有の解決原理として、本件特許発明の本
質的部分をなすものというべきである。」(43頁)と判断したが、誤りである。
(1) 本件特許発明において、半球面という形状は、それ自体では、あくまでも
一つの形状であって、課題を解決する手段でもなければ、その手段の原理でもない
から、これが「発明の本質」となることはあり得ない。いわば、上記原理を実現す
る技術における設計事項にすぎない。
 本件特許発明で、課題の解決手段ないし解決原理は、「フィルムカセット
をカメラに装着する際に、スプールの係合部材が、カセットの装着方向の力を受け
て、カメラのカセット収納室の上面と干渉しない位置まで変移する」ということで
ある。言い換えれば、巻上げ軸の軸線に対し横方向の力(軸線に向う方向の力)を
軸線の方向の力に変えて、係合部材をカセット内に向けて変移させるというのが、
本件特許発明の本質である。
 本件特許発明において係合爪部の構造を「半球面部」としたことの技術的
意味は、上記変移をスムーズに実現するための具体的手段としてのものにすぎな
い。すなわち、、係合爪部の構造を「半球面部」とすることにより、水平面と半球
面の接触点が水平方向に移動するにつれて係合部材が没入することにより接触角が
連続的に浅くなるように変化するということで、これによりスムーズな係合部材の
没入が可能となっているのである。
(2) 被控訴人製品中の係合部材も、フィルム巻上げ軸の軸線に対し横方向の力
を受けて係合爪部をカセット内に没入させるものである。
 それだけではなく、その解決原理も、突起部4は、スライド板16と接触
すると、徐々に回動しながら没入して行き、スライド板16との接触角度も徐々に
浅くなり、スムーズに突起部4がカセット内に収納されていくのである。
 このことにより、実際上、被控訴人製品の突起部4の接触面は、球面と同
じ解決原理で、同じ作用効果を奏しているのであるから、これが本件特許発明の本
質(解決原理)を用いていることは、明らかというべきである。
2 均等における置換容易性について
(1) D著「機械運動機構」(株式会社技報堂昭和36年10月15日5版発
行。以下「甲第5号証刊行物」という。)には、図面(別紙第1図面参照)ととも
に、「605.斜面による直角方向への変向機構(1) 原動体(1)の運動により直
角方向に従動体(2)を動かすには楔の原理を利用することがある。即ち原動体
(1)及び従動体(2)とを斜面にて接触させ、原動体(1)を押し込んで従動体
(2)を進出させる。但し原位置へ復帰させるには発条のようなものを以って押し
戻さねばならぬ。」、「607.斜面による直角方向への変向機構(3)原動体(1)
の斜面(3)に原動体(1)と直行する従動体(2)を転子(4)によって接触さ
せれば、原動体(1)の左右の運動はこれと直交する従動体(2)を上下に摺動す
る。従動体(2)を常に斜面に密着させるには従動体の重量を利用するか、あるいは
発条のようなものを使用せねばならぬ。」、「951.直動カム カム(1)は上下に
往復直線運動をなす。これに転子(2)を介して接触した従動体(3)はカムの傾
斜面(4)により左右に往復運動させられる。この種のカムを直動カム・・・とい
う。自動旋盤においてバイト・ホールダーの運動に応用される。」との記載があ
る。
 上記605の項に示された構成において、従動体(2)が、被控訴人製品にお
ける発条(バネ)で付勢されたフィルムカセットの突起部に該当すると考えれば、
原動体(1)は被控訴人製品のプルタブに該当し、フィルム巻き上げ軸に垂直な方
向の力によって突起部を没入させる原理が、同項に記載されているといえる。また
同様に、607の項に示された構成においては、バネで付勢された転子(4)が被控訴
人製品における突起部に該当し、原動体(1)がプルタブに該当すると考えること
ができる。951項に示された構成においては、転子(2)が被控訴人製品における突
起部に、カム(1)がプルタブにそれぞれ該当すると考えることができる。
 このように、力の方向を直角方向に変えるための構成は、従来から多数示
されており、その具体的構成は、設計的な事項に属するのである。
(2) フィルムカセット係合部材に相当する構成に関するものとしては、甲第5
号証刊行物の1109の項及び1111の項に、係合の原理が示されている(別紙第2図面
参照)。
(3) 上記(1)、(2)の構成は、同一刊行物に示された構成であるから、これを組
み合わせることは容易である。したがって、被控訴人製品の楔形状の突起部4のよ
うな構成は、甲第5号証刊行物から当業者が容易に想到できたものである。
第3 当裁判所の判断
  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。その理由は、次の
とおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及
び理由「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
(当審における控訴人の主張に対する判断)
1均等の主張における発明の本質的部分について
(1) 控訴人は、本件特許発明で、発明の効果を実現するための解決手段ないし
解決原理は、「フィルムカセットをカメラに装着する際に、スプールの係合部材
が、カセットの装着方向の力を受けて、カメラのカセット収納室の上面と干渉しな
い位置まで変移する」ことであるとか、「巻上げ軸の軸線に対し横方向の力を軸線
の方向の力に変えて、係合部材をカセット内に向けて変移させる」ことであると
か、主張する。
  しかし、フィルム巻上げ軸を上下動させることなくフィルム巻上げ軸と直
交する方向に押し込み、又は引き出すことが可能なフィルムカセットを提供するこ
とを目的とすれば、フィルム巻上げ軸が上下動しない以上、スプールの係合部材の
方をフィルム巻き上げ軸の位置まで上げなければならず、そのためには、フィルム
カセットの着脱に当たり、上記係合部材を、何らかの方法でカセット収納室の上面
と干渉しないように移動させなければならないことは自明である。また、これを上
記のように移動させるとすれば、横方向の力を軸線の方向の力に変えて使用すると
いう結果となることも、明らかである。すなわち、控訴人の主張する「フィルムカ
セットをカメラに装着する際に、スプールの係合部材が、カセットの装着方向の力
を受けて、カメラのカセット収納室の上面と干渉しない位置まで変移する」とか、
「巻上げ軸の軸線に対し横方向の力を軸線の方向の力に変えて、係合部材をカセッ
ト内に向けて変移させる」とか、ということは、フィルム巻上げ軸を上下動させる
ことなくフィルム巻上げ軸と直交する方向に押し込み、又は引き出すことが可能な
フィルムカセットを提供するという上記目的を前提にした場合には、これを実現す
るあらゆる手段に伴うものであることが自明であり、いわば、同目的を機能ないし
作用効果の面から表現したものであるにすぎない。もし、このような機能ないし作
用効果が同一であるものすべてを、本件特許発明と、発明の本質的部分が同一であ
るということができる場合があるとすれば、それは、上記目的を発見し、その実現
を課題としたこと自体が発明の眼目であるものとして出願がなされ、それに対し
て、上記目的を発見し、その実現を課題としたこと自体、特許権に値する困難の克
服なしにはなし得なかったものであるとの評価が特許庁によって下されたと認定で
きる場合であり、その場合以外にはあり得ないものというべきである。ところが、
本件明細書の記載その他の全資料によっても上記のように認定することはできな
い。そうである以上、上記のような機能ないし作用効果を、具体的に、どのような
構成によって実現したかという点こそを、本件特許発明の本質的部分というべきで
ある。
(2) 本件特許発明は、原判決の事実及び理由「第三 当裁判所の判断」二2
(二)(2)(特に、原判決41頁7行~43頁4行)のとおり、カセット収納室の縁部
と当接する係合部材の上部に、弾性的に突没自在の「半球面部」を設けるという具
体的な構成を採用することにより、横方向の力を利用して、係合部材のカセット本
体筒内への没入を実現したものである。すなわち、本件特許発明は、上向きの半球
面の斜面とカセット収納室の上面を形成する水平面とを当接させて、半球面に水平
方向の力を加え、上向きの半球面という形状の特性を利用して、これを下向きの力
に変え、弾性的に突没自在の半球面全体を弾性を利用してカセット本体筒内に没入
させるものというべきである。
 したがって、係合部材の上記具体的構成は、本件特許発明の本質的部分を
なすものということができる。
(3) 一方、被控訴人製品が、カセット着脱時における係合部材のカセット本体
筒内への没入を実現するために、回転運動により傾倒自在な4個の楔形形状の突起
部4よりなる係合部材という具体的構成を採用したものであることは、原判決の事
実及び理由「第三 当裁判所の判断」二2(二)(2)(特に、原判決43頁7行~45
頁8行)のとおりである。すなわち、被控訴人製品は、弾性的に突没自在の半球面
の特性ではなく、突起部4を回転運動によって傾倒させることにより、カセット本
体筒内への没入を実現したものであるから、この点で、本件特許発明の本質的部分
とされる構成を具えていないものというべきである。
(4) 控訴人は、本件特許発明は、係合爪部の構造を「半球面部」とすることに
より、水平面と半球面の接触点が水平方向に移動するにつれて係合部材が没入する
ことにより接触角が連続的に浅くなるように変化するということで、これによりス
ムーズな係合部材の没入を可能にしていると主張する。
 しかし、弾性的に突没自在の半球面という係合部材の具体的構成は、本件
特許発明の本質的部分をなすものであることは、前示のとおりである。確かに、
「半球面部」とされた係合部材が、上向きの「半球面」の形状を維持したまま、カ
セット本体筒内に没入すれば、控訴人主張に係る接触角の変化が生じるけれども、
半球面という形状を含めた本件発明における具体的構成と、突起部を回転運動によ
って傾倒させる被控訴人製品における構成という異なるものが、ある特定の点に関
して、機能ないし作用効果において同一であるとしても、そのことをもって、本件
特許発明と被控訴人製品が同一であるということができるものではないから、これ
を根拠とする控訴人の主張は、採用することができない。
2 均等における置換容易性について
  控訴人は、力の方向を直角方向に変えるための構成が甲第5号証刊行物に、
多数示されていることを挙げ、上記力の方向を実現する具体的構成としてどれを選
ぶかは設計的な事項に属する、と主張する。
  しかし、被控訴人製品が、「係合部材を構成する各楔形状の突起部4は、そ
れぞれの外側端部が旋回軸11の一辺に接続されていて、旋回軸11を軸とした回転方
向の運動のみが可能となっており、旋回軸11の軸方向と垂直方向でかつフィルム巻
取り部材の中心方向への力を受けたときに、突起部4の上部が、フィルム巻上げ軸
の中心に向かってカセットの内部に倒れ込む。そして、スライド板16には、この四
個の突起部4を取り囲む円形開口孔15が設けられており、このスライド板16を前後
に摺動させると、円形開口孔15の内周が隣接する個々の突起部4の楔形状の稜線部
分に当接し、個々の突起部材の稜線部分を押圧し、旋回軸11を軸とした回転運動を
させるように働くので、突起部4の上部がフィルム巻上げ軸の中心に向かってカセ
ットの内部に倒れ込む」こと、また、旋回軸11を軸とした回転運動が起こり、突起
部4がカセットの内部に倒れ込むに当たっては、「旋回軸11は隣接する旋回軸と旋
回軸の径より細いライナー45で結合しているため、旋回軸11の回転力が隣接する旋
回軸に伝わることにより、同図(判決注・原判決別紙物件目録(一)の第13図)に
示すように隣接する他の突起部4も傾倒する。」ことは、原判決事実及び理由「第
三 当裁判所の判断」二2(二)(2)(原判決43頁10行~44頁9行)及び当事者
間に争いのない原判決別紙物件目録(一)(5頁2行~4行)のとおりである。
  ところが、上記の構成が、甲第5号証刊行物中の控訴人の指摘に係る箇所に
記載されていないことは、明らかである(甲第5号証刊行物中の記載は、旋回軸を
利用した回転運動をする構造を持つものでも、「スライド板16には、この四個の突
起部4を取り囲む円形開口孔15が設けられており、このスライド板16を前後に摺動
させると、円形開口孔15の内周が隣接する個々の突起部4の楔形状の稜線部分に当
接し、個々の突起部材の稜線部分を押圧し、旋回軸11を軸とした回転運動をさせる
ように働く」という構造を持つものでも、「旋回軸11は隣接する旋回軸と旋回軸の
径より細いライナー45で結合しているため、旋回軸11の回転力が隣接する旋回軸に
伝わることにより、同図(判決注・原判決別紙物件目録(一)の第13図)に示すよ
うに隣接する他の突起部4も傾倒する。」という構造を持つものでもない。)。
  そして、他に、上記の構成が、被控訴人製品の製造開始時に、公然知られて
いたり、公然実施されていたり、刊行物に記載されていたりしたと認めるに足りる
証拠はないから、この構成を採用することが設計的事項であるなどということもで
きない。したがって、控訴人の主張は、採用することができない。
第4 結論
 よって、本件各控訴は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費
用の負担について民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。
      東京高等裁判所第6民事部
         裁判長裁判官 山  下  和  明
 
    裁判官 山  田知司
    裁判官 阿  部  正  幸
別紙 第1図面
別紙 第2図面

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